Historia~彼女を救う彼女の物語~   作:瞬く陰と陽

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最後に向けての三部作



いわば組曲のようなものです




それではどうぞ


相剋

『愛しあう者同士が戦うなんて…』

 

 

 

『…兵士同士が個人的な感情を持つべきではないわ…

 

 戦う相手は政治によって決まる。

 

 昨日の正義は今日の悪かもしれない。』

 

 

 

『どんなに嫌なことだったとしても…

 

 絶対に間違ってると思ったことでもですか?!』

 

 

 

『それでも軍人はどんな命令でも従わなければならない。

 

 理由や精査は…必要ない。

 

 軍人は政治の道具に過ぎない。

 

 任務に正義を持ち込むことはない。

 

 敵も味方もない。ただ任務でしかない。

 

 どんな命令にも従う。それが軍人よ。』

 

 

 

項垂れて首を振る紫苑。

 

 

 

『…私は軍人にはなれそうもないなぁ…』

 

 

 

-惑う聲は只遠く-

 

 

 

『そうね。貴方に銃は似合わない。

 

 …貴女の国(東洋)では(Loyalty)を尽くすという言葉がある。

 

 意味わかる?』

 

 

『忠…忠義ってことはお殿様(主君)への忠誠心ってことですか?』

 

 

 

『個人の命には限りがある。死んだら別の人間が主君になる。

 

 任務は人が下すものではないわ。

 

 -時代-が任務を与えるの。

 

 時の流れは人の価値観を変える、国の指導者も。

 

 

 だから-絶対敵-なんてものはない。

 

 

 私たちは時代の中で、

 

 

 絶えず変化する-相対敵-と戦っているの。』

 

 

 

『…その-相対敵-が今は…スネーク?』

 

 

 

紫苑に背を向けたザ・ボスは遠くを見つめた。

 

 

 

『…-忠をつくしている-限り、

 

 

 私たちに信じていいものはない。

 

 

 ……たとえそれが愛した相手でも。』

 

 

 

(…やっぱりザ・ボスはスネークの事を…

 

 どうして二人が戦わなければいけないの⁈

 

 そんなの…絶対、絶対間違ってる!)

 

 

 

ギュッと手を握った紫苑。

 

 

 

「私はそんな運命(任務)は受け入れたくなんかない…」

 

 

 

-逆ふ聲は只響く-

 

 

『身体も…子供も…国に捧げた。

 

 恨みも…後悔さえも…

 

 

 

 私はジャック(スネーク)を育てた。

 

 ジャック(スネーク)を愛し、武器を与え、

 

 技術を教え、知恵を授けた。

 

 

 もうわたしから与える物はなにもない。

 

 

 後は私の命を(スネーク)が奪うだけ。』

 

 

 

「…やめて…やめてよ…嫌だよ…」

 

 

 

-惑う聲は未だ遠く-

 

 

 

『どちらかが死に、どちらかが生きる。

 

 

 勝ち負けではない。

 

 

 生き残った者が後を継ぐ。

 

 

 

 私達はそういう宿命。

 

 

 

 

 生き残った者がボスの称号を受け継ぐ。

 

 

 

 

 そしてボスの名を受け継いだものは「悲しすぎるよ!」…紫苑…』

 

 

 

 

もう紫苑には溢れる涙をとめることはできなかった。

 

 

とめどないそれは一人の少女が流しているわけではない。

 

人生の全てをこのセカイに捧げた一人の(ザ・ボス)が、

 

流すべきだったものを肩代わりしたにすぎないからだ。

 

 

 

それが伝わったからこそ(ザ・ボス)の胸にこみ上げたのは

 

 

 

『ありがとう…』

 

 

 

歓喜(ジョイ)だった。

 

だからかもしれない。

 

 

 

『少し…昔話をしよう…』

 

 

 

この心優しき少女に。

 

 

 

『これは…ある一人の女の…黒い(かしり)だ。』

 

 

 

知っていてほしくなったのは。

 

 

 

~~~~~~

 

 

時は第二次世界大戦中、

あのスターリングラード攻防戦の真っ只中に起こった。

 

 

 

 

その日連合国軍本部に一報が入った。

 

 

【連合国軍一個師団(約一万人)連絡途絶】

 

 

誤報だとは誰もが思った。

 

なぜならそこは前線からは離れており、

枢軸国側にそこへ戦力を派遣する余裕は無かった。

 

だが消えた数が数だ。敵前逃亡とも思えない。

 

調査が必要だった。

 

しかし派遣する戦力がないのはこちら(連合国)も同じ。

 

 

 

少数かつ精鋭の派遣が求められ、

 

それはコブラ部隊(我々)以外にあり得なかった。

 

 

 

対象(消えた師団)の駐留していた場所の近くに一つの街があった。

 

そこに歓喜()悲哀()が到着した時、

 

 

街は静寂に包まれていた。

 

 

街に入ってすぐの所に小さな女の子が座り込んでいた。

 

その手には薄汚れたウサギのぬいぐるみを抱いて。

 

彼が近付いても少女はピクリとも反応しなかった。

 

ただ虚ろな瞳を灰色の空に向けていた。

 

 

「…少しお邪魔するよお嬢さん…」

 

 

彼は膝をついて両手を優しく少女の頭に添える。

少女の心の奥深くに沈み込んでいく。

 

バッ!

 

少女の記憶に同調した彼が弾かれたように立ち上がる。

 

 

「…そんな…なんてことだ…」

 

 

「待って‼ザ・ソロー‼」

 

 

私の制止も聞かずに駆け出した彼を追いかけた。

冷静な彼らしくない姿に動揺しながらも走った。

 

 

追いかけて、追いかけて、

 

 

街の中心部に到着した時、

 

 

広がった光景に我が目を疑った。

 

 

 

そこにあったのは小高い丘。

 

 

 

「なんてこと…」

 

 

 

ただしそれを成していたのは…折り重なった、

 

 

 

 

消えた師団の兵士達の亡骸だった。

 

 

 

 

「…ザ・ジョイ…これを見てくれ。」

 

 

 

死体を調べていた彼に呼ばれた。

 

驚くべきことにそれらの死体には共通点があった。

 

それは殺害方法。

 

彼らの体に残された拳の跡や痣、捩じ切られた関節、圧し折られた骨、

 

そこから導かれるのは、

 

 

 

「まさか…素手でこれだけの人数を殺したというの?!」

 

 

「あぁ…信じられないことにね。

 

 しかもほとんどが同一の手口なところから見ても…」

 

 

「この地獄を創ったのは一人の…悪魔(デーモン)…」

 

 

 

戦場に身を置いていたがこれほど凄惨な光景は見たことがなかった。

 

このような残虐な行為ができるものを人間と呼んでいいはずがない。

 

 

全身を這いまわる怖気を堪えながら私達はその場を後にすることにした。

司令部に報告しなくてはいけなかったからだが、心の何処かで此処に居たくないという感情があったことも否めなかった。

 

 

立ち去る直前、先程出会った少女の存在が脳裏をかすめる。

 

…任務の妨げになることは分っていた。

 

あの少女に自分が出来ることなど何もないことも。

 

それでもこの地獄にたった一人残された彼女を見なかったことには…

 

 

私には出来なかった。

 

 

「君とともに…ザ・ジョイ。」

 

「ザ・ソロー…」

 

 

何も言わなくとも彼には伝わったのだろう。

 

柔らかな笑顔を向けてくれる。

 

やはり彼とのコンビが一番だ。

 

 

 

あの少女のいた場所に戻った時、

 

 

 

既に先客がいた。

 

 

見たこともない黒い軍服に身を包んだその男は、

 

柔和な微笑を浮かべて少女の前に片膝をついていた。

 

 

 

「君の欲しいものは何かな?」

 

 

「…」

 

 

「そう。それなら…

 

 

 僕からあげられる。

 

 

 …欲しいかい?」

 

 

何も話さない少女(人形)と会話をしていた男。

 

彼が少女の額に優しく手を翳すと、微かな光を放ちだした。

 

 

 

北斗有情拳(ほくと うじょうけん)

 

 

 

「…ママ…」

 

 

花の様に笑顔をほころばせ、

 

小鳥の様に愛らしい声で母を呼んだ。

 

まるでそこに少女の母親がいる様に。

 

 

 

「おやすみ、いい夢を。」

 

 

 

男の言葉に少女は目を瞑るとゆっくりと横たわり、

 

 

そのまま動くことはなかった。

 

 

 

少女の手から零れ落ちた薄汚れたウサギの人形を拾った男は土を払う。

 

 

 

「それじゃあこれは等価交換(ギブ&テイク)ってことで♪」

 

 

 

フゥッと息を吐きかけて満足したのか男は、

手に持っていたカバンの中にそれをしまった。

 

 

 

「さて…お待たせしましたご両人。

 

 

 

 …聞こえるか、地獄の叫びが。

 

 

 

 …知りたいか、お前の末路を。

 

 

 

 ここが運命が別れる場所(ターニングポイント)。」

 

 

男から放たれる真っ黒な気迫に即座に動く。

 

 

私は自らカスタムしたM1911(コルト・ガバメント)を、

相棒がSAA(コルト・シングルアクション・アーミー)の銃口を男に向ける。

 

 

()()はお前の仕業だな!

 

 貴様は何者だ?!なぜあんな真似を!」

 

 

「-なぜ?-とは難問だ。

 

 

 上等な料理を喰らうことに、

 

 

 色を貪ることに、

 

 

 明日を夢見ることに、

 

 

 

 理由を考えるだろうか?

 

 

 

 それと同じ。それが僕の…

 

 

 

 

 欲望(したいこと)だったからさ。」

 

 

 

BAN‼ BAN‼ BAN‼

 

 

私達は同時に引き金を引いた。

 

 

 

もうこれ以上奴の悪意に満ちた言葉を耳にしていられなかった。

 

 

 

それが君たちの欲望だな?(That’s Your Answer)

 

 

 

 フフッ…ならば…

 

 

 

 我とともに…踊ってもらおう!!(Hell’s Drive)

 

 

 

 

これが、コブラ部隊(我々)とあの男。

 

 

 

連合国軍からは【殺戮博士】(Dr.スレーター)【神龍】(ドラゴンロード)などと呼ばれた最重要警戒人物。

 

当時所属していた枢軸国軍からは最上級の畏敬の念を込めて、

 

 

 

「この…   悪 路 王(あくろおう)   となぁ!!」

 

 

 

悪路王(鬼の首領)の名で呼ばれていた、

 

 

 

無垢なる欲望(ザ・グリード)との出会いだった

 

 

 

 

結局その場での決着はつかなかった。

 

…が、再戦の機会は幾度も訪れた。

 

奴はコブラ部隊が活動するどんな戦線にも現れた。

 

 

その度に繰り広げられる死闘。

 

 

皮肉なことにその戦いを通してコブラ部隊(我々)の有用性は証明された上、

 

 

その能力の更なる向上にも繋がった。

 

 

 

(ザ・ジョイ)がコブラ部隊を生んだ-母-だとすれば、

 

(ザ・グリード)はコブラ部隊を育てた-父-だった。

 

 

 

そして事態が急転したのは1944年 6月4日

 

 

あのノルマンディー上陸作戦を二日後に控えた日の事だった。

 

イギリス郊外にあったとある屋敷。

イギリス王族の別宅だったその屋敷はおそらく地球上で最も静かな空間だった。

 

人がいなかった?

 

いいえ、むしろその逆。

 

 

そこには完全装備の精鋭部隊が約千人が警備につき、

 

屋敷の中にも連合国軍司令部の高官を含めて数十人。

 

 

その誰もが固唾を呑んでいた。

 

 

前代未聞の会談に誰もが顔を強張らせていた。

 

 

 

<我、連合国軍トノ同盟ヲ欲ス>

 

 

私がこの知らせを司令部に持ち込んだのは一月以上前の事だった。

 

 

そう。

 

今日ここで、有史上初めての

 

 

 

国家と一個人の間に対等な同盟が締結されようとしていた。

 

 

ギィと扉の軋む音がした。

 

その時歩哨に立っていた兵士はきっと生きた心地がしなかったろう。

 

空気が張り詰める。

 

 

 

「いやぁ…お待たせしました♪」

 

 

あの時と同じ軍服姿で奴は現れた。

 

会談用に用意された長机には連合国軍の重鎮たちが顔を並べていたが奴はそんなお歴々には目もくれない。

 

壁際に立っていた私の前まで来ると自分の内ポケットに手を入れる。

 

部屋の中に詰めていた護衛の兵士達がびくりと肩を震わせるの気にも留めず煙草を取り出した奴はにへらと笑う。

 

 

 

「火を貸していただけますか、お嬢さん(セニョリータ)?」

 

 

 

人を食った態度はこの頃からだったわけだ。

黙って火を点けてやれば嬉しそうに煙を吸い込む。

 

 

 

「…さてさて…それじゃ始めましょっか。」

 

 

 

長机の上座に優雅に腰かけると何でもないように言い放つ。

どちらが上かを判らせるように足を組む。

 

 

 

「そちらのメリットは二つ。

 

 現時刻を持って連合国所属兵士に対する戦闘行為を停止します。

 

 それと私の開発した兵器や軍事技術をそちらに提供しましょう。

 

 おもしろいですよ~私の兵器(おもちゃ)♪」

 

 

クスクスと嗤う男の様子にざわつく首脳陣。

男がこれまで連合国にもたらしてきた被害とその技術、

そして連合国でも有名な科学者(マッドサイエンティスト)でもある男の言う兵器(おもちゃ)に興味をそそられたのだろう。

 

 

「それでこちらが要求するのは、

 

 皆さんに差し上げる兵器(おもちゃ)を創る資金やらの提供。

 

 あ、基本的に高値を付けて頂いた方、優先的に融通しますよぉ。

 

 それと面倒事は避けたいので外交特権でも付けといてください。

 

 

 

 あぁ⁈最も重要なものを忘れてました!」

 

 

 

大げさな身振りで天を仰いだ男に緊張が高まる。

 

ここまでの要求は正直肩透かしもの…大国である彼らならば楽に用意できる。

 

寧ろ恐ろしい化け物の恐怖から解放される対価としては安いくらいであり、彼の持つ技術を取り込むことができるというのならばお釣りがくるどころの話ではない。

 

 

だからこそ彼の切り出した、【最も重要なもの】(本題)の内容は予想も出来なかった。

 

 

 

 

 

「私が欲するものは…

 

 

 

 貴女ですよ…ザ・ジョイ。」

 

 

 

 

部屋の視線が私に突き刺さる。

当時多大な戦果を挙げていたとはいえ只の一兵士、それも女を要求するとは。

 

理解不能。狂気の沙汰。

 

 

だが私だけが直感していた。

 

 

これは悪魔との契約(コントラクト)だ。

 

 

魂までも彼に囚われてしまう。

 

 

 

「…聞こえるか、地獄の叫びが。

 

 

 

 …知りたいか、お前の末路を。

 

 

 

 ここが運命が別れる場所(ターニングポイント)。」

 

 

 

あの時(ファーストコンタクト)と同じ言葉を謳い上げる男。

 

 

 

私は地獄の扉(The Gate of the Hell)この手で開き、

 

殃禍(おうか)の運命と出会った。

 

 

それは決して交わることのない(ひかり)(かげ)のようだった。




タイトルの通り相対する者たちをテーマにしました


ザ・ボス VS 紫苑

ザ・ボス VS スネーク


そして
ザ・ジョイ VS ザ・グリード

ちなみにグリードの大戦時のコードネームにも意味があります


次話も連続投稿なのでぜひ続けてどうぞ
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