ソードアート・オンライン フェイタルバレットー切札の弾丸ー   作:トライダー

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今更ながらオリジナル要素が強すぎて原作ファンはお怒りでは無いだろうか……?


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 悪夢の鉄屑

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「………ふぅ、ばっかみたい」

 

 BOBが終わると直ぐにログアウトし部屋の中を確認する、ベットの下からクローゼットや風呂場まで隅々にだ。

 Mストの人から取材のオファーなども来たが忙しいと言って後日にして貰った。

 キリトの推理ではデスガンの共犯者が侵入してる可能性があるらしいが今のところその痕跡は見当たらない。

 ドアにチェーンロックを掛け直し、キリトが呼んでくれている警察の到着を待とうとした時ドアのチャイムが鳴る。

 

「朝田さんいる?僕だよ、朝田さん」

 

「新川君!どうして?」

 

 犯罪者がチャイムを鳴らすわけがないが万が一の為覗き穴から確認してみる、そこに居たのは新川君だった。

 

「こんな時間にごめんね。どうしても優勝のお祝いが言いたくてこれ買ってきたんだ」

 

 新川君はケーキが入っていると思われる白い箱を掲げて見せた。

 

「で、でもずいぶん早かったね……」

 

「実は近所の公園で中継を見てて、決着が着くとすぐにコンビニに行って買ったんだ。シノン……朝田さんなら必ず優勝するって思っていたからさ」

 

「そうなの。ちょっと待って、今開けるね」

 

 キリトには絶対に開けるなと言われているが、犯罪者が近くにいる可能性が高い以上追い返すのも待たせるのも危険だ。 

 ドアのチェーンを外し電子ロックを解除すると、素早く新川君を部屋の中へと入れチェーンと電子ロックをかけ直した。

 部屋に戻ると新川君のためにクッションを用意し座らせ、私はベッドに腰を降ろす。

 

「あの、優勝本当におめでとう。すごいよ朝田さん……シノン。とうとうGGO最強のガンナーになっちゃったね。でも僕にはわかってたよ、朝田さんならいつかそうなるって。朝田さんには誰も持ってない本当の強さがあるんだから」

 

「ありがとう。でも正直運に助けられた所が多いから慢心は出来ないわ」

 

 キリトの接近に気付けなかった事やデスガンに殺されかけたりなど反省点も多い試合だった。

 デスガンの件に関しては緑服のプレイヤーがタイミング良く現れてくれなければ文字通り死んでいたし本当に運が良かった。

 

「ふふっ……」

 

 とは言え今日ぐらいは優勝の余韻に浸りたい。

 私の優勝を自分のことのように喜んでくれる新川君の姿を見てリョウの事を思い出す。

 

 アイツも喜んでくれるだろうか?……よくやったって褒めてくれるだろうか?

 今すぐに伝えてやりたい気持ちもあるが我慢だ、安全を確保して本当に全部が終わった時まで抑えないと。

 

「朝田さん?……どうしたの?」

 

「え?ああごめんなさい、考え事をしてて」

 

「…………道化師の事考えてたの?」

 

「え?ええ、まぁなんだかんだでアイツにも世話になったしね。今日の結果を教えてやればビックリするわよ!」

 

 新川君に指摘されて我に帰る、友人が訪ねてくれてるのに失礼な事をした。

 でもどうしてアイツの事を考えてるって分かったんだろう?

 

「あの!……朝田さん!!」

 

「な、何?」

 

 突然新川君の声が大きくなりビックリした。

 何だろう?……新川君の様子、いつもと違うような。

 

「朝田さん僕に言ったよね?待っててって」

 

「新川君?」

 

「言ったよね?待ってればいつか僕の物になってくれるって!」

 

「え?」

 

 確かに待ってとは言った、でもそれは自分が普通の女の子に戻る為『いつか自分を縛るものを乗り越えてみせるまで待ってて』と言う意味でだ。

 

「だから……だから僕!」

 

「ど……どうしたのよ、急に?」

 

 様子のおかしい新川君がふらりと立ち上がり、幽霊のように近づいて来る。

 

「僕がずっと一緒にいてあげる。あんな奴に頼らなくても僕がずっと一生君を守ってあげるから……朝田さん好きだよ、愛してる……僕の朝田さん……僕のシノン……」

 

「やめて!」

 

 新川君がこちらへと手を伸ばしてくる、その姿に背筋がゾワッとし反射的に彼の肩を押して距離を離す。

 

 その時新川君のポケットから小さい筒状の物が落ちる。

 

「ダメだよ朝田さん。朝田さんは僕を裏切っちゃダメだ」

 

「こ、これって……!?」

 

 それは注射器だった。

 確かキリトとの話し合いでデスガンの共犯者は薬物を使って殺人をしている可能性があるって……。

 

「朝田さんは初めて見るよね?この注射器の中身が身体に入ると筋肉が動かなくなってね、すぐに肺と心臓が止まっちゃうんだよ。凄い効き目でさ、あの偉そうなゼクシードも簡単に殺せちゃうんだぁ……」

 

「じゃあ君が……君がもう一人のデス・ガンなの……?」

 

「へえすごいね。デス・ガンの秘密を見破ったんだね。そうだよ、僕がデス・ガンの片手だよ。といっても今回のBOBの前までは僕がステルベンを動かしてたんだけどねでも今日だけは僕に現実側の役をやらせてもらったんだ。だって朝田さんを他の男に触らせる訳にはいかないもんね。いくら兄弟っていってもね」

 

 きょ、兄弟?昔SAOで殺人ギルドに入ってたっていうのは新川君のお兄さんなの……?

 なんで?……なんで?……友達だと思っていた新川君がデスガンの仲間でお兄さんが殺人鬼でしかも私を殺そうとしていて……

 

 引っ越して来た私の過去を知っていながら仲良くしてくれた友達、そう思っていた彼に裏切られドン底に叩き落とされた感覚に陥る。

 頭の中が混乱して思考が定まらい。

 

 そんな私に新川君は落ちた注射器を無視し押し倒してくる。

 

「……でもね?こんな『オモチャ』もう要らないんだ……だって僕は『本物』を手に入れたんだからさぁ……」

 

 新川君は反対のポケットを弄り黒い物体を取り出す。

 

 それは本来なら見る事のない物、そしてあの世界では当たり前のように見る物。

 

「そ、それって!?」

 

 新川君が取り出したのは一丁の黒い拳銃だった、それも《黒星・五十四式》デスガンが使用していたと同じ物だった。

 

「な、何で君がそれを………」

 

「凄いでしょこれ?兄さんの知り合いに秘密でこう言うのを売ってる人がいてさ、兄さんと一緒に買ったんだよ。これで僕も手に入れたんだよ、あの人や兄さんやシノンと同じ本物の強さをさ!!」

 

 視線の定まらない瞳で私を見つめながら拳銃を私の溝打ちへと押し付けてくる。

 少し指に力を入れるだけで弾は簡単に放たれる。

 私は少しでも落ち着かせようと震える唇に力を入れる。

 

「まだ……まだ間に合うよ。やり直せるよ。予備校行ってるんでしょ?お医者さんになるんでしょ?」

 

「医者?もうそんなものどうでもいい!親も学校の奴らもどうしようもない愚か者ばっかりだ!僕はGGOで最強になれればそれで満足だったんだ!なのに……なのにあのゼクシードの屑がAGI型最強なんて嘘を!GGOは僕のすべてだったのに!現実をみんな犠牲にしたのに!チクショウ!」

 

「だから……だからゼクシードを殺したの?」

 

「そうだよ。デス・ガンでGGO、いや全バーチャルMMOで最強の伝説を作るための生贄にあいつほど相応しい奴はいないだろ?!」

 

 ……狂ってる、精神に病を持ってる私から見ても彼は異常だ、そんな理由で人を殺そうなんて……。

 

「でも、もうこんなくだらない世界に用はないよ。朝田さんもね?」

 

「新川君?何を言ってるの?」

 

「朝田さん僕たちの仲間になろうよ」

 

「仲間?」

 

「そう、僕の兄さんは凄い人と知り合いなんだ、あの人は本物の戦場で何人もの悪人を殺している本物の強者なんだ。この銃もダミーもあの人がくれたんだ。シノンならきっと認めてもらえるよ、だから一緒にあの人の居る外国に行こう!」

 

「い、いやよそんなの!」

 

 『あの人』が誰を指しているのかは分からない、だがこんな事件に手を貸している以上ロクでもない人間であるのは確かだ。

 

「そんな筈ないよ。だってシノン言ってたじゃないか、悪人を殺したいって」

 

「………え?」

 

「前に昔のことを話してくれたでしょ?あの時強盗を殺さなかった事を悔いているって。僕もそう思うよ、気に入らない屑どもなんか1人の必ず消してしまえば良いんだ!簡単な事なんだ、僕たちは同じだったんだね」

 

「ち、違う!」

 

 確かに昔のことを話した、その時あの時引き金を引けていればとも言った。

 でもそれはただ誰にも死んで欲しくなかっただけ、気に入らない人間を殺したいなんて思っていない。

 

「本当にすごいよ、僕が今回の計画に参加したのも朝田さんにそれを教えてもらえたおかげだよ。だから僕はデス・ガンの伝説を作る武器に54式を選んだんだ。朝田さんは僕の憧れなんだ。愛してる愛してるよ、誰よりも」

 

「私のせい?違う……私は……そんなつもりじゃ……」

 

 私が悪いの?私があの時話しちゃったから、あの時勘違いさせてしまったから?あの一言が彼を動かしてしまったの?

 そのせいで2人のプレイヤーが命を落としてしまった、私のせいで……。

 

 ピンポーン

 

「「っ!?」」

 

 頭の中がドス黒い物に包まれそうになった時、軽いチャイムの音が部屋に響き意識を取り戻す。

 

『詩乃!俺だっ、右京だ!』

 

「っ!遼?!」

 

 ドンドンドンッとドアを叩く音と共に、聞き慣れた落ち着く声がドアの向こうから聞こえる。

 すると新川君の意識がドアの方へと向いている事に気付いた。

 

「くっ!」

 

「ぶへっ!?」

 

 新川君の頬を思いっきり引っ叩く。

 ビンタと言うよりは掌底に近い一撃に怯むのを見ると、体の間に膝を捻じ込ませ押す形で胸を蹴り飛ばす。

 狭い部屋なのが幸いしたのか勢いよく壁にぶつかり、その衝撃に崩れ落ちる。

 その隙に遼の居る玄関まで走ろうとする。

 

「………っ!?」

 

 しかし視界の端に映った物体が私の足を止める。

 それは《黒星・五十四式》、先程の衝撃で新川君が落とした拳銃だ。

 今私が遼の元に行ったらどうなるだろう?

 立ち上がった新川君が遼を撃ってしまうのではないか?

 それにもし逃げ切ったとしても彼は犯罪を続けるだろう、関係の無い人を殺してしまうだろう。

 私のせいでまた関係の無い人が、そして何よりあの時助けてくれたお兄さんかも知れない遼がまた傷つくなんて耐えられない。

 

「…………」

 

「あ、朝田さん……?」

 

 私は床に落ちた黒星・五十四式を拾い新川君へと向けた。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 殺さないと。

 殺さないと。

 ここで殺さないとまたお兄さんが傷つく。

 止められるのは私だけだ……助けられるのは私だけだ。

 

 動悸が激しくなり息が苦しくなり視界も朧げになる、だけど不思議なぐらいに手の震えは落ち着いていて照準が定まる。

 まるで本能が撃てと言っているように。

 

「な、何してるのシノン?……シノンが撃つのは僕じゃ無いでしょ?僕の親とか、君を虐めてた屑どもとかさ……」

 

 新川君が何か言っているが私の耳には入らない、周りの音がシャットダウンされささやく程度にしか聞こえない。

 

 殺すんだ。

 殺すんだ。

 引き金を引いてあの日の悪夢を振り払うんだ。

 

「はぁ………………はぁ……………」

 

 呼吸が落ち着き動悸も収まってくる、視界に映るのは『獲物』だけ。

 

 殺す。

 殺す。

 殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す。

 

 

 部屋の外で凄まじい轟音が響いた。

 

 

 

 

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「おい詩乃! 詩乃ぉ!!」

 

 チャイムを鳴らしキツめにドアを叩くが詩乃の反応がない。翠子からの報告で既にログアウトしている以上何も反応がないのはおかしい。

 覗き穴から見てみようにも玄関は暗く様子が分からない。

 

「っ!? これは火薬の匂い?」

 

 するとドアノブの辺りから嗅ぎ慣れた匂いを感じる。

 

「くそ!仕方ない、後で怒られるけど……」

 

 電子ロックの為ピッキングは効かない、詩乃やここの大家に怒られるが最悪の事態が起こるよりずっと良い。

 俺はドアノブを握ると壁に足をかけ全力で引っ張る。

 

「フンッ!……ぬぐぐぐっ…………!!」

 

 ドアを取り付ける金具が悲鳴を上げ電子ロック部位がショートを起こす、精密な機械はこう言った強引な方法に弱い。

 ドアノブを無理矢理開けるとチェーンロックが見える、僅かに空いたドアの隙間に指をかけると先程以上の力で引っ張る。

 

「ウォラァッ!!」

 

 金属のチェーンは一瞬抵抗しながらも金属の音を鳴らし引きちぎれ、凄まじい轟音と共に人が通れる空間が出来る。

 探偵は時には強引な行動も必要になる、スマートじゃ無くて俺の趣味じゃ無いが素早く開錠するにはこれが一番だ。

 

 ………ドアごと外してしまうのが玉に瑕だけどな。

 

 外れたドアを捨てて入ると予想外の光景が広がっていた。

 

 

 

 

 

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「っ!?」

 

 凄まじい轟音。ささやく程度にしか聞こえなかった自分の世界に居た詩乃は起きた大きな音に驚き指が止まる。

 

「詩乃!無事か? 助けに………っ!?」

 

 ぽっかりと空いた玄関を潜り入って来た遼は、詩乃の姿を見た瞬間目を見開く。

 

「詩乃、そいつを降ろせ……」

 

 必死の形相の詩乃と怯えた表情の新川、2人の真剣な顔と微量に感じる火薬の匂い、彼女の手にある物体が『オモチャ』では無い事を証明していた。

 何故こんな事になったのかは分からない。だが遼は詩乃を刺激しないよう優しく声をかける。

 持っているのが新川なら兎も角、詩乃なら直ぐに手放してくれると思ったからだ。

 

「っ! ふー……ふー……」

 

「詩乃?」

 

 だが遼の予想とは裏腹に詩乃は銃を手放さない。

 まるで何かに取り憑かれたかのように新川を睨み付け銃を突き付けている。

 それどころかより銃を握る力を強くした。

 

「詩乃、止めろ! 何する気だ!!」

 

「彼がデスガンなのよ! ゼクシード達を殺した、こんな物まで持って来て……! ここで殺さないとまた何人もの犠牲がっ!」

 

 詩乃の言葉を聞き遼は彼女の過去を思い出した。

 

 前日遼と話した事でその発作は収まりを見せていた。

 しかし新川からの衝撃的な告白、その原因が自分、あの日の再現のような状況、それらの重なりが彼女のトラウマを呼び覚まし狂気を生み出していたのだ。

 詩乃を止めようにも彼女との距離は3メートル以上ある。対して詩乃はこちらが一歩でも動こうものならすかさず引き金を引くだろう。

 

 それに何より遼には分かっていた。彼女があの日を乗り越える方法を。

 それは彼女自身の手で銃を捨てさせる事、彼女の心の中にある『あの日撃っていれば良かった』と言う思いを自分自身で否定させる事。

 その答えは他人が言っても意味が無い、自分で見つける事に意味がある。

 

「詩乃、落ち着け……」

 

 だからこそ遼は力尽くではなく説得を選んだ、本当の意味で詩乃を救う為に。

 

「乗り越えるんだあの日を……」

 

「違う詩乃、そんな事をしても何も変わらない! より暗い闇に飲み込まれるだけだっ!」

 

「昔とは違う、私は強くなった!」

 

「それは強さじゃ無い! 人を殺す強さなんかあるもんか、本当に強い人間は怯えている人を撃ったりしない」

 

 詩乃の視線は遼の方を見ず獲物(新川)を睨み付けている、だがその腕に僅かな震えが見える。

 彼女が迷っている証拠だ。

 

「人殺しなのよ、彼は!!」

 

「そうかも知れない、でも詩乃が同じになる必要はない!」

 

「……同じに?」

 

「そうだ、詩乃がしようとしてるのはデスガン達と同じ人殺しだ。引き金を引けば奴らと全く同じになるんだぞ?」

 

「私は、まだ……同じじゃ、無いの?」

 

「違う、どんな理由かは知らないが絶対に違う!! お前のその気持ちは誰かを守りたいと言う優しさから来るものだ。奪うだけのデスガンとは違う、自分の心を見失うな!」

 

 自分の中の直感をフルに生かし彼女が望む言葉を選び説得を続ける。

 詩乃の声に震えを感じる。

 

「あの日、私のせいで遼が死んじゃったのよ……」

 

「勝手に殺すな、俺は生きてる。何度も一緒にバカ騒ぎしたの覚えてるだろ?」

 

「…………うん」

 

「楽しかったか?」

 

「………うん」

 

「俺もだ。戻って来い、それ以上行くな」

 

 記憶や考えが混乱している詩乃に今度は優しく落ち着いた声をかける。

 闇の向こうに流されそうな彼女の心を引き止めるように手を伸ばす、詩乃の曇った瞳に光が戻り涙で潤んでいる。

 

「私のせいで、遼は……」

 

「それは違う詩乃、俺は()()()()()()()()()

 

「え?……」

 

「あの日の俺は強盗の事件を見て見ぬ振りをしようとした。でも強盗に立ち向かうお前の姿を見て自分も何かしなきゃって思ったら自然と体が動いていたんだ」

 

「遼………」

 

「俺は人殺しをさせるために詩乃を守ったんじゃ無い」

 

 新川を睨み付けていた詩乃がようやく遼の方を見る。

 あの日の証拠を見せるように銃痕の胸を親指でトントンと叩き微笑む。

 

「俺はここに居る。だろ?」

 

「……うん」

 

 腕から力が抜け黒星・五十四式が落ち、詩乃はペタリとその場に座り込んだ。

 

 

 

 

 

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「遼……」

 

 遼の元に行こうにも腰が抜けてしまって立ち上がれなく、顔だけを彼に向ける。

 悪夢の中でモヤが掛かっていたお兄さんの顔が晴れ遼と重なって見える。

 

 間違いない、遼があの時のお兄さんだったんだ……

 

 せめて手だけでもと、腕を伸ばしたその時。

 

「ゆるさない……ユルサナイユルサナイユルサナイ!!!」

 

「っ!?きゃぁっ!」

 

 先程まで壁際で怯えていた新川君が呪いのような声を上げながら私へと掴みかかって来る。

 力の入らない私は簡単に押し倒され、拳銃をもぎ取られる。

 

「よくも僕を殺そうとしたなっ!!朝田さんも僕を裏切ったんだ!!」

 

 馬乗りになった新川君が私の顔に銃を突きつける。

 

「もう要らない!僕の物にならないシノンなんか死んじゃえっ!!!」

 

「………っ!?」

 

 抵抗も出来ず目を瞑る、暗闇の中から大きな破裂音が轟く。

 

 

 

 

 

 

 

「………………………………え?」

 

 空間を抉るような銃声、だけど痛みも衝撃も来ない。

 死ぬ時って痛みを感じないの?

 そんな洒落にもならない事を考えながらゆっくりと目を開ける。

 

「ぐぅ………ああ、痛いっ!痛いぃっ!!」

 

 そこに居たのは右手を押さえながら倒れている新川君の姿、その側には小さい窪みのような傷を付けた黒星・五十四式が転がっていた。

 

 何が起きたのか分からず銃声の聞こえた玄関口の方を見る。

 

「………遼、なの?」

 

 そこに居たのは銃を構えた遼の姿、でも私にはその姿が別の人と重なった。

 リボルバーを構えスーツを着た『白い帽子の男』、それはあの日強盗から私と遼を助けてくれたもう一人の命の恩人。

 色こそ違うが薄暗い玄関はより遼とその男を重ね合わせて見せる。

 

「ったく、危ねぇもん振り回しやがって」

 

 リボルバーを懐に仕舞いながらリビングへと入って来ると、黒星・五十四式を拾い慣れた手つきで分解し始める。

 30秒もしないうちに私の悪夢の塊は唯の鉄屑へと変わる。

 

「痛いよ……!骨が折れた!!」

 

「んなすぐ折れるか、せいぜいヒビが入った程度だっての!」

 

「ぐぺっ!?……………」

 

 倒れている新川君の首に軽く手刀を落とすと、糸が切れたように力が抜け意識を失った。

 

「サクシニルコリン……こいつが凶器だな。怪我はないか詩乃?」

 

 毒物らしき物の入った注射器を確保すると私の方にやって来て、腰を下ろし顔を覗き込んでくる。

 彼の顔を見た瞬間私の体は自然と彼の胸に吸い込まれた。

 

「おっと!……よしよし、怖かったろ?もう大丈夫だからな」

 

 抑えようにも止まらず涙が溢れ出し彼のスーツを濡らす。

 小さく震え啜り泣く私をあやすように、優しく抱きしめながらゆっくりと頭を撫でてくれる。

 母親とは違う力強い暖かさ、それは父親や兄妹の居ない私にとって初めての感覚だった。

 

「………………あんた臭いわよ」

 

「あー……さっきまでゴミ捨て場で寝てたからな……」

 

 暫くその暖かみに包まれる内に恐怖は薄れたが、代わりにとてつも無い気恥ずかしさがやって来る。

 顔が熱くなった私はつい照れ隠しでそんな事を言ってしまう。

 

「ゴミ捨て場って……何してたのよ?」

 

「え?!いやぁ〜それは……」

 

「ふん、どうせ女の子のとこでも行ってたんでしょ?」

 

「う、う〜ん。間違っては無い……かな?」

 

 この反応、本当に女の子の所に行ってたみたいだ。

 少しムカつくけど助けてくれた手前文句言いづらい、ほんの少しその子が羨ましく思う。

 

「臭いなら離れようか?」

 

「………いい、このままで」

 

 離れようかと腕の力を抜いた遼の背中に手を回す、それを見た遼も再び腕に力を入れてあやしてくれる。

 

「ねぇ、聞いて良い?」

 

「ん?なんだ?」

 

「さっき言ってた『私に救われた』って、あれってどう言う事?」

 

「あれか?前に俺が師匠への弟子入りを何度も断られたって話し覚えてるか?」

 

「うん」

 

 確か初めてリョウやヘビモスと戦った時の話だ。

 

「唯のチンピラでしかなかった俺は全く相手にされなかった。師匠からの言葉を聞いて自分の弱さと小ささを思い知らされた俺は他人の事なんでどうでも良くなってた。それが間違ってるのにな……」

 

 そう言いながら遼は遠い目をしている、自分の過去を思い出しているのだろう。

 強いと思っていた遼にもそんな時期があったのだ。

 

「そんな時、強盗に立ち向かうお前を見た。あんな小さな子供が立ち向かってる、自分よりも間違い無く弱い筈の少女が誰かを守る為に強盗に立ち向かってる。そんな姿を見て俺は初めて誰かの為に拳を振るう事ができたんだ」

 

 あの時のお兄さんがそんな事を考えていたなんて先程までは想像もしなかっただろう。

 遼にだって弱い時期はあった、それでもこんなに強くなっている、なら私も遼みたいになれるはずだ。

 

「まぁあの一件から半分だけ認められてよ、危なっかしいからって監視の意味も込めて弟子にしてもらえたんだ。褒められた事じゃ無いけどさ、でもあの日の事がなければ今の俺は居ないんだ。だから俺はお前に感謝してる、ありがとう」

 

「遼……」

 

 ありがとう。

 その一言を聞き胸の奥が暖かくなる、まるで氷が溶けるような優しい暖かさだった。

 

「もういいのか?」

 

「うん、もう寒く無いわ。ありがとう」

 

 これ以上遼に甘える訳には行かない、私が手の力を緩めるのと同時に遼も私に回した手を外す。

 すると外の階段を駆け上って来る音が聞こえる、恐らくキリトが呼んでくれた警察が到着したのだろう。

 

「おっと!」

 

「あ、ごめんなさい」

 

 立ち上がろうとしたがまだ足に力が戻っておらず、前のめりに倒れそうになるのを遼が支えてくれた。

 

「シノン!無事かっ!?」

 

「助けに来たぞ嬢ちゃん!」

 

「馬場さん!それに……キリト?」

 

 息を切らしながら玄関から顔を出したのは、先日の件からお世話になってる馬場と言う警官さんと黒い短い髪の同じ年頃の男の子、声の高さからキリトだと察した。

 

「「オラァッ!!」」

 

「え!?ちょっと二人共ーー」

 

「へ?、ぶへっ!?」

 

 そのまま二人は私の体を支えていた男の顔面を蹴り飛ばした。

 勿論蹴り飛ばされたのは遼だった。

 私の体に触れているところを見て勘違いした二人に遼は蹴り飛ばされたのだ。

 

「大丈夫かシノン!」

 

「キリト!……よね?違うのよ!あの人は犯人じゃ無くてーー」

 

「え?」

 

「おら!嬢ちゃんから離れろ、変態野郎が!」

 

「痛ででででっ!?またかよ!オッサン、俺だってばーーー!!!」

 

 私を心配するキリトと遼に関節技をキメる馬場さんを止め、事情を説明するのだった。

 

 

 

 

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「本当にすまん!」

 

「まぁ気にするなよ」

 

「あっはっはっは!そうそう、よくある事だしな!」

 

「いやオッサンは気にしろや!?何年の付き合いだと思ってんだよ!」

 

 あの後数人の警察官がやって来て、俺たちは邪魔にならないよう現場を後にした。

 部屋の外に出た俺と詩乃がオッサンとキリトに事情を説明するとキリトは手を合わせて謝罪をする。

 何故この2人が一緒にいるかと言うと、どうやらキリトが警察に連絡しようとした時偶然にオッサンと出会ったらしい。

 普通なら悪戯とも思われたかも知れないが人の良いオッサンはキリトの話を信じ、彼をパトカーに乗せて一緒にこっちまでやって来たようだ。

 

「……………」

 

 詩乃は気絶したまま警察に連行される新川を無言で見つめている。

 何か声をかけてやるべきかとも思ったが止めておいた。

 先程までの彼女なら慰めていたが、今の彼女の瞳は力強いものへと変わっている。

 他人がどうこう言うだけが優しさでは無い、彼をよく知っている彼女自身に答えを出させるべきだと思った。

 

「なぁオッサン、ちょっと良いか?」

 

 オッサンを連れて二人から聞こえないぐらい離れると事件の話を始める。

 

「来てくれた事は助かるけど他の共犯者の方はどうしたんだ?」

 

「ああその件か、心配しなくても逃した訳じゃねぇよ。寧ろ向こうが心配無いって分かったからこっちに来たんだよ」

 

「?、どう言う意味だ?」

 

「心強い助っ人が来てくれたんだよ、そいつが共犯者を追ってるんだ。人手が増えたからオレはこっちに来たんだよ」

 

 確かに警察官の数が多い。

 証拠が少ない為組織は動かせないはずなのにだ。

 考えられる事は一つ、階級の高い人間が圧力をかけて無理矢理動かしたのだろう。

 

 そんな無茶苦茶な事をする男を俺はよく知っている、そして同時に現在逃走してるであろう犯人に深く同情した。

 

 

 

 

 

 

 

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「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……!」

 

 暗闇の中を一人の少年が息を切らしながら走る。

 彼の名は金本 敦。

 かつてジョニー・ブラックと言う名で何人ものプレイヤーを殺したラフィンコフィンの幹部の一人。

 そしてデスガンの一人ででもある。

 

「クソッ!何でサツがこんなにも早く!」

 

 彼の計算ではデスガンの犯行はバレずらく、かつ証拠も集まりづらい為警察組織が動くのはもっと後だと思っていた。

 だが計算とは違いBOBの途中から追われることとなっている、その為たった一人も殺せていない。

 

「クソガッ!まだだ……数日経てば『あの人』が助けてくれる筈だ、その時は黒の剣士と邪魔しやがったあの男、必ず殺してやる!!」

 

「殺すとは随分と物騒だな」

 

「っ!?」

 

 呪怨を述べた時、街灯の下に赤いジャケットの男の姿を発見する。

 

「金本 敦、別名ジョニー・ブラック、お前たちの犯行は既にバレている。大人しく投降しろ」

 

 赤いジャケットの男は懐から警察手帳を見せる。

 

(コイツ警察か……だが一人だけだ、コイツを使えば………)

 

 金本は俯きながらトボトボと歩き、大人しく捕まるような素振りを見せながらポケットにある拳銃に意識を向ける。

 それは新川兄弟と一緒にあの人から買った物。

 

「死ねぇっ!」

 

 一人も殺せていないフラストレーションをぶつけるように拳銃を抜き出し引き金を引く。

 破裂音の後血に染まった男の姿が映るはずだった。

 

「な!?」

 

 だがジャケットの男、炎刃は腰から警棒を取り出すと銃弾を叩き落とし金本へと向かって走る。

 予想外の出来事に驚いている金本の顎へと後ろ回し蹴りを叩き込んだ。

 

「ぶはっ!?……な、何者なんだ?……お前は……」

 

 一瞬の出来事に何が起きたか分からない金本は、ただ純粋な疑問を投げかける。

 

「俺に質問をするな」

 

 白目を剥き気絶した金本の問いに短くそう言い放つと、炎刃は彼の両手に手錠をかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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次回でファントムバレット編は終了になります、思ったよりも長くなってしまいました。
次の章では感想でも質問のあったあのキャラが出ます、お楽しみに。


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第四部 誰のサイドケースから見たい?

  • キリト
  • アスナ
  • クライン
  • エギル
  • シリカ
  • リズ
  • リーファ
  • シノン
  • ユウキ
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