『……………』
『…あのぉ…怒って…ますよねぇ…』
ウェブが自然消滅した後、二人は一献酌み交わしていた。中身は紫苑の入れたコーヒーではあるが。
青い異形の女、レイブンは憮然とした態度で恐縮しきりの紫苑を眺めていた。自分に、猛然と立ち向かってきた戦士とは結びつかない少女の姿に不思議な思いを抱いていた。変異体‐ミュータント‐
である自分と互角に戦う黒い宿主、シオンに興味がわいたのだ。
『あなた、私を見て恐れなかったわね。それは何故?』
ミスティークは自身が異能であり異形であることを十分理解していた。
先に変身したのは相手とはいえ、未だに恐怖や嫌悪を見せてこないのは何故なのか。
『…?何故恐れるの?あなたは人間でしょ。話し合えば分かり合えるわ。』
レイブンは落胆した。ただの世間知らずのあまちゃんだったか、ついで怒りがわいた。
怒りのままに言葉を投げかけた。
『人間?こんな姿の化け物が人間?馬鹿にしているのかしら?』
『気に障ったのなら謝るわ。もちろんバカにもしていないし化け物とも思ってないわ。』
コーヒーを一口飲んだ紫苑を見てレイブンはかつて慕った男の面影を見た。
『それにあなたは綺麗よ。レイブン。』
女のあたしが言うんだから間違いないわ♪と楽しそうに笑う少女。
レイブンは彼女の笑顔に見とれてしまった。
『ところでどうしてあんな山の中にいたの?』
ふと紫苑が思い出したように問いかけた。
山中に全裸でレイブンは意識を失っていた。今現在も彼女には衣服を身にまとう雰囲気は見られないが。
『別に山の中に居たわけじゃないわ。おそらく時空間移動とか転移魔法とかそんなあたりでしょ。』
コーヒーに口をつけながら何でもないように言うレイブンに紫苑は驚いていた。
『魔法…ですか?』
『よくは知らないけどね。彼らは何でもアリだから。』
レイブン自身がよく分からないと言う以上とりあえず紫苑も納得するしかないだろう。
『それ以前についてなら話してもいいわ。あなた暇そうだしね。』
『うぐっ…確かに暇で死にそうだったからってそんな言い方しなくても…』
椅子の上で小さく縮こまる紫苑にフッと笑みをこぼすとレイブンは語りだした。
『…私はミュータントと呼ばれる存在。私たちは人々にとって恐怖と迫害の対象だった。明らかに人と姿の違う私に向けられるそれらは生半可なものではなかった。たとえ子供であったとしても…そんなとき私は出会ったの。強力無比なテレパス能力者、チャールズに。私は彼に惹かれたわ…最も彼にとっては妹みたいなものだったんだろうけど。』
淡々と語るレイブンに紫苑は彼女の苦悩や悲哀を受け取った。
『1962年キューバ危機の裏側で私たちはある組織と戦っていた。「ヘルファイア・クラブ」というその組織は第三次世界大戦を引き起こしミュータントが人間を支配する世界を作り上げることだった。彼らに対抗するため私たちは「X-MEN」というチームを作り彼らに対抗したわ。その戦いの中で、ある男に出会ったの…その男がエリック、マグニートーよ…!』
その名をつぶやいた彼女には憎悪の中に消しきれぬ愛情が見えたように紫苑は思った。
『…ごめんなさい。驚かせたわね。とにかく私たちはヘルファイア・クラブの目的は阻止した。でもその中でエリックとチャールズは対立したの。ミュータントという同胞を知り、ミュータントを拒絶する人類などを憎悪しはじめたエリックは人類と戦いミュータントの理想国家を作るためにブラザーフッド・オブ・ミュータンツを結成したわ。…そして私はその一員。』
そこまで言うとじっと紫苑を見つめるレイブン。
『私は人類の敵なの。恐ろしい?』
『…何とも言えないわ…敵や味方は時代によって、政治によって変わると教えてくれた人がいたの。あなたはあなたの忠を尽くしたんでしょう。』
穏やかに笑う紫苑はまるで聖母のようだとレイブンは思った。
『忠…ね。その後私はエリックと40年近く彼の為に戦ったわ。最終決戦、アルカトラズでも私は彼と共に戦うつもりだったわ。彼もきっとそのつもりだったのね。政府に捕らえられた私を救いに来たの。…嬉しかったわ。そのとき彼を狙う敵に気付いたの。「キュア」と呼ばれるミュータント能力を無効化する薬。それから彼をかばった私はただの女になった…あんなになりたかった「普通の人間」になったの。そんな私に彼は言ったわ。』
『もう仲間ではない。』
『?!…それは…』
驚く紫苑にレイブンが続ける。
『笑えるでしょ?数十年尽くし続けた男に捨てられたのよ。ミュータントではなくなったという理由でね。あいつも同じだったのよ!ミュータントを虐げてきた人類と同じ!ただ立場が変わっただけだった…!』
『あなたではなくあなたの力を必要としていた?』
紫苑の言葉にキッと睨み付けたが自嘲気味に笑みをを浮かべた。
『そうね、そのあとアイツの居場所を全部政府に喋ってやったわ。』
『仕返し?-Avenge―』
『まさか!そんなことくらいで許してやるもんですか!』
得意げに言うその姿に思わず二人で笑いあった。
『どうやら不完全だったらしい「キュア」の効力はしばらくすると弱まっていった。牢獄から抜け出した私はマグニートーを追いかけた。目的は…言わなくてもわかるでしょう。そして奴が新たなチームに所属したことを突き止めた私は奴らの本拠地に乗り込んだわ。そこで奴の仲間に完膚なきまでに叩きのめされた。地に伏せる私に奴が言ったわ。』
固く目を閉じるレイブンが拳を握りつぶやいた。
『「すまなかった、ミスティーク。私には必要としてくれる家族がいるのだ…今君に殺されるわけにはいかない。」…ふざけないでッ!!!』
机に握った拳を叩き付ける、行き場のない憤りが紫苑には痛々しかった。
『愛も理想も失って最後に残ったのが…憐み…私の人生はいったいなんだったの…』
『……私はその人ではないから分からないけれど……憐みではなく嘆願ではないかしら?』
『あのエリックが命乞い?ありえないわ!』
鼻で笑うレイブンに紫苑は優しく微笑むと彼女の隣に歩み寄る。
『いいえ。あなたに生きてほしいと願ったの。今あなたが生きているのにもきっと意味があるはずよ。』
綺麗事を、甘い平和ボケした考えだ、私の苦しみの何が分かる。いろいろな言葉が去来しては消えていった。
分かっている。伊達に数十年、長い年月を彼と共に過ごしたのだ。彼に会った瞬間分かった。磁界王は自分の「居場所」を見つけた。そしてそこに私の居場所は無いことも。
うつむくレイブンから零れ落ちる本心。
『私には……居場所なんてないわ……』
『私がいるわ。私達はもう友達でしょ♪』
レイブンの頭を抱え込むように抱きしめた紫苑はその赤い髪を撫でつけながら続ける。
『理由がないなら私の話し相手になってくれればいい。』
レイブンは真っ直ぐに目を合わせて話す紫苑に導かれた。
『レイブン、あなたの居場所はここにあるわ。』
後に紫苑が率いる世界最強勢力(チーム)の一角、戦乙女の宮殿-ヴァルハラ―発足の日である。
『ところでレイブン。あなたは一体いくつなの?』
『まぁだいたい100歳くらいかしら?』
『うぇ?!それじゃおばぁちゃ『シオン?』…おうつくしいでございます…』
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