彼女と白馬と歯車の胎動
怪物と戦う者は、その際自分が怪物にならぬように気をつけるがいい。
長い間、深淵をのぞきこんでいると、深淵もまた、君をのぞきこむ。
ーーーーーニーチェ(1844~1900)-----
暗い闇の中に紫苑は独り立っていた。
あの時、幾度か訪れた自身の精神世界のようなものだろうか。
スポットライトに照らされたかのように巨大な水槽が紫苑の眼前に現れた。
-いつか見た-あのシリンダーだ。
ふらふらと近寄ると少し前回とは違うようだ。
中に浮かぶのは小柄で柔らかな曲線を描くその肉体にその存在が女であることを認識させる。
胎児のように身を丸めたその女がゆっくりと顔をあげる。
青白い顔でこちらを見るその瞳孔は十字に収縮している。
その相貌は紫苑自身だった。
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「…ッ!!!」
滝のような汗とともに紫苑は飛び起きた。
最近は見なくなった悪夢に激しい鼓動が収まらない。
落ち着いてふと見回すとどうも自分の部屋ではない。
薄汚れた打ちっぱなしのコンクリートに簡素なベットと鉄格子付の金属扉。
「THE・牢獄って感じね。」
ふぅと一息つくと思い返す。
こうなった顛末を。
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『それじゃ行ってくるわねレイブン。』
『えぇ。どこかの万年発情期のへたれに手を出されたらカバヤキにしちゃっていいわよ。』
『言ってくれるな。このアマ…』
とある週末、紫苑とスネークは麓の街へ買い出しに出かけることにした。
久しぶりの二人きりでの外出。レイブンも気を利かせた?のか二人を送り出してくれた。
楽しいショッピングに紫苑は終始ご機嫌でニコニコとスネークに話しかけていた。
穏やかな日常。
楽しげな空気。
こんな生活がいつまでも続くと思っていた。
-彼ら-に出会うまでは。
1970年 この時、紫苑20歳。
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「あ~思い出したわ。人のデートをめちゃくちゃにしてくれちゃって。次に会ったら慰謝料請求しなくちゃ。」
頭を軽く振ると、立ち上がって体に異常がないかチェックする紫苑。
確認が終わると扉に近づく。期待はしていなかったががっちりと鍵がかかっていた。
どうやら自分を攫ったらしい奴らも気づかなかった-相棒-の出番かしら。
紫苑がその姿を変えようとしたとき、外から声をかけられた。
『どうやら目覚めたようだね。お嬢ちゃん。』
扉の外から女の声がした。勝ち気で冷静な大人の女だ。
『あなたは誰?ここは何処なの?』
『あたしの名前はトップ。ここはキューバのほぼ真下のサンヒエロニモ半島、別名死者の島。そっちは?』
『私の名前は紫苑。アメリカにいたら変な奴らに襲われてね。気づいたらここってわけ。』
『そいつらは≪FOX≫だね。』
『FOX?!彼らがどうしてスネークを襲ったの?』
『スネーク?!あんた、BIGBOSSの知り合いなのかい?』
『まぁそんなとこ。トップさんは軍人さん?』
『トップでいいよ。あたしの所属はグリーンベレー。もっとも部隊は奴らの襲撃で壊滅、生存者はあたしくらいだろうね。』
お互いの素性をある程度交換すると紫苑は脱出の計画を相談した。
『ねぇトップ。ここから脱出するにはどうしたらいいかしら?』
『そうだな…ベットの下に換気ダクトはあるが鉄格子が固定されていて並みの力では動かせない。』
『-並み-ね…それなら大丈夫そう。』
そう言うと紫苑は鉄格子に近づき-相棒-と力を合わせて強引に引きはがした。
ずりずりとダクト内を這い出すと隣の独房に出た。幸運なことにその部屋には鍵は掛かっていなかったようで静かに抜け出すとトップの独房に向かった。
『驚いたね…あんた魔法でも使ったのかい?』
扉越しに対面したトップは黒髪を後ろに撫でつけた、凛々しい目をした女性だった。特にその女性ですらも目を奪われるその胸部…
『…あなどれない…』
『はぁ?』
怪訝な表情のトップに慌てて顔の前で手を振りごまかそうとするがその顔は耳まで真っ赤だ。
『紫苑。牢の鍵はそこの壁にかかっているやつだ。早いところ出してくれないか?』
『え、えぇ。そうねそうよね!』
ぱたぱたと鍵を取りに行く紫苑を見てなんだかほっておけない気になってきたトップはこれから彼女を守りながら本国に救援を求めなければならないことに不安を覚えた。
『はい!これでトップも自由になれたわね。私はスネークを助けに行くけどあなたはこれからどうするの?』
まるでピクニックに行くかのように死地へ飛び込もうとする少女にトップは絶句し、次いで猛烈な怒りがわいてきた。
『あんた、状況が分かってんのかい?!ここは敵地のど真ん中。助けだってくるかわからない。そんな状態で生死のわからない人間を探すだって?!冗談はほどほどにしな!!』
般若の形相で詰め寄るトップをポカンと見つめていた紫苑。
ふわりと彼女は微笑んだ。
『ありがとうトップ。優しいのね。』
今度はトップが呆気にとられた。
自信に満ちた表情で彼女は断言する。
『でも大丈夫。スネークは必ず生きてる。この事態だってなんとかしてみせる。』
『…いくら伝説の英雄と言ったって、たった一人じゃ…』
『一人じゃないわ。』
その眼に宿るは戦士の魂。
『わたしもいるもの。必ず救ってみせるわ。』
放たれるは英雄の気迫。
『わたしの前で…もう誰の命も散らさせはしない。』
『もちろんあなたもよ。トップ。』
『…フフッ…たいした-BOSS-っぷりだね。』
からかうようなトップの声とは裏腹に彼女の眼には強い意志が宿っている。
背筋を伸ばし静かに敬礼を行う。
『私はトップ少尉。これよりあなたの指揮下に入ります。』
『よろしく、トップ。私にはあなたが必要なの。一緒にがんばりましょう。』
またひとり、宮殿へと誘われる。
『それに早く帰らないと…』
『?どうかしたのか?』
『えぇ。心配させるととてつもなく恐ろしい人がいるのよ。』
『なんだ。そりゃあ心配もするだろうさ。』
『う~ん。お説教は勘弁してもらいたいわね…』
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Side SNAKE 通信基地にて
マラリアに感染した仲間を救うため、スネークは-主治医-に連絡を取っていた。
『急いだほうがいいわね。あなたもすでに同じ原虫に…?!ちょっと?!あなたどうやっ』
『?!!パラメディック!!どうし『少し目を離した隙に浮気かしら、蛇さん?』?!!レイブンか?!』
『安心して。あなたの2号さんなら無事よ。ちょっと仮眠をとっているだけだから。』
『俺とパラメディックはそうい『紫苑は何処?』…無事らしいがまだ合流できていない。』
『やはりあなたに紫苑を任せるべきではなかったわね。』
地の底から轟くような怒りに満ちた声を無線越しに聞いたスネークは思わず冷たい汗が背中を伝った。
『紫苑は俺が必ず救『そこは何処?』……おい!いい加減にし『何処?』…クッ!キューバのほぼ真下、サンヒエロニモ半島だ。』
『わかった。今すぐ行くわ。』
一方的に無線を切る気配がしたので制止の声をあげようとしたスネークだが、
『そうそう、言い忘れてたわ。
紫苑に何かあったら…………
わ か る わ ね ?』
『………Over……』
あたらしい仲間はミスティークさんと仲良くできるでしょうか?