ソードアート・オンライン フェイタルバレットー切札の弾丸ー   作:トライダー

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 赤い旋風

⭐︎

 

 

 

 

 

 

 

「はぁっ……はぁっ……」

 

「くそ!またやられた!」

 

「気を付けろ、相当すばしっこいぞ!」

 

 夕日に照らされた荒野の中に十数人ものプレイヤー達が走り回る。

 

(まずい、このままじゃ見つかっちゃう……)

 

 そのプレイヤー達から隠れるように岩場に身を寄せるのは、ピンク色の少女レンである。

 彼女の隠れる岩場に二人の敵プレイヤーが近づいて来る。

 

(あれ?……)

 

 しかしすぐ近くまで近づいたにも関わらず辺りを見回している、プレイヤー達がレンの姿を見つけた様子はない。

 

(見つかってない? だったら……)

 

 小さな両腕に抱えたサブマシンガンを強く抱きしめると、深く深呼吸をし、岩場から飛び出す。

 

「ぐあああぁっ!?」

 

 飛び出すと同時に引き金を引く、広範囲に広がった弾幕が二人のうち一人を蜂の巣に変える。

 突如上がった相棒の悲鳴に、もう一人のプレイヤーが振り向くとレンへと銃弾を放つ。

 

「くっ!コイツAGI型かよ! 的が小さくて……」

 

 しかしレンが足に力を入れ全速力で駆け出すと、バレットラインは彼女の体から離れる。

 レンの動きに合わせ銃身を動かすが、素早いうえに最小クラスのアバターのレンを狙う事は難しく、奇襲によって焦った状態で放たれた弾が当たるはずがなかった。

 

「ぐああっ!?」

 

 バレットラインの雨を掻い潜りながら2、3メートルの距離まで近づいたレンは、残りの弾を考えずフルオートで弾丸を放った。

 狙う事に集中していた敵プレイヤーは回避行動を取れず、弾幕の6割をくらいHPをゼロにする。

 

「クソがっ!またやられた!」

 

「そのピンクを逃す…………ぐがっ!?」

 

「うおっ!? ぎゃあっ!」

 

 倒されたプレイヤーの仲間の内5人が現場へと向かって来る、仲間がやられる所を見ていた彼等はリロードの為足を止めていたレンを狙おうと銃を向ける。

 たが引き金を引こうとした時、5発の銃声と共に頭を撃ち抜かれ、呆気なく消滅していく。

 

「リロード中も足は止めんなって言っただろ?」

 

 プレイヤー達を撃ち抜いたのはリョウのコルト・パイソンだった。

 リョウはコルト・パイソンを指で回しホルスターにしまうとレンの方を向く。

 

「あ、ありがとうございますリョウさん。助かりました」

 

「リョウ〜こっちも終わったわよ!」

 

 レンがお礼を言っていると、少し離れた場所からクレハとアイが走って来き、その後ろからまるで保護者のようにツェリスカがゆっくりと歩いて来る。

 ふと辺りを確認すると既に残りの敵プレイヤーの存在は無くなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れ様、レンちゃんも頑張ったわね〜」

 

「うんうん本当、強くなったわね」

 

「あ、ありがとうございますツェリスカさん、クレハさん」

 

 同じ女性プレイヤーであり、ベテランの二人に褒められたレンは照れ臭そうに帽子を深く被る。

 

「でも二人の言う通りだ。たったひと月でここまで出来るとはな、スポーツか何かやってたのか?」

 

「いや特に運動部に入ってた事は無いですけど……」

 

 首を横に振って否定するレン。

 昔から背の高かった為バレーやバスケットなどに誘われる事は多かったが、目立つ事を嫌う彼女にとっては、あまり思い出したくない記憶であった。

 

「あらそうなの? なら元々持っていたVR適正が高いのかも知れないわね」

 

「才能ってやつね、良いな〜」

 

「そ、そんな事無いですよ〜……えへへ」

 

 否定こそはしているが、その表情はニヤけており見事に浮かれていた。

 

「調子に乗るなよバニーちゃん。俺から言わせればまだまだ動きが荒いんだからよ」

 

「ぶー! そうやってリョウさん全然褒めてくれないじゃないですか、こう言う時ぐらい喜んだって良いでしょ?!」

 

「喜ぶなって言ってねぇだろ?浮かれるなって言ってんだよ。さっきだって危なかったくせに、リロードの時は走りながらか身を隠せっていつも言ってるだろうが。あともう少し弾薬の事考えて撃てよ」

 

「う……べ、別に自分でなんとか出来たし……」

 

「嘘つけ、ビビってたくせに」

 

「ビビってません!」

 

「まあまあ、落ち着いて」

 

 口論を始める二人をツェリスカが宥める。

 

「でも安心したわ、あのリョウがちゃんと先生してるんだもん。相手が女の子だって聞いたから、どうせデレデレしながらナンパだのセクハラだのしてるもんだとばかり」

 

「……なあクレハちゃん、お前が普段俺の事をどう思ってんのか一回詳しく話し合わないか?」

 

 散々な言われ方にジトーとクレハを見るが、リョウの普段の行いをよく知っている彼女は気にしない。

 

「ったくどいつもコイツも、俺のことなんだと思ってんだよ。前にもロリコン扱いされたし、俺がこんなチビウサに発情するかよ! 俺はもっと背が高くてビューティフルなお姉様が好みなんだよ!!」

 

「リョウさんって女性の趣味悪いですよね〜」

 

「んだとぉ?!」

 

「女の子はちっちゃくて可愛い方がいいに決まってます! 背が高いなんて男の人で十分ですよ!」

 

「ちいちゃくて可愛いだぁ? マスコットの好み聞いてるんじゃ無いんだぞ? だいたい俺の見た目でそんな子と歩いていたら犯罪臭ハンパないだろうが!!」

 

「それはまぁ、確かに……」

 

 190近いリョウと自分の想像する理想の少女を並べてみると、レンの頭の中には良くて兄妹か親子、悪くて犯罪の光景にしか思えなかった。

 

「まあまあ、レンちゃんの言う事も分かるわよ。可愛い子は見てて飽きないもの」

 

「そうですよね!ツェリスカさん!」

 

「えー、でもわたしはもっと大きくなりたいのです!」

 

「だめだよレイちゃん! せっかく今のままで可愛いのに、あんな人の好みなんて無視すれば良いんだよ!」

 

「あんな人てお前……まったく、可愛くない生徒だぜ」

 

 一応先生の立場であるリョウに対しても容赦のないレンに頭を掻きながらため息を吐く。

 

 レンが来てから一月が経つ。

 最初はオドオドしていたレンも、同じ女性プレイヤーであるクレハやツェリスカ達との出会いもあってかすっかりと逞しくなっており、リョウの扱いにも慣れたのか、今では遠慮なく言い合いの出来る関係となっていた。

 

「ねぇそろそろグロッケンに戻らない? 弾も補充したいし」

 

「へ〜い、んじゃあ………………ん?」

 

 気の抜けた表情で自分の肩を揉んでいたリョウが突然辺りを見回す、その表情は一転して真剣なものへと変わっていた。

 

「どうしたのリョウ?」

 

「何か居る……アイ、レーダーで探れ。範囲を狭くして精度を上げるんだ」

 

「了解です!」

 

「どうしたのよリョウ、別に人の気配なんてしないわよ?」

 

「クレハちゃんの言う通りよ。そんなに近づかれたならわたし達が気が付かないはずが……」

 

 アファシスのレーダーは決して精度は高くなく取りこぼす事も少なくない、その上もし近づかれたとしてもベテランの二人ならその気配に気がつくはず。

 しかしリョウはそんな二人の声を無視し、コルト・パイソンを抜くと辺りを見回しながらクレハ達から少し離れる。

 

「…………………」

 

 静寂の荒野にはぱっと見人影は見えない、しかしその静かな空間の中でリョウはほんの僅かな気配をノイズのように感じていた。

 そしてそのノイズは少しずつ自分へと近づいているように感じた、リョウがクレハ達から離れたのはこれが理由だ。

 

「………………………………………っ!?」

 

「マスター!反応が!」

 

 アイが叫ぶより早くリョウは反応していた。

 突如岩場から飛び出した赤い影、その影が真っ直ぐにリョウへと近づき頭部へと鈍器のようなものを振うのを、愛銃(コルト・パイソン)で受け止めようとする。

 

「っ!?」

 

 だがその瞬間リョウの直感(ハイパー・センス)が『避けろ』と告げる、リョウはその直感に逆らわず反射的に首を逸らす。

 すると振われた鈍器から赤い光が放たれた、その光はリョウもよく知っているものだった。

 

(これは……光剣!?)

 

 首を捻ったおかげでなんとか自分への攻撃を避ける事はできた、しかし赤い光はガードしようとしたコルト・パイソンの銃身を、いとも簡単に斬り裂いてしまう。

 リョウは跳ぶようにして赤い影から距離を取る。

 

「ん?……あーーー!!?俺のコルトパイソンちゃんがーーー!!!」

 

 シリンダー部分から銃口までスッパリと斬りとられたそれは、すっかり姿が変わってしまい、銃としての機能を完全に失ってしまっていた。

 リョウは愛銃を屑鉄へと変えてくれた敵を睨み付ける。

 リョウを襲ったのは全身を赤いライダースーツで着飾ったプレイヤー、背丈はリョウと同じぐらいで体格から男だと言うことが分かった。

 しかしその顔は、フルフェイスのヘルメットで隠されており正体は不明。

 

「てんめぇ、この野郎…………っ!」

 

 文句の一つでも言ってやろうと睨み付ける、しかしその男の佇まいを見た瞬間、頭に上っていた血が冷め一瞬にして冷静さを取り戻す。

 

(……コイツ、かなり出来るな)

 

 男は肩にショットガンの銃身を乗せこちらの様子を探っている、どうやら先程リョウへと振われた鈍器は銃身の長いショットガンのようだ。

 一見隙だらけなその姿、しかし油断のようなものを一切感じず、それどころか無闇に近づけば一瞬にして斬り伏せられることが感じられた。

 だがそれはリョウも同じ、冷静に相手の指一本の動きにすら集中し、向かってきたのなら全力のカウンターを叩き込むつもりである。

 相手が動かないのはそれを察しているからだろう。

 

 互いに間合いを図りながらの睨み合いが続く。

 

(使ってるのは上下の2連ショットガンか渋いな、しかもかなり改造されてやがる……)

 

 上下2連式のショットガン、しかし下の方の銃身は外されており、その場所に光剣のパーツに似たものが付けられている。

 恐らく光剣を銃剣のように取り付け、より近接戦闘に強くさせたのだろう、とリョウは察した。

 

(わざわざ装弾数を減らしてまで光剣を付けるとは、かなり自信があるみたいだな……)

 

 睨み合いをしながらも相手の装備を確認して、戦闘スタイルを推理し、そこから相手の動きを予測する。

 風の音だけが響く空間。

 経験の長いクレハとツェリスカも、その男が只者ではない事を理解し手を出せずにいる。

 だがその静寂は一人のニュービーによって破られる。

 

「っく! このっ!」

 

「なっ!、やめろバニー、手を出すな!」

 

 その空気に耐えられなくなったレンが己のAGIを全力にしてその男へと駆け出す。

 リョウの静止を無視しサブマシンガンを放つ。

 だが、バラララッとばら撒かれた弾丸は全て空をきる。

 

「えっ?」

 

(くっ、やっぱりあいつと同じAGI型か!)

 

 何の事はない、レンが行ったようにAGI型特有のスピードで避けただけだ。

 武器が銃剣を付けたショットガン、その事から近接戦闘を主にしたAGI型であった事はように想像できた。

 弾丸を避けたヘルメットの男は、反撃とばかりに片手で構えたショットガンをレンの方へと向ける。

 だが伸びて来たバレットラインはショットガン特有の円錐形では無く、真っ直ぐ伸びる一本だけだった。

 

(避けられた?! でも一本だけなら簡単に避けられる!)

 

 対AGI型の経験の少ないレンは避けられたことに一瞬動揺したが、すぐに切り替える。

 先程のプレイヤー達を苦しめたジグザグ走行へと切り替え、避けたところで反撃に移ろうと考えた。

 しかし、

 

(………え?)

 

 次の瞬間彼女は地面へと倒れていた。

 ヘルメットの男は、何十発、何百発と弾丸を避けて来たレンを、たった1発で捉えてしまったのだ。

 

(何で? 避けたはずなのに……)

 

 確かにバレットラインから離れた、しかし次の瞬間凄まじい衝撃と共に力が抜けていった。

 撃たれた経験の少ないレンは、何が起きたか分からず混乱している。

 

「う……くぅ、体が……」

 

(あのエフェクト、スタン弾か? いやそれよりも驚いたのは奴の弾の当て方だ)

 

 バレットラインはプレイヤーを狙うと照らされる、だからあのヘルメットの男はレンの速度に合わせ()()()()()()()()

 本来なら誰も居ない場所へと放たれるはずの弾丸、レンはそれに自らぶつかった形になったのだ。

 レンを撃ち抜いたヘルメットの男は、中折れ式に曲がったショットガンに新たな弾を装填する。

 

「ちっ! やらせるかよっ!!」

 

 動きを止めたレンへとトドメを刺すつもりだと察したリョウは、UFGをムチのように振り回して妨害する。

 しかしヘルメットの男はショットガンで軽く防ぐと、リョウへと真っ直ぐに駆け出す、その銃身から赤い光の銃剣が見える。

 

「上等だっ!」

 

 だがリョウも逃げるつもりは毛頭ない、寧ろ教え子をやられて気が立っているぐらいだ。

 両光剣をシングルモードにして、ライダースーツの男へ向かって行く。

 赤い銃光剣と青い両光剣がぶつかり合う。

 

「ツェリスカ、アイ!バニーの手当てをしろ! クレハは二人の護衛だ!」

 

「分かったわ!」

 

「了解なのです!」

 

 鍔迫り合いの後、数度斬り合いながらクレハ達に指示を出す。

 

「嫁入り前のウチのもんに、よくもまぁ傷をつけてくれたもんだ。タダで済むと思うなよ!」

 

 両光剣を手で回し、ヘルメットの男へと指を突き付ける。

 

「さぁ、お前の罪を数えろ」

 

「…………………フッ」

 

 その姿を見た男はヘルメットで表情は見えないが、どこか笑ったような雰囲気を醸し出す。

 そしてリョウにも聞こえないぐらい小さな声で呟いた。

 

「さぁ、振り切るぜ」

 

 

 

 

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「うぉらぁっ!」

 

 赤と青の光がぶつかり合い、二つの光剣が閃光と共に激しい火花を放つ。

 

(ぐ……重い)

 

 相手の力は決して強くは無い、恐らくショットガンを持てるだけのSTRであり、殆どはAGIに振ってあるのだと予測する。

 しかし相手が振るう光剣はショットガンに取り付けられておりその分の重量が追加されている、さらにAGI型のスピードが加算されておりその威力は想定よりも遥かに高くなっている。

 その為かSTRで勝っているはずなのに押し切れない。

 

「チッ! そらっ!」

 

 凄まじい速度で繰り出される重い銃光剣をリョウは受け流し、距離を取ると共にUFGのムチを振るい牽制する。

 振り回されたUFGから放たれた緑色の光のロープが、まるで網のように形作られヘルメットの男へと向かって行く。

 たが男は体勢を低くし、体を捻って躱し、避けられない分をショットガンの銃身で弾く。

 

(網の薄い部分を、正確について来やがった!)

 

 冷静な判断とそれを行う速さと技術がなくては出来ない。

 小細工が通用しないと理解したリョウは、両光剣をツインモードに切り替え銃光剣を受け止める。

 テコの原理で回し、受け止めた方とは逆の刃で攻撃を仕掛けるが、身をかがめ避けられ、お返しとばかりに蹴りを食らってしまう。

 

「ぅぐ……やってくれるじゃねぇか」

 

 後ろに飛んだおかげでダメージは浅い、リョウは体勢を立て直す為に距離を取ろうとする。

 しかしヘルメットの男はそんなリョウに銃口を突きつける。

 

「チィっ!」

 

 リョウは両光剣を高速で回し射撃に備える。

 一秒も経たずに散弾が放たれる、バレットラインの無い射撃だったが、相手の動きを先読みし冷静に防御する。

 しかし男は防がれたことに一切動じず、防御で足を止めたリョウへと距離を詰め再び銃光剣を振るう。

 

「がっ!」

 

 上段からの振り下ろしを両光剣で防ぐが、空いた胴へと再び蹴りが叩き込まれる。

 何とか腕を間に挟み直撃は避けるが、予想以上に重い蹴りに思わず顔を歪める。

 

(この蹴りは……)

 

 

 

 

 

 

          ⭐︎

 

 

 

 

 

「ツェリスカさん、アタシたちも援護しましょう!」

 

「ええ、そうね!」

 

 レンの治療を終えた二人が銃を構え、リョウ達の方へと向かおうとした時、一人の人影が彼女達へと近づいて来る。

 

「おっと! ちょっと待ってくれお二人さん」

 

「え? 貴方は……」

 

 その人影を見た瞬間、二人は足を止める。

 

 

 

 

 

 

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 先程の蹴り以降、互いにヒットらしきものが存在せず、得物をぶつけ合って数分が経過する。

 

(コイツの動き……まさか)

 

 既に何十回と見ることになった太刀筋、そしてその合間に繰り出される鋭く重い蹴り、リョウはその技の一つ一つにある既視感を覚えた。

 

「うぉらっ!」

 

「………っ!」

 

 鍔迫り合いの後、互いの蹴りがぶつかり合い間合いを取る。

 その時、リョウの視界の端にクレハ達の姿が映りその付近に見覚える人物を発見する。

 

「………そう言う事かよ! なら余計負けるわけにはいかねぇな!!」

 

「……………フッ」

 

 その人物を発見した瞬間、リョウは両光剣を握る手を強くする。

 そんな彼を見たヘルメットの男は小さく笑ったように見える。

 リョウは力一杯駆け出す、カウンターの形で繰り出された蹴りをダッキングで躱すと同時に両光剣で足払いを繰り出す。

 しかし男は片足で飛び上がり回避する、そして銃光剣の持ち手を両手で握りしめると力一杯に振り下ろして来る。

 それに対しリョウは足払いの回転の勢いのまま両光剣を振り上げ対抗する。

 全体重を掛けた一撃から繰り出される衝撃に備える。

 だが、

 

「あれ?」

 

「…………!?」

 

 想像していた衝撃はやって来なかった。

 銃光剣と両光剣がぶつかり合った瞬間、羽のような軽さがリョウの腕に伝わり男の体が高く打ち上げられる。

 着地に成功しながらも急激に上がったリョウのパワーにヘルメットの男も驚きを隠せない。

 

「クソッ! 何でこんな時に……」

 

 悪態つきながら自分の腕を見てみる、するとリョウの体は紫色の炎の様なオーラに纏わられていた。

 リョウのエクストラスキル《ジョーカー》が発動したのだ。

 

「余計な事すんじゃねぇ! コレで勝ったって嬉しくねぇんだよ!」

 

 特にピンチになった訳でも無いのに何故か自動発動したジョーカーを振り払おうとする。

 しかし擦ろうとも振り払おうともオーラが消える事はない。

 

「ああクソ! ならせめて、さっさと終わらせてやる!」

 

 頭を切り替えヘルメットの男へと突っ込む。

 ジョーカーにより上昇したパワーとスピードにより一瞬で距離を詰め両光剣を振るう。

 

「……っ!」

 

 紫色のオーラを纏った連撃を銃光剣で捌くが、手数の多い両光剣とジョーカーのパワーにより徐々に押されて行く。

 しかし男の防御は思った以上に上手く、ジョーカーを発動しているにも関わらずギリギリの所で押し切れない、その事にリョウは顔を顰める。

 

「おらっ!」

 

「……っ!」

 

 リョウは僅かに出来た隙をつき柄で胴を押す、その衝撃にヘルメットの男は腹を押さえ大きく下がる。

 

「これで決まりだ!」

 

《ジョーカー・最大出力(マキシマムドライブ)

 

 リョウは両光剣を投げ捨てると右足に意識を集中させ、ジョーカーの力が溢れ出し右足に集中したのを感じると勢いよく駆け出す。

 

「《ジョーカー・ドライブ》!」

 

「……くっ!」

 

 その勢いのまま全力の飛び蹴りを繰り出す。

 男は向かって来るリョウに対し、銃光剣を盾のように構え蹴りを受け止める。

 激しい火花が散り銃光剣から鈍い音が鳴り男の体が後退して行く、蹴りから伝わる衝撃に苦しそうな声を出す。

 そしてガラスの砕ける音と共に銃光剣が破壊され消滅する、男はすぐさま後ろに跳び、腕を十字に組み間に膝を挟んで蹴りを受け止める。

 

「ぐはっ!?」

 

 銃光剣による防御、固めたガード、後方への受け流し、威力の殆どを殺したがダメージは多く男は胸を押さえる。

 だがそれでも耐えた。

 エクストラスキルを発動し、避けられないよう体勢を崩し、全力の一撃をお見舞いしたにも関わらず男はリョウの最大の攻撃を耐えてしまったのだ。

 

「く、耐えやがった! なら、もう一発!!」

 

 リョウは大きく足を開き力強く拳を握りしめると右腕に意識を集中させる、それにより今度は右拳にジョーカーの力が集中する。

 

「ジョーカー・マキシマ「そこまでだ二人とも!」」

 

 再び駆け出そうとした時、低い声と共に一人の大男が二人の間に割り込んだ。

 それは先程クレハ達と共にいたリョウもよく知る人物、バザルト・ジョーだった。

 

「おいオッサン、邪魔すんなよ!」

 

「もう勝負はついただろ? それとも無抵抗の相手を殴りたいのか?」

 

「……チッ、分かったよ」

 

 彼の言う通り得物を手放し苦しそうに胸を押さえる相手に殴り掛かるのはリョウの趣味じゃ無い、それが()()()()()()()だ。

 

 

 

 

          ⭐︎

 

 

 

 

 オッサンに諭され拳を下ろす、頭が冷え冷静になった俺の体からジョーカーのオーラが消失して行く。

 

(……なんで勝手に発動したんだ?)

 

 ジョーカーの発動条件はピンチに陥った時の筈、しかし別に体力が減っていたわけでも追い込まれていたわけでも無い、にも関わらずさっきはデスガンと戦った時以上の力が出ていた。

 俺は既にオーラの消えた右手を見ながら首を傾げる。

 そうしていると向こうのほうからクレハ達がやって来る、その側に体力を回復させたレンの姿も見える。

 

「ようバニーちゃん、体の方は大丈夫か?」

 

「うん、もう大丈夫。それよりもあの人って……?」

 

「ああ、あっちの顔に傷のある厳ついオッサンが、バザルトジョーって言って俺たちもよく世話になってる人だ。顔は怖いが良い人だから心配いらねぇよ。それでアイツは……」

 

「大丈夫か『エース』?」

 

「ええ、問題ありません」

 

 オッサンが手を貸そうとしたのを断り、エースと呼ばれた男が立ち上がるとゆっくりと俺達の方に近づいて来る。

 エース、それがアイツのプレイヤーネイムか……

 先程まで激戦していたとは思えないぐらい落ち着いており、何も知らないレンは呆気に取られている。

 

「お前、炎刃だろ?」

 

「エンジ?……それって確か……」

 

「……フッ」

 

 男は頭に手を持っていきヘルメットを脱ぐ、ヘルメットの下にあったのは、オレンジ色の髪に鋭い目つきの男の顔。

 

「久しぶりだな、遼。よく分かったな」

 

「当たり前だ。何回お前と勝負してると思ってんだよ、嫌でも気づくっての」

 

 髪の色こそ違うが、髪型や目つきそして何度も聞き慣れたその声は、たしかに五年以上もの付き合いになる兄弟子のものだった。

 

「マスター、お知り合いなのですか?」

 

「ああ、昔からのな」

 

 そうコイツは俺の兄弟子である『早坂 炎刃』であった。

 付き合いの長い俺はコイツの戦い方や、鋭く思い技の数々から察する事ができた。

 

「いきなり仕掛けて悪かったな。エースの奴がこっちの世界のお前を見てみたいって言ってな」

 

 だから顔を隠して声も出さずに仕掛けて来たのか、不意打ちなんて慣れてない事しやがって。

 

「いやまぁ別にいいけどよ。でもいつGGO始めたんだよ?」

 

「先月からだ。ジョーさんに誘われてな」

 

「俺が誘ったら断った癖に」

 

 とイヤミったらしく言ってやったが理由は分かる。

 炎刃にとってオッサンはまだ炎刃が新米の頃からの先輩で、階級が上になった今でも慕っているぐらいだ。

 オッサンに誘われたら断り切れなかったのだろう、そうじゃなきゃ炎刃がゲームを始める理由が無い。

 

「今はジョーさんのスコードローン《バレット・ワークス》に所属している、あまり顔は出せないだろうがよろしく頼む」

 

 誤解を解き簡単な自己紹介を終えると、俺達とオッサン達は別々に帰路についた。

 しかしこうなると俺には新たな目標が出来てしまったことになる。

 まぁ最近暇してたし丁度いいのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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第四部 誰のサイドケースから見たい?

  • キリト
  • アスナ
  • クライン
  • エギル
  • シリカ
  • リズ
  • リーファ
  • シノン
  • ユウキ

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