Historia~彼女を救う彼女の物語~   作:瞬く陰と陽

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彼女たちのタクティクス

男、ロレントは自他ともに認める優秀な軍人だ。いや、だったと言うべきか。彼は国家を守護する防人として誇り高い男でグリーンベレー内でもあくの強い方だったが悪人ではけしてなかった。理想のためなら己の命を捧げることの出来る人物だったのだ。

そう…ここ‐サンヒエロニモ‐に来るまでは。

 

トップはロレントの所業を思い出していた。

自分達を率いていたこの男は、FOXの襲撃時にジーンの精神攻撃に堪えかねて己が信念を変質させてしまい、あろうことか味方を殺害し始めたのだ。

 

『お前に無惨にも殺された仲間達の怨み…今ここで晴らすッ!』

 

『なんたる不敬ッ!貴様も兵士ならば上官に従わんかッ!』

 

『黙れ!!部下を撃ち殺しといて何が上官だ!!歪んだ理想に付いていくものなど居やしないッ!』

 

『ええい!軍法会議も無しだ…判決ッ!死刑ッ!』

 

まるで猫科の動物を思わせるように背を丸め牙を剥くロレントにトップもその引き金にかけた指に力をこめる。

 

『レディを待たせる男は三流以下よ。』

 

機械室に響く女の声とともにトップの背後より現れた女、アイリーンは高級なカクテルドレスを微かに汚しながらも気品を溢れんばかりに見せ付けていた。

 

『ふん!女性と言えど一兵卒たるべし!!貴様も不敬罪だ!!』

 

『残念ながら交渉する価値も無さそうね…貴方…後悔するわよ。』

 

『…アイリーン。あの男はイカれてるが兵士としては一流だ。恐らくここは奴の仕掛けたトラップルーム…お前は逃げろ!!』

 

『つれないわね、トップ。…それに私がただ守られる女に見えて?』

 

薄く笑うアイリーンにはすでに見えているものがあった。

 

『教えてあげるわ、トップ。…私達の勝利は揺るがない。私を、そして貴女自身を信じなさい。』

 

一流の軍人と一流の策士の駆け引きが始まった。

 

 

 

ロレントは己の力量に絶大な信頼を置いている。ありとあらゆる手段を用いて自らは勝利を得てきた。挨拶代わりのワイヤートラップは致命傷には至らなかったがまだ手はある。この女どもを理想のための礎にすることなど他愛もない。

 

ロッドを構えるロレントの思考をアイリーンはこう推測した。

そして評する。可愛いものだと。

 

ロレントが気合一閃、アイリーンを打ち据えようとロッドを振りかぶった。

 

Bang!

 

アイリーンの背後から撃たれた銃弾はロッドの先端を正確に捉えその衝撃から大きくのけぞることになったロレント。素早く左足で一歩踏み込んだアイリーンはワルツを踊るかのように左の掌底でロレントの右あごを打つ。さらに大きく体勢を崩されたロレントに対し勢いを殺さぬまま、鋭く尖ったヒールを鍛え上げられた腹筋に突き立てた。口と腹から血を流しながらもロレントは反撃を試みる。蠍の毒針のごとくナイフをアイリーンに対して投擲したのだ。ダメージからかわずかに逸れ、アイリーンの頬を掠めるに留まったがいったん距離を離すことに成功した。

 

『小癪な女めッ!!吾輩に血を流させるとは…懲罰房行きだ!!』

 

『軍隊ごっこは結構よ。それに…のんびりしている暇はないわよ?』

 

『あ?!…しまった!!』

 

側面から飛んできた殺気に後転しながら回避すると銃弾の雨が襲いかかってきている。

何とか物陰まで回避したロレントは歯噛みした。

 

『こうなったら本気で行かせてもらう!!』

 

ロレントは体に巻きつけた手榴弾を使おうと手を伸ばす。

しかしその指先に切り札が触れることはない。

 

『探し物はこれかしら軍人さん?』

 

ロレントが遮蔽物から飛び出すと己の切り札をその手にぶら下げたアイリーンが笑っていた。

 

『貴様!!吾輩の切り札を!!』

 

『こんな玩具があなたの切り札?それなら先に見せちゃだめよ。見せるならさらに奥の手を持たないと。』

 

『吾輩を愚弄する気か…この女狐め!』

 

激高し飛び掛かるようにアイリーンに襲い掛かるロレント。

 

『させるか!』

 

まさにアイリーンへと肉薄しようとするロレントに対し横手から飛び出してきたトップ。

その手には先程アイリーンを掠めたロレントのナイフが握られていた。

本来ならばそのリーチの長さが生かされるロッドがナイフの間合いに入られたことによりその脅威を半減させていた。力で劣るトップは素早いナイフ捌きで巧みにロレントを翻弄していた。しかし近接戦闘の達人であるロレントは一瞬の隙を突きトップを弾き飛ばした。地面に転がるトップに対して檄を飛ばす。

 

『立てぇぃッ!ここは戦場だぞ!』

 

『そんなあなたにプレゼント♪』

 

親しげな声に思わずロレントが振り向くとそこには宙を舞う己の切り札が。

空に手を伸ばし切り札を掴みとろうとするロレントは今度こそ笑みを浮かべる。

 

『おぉ。ついに改心したか…』

 

投げてよこしたアイリーンを見るとその手には銀に光る輪っかが一つ。

 

それは手榴弾のピンだった。

 

 

『……クソッ……』

 

 

BAAAAANG!!

 

 

 

 

TOP・Irene WIN!!

 

『…ケホケホッ……トップ!無事なの?!』

 

爆発の煙に咽ながらもアイリーンがトップの安否を確認する。

 

『…ゴホッ…あぁ…平気だよ。』

 

埃塗れになりながらトップは立ち上がった。その眼には複雑な感情が宿っている。

 

『…奴は死んだか…道を誤まらなければ英雄になれたかもしれない男だったが…』

 

『そうかしら?理想は人を狂気へと駆り立てる劇薬よ。こうなることも運命ね。』

 

『……さぁね。今となっては済んだことさね。』

 

二人は顔を見合わせると管制塔の紫苑達と合流するため駆け出した。

 

 

 

 

 

『…一時撤退………』

 

 

 

~~~~~~~

 

ゼル・コンドルブレイブはプロであるから受けた仕事は必ずこなす。しかし気に入る気に入らないは別である。そして今回の仕事は気に入らなかったが依頼者が依頼者だ、受けるしかなかった。依頼内容は九頭紫苑の拉致、また目撃者などの排除だ。一緒にいる女性には申し訳ないが安らかに眠ってもらおう。ゼルは同行者の女性の相手を部下に任せると紫苑に歩み寄る。

 

『多少は痛い目を見てもらわねばならんようだね。』

 

『結局そうなるわけ…ならっ!』

 

THWIP!

先手を取ったのは紫苑。右手からウェブを打ち出した。顔面に向かって打ち出された糸の弾丸を首を傾けてかわしたゼルに身体能力を強化して接近した紫苑は体重の乗った左の上段回し蹴りをを打ち込むが右手でやすやすと掴み取られてしまった。紫苑とは二回り以上の体格差のある相手ではさすがに通用しないのだろう。しかし紫苑にあせった様子はない。

 

『すばしっこいが所詮子どもだ。このまま連れ帰らせてもらおうか?』

 

『あなた以外とおしゃべり?とりあえずお口チャックね♪』

 

THWIP!

 

『…ムグッ?!』

 

蜘蛛の糸により口を塞がれたゼルが思わずつかんだ手を放すと、その手の人差し指を左手で掴み捻りあげるように腕全体を極める紫苑は右の肘を顔面に鋭く当てる。右手で鞭をはたき落とし、左ひざを思い切り蹴り抜いた紫苑は流れるようにゼルの背後へとまわり彼を背中から叩き付けようとした。しかしゼルはその巨体に似合わぬ軽やかな動きで前宙を行うと関節技を抜け、着地と同時に重く鋭い左の拳を放つ。紫苑の腹部に向けられた攻撃を飛び上がって右足で受け止め、空を舞うように間合いを開ける紫苑。自分の口にナイフを差し入れるようにして糸を切り剥がしたゼルは鋭く紫苑をにらむ。

 

『…少々甘く見ていたようだ…ここからは本気で行かせてもらおう。』

 

『あなたみたいに強い人がいるなんて…まだまだ鍛錬が足りないわね。』

 

構えあう二人。

一方ゼルの配下五名の精鋭に囲まれたパーセフォニーはトップから受け取った銃を取り出した。

 

 

『銃を置け!』

 

一人が叫ぶとほかの隊員もトリガーに指をかける。

 

 

『どんな兵器にも長所と短所がある。』

 

唐突に語りだしたパーセフォニーに隊員は怪訝な顔を隠せない。

 

『銃器の長所は引き金を引けば同じ殺傷力の弾丸を発射できる。それは訓練された軍人も生まれたばかりの赤子も変わらない。』

 

パーセフォニーは取り出した銃のスライド部分を持つと隊員の一人に差し出すように突き出した。

 

『一方短所は銃口からしか弾丸は発射されないということ。』

 

警戒する隊員の目の前でゆっくりとパーセフォニーは銃を空中へと放り上げる。

 

『つまり銃口の矛先から常に体を反らし続ければ…脅威ではないということ。』

 

目の前の隊員がパーセフォニーから放たれる威圧感に負け引き金を引いた瞬間、その女性は踊るように体を捻り射線上から退避すると目標を失った弾丸は仲間の一人の肩に着弾。筋肉の収縮により銃のトリガーを引いた隊員は崩れ落ちながら銃弾をまき散らす。突然の戦闘開始に残りの隊員はパーセフォニーに照準を絞り引き金を引こうとするが常に死角に回り込む動きに狙いが定まらない。ここだと思い放たれた弾はまたも美しいターンとともに身をかがめたパーセフォニーによって空を切り、反対側にいた隊員の太ももと腹部を貫く。見方を誤射した隊員が思わず固まるとまた他の隊員が送り出した銃弾によって肩口を撃ち抜かれた。これ以上のフレンドリーファイアを避けるために一人の隊員が軽やかに舞うパーセフォニーに掴みかかろうとするが、ターンの勢いのまま振り抜かれた彼女の長い右足によって側頭部を起点に一回転してしまった。

 

『戦闘データに基づき、弾丸の軌道を解析。一定の定理に基づいて軌道を予測、退避と共に相手死角内に回り込み攻撃を行うという攻防一体の戦闘術。』

 

空から降ってきた友の銃を掴み取り、最後の隊員の眉間に突き付けながらパーセフォニーが語りだす。

 

『この戦闘術を極めることにより、攻撃効果は120%上昇、一撃必殺の技量は63%向上するわ。』

 

『…そ、その戦闘術とは?』

 

 

 

 

『………何だったかしら……?』

 

真顔で不思議そうに小首を傾げながら銃底を振り下ろすパーセフォニーの姿を最後にその隊員の意識は途切れた。

 

 

二度目の攻防。

最初に仕掛けたのはゼルだ。糸を切り裂いたナイフを手にコンパクトな突きを紫苑ののど元へ繰り出す。皮一枚の距離でかわした紫苑は跳躍すると天井へと張り付いて片手でウェブを撃つ。体ごと地面を転がりながら躱したゼルは腰から拳銃を抜くと蜘蛛のように張り付く紫苑へと引き金を引く。柱から柱へ糸を飛ばし4次元的な動きで銃弾から逃れる紫苑に対して執拗に銃口を向け続けるゼル。そして弾切れした銃を投げ捨てると再びナイフで挑みかかろうとしたが一瞬の隙をついた紫苑のウェブにより弾き飛ばされてしまった。

 

『…クッ!!まさかここまでやるとは…』

 

『おあいにく様。こっちは伝説の英雄に指導を受けてるの。もう簡単に捕まってあげらんないわ。』

 

ここにいる経緯を思い出して思わずしかめっ面になる紫苑にゼルは不敵に笑う。

 

『フフッ…もう少し私が若かったら君を口説いていたところだよ。』

 

『そう。よほど死にたいようね。』

 

絶対零度の言葉とともに後頭部に押し当てられた冷たい感触。

 

『パーセフォニー!』

 

嬉しそうに声をあげる紫苑とは対照的にゼルは戦いの終焉を悟った。

 

 

『トドメを刺さんでいいのか?』

 

絶対に殺すと言ってきかないパーセフォニーを何とか宥めた紫苑に拘束されたゼルが尋ねる。

 

『貴方はお金で雇われただけなんでしょう?もう勝負はついたし、そこまでする必要はないわ。』

 

『…そんな甘い考えではいずれ命を落とすぞ?』

 

厳しい顔で忠告するゼルに紫苑は嬉しそうに笑う。

 

『ふふ。やっぱり優しいのね。でも大丈夫、私は独りじゃないわ。それにあなただって。』

 

そう言って紫苑がゼルの後ろを見やる。そこには無傷ではないが命に別状はないゼルの部下たちが隊長と同じように拘束されていた。

 

『彼らにこんなにも思われているなんて、よっぽどいいリーダーなのね。』

 

ふんわりと笑う紫苑にキョトンとしたゼルは弾かれた様に笑い出した。

 

『ククク…ハーハッハッハッ!!娘程に年の離れた少女に褒められるとはな。』

 

『…た、隊長。』

 

『…仕事はお仕舞いだ。…我々もそろそろ-ローニン―は卒業すべきかもな…』

 

彼らのやり取りを優しく見守っていた紫苑はそっと立ち去ろうとしたが、その背にゼルが声をかける。

 

『紫苑!…この借りは必ず返させてもらうぞ!』

 

紫苑はその声には答えずひらひらと手を振っておいた。

 

 

 

 

 

 

『…あ?!あの人たちの拘束外すの忘れちゃった!』

 

『…彼らはプロよ。問題ないわ。』

 

『で、でも…『問題ないわ。』…は、はい…』




みんななかよくな~れ(魔法)

戦闘描写ムズイorz

ようやく次回スネークと合流!

するよね?
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