ソードアート・オンライン フェイタルバレットー切札の弾丸ー   作:トライダー

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 大変お待たせしました。
 いろいろと忙しかったのと、モチベーションの低下が災いし遅れてしまいました。
 ですが感想欄やお気に入り評価などを見て、再び投稿しようと思いました。
 遅くなるかもしれませんが皆様の応援がある限り続けるつもりです。


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 似合う男

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 精密な機械に囲まれた広い部屋、その真ん中に置かれたソファーに一人の男が足を組んで座っている。

 後ろの扉が開き、その男の側に一人の女が近づく。

 

「"D"が失敗したそうよ」

 

「先程聞いた。期待していたんだが、残念だ」

 

 女からの報告、しかし男は言葉とは裏腹にさほど残念そうにはしていなく、どうでも良いとばかりに別の話を切り出す。

 

「それで? データの方はどうなった?」

 

「ええ、今回は予想外にいいデータが取れたわ」

 

「それは良かった。今回のBOBは強豪が減っていたからな、精度が落ちるとクライアントが煩い」

 

 女から渡されたデータを確認した男はほくそ笑む。

 

「……それでDはどうする? 助けるの?」

 

「まさか、放っておけ。スキルだけ回収すれば後は用済みだ」

 

「冷たいのね。期待してるって言ってたくせに」

 

「して『た』だ。ラフィンコフィンなどと騒いでいたから試してみたが、所詮はガキだったと言ことだ。くれてやったスキルもたかが"レベル2"止まりだ」

 

「そう。あともう一つ、例の物が明日日本に届くわ」

 

「そうか、アレは俺たちの計画に必要不可欠だ。せいぜい良い進化をしてくれることを願う限りだ」

 

 

 

 

 

 

 

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 12月25日 カフェ・エモシオン。

 

「……………以上で報告は終わりです」

 

「素晴らしい働きだったよ、流石氷室さんのお弟子さんだ」

 

 太陽の光の入る窓際の席で遼と菊岡が向かい合っている、現在遼は依頼であるデスガン事件の報告を行なっている。

 遼からの報告を聞き菊岡は満足そうに手を叩く。

 

「ただ一つだけ不満点を述べるなら、()()()()()()()()()()?僕としてはあくまでサポートに徹してもらって欲しいって言った筈だけど?」

 

「あれ?んな事言ってたっけ?」

 

 遼は惚けたようにコーヒーを飲む。

 依頼人の依頼内容を無視する、探偵としては最低の行為と師匠に教えられて来た、もし知られたら殴られるかも知れない。

 でも遼は探偵としての拘りよりも自分が守りたいものを守る事を選んだ、たとえ殴られようとも後悔はしていない。

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……」

 

 報告を終え菊岡が去ったのを確認すると遼は一息つく。

 主犯者である、金本 敦 / ジョニー・ブラック 、新川 昌一 / サザ 、そしてその弟である新川 恭二の三名を逮捕する事に成功。

 この殺人の計画はこの3人だけで考えたものらしく、これにてデスガン事件は終わりを迎える。

 

 だが遼の中には一つだけ心に残ってる事がある。

 

『あの人』

 

 デスガンがそんな事を言っていたのを思い出す。

 他の二人、新川 恭二と金本 敦 も似たような事を言ってたらしいのを詩乃と炎刃から聞いている。

 デスガンにスキルを渡しただけでは無く、この3人に本物の拳銃を売りつけた武器商人でもある。

 

「……"E"」

 

 最後にデスガン…… 新川 昌一が呟いていた単語。

 

(何を表してるんだ? 頭文字? 暗号? キーワード? それとも只のフェイク?)

 

 人の名前だとしても本名を名乗っているとは限らない、だとすれば混乱させる為のフェイクの可能性も高い。

 

(D……S……J……そしてE……)

 

 エクストラスキルは全てアルファベットをモチーフにしている、順当に考えるなら"E"とはEに該当するスキルの事だろう。

 デスガンは『あの人』からスキルを貰ったと言っていた。

 

(アイツはEを『この世界の王』だと言ってた、どう言う意味だ?Eがスキルの事なら『あの人』はスキルの持ち主って事になる。……この世界?GGOの事か?……GGOの……王?)

 

 情報が少ない以上考え過ぎるのは良く無いが、遼の探偵としての勘が心に留めておけと騒いでいる。

 絶対に忘れるなと彼を脅すように。

 

「事件はひと段落したんだ。少しは気を抜いたらどうだい?」

 

 その声により遼は意識を取り戻す、よく見るとマスターが飲み終わったコーヒーを片付けていた。

 

「いえそう言うわけには、まだ裏の犯人は捕まっていないですから」

 

「炎刃から聞いた話ではその少年に武器を渡したのは外国の組織なんだろう? なら遼たちの管轄外だ。それに大きな組織である可能性もある以上今すぐどうこう出来る時間でも無い。今は身体と心を休めなさい」

 

「そう……ですね……」

 

 呪いのように脳に刻まれた"E"というキーワード、少し囚われ過ぎていたのかも知れない。

 マスターの言う通り現状では情報も少なくどうしようも無い、ならいざという時のために動けるように休めておくおくべきだ。

 遼は頭を切り替えるように軽く頬を叩く。

 

「それに、女の子を待たせるのは良く無いのでは無いか?」

 

「え?」

 

 マスターが顎で合図をしているのを見て窓の外に視線を向ける、そこにはジトーとした瞳で此方を見つめているメガネの少女がいた。

 

「やっべぇ! すみませんまた来ます!」

 

「ああ、良いクリスマスをね」

 

 

 

 

 

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「まったく、自分から誘っておいて待たせるってどう言うことよ!」

 

「悪かったって。許してくれよ詩乃ちゃ〜ん」

 

 エモシオンを出て詩乃と遼は並んで歩く、小柄な詩乃に対してガタイの良い遼が腰を低くしている姿は不思議な光景に見える。

 二人が向かっているのは翠子と紅葉の自宅、というのも今日は12月25日のクリスマス。

 あんな事件の後、それに家族とも離れて暮らしていると言う詩乃を心配した遼が今日行われるパーティに彼女を誘ったのだ。

 

「そう言えば学校は大丈夫なのか? また虐められたりしてないか?」

 

 あの事件の事が学校に知られてしまい、また虐めや恐喝の対象になってないか遼は心配していた。

 

「ええ、寧ろ私を見たら直ぐに逃げて行くもの」

 

「逃げる?」 

 

「2回も遼に助けられてるから、アンタの女だって思われてるみたいよ」

 

「は? 何じゃそりゃ、つか何でその程度で逃げるんだよ?」

 

「聞いた話だけど遠藤さん達、アンタに復讐しようとして知り合いの大学生とかに声をかけたんだって、でもその相手がアンタだって分かった途端全員逃げ出したみたいよ? それでその後アンタの昔の話を聞いたみたい」

 

「あー昔俺がぶっ飛ばした奴らか、確かにあの世代からしたら俺は怖いわな」

 

 大学生と言うことは遼と同世代、遼は中学と高校時代にこの辺りのチンピラと言うチンピラを殴り倒していた事がある。

 その為この世代には遼の恐ろしさがよく伝わっているのだろう、それどころか被害者の可能性すらある。

 

「アンタ昔から無茶苦茶してたのね、武勇伝って言うのかしら?」

 

「格下相手に荒れてただけだ、武勇伝でも何でもねぇよ」

 

「ふふ、それもそうね」

 

 前までの詩乃ならその力を強さだと思い憧れたかも知れない。

 でも、ただ相手を倒すだけの力は強さでも何でもない、それを理解した詩乃は過去の遼を否定し、笑顔で微笑んだ。

 

 

 

 

      

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「紅葉〜まだか〜?」

 

「まだ始めたばっかでしょうが!黙って待ってなさい!」

 

 翠子と紅葉の自宅に四人が揃う。

 遼は椅子に座りながら台所にいる紅葉に声をかけ、詩乃は向かい合いながら翠子と世間話をしている。

 

「そう、詩乃は高校生なの〜。良いわね青春って感じよね。わたしも遼と甘〜い学生時代を過ごしてみたいわ〜」

 

「あ、あはは……。でもツェリス……翠子さんがザスカーの人間だなんて驚きました」

 

「もう、翠で良いわよ。遠慮しなくて良いわ、向こう(GGO)と同じように接して頂戴」

 

「あたしもよ詩乃。歳以前に同じゲームの友達だもん、遼と同じようにしてくれたら良いから」

 

「はい……じゃ無くて。うん、ありがとう翠、紅葉」

 

 リアルでは初めて会う上にどちらも歳上と言うこともあって最初は息苦しそうにしていた。

 しかし二人がGGOの時と同じように接してくれる為徐々に心を開く。

 

「紅葉〜まだ〜?」

 

「もう!うっさいわよ!」

 

「だってよ〜早く紅葉の美味い飯が食いたいんだよ〜」

 

「も、もうしょうがないわねぇ〜! もう少し待ってなさい!」

 

 言葉こそは強いが、機嫌の良さは隠せず声は上ずり顔は赤くなりニヤけていた。

 そんな二人のやり取りを見た詩乃は、面白くなさそうに目細め、軽く頬を膨らませる。

 

「む……なら私が手伝うわ」

 

「え?いや、詩乃は客人なんだから待ってれば……」

 

「いいから!」

 

「お、おう……」

 

 せっかく客人として誘ったのに働かせるのは悪いと思い遼が制するが、予想以上の詩乃のやる気に恐縮してしまう。

 

「別にいいのよ詩乃、アイツの好みの味はあたしがよく知ってるし」

 

「心配しないで、少なくともアイツが美味しいって言う料理は作った事があるし」

 

「「……むぅ」」

 

 互いに軽く頬を膨らませジッと睨み合う紅葉と詩乃、無言ではあるが迫力があり、まるで二人の間に火花が出てるかのようだ。

 

「どうしたんだ?二人とも……」

 

「遼って変なところで鈍いわよね〜まぁそこが可愛いのだけれど」

 

「え?」

 

「何でもないわよ。でも良いわね青春って感じで、わたしも料理勉強しておけばよかったわ」

 

 先程まで楽しそうに話していた二人の突然の変化に首を傾げる遼と、そんな彼を見て楽しそうに微笑む翠子。

 

「あ、そういえば遼に運んで欲しいものがあるのよ。わたし一人じゃ重くって」

 

「あー、玄関にあったあのデカい荷物か? いいぜ、朝飯前……てか晩飯前か?」

 

 入る時に見かけた玄関に置かれた大きな段ボール箱を思い出した遼は、翠子と共に玄関へと向かう。

 

 

 

 

 

「よっこらしょっと!何入ってんだこれ?」

 

 遼は肩を回しながら自分が運んだ荷物を確認する。

 遼がリビングまで運んで来たのは人一人入れるかと言うぐらいの大きな箱だった。

 重量もかなりのものであり、紅葉と翠子では運べない物だった。

 

「ありがとう〜遼。それじゃあ悪いのだけれど一時間ほど席を離してくれないかしら?」

 

「え? おいおい、流石に酷いんじゃないか?運ばせるだけ運ばせて追い出すなんて……」

 

 流石の遼も不満そうな顔を見せる。

 

「あらごめんなさい。でもこれは遼へのクリスマスプレゼントなのよ」

 

「え?コレが?」

 

「そう、なのに段ボールのままだなんて無粋でしょ? 少しラッピングしたいから中を見ないで欲しいのよ」

 

「そう言う事か、ならしょうがないな。レディの準備に男が口出すもんじゃねぇわな」

 

「分かってくれて嬉しいわ、遼のそう言うところ好きよ」

 

「俺もだよ。んじゃそれまで事務所に戻って書類の整理でもしてるわ、準備できたら連絡してくれ、もし寝てたら入ってくれて構わないからよ」

 

「分かったわ」

 

 そう言うと遼は翠子宅を出て行く。

 遼が出て行ったのを確認した翠子はニヤニヤとしながらノートパソコンを立ち上げ、段ボールを開けていく。

 その表情は年甲斐も無い悪戯っ子のようであった。

 

「遼ったら驚くわよ、ふふふ……」

 

 

 

 

    

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「おー!美味そう!流石だな紅葉」

 

「と、当然よ!」

 

 小一時間ほどして紅葉から連絡をもらい、リビングに戻って来るとテーブルの上に美味そうな料理が並んでいた。

 自分の好物を作ってくれた紅葉を褒めると、彼女は顔を赤くしながらも嬉しそうにしている。

 生唾を飲みながら遼は空いている詩乃の隣の席へと座る。

 

「詩乃もお疲れさん、大変じゃなかったか?」

 

「別に大丈夫よ。ただまぁ、高そうな食材ばかりで少し緊張はしたかな?」

 

「ふふふっ、今日は奮発したものねぇ」

 

 ボーナスを得た翠子の買ってきた食材は、一人暮らしで節約しながら暮らしている詩乃にとっては野菜一つとっても普段よりも数ランク上の食材ばかりだった。

 

「ん?、まだ誰か呼んでるのか?」

 

「まぁ、そうねぇ……」

 

 遼はふと気づく。

 いつもはテーブルに三つの椅子が置かれている、しかし詩乃用に置かれた椅子の他にもう一つ来客用の椅子が置かれていた。

 

「?」

 

 遼が疑問に思っていると突然紅葉が吹き出し、隣に座っている詩乃も笑いを堪えている様子、遼は何やら分からず頭の中に「?」を浮かべる。

 

「それじゃあ先にプレゼントを受け取って」

 

「おいおい、まだ乾杯もしてないだろ? それに全員揃ってないみたいだしよ」

 

「心配しなくても良いわよ、直ぐ揃うから」

 

 翠子の言っている意味が分からなかったが、パーティの準備を全部彼女達に任せている以上黙って従う事にした。

 テーブルの隣に置かれているプレゼントへと近づく、先程とは違い段ボールでは無く白い綺麗な袋に紫色のリボンで結ばれている。

 

「へー重かったのに綺麗にラッピングしたもんだな」

 

「紅葉ちゃんと詩乃ちゃんにも手伝ってもらったのよ〜驚いてくれると良いのだけど」

 

「まぁ間違いなく驚くでしょうね」

 

「ええ、驚き過ぎて腰抜かすんじゃ無いわよ!」

 

「お前らなぁ、そう言うことは思ってても口に出すなよ……」

 

 驚く驚くと言われてしまっては逆に反応に困る、謎のプレッシャーを感じながらも腰を落とし袋を開こうとする。

 雪のような白に紫の装飾、見慣れたそのカラーリングに大切な相棒の姿を思い浮かべる。

 

(そう言えばアイにもプレゼントやらないとな、BOBの件で随分と不安にさせてしまったしな……)

 

 詩乃を助けた後ホームに戻ると泣きながら飛びついて来たアイの姿を思い出す。

 頭を撫でて安心させると直ぐに眩しい笑顔を見せたが、一瞬でもその笑顔を壊してしまったのは事実だ。

 

(何をやるか……服?アクセサリー?それとも……)

 

「マスターっ!!」

 

 アイへのプレゼントを考えながら袋を開けようとリボンを緩めた瞬間、小さい白い影が飛び出し遼の胸へと抱きついた。

 

「………………………………え?」

 

 思い浮かんでいた少女と全く同じ声に驚きながらも、胸に飛びついた影の正体を見る。

 そこに居たのは雪のように白い髪にワンピースを着た小柄な少女、その姿はアイと瓜二つだった。

 

「えええええーーーーーーーーーーーーーーーーっっっ?!?!?!」

 

 どうリアクションを取ろうかと思ってたのも忘れ、遼の絶叫が天井を突き破り星空まで響くのだった。

 

 

 

 

 

 

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「それじゃあアイちゃん、自己紹介をお願い」

 

「はい! ザスカーの技術の結晶!超超超高性能アンドロイドAI(アイ)ちゃんですよー!」

 

「アンドロイド……?これがかぁ?」

 

 遼は顎に手を当て、じーとアイを見る。

 遼に見つめられ『えへへ〜!』と照れた様子を見せるアイ、その姿はGGOに居るアイそのものだった。

 

「どう言う事なんだよ翠?」

 

「初めてリアルで会った時の話を覚えてる? アイちゃんには人間と殆ど変わらない感情値があるって話」

 

「ああ、確か翠はそれが理由でアイや俺の観察のためにコッチに住んでるんだもんな」

 

 遼は初めて翠子と会い話した内容を思い出す。

 アファシスの限界以上の感情値を生み出したアイと、そのマスターである遼を観察する為翠子はこの場所に家を構えた。

 

「実はね、ザスカーが開発中の新型アンドロイドの内蔵AIにアファシスを採用するって話になってその中からアイちゃんが採用されたのよ。人間のように考え動くAI、それとザスカーが開発中の最新型のアンドロイドを組み合わせれば理想とする『人間のようなアンドロイド』が完成すると考え試してみたのよ」

 

 そう言えば偶にアイとツェリスカが二人だけでコソコソとしていたのを思い出した。

 

「でも脳であるアファシスはマスターと一緒でこそ性能を最大に生かせるの、だから暫く遼にモニターをして貰いたいのよ」

 

「それなら俺に連絡の一つでも……」

 

 あまりにも驚きすぎて今も少し気分が悪いくらいだ。

 

「ごめんなさいね。レイちゃんに止められてて」

 

「アイに?」

 

「はい!マスターをビックリさせてあげたかったのです!」

 

「いや確かにビックリはしたが……せめて相談の一つでも……」

 

「それに、少しだけ羨ましかったのです」

 

「羨ましい?」

 

「はい、マスター達はいつもこっちの世界での出来事を楽しそうに話しているのです。同じGGOに居るのにまるで遠くにいるような感覚でした。何より二人ともズルいのです! わたしもマスターともっともーと一緒に居たいのですっ!!」

 

 寂しそうな表情から一転し駄々っ子のように両手を振り回す。

 相変わらずAIとは思えない程に感情の変化の激しい少女である。

 そんな姿を見てため息を吐きながら後頭部を掻く遼。

 

「俺も同じ気持ちだよアイ、こっちでも会えて嬉しいよ」

 

「っ! マスターっ!」

 

 笑顔を見せて勢いよく飛び付いてくるAIを受け止めると遼は優しく抱き返す。

 

「確かにいきなりで驚きはしたけど、せっかく来たんだ楽しくやろうぜ」

 

「はい! こっちでもマスターの身の回りのお世話を頑張るのです!」

 

「ああ、頼りにしてるぜ相棒」

 

「えへへ〜」

 

 片手をアイの頬に回し優しく撫でてやると、まるで猫のように気持ち良さそうに顔を押し付けてくる。

 

「でも本当に凄いわよね、あたしも初めて話を聞いた時驚いたもん」

 

「GGOの発売以降ザスカーがどんどん技術を上げていることは知ってたけど、まさかここまでとは思わなかったわ」 

 

 詩乃の言う通り、ザスカーはもともとアメリカの小さな会社だった。

 しかし社長が変わると同時にGGOを発売し、その規模は止まる事を知らず、今では世界でも有数の企業へと変貌している。

 それでもここまで精巧なアンドロイドを作れるとは遼達も思わなかった。

 

「まったくだ、アイそっくりだもんな」

 

「そうでしょうそうでしょう!アイちゃんの素材にはとことん拘ったのだから! アイちゃんの白くて柔らかい肌にサラサラとした髪、そして透き通るような綺麗な瞳! GGOのアイちゃんの魅力を再現する為どれだけの費用と時間をかけたかっ!!」

 

「お、おう……」

 

「まぁそのせいで開発が遅れて、ついでだからクリスマスに合わせようって話になったのだけど……」

 

 翠子の熱意を正面から受けタジタジになる遼。

 AIがここまでのクオリティを持つ事ができたのは間違いなく彼女のおかげなのだろう。

 

「さぁ!それじゃあ全員揃ったし乾杯しましょうか!」

 

「そうですね。ほら遼と詩乃も座って座って! アイちゃんはこっちね」

 

「はいなのです!」

 

 アイが最後の席に着くと5人揃って乾杯の合図をし、二人が作ってくれた料理へと箸を伸ばす。

 

「おいしそうなのです〜」

 

「ああ美味いぞ、食えないのが可哀想だな」

 

「ふっふっふっ! マスター、わたしを舐めてはいけないのです。超高性能なわたしなら、こうすれば!」

 

 アイは遼の料理を見つめると目から青い光を放つ、放たれた光は料理を観察するように照らす。

 

「何してるんだ?」

 

「料理をスキャンしているのよ」

 

「スキャン?」

 

「ええ、GGOの中でもご飯やお菓子を食べると本当に食べた気分になるでしょう? あれは実際の料理の成分をゲーム内で再現してるからなの、それと同じ事をして頭の中で料理を再現してるの」

 

 勿論遼たちの場合は実際お腹が膨れるわけじゃない、だがアファシスでありアンドロイドであるアイならばプログラムで味を再現するだけで十分だ。

 

「ん〜!おいしいのです〜!」

 

 機械とは思えないぐらいに頬を緩ませているアイを横目に、遼達も賑やかな食事を楽しむのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「おら! これでどうだっ!!」

 

「はい、ガード」

 

「あっ!」

 

「後ろがガラ空きよ!」

 

「ちょっ!?」

 

「爆弾投げますよー!」

 

「ま、待てアイっ!!」

 

 遼の抑制も意味が無く、アイによって放たれた爆弾が直撃し、遼が操作するキャラクターは空の彼方へと吹っ飛んでいき星となった。

 それによって遼の分のストックが無くなりゲームオーバーとなる。

 

「ま、また最下位かよ……」

 

 コントローラーを手放し両手をついて落ち込む遼。

 食事を終えた遼達は皆でゲーム大会をしていた。

 

「アンタテレビゲーム弱すぎでしょ」

 

「正直言って驚いたわ、GGOじゃあんなに強いのに」

 

 レースゲームに双六ゲーム、そして大勢で戦うパーティゲーム、いくつものゲームで遊んでいるが遼は殆ど毎回最下位を取っていた。

 

「いや、昔っからこう言ったものは苦手でなぁ」

 

「GGOはあんなに上手いくせに」

 

「あんなもん殆どスポーツや喧嘩の延長だろ?」

 

「いや、スポーツはともかく喧嘩と一緒にしないでよ……」

 

 とは言え過激なゲームである以上、いまいち否定しづらい。

 

「ふぁ〜あ……」

 

「あら? アイちゃんお眠かしら?」

 

「だいじょうぶです……きょうは、よふかし……するのです」

 

「ほらほら無理しないの。初起動でまだ万全じゃ無いんだから、今日は休みなさい」

 

 アンドロイドといえども休憩は必要だ、特に万全じゃないAIにはまだまだ調整が必要となる。

 翠子は眠そうに目を擦るAIの体を支えると、奥の部屋とは連れて行く。

 それを見た詩乃はふと時計を確認すると既に11時を回っていた。

 

「もうこんな時間ね。私もそろそろ帰るわ」

 

「あら、今日は泊まっていったら?」

 

「嬉しいけど明日も用事があるの、家で準備もしたいし」

 

「そう、まだまだお話したかったけどしょうがないわ。遼、送って行ってあげて」

 

「ああ、バイク取ってくるよ」

 

「別にそこまでしてもらわなくても……大して離れてないし」

 

「気にすんな、大人としての責任だ。それに誘った女の子を放ったらかしにするのはダサい男のする事だ、カッコつけさせろよ」

 

 そう言うと遼は玄関を出て行く、暫くしてバイクのエンジン音が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

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「ほい、到着っと!」

 

 数分後、詩乃を後ろに乗せたバイクが彼女のアパートの前へと到着する。

 

「遼、ありがとう」

 

「ん? 気にすんなって、さっきも言ったろ? 大人としての責任だってよ」

 

「その事じゃ無くてさ。ほら今日だってパーティに誘ってくれたでしょ? あんな事件があったから心配してくれたんでしょ?」

 

「あーうん、まぁな」

 

 確かに心配はしていたが、改めてお礼を言われた遼は照れ臭そうに鼻をかく。

 

「ねぇ遼、私ね暫くGGOを離れようと思うの」

 

「え? どう言う事だよ」

 

「実はね、昨日キリト達と会ったの。彼と彼の友達のプレイヤー達とあって結構意気投合しちゃってさ、それで良かったらALOに来ないかって誘われたの」

 

「GGO辞めちゃうのか?」

 

「辞めはしないわよ。……でも私はGGOしか知らなかったから、もっと色んな世界を見てみたいの、新しく出来た色んな友達とね」

 

「……そっか」

 

 寂しくないと言えば嘘になるが詩乃が自分から見聞を広げようとしている以上それを止める理由は無い。

 そして何より詩乃が『友達』を作ったことが嬉しかった。

 

「ねぇ、よかったら遼もALOに来ない?」

 

「嬉しい誘いだけど暫くはGGOに居るよ、アイと一緒に居てやりたいしな」

 

「うん、そう言うと思ったわ。私だっていつまでも遼に頼ってる訳にいかないもの、アンタが居なくたってやっていけるぐらい強くなったら帰って来るつもりよ。だからその時は……」

 

 私を遼達の本当の仲間にして欲しい。

 

 そう言おうとするが、照れ臭さと寂しさに上手く声に出せなくなる。

 それを見た遼はメモ帳に何かを書くと一枚を切り取り、詩乃へと手渡す。

 

「ほら詩乃」

 

「え? これは?」

 

「うちのスコードローンの倉庫の暗証番号だ。コンバートするなら装備やアイテムを預ける必要があるだろ?」

 

「で、でも私まだメンバーじゃ……」

 

 そこまで言いかけた詩乃の口が遼の指で止められる。

 

「いつでも帰って来い。お前の居場所はいくらでもあるんだからな」

 

「……うん!」

 

 たとえ正式に登録してなくても遼……いや遼だけでは無い、紅葉達もとっくに詩乃の事を仲間だと思っている。

 遼の言いたい事を理解した詩乃は普段見せない眩しい笑顔を見せる。

 その表情からは、かつての氷のような冷たさは感じない。

 

「そう言えばさ遼、アンタの師匠ってあの日助けてくれた『白い帽子』の男の人?」

 

「え? ああ、よく分かったな」

 

「まぁ状況から考えてね。それに……」

 

 詩乃が思い出すのは二人の『帽子を被った男』の姿。

 

「……この前助けてくれたアンタの姿と、あの日の助けてくれたあの人の姿が重なって見えたからさ」

 

「……………そうか」

 

 遼は一瞬目を見開いた後、フッと笑い帽子を深く被る。

 その彼の仕草の意味は詩乃には分からなかった。

 

「あの日も今回もそれ以外の事も、アンタには本当に助けられてばかりよね。本当、お礼を考える身にもなって欲しいわ」

 

「おいおい、いつも言ってるだろ? お礼なんてほっぺにチューしてくれるだけで良いってよ」

 

 ふざけるように左の頬を指で指す遼、そうしながらいつもの詩乃のツッコミを待っていると、

 

「わかったわ」

 

「え?」

 

 詩乃はアパートの階段を一段登り限界まで背伸びをしながら遼の肩を引っ張る、それによって二人の身長の差が無くなる。

 瞬間、遼の頬に柔らかいモノが触れる。

 当然それは詩乃の唇だった。

 触れているものは分かっているが、何が起きたか分かっていない遼は軽く放心する。

 

「また会いましょう、リョウ!」

 

 呆けている遼にウィンクをすると、頬が赤く染まった笑顔を見せながら詩乃は自分の部屋へと戻って行った。

 

 

 

 

 

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 ドクンッドクンッと胸が高鳴り、冬にも関わらず顔に熱を感じる。

 

「ああくそ、俺とした事があんな子供に驚かさせられるなんて……俺はロリコンじゃねぇぞっ!」

 

 不覚にも高校生相手にドキドキしてしまった事実を振り払う。

 帽子を団扇の代わりにて顔を冷やす、すると落ち着いてきた頃に手に持った帽子に意識が向く。

 詩乃が先程言っていた事を思い出す。

 

『この前助けてくれたアンタの姿と、あの日の助けてくれたあの人の姿が重なって見えたからさ』

 

「………………」

 

 ずっと真似をしてきた。

 カッコつけだろうと何だろうと、早く尊敬するあの人に近づきたかったから。

 帽子の似合う漢の中の漢の姿に。

 

(少しは似合う男になれたかな………………おやっさん)

 

 見つめた帽子を再び深く被るとそのまま夜空に輝く星を見上げる。

 遼にはその星達が少しだけ近くに感じた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

     

 

 

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 同時刻 GGO内の荒野

 

 荒野の岩場に一人のプレイヤーが隠れている。

 黒いスーツに白いスカーフ、そして『白い帽子』を被った骸骨の仮面の男。

 リョウ達の前に姿を現したスカルであった。

 彼は身を隠しながら誰かと通信している。

 

《スカル、奴は見つかったか?》

 

『いや、情報によれば数日前に既にアメリカに戻ったようだ』

 

《そうか……せっかくサトライザーの足取りが掴めると思ったのだが、そう上手くはいかないな》

 

 通信相手の中年の男らしき声は残念そうに言う。

 

《しかし奴は何の目的で日本サーバーに?》

 

『分からん。奴はとあるダンジョンを目的としていたようだ、調べようにも既に消失してしまったがな……』

 

《また少しずつ追い込むしかあるまい。しかし残念だったな、久しぶりの日本だと言うのに》

 

『本物の故郷では無いさ。それに心配する事も無い、この国には……あの街にはアイツが居るからな』

 

《そうか、では再び情報が入り次第連絡する》

 

『了解』

 

 男との通信が終わりスカルはログアウトしようとメニューを開く、しかしふとその手を止め己の帽子に手を添える。

 そのままスカルは帽子を深く被るとそのままGGO内の夜空に輝く星を見上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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AI(アイ)

 ザスカーの技術部門とプログラミング部門が全面協力し製作された、最新型アンドロイド。
 翠子が送ったデータに感銘を受け、大勢のアファシスの中からアイが採用された。
 見た目は完全にアイと同じく、彼女の人格もあってかパッと見では人間にしか見えない。
 ちなみに恐ろしいほどの電力を食うため充電代は翠子の経費である。




 長らくお待たせしました。
 これにて《氷の狙撃手 ファントム・バレット編》は終了です。
 シノンはこれから原作のキャリバー編へといくので当分の間登場しません。
 ですが次の章では新しい物語と新ヒロインが登場いたしますのでぜひお楽しみにしてください。

 それでは次章、《ピンクの兎 オルタナティブ編》をお楽しみに。


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第四部 誰のサイドケースから見たい?

  • キリト
  • アスナ
  • クライン
  • エギル
  • シリカ
  • リズ
  • リーファ
  • シノン
  • ユウキ
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