ソードアート・オンライン フェイタルバレットー切札の弾丸ー   作:トライダー

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 新章突入です。
 キリトとその仲間達が主に登場しますが、彼女についてはゲーム版の設定と同じで、何やかんやあって生存してると思ってください。


第四部
 銃の世界へ


⭐︎

 

 

 

 

 

 

 

 

 《ALO》

 青い空、白い雲、緑豊かな自然。

 遥か彼方まで広がる美しい景色を舞台にした『剣と魔法』の世界である。

 鉄や火薬、そして血生臭いGGOとは真逆の麗しい景色。しかしそんな気持ちの良い景色にも関わらず一人の少女が黄昏ていた。

 

「はぁ……」

 

 草原から生えた岩場に座り込み、ため息をついている少女はシノンだった、その頭部には水色の猫の耳の様なものが見える。

 それはALOでの彼女のアバター。

 猫の妖精『ケットシー』である彼女の尻尾が風に揺れる。

 

「どうしたの、シノのん?」

 

 ボーと雲を見上げるシノンの耳に女性の声が聞こえる。

 いきなりで少し驚いたが、声のトーンと自分をこんな呼び方するのは一人しかいないため落ち着いて振り向く。

 

「アスナ。それにみんなも」

 

 自分が振り向くと青を基調とした長髪と服装のアスナの姿。

 彼女だけでは無く、彼女のフレンドであるキリト達全員の姿が見える。

 

「もう、どうしたのよ? わざわざみんな揃って」

 

「アスナがシノンの様子がおかしいって言うから見に行こうって話になってさ。そしたら何故か皆んなゾロゾロと……」

 

「ゾロゾロって何よその言い方! シノンが悩んでるなら黙ってる訳にはいかないでしょ!」

 

「そうですよ! 何か困り事があるなら助け合うのが友達なんですから!」

 

 呆れたように頭を掻くキリトにリズとシリカが反論し、それを皮切りに他のメンバーもそれぞれキリトの言い分に文句を言っている。

 どうやら全員がシノン事を心配し、キリトが止めるのを聞かずについてきたようだ。

 そんな仲間達のお人好しぶりに頬を緩める。

 

「もしかしてさっきの作戦に問題あったか?」

 

「ウチのリーダーの作戦って無茶振りばっかだもんな〜。振り回されるこっちの身にもなってほしいぜ」

 

「ウチの兄がすみません……」

 

 クラインとリーファのやり取りに全員が頷く。

 

「みんな揃って……しょうがないだろ? 元々オレはリーダーとか誰かに指示出したり管理するの苦手なんだよ。ただでさえクセの強いメンバーばっかりだし」

 

 元々キリトはソロ専。団体戦とか集団戦とかよりも個人で伸び伸びとした戦いを得意とする。

 その為上手く指示が出せず、困った時は個人プレーに走り、結果ゴリ押しになる事が多い。

 

「違うわよ。まぁ確かにキリトにはもう少し周りを見て動いて欲しいけど」

 

「シノンまで……」

 

 シノンにすらフォローの言葉が貰えずキリトは肩を落とす。

 そんなやり取りに全員が笑い、釣られシノンも笑うが、その笑顔には僅かに影が見えるのをアスナは見逃さなかった。

 

「やっぱり、ALOは合わない?」

 

「え?」

 

「ここはGGOとは真逆の世界だし、戦闘スタイルも変わってやりづらいだろうしそれが悩みなのかなって」

 

「そんな事はないわ、ALOは好きよ。見た目はGGOよりずっと綺麗だし、ここにいると落ち着くもの」

 

 気を使ったわけではなく本心だった。

 確かに銃から弓に変わって多少の違和感はあるが、この世界はこの世界できにいっている。

 自然豊かなALOに居るとあの事件で傷付いた心も癒されている気がする。

 

「ただまぁ最近、物足りないなって思ってね」

 

「物足りない?」

 

「ここは良い所だしGGOには無いものがある。でもGGOにはあってここには無いものがある、それが少し寂しくなったの」

 

 見た目の美しさやのんびりとした雰囲気はいい物だが、シノンはGGOのあの空気やスリル感を気に入っていた。

 それを味わえない事に少し物足りなさを感じていたのだ。

 

「それってもしかして噂のシノンの彼氏のこと?」

 

「ち、違うわよ!?」

 

 "彼氏"という単語に火がついたように顔が熱くなりながら、シノンは必死で否定する。

 

「なんでそう言う話になるのよ。そもそも彼とはそういう関係じゃ無くて!」

 

「なーに照れてんのよ〜。あんなに惚気ておいて〜」

 

「それはリズ達がしつこく聞いて来るから……」

 

「でもキスしたんですよね? それでただの友達だなんて」

 

「ほ、頬っぺたによ? 色々お世話になったからそのお礼にって」

 

「でも意外でしたシノンさんって意外と大胆なんですね?」

 

「だ、だって彼の周りって美人が多いから離れる前に少しでも覚えておいて貰おうと思って……」

 

 ユウキの一言を皮切りに、そういった話に興味のある女性陣による質問攻めが始まる。

 最初は強く反論していたが、徐々に羞恥心が勝りその声は小さくなっていく。

 

「はいはい皆んな、シノのんをいじめないの!」

 

 茹でられた様に顔を赤くし、徐々に声の小さくなるシノンを見かねたアスナが三人を止める。

 女子会さながらのやり取りを聞き流しながら、キリトは何やら考え事をしているのか腕を組んで唸っている。

 

「だったらさ皆んなで行ってみないか? GGOに」  

 

「「「「「ええっ!?」」」」」

 

 唐突なキリトの提案にその瞬間そこにいた全員が驚きの声をあげる。

 

「キリトくん、それって皆んな一緒にコンバートするって事?」

 

「そう言う事。実は前にいってから結構ハマっちゃってさ、また行きたいって思ってたんだよな」

 

 前回のBOB以降、キリトもまたシノンと同じくGGO特有の空気を気に入り再びコンバートする機会を窺ってたのだ。

 

「でもよ、ALOはどうすんだよ?」

 

「別にALOのオレ達が無くなるわけじゃないさ。それにシノンのつてがあるし危険は無いと思うんだ」

 

「はいはーい!ボクは大賛成! GGOって強いプレイヤーがたくさん居るんでしょ? ボクその人達と戦ってみたーい!」

 

 その意見に一番最初に賛成したのは、ユウキだった。

 キリト以上の腕前を持つ彼女は、プロが多く集まるというGGOにずっと興味を持っていた。

 

「良いんじゃねぇか? 世紀末な世界に鉄と硝煙の匂い、ハードボイルドで面白そうじゃねぇか!」

 

「エギルさん似合いそうですもんね」

 

「よっしゃ! GGOのガンナー共にALOのサムライ魂ってのを見せてやろうぜ!」

 

「アンタじゃすぐに蜂の巣にされるのがオチよ。でもあたしも賛成! 銃って剣より構造が複雑そうで改造が楽しそう!」

 

「わたしも。ちょっと怖いけどキリトさんやシノンさんが一緒なら頑張れると思います!」

 

 楽しそうにしているユウキをきっかけに次々と賛成者が増えていく。

 最初は男性陣であるエギルとクラインが、その二人に続く様にリズとシリカも賛成する。

 残ったのはアスナとリーファの二人だ。

 

「アスナさんどうします?」

 

「もし全員が反対したってキリトくんが一人で行っちゃうだけだよ。それならついて行った方がマシ」

 

「そう、ですね。お兄ちゃん一人にしたら何するか分からないですから」

 

 アスナの言う通り、完全に乗り気になってしまっている兄を見ながら妹であるリーファがため息をつく。

 

「って事だシノン。GGOの案内頼めるか?」

 

「私は別にいいけど……みんな本当に良いの?」

 

 シノンが皆を見渡すと全員同時に頷く。

 楽しみなのもあるだろうが、半分は自分の事を気遣ってくれているのだろう。

 それが分かったシノンは、皆のお人好しぶりに軽く肩をすくめつつもご厚意に甘える事にした。

 

「言っておくけどGGOは皆んなが思ってる以上に厳しい世界だから、ちゃんと私の言う事聞くように」

 

 まるで引率の先生のような事を言うシノンに、皆もはーいとノリ良く返す。

 その後皆で予定を話し合い、コンバートをする日時を決め合った。

 

「そう言えばシノのんが話してくれた“リョウ“ってどんな人なの?」

 

「な、なによアスナまで……」

 

 約束を終え皆と解散するとアスナがシノンに問いかける。

 

「別に良いじゃない。GGOに行くってことはその人とも会うって事なんだから」

 

 シノンがよく彼の話をリズやリーファ達にさせられていたのは知っていたが、恥ずかしがっているのに無理矢理聞くのは可哀想に思い今までアスナは聞いてこなかった。

 しかしそんなアスナも花の女子高生。友達の恋愛話となれば聞きたくなるのが当然と言うもの。

 

「別に、大した奴じゃないわよ」

 

「そうなの?」

 

「……ただまぁ、強い人よ。強くて優しくて、いつも誰かの為に力を使って、私も何度も助けてもらった事があるわ。それに一緒にいると楽しいし自然と笑顔が溢れるような。なんて言うんだろ? こう、胸の奥からポカポカするって言うか……」

 

 大した事ないと言う割にはスラスラと出てくる。

 それをアスナは黙って聞いているのだが、その目がどことなくニヤついているのにシノンは気付き、ムッと頬を膨らませる。

 

「……なによ?」

 

「べっつに〜。でもまぁリズ達がしつこく聞きたくなる気持ち、分かったなーって思っただけ」

 

「ちょっと、何よそれ!」

 

 アハハッと吹き出すアスナ。

 それもその筈、シノンは気付いていないだろうが、彼のことを話している時の彼女の頬は楽しそうに緩んでいた。

 それはALOで見せる笑顔とはまた違うもの。

 アスナは初めて"女の顔"と言うものを見た、と思ったのだった。

 

「その人と、また会えると良いね」

 

「別に、どうでも良いわよ……」

 

 しかし赤く頬を染め前髪を弄る彼女の表情はそうは言っていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

⭐︎

 

 

 

 

 

 

 

 数日後コンバートを済ませたキリト達は、GGOの中心とも呼ばれる《SBC総督府》に集まる。

 初めてみる景色に皆が物珍しそうに辺りを見渡す。

 

「こ、ここがGGOのホームか。なんか思った場所じゃないな?」

 

「うん、もっと廃墟みたいな場所を想像してたんだけど」

 

 GGO経験が皆無のクライン達は、想像以上に近未来感のある光景に呆気に取られる。

 彼らの想像では、もっと薄暗くジメジメした空気の汚い世界を予想していたのだが。今いる場所は様々な機械やモニターによって寧ろ煌びやかな未来感を感じさせた。

 

「最近のアップデートで変わったみたい。最近は女性を始めとした幅広いプレイヤー層に人気が出てきて、それに対応させたみたいよ」

 

「あ、シノのん!」

 

 皆と少し遅れてシノンがやって来る。

 ALOでは先輩だった皆が、辺りをキョロキョロ見回しニュービー丸出しの姿を見せているのを見ておかしな気分だった。

 

「本当に凄いよね、ALOとは真逆の世界だもん。なんて言うか、都会……って感じ?」

 

「そうね。まあ私は前の泥臭い感じも嫌いじゃなかったけどね……」

 

 確かに女性人気は少なくプレイヤーも少なかったが、あの雰囲気が変わってしまうのは少し寂しく感じる。

 

「あ、そうだ。キリトくん、ユイちゃんは?」

 

「今確認してる」

 

 アスナが思い出したようにキリトの方を見ると、何やらメニューを開いてアイテム欄を確認している様子だ。

 

「いた!」

 

「良かった。こっち(GGO)でもユイちゃんと一緒に居られるのね」

 

 その姿を少し不安そうに見つめていたアスナだったが、キリトの一言にその表情を笑顔に変える。

 キリトが見つけたのは、彼らの娘であるユイのデータである。

 元々ユイはSAOのサポートAIだったが、キリトがALOにコンバートする際にアイテムと化していた彼女もまたALOの姿へと転生した事がある。

 だったらGGOでも同じ事が起こるのではと、アイテム欄を見ていたのだが、その予想は的中しており彼女名前がアイテムとして登録されていた。

 

 キリトがそのアイテムをタップすると、青白い光が集まり黒髪の少女の姿を形取る。

 

「パパ! ママ!」

 

「ユイちゃん!」

 

 GGOへとコンバートを済ませたユイは目の前にいたアスナに飛び付き、アスナもまた喜びを伝えるように力強く抱きしめる。

 

「あ、あれ? お兄ちゃん、ユイちゃんなんか大きくなってない?」

 

「ああ、そう言えばスグ達は()()()()()のユイを見るのは初めてか」

 

 ALOでの彼女は手のひらサイズの小さな妖精の姿だったが、今のユイは小学生程の背丈の少女の姿となっている。

 初めて人形サイズの姿を見たリーファ達が驚いているが、SAOで家族としての時間を過ごしたキリト達からすれば、寧ろこのサイズのほうが見慣れているぐらいだ。

 

「こっちだと普通サイズでいられるのね。でもなんで?」

 

「それはわたしが、アファシスとして登録されたからだと思います」

 

「アファシス?」

 

 自身のデータを解析しアスナに伝える。しかし聞いたことのない単語に首を傾げるアスナを見て、シノンが更に補足する。

 

「アファシスはGGOのサポートAIよ。ALOで言うプライベートピクシーみたいなものね」

 

「なるほどな。ALOで少妖精になったみたいに、GGOのAIとして適応したって言うことか」

 

 キリト達がゲームによってプレイヤーの設定を切り替えているように、ユイもまたサポートAIとしての設定を変えていると言う事だ。

 

「でもGGOのNPCってこんなにプレイヤーに近い見た目なんだね」

 

「はい、現にこの場にも沢山のアファシスさんがいますから」

 

「え!? もしかしてあの人たち?」

 

 ユイに言われて辺りを見回すと、所々にプレイヤーとは違うSF作品に出てくるパイロットスーツのような格好をした面々が目に映る。

 姿形はプレイヤーそっくりだが、その動きや喋り方に機械的なものを感じさせるお陰でNPCだと辛うじて分かる。

 

「一般的なアファシスは大きく分けて二種類いて、レンタル可能なサポートAIのタイプAと、NPCとして受付やショップのサポートをしてくれるタイプBが存在します。此処にいるのは殆どタイプB見たいですけど」

 

「ほう、そいつは凄いな。なあクライン……ってあれ?」

 

 エギルが素直に感心し、友人に同意を得ようと隣を見る。

 しかし、そこにいるはずの赤い男の姿が見えない。

 クラインがいないことに皆が気付き、キョロキョロと辺りを見回していると、聞き慣れた声が聞こえ皆が視線を移す。

 

「お願いします! お姉さんの電話番号を教えて下さい!」

 

「……ご要望にはお応え出来ません」

 

「貴女のお姿に心を奪われました。どうかオレとお友達になってください!」

 

「……ご要望にはお応え出来ません」

 

 そこにいたのは受付の様な場所に立っている女性……格好からしてアファシスだろう、そんな彼女に頭を下げて口説いているクラインだった。

 

「…………何やってんの、あんた?」

 

 バカな事をしているクラインに呆れた顔でツッコむリズ。他の面々も同じ様に呆れ、女性人に至っては白い目で見ている。

 

「おうおめぇら、ついにオレは運命の出会いを果たしてしまったようだ……」

 

「出会いって……アファシスとか?」

 

「あんた前の件でまだ懲りてないのぉ?」

 

 NPCに恋をする。

 前回ALOでの大きなイベントをこなした時も、クラインはイベントに登場したNPCに恋をし、儚く散った経歴をもっている。

 にも関わらず今回も同じ過ちを繰り返しているその姿に呆れるしかない。

 

「いや今度こそ本物だ。オレの直感がそう言ってるんだ!」

 

「あんたの直感の何が役立つのよ?」

 

 彼女歴の無いクラインの直感が恋愛方面に働く事はないと、此処にいる全員が知っていた。

 

「おいクライン。彼女達はただのNPCで決められた行動しか取れないんだ。だから恋人になるとかは……」

 

「何も言うなキリの字、お前さんの言いたい事はよく分かってる。愛は障害のある方が燃えるってことだろ?」

 

「いや言ってない」

 

 呆れている女性陣に代わり、男性陣が冷静に諭すが、恋の炎を燃え上がらせるクラインには無駄だった。

 

「まさかアファシスを口説く人がいるなんてね」

 

「あんな事すんの世界中探してもあのバカくらいよ」

 

「クラインさん良い人なんだけどなぁ」

 

 皆からの信頼も厚い男なのだが、たまにこうして悪い癖が出てしまうのが難点。

 人柄は良い為、早く春が訪れてほしいと思うのだった。

 

「おっしゃ! この思いを胸に、もう一度タイプBさんにアタック……ってなぬぅっ!?」

 

 キリト達の説得を振り切ったクラインが、先程のアファシスの元へと駆け出そうとした時。

 クラインが信じられないものを見た様な大声を出す。

 

 その視線の先には…………

 

「やあお姉さん、相変わらずお美しい。君のその蒼い瞳はこの砂漠の世界に煌めくオアシスの様で……」

 

 キザったい台詞でアファシスを口説いている、黒いスーツ姿の男の姿だった。

 

「おい兄ちゃん!」

 

「あん? 何だよ?」

 

「それはこっちのセリフだ! 何横入りしてんだ。タイプBさんにはオレが先に目をつけたたんだぜ?!」

 

「はぁ分かってねぇなバンダナボーイ。恋愛ってのはどっちが先に惚れたかじゃねぇ、どっちが先におとしたかだ」

 

「なにおぅっ!?」

 

 やれやれと肩をすくめるスーツの男の姿が癪に触ったのか熱く突っかかり口論となる。

 一人の女性(NPC)を巡りワーギャー騒ぐ男二人の姿は、なんとも醜いものであった。

 

「ま、まさかクラインと同じことしてる人間がいるなんて……」

 

「世界は広いですねぇ……」

 

 そしてそれをみせられる未成年組からすれば、見習ってはいけないタイプの大人の姿だった。

 

「にしても天下のGGOにもバカなプレイヤーっているものね。ねぇシノン…………シノン?」

 

 プロが多く敷居の高いと思っていたGGOに、謎の親近感を覚えたリズがシノンに話を振るが反応が返ってこない。

 

「……………」

 

 リズ達がシノンへと視線を向けると、彼女は頭痛でもするのか無言で頭を押さえいた。

 

「あれ? キリトくんもどうしたの?」

 

「いやまあ……なんと言いますか……」

 

 そんなシノンを見たキリトは気まずそうに頭を掻く。

 

「すぅー……ハァ〜〜〜〜〜……………」

 

「し、シノのん?」

 

 少し息を吸ったかと思えば、これでもかと重く長いため息が吐かれる。無言の圧を感じさせるその姿に周りの皆が身震いする。

 そうとは知らず野郎どもはエスカレートしていく。

 

「「オレ(俺)とお友達になって下さい!」」

 

「ご要望にはお応えできません」

 

「「ぐはっ!?」」

 

 二人同時に玉砕し床に転げ回る。身内として恥ずかしい姿に他人のふりをしたくなる。

 そもそもアファシスにフレンド機能が無いので無駄でしか無い行為なのだが、バカな男二人は気がついていない。

 

「ふ、さすがお姉様。クールにズバッと言ってくれるぜ」

 

「だけどそこが良い!」

 

「分かる〜!」

 

 先程まで口論していた二人がいつの間にか意気投合し、肩を組みガハハと笑い合う。

 なぜこのタイミングで仲良くなっているのか分からず、理解が追いつかない。

 

「まさかGGOに来て早々こんなに話の分かる奴と会えるなんてな! オレはクラインってんだよろしくな!」

 

「ああ、俺の名は「リョウーーーっ!!!」ぶべらっ!?」

 

 スーツの男が名乗ろうとした時、桃色の閃光が彼を吹き飛ばした。

 

「アンタまた事務所のお金無駄遣いしたでしょ!!」

 

「げっ、クレハ?! いででででっ、なんでバレた?!」

 

 リョウをドロップキックで蹴り飛ばしたクレハは、そのままマウントを取り関節を決める。

 

「アンタがやる事なんかお見通しなのよ!! 早く買ったもん渡しなさい、売っぱらってやるわ!」

 

「いやすまん、さっきこのお姉さんにプレゼントしたから無理なんだわ…………てへっ」

 

「こんのぉ……バカちんがっ!!!」

 

「ぷげぇっ!?」

 

 可愛こぶった憎たらしい笑顔に堪忍袋の尾を切らしたクレハが、何処からか巨大なハンマーを取り出しリョウを叩き潰す。

 ハンマーの一撃を喰らったリョウの姿は、まるで潰されたカエルの様であった。

 

「ねぇシノのん……“リョウ“って確か……」

 

 聞き覚えのある名前にゆっくりと視線をシノンの方へと向ける。

 ぜひ間違っていて欲しかったが、顔見知りのシノンとキリトの反応からして間違い無いのだろう。

 

「確かシノンがよく話してくれたお兄さんだよね?」

 

「ちょっ、ユウキ!」

 

 聞きづらい真実をユウキがズバリと言い当ててしまう。こう言う時は彼女の真っ直ぐな性格が恨めしく思う。

 ユウキの一言にシノンはもう一度深いため息を吐き、キリトはそんな彼女の肩を優しく叩く。

 

「もう、リョウったらまた浮気?」

 

「そうですよマスター! わたしというものが居ながら、しかもタイプBになんてぇ!」

 

 そんなやり取りをきているリョウとクレハに二つの人影が近づく。一人は大人の雰囲気を感じさせるスタイルの良い女性、もう一人は仲間の中で最も小柄なシリカよりも少し小さな少女だった。

 

「ふ、可愛い子がいたら甘い言葉を囁かずには居られない。男ってのはそういう哀しいモンスターなのさ」

 

「リョウのそういう正直なところは好きだけど…………ちょ〜っとムカつくわよねぇ」

 

「いだだっ! 足踏んでる、踏んでるっ!?」

 

「ていうかアンタ、来月からお小遣い制に戻すからね!」

 

「えー! それだけはー!」

 

 ツェリスカに耳をつねられ、クレハにコブラツイストかけられ、アイにポカポカと叩かれているリョウ。

 女性をナンパし、女性に怒られ、女性に取り囲まれている。その姿は遊び人にしか見えず、話に聞いていた“お兄さん“の姿は微塵も無い。

 

(大丈夫なの、この人?)

 

 彼とのエピソードを聞いて、持たされていたイメージと言う土台がガラガラと崩れていく。

 

「リョウ?」

 

「いだだだっ……ってあれシノン?」

 

 シノンの心情を察し、キリト達が何も言えずに目の前のコントを見つめていると、遂にシノンが彼らへと声をかける。

 笑顔を見せてはいるが、その目は笑っておらず声色にも明らかに“怒”を感じさせるものがある。

 

「ひっさしぶりだなぁ、元気にしてたか? 帰ってくるなら連絡の一つでもしろって!」

 

 そうと知ってか知らずか呑気に再会を喜ぶリョウ。

 そんな彼を放っておいてシノンは慣れた動きでメニューを操作する。

 

「………………あれ?」

 

 一秒とかからない素早い動きで愛銃(ヘカート)を装備すると、間抜けな笑顔を見せるリョウの顔面へと突きつける。

 

「のわぁっ!?」

 

 躊躇なく引き金が引かれヘカートが火を吹く。

 スナイパーとは思えない早撃ちを、ブリッジでもするかの如く勢いよく上体を逸らすことで回避する。

 

「何してんのぉお前っ!?」

 

「挨拶代わりよ」

 

「元気よすぎんだろ……まったく、相変わらずしょうがない奴だな」

 

 あっさりと言い切るシノンにやれやれと首を振る。その姿がよりシノンを苛づかせる。

 

「……………あのシノンちゃん? なんでまだヘカートさんがこちらを向いているのですか?」

 

「ごめんなさい。私軽くてよく飛びそうなものを見ると、つい吹っ飛ばしたくなるのよ」

 

 再びヘカートから弾が放たれる。狙いは一つ、目の前の吹けば飛ぶような軽い頭の男。

 連射に向かないヘカートの筈なのに、シノンの動きに無駄がなく素早い動作で次弾を放ってくる。

 

「うおぁっ! のあっ?! イヤだからなんで俺を撃つんだよ! てかここじゃ当たっても意味(ダメージ)ないだろ!?」

 

「ノックバックはするでしょ? グロッケンの向こうまで押し出してやるわよ」

 

「んなアホなぁーーーーーーっ!?」

 

 弾丸の雨を避けながら背を向け逃げ出す。シノンはそんなリョウへとヘカートを構えながら追いかける。

 

「あ、こらリョウ待ちなさい! まだ話は終わってないわよ!」

 

「そうです! これからタイプXの素晴らしさを、とことん教えてあげるのです!」

 

 SBC総督府から飛び出すのを見たクレハとアイも、二人の後を追いかけて行く。

 予想外の怒涛の展開にキリト達はただ立ち尽くすしかなかった。

 

(大丈夫なんだろうか?)

 

 こうしてGGOへとやって来た(コンバートして)キリト達は、新たな世界で新たな仲間との冒険が始まる。

 

 《道化師》の姿に一抹の不安が残ってはいたが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

⭐︎







 今度の第四部はFBでもあった主人公と他キャラクターの絡みを重点にしたサイドケース形式で投稿していこうと思います。

 どのキャラから投稿していくかは後日アンケートを取ろうと思いますので、ご気軽に選んでください。



第四部 誰のサイドケースから見たい?

  • キリト
  • アスナ
  • クライン
  • エギル
  • シリカ
  • リズ
  • リーファ
  • シノン
  • ユウキ
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