ソードアート・オンライン フェイタルバレットー切札の弾丸ー   作:トライダー

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 ナルシスト

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「はっくちゅ!」

 

 真冬の街中で可愛らしいくしゃみが鳴る。

 

「アンドロイドのくせにくしゃみすんのかよ?」

 

 遼は素朴な疑問を投げかけながらアイにティッシュを渡すと、壁に持たれて腕を組む。

 

「えっへん! わたしは"超“高性能アンドロイドですから、くしゃみぐらいお茶の子さいさいなのです!」

 

「いやくしゃみで威張るなよ……」

 

 チーンと鼻をかむと胸を張ってドヤ顔をみせる。

 もちろん使い終わったティッシュはちゃんとゴミ箱に捨る。あれは何の液体なのかと疑問思ったが、女の子にそんな事を聞くわけにもいかないので忘れる事にした。

 

「ってか、なんでついてくるんだよ」

 

「マスターの側にいるのはアファシスとして当然なのです!」

 

 そう、今日は前々から話し合っていたレンに《風水》を案内する日である。

 それをアイに伝えると着いていくと言って聞かなかった。最近バッテリーを交換して調子が良いからかよく遼と出掛けたがる。

 

「それにわたしはレンの先輩なのです! お姉さんとしてGGOと同じようにこの街を案内してあげたいのです!」

 

 思えばGGOでもアイとレンは仲が良かった。

 小さくて可愛いものが好きなレンと、自分よりも背の低い相手にお姉さんぶっているアイは相性が良いのだろう。

 

「早く来ないですかね〜」

 

「……だな」

 

 と言うリョウも楽しみではある。

 SJ以降レンとはメールでしかやり取りしていない。それも短いものでしかなく、彼女の実年齢の兼については詳しく聞けていない。

 しかしGGOでの彼女の態度や言動から、間違いなく見た目通りの姿では無いのは確かだろう。

 

「あの、こんにちは……」

 

 そんな二人へと一人の女性が声をかける。

 モデルのようにスラリと伸びた足、バランスの取れたスレンダーな体型、背中まで伸びた黒い髪。

 

「あれ? 君は……」

 

 その美しい女性に遼は見覚えがあった。

 2度の出会いの後遼が口説いていたあの女性だった。

 

「リョウさん……だよね?」

 

「え? なんで……」

 

「だってレイちゃん連れてるし」

 

 彼女はアイを指差す。

 アイが現実でアンドロイドとして存在している事を知っている者は少ない。

 そこから知り合いを排除していくと、彼女が何者なのかおのずと分かってくる。

 

「ま、まさか……」

 

「わたし小比類巻 香蓮(こひるいまき かれん)。あ、二人には"レン"って言った方が良いのかな?」

 

「ええーーーーーーーーーーっ!!! なのです」

 

 遼が驚くよりも先に、自分よりもずっと大人っぽいレン姿にアイは絶叫を響かせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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「「ジーーーーー」」

 

「うぅ……」

 

 集まったわたしたちは昼前という事もあって、まずは腹ごしらえという事で遼さんお勧めのラーメン屋に来ていた。

 ラーメン屋とは言っても大元は屋台で、わたし達は屋台の外に出されたテーブルに座っている形になる。

 簡単に注文を終えた後、二人からの視線に晒され照れる。

 

「ほ、本当にレンなのでしょうか?」

 

「まあレンは約束破るやつじゃ無いし、替え玉ってことはないだろ。それならもっと似た子に頼むだろうし」

 

「ですね。うーんアミュズフィアの可能性を感じたのです」

 

 ヒソヒソと二人で何やら話しているが、向かい側に座っている以上全て聞こえていた。

 

「もう、二人とも驚きすぎだって。ってかわたしだって驚いてるんだからね? レイちゃんがアンドロイドなのは聞いてたから兎も角、遼さんの事とか……」

 

「う……その割には落ち着いてるじゃねぇか?」 

 

 わたしも内心落ち着いているわけでは無い。

 理想とする王子様と遼さんが同一人物。いつかそうだったらいいなっと妄想した事もあったけど、まさか本当にそうなるとは思ってもいなかった。

 待ち合わせ場所に遼さんとレイちゃんが二人でいるのを見つけた時の心境は計り知れないものがあり、待ち合わせ時間から遅れてしまったのは秘密。

 

「そう言えば遼さん、わたしのこと口説いてたよね?」

 

「そ、それは……」

 

 遼さんが言葉に詰まる。まさか知人とは知らずに口説いていたと思うと気恥ずかしさが増しているのだろう。

 とは言えそれはわたしもだ。

 つい無言になってしまい。まるでお見合いでもしてるのかという初々しい空気が流れる。

 

「だーーーーー! やめだやめ!」

 

 その空気に耐えれなくなった遼さんが大袈裟に頭を掻きむしる。

 

「こういうの無し! どんな姿でもレンはレンだし、俺は俺だ。いつも通りやる」

 

「マスターの言う通りです。こっちでもレンと友達になれて嬉しいのです!」

 

「あははっ! それもそうだね」

 

 遼さんの提案にわたしも頷く。

 わたしとしても遼さんとの関係にこういった雰囲気を求めているわけでは無い。

 正体が分かる前は甘い一言にドキドキしていたが、あれを言っていたのが遼さんだと分かった今、甘く口説かれるよりもこんな風に話している方がいい。

 いつの間にか"色々気を遣ってくれる王子様"よりも、"遠慮なく話し合って笑い合える遼さん"との時間の方が好きになっていたみたい。

 

「うし、ならまずは腹ごしらえだな」

 

 パチンと遼さんが手を叩いた時、丁度屋台からラーメンが運ばれてくるのが見える。

 

「はい、風水ラーメン三丁おまち!」

 

 わたし達の前に運ばれて来たのは三人前のラーメン。ただし普通のラーメンとは違って丼を覆うほどに大きなナルトが特徴的だった。

 

「わー! 美味しそうなのです。店長今日もいい仕事してるのです!」

 

「ありがとうレイちゃん。サービスしちゃうよ」

 

「わーい! ありがとうなのです!」

 

 ラーメンを褒められたおじさんが嬉しそうにチャーシューをレイちゃんの丼に乗せる。

 

「ありがとな、おっちゃん」

 

「いいっていいって、それよりもまた別の女の子連れてるなんて遼ちゃんも罪な子だねぇ」

 

「良い男ってのは罪な生き物なのさ」

 

 帽子のつばを指で弾いてキザったらしいポーズをとる。

 

「マスターは格好良くて素敵な人ですから、モテて当然なのです!」

 

「そうだろう、そうだろう! 良い子だアイ、チャーシューをやろう」

 

「わーい! マスターは最高なのです!」

 

「がっはっはっはー!」

 

 レイちゃんのお世辞?に気を良くした遼さんが自分の分のチャーシューを乗せている。

 GGOと全く変わらない二人のやり取りに安心感すら覚える。

 

「遼ちゃんの友達かい?」

 

「あ、はい。えーとゲームで知り合って……」

 

「あーあの何とかって言うやつね。仲良くしてあげてね、遼ちゃん昔は友達も少なくてよく泣いちゃう子だったから」

 

「え?」

 

「おいおっちゃん! そういうの良いから!」

 

「おっとごめんよ。じゃあお嬢ちゃんにもサービスね」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 おじさんはわたしにもチャーシューをサービスしてくれると、屋台の方へと戻って行く。

 遼さんの意外な過去をもっと聞いてみたかったけどタイミングを逃してしまった。

 

「何これ美味しいっ!?」

 

 予想外の味にはしたなく大声が出てしまう。

 別にグルメって訳じゃ無いわたしには上手く表現する事は出来ないが、なんだろう出汁が良いのかな?

 

「だろ? ここの屋台の食材は全部風水で取れたものを使ってるんだ。おかげで鮮度が高いし、何より一番は水だな。風水自慢の水を使った出汁が上手く麺に絡み合って、この味が出てるんだよ」

 

 わたしの反応を見て遼さんは、自分の事のように嬉しそうに笑顔を見せ麺を啜る。

 ちなみにアンドロイドのレイちゃんはラーメンを食べられないらしく、二杯とも遼さんが食べた。

 

 ……サービスの意味はあったのだろうか?

 

 そんな事を考えたが、当のレイちゃんが満足そうにしているので気にしないでおいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お昼を済ませたわたし達は、さっそく遼さんオススメのスポットへと移動する。

 風水といえば煌びやかで美しい街。どんなオシャレな場所に連れて行ってくれるのかと思っていたのだけど……

 

「ねえ遼さん? 何ここ?」

 

 わたし達が来ていたのは大きな公園の中にある広場。そこは扇状に広がり中央を見下ろせるように段差になっている。椅子代わりの段差に子供連れの家族の姿が目立つ。

 

「何って、ヒーローショーだけど?」

 

「いやいやいや、何でヒーローショー? 風水の見どころ案内してくれるんじゃなかったの?!」

 

「ばっかお前、風水といったら《風ちゃんと水くん》だろうがよ!」

 

「いや知らないって……」

 

 どこからかチラシをぐいっと近づけてくる。

 緑の風車のような頭部の女の子と青い水車のような頭部の男の子が、手を繋いでポーズをとっているものだ。

 ああは言ったけど、この街に住んでいる以上そのビジュアルは見たことがある。

 

「風ちゃん水くんは風水のマスコットキャラなのです。クールでマイペースな風ちゃんと、任侠派で熱血な水くんが合体する事で街の平和を守る《風水仮面》へと変身するのです!」

 

「え!? 合体するの!?」

 

 よくいるゆるキャラかと思いきや、変身ヒーローみたいな設定に大袈裟に驚いてしまう。

 

「ガキの頃からファンなんだよな風水仮面。俺が師匠の次に尊敬している人物だ。あれぞ俺の目指す探偵像の一つ……」

 

「ええー……」

 

 以外な事実を聞かされそれしか言えなくなる。

 そんなやり取りをしていると司会のお姉さんが出て来てショーが始まる。

 

 正直子供向けのショーだと思って侮っていたが、予想以上に面白かった。

 濃いキャラの二人が、ぶつかり合いながらも風水で起こる怪事件を解決して行く物語。

 二人の凹凸なキャラが噛みあい、真実へと到達した時のカタルシスは凄まじいものがある。

 子供向けとは思えないストーリーに、ファンっぽい人たちが涙を流していたりもしたが気持ちはわかる。……遼さんも泣いていた。

 

 アクションにも気合が入っており、二人が一つとなってからの着ぐるみとは思えないアクロバティックなアクションに子供達は大興奮。……遼さんも盛り上がっていた。

 

 わたしが特にお気に入りなのは、二人の重くとも深く誰も割り込めない二人の愛。その関係性は一言では表せず、女性や大人にも人気があるのも頷ける。……遼さんは無言で頷いていた。

 

「うんうん、香蓮もよく分かってるじゃないか」

 

「一番最初にヒーローショー連れて行かれた時はどうしようかと思ったけどね〜」

 

 とは言え今回のショーで結構ハマってしまった。今度同じようなイベントがあるならまた来てみたい。

 

「どっちも良いけど、やっぱり風ちゃんだよな。同じ超クールキャラとして親近感沸くし」

 

「遼さんって別にクールキャラじゃ無いよね?」

 

「はい、どっちかって言うと水くんぽいです!」

 

「いやいやいや! どう考えて風ちゃんだろ? あのクールな眼差しなんか普段の俺の……」

 

「「ないない」」 

 

 何を寝ぼけた事を言っているのか、レイちゃんと二人で否定するとそのハモリ具合に同時に吹き出してしまった。

 とは言えヒーローショーで盛り上がる遼さんはどこか可愛く見えた。

 

 

 

 

 

 

 それからも遼さんは色んな所に連れて行ってくれた。

 遼さんオススメの服屋やお気に入りの定食屋、遊園地などは時間も無いのでまた今度という事になったけど、お馴染みの商店街なども皆いい人ばかりで楽しかった。

 何より目を引いたのは自然の豊かさ。船着場は都会なのに海が綺麗だったし、どこを見ても水路や風車があって身近に自然を感じさせるものがある。

 

 全てでは無いにしても色んなところを回り時間も遅くなる。

 最後の締めとして、一番の名物である《風水タワー》へと来ていた。

 

「いい風……」

 

「だろ? GGOの風車も良いけど、やっぱ此処は格別だな」

 

 遼さんはわたしの隣に腰をおろすと、離れた場所で景色を見ているレイちゃんの背中を見ていた。

 わたしはそんな彼の横顔を見つめる。

 

「……遼さんは凄いよね」

 

「まぁな」

 

「ぷっ! なにそれ」

 

 不意に出た言葉を、否定も謙遜もせずはっきりと肯定され吹き出してしまう。

 

「遼さんてナルシストだよね」

 

「そりゃそうさ。こんな良い男、好きにならない訳がないだろ?」

 

 本来なら悪口としてとってもおかしくない。でも遼さんはそれが当然とばかりに何処からか取り出した鏡で自分の顔を見つめている。

 

「でもまあ、昔からこうって訳じゃなかった。寧ろ自分が嫌になった時もある」

 

「そう言えば遼さん昔は泣き虫だったって……」

 

「う、覚えてやがったか……」

 

 先程屋台で聞いた話を蒸し返されてバツの悪そうな顔を見せる。

 

「昔の俺は弱虫で泣き虫でいじめられっ子で、いつも紅……クレハに助けて貰ってたんだよ」

 

「えー、今の遼さんからは考えられないな」

 

「だから変わろうとしたけど、上手くいかなくて荒れた時もある」

 

「あ、それはイメージできるかも」

 

 普段はおちゃらける遼さんだが、熱くなると口調が荒くなるところからもその片鱗がみえる。

 

「でも、理想とする師匠を目指しているうちに大事な事に気がついたんだよ」

 

「大事な事?」

 

「自分を変えたいなら、まずは自分を好きになる事だってな」

 

「自分を……好きに?」

 

「結局よどんなに否定したって自分は自分、それは変わらない事実なんだ。だったら好きになっちまった方が気が楽だし、胸のつっかえもとれるだろ?」

 

 SJでレンとして修羅場を潜り抜けて自信はついた。それでも心に物足りなさが出来ていた。

 その理由は簡単だった。だってわたしは香蓮(わたし)を否定していたのだから。

 

「わたしは、わたしが嫌いだった……」

 

「まぁ女の子は色々とデリケートだからな」

 

 身長の事とは一言も言わなかったが、察しの良い遼さんは分かってくれたみたいだ。

 

「まぁ少しずつ好きになれば良いさ。アイも俺も今の香蓮好きだしな、一人でも好きな奴が多い方がなりやすいだろ?」

 

「うん……………えっ!?」

 

 聞き逃せない単語にわたしの胸は強く高鳴り、思考がショートしてしまう。

 

「お、もうこんな時間か。そろそろ帰るか、送って行くよ」

 

 軽い放心状態になっている間に、遼さんはレイちゃんに声をかけて帰り支度を始める。

 

「せっかくですから、手を繋いで帰りましょう!」

 

「はいはい、香蓮も良いか?」

 

「うん、良いよ」

 

 レイちゃんを間に挟んで三人で手を繋ぐ。遼さんと繋ぎたかった気持ちも無かった訳じゃないけど、これはこれで悪く無い。

 

「見てあの子達、仲良いわねぇ」

 

「あらほんと」

 

 帰り途中、ただでさえ注目を集め易いわたし達に視線が集まり、そんな話が聞こえてくる。

 少し気恥ずかしいけど、だからと言ってこの楽しい時間を手放したくは無い。

 

「しかもあのご夫婦、すっごいお似合いね」

 

(え?)

 

「美男美女で羨ましいわ〜」

 

 夫婦……レイちゃんを挟んで仲良く歩く姿は、第三者から見れば仲の良い家族の姿に見えるのかも知れない。

 遼さんとお似合い、そう思うと気付かないうちに頬が緩む。

 

 その時わたしは、生まれて初めて大きくて良かった、って思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

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「「「「「「えーーーーーっ!!!」」」」」」

 

 遼さん達とのお出かけから数日後、冷たい風の吹く学院の外で可愛い声が響いた。後ろから聞こえたその声についビクッとしてしまう。

 驚いて振り向くとあの高等部の可愛らしい6人が、驚いた表情でわたしを見ている。

 

「あ、あの! いつもすれ違うお姉さんですよね!」

 

 先頭にいた子がずんずんわたしの前に来て質問をする。その視線はわたしの首の後ろへと向いていた。

 

「髪、切られたんですね?」

 

「え、あーうん。まぁね……」

 

 背中まで伸びていたわたしの髪はサッパリと無くなっていた。

 中学の頃からずっと伸ばしていたせいか、未だに慣れずに首がスースーする。

 

「すっごく似合っています! 素敵です、カッコいいです!」

 

 似合っているか不安だったが、どうやらこの子達のお気に召したご様子。

 

「実はわたし達前からお姉さんの事、背が高くてモデルさんみたいでカッコいいなって話したたんですよ! わたし達ももっと背が伸びたいんですけど、これ以上伸びなくて……」

 

「そ、そうなんだ……」

 

 あはは、と頬を掻きながら笑って誤魔化す。

 まさか自分のコンプレックスをそんなふうに思われていたとは思っていなくて反応に困ってしまう。

 そして彼女達もわたしと同じような悩みを持っていたのだ。

 

「……わたしね、自分の事があんまり好きじゃなかったんだ。無駄に目立つし、生活しづらいし、男子からは馬鹿にされるし。もっと小さくて可愛くなりたいって思ってた」

 

 わたしの独白を彼女達は不思議そうに聞いている。

 それも当然だろう、自分に無いものを持っている人にそれが嫌だったなんて言われたら。

 きっとさっき話を聞いていたわたしも同じ顔をしていただろう。

 

「……でも最近ね、こんな自分も良いかなって思えるようになってきたんだ」

 

「ど、どうしてそんなに吹っ切れたんです?」

 

「こんなわたしを"好き"って言ってくれる人が出来たから……かな?」

 

 例え自分の嫌いなところでも、好きな人が好きと言ってくれるなら話は変わってくる。

 

「だからわたしは、貴方達のこと凄くいいなって思う。可愛くてキラキラしてて、迷惑かも知らないけど」

 

「そんな事ないです。そんな風に思ってくれてすっごく嬉しいです!」

 

 コンプレックスは人それぞれ。自分が嫌だと思っている事も、他人からすれば喉から手が出る程欲しいものだったりする。

 結局わたし達は無いものねだりをしていただけなのかもしれない。

 

 でもどんなに望んでも手に入らないものはある。

 わたしはGGOでレンになれたけどそれはあくまでVR世界の話、現実のわたしはこのまま。

 だとしたら手に入るもの、今手にしているもので生きていくしか無い。『持っているカードで勝負するしかない』誰かが言った言葉だがその通りなのだ。

 

「もしかして、それって最近噂の彼氏さんですか?」

 

「えっ?」

 

 他の子の口から漏れた単語につい気の抜けた声が出てしまう。

 

「ええっ!? お姉さん恋人いるんですかぁっ!」

 

「あーえっと、なれたら良いなって人なら……ね?」

 

 その瞬間、再び学院の外で可愛らしい声が響く。

 その後、恋バナの好きな花の女子高生達にあれやこれやを聞かれる事になる。

 目立つ事が苦手だったけど、立つのがこんな噂なら悪く無いのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、遼さん!」

 

 彼女達と別れ、学校から自宅へと帰っている途中。見覚えのある背中が見え声をかける。

 

「おう、学校終わりか?」

 

「うん。遼さんは仕事?」

 

「いや、俺も今終わって一息ってところだ」

 

 そう言う遼さんは、缶コーヒーを飲みながらバイクに腰をかけてくつろいでいた。

 

「じゃあ良かったら送ってよ」

 

「すぐ近くだろ? 自分で歩けよ若者」

 

「一個しか変わらないでしょ? 良いじゃん、たまにはさ」

 

「ったく、ほら乗れよ」

 

 文句を言いつつもヘルメットを渡してくれる。

 遼さんは嫌な事は嫌とはっきり言う。だからはっきり断らない時はなんだかんだOKの証拠だ。

 

「しっかり掴まってろよ?」

 

「うん!」

 

 遼さんの背中に頬をつけて両腕に力を込める。

 彼の背中は、わたしのコンプレックスごと覆い隠してしまうぐらいに大きかった。

 大きい大きいと気にしていた小さな自分を包み込むこの背中が好きなんだと改めて実感する。

 

 ありがとう遼さん。遼さんのお陰でわたしは……

 

 わたしを"好き"になれたよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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これにて ピンクの兎 オルタナティブ編 終了となります。

レンは身長をコンプレックスとしているけど、そのコンプレックスこそがリョウの好みという面白い関係性で、書いていてとても楽しかったです。
SJ2編は書くかどうかは現在迷っています。

次章も構想はある程度出来ているので早めの投稿を心がけたいので、次回もお楽しみにお待ち下さい。




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第四部 誰のサイドケースから見たい?

  • キリト
  • アスナ
  • クライン
  • エギル
  • シリカ
  • リズ
  • リーファ
  • シノン
  • ユウキ
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