自分でもそう思っていましたがとうとう復活です。
この話は何度も消して、眺めて、ようやく今日表に出しました。
この数か月何度この展開を書き直した事か。
TPPにも間に合わないかと何度挫折したことか。
ちなみに次の話は去年の10月には98%完成しているというのは秘密です。
GAAAAAAAAAAAA!!!!!!
かつてジーンと呼ばれた男は蒼白い鱗に覆われた巨大な竜-ミズチ-へと変わり果てた。
それが放った咆哮は、世界を揺るがさんばかりの震動を引き起こしている。
『いったいなんなんだ!!』
叫ぶスネークは銃を構えミズチの鼻先へと引鉄を引く。
しかし拳銃の弾ではかすり傷一つ負った様子はない。
次に動いたのはレイブンとアイリーンだ。
『紫苑ッ!』
未だに呆然としている紫苑を庇うようにレイブンは前へ出ると立続けに拳銃を発砲するが牽制にもなりはしなかった。
『トップ!パーセフォニー!こっちへ!』
アイリーンは素早く遮蔽物に身を隠しながら二人を呼び寄せると自身もM16を構える。
『火力を集中すれば有効かもしれないわ!!』
『『了解!!』』
アイリーンの呼びかけに応じた二人は彼女の後ろに立ち、トップはM37をパーセフォニーはM63をミズチに向けると一斉に攻撃を加え始めた。
強固な肉体を誇るミズチも重火器の一斉発射に流石によろめき、苦悶の呻き声をあげる。
『…!よし!これならいけるよ!!』
ぐらついたミズチの様子にトップは勢いづくが、相手の目には怒りの炎が宿っている。
Gwwwwaaaaaaaaaaaaaarmmn!!!
『…!!来る!!!』
危機を察知した白衣の少女が部屋の人間を背にする様に前へ飛び出すと両方の掌をミズチへと向ける。
瞬間、その場にいた全員を真っ赤な火の渦が覆った。
ミズチが強烈な炎のブレスを放ったのだ。
紅に視界が染まる中、凄まじい熱風は襲ってくるが炎はその猛威を振るうことは無かった。
彼らは見えない-繭-に包まれ、守られていたのだ。
『ぐっ…!!』
『これは…エルザが俺達を守っているのか?!』
『フォースフィールド…ウルスラか…しかし!!今の私を止めることはできない!!』
GAAAAAAAAA!!!!
『…?!…うぅぅぅ…』
さらに勢いを増した炎に少女の顔が苦痛にゆがむ。
『…!あなたは女性の扱いをザ・ボスから学ばなかったのね!!』
黒い蜘蛛の鎧をまとった紫苑は大きく跳躍すると炎の中心へと飛び込んだ。
一息でも吸い込めば肺は燃え尽きてしまうであろう業火の中で勢いをつけて高速回転をし始めた紫苑は、四方へとウェブを伸ばし始めた。業火に晒されながらも燃えることのない強靭な蜘蛛の糸はミズチの巨体へと絡みついていきその動きを鈍らせていく。回転速度は更に増し、巨大な竜巻が発生していく。巻き上げられた炎はまるで吹き上げられた木の葉のようにも見える。
『朽葉流、宇頭龍・荒繰姐-アラクネ-!!』
竜巻の中心で叫んだ紫苑が回転を止めると周囲の炎が膨張していき次々と爆発していく。
ミズチは爆発から逃れようと体をくねらせようとするが、もがけばもがくほど蜘蛛の糸はきつく締め上げていく。
『グゥゥゥッ!!小娘がぁ!!!』
『諦めろ!!ジーン!!貴様はもはや人間ではない!!』
『黙れ!!スネェェク!!
貴様にだけは負けるわけにはいかんのだ!!
すべてを超越して世界をゼロ‐原始‐に戻す!!』
説得は無駄だと悟ったスネークはメインウェポンのライフルに持ち替えるとミズチへと向ける。
『そんなことを、やらせはしない!!』
次々に撃ち出される銃弾に対して、鬱陶しそうに素早く背を向けると強靭な尻尾を振った。かろうじて視認できる程の速度で振り抜かれた尾を全身で受け止める事になったスネークは、まるで鞠のように地面を転がされる。
『グハアァッッ!!!』
内臓を傷つけたのか口から血を吐いたスネーク。蹲る彼に対して追撃を加えようと蜘蛛の糸を引き千切り動き出すミズチの前に紫苑が立ちふさがる。
『…これ以上私の大切な人たちを傷つけることは許さないわ。
あなたがなぜそこまで世界を変えようとするのか、
なぜそこまで力を求めているのか…私にはわからない。』
『ザ・ボスの娘か…
私にもお前が分からない。…お前は子供だ。ただの子供、ザ・ボスと血の繋がり等無い。
特異な力は認められるが、-大義-のために動くわけではない。
唯一つ分かる事は…
おまえは戦場でなくとも生きられると言うことだ。…我々とは違う。』
『そうね。それでも…
掬い上げられる命を、笑顔を、
目の前にして、何もしないなんて…
私には耐えられない!!』
『綺麗事を。いずれお前は自分の限界にぶち当たり、己の無力さを知る。
お前には忠を尽くす国もなく、導いてくれる師もいない。
任務も!思想も!組織への誓いもない!!
あるのは子供のような、人への安っぽい情だ!!
-俺達-のように…お前は今まで何を失ってきた!!!』
怒髪天を衝く勢いのミズチが再びその口腔内に炎を蓄え始めるが紫苑は微動だにしない。
『紫苑!!』
まるで悲鳴のような声をあげたレイブンに紫苑は、
不敵に笑った。
『何を-失った―かより何を-得たか―よ。
私は支えてくれる家族を得た。背中を預ける友を得た。
闘う力を、守る理由を、愛する世界を得た。』
GAAAAAAAAAA!!!!
咆哮と共に放たれようとした灼熱の炎。
口腔で最高潮に高まったその瞬間を見計らい紫苑はウェブを撃ち出す。
THWIP!THWIP!
口を塞がれ行き場のなくなった炎は大爆発を起こした。
「火遊びは火傷の元よ。」
崩れ落ちるミズチ。
それを見送った紫苑が振り返ると視界が緋色に染まった。
『レイブン…苦しいって。』
『どうしてそんな無茶ばかりするのよ…私はそんなに頼りない?』
泣きそうな女の声に紫苑は首を振る。
ぎゅっと抱きしめ返して背中をあやすように叩く。
『そんなことは無いわ。あなたは私の家族、ファミリーだもの。』
『その中には当然私達も含まれてるわよねBOSS。』
『聞くまでもないわアイリーン。そんなことより私の紫苑にちょっと引っ付きすぎじゃない。』
『…あんたほんとにぶれないねパス。』
紫苑の周りにアイリーン、パーセフォニー、トップが集まる。
全身を苦痛に苛まれながらもその光景をどこか眩しそうに見る男の独眼。
変わりゆく少女の環境にスネークは複雑な心境だった。
彼が遠ざけたかった世界の中心に彼女がいるような気がしたからだ。
(…ボス…どうして俺には紫苑を守れないんだ…)
そしてもう一人。
彼女もまた言葉に出来ない感情を持て余していた。
私はジーンに救われ、この手でヌルを造りだし…ウルスラを…殺した。
ジーンが本気で核を撃つことを知った時、彼の元を離れた。
今私は誰の道具になったのだろうか…
無我夢中でジーンの焔に立ち向かったとき、スネークに希望と絶望を見た。
私の予知はウルスラと合わさり高まった。
いずれ彼は世界の敵となり、
彼の息子が世界を救う。
でもその未来に彼女達は居なかった。
読めなかったのかもしれない。
でももしも…そう思うと
私の心を言い知れぬ恐怖が襲い、虚無感が体を包む。
瞬間、私の存在はZEROになった。
此処が戦場であることを忘れ、
全てが終わったと思い込んだ。
この後のことを私は生涯忘れないだろう。
これを運命だと言うのなら
私は神を赦しはしない。
例え彼女が赦しても。
第2幕の始まりに気付いたのは紫苑。
正確には異変に反応することができたのが紫苑だけだった。
仲間たちに囲まれていた紫苑は此方をぼんやりと眺める少女の視線に気づいた。
彼女に声をかけようとした矢先、少女の背後に見つけた。
ゆらりと立ち上がる白い悪魔の姿を。
弾丸のように動き出した紫苑は少女と倒したはずのミズチとの間に自身を割り込ませる。
同時にミズチの鋭く尖った尾先が紫苑の体を深々と貫いた。
誰が見ても致命の一撃。
瞬間、世界が凍った。
零れ落ちんばかりに目を見開いた少女の前には黒い鎧に覆われた紫苑の足先から流れる鮮血が血溜まりを作っていく。
ずるりとミズチの尾が紫苑の体から抜かれるとその血溜まりに力無くべしゃりと音を立てて崩れ落ちた。
『……し…おん…?…ぁぁぁあぁぁぁああアアあっああああ!!!』
ぴくりとも動かぬ紫苑の姿に震えるように絶叫するスネーク。
獣のような慟哭と共に立ち上がったスネークは狂ったようにミズチへと引き金を引き続ける。
撃ち出される弾丸を物ともしないミズチは右腕を大きく振りかぶると床へと叩き付ける。
破片とともに鋭利な鱗が周りに撒き散らされスネーク達に迫る。
『アイリーン!!』
『…?!キャァッ!』
いち早く反応したパーセフォニーが鋭く叫びながらトップとアイリーンへと覆いかぶさる。
『…グウゥッ?!』
二人をかばったパーセフォニーの背中には数枚の鱗が深々と刺さり白のドレスを赤く染めていく。
『…!しっかりなさいアイリーン―私―!…トップ急いで退避するわよ!!パスを担いで!!』
アイリーンは自身に檄を飛ばすとショックから立ち直れないトップを引っ叩いて正気を取り戻させるとぐったりとしたパーセフォニーを引きずり物陰へと隠れる。
『あぁ…!!こんな、こんなことって…!!』
物陰では何とか再起動を果たしたトップだがその顔には絶望的な色が濃い。
『まだ終わって無いわ。絶望するのはそれからよ!…こんな結末は絶対に許さない。』
パーセフォニーの怪我の具合を確かめながら振り絞るように呟くアイリーンは顔をあげるとトップを見据える。
『…当然私も…借りは返させてもらうわ。』
体に走る痛みよりも大きな喪失感と怒りに全身を震わせながらパーセフォニーは立ち上がろうとする。
三人の視線が交わると強い意志の炎がその眼に宿る。
燃え上がる想いに呼応するように三人の右肩から淡い光が放たれる。
すぐに収まったその光に三人が気付くことは無かったがその身には力が漲っていた。
アイリーン達に襲い掛かった鱗はスネークにも襲い掛かっていた。
全身至る所に浅からぬ傷をつくりながらも男は引き金を引いていた。
痛みなど一つも感じない。
自分のアイデンティティーである少女を奪われたのだ。
もう失いたくないと、あれほど願った少女を。
許すわけにはいかない。
許してはいけない。
俺から紫苑を奪った奴を。
必ず復讐してやる!!!
『ウォォォォォォォ!!!!』
弾の切れた銃を投げ捨てると猛然とミズチへと走りよるスネーク。
素早くフラググレネードのピンを抜いたスネークは振り下ろされたミズチの右腕を潜り込んで躱すとその足元へと投げ込んだ。
BOMB!!!
GRRRUUUUU!!!!!!
爆風に押されたミズチは思わずたたらを踏む。
自身にも襲い掛かるその爆風の中でも追撃の為にもう一度グレネードのピンを抜くスネークは最早自らの危険等厭わなかった。今度はミズチの顔へと投げつけるために腕を大きく振りかぶったスネーク目掛けてミズチの尾が再び振るわれる。
『二度も同じ手は食わん!!』
迫りくる脅威を全身で受け止めたスネークは先程のように飛ばされることは無い。
『うぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!』
気合の雄叫びと共に力いっぱい尾を引くと、ミズチの巨体を引きずり倒してしまった。
眼前に晒された無防備な背中を見逃すようなスネークではない。
先程の投げ損なった分にいくらかおまけをつけてグレネードを放り投げた。
BOMB!!!
GRRRRAAAAAA!!!!
堅牢な肉体を持つミズチといえど至近距離での爆発は、背中に浅くはない傷を残している。
『終わりだ!!ジーンッ!』
戦いに終止符を打つためにスネークが取り出したのは「RPG-3」、対戦車兵器でもある自身の切り札を構えるとその引き金を引いた。
プシュッと空気の吹き出す音と共にミズチへと直進する85mmHEAT弾は着弾と同時に爆発を引き起こす。
分厚い装甲板をも打ち砕くその一撃はミズチの右腕と顎の一部を吹き飛ばしていた。
牙は折れ、爪は腕ごと消失し、全身から青い血を滴らせながら爛爛と光る眼だけをスネークへと向けるミズチ。
『グフッ…相続者計画で造られ、SEEDで超越者となった私をここまで追い詰めるとは…』
『…お前の使命も…俺の使命も…紫苑には何の関係もなかった。』
『何の関係もないだと?お前も気付いているはずだスネーク。あの子はザ・ボスに似すぎている。』
『…?!それでも…あの子は平和に生きることができたんだ!!』
互いに視線を交わした二匹の蛇は互いに最後の力を振り絞る。
ミズチが残された左腕を振りかぶり、スネークがM16A1を構えると割って入る影がある。
MAC10を両手に下げたトップ、SAAを二挺構えるアイリーンがいる。
『やられっぱなしは性に合わないんでねぇ!!』
『あなたは触れてはならない聖域に手を触れてしまったわ。その身で贖いなさい!!』
立ちはだかる二人に矛先を変えたミズチはその鉄槌を振り下ろそうとした。
しかしその左腕に飛び掛かるパーセフォニーがマチェットを深々と突き立てる。
『よそ見はいけないわ。…貴方が奪ったものの重さをを知りなさい。』
静かな激情をはらんだ女の瞳を無感動に見つめるミズチ。
『……これほどの影響力とは…やはり危険だったということだ。BOSSは一人でいい……』
左腕にぶら下がるパーセフォニーはマチェットを引き抜きながらトンボを切って身を翻すと三人の女傑が並び立つ。
『『『私達のBOSSは!九頭紫苑ただ一人!!!』』』
自身に立ち向かう三人の女を見てミズチ、いやジーンは眼前に広がる光景が一枚の絵画のように思えた。
美しいと思った。
一人の少女に忠を尽くす彼女たちの姿を。
うらやましいと思った。
澄み切った忠誠を向けられるあの少女が。
相続者計画で造られていなければ
あの男にこのような姿にされていなければ
もっと早くあの少女に出会っていれば
―私もあそこにいたのだろうか―。
『…フフッ…何を…バカな…』
らしくない自身の思考に自嘲の笑みをこぼしたミズチ―ジーン―は部屋の中に雪崩込んでくる多数の兵士の存在を感じ取った。
『ご無事ですか?!これより援護いたしますBIGBOSS!!』
『お前達…すまない、助かった。』
無数の銃口に囲まれたミズチの心はとても静かだった。
己の使命の終幕を悟った今、彼には伝えるべき事があった。
『あの少女が死に、私を打ち倒した今…
ザ・ボスの真の後継者はお前となるだろうスネーク。
-ソルジャー遺伝子-…あの噂は本当かも知れんな。…あの少女も…あるいは…』
『何を言っている?…紫苑は平和な世界の女だ。俺達とは違う…いや違ったんだ。』
『…戦って生き残った者が後を継ぐ…それが我々の宿命。
…私が伝えるべきことはもうすべて伝えた…
私の遺伝子―ジーン―はお前が引き継ぐ。お前が真の相続者だ。
自らに忠を尽くせ…お前自身の使命を…果たせ。』
戦いの為に産み出された人造の蛇は
戦う者に生きる意味を与えるため
―使命-という名の猛毒をその身に宿した。
兵士一人一人の兵力は、自らが唱えるような尊い意志のために使われるべきだと考えていた男の思想は死者の半島にて終結を迎える。
しかし彼の使命は次なる相続者へと受け継がれた。蛇の遺伝子は消え去ることなく次なる戦場へと向かう。
眩いばかりの閃光に包まれながら一人の戦士が舞台を降りた。
一斉砲火を浴びたミズチは青い淡雪のようにその痕跡を残さずに消えて行った。
その様子を眺めるスネークの胸の内には戦いだけに生きた男の言葉が重くのしかかっていた。
『…ッ?!紫苑!!!』
ハッとしたスネークが振り返って辺りを見回すが彼女がいた血溜りにはその姿は無かった。
GAGOOOON!!!!
動揺するスネークの頭上からは天井が崩れ始めていた。ここは地下施設。巨大な竜が暴れ回った結果、崩壊が始まったのだ。
『スネーク!!崩れるぞ、脱出するんだ!!!!』
無線からは焦ったロイの声がする。周りに集まった兵士達からも脱出を促す声がする。
自分はまた大切な人を弔うことすらできないのか。
彼はまたしても一つ己の魂というべき存在を失うことになった。
彼女を慕う戦乙女達の姿が消えていることにも気づく余裕はありはしなかった。
~~~~~~
血を失った少女の亡骸を胸に抱き、女は一人彷徨っていた。上に行くでもなく下に行くでもなく、ただ当て所もなく歩き続けていた。その腕の中で冷たくなっていく少女の体を強く抱きしめるたびに自身の体温が移り微かに熱を持つ。その感覚だけを無くしたくないと力を込める女は既に壊れているのかもしれない。事実彼女は能力のコントロールをすでに放棄しており、異形の青い裸身を晒していたからだ。
ふらふらと歩き続けた結果、女は大小様々な機械が稼働している部屋へと足を踏み入れていた。
『よう。随分としょぼくれた面をぶら下げてるじゃァねぇか…えぇ?ミスティークさんよ。』
頭上からかけられた男の声に足を止めた女、ミスティークは力なく目線をあげたがその眼には光は消えていた。
『うちの基地に単身カチコミをかけてきたときゃぁ、胆の座った女だと思ったが…こりゃぁ見込み違いだったか。』
『…私を殺しにでも来たの?フッ…もうどうでもいいわ…好きになさい。』
投げやりな女の態度を静かに煙草を燻らせながら眺めた男は腰かけていた機械から身を躍らせた男は音もなく着地した。
『わりぃんだがアンタには露程の興味もない。俺が用があんのはアンタの抱えてるそいつだ。』
男の言葉を聞いた瞬間、ミスティークからどす黒い敵意が溢れ出す。
『渡さない!!もう誰にもこの子は渡さない!!!』
狂ったように叫び声をあげる女は、初めて男を見た。金色の眼は燃え盛る焔の様に男を見据える。
茶色いジャケットに薄汚れたコートとサングラス、咥え煙草の男は口から煙を吐き出すとフッと笑った。
『せっかくの家族水入らずなんだ。邪魔をすんのは野暮ってもんだぜ?』
『…か…ぞく…?まさか…あなたは…』
驚くミスティークには目もくれず、男は右手で煙草を投げ捨てるとゆっくりと歩み寄る。
『そいつは昔からお節介でなぁ…普通だったら考える―保身―ってもんがねぇんだ。結局一番傷つくのはテメェだってのにな。…まぁ無鉄砲は家系かもな。』
男は懐かしそうに在りし日を思い返す。
『だがなぁ…紫苑は一度だって自分のやったことに後悔したことは無ぇんだよ。…今日まではなぁ…』
『…そうよね…自分の命を落としてまで助ける価値なんて『ちげぇよ。』…え?』
気付かぬうちにミスティークは座り込んでいたのだろう。男の声に顔をあげると僅かなライトを背にした男の表情は窺えない、しかし男は薄く、確かに笑っていた。
『今死んだらこれからアイツが救うはずだった手を、あいつに差し出されてる手を握れなくなっちまうことに今頃気づいたんだよ。だから後悔してる。使命を全うできなかった自分にな。』
『確かにそう言うでしょうね…でももう遅いわ。何もかもがもう遅すぎたのよ…』
再び顔を伏せたミスティークはそっと胸に抱いた少女の頬を撫でる。金の瞳から零れ落ちた滴が少女の目尻に落ち、まるで少女が泣いているようだった。
『…紫苑を取り戻せるなら私は神に祈るし、悪魔にでも跪いてもいい!!』
だからお願い…誰か助けて…
震えながら呟くミスティークを見る男はそっと懐に手を伸ばす。
なぁカミサマ、アンタはどうしようもねぇ根性悪だ。
クソのように生き永らえている男に、
また恥をかく場所を与えようとしてやがる。
だがなぁ、同時に感謝もしてる。
俺に-大将-という―兄貴-と同じくらい信ずるに値する主君ができた。
そしてもう一度紫苑とめぐり合わせてくれた。
バカな兄貴と…もう一度笑って許してくれるか?
お前を俺らと同じ、バケモノにしちまうろくでなしの兄貴を。
その男、九頭文治が己が主君から与えられた-狂気の種-を握った刹那、その目には青白く燃える紫電が閃いていた。
次の話は祝日までには投稿しておきたい。
その次の章で主人公の仲間はほぼ出そろいます。
たぶん。