Historia~彼女を救う彼女の物語~   作:瞬く陰と陽

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仮面と彼女と蛇

『ねぇシオン。こんな感じでいいの?』

 

『さすがねレイブン。もうCQCの基本をマスターしちゃうなんて。』

 

同居人として共同生活を始めた二人。

退屈な日々を過ごしていた紫苑は一日のほとんどを彼女との時間に振り当てていた。

自称100歳のレイブンは教養に富み、軍事にも精通しており彼女から紫苑は様々なことを教えてもらった。

レイブン自身も教導者として一流であったことに加え、戦闘能力もずば抜けていたことから紫苑の技量は飛躍的に上達した。その中で紫苑の操る朽葉流忍術やCQCにレイブンは目を付けた。

呼吸の力で五体を活性化させる朽葉流、非常に合理的な近接戦闘術であるCQCは数十年戦いの第一線にいるレイブンも学び多きものだった。

 

そして紫苑自身にもレイブンは大いに興味をひかれた。

 

得体のしれぬ存在である自分に居場所を、すべてに裏切られ絶望の淵にいた自分に生きる意味を与えてくれた。

 

しなやかな黒髪を一つにまとめ、白い首筋の後ろに無造作に流されており細かな彼女の頭の動きに合わせてふらふらと揺れている。格闘訓練の為に比較的薄着なため、均整のとれた肢体が惜しげもなくさらされている。同世代の女性に比べると主張自体は慎ましいものの全体的に緩やかな丸みを帯びた胸や腰回りには女性らしい色気を醸し出している。天真爛漫でありながら慈母のような包容力も併せ持つ紫苑。レイブンは彼女に惹かれる自身をはっきりと自覚していた。

鍛錬で流れた紫苑の汗を甲斐甲斐しくタオルでふき取りながら語りかける。

 

『このCQCは凄い技術ね。開発者のセンスには脱帽だわ。』

 

『フフッ♪昨日ジャックから連絡があったから今夜帰ってくるみたいよ。パーティの準備をしなきゃね。』

 

くるくると今にも踊り出しそうなほどに浮かれている紫苑を見つめるレイブンにはある思いが去来していた。

 

『…ねぇシオン…一つサプライズの提案があるんだけど。』

 

きょとんとこちらを見つめる紫苑に蠱惑的に‐仮面‐が微笑んだ。

 

 

 

 

 

憂鬱だ。飛行場から自宅への帰り道、スネークの胸にはそんな感情ばかりが満ちていた。

戦士は戦場でしか生きている実感を得られない。数多の命をその手で葬り去ることに感傷などない。

ないはずだった。あの少女に出会うまでは。自身の半身をその手で葬り去ったとき、彼女を‐母‐と呼んだ少女。戦場に迷い込んだ少女は優秀な‐戦士‐だった、それは間違いないだろう。彼女に教え込んだ己の技量‐CQC‐はすでに自分と互角に渡り合うほどである。しかし‐兵士‐ではない。彼女に人の命を奪わせたくなかった。時折好戦的な-友人-も出てくるようだが。それでも彼女を人殺しの道具にしたくはなかった。

 

 

 

 

モザンビークで大人に玩具とされたあの少年のようには。

 

 

 

戦場でその少年‐フランク・イェーガー‐に出会ったとき、少女の笑顔が彼の脳裏をよぎった。同年代である少年兵の向こう側に彼女がいるような気がしたのだ。フランクを救出した後、更生施設に入る彼と少しだけ彼女の事を話した。自分を倒した男と並び立つ実力の少女に興味を示したらしいフランクにニヤリと笑って「きっと仲良くなれるぞ」と伝えた。

 

紫苑を連れて彼を見舞いに行くのもいいだろう。

 

 

 

深い山中に英雄の自宅はあった。唯一心の拠り所とできる場所。大切な-彼女-を守る城。

陰鬱な気持ちも徐々に晴れる。彼女に会えると思うと心が躍りだす自身にまるで少年のようだと思い口元も緩んでいる。

 

 

自宅に着いたスネークはちょっとした違和感を感じた。任務から帰ると紫苑は大型犬のように自分に飛びついてくることが多い。いつまでも子供のようだとは思っていたが…やはりこの任務の前に-深い仲-になったのが原因だろうか。少しばかり残念に、そして大いににやつきながら自宅の扉を開けた。

 

『帰ったぞ紫苑。』

 

中に入ると胃袋を刺激する芳醇な香りが広がっていた。

香りに誘われるままダイニングへと足を踏み入れる。

二人でいつも囲む食卓のいつもの席に彼女はいた。

 

『おかえりなさいスネーク。ディナーには間に合ったみたいね。』

 

食卓に座り悠然と紫苑は微笑みかけてきた。テーブルの上には彼女の手作りであろう和食が机いっぱいに広がっている。

 

『さぁ伝説の英雄さん、デブリーフィング‐お仕事‐の前にお腹を黙らせちゃいましょう。』

 

お箸をVの字にしながらおどけて見せる紫苑。

 

 

 

 

 

 

『お前は紫苑ではない。』

 

冷たく言い放たれた一言に紫苑は固まった。

鋭い眼光で紫苑を睨み付けるスネーク。

肩を竦ませて立ち上がる紫苑には怯えた様子はない。

 

『こんなに早くばれちゃうとは思わなかったわ。さすがは伝説の英雄かしら。ちなみに今後の課題としていつ気づいたのか教えてくれるかしら?』

 

おどけて尋ねる少女に警戒の色を強めるスネーク。

 

 

『紫苑は俺の前ではコードネームを使わない。‐家族‐だからだ。』

 

『あら。‐家族‐…ね。』

 

意味ありげに微笑む紫苑の姿をした何者か。スネークは羅刹のごとき表情で詰め寄る。

 

『紫苑は何処だ?!彼女に危害を加えてみろ!!ただでは済まさん!』

 

『まぁ恐ろしい。食べられてしまいそうだわ。』

 

二人を一触即発な空気が包み込む。

 

 

 

 

 

 

『テッテレ~♪ドッキリ大成功♪』

 

 

 

机の下から派手に塗装されたプラカードを持った紫苑が這い出してきたのはそんな瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

『あれ?タイミング間違えた?』

 

『いいえ紫苑。ナイスタイミングだわ。もう少しで彼に食べられちゃうところだったんだから。』

 

 

 

 

『おい。せめて説明しろ。』




はたして10代のしょうじょがスタードッキリを知っているのか否か
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