仮面と彼女の出会い
スネークイーター作戦後、スネークと暮らし始めた紫苑。
その生活は穏やかなものだった。作戦時には話すことはなかったが、FOXのメンバーにも知り合えた。
さすがに自分が未来から来たことは伝えられなかったが皆自分を可愛がってくれた。
ゼロ少佐はとても紳士で会う機会は少なかったがいつもお土産を持ってきてくれた。
彼の口からこぼれる話は知性に富み、紫苑の心を高揚させるものだった。
娯楽に疎かった紫苑は彼になつき、彼もまた娘や孫のように紫苑を扱っていた。
シギントには紫苑がお土産をせがんだ。長年の友人のように軽快なトークを楽しめる彼には気楽に無茶なお願いができた。そもそもの発端は紫苑がソ連より持ち帰った設計図を彼に渡したことから始まった。紫苑やスネークにはよくわからなかったがこの設計図を見たシギントは椅子から転げ落ちんばかりに驚いていた。それ以後彼は紫苑に、(初めはほかの人間に話していたが誰も相手をしてくれなくなった。)この設計図の偉大さ・難解さなどを語り、『紫苑のために俺は産まれた!』とまで言い出した。
パラメディックは良き相談相手になった。恋愛の経験などしたことのなかった紫苑にとって様々な悩みを話せる彼女はまさに姉のような存在だった。彼女のアドバイスは突飛なものも多くスネークを困惑させたが、女同士でしかできない会話は紫苑にとって心安らぐものだった。
そして、
スネーク。
伝説の英雄。
BIG BOSS。
彼はFOX部隊を退き、BIGBOSSの名も捨てたとは言ったが、戦場が生きる場所の戦士である以上、世界各国の戦場を飛び回っていた。
それでも紫苑との鍛錬は欠かさなかったし、可能な限り二人の時間は作ってくれた。
紫苑は怖かった。大丈夫と彼は言ったが死と隣り合わせの戦争に彼が飲み込まれていくようで。
1966年 スネークは戦地、モザンビークへと旅立った。
これはそのころに出会った、
一人目の戦乙女-ワルキューレ‐の話。
早朝、夜明けとともに紫苑は起きだす。
ここは人里離れた山の中。
関係者以外立ち入り禁止区域となる広大な山々はすべて伝説の英雄の持ち物である。
華美ではないがとても二人で住んでいるとは思えない家。
しかも今は一人で暮らしている。
残念ながら戸籍のない居候のため働くこともできない…最もスーパーのレジ打ちやデスクに座り続ける仕事などできるような性分ではないのだが…ため紫苑は基本的に暇である。それでも太陽とともに目覚めてしまうのは最早習慣を通り越して本能だ。
鍛錬。
家事。
読書。
スネークのいない日々は淋しいし不安だ。
そしてなにより。
『…退屈だわ…』
何という刺激のない日々だ。
罰当たりだとは思うが何もしない、起こらないのは中々の苦行だ。
友人といえる存在もなくあえて言うならFOX部隊の面々がそれに近いが…
パラメディックとは先週食事に行ったし、シギントとは先々週に紫苑がおねだりした改造バイク‐オートバジン‐の試走ということで2、3日遊びまわった(シギントは有給)。
さすがにゼロ少佐の元に押し掛けるわけにもいかない。そもそも居場所を知らないが。
せめて話し相手でも入れば話は別なのだろうが…意思のある友人は。
『シオンッ!タタカイタイッ!』
頭の中でわめく異星人しかいないのだ。そりゃあ気も滅入るというもの。
なんだか世界に取り残されたみたい…
ひとり宙に息を吐いた紫苑。
しかし彼女の苦悩は思わぬ形で解決することとなる。
「もう仲間ではない」
BIIIIN!!!
『…嘘ッ!!!この感じは?!』
久しぶりに頭が引き裂かれるような感覚、スパイダーセンスに特大の反応が走る。
すぐさま飛び上がった紫苑は自宅に併設された武器庫へと走る。
そこにはシギントの手によって誕生した紫苑の武器。
‐ガンブレード‐怒涛・波涛が己の主を待ちわびていた。
二挺を掴むと紫苑はセンスが指し示した方角へと走り出した。
現場に辿り着いた紫苑が見たのは直径数mに及ぶであろうクレーター。その中心には一糸纏わぬ女性が横たわっていた。警告音はいつの間にか鳴りやんでいた。
意識のない女性を自宅へ担ぎ込んだ紫苑はパラメディックに連絡を取っていた。
『あら。紫苑から連絡なんて珍しいわね。どうしたの?』
『実は森の中で女性を保護したの。外傷は無いんだけど意識がないみたいで。』
『…ちょっと待って…まさかその女性、家に入れてたりしないわよね?!』
『…?今はソファーに寝かせてるわよ。どうしたの?』
『どうしたの?ってきけn「ブツッ」
突如回線が切断され驚いた紫苑が振り向くと、電源コードを引き抜いた女が立っていた。
一瞬見つめあい対峙した二人。
BIIN!
スパイダーセンスの警告音とともに繰り出された女性の上段蹴りを、上体を反らしてかわした紫苑は体当たりするように女性に飛び掛かった。シンビオートの力により常人の40倍程度の贅力を誇る紫苑だが驚くべきことにこの女性は自分と拮抗する腕力を持っている。巴投げの要領で投げ飛ばされた紫苑は-ヴェノム-スーツを纏い立ち上がった。
『…!!!貴女、ミュータントなのね!!!』
目を見開く叫ぶ女。
『それならば出し惜しみは無しよ!!!』
今度は紫苑が目を見開く番だった。
女の体が揺らいだかと思うとその体に爬虫類のような鱗が現れ、全身が青く変色していく。ブロンドヘアーは炎のように赤く、目は黄色に変化した。
『さぁ…第二ラウンドよ。』
烈火のごとく攻め立てる女に紫苑は防戦に回っていた。女性の身体能力は非常に高く戦闘経験も自分より豊富だと思われた。
まるで-彼女-のようだ…そう思ったとき紫苑の心に言葉が響いた。
「…紫苑、まずCQCの基本を思い出せ。」
…そうだ。私には二人の-BOSS-が教えてくれた技がある。顔面に迫りくる青い拳を受け止めると捻りあげて背後に回る。反撃の肘をかわし膝裏を攻め、重心を崩すと背中から地面に叩き付けた。
TWHIP TWHIP
うめき声をあげて硬直した隙を突き両腕をウェブで縫いとめると悔しそうに女が睨みつける。
『クッ!小娘が!』
『小娘で悪かったわね。私には紫苑って名前があるの。』
女は黙ったまま視線を突き刺すだけだ。
『…ふぅ…一応助けたつもりなんだけど。ありがとうぐらいは言ってほしいかな…』
『頼んだ覚えはない。』
『まぁ意識なかったしね。それでも森の中に裸の女性を放置するのは人としてどうかと思ったからつれてきたの。余計なお世話だったらごめんなさい。』
『…あなたはエリック…マグニートーの手先?それとも教授の教え子かしら?』
おそらく人名と思しき単語を投げかけられたがあいにく交友関係の狭さは伊達ではない。と悲しい現実に妙な自信を持ちながら紫苑は首を振った。
『…?あなた…ほんとにミュータント?アルカトラズの戦いを知らないの?』
『そもそもミュータントが何かわからないわ。ひょっとしてこのスーツがそうなのかも知れないけどあいにくこれって拾ったものなのよ。私も詳しくは知らないわ。』
『…どうやら嘘ではなさそう…急に襲い掛かって悪かったわね。』
どうやらこれ以上の争いはせずに済むような女の態度に紫苑はほっと胸をなでおろした。
『落ち着いてもらえたようで良かったわ。あなた名前は?』
『ミスティーク。…いえその名は捨てるわ。レイブンと呼んでちょうだい。』
仮面の戦乙女、邂逅。
『ところでシオン、この糸外してもらっていいかしら?』
『…あのね、レイブン。怒らないって約束してくれる?』
『…?もう襲わないわよ?』
『それ、1時間後に消滅するまで取れないの。』
『???!!!』
エリックかわいいよエリック
それでもミスティークを捨てるのはいけませんよ