Historia~彼女を救う彼女の物語~   作:瞬く陰と陽

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彼女とすれ違う運命 救出篇

『スネークが囚われている迎賓館の位置がゼルの部下からの報告で判明した。これより俺たちは迎賓館に向かい、その内部に潜入。スネークの救出作戦を敢行する。』

 

スネーク救出メンバーを集めたロイがブリーフィングを行っている。

今回の作戦では紫苑とジョナサンがそれぞれチームを率いて潜入する事となった。

 

『…すいませんゼルさん…』

 

『いや…まぁ依頼は依頼だ。』

 

紫苑のチームはゼル一人だった。ゼルの配下は迎賓館から抜け出す者がいないとも限らないため周囲の監視を行っており今回の作戦に参加することはできない。では紫苑に傅いた三人の戦乙女はというと…

 

 

『ぐぅ…zzz』

 

『ムニャ…zzz』

 

『え~?私~?や~ね~酔ってないわよ~』

 

上からトップ、アイリーン、パーセフォニー。最後に至っては最早別人である。

どうやらスネークがミサイルサイロに向かう前から飲んでいたらしいワインの空瓶が部屋のそこかしこに放り出されている。

この惨状を見て紫苑は彼らの救出作戦参加を断念した。

 

『本当にすいません…いつもはこうじゃないんですけど…』

 

『分かっているさ、Ms.紫苑。それにMs.アイリーンから何かあったときの指示書をいただいている。…もちろんこうなる前の彼女に…だがね…』

 

二人はもう一度部屋の中を見てその光景を記憶の隅に追いやると肩を並べて出て行った。

 

 

 

 

『……』

 

『……もう行ったわトップ。』

 

二人が立ち去った後、トップとパーセフォニーがむくりと起きだす。

 

『しかしなんだってまぁこんな回りくどいことを…』

 

『さぁ…アイリーンには何か考えがあるでしょう?』

 

二人はいまだに眠り続けるアイリーンへと目を落とす。

 

『…お得意の心を読むアレでこいつの頭ン中を見てみれば?』

 

『あら?そんなことしないわよ。』

 

少し嫌味も込めていうトップに事もなげに返すパーセフォニー。

思わぬ言葉にトップがポカンとしているとさらに続ける。

 

『だって分かってしまったらつまらないでしょ?』

 

にっこりと笑うパーセフォニーにトップもつられて笑い、もう一度すやすやと眠るアイリーンに目を落とす。

 

『それで…こいつはいったいどうす…アレ?』

 

振り返るとすでに部屋の中にパーセフォニーはいなかった。

 

『……一人で運べと…』

 

散らかった部屋の中、その背中には年頃の女性には似つかわしくない哀愁が漂っていた。

 

 

~~~~~~

 

 

スネーク救出作戦に向かった部隊は到着後二手に分かれた。

紫苑隊が上層階、ジョナサン隊が地下をそれぞれ捜索することになった。

 

『よし、各員持ち場に着いたな。…紫苑…くれぐれも気を付けるように。』

 

『えぇ。あなたもねジョナサン。』

 

建物の裏手から侵入する手はずを整え、先に紫苑が本棟の扉を開けてゼルが素早く中へ入りクリアリングを行う。その光景を見送ったジョナサンも部下を一人連れ、地下へと続く扉へ体を潜り込ませて行った。

 

紫苑が二階へ続く階段を見つけるとこっそり先を窺う。階段を警戒する敵兵士の後ろの壁に糸を飛ばして張り付くと、するすると音もなく天井を這って背後に降り立つと素早く首を絞めて気絶させると物陰へと隠した。

 

『さぁ行くわよゼル。』

 

 

 

 

ゼルは掴みかねていた。自分と戦った時の戦士としての顔とキャンプで出会った少女の顔。

どちらが本当の彼女なのだろうか。

 

優秀な戦士か

 

家族を思う心優しき少女か

 

 

…いや…

 

自分が殺めてきた多くの戦士も家族はいただろう…

 

きっと彼らも…

 

 

 

『ゼル?』

 

こちらを振り返る紫苑に何でもないと手を振ると彼女より前に出る。

途中の兵士達は殺すこともできたが…彼女に血を見せることはためらわれた。

部隊を指揮する私とて厳しい訓練を積んでいる、この程度の兵士を無力化するなど造作もない。

 

順調に進む私たちに無線が入る。どうやらジョナサン隊がスネークを確保したらしい。

喜ぶ紫苑を落ち着かせつつ彼らと合流しようとする私の目に映る見慣れぬ軍服の男がいる。

 

『貴様が反乱の首魁だな!!吾輩の部下となるならば見逃してやらんでもない!!』

 

 

どうやら面倒なことになりそうだ……

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

(良かった…スネーク…生きていてくれて本当に良かった)

 

ジョナサンからの報告でスネークを無事に救出、脱出行動へ移っているらしい。

早くスネークの顔を見たい。

逸る気持ちをゼルに宥められながら合流しようとする私の前に見慣れぬ男が立ちはだかる。

 

崇高な目的のため私達を配下にするとのたまう男の言葉を理解することはなかった。

 

 

 

 

『……そこを……』

 

 

『何?!声が小さいぞ二等兵!!』

 

 

 

 

紫苑の背に紅蓮の焔が立ち上る。

全身の筋肉が軋み、固く握られた右の拳に揺らめく炎が絡みつく。

 

 

 

 

 

 

『そこを…ドォケェェェ!!!!』

 

 

 

気合一閃。

 

放たれた跳ぶ拳撃は

男の握るロッドを小枝のようにへし折り、

 

宙を舞った男の体は

二階の壁を紙切れのごとく突き破り、

 

空を飛んでいた

フライングプラットフォームを撃墜し、

 

巻き込むように墜落した二人の頭上を

突如乱入したトラックが飛び越えて行った。

 

 

 

 

『スネーク乗って!』

 

『エルザ!?何故君が…?』

 

『急いで!』

 

運転席から叫んだエルザに頷いたスネークは弱音を吐く兵士を叱咤すると担ぎ上げてトラック乗り込もうとする。

 

 

『スネェーーーク!!!』

 

二階に空いた大穴から顔を出した紫苑が叫ぶ。

 

『紫苑!?お前…どうして?!』

 

驚くスネークが動きを止めると一人の兵士がその銃口を紫苑に向ける。

それに気づいたスネークがエルザに車を止めろというが雨霰と降り注ぐ銃弾に強行突破を試みる。

 

 

『シオ――――――ン!!!!』

 

 

スネークの叫びは銃声にかき消された。

 

 

~~~~~~~

 

 

 

『ロイ!!いったいどういうことだ!!どうして紫苑があそこにいた!!』

 

『…あんたを救うって聞かなくてな…』

 

ロイの言葉に激高したスネークがロイの胸ぐらをつかむ。

 

『やめて!!スネーク!!今は争う暇はないわ!!』

 

二人の間に割ってはいるエルザにスネークはロイを離す。

 

『…ゴホッゴホッ……紫苑は無事だ。さっき連絡があった。彼女たちはFOX内にいた男に保護され、今はメタルギア組み立て工場にいるらしい。』

 

『何?そんなやつがいたのか。…まさかジーン?!』

 

『いや違う、そいつは-トキオカ-と名乗った。どうやら日系人らしい。』

 

二人の会話から出てきた男の名前にエルザが反応する。

 

『-トキオカ-!?まさか…彼があの場にいたの?!』

 

『おい…スネーク。彼女は?』

 

『エルザだ。彼女が脱出を助けてくれた。』

 

『ジーンの部下を仲間にしたのか?』

 

 

上から下まで舐めるようにエルザを見たロイはスネークを連れて少し離れた。

二人の会話を耳の端で聞きながらエルザは思考する。

 

また…姉でも見えなかった。いったい彼は…そしてあの少女も。

 

エルザはスネークを促し工場の場所を確認しに行った。

その道中、スネークに何故ジーンを裏切ったのかを聞かれた。

 

ジーンへの感謝の念と兵器として利用される姉妹の悲哀。

 

そして

 

 

-核-

 

 

 

スネークと同じ被曝者であるが故の悪夢。

 

 

未来に希望を残すために…スネークに託すために。

 

 

 

 

あの恐ろしいジーンを裏切ったのだと。

 

姉の見た世界を恐怖に陥れるスネークと自分のメタルギアを止めるスネーク。

工場を見下ろしながら言った言葉に嘘はない。

 

『私はあなたを信じる。』

 

 

 

…なのに…

 

何故かあの少女が脳裏に浮かぶ。慟哭をあげる少女の姿が。

 

 

 

 

『…あそこにいるんだな…』

 

『え?』

 

 

 

『…誰にも紫苑は渡さない…俺のものだ…』

 

 

すがるような声。

 

 

あの少女もいるであろう工場に二人は背を向けた。

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

時は少しさかのぼり、迎賓館でスネークと再会した紫苑。向けられている銃口に紫苑は気付かなかったが、ゼルはいち早く察知し、遮蔽物へ引きずり込んで退避させていた。

 

『スネーク?!スネークは?!』

 

『落ち着きなさい、紫苑。彼ならすでに救われている。我々も脱出するぞ。』

 

 

ゼルの言葉に紫苑も自分の置かれた状況を思い出し、急いでその場を離れようとする。

しかしそんな二人の前に立ちふさがるものがいた。

 

 

 

『この私から逃げ切れると思ったか…小娘。』

 

『……あなたは…FOXの…』

 

多数の部下を引き連れた男が紫苑達の前に現れた。圧倒的強者の風格を纏ったその男。

 

『そう…私の名は……ジーン。』

 

 

この反乱の指揮官、ジーンだった。

 

 

『はじめまして…というべきかな。君が紫苑だな。』

 

『えぇ、ヘリから私を見た人ね。』

 

『ほぅ。気づいていたのか…君はいったい何者なんだ。』

 

『…あなたに教える必要はない。スネークのところに帰らせてもらう!!』

 

戦闘態勢になろうとする紫苑を鼻で笑うと、ジーンは片手をあげて部下を下がらせる。

 

『-帰る-…か。』

 

『…?!何が可笑しいのッ!!』

 

『やめろ紫苑!!』

 

ゼルの制止もむなしくジーンに躍り掛かった紫苑。

 

『ハァッ!!』

 

VAAN!!

 

『この私に触れようなどと…無謀もいいところだな。』

 

野獣のように飛び掛かった紫苑はジーンの強力なESP-念動力-に弾き飛ばされて元いたところまで押し返された。

 

『…さすがに一筋縄じゃいかなそうね…』

 

牙をむく紫苑が再び襲い掛かろうと力を込め始めたとき、割って入る存在がいた。

 

 

 

『まぁその辺にしときましょうよお二人さん♪』

 

『グリードさん?!どうしてここに?』

 

『…またあなたか…』

 

驚く紫苑と苦々しげなジーンをよそに、相変わらずのよれた白衣をはためかせ芝居がかったしぐさで両手を広げるグリード。

 

『ジーン君。彼女たちの身柄は僕が預かりましょう。』

 

『……それが通るとでも…』

 

『むろん君にもメリットは用意してますから♪』

 

邪気の全くうかがえない笑顔で言うグリードに諦めたのか、ジーンは背を向けると部下を残して引き揚げていった。

 

 

ジーンの部下に囲まれて紫苑とゼルは迎賓館を後にした。

連れていかれたところは新型兵器、メタルギアの組み立て工場。その中の一角にある部屋の中で紫苑とゼルは軟禁されることとなった。

 

『…これは…助けてくれたってことでいいんですよね?』

 

『おそらくは…』

 

後ろ手に拘束された二人が話していると扉を開けてグリードが入ってきた。

 

『お待たせしました~。おとなしく待っていてくれたみたいで嬉しいですよ♪』

 

『…グリードさん…スネークの元に帰してください。』

 

『心配せずとも彼はここにやってきます。6年前と同じように…』

 

 

『また…スネークの力になれないんですね…』

 

悲しげに目を伏せる紫苑のすぐそばに膝をついたグリードは優しく肩を抱き寄せる。

 

『そんなことはありません。あなたの力は素晴らしい。私の預けた子たちの目を見ればわかる。』

 

『アイリーンとパーセフォニー?私は何も…』

 

『いいえ…あなたが彼女たちとともに勝利-VICTORY-へと導くのです。』

 

 

『勝利…いったい誰に?』

 

『-誰-にではなく-何-に…』

 

 

そっと紫苑の耳元で一滴の悪意も感じられない澄んだ声で男は言った。

 

 

 

『運命を弄ぶ…-神-に勝利を掴ませないために……君の愛で…満たすんだ。』

 

 

 

 

余りにも無垢で甘美な言葉は瞬く間に紫苑の心を優しく侵食していった。

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

部屋からグリードはゼルを伴い出てきた。紫苑はどうやら眠っているようだ。

 

『それではゼル君は一足先に本国にお帰りということで。』

 

『…まだご依頼の途中のはずですが…』

 

『いいえ♪ちゃんと僕の元に連れてきてくれたでしょう?』

 

にっこりと笑うグリードにゼルは背を向ける。

 

『彼女の事はロイに連絡させていただきます。』

 

『えぇもちろん♪頑張って助けに来てもらわないと♪』

 

ホンの少し顔を歪めたゼルが無言で立ち去るとグリードは白衣のポケットから小さな試験管を取り出した。

 

 

 

 

『こちらも欲しいものは手に入れましたしね…』

 

 

 

 

無垢な欲望は決して尽きない。

 

ただ己が望むままに。

 




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