ソードアート・オンライン フェイタルバレットー切札の弾丸ー 作:トライダー
遅れた分を取り戻す、と言うわけではありませんが今回は番外編も含めて二話投稿させていただきます。
内容は前にアンケートをいただいたクレハのお話です。
もう一つのツェリスカのお話もいずれ投稿させていただきますのでしばらくお待ちください。
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ー12月27日ー
ピンポーン!
チャイムを鳴らし遼と二人で待つ。
一分も経たないうちに玄関口が開き見覚えのある姿が見える。
「あら? 紅葉じゃない!」
「久しぶりお母さん」
その人はあたしのお母さんだった。
現在あたし達は二人であたしの実家へと来ている。
『もう今年も終わりだし、おばさん達に一目顔見せようぜ?』
少し前に遼にそう言われたのが切っ掛けだ。
正直言ってあまり気が進まないけど、我儘を聞いてもらって《風水》に住むのを許してもらっている以上、ちゃんと挨拶をするのが筋だと言われてしまった。
という事で遼に引っ張られる形で実家のある《京都》にまで来ている。
気は重かったけど、ここに着くまでに久しぶりに遼と二人きりでデート出来たのは良かった。
「もう、来るなら来るって連絡の一つでも入れなさいよ」
「ごめんごめん、驚かそうと思ってさ。せっかく懐かしいお客さんも連れて来たんだし」
「懐かしい? そう言えばお隣の男前なお兄さんは?」
「紅葉紅葉!聞いたか?男前だってよ〜!」
「はいはい」
自分のビジュアルを褒められて嬉しそうにする遼。
あたしも否定はしないけどここで褒めると調子に乗ってウザくなるから適当に流すことにする。
「もしかして……遼ちゃん?」
「ええ、お久しぶりですおばさん」
「あら〜大きくなったわね〜!しかもこんなに男前になって! さぁ上がって上がって、久しぶり色々話聞かせてちょうだい!」
「はは、お邪魔します」
連絡をよこさなかった事に少し機嫌を悪くしていたのに、遼の姿を見た途端お母さんの機嫌が良くなった。
我が母親ながらこういう切り替えの速さは尊敬できるものがあると思った。
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その晩、仕事を終えて帰って来たお父さんと四人で晩ご飯を済ませた。
食事の後台所でお母さんと一緒に洗い物をしてると、男たち二人の笑い声が聞こえて来る。
「はははっ! そうかそうかあの店はまだ続いているのか!なら次の出張にでも寄ってみるかな!」
「ええ是非! そこ以外にも前のまま残ってる店も多いですし、逆に新しく近くに出来た場所もオススメですよ」
「それは楽しみだね。しかしあの遼くんとこうして酒を飲み交わせる日が来るとは夢にも思わなかったよ」
そう言ってお父さんはビールの入ったグラスをグイッと飲み干した。
それを見た遼も合わせるようにビールを飲み進める。
「もう、お父さんったら飲み過ぎよ」
机の上に散らかった空き缶の数を見てそう呟く。
「仕方が無いわよ。父さんってば昔から自分の子とお酒を飲み交わしたいって言ってたもの。でも紅葉も桜もあんまりお酒飲む方じゃ無いから、夢が叶って嬉しいんでしょう」
確かにあたしもお姉ちゃんもお酒を飲む方ではない、何度か誘われた事もあるけど理由をつけては断っていた、その度にお父さんが寂しそうにしていたのを思い出す。
「……もしかしてお父さんって男の子が欲しかったの?」
「それっぽい事も言ってたわね。男の子が生まれたらキャッチボールとか釣りとか色々やってみたいって」
「そう言えばよく外に遊びに行くのに誘われたっけ?」
言われてみればよくお父さんと出かけたことを思い出す。
お母さんやお姉ちゃんとおままごとよりも、お父さんとキャッチボールとかサッカーとかしてる方が楽しかった気がする。
「あたしのお転婆ぶりってお父さん仕込みだったのね……」
「昔はよく心配したものよ。こんなんで嫁の貰い手が出来るのかって」
「こんなって……」
「でも今は心配いらないわね。なんてったって遼ちゃんがいるものね〜」
「な、なんでそう言う話になるのよ!」
「そう言えば遼くんは紅葉とはどこまでいったんだい?」
「ちょっ!? 何聞いてんのよこの酔っ払いっ!」
「え〜、聞いちゃいますぅ?」
「あんたも答えようとすんじゃないわよっ!」
両親に自分との猥談を聞かれるなんてどんな罰ゲームなんだか。
あたしは素早く洗い物を片すと、遼の腕を掴み二階への階段を駆け上がった。
この瞬間のあたしは今年最高速度を叩き出していただろう。
「「ヒューヒュー!」」
「うっさいっ!!」
後ろから中年どものウザい声援を無視して、階段を上がってすぐの部屋へと入る。
「もう、あんたねぇ!」
「悪い悪い、久しぶりでついな」
はははと無邪気に笑って頭をかく。
たとえ酒が入ってたとしても、遼はそういう話を人前でするタイプでは無い。遼は基本的にあたしが本気で嫌がる事はしないからだ。
だがそれと同時にあたしの反応を楽しむちょっと意地悪なところもある、今回のもそれだろう。
そんな優しくて子供っぽいところも好き……じゃなくて!
「ここは紅葉の部屋か?」
「う、うん。まあね」
頭に浮かんだ煩悩を振り払う。二人ほどでは無いとは言えあたしもお酒を少し飲んでいた。そのせいかテンションがおかしくなってるのかもしれない。
しかし改めて指摘されると気恥ずかしさが出てくる。
何年も前に殆ど男子みたいな部屋は卒業したが、だからと言って決して女の子らしい部屋とは言えない質素なもの。寧ろゲームや漫画なども多くオタクっぽさを感じ、なんて色気のない部屋なのだろうかと後悔する。
「あ、あんまりジロジロ見ないでよ」
「ああ、悪い」
そう言いながら指でかいている遼の頬はかなり赤くなっていた。
「ちょっと、あんた飲みすぎたんじゃ無いの? 無理してお父さんに合わせる必要なんて無いんだから。そこまで強く無いくせに」
「無理なんてしてねぇよ。それにちょうど酒に強くなりたいと思ってたし練習にもってこいだっての」
「なんでお酒……ってそっか翠さんか」
お酒で思い出すのも失礼かも知れないが、それだけ翠子さんはかなりの酒豪だ。前に遼と三人で自宅で飲んだことがあったが、真っ先にダウンしてしまったあたしたちを置いて一人で飲み続けていた。目が覚めた時も飲み続けていて酒瓶をあたしたちだと思って話しかけていたのは流石に心配した。
「あれには勝てないわよ?」
「勝つつもりなんてねぇよ。ただアイツが少しでも楽しく飲めればそれで良いさ」
「…………」
遼も決してお酒が強い方では無い、しかし翠子さんを楽しませる為に強くなろうとしている。
ナルシストで自信過剰な部分が目立つが遼は意外と努力家だ。それは遼の鍛え抜かれた体つきを見れば一目瞭然であり、特に昔の泣き虫な頃の遼をよく知っているあたしからすれば、どれだけ努力をしたのかよく分かる。
肉体的な努力だけじゃ無い。ファッションや美容とか最近の流行りなどの知識も多い、お化粧の技術なんてあたしのよりも上手い。遼曰く、どれも『女の子にモテる為』に手に入れたものらしい。理由は兎も角その技術は本物だ。
あたしはどうなんだろう?
暗く地味な雰囲気になっていたのは少しはマシになって来たけど、遼や翠子さんたち以外と接しようとするとまた戻ってしまう。
遼は今のあたしのままで良いって言ってくれるけど、それは遼が優しいからだ。
頑張っている遼の姿が時々眩しくなる、自分なんかが遼のそばにいても良いのだろうか? 翠子さんのような魅力的な女性が近くにいるのなら自分は要らないのでは無いだろうか? そんなことを思わずにはいれない。
「ねぇ……」
『あたしと一緒にいて幸せ?』そんな面倒臭い質問をしそうになったのを飲み込む。こんな事を言っても遼は肯定してくれるに決まっている。そんな遼の優しさに漬け込むような質問で自己満足しようとしている自分が嫌になり背を向けてしまう。
「え?……遼?」
フッと首元に体温を感じる。あたしの好きな落ち着く匂いと腕の感触から、遼に背後から抱きしめられているのに気付くのに時間はかからなかった。
「ど、どうしたのよ……?」
「いや、こうして欲しそうに見えたから……かな?」
これが遼のズルいところだ。普段はいろんな女の子にちょっかいかけたりデレデレしてるくせに、いざそばにいて欲しいときは何も言わずに慰めてくれる。
「俺はおまえといて幸せだ」
しかもあたしが欲しいと思っていた言葉までつけて。
「でもあたしなんて……んっ!?」
思わず先程飲み込んだ不満を吐き出しそうになったとき、その不満ごと押し戻すように口を止められる。
「い、いきなり過ぎるわよ……」
「どっかのおバカさんが紅葉の悪口を言おうとしてたからな、塞いでやったんだよ」
唇に指を当て意地悪そうに笑う遼の姿にドキッとする。
「まだ不安か?」
「ううん……大丈夫。ありがとう」
「俺はな、弱さを見せて甘えてくる紅葉も好きだ。だから遠慮なんてすんな」
「うん」
少し名残惜しい気もするけどこれ以上してしまうと歯止めが効かなくなりそうだし。
丁度その時下の階からお母さんの呼ぶ声が聞こえた。どうやらお風呂が入ったらしく先に入れという事らしい。あたしたちは部屋を後にし階段を降りて行った。顔を合わせた後の二人のニヤついた笑みが少しウザかった。
⭐︎
「ほら、狭いんだからもっと寄りなさいよ」
お風呂に入りアルコールも抜けて来た後、時計は深夜を回りそろそろ寝ることにしたのは良かったのだけど。何故か遼と同じベッドに入っている。
「もう何で布団の一つもないのよ!」
何故か来客用の布団が全て洗濯されており、遼が寝る場所が無くなってしまった。
『なら二人で一緒に寝たら良いじゃない!』
ニヤついた母親に無理矢理部屋に押し込まれてしまった、間違いなくあの母の仕業だろう。とは言っても客人として呼んである遼を床やソファーで眠らせるのも抵抗があるし、この寒い中ベッドを譲る勇気もない。恥ずかしがって否定すると余計にあの二人をつけ上がらせそうだと思い、『別にこんなの恥ずかしくないですよ?』という体で受け入れる事にしたのだった。
「大丈夫か? 何だったら別のところで寝るけど……」
「い、いいわよ! 別にこんなのたいしたことないし、一緒に寝るなんて昔はよくあった事だし!」
何故かつい早口になってしまう。実際寝ること自体には抵抗が無いはずなのに、何故か今日は意識してしまう。
狭いベッドの中で遼の顔がアップになる。大きな瞳に長いまつ毛、同じシャンプーなのに良い匂いもする。見慣れたはずの整った顔立ちにドキドキしてしまう。格好つけてはいるけどそれだけの理由はあると思う。
「確かになんか懐かしいよな。昔はよく一緒に寝ては紅葉に足蹴にされてたっけな」
「足蹴って……そんな事してないわよ!」
「いやいや、いつも一緒に寝てはベッドから蹴り出されたり顔を踏まれたり、紅葉って結構足癖悪いんだよな」
「そんな事してないわよ。変な事言うならもっと端行きなさいよ!」
「いてて、結局足蹴にしてるじゃねぇか」
「あ……」
恥ずかしくなってつい足で押してしまった。確かに自分では気が付かなかったが、自分の足癖の悪さがよく分かったこれからは気をつけよう。
その話を皮切りに二人で昔の思い出を話していく。遊び方、遊んだ場所、寄り道した駄菓子屋、当時の流行り物など色々だ。その一つ一つが懐かしく、話し合うだけで楽しくなる。それはきっとあたし達だからだ、幼馴染のあたし達だから共感できる楽しさなんだ。
「ねぇ、遼」
「ん?」
「あたし、遼と一緒にいて幸せ」
さっきは飲み込んだ質問を、今度は自分の思いとして吐き出す。
遼は何も言わない、ただフッと微笑むとあたしのおでこに口をつける。
「おやすみ、紅葉」
「……うん」
遼の胸に顔を埋め頷くと、遼は背に手を回しあやすように頭を撫でてくれる。その大きな手に暖かさを感じたあたしが眠りに付くのに時間はかからなかった。
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「もう帰っちゃうのかい?」
「もっとゆっくりしていけばいいのに」
「色々と忙しいのよ。また大きな休みが出来たら会いに来るから」
次の日、簡単に身支度を整え風水へと帰る準備をする。もう少しいる事も考えたけど、アイちゃんが寂しがると思って早く戻る事にした。
「遼くん、紅葉の事よろしく頼んだよ!」
「男勝りで女らしさの少ない子だけど、良い子だからお願いね?」
「知ってますよ。紅葉に愛想を尽かされないように頑張ります」
「もう! そう言うの恥ずかしいからやめてってば!」
必死にあたしを貰わせようとする二人の姿に恥ずかしくなる。正直言って余計なお世話だ、そんな事をしなくてもあたし達はあたし達のペースでやっていくだけ。
「ほらもう行くわよ!」
「あ、おい! それじゃお世話になりましたー!」
遼の手を握り自宅を後にする。その姿に背後から生暖かい視線が飛んで来るがどうでも良い。たとえどんなに気恥ずかしかったとしても、もうこの手を離すつもりはないのだから。
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