Historia~彼女を救う彼女の物語~   作:瞬く陰と陽

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八月中に投稿できなかったorz

いよいよクライマックスだ!


彼女とすれ違う運命 激突編

無機質な部屋に男の声が響く。

 

『何だと…!?正気か貴様ッ!』

 

相続者計画で-造られた-ジーンらしからぬ感情的な声にザ・グリードは面白そうに眼を細めた。

 

『おやぁ?ひょっとしたら私の考えを読んじゃいました?』

 

わざと読ませたくせにッ!!内心の怒りを隠そうともせずジーンは吐き捨てる。

 

-狂っている-

 

ジーンはこの男が地獄の住人のようだと感じていたが認識を改めざるを得なかった。

噛み締めるようにジーンは語りだした。

 

『絶対兵士やメタルギア、核兵器に…この私ですらも、本来は人が踏み込んでいい領域ではない。』

 

ジーンは拳を固く握る。

 

 

『何故なら制御しきれない-かもしれない-強大な力だからだ!!』

 

ザ・グリードは不思議そうに小首を傾げる。

 

『だが貴様の持ち込んだ-それ-は…最初から制御することを放棄している!!最早兵器などと言う次元ですらない!!ただの悪魔の所業だ!!』

 

ジーンは机の上に置かれた注射器を指さし叫ぶ。

 

 

 

 

『-制御-に一体何の意味がある?

 

 混沌の中にこそイキモノの最もシンプルな欲望が顕れる。

 

それは生きるための力、生存への渇望。その過程で生きるに値しないもの達は新たなカオスの火種となればいい…

 

 

 

そんなことも分からないとは…存外つまらない男だったのか?君は。』

 

 

この男は地獄そのもの…世界の破壊者だ…

 

 

 

『…その薬を使えば力が得られる。…当然だ。その薬は人間を根底から作り変える。…ただの意思なき化け物に。』

 

『君やヌル君は違うとでも?』

 

『違う!!我々には使命がある。-賢者達-の支配から世界を解き放つという使命が!!…私はあなた方-怪人同盟-も同じ目的だと思っていたが…こんなものでは解き放つどころか終焉を迎えてしまう!!』

 

 

 

 

『その通りだよ、ジーン。世界を終わらせるんだよ…君がね。』

 

ジーンには見えなかった。鼻と鼻が触れ合うほどの至近距離にザ・グリードが接近する動作が。

 

ジーンは感じていた。自分の内部が作り変えられていく、人ならざるモノに。

 

 

 

 

『君は素晴らしいスペリオール-超越者-となりますよ、ジーン君♪』

 

 

~~~~~~

 

ところ変わって、ESP少女を鹵獲した三人はというと…

 

 

 

『飽きたわ。』

 

 

『『~~ッしつこい!!』』

 

手持ちのワインを飲みきったパーセフォニーは-大人しく-自分の出番を待つために部屋にあったソファーの上で扇情的な表情を浮かべながらその肢体を横たえていた。最もその色香は同室の美しい女性たちには何の効果もなく、むしろ数分に一回繰り出されるパーセフォニーの愚痴に苛立ちを募らせていた。

トップは自分を落ち着かせるように一度大きく息を吐くと口を開いた。

 

『だけどまぁ…パスの言うことも分からないでもないさ…一体いつまで待たせるつもりだい?』

 

『…もうすぐ、動きがあるはずよ。私の筋書き通りなら…』

 

BEEP!!BEEP!!

 

間をおかず彼女の言う通りに机の真ん中に置かれた無線機がけたたましくその存在を主張しだした。

 

 

『…ちょっとしたホラーだねこりゃ…』

 

引き攣った笑いをこぼすトップを尻目にアイリーンは無線機に手を伸ばす。その様子には僅かにだが緊張の色が滲んでいた。

 

 

『…アイリーン?』

 

 

『…大丈夫。私に任せて。』

 

力強い言葉で己を鼓舞したアイリーンは無線機を起動した。

 

 

《おはようクラリス。》

 

『…ッ?!博士-ハンニバル-?!貴方がどうして…』

 

《君に伝えたいことがあってね。彼にお願いしたのさ。》

 

『私に…伝えたい事?』

 

 

 

 

《…君を解放しよう、クラリス。》

 

『…解…放…?』

 

 

《君に相応しい舞台が整ったように私にも再び腕を振るう機会がやってきたのだよ。》

 

『…私を…棄てると…』

 

《…私も男の子だと言うことだ。…自分の力を試したい…君に挑戦したいのだよ。》

 

『何をバカな…』

 

《我々は運命を弄ぶ者共への復讐を敢行する。その為にはまだまだ私は未熟だと感じた。君には私を高める存在であってほしい。》

 

『……ッ!!!随分身勝手な話ね!!』

 

無線機に思わず怒鳴り付けるアイリーンだが目覚めた深淵の怪物には揺らぎ等あり得ない。

 

 

 

《今回は君の思い通りに行ったようだ。迎えもやったから彼に付いて行くと良い。……TATA-バイバイ-クラリス。》

 

 

 

 

-次は私と遊ぼう-

 

 

 

 

 

『…声だけだってのに

 

 全身が総毛立つ悍ましさ…

 

 今の男は何者だい?』

 

 

 

『…私が知る中で

 

 最高の知能と

 

 最悪の猟奇性を兼ね備えた

 

 

 史上最も危険な犯罪者。

 

 

 

 …そして

 

 鏡に映った私自身。』

 

 

 

普段感情を読ませないアイリーンの苦悩に満ちた言葉にトップは何も言えなかった。

 

部屋に落ちる静寂は突如跳ね起きたパーセフォニーによって破られた。

 

 

『…いけない!!ヤツが来る!!』

 

驚いて目を丸くするトップとアイリーンを尻目にソファーに立てかけてあったライフルを蹴り上げて空中で掴みとると扉に向かって引き金を引いた。

 

DADADA

  DADADADA

      DADADA!!

 

鼓膜を叩く発砲音に二人は物陰へと飛び込むとお互いの顔を突き合わせる。

 

『オイっ!アイツついにぶっ壊れたのかい?!』

 

『壊れてるのはもともとよ!!…でもこんなになるなんて…』

 

 

カチッ

 

 

最後の弾丸を吐きだしたライフルを投げ出すと、パーセフォニーはじっと扉を睨み付ける。

漫画に出てくるチーズの様に穴だらけになった扉は当然立て付けも悪くなっておりギィギィと音を立てている。

 

ついには部屋の内側へと倒れこんでしまった。

舞い上がる硝煙と埃。

薄暗い室内に射し込む外の明かり。

 

霞んだ白い世界から無機質な声がかかる。

 

 

『大層な歓迎に感動を禁じ得ないよ、メロビンジアン夫人。いや元夫人か。』

 

『一匹見つけると30匹はいるって言うけど貴方-エージェント-は100匹は居そうね。スミス。』

 

 

君は相変わらずだと笑いを溢しながら姿を現した男は鍛え上げた肉体をシワや汚れの一切が見当たらない黒いスーツに押し込み、黒いサングラスと酷薄な笑みを湛えていた。

 

 

『ここで君を消去-デリート-するのも悪くはない。…しかし今回は君達を彼の元に送り届けなければならない。さっさと準備をしたまえ。』

 

その言葉には物陰から様子を伺っていたアイリーンが反応した。

 

『まさかあなたがハンニバルの言ってた迎え?』

 

『そういうことだMs.スターリング。いや名前を-変えたん-だったな、Ms.アドラー。理解したのなら速やかに行動することだ。愚鈍な君たちに何時までも付き合う暇はないんだよ。』

 

不遜な男の言葉に三人はいきりたつが気にする様子もないスミスはサングラスを軽く持ち上げるとクルリと背を向ける。

 

 

『…さもなければ…紫苑、いやブリュンヒルデの命に関わるぞ。』

 

 

驚く-家族-達を見るその目は何処までも無感動で機械的だった。

 

 

~~~~~~

 

 

『どうして!?何で教えてくれなかったの?!!』

 

縋るようにこちらを見上げる紫苑を見てもスネークの答えは同じだ。

 

『今は一刻を争う。捜索する人員も出せない。…紫苑…彼女達は自分の意思で出て行ったんだ。』

 

『…?!そんな…私に何も言わずにトップ達が出ていったなんて…』

 

スネークからトップ達がキャンプから消えたという話を聞いた紫苑は、信じられないといった表情をする。

その紫苑の顔を見てスネークは俯き声を振り絞る。

 

 

 

『何故だ…何故会ったばかりの奴らをそこまで信じられる?

 

 奴らの何がお前をそこまで駆り立てる?

 

 

 

 どうして…

 

 

 どうして…

 

 

 その隣が俺ではないんだ…』

 

 

縋るような声。

 

 

-お前も俺を必要としないのか?-

 

 

 

『スネ『何故だッ!?』ッ…痛っ…』

 

 

強烈な握力で肩を掴まれた紫苑はその痛みに顔を歪めるがスネークには気付いた様子はない。

徐々に指先から力が抜けていくと勢いを失ったスネークの両腕がだらりと地に向けられる。

 

 

『…時間だ。ジーンの企みを阻止しなければならない。』

 

 

スネークは足早に紫苑の元を去った。

 

 

 

二人の距離は遠く離れて行った。

 

一度交わった線はその目的を違え、

互いを異なるステージへと運んでいく。

 

 

 

 

 

『…後悔しないな…スネーク。』

 

『パイソンの言うとおりだぜ、スネーク。あれじゃ…紫苑ちゃんが可哀想だ…』

 

一部始終を見ていたロイとパイソンがスネークへと咎める声をあげる。しかし彼は答えない。

 

 

『………これでいい…これで紫苑が-返って-くるんだ…俺の元に。』

 

その遺された独眼は仄暗い輝きを宿していた。

 

 

 

 

 

 

 

スネークが去った後、私は独りテントに残った。まるで世界にたった一人取り残されたように。

あまりにも唐突な、しかし心の何処かに燻っていた不安が目に見える形で現れたような…

 

「…どうして…こうなっちゃったの…」

 

 

私にはスネークが別人のように思えて、

 

初めて-怖い-と思った。

 

 

 

ぎゅうと手を握る私の耳に優しげな女性の声が聞こえる。

 

<この星には国もイデオロギーもない。皆同じ人間なんだ。敵味方も無い筈なのに…>

 

<紫苑…わたしに後悔はない。お前に出会えて本当に良かった…>

 

<…私よりずっといい戦士になる…>

 

 

 

 

「…お母さん…私、分からないよ…」

 

膝を抱え俯く私は-母-に縋るように問いかけた。あの人ならきっと答えをくれるような気がしたから。

でも答えてはくれない。

 

彼女は死んだ…私の目の前で…

 

自分の忠を尽くして満足して死んだ彼女。

彼女の生きた痕跡を遺したいと願い、CQCを私は会得した。

 

彼女がスネークと共に創りあげたこの技術を、功績を、意思を伝えたいと思ったから。学び戦って…いま、ここ-サンヒエロニモ-にいる。

 

危険な戦場でも、少しも怖くなんてなかった。私には彼女から学んだ技術と…彼が、スネークがいたから。

必ず彼は生きてる。戦っていると信じられたから恐れるものなど何もなかった。

 

 

その彼を

今私は恐れている。

 

 

未来から迷い込んだ私に寄り添うように守ってくれたスネーク。

CQCを私に厳しく教え込んでくれたスネーク。

 

世界中の戦地を飛び回る彼が私の元に帰ってきたとき、子どものように飛び込んだ私を受け止めるのは薄らと戦いの匂いを残した彼の腕。力強いその感触にどれ程安心したことか。無事に帰ってきてくれた事を心臓の鼓動を通して確かめた。

 

…心の中では…

 

戦う力を求めているのに何もできない自分の臆病さを感じながら、彼に笑顔を向けた。

 

その時は気付かなかった、いいえ…気づこうとしなかったのかもしれない。

 

私の中に根付く-相棒-ではない、私の<意志>

 

 

私は何のために戦うの?

 

 

 

 

『紫苑?』

 

かけられた声にハッと顔をあげるとすぐ目の前にレイブンが立っていた。

心配そうな色をその眼差しに浮かべて紫苑を見つめている。

今にも泣きだしそうな紫苑を見てレイブンは、少女によく似た-仮面-の顔を歪ませる。

 

彼女は一部始終を見ていた。勝手な幻想を少女に押し付ける英雄と呼ばれた男の姿に抑えきれぬ殺意を抱いた。

それでもレイブンは見守ることを決めた。これは紫苑の決めるべきことだからと。

その結果が彼女が傷つけるだけだったとしても。

 

そしてレイブン自身も一つの決意を固めた。

この時彼女の運命が定まったのだ。

 

 

『聞いて、紫苑。』

 

膝を抱えてこちらを見つめる紫苑に目線を合わせるように屈み込んだレイブン。

 

 

『私は貴方を愛しているわ。

 

 それは‐家族‐としての愛よりも

 

 深く

 

 重く

 

 

 遥かに強い愛。』

 

 

 

その瞳は熱‐情欲‐を帯びて紫苑の心へと突き刺さる。

 

『…えぇ。伝わったわ。確かにあなたの気持ち…受け取った。私は…』

 

嬉しいと思う反面、戸惑いも隠せない紫苑の頬にレイブンは優しく手を添える。

 

 

『…本当は伝えるつもりはなかった…きっとあなたを困らせてしまうから。

 

 でも今のあなたには私が必要。

 

 私があなたの戦う‐理由‐になる。

 

 私があなたの望みを叶えるわ。…だから…』

 

 

‐あなたを頂戴?‐

 

 

ユックリと近づくその唇に紫苑は動けない。

 

 

 

《血に飢えて生きたって 何一つ残らねぇ》

 

ビクリと固まった紫苑の様子にレイブンは内心自嘲した。

 

 

 

 

《私の…言葉…信じる…か?》

 

『…やっぱりダメ『本当の姿を。』…え?』

 

諦めて離れようとしたレイブンを紫苑が呼び止めた。

 

 

 

 

《生きてくれ、‐  ‐》

 

 

『本当のあなたなら…喜んで。』

 

包み込むような笑顔を向けられたレイブンはしばし呆気にとられた後‐本当の姿‐で紫苑の唇と自身の唇を重ねた。

その接吻は少しだけ涙の味がした。

 

 

~~~~~~

 

 

地下サイロ内にある大型搬送用エレベータ。

そこに侵入者はたどり着いた。

動き出した昇降機の上に立つ人物の耳に空から近づく者がいる。

 

『よく来たなスネーク。』

 

FOX隊員、カニンガム。彼は‐スネークの功績‐を労う。

 

『おまえは予想以上によくやってくれた。あの男のおまえに対する評価は正しかった。』

 

『…あの男?』

 

『だがもういい。これ以上おまえが戦う理由はない。おまえの任務は終わったのだ、スネーク。』

 

任務という言葉に首を傾ける侵入者。その様子にカニンガムは嗤う。

 

 

『いいだろう、説明してやるスネーク。』

 

彼の口から語られたのはこの事件を仕組んだのはCIAの影響力に危機感を抱いた国防省だという事実だった。

弾道メタルギア計画に目を付けた彼らはジーンを扇動し弾道メタルギアをソ連に打ち込ませようとしていたのだ。

 

『それに…証拠も何も残らない。こいつでな!』

 

彼が指差したものは小型核砲弾、ソ連製のデイビークロケットだった。

 

『ジーンが弾道メタルギアを発射したあと、俺がこいつでこの基地を消滅させる。跡形も残さずにな。』

 

『…ここの兵士たちは?』

 

『奴らは俺たちの敵だぞ?…フフッ…だがお前は違う。お前はよく任務を果たしてくれた、国防省とあの男が描いたシナリオ通りにな。』

 

シナリオという言葉に反応した侵入者にカニンガムはなおも続ける。

FOXがこの半島にスネークを拉致した狙いはジーンの計画の障害とするため。たった一人で敵地に潜入し、反乱軍の兵士を味方につけ、ジーンが絶対に弾道メタルギアを使わなければならないように追いつめる。

 

 

『それができる兵士はお前しかいなかった、伝説の英雄‐BIGBOSS‐しか!!

 

 だが…もう十分だ。ジーンには弾道メタルギアをソ連に向けて発射して貰わなければならない。

 

 それが国防省の計画だ。その計画までお前に邪魔されるわけにはいかない。

 

 この基地の上にヘリポートがある。ヘリに乗れスネーク。

 

 弾道メタルギアが予定通り発射されたらお前を本国まで連れて行ってやる。

 

 

 この基地を吹き飛ばした後で元通りの英雄としてな。

 

 もっとも組織はCIAではない、それは我慢してくれ。』

 

 

計画の成功を確信し、満足げなカニンガムは奇妙な違和感を覚えた。想像通りに行ったはず…そう思えば思うほど心の奥底で何かが警鐘を鳴らす。昏い闇の底で、深淵がこちらを見つめているような…

 

 

 

『…幾つか腑に落ちないけど…概ね理解したわ。…本当に男って馬鹿ね。』

 

 

侵入者がワザとらしく肩を竦めて呆れ果てている。

 

黒い鴉がその羽根を広げる。

 

 

 

『な、なんだと?!!貴様何者だ!!』

 

驚くカニンガムに向けて侵入者は不敵な笑みとともに自身の顔に手をかけると、偽りの仮面を脱ぎ捨てる。

 

 

 

『さぁ…ショータイムよBOSS!!』

 

『朽葉流、次元刀!!』

 

 

突如上空よりかけられた声にカニンガムが目をやると無数の青い光の線、閃光の刃が飛来してきた。

 

SPAAA!!

 SPAAAA!!

 

『な、なにぃぃ!!!クソォォ!!』

 

青い斬撃にフライングプラットフォームの駆動系を破壊されたカニンガムは、形振り構わずデイビー・クロケットを発射しようとするがその手は空を掴むばかり。

 

 

『ひょっとして探し物はこれ?』

 

 

先程の侵入者の隣に現れた少女、紫苑の肩に無骨な兵器が担がれていた。

 

『き、貴様はァァ?!!スネークの小娘ェ!!』

 

激高するカニンガムに挑戦的な笑みを向けた紫苑は左手を翳す。

 

THWIP!! THWIP!!

 

『ムグッ?!』

 

紫苑が飛ばしたウェブによって口を封じられたカニンガムフライングプラットフォームからエレベーターの上へと転げ落ち、主を失った空飛ぶ棺桶は爆散した。

 

『さてと…』

 

THWIP!! THWIP!!

 

蹲るカニンガムをウェブでミノムシにしている紫苑にレイブンが声をかける。

 

 

『その子達も貴方の元で嬉しそうね。』

 

『うん♪-怒濤-と-波濤-を持ってきてくれて嬉しいわ!!』

 

紫苑が手にしている見慣れぬ武器。

戦地で紫苑が見つけた設計図を基にシギントが制作した紫苑専用武器。

銀色に輝く自動拳銃から忍者刀のような反りのない青藍のブレードが一方の銃はスライド側に、もう一方はグリップ側に取付けられている。その姿は右手側に順手で、左手側が逆手に剣を握っているようにも見える。

 

 

(…実は紫苑の事に夢中で渡すのをすっかり忘れてたんだけど…)

 

よいしょっと声をかけながら簀巻きにしたカニンガムを天井に吊るしている紫苑を見ながらレイブンは胸の内へと仕舞い込んでいた。

 

 

『ところで…それはどうするの?』

 

紫苑の持っているデイビークロケットを指してレイブンが尋ねると紫苑は困った顔を見せた。

これからの戦闘に持ち歩けるような代物でも無いからである。

う~んと唸ってしまった紫苑に声をかける男がいた。

 

 

『ならばその禍、このわしが引き受けよう。』

 

エレベータが辿り着いた先に待ち構えていた男。

紫色の拳法服に身を包み白髪の長いおさげと口髭を蓄えた初老の人物は自信に満ちた笑みを見せる。

 

『それ-核-はこの美しい星を破壊する悪魔の兵器。自然を破壊しようとする不逞の輩はこのわしの拳で打ち砕いてくれようぞっ!!』

 

『……あの…』

 

『無論娘っ子が悪しき目的の為にそれを使う事は無かろう…しかぁぁしッ!それ自身がすでに悪意の象徴たる存在なのだ!!』

 

『……いやだから…』

 

『よいか娘っ子ォォ!!虎穴に入らずんばとはいうがそれは虎の子などではなく地球を焼き尽くす火種となりえるのだァァ!!』

 

 

 

 

『……ちょっと!!!』

 

捲し立てる男に思わず声を荒げるとようやくこちらを向いた。

 

 

『あなた…誰ですか?!』

 

怪訝な顔の紫苑を見て一瞬呆けたような表情を見せると火のついたように笑い出した。

 

『ハッハッハッ!!!そういえばそうっだったな!…フム…儂の事は師匠-マスター-とでも呼んでもらおうか。』

 

自らをそう呼んだ男は鋭い眼差しを紫苑へと向ける。

 

 

 

『もう一度言う。紫苑よ、それをこちらに渡せ。』

 

『…あなたが信用できると思って?』

 

紫苑を庇うように前に出たレイブンを見てマスターは不敵な笑みを見せる。

 

『ほう…二人とも中々腕に覚えがあるようだが…

 

 

 喝ッッッ!!!』

 

『『…キャァァ?!』』

 

 

気合一閃。

男から放たれる超重圧の闘気に二人は吹き飛ばされてしまった。

 

 

『…悪いな娘っ子…』

 

謝罪の言葉を残し嵐のような男は禍の種を持ち帰っていった。

ダメージは無いものの男と自分たちの強さのステージが余りにも違いすぎることへの衝撃は大きかった。

 

 

『全く…一体なんなの?』

 

『分からないけど…強すぎるのは分かった。私達じゃ触れることすらままならないわ…』

 

『…あの男もFOXかしら?』

 

『…たぶん違う…』

 

 

そう願いたいわねと呟くレイブン。しかし紫苑には何か予感めいた感覚がしていた。

あの男は違う、そんな気がしていた。

 

 

~~~~~~

 

『やはり来たか。スネーク。』

 

『これは…メタルギアの技術者を殺したのか?』

 

制御室へと到達したスネークが見たものはメタルギアを生み出した技術者の死体だった。

 

『いいや、彼らは乗り越えられなかったのだ。』

 

『乗り越える?いったい何を?』

 

 

『試練…いや

 

 人間の壁…とでも言おうか…』

 

 

要領を得ないジーンの言葉に苛立ったように声を荒げるスネーク。

 

『貴様の目的はなんだ?!!』

 

 

 

 

『それなら私が教えてあげるわ、BIGBOSS。』

 

声の主は姿を消した女。

 

 

 

アイリーン・アドラーだった。

 

 

『彼の目的はアメリカ本国への核攻撃。

 

 そしてそれによって生じた混乱に乗じ、

 

 世界に新たなパワーバランスを築くこと。』

 

 

 

『何だと?!』

 

驚くスネークにジーンも口を開く。

 

 

 

『…私が目指す傭兵国家は実体を持たない闇の組織。

 

 地下深くに潜伏し、世界中のあらゆる紛争に介入する。

 

 

 そして…

 

 

 歴史の流れを操る。』

 

 

 

 

『兵士達の天国…あなたはそう呼んでいるそうね。』

 

フッとジーンが笑った。

 

 

彼の目的を知ったスネークは言う。

 

『お前のやっていることはただの独裁だ。

 

 ‘恐怖,で兵士を抑え付ける。

 

 言葉で味方を欺く、死と仰ぐ者を利用し、そして使い捨てる。

 

 

 そんなところに兵士達の天国があるはずがない。兵士達の天国はお前の考える国の外側にある。』

 

 

睨み合う二匹の蛇。

 

『…フフフ…』

 

張詰めた緊迫感の中、アイリーンは笑っていた。

 

 

彼女にとって、彼等は滑稽でしかなかった。まるで見当違いの主義主張を並べる二人の男は彼女には屍肉を啄む鴉のように見えたからだ。

 

 

 

『…貴様…何が可笑しい。』

 

射殺すようなジーンの視線をものともせずアイリーンは悠然と指し示す。

 

 

『答えが知りたければさっさと発射ボタンを押しなさい。

 

 もっとも…もうあなたのシナリオは差し替えられているけれど。』

 

 

 

女の言葉にジーンは苛立つと同時に言い知れぬ不安が過った。

メタルギアの発射ボタンに指をかけるとスネークの制止の声を振り切りボタンを押しこんだ。

 

 

KA-BOOM!!

 

 

 

『何だと…これは…』

 

ジーンがボタンを押した瞬間、制御装置が爆発した。

こんな芸当ができる人物にジーンは心当たりがあった。

 

 

 

『…ウルスラか!!』

 

破壊された制御装置の向こうに青白く発光する少女の姿。

 

『私の邪魔をするなウルスラ。』

 

『核を撃ってはいけない。それは恐ろしい兵器!なにもかもが死んだ!

 

 人も 動物も

 

 森も 大地も!

 

 

 そして今も苦しんでいる!!

 

 私にはわかる。

 

 彼らの痛みが、苦しみが、嘆きが、憎しみが!!』

 

 

 

『ウルスラ?いや…エルザなのか?』

 

 

ジーンは懐からナイフを少女に向け投げるが見えない壁に阻まれた様に弾かれた。

 

『私の思考を呼んだのか…お前が死んだと思ってガードが甘くなった。…だが無駄だ。たとえ私の思考を読んだとしても…『別に読んでないわよ?』…?!何?!』

 

 

何でもない事の様に言われた言葉に思わずジーンは動揺した。

 

『彼女の二重人格も、貴方の本当の目的も私は最初から見抜いていたわ。

 

 …最終幕は始まった…

 

 その主役もご到着よ!!』

 

 

アイリーンが振り返ると紫苑がレイブンと共に部屋へと駆け込んでくるところだった。

 

 

『…!!アイリーン!!…よかった無事で…』

 

『心配かけちゃったわね。パーセフォニーとトップも無事よ。』

 

アイリーンの無事を喜ぶ紫苑の後ろで一人冷めた目をするレイブン。

彼女の様子に気付いたアイリーンはゆっくりとレイブンに近づき右手を差し出す。

 

『貴女がミスティークね?同じ紫苑の家族として仲良くしましょう?』

 

『こちらこそ。私もあなたに会いたかったわ綺麗な猫さん♪』

 

互いの表情は美しい笑顔だが握られた手からは骨の軋む音が聞こえている。

 

(…こいつらが紫苑に付いた虫!!!)

 

(またパーセフォニーのせいね!!!)

 

背後の空間ごと歪ませるような二人の交流を嬉しそうに見ていた紫苑だがジーンと少女に向き直るとその空気は一変した。

 

 

『待たせたわね!!二人とも!!』

 

『紫苑…』

 

何か言いたげな少女に紫苑は笑った。

 

-全部終わったら…あなたの名前、聞かせてね♪-

 

 

紫苑には伝わっていた。言葉などなくても、少女の言いたい事は伝わっていたのだ。

 

 

『…まだだ…まだ終わっていない!!予備の制御装置がまだ…』

 

『残念だがそいつは無理だねぇ。』

 

 

ジーンの切り札である予備の制御装置のある部屋から出てきたのはトップとパーセフォニー。

その姿を見てジーンは己の夢の終焉を悟った。

 

 

『…ジーンさん。あなたのやり方では悲しみの連鎖は終わらないわ。あなたの力は悲しい戦いを終わらせるためにあるはずよ!!』

 

投降を呼びかける紫苑の言葉にジーンは、顔を俯かせ肩を震わせている。

 

『………フ…フフ…フハハハハハハ!!所詮模造品は本物に成れはしないという事か。

 

 私が…ジーンが目指したものは真の英雄の後継者達に潰された訳だ。

 

 夢も 理想も

 

 肉体も そして精神すらも

 

 私は全てを失うことになる……

 

 そんな…そんな世界は

 

 

 もう何も要らぬ!!!!』

 

 

 

 

顔をあげたジーンは既に人ならざる者へと変貌しつつあった。

 

 

口は大きく裂け、

 

体は見上げるほどに伸び上がり、

 

腕は二回り以上も太く長くなり、

 

その手には硬く鋭い爪が生えていた。

 

 

『…何だ…これは…』

 

呆然と呟くスネーク。

尚も豹変は続いていく。

 

 

服を突き破り現れたのは自在に動く強靭な尻尾、

 

裂けた咢からは鋭利な牙が生えそろい、隙間からは炎が吐き零れている。

 

 

 

その姿は人ではなく、

 

 

『……まるで…竜-ドラゴン-…』

 

『…これは読めないわよ…』

 

圧倒されているレイブンやアイリーン、他の者は声も出ない。

 

 

 

『ジーン…あなた…』

 

悲しげに呟く少女に怪物は言う。

 

 

『…ジーンは死んだ。

 

 

 蛇の遺伝子‐GENE‐は

 

 自身を超越‐SUPERIOR‐し

 

 竜が創生‐GENESIS‐したのだ!!!

 

 

 我が名は…』

 

 

 

 

 

   蛟 竜  ‐ミ ズ チ‐




次でこの章は完結



のはず
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