部屋に入って来たのは先ほどの男と知らない女だった。
(うわぁ…すっごい美人さんだ…)
ブロンドの髪に整った目鼻立ち、
そしてその大きく開けられた胸元に目を奪われていると女は紫苑のすぐ傍にいた。
「アナタハニホンジン?」
彼女の口から飛び出した日本語に目を見開いた。
「い、いえす!わたしにほんじんです!!」
何故だか自身も片言になりつつ答えると女は優しい笑顔を浮かべた。
「モウ、ダイジョウブ。」
その言葉に一気に緊張の糸が切れたのか丸い瞳にみるみる涙が浮かび目の前の胸元へ飛び込んだ。
唸るように泣き出した少女を抱き締めてその頭を撫でながら後ろにいる男へと目をやると、男は驚いたようにこちらを見ていた。
(大方敵の罠かもしれないとでも思ってたのね。)
自分のような女の武器を駆使するならともかく…どうみてもこの子はそうは思えない。
半ば呆れた視線に気づいたのか男は気まずそうに目を逸らした。
ベッドに腰掛け葉巻に火をつけた男。
疲れたように白い煙をため息とともに吐き出した。
『計画と違う…ADAMはどうした。』
『あなたとこの子の
『俺は…スネークだ。そいつはシオンというらしい。』
『スネーク?蛇ね。私は
意味ありげな笑みをスネークに向けていたEVAの胸で身じろぐ気配がした。
「あ、あのぉ…」
どうやら落ち着きを取り戻したらしい紫苑が少し赤くなった頬と潤んだ瞳で心配げにEVAを見上げた。
うるうるとこちらを自分を見るその姿は庇護欲満点の小動物のようだった。
(…?!か、かわいいぃぃ!』
『おい、心の声が漏れてるぞ。』
「うわぁっぷ?!」
紫苑を抱きすくめ、頬ずりをしながら撫で回すEVAに冷静に突っ込むスネークとワタワタとするばかりの紫苑。
紫苑の頭を撫で、名残惜しそうに体を離したEVAはスネークと話し始めた。
その会話は英語で話されていたため紫苑は殆ど理解することができなかった。
途中EVAから拳銃を渡されたスネークが興奮したように何かを捲し立てているところは意味は分からなかったが不思議と可愛く感じた。
(何だかわかんないけどすごくはしゃいでるのは伝わった。)
『よし、北に向かおう。』
『ちょっと待って。』
おもむろにベットから立ち上がろうとしたスネークをEVAが押しとどめた。
『なんだ?』
『疲れてるんでしょ。少し休んだらどう?』
『大丈夫だ。』
そういってEVAを押しのけていこうとしたスネークだが不意にその体が傾く。
「危ない!」
扉のすぐ前で二人のやり取りを見ていたので近くにいて、思わず抱きとめようとした紫苑だが鍛えられた大の男を抱えきれるほどの筋力は無くそのまま床へと押し倒されてしまった。
(あ…凄く大きくて熱い…)
感じたことのない程強く男の体を認識して固まってしまった紫苑。
『その身体では無理だわ。この先はまだまだジャングルよ。
それに夜明けまではまだ一時間あるわ。
夜のジャングルを
『君は?』
『私は戻らないと。
長くは空けられないわ、感づかれるもの。
それに紫苑だっている。道のりは長いわ。』
その言葉に思い出したかのようにちらと紫苑を見たスネークがEVAに声を荒げた
『おい、まさか俺に子どもを連れて行かせる気か?!
これは任務だ!遊びじゃないんだぞ!!』
『あなたこそ正気?わたしが連れ帰れば当然ヴォルギンの目に触れるわ。
黒髪で白い肌、小柄で小動物のような雰囲気。
アイツのサディズムに火をつけない保証はあるの!?』
(わ、わ、わ…これ私のせいでけんかになっちゃってるよね?!)
言葉は分からないが自分のせいで言い争う二人。
だがどうにもできず見上げおろおろするばかりの紫苑にEVAが気づき、そっと彼女の両肩をつかみスネークの前に立たせる。
不安げにスネークを見る紫苑と
真剣な表情で紫苑を見つめるスネーク。
視線を逸らすことのできない張り詰めた空気の中、EVAがスネークを諭す。
『貴方の決断ひとつで
この子はこの世の地獄をみることになる…
それでもいいのかしら?』
そのEVAの言葉に観念したのかスネークはベッドに体を横たえた。
目を瞑った彼はくるりとEVAと紫苑に背を向けた。
拒絶するようなスネークの態度にとてつもない悲しさを覚えた紫苑がEVAに助けを求めるように振り返った。
少し腰を屈め、紫苑と目線を合わせたEVAがゆっくり優しく紫苑に語る。
「
優しく頭を撫でるEVAを見上げ次に背中を向けてしまったスネークを紫苑は見た。
大きな背中をしばらく見ていたが身じろぎ一つしない。
寂しさからか寒さを覚えた紫苑は机においた迷彩服の上着をとると部屋の隅に丸まって眠ることにした。
「スネークさん、EVAさんお休みなさい…」
「オヤスミ、シオン」
初めての夜が更けていく。
紫苑が朝目覚めると、目の前には滑らかな柔肌が艶かしい曲線をさらしていた。
思わず体を跳ねさせたがEVAは気にした風もない。
『あら、お早うシオン。』
などと呑気に声をかけてきた。
頬を赤く染めた紫苑がスネークを起こさぬよう声を潜め
「な、な、何やってるんですか!?見られたらどうするんです!?」
「
あまりにも何でもなく言うものだから思わず次の動きに反応できなかった。
「
そういうとあっという間に紫苑は上半身を下着姿にされてしまった。
「~~ッン!?///」
一瞬で顔を真っ赤に染めた紫苑は抗議をしようと口をひらきかけたが
「オキルワヨ♪スネーク♪」
楽しげに笑うEVAに口を閉じるしかなかった。
部屋の隅でいそいそと上下の迷彩服に身を通す紫苑を眺めながら
『結構着痩せするタイプなのねシオン』
とEVAが呟くとベッドの上のスネークも身動ぎをして起き出してきた。
「あ、…あの見ました?///」
見上げながら尋ねる紫苑に答えずに没収したままだった木刀を返すスネーク。
今の今まで忘れていた相棒の帰還に日本人の性か、
「あ、ありがとう…」
と反射的に礼を返していた。
それを見てもスネークには何の反応もなかったが
刹那、緊張が走る。飛び起きたスネークが外の様子を窺う。
『どうしたの?』
『囲まれた…
敵は…4人確認できる…』
外から複数の気配をスネークが感じたのだ。
慎重に構えるスネークの目の先で高度に訓練された黒い軍服の男達が散開していく。
『まずい!山猫部隊よ!
逃げましょう?急いで!
武器・装備を忘れないで!』
途端素早く動き出した二人に紫苑は驚いた。
『さぁ、手伝って。』
EVAがベッドを動かすとその下から隠し扉が現れた。
『ここから床下に出られるわ。』
狭い換気口に身を沈めたEVA。
その眼に悠々と忍び寄る山猫の姿が見えた。
『オセロットだわ。私はバイクで突破する。
シオンはあなたに任せるわ。…傷なんて付けないでよ?
また連絡する!』
『わかった。俺は奴等を引き付ける。
…今回は俺が禁断の果実を食う訳だな…』
にやりと笑ったスネークに掠めるように口づけるEVA。
『死なないでね。…シオンもね。』
紫苑にウィンクを投げて寄こすと速やかにその場を後にした。
『さて…』
床下の扉を閉めたスネークはナイフと銃を取り出し戦闘態勢に入る。
「あ…あの…スネークさん?」
目の前で繰り広げられたラブシーンに顔を赤くした紫苑とスネーク。
『君は俺にどんな罪を背負わせるつもりだ?』
「え?」
紫苑の疑問に答えることは無くその細い右腕をつかむ。
「え?え?ちょっと?!何なんですか?!!」
部屋の隅にあったロッカーを開けるとスネークは紫苑をそこに押し込んだ。
「きゃぁ?!」
悲鳴を上げた紫苑と目を合わせスネークが口元に人差し指を当てる。
「ココデマテ。オレガマモル。」
「スネークさん…」
頷いた紫苑を確認すると小さく笑い右手で頭を一撫でして扉を閉めた。
荒々しく扉が破られる音がして争う音がしたが直ぐに静かになった。
始まりとは打って変わった静かな部屋に心臓の鼓動が響く。
しばらく待つと部屋に誰かが入った気配がした。
(…敵?まさかスネークさんやられちゃったの?!)
額から汗が噴き出す。手を固く握って木刀を握りしめる。
足音がロッカーの前で止まった。
(…?!ダメ…怖いよッ?!)
ギィ
金属の軋む音が耳に触る。
恐怖に怯え、固く目を閉じていた紫苑の耳に優しい言葉が落ちてくる。
「シオン…ダイジョウブカ?」
ゆっくりと紫苑が目を開けると少し服を汚してはいるが傷一つ負っていないスネークがそこに立っていた。
思わずその胸に飛び込んだ紫苑。
一方のスネークも驚いたが小さく震えている紫苑に気付くと困ったように頬を掻いた。
「大丈夫か?」
「はい。スネークさんはケガはありませんか?」
先ほどと同じく安否を気遣われた紫苑がスネークの無事を確かめると一歩下がったスネークが得意げに両腕を広げてアピールする。
「…ふふっ。元気でよかったです。」
笑顔になった紫苑を見てスネークも笑うとくるりと背中を見せて少しかがんだ。
目を瞬かせる紫苑の左手をとると自信の右肩を強くつかませた。
「ココカラデル。テヲハナスナ。」
後ろを振り向いてこちらを見るスネークにしっかりとうなづき返した紫苑はまとめておいた荷物をつかむ。
中々の惨状の部屋を出て辺りを窺うスネークに先導されて恐る恐る付いていく。
BA,BA,BANG‼
『…?!』
静かなジャングルになった銃声に反応したスネークが紫苑を庇うように反転する。
「…ス、スネークさん…」
BANG!
BA,BANG‼
ゆっくりと銃声のするほうへと進んでいく二人。
『会いたかったぞ。
貴様に。』
紫苑とスネーク、
これが二人にとって長い因縁を持つことになる
若き山猫との出会いである。
山猫ェ…
うちのEVAはナチュラルにオヤジです
気分はスールでしょうか