ソードアート・オンライン フェイタルバレットー切札の弾丸ー   作:トライダー

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 風吹く場所

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 安全エリアに到着しゆっくりと背筋を伸ばす。

 帰る途中にも他のプレイヤーと戦闘を行なったが、炎刃一人と比べればかわいいものだ。

 

「そうね〜でも驚いたわ、リョウに兄弟子がいたなんて」

 

「そう言えば言ってなかったか? クレハには何度か電話でしてたような?」

 

「うん確かGGOに誘う前に何回か、『今日も炎刃に勝てなかった』とか『次こそ必ず』とかよく言ってたわよね?」

 

「勝てなかった?」

 

「ああ、アイツは俺よりも五年の早く師匠に弟子入りしててな、修行の時に何度も組み手したけど一度も勝ててないんだよ」

 

「一度も?!リョウが?」

 

 珍しく驚きの声を上げるツェリスカ。

 そんなに驚く事か? 俺だって人間だし勝てない相手ぐらいいる、特に師匠と炎刃、この二人には唯一一勝もできていない。

 ツェリスカとは逆にクレハは納得した素振りだ。

 

「なるほどね、それであんなに熱くなってたのね」

 

「ああ、せめてGGO(こっち)ぐらいは負けたく無かったからな」

 

「でもそれなら良かったじゃ無いですか、ジョーさんが止めなかったらリョウさんの勝ちだったよ?」

 

「バカ言うな、あんなの勝ちにはいらねぇよ」

 

 レベルも上、ステータスも上、経験も俺の方が長い、それなのに倒しきれなかった、しかもジョーカーまで使ってだ。

 もし同じ条件だったら俺は間違いなく負けていた

 全ての手札を出したわけでは無かったが実力は拮抗していた、それを崩すことが出来たのはジョーカーのお陰。

 こんなの実質負けみたいなものだ、同条件でアイツに勝たなければ意味が無い。

 

「さて、わたしはそろそろお暇するわ、今日中にしておきたい仕事があるの」

 

「アタシも少し用事があるから、ログアウトするわね」

 

「わたしはデイジーの所に行って来るのです!」

 

「そうか、バニーちゃんは?」

 

「わたしは……もう少し続けようかな」

 

「……そうか」

 

 それぞれ用事のあるツェリスカとクレハはログアウトし、アイはデイジーと遊ぶ為ホームへと戻って行った。

 残ったレンは装備を整えると再びフィールドへと出ていこうとする、俺はそんな彼女に声をかける。

 

「ちょいと付き合わないか?」

 

「え?」

 

「俺のお気に入りの場所に連れてってやるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ここ……ですか?」

 

 リョウさんに連れられてやって来たのは、SBCグロッケンの中でも最も高い所にある高台だった。

 

「ああ、ここの上だ」

 

「上?」

 

 リョウさんがお空に向かって指を刺す、そこにあるのは茶色に染まった空、と巨大な風車。

 この高台には風力発電用に大量の風車が存在する、リョウさんが指刺したのはその中でも特に大きな風車。

 

「ええ!? この上ですか?」

 

 わたしが住んでいる街にあるタワーを彷彿させる風車。

 登ろうにも梯子は無く、手を引っ掛けるような出っ張りも無い。

 どうやって登るつもりなのだろうか?

 

「心配しなくてもコイツを使えば簡単だ」

 

 大きな声で驚いたわたしを安心させるようにUFGを見せる。

 なるほど確かにそれを使えばこの場所でも登れるだろう。

 リョウさんは風車の側面にUFGのロープを取り付けると、わたしに向かって手を差し出す。

 

「ほら、捕まりな」

 

「いいですけど、変なところ触らないでくださいよ?」

 

「誰が触るか、いいからはよ来い」

 

 あまり高い所は得意では無いがゲームの中なら大丈夫だろう。

 わたしがそばに行くとリョウさんはわたしの腰に手を回し、ギュッと抱きしめて来る。

 ……ちょっとドキッとしてしまったのは秘密。

 わたしもリョウさんの首に手を回して落ちないよう気をつける、わたしがしっかりと抱きついたのを確認したすると、凄い勢いで二人の体が浮かび上がった。

 突然の浮遊感に驚いてしまって目を瞑っちゃったけど、リョウさんがしっかりと力を入れていてくれたからか不思議と怖くは無かった。

 

「ほい、到着!」

 

「ん……わぁ!」

 

 3、4回その感覚を味わい地面の感覚が現れる、風車の上に到着したのだろう。

 リョウさんに言われて目を開くと、そこには夕焼けに染まったグロッケンの街並みが映っていた。

 いやグロッケンだけじゃ無い、GGOの殆どが見渡せる程の高所。

 赤く色の付いた砂漠や荒野達を一望し、恐怖心よりも先に爽快感が押し寄せる。

 そして何より、気持ちの良い風が吹く。

 

「ん〜、気持ちいい〜!」

 

「だろ? GGOって汚染された世界って設定らしいけどよ、い〜い風が吹くんだよな〜」

 

 両手を広げ風を感じていると、リョウさんも隣に座って気持ち良さそうに目を細めている。

 強いが決して鬱陶しく無く、優しく肌を撫で包み込むような、そんな風だった。

 似たような感覚を現実世界でも感じた気がするが、この場所はより格別だった、リョウさんが気にいるのも分かる。

 

「俺はよく疲れた時や、モヤモヤした時はこんな風にお気に入りの場所に来るんだよ。気持ちの良い風ってのは悪い気分ごと吹き飛ばしてくれるからな!」

 

「……あっ」

 

 リョウさんに言われ、自分の中にあった暗い気持ちが自然と吹き飛んでいたことに気がついた。

 

「もしかして、だから誘ってくれたんですか?」

 

「ん〜? まぁ、辛気臭せぇ顔してると思ったからよ。俺もさっきの事で熱くなってたから頭冷やしたかったし、丁度良いと思ってな〜」

 

 確かにわたしは落ち込んでいた。

 理由はリョウさんと似ている、先程のエースって人との戦いの事だ。

 わたしはあの人に手も足も出なくてあっという間にやられてしまった。

 クレハさんやツェリスカさんに才能があるって褒められて良い気になっていたのだ。

 わたしはそれが情けなくて鬱憤ばらしのついでにレベルでも上げようと、フィールドに出ようとしていた。

 

「あっはっはっ! んな事気にしてたのかよ。アイツは仕方ねぇって、俺から見てもバケモンなんだからよ」

 

「でも話の内容から始めた時期同じぐらいなんですよ? なのにあんなに簡単にやられちゃって」

 

「つってもアイツは警官だしな。こう言った荒型には俺以上に慣れてるんだよ」

 

「へぇ、そうなんですか」

 

 しかしリョウさんは豪快に笑ってわたしの悩みなんか吹き飛ばしてしまう。

 大きな人だ、見た目だけじゃなくきっと心も大きいのだろう。

 こんな風に細かい事を吹き飛ばせればわたしの悩みだって無くなるのだろう。

 わたしは少しリョウさんが羨ましく思えた。

 

「でも本当に良い所ですね。連れて来てくれてありがとうございます」

 

「気に入ってくれて何よりさ。ここが気に入ったなら、俺の地元にも是非遊びに来て欲しいもんだな」

 

「リョウさんの地元?」

 

「ああ、『風水』って街でな、水も空気も美味いところなんだよ」

 

「え!? リョウさんって風水出身なんですか?!」

 

 聞き覚えのある街の名前につい声が大きくなってしまう。

 

 『風水』

 リョウさんの言う通り、東京近辺とは思えないぐらいに水も空気も澄んでいてとても大きな街。

 都会にも関わらず自然も多くて街並みも綺麗で『住みたい街ランキング1位』として女性人気も高い。

 かく言うわたしも、そんな街に住めば理想とするキラキラした自分になれるって思って住みはじめた。

 ……まぁ結果はこの通りだけど。

 

「出身もなにも生まれてからずっとそこで暮らしてるよ、何でだ?」

 

「いや実はわたしも風水に住んでいて、と言っても来てまだ一年ほどですけど」

 

「へぇーマジか!なら何処かですれ違ってたりしてな! い〜い街だろ〜?」

 

 あまりの偶然にリョウさんが嬉しそうに話してくれるが、正直言ってよく分からない。

 と言うのも、あまり人に姿を見られたく無いわたしは外に出る事も少ない。

 

「あ、その……わたしあんまり外に出ないから、何があるのかよく知らなくて」

 

「え!? そいつは勿体無いな。美味いラーメン屋とか、綺麗な公園とか、遊園地だってあるぜ、自然も綺麗だしな〜」

 

 そう言うリョウさんの表情はとても楽しそうで、心からあの街が好きなんだって事が分かる。

 もしかしたら女の子と話してる時よりもテンション高いかも。

 

「うっし! もし向こうで会うことがあったら俺が色々案内してやるよ!」

 

「え、そんなの悪いですよ」

 

「遠慮するなって〜……あ、迷惑ならやめとくけど?」

 

「全然迷惑じゃ無いですよ、寧ろ助かるって言うか」

 

 せっかく風水に引っ越したと言うのに、殆どを部屋で過ごし、出掛けたとしても学校からマンションの通り道だけ。

 たまには観光しようにも一緒に行く友達も居ないし、詳しい人に案内して貰えるなら本当にありがたい。

 

「そうか!へへっ!楽しみだな〜。任せておけって、あの街は俺の庭みたいなもんだ!」

 

「ふふふっ!期待してますよ〜」

 

 夕日を浴びながら二人で笑い合う。

 わたしが受け入れるとリョウさんは子供のように笑顔を見せる、たぶんわたしに風水の良さを教える事ができるのが嬉しいだと思う。

 

(……こんな顔も出来るんだ)

 

 普段カッコつけたり気取ってるところをよく見るけど、こんな風に子供みたいに無邪気な姿を見せるのが新鮮に見えて、少し嬉しく思えた。

 

 だけど風水を案内してもらう時、それはわたしの秘密を教えることになってしまう。

 本当のわたしの姿を……

 

 

 

 

 

 

 

 

        

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「ふぁあ〜あ……」

 

「あ、マスター!お帰りなさいなのです!」

 

「おう、なんだ先に帰ってたのか」

 

 ログアウトしアミュズフィアを外して目覚めの欠伸をすると、先に現実へと来ていたアイが笑顔を見せて向かえてくれる。

 

「そう言えば今日の晩御飯は自分達でしないといけませんよ?」

 

「あーそうか」

 

 基本的に飯は紅葉や翠子と一緒に食べている、しかし今日は二人とも用事があるから別々に取ることになるな。

 まぁ、ある意味ちょうど良かったかもしれない。

 

「ならアイ、これから二人で出掛けないか?」

 

「デートですか!?」

 

「ああ、そうだ」

 

「やったーなのです! それでどこに行きますか?」

 

「俺の一番好きな場所だ。この世界のな」

 

 俺とのお出掛けをこんなに喜んでくれるとは可愛い奴だ。

 そう言えばまだアイに()()()()を案内していなかったな。

 俺は両手を広げて喜ぶアイの頭を撫でると、簡単に身支度を済ませバイクを走らせる。

 

 

 

      

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「おー!おっきいのです〜!」

 

 アイとやって来たのは先程レンと居た風車の何倍もの大きさのある巨大な塔の下。

 美しい湖に囲まれそびえ立つこの塔の名前は『風水タワー』、風車を模した巨大なタワーでこの街のシンボルである。

 昔から風水に住んでる人間は、街の何処からでも見えるこのタワーを目印にして今何処にいるかを知る事ができるほど馴染みのあるものだ。

 

「わーい!」

 

「あんまり走るなよー」

 

 アファシススーツF改を模した冬服のスカートを翻しながら楽しそうにタワーの中を走り回るアイ。

 そんな姿を見ていると、昔紅葉と一緒に走り回った事を思い出し、懐かしい気持ちになる。

 簡単にタワーの中の観光をし、上の階へと足を運ぶ。

 

「風が強いから、帽子落とすなよ」

 

「わかってます! 心配しなくても、マスターがくれたこの帽子は命に変えても大事にするのです!」

 

 クリスマスプレゼント代わりに俺があげた帽子を大事そうに両手でしっかりと支える。

 俺が普段被っている帽子の色違いに、女の子らしく紫色のリボンをつけた物だ。

 そこまで高い物ではないが、お気に入りの一品を大事にしてくれて嬉しい限りだ。

 展望台のさらに上の階の扉を開き外に出る。

 危険なため本来なら一般人が入る事を許されない場所だけど、昔からここのお偉いさんとは顔見知りで、特別に通すのを許可してもらっている。

 

「わぁっ!綺麗なのです〜!」

 

 街の何処からでも見えると言うだけあって、そこからの光景は街の全体が見渡せる。

 風水には所々に川が流されており、すべての水の流れがこの風水タワーの湖へと繋がっている。

 街中の水によって反射された太陽の光が街全体を美しく彩る。

 そして何よりこの風だ。

 

「ん〜!やっぱここの風は格別だな〜」

 

「気持ち良いのです〜」

 

「お、分かるかアイ?」

 

「はい、マスターが気持ちの良い風というのを教えてくれましたから。この街の風はGGOよりも優しくてあったかくなるのです!」

 

「そうか、そいつは嬉しいな」

 

 アンドロイドのアイにはつまらないんじゃ無いかと心配していたが、俺が思っていた以上に違いの分かる女のようだ。

 

「マスターはこの街が大好きなんですね」

 

「まぁな。紅葉と会えなくなった時、両親が亡くなった時、師匠が居なくなった時、いつだって俺が寂しくて挫けそうな時、この街が俺を救ってくれた」

 

 紅葉が引っ越してしまった時、俺は寂しさでいっぱいだった。

 両親が事故にあった時、俺は悲しみでどうしようもなかった。

 おやっさんが居なくなり事務所で一人になった時、おれは不安で押し潰されそうだった。

 でもどんなに苦しい時でも、この場所に来れば気持ちが楽になる。

 この場所が、この街が、この風が、俺を救ってくれたんだ。

 

「だから俺はこの街の笑顔を守りたい。何度も俺を救ってくれたこの街を今度は俺も救いたいんだ」

 

「街の……笑顔ですか? 風水は笑うのですか?」

 

 『街の笑顔』そんな不思議な単語に首を傾げるアイ。

 しかし俺は笑顔で自信を持って答える。

 

「ああ、笑うぜ。今のこの景色がそうさ、美しく輝く街、そしてそれは街の人の笑顔で作られてる」

 

 人が笑い、街が輝き、気持ちの良い風が吹く。

 それはきっと街が笑顔でいるって事だと俺は思う。

 

「それになアイ。この街は昔っからこんなに綺麗な街じゃあ無かったんだぜ」

 

「そうなのですか?!」

 

 アイは信じられない、とでも言うように街の風景と俺の顔を見比べながら聞き返してくる。

 俺もこの話を聞いた時は同じ反応をしたものだ。

 

「ああ、寧ろ数十年前までは公害の影響が酷くて、かなり汚れた街だったらしい。でも当時の街の人達が、一つ一つ問題を解決して今の風水があるんだ」

 

「なるほど、この綺麗な光景は皆んなの努力の結晶なのですね!」

 

「そう言う事だ。どんなに大きな街だってそこに人が居なければ空っぽの箱だ、街の人の笑顔を守ることが自然と街の笑顔を守る事になる」

 

 この街の美しさは街の人の力によって支えられていて、この街の美しさで街の人の笑顔が生まれる。

 街が人を助け人が街を助ける、この風水では当たり前のこと。

 だから俺はこの街が好きなのさ。

 

 そしてその気持ちは風水だけでは無く、もう一つの世界も同じだ。

 大切な相棒と出会った、あの場所。

 

「俺はGGOにもそんな世界になって欲しいと思ってる、多少荒っぽくても皆んなが笑顔で居られる場所に。だから俺は風水もあの世界も、二つの世界の笑顔を守っていくつもりだ」

 

「わたしもお手伝いするのです!」

 

「おう、頼りにしてるぜ相棒」

 

「はいなのです!」

 

 GGOも俺にとっては大切な場所、二つの世界の笑顔を守るのは大変だけどコイツとなら出来る気がする。

 笑顔で頷くアイの頭を撫でると、体を広げてもう一度この風を全身に浴びる。

 この風を自分の力に変える為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 『風水』
 遼や詩乃や香蓮達が住む風と水の街。
 常に強い風が吹き、街中に張り巡らされた小さな川と大きな湖の上に建てられた風車のような形をした大きな《風水タワー》が特徴。
 風力発電と水力発電により発展した大きな街で、数十年前までは公害の影響が最も酷く汚れた街だったが、街を良くしようとする人達の働きによって改善され、今では東京近辺とは思えない程に空気や水が澄んでいる。
 自然が多いだけで無く遊園地などの娯楽施設にも恵まれており、その綺麗な街並みから『住みたい街ランキング1位』を獲得している。




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第四部 誰のサイドケースから見たい?

  • キリト
  • アスナ
  • クライン
  • エギル
  • シリカ
  • リズ
  • リーファ
  • シノン
  • ユウキ
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