Historia~彼女を救う彼女の物語~   作:瞬く陰と陽

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目標時間には間に合いませんでしたがこの章はこれで終わりです。

いやーそれにしても陰陽座ツアー「雷神」最高でした!!!

風神に続き招鬼さんのギターピックを確保するという奇跡に恵まれたのでやる気満々ですよ!!




すいません 本編へどうぞ。


The Next Decade

『すべては彼女の望んだ世界を実現するため…お前たちに預けた「遺産」の半分を返してもらう。』

 

賢者達の巣窟-ラングレー-の地下深く、山猫が牙を剥く。

愕然とした表情の男に慈悲もなく引き金を引く。

 

崩れ落ちた男には目もくれず、零れたアタッシュケースを拾い上げる。

 

 

『…これがあれば…』

 

『Cool beans!(いいねぇ!!)頑張ったじゃないか子猫ちゃん!!』

 

 

背後から気配もなくかけられた声に驚いたオセロットが振り向きながら銃口を向ける。

そこにいたのは見覚えのない大柄な老人だった。

 

『貴様…何者だ?』

 

その男を見た瞬間、優秀な戦士であるオセロットの第六感が全力で警鐘を鳴らしている。

 

その男には隠しきれない濃密な死の香りが漂っていたからだ。

 

 

『君の-御父上-の友人だ、若者よ。』

 

 

A precipice in front, a wolf behind.(前に絶壁、後ろに狼)

 

オセロットは自分の背後からもう一つの死の気配を感じ取った。

 

 

『なんだ、来たのかErik。この私が失敗するとでも思ったのか?』

 

『怒るなよHannibal。そんなつもりはない、ちょっと見学するだけさ。』

 

 

オセロットは自分の能力に絶対の自信を持っている。どんな危機的状況でも切り抜ける自信があった。

 

そう、この瞬間までは。

 

 

 

 

 

『スネーク。帰国した時はたいした歓迎ぶりだったそうだな。』

 

1971年、伝説の英雄はアメリカへと帰還した。仲間たちは入院や一時拘束などで離れ離れにはなったが命を失った者はいない。

 

彼のもっとも大事な少女以外は。

 

 

『…紫苑の事は残念だったな…あんた、これからどうするつもりだ?』

 

『紫苑は俺にとっての希望だった。

 

 戦場でコードネームでしか呼ばれない俺を、名前で呼ぶ。

 

 もう彼女しか…残っていなかったんだ。』

 

『スネーク…』

 

 

『これは俺の業だ。平穏な生活を望んだが、俺は戦いの中でしか生きられない。

 

 あの子は違ったのに…俺が巻き込んだ。

 

 だから俺は俺の運命と向き合おう。』

 

 

『運命?』

 

『戦場の中でしか生きられないのなら、戦う理由だけは俺が決める。

 

 俺が受け継いだものを伝えるために。

 

 

 紫苑もそう言ってたしな。』

 

 

 

『そうか…いずれまた会おう。』

 

 

 

英雄は-過去-を駆逐し-現在-を創った。

 

姿を消した英雄は雌伏の時を迎える。

 

時代が英雄を欲するとき、彼は歴史の表舞台に舞い戻る。

 

 

 

英雄-BIGBOSS-は昏い太陽へとその輝きを変えながら。

 

 

 

 

 

 

時を同じくしてもう一人の英雄も帰還した。物言わぬ骸として。

 

 

『紫苑…私が弱かったばっかりに…』

 

真っ白なベッドの上に横たえられた紫苑の手を握り、少女は静かに涙していた。

 

 

『いいえ、あの事態は予想なんてできなかった。それこそ神様でもない限り…悔やみきれないわ…』

 

『あたしだって…護ってやれなかった。紫苑に付いて行くって心に決めたってのに…』

 

『こんなのが運命だなんて…また私から大切なものを奪っていく…』

 

 

 

自分の肉体を切り刻まれるかのような痛みと喪失感に打ちひしがれるアイリーン、トップ、パーセフォニー。

力なく椅子に座りこんでいたり、壁に背を預けていたり…彼女たちの涙はとうに枯れ果てていた。

 

そして…

 

 

『…紫苑…』

 

 

自身の本来の姿で寄り添うように紫苑のそばにいるミスティーク。

もっとも彼女に依存しているその女は今や瞬きすらしない人形のように紫苑の傍に佇むだけだった。

 

 

『…まさかあのミスティークがこちらにいるとはね。紫苑とはどういう関係なの?』

 

『…私の事を知ってるということは、-彼-の仲間?』

 

微かに疲れた表情をしながらも幾分か落ち着きを取り戻したアイリーンが尋ねる。

 

 

『貴女が彼の拠点を襲撃した時にたまたまあそこにいたのよ。…それと今は紫苑の-家族-。ここにいるのは私の意思、彼等とは関係無いわ。』

 

 

『へぇ…さすがは私の紫苑というべきか、節操の無さを責めるべきか…』

 

 

『…アンタたちねぇ…今そんなこと言ってる場合かい?!紫苑が…紫苑が死んじまったんだよ!!』

 

 

未だ受け入れることのできないトップが思わず立ち上がり声を荒げる。

怒りと悲しみが綯交ぜになった憤りを抑えられない様子だ。

 

『…トップ…』

 

彼女の様子に少し悲しげにしたアイリーンだが次の瞬間には決意を秘めた目でミスティークを見る。

 

 

『ミスティーク…貴女があの男の関係者なら知っているはず。紫苑を取り戻す方法を。』

 

『…それで?』

 

『あの子を取り戻すためなら、なんだってするわ。…たとえ道を外れた方法だとしても…』

 

『…そうしてまたあの子に戦いをさせるの?あの子を戦禍に巻き込むの?』

 

『それこそ貴女が一番わかってるでしょう?紫苑を今失う訳にはいかないの。』

 

『ちょ、ちょっと待ちなよ!!それじゃまるで紫苑は…『落ち着いてトップ。』…パス…』

 

狼狽しているトップの肩にそっと手を置いて宥めるパーセフォニー。彼女たちの様子を横目で確認したアイリーンはこちらを見ることなく紫苑を見つめるミスティークに向き直る。

 

 

『私には…私達にはあの子が必要なの。まだ紫苑と一緒に居たいのよ!!』

 

『そう…それな『待たせたな、ミスティーク。』…?!…なるほどそれがあなたの本当の姿…』

 

そこに現れたのはザ・グリードと呼ばれる男。しかしその姿はいつものだらけた服装ではなく黒いコートと軍服姿。何よりも纏う空気が異質だった。存在するだけで空間が歪んで見えるほどの威圧感。猛禽類のような鋭い目は強者の風格を備えていた。

 

 

『…やはり出てきたわね…グリード。』

 

『歓迎ありがとうクラリス。しかし紫苑を守れなかったとは君らの弱さには落胆を禁じ得ないね。』

 

投げ掛けられた言葉に対してにべもなく辛辣な返答を送るグリードに思わずトップが声を荒げる。

 

『何だって!?アン『さて、約束通り紫苑を取り戻してやろう、ミスティーク。』…エッ?!』

 

遮るように発せられた男の発言はトップの思考を止めてしまった。

目を大きく見開いたトップは更に驚きを重ねる光景を目にする。

あのアイリーンが男に掴みかかったのだ。

 

『どうすれば紫苑は目を醒ますのッ…!教えなさいグリード!!』

 

 

努めて冷静にしようとしていたアイリーンだが彼女も限界であったのだ。

詰め寄るようにグリードに迫るアイリーンは真っ直ぐに男の目を見つめる。

 

強い語気とは裏腹にその眼は縋る様な光を放っていた。

 

 

男は彼女の言葉に小さくうなずくと部屋に揃った紫苑の-家族達-の顔を見回す。

彼女達の想いを感じ取った男は右手の人差し指をゆっくりと立てる。

 

『一ついいことを教えてやる。紫苑を救う方法は-奴等の決めた運命-に抗うことだ

 

 

 ありとあらゆる時、ありとあらゆる場所、…そしてありとあらゆる世界で。

 

 

 

 

 俺達を使った盤上遊戯で、-奴ら-は命を…魂を…全てを奪っていく。

 

 

 

 

 代わりに与えられるのは奴らの望む運命‐シナリオ‐。

 

 

 

 

 己の力を誇示するために戦乱を生み、

 

 絶望の嵐を知謀を持って巻き起こし酔いしれ、

 

 愛という麻薬で心を堕落させる事で快楽を得る。

 

 

 

 

 奴らにとって俺達はゲームの駒や玩具でしかない。

 

 

 

 奴らの戯れに奪われた俺達の未来を俺達の元に取り返す。

 

 その為ならば屍山血河を乗り越え、俺は…俺達は-報復-する。

 

 

 お前たちにもその覚悟があるのなら……

 

 

 

 

 

 大切なものをその手で取り返してみせろ!!!』

 

 

 

男が素早く右手で空中に円を描くとその手を差し込んだ。

右肘より先が虚空に消え、次に引き抜かれたときにはその手には一振りの抜身の大太刀が握られていた。

 

鞘から抜かれると窓辺から僅かに零れる朝日に照らされた刀身は七色に輝いて見えた。

 

『この刀は三千世界を見通し、道を切り拓く。

 

 

 

 …入り口は俺が拓いてやろう…

 

 だが紫苑のいる場所へはお前たちが行け。』

 

『その場所ってのは一体…?』

 

 

男はトップの問いには答えず、ゆっくりと刀を振りかざすと何もない空間へと振り下ろした。

切っ先が描く軌跡は空間に裂け目を作り出すと異世界への入り口となった。

裂目からはドス黒く淀んだ空気が流れ出し、戦乙女達の体に流れ込んでいく。全身から汗が吹き出し視界が黒く染まっていく。

 

『この先は本物の【死者の楽園】、我々は-冥府-と呼んでいる。

 

 この世界の中心にあるゴルゴム神殿に紫苑は居る。』

 

 

『この先に紫苑が…『ただし行けるのは一人だけだ。』?!…それは何故かしら?』

 

 

『この《顕明連》によって生み出される裂け目は一時的なものでしかない。

 

 これを維持するには…そこのお嬢ちゃんとパーセフォニー、君達の力がいる。紫苑を奪還出来ても帰る術がなくなるからな。

 

 

 

 そして冥府は生者の魂を著しく奪う。ただソコに居るだけでな。

 

 ただの人間であるアイリーンとトップはこの先に行くことすらできない。

 

 

 …つまり…』

 

 

 

そこで言葉を止めた男は一言も発さなかったミスティークへと視線を投げる。

彼女は横たわる紫苑に近づくとその髪を優しく撫で、その額に口づけを一つ落とした。

 

それは騎士の誓いのようにも懺悔の祈りのようにも見えた。

 

 

 

 

 

 

べん べん べん

 

 

頭の中で音がする

 

 

 

べん べん べん

 

 

それは不気味な音色でありながら晴らしきれぬ未練と、満たされぬ愛情を嘆くような…

 

 

 

「…よもや本当に目が覚めるとは…わちきの三味線の腕か…はたまたこの子の情念か…」

 

 

「…さすがは太夫だよ。今この子を失う訳にはいかぬ。…さぁ紫苑よ、今こそ目覚める時だ。」

 

 

私の名を呼んでる?男の声に聞き覚えはあるけど…瞼が鉛のように重い。

 

「…?目覚めないでありんすね…」

 

「ふむ…‐向こう‐の体は彼等が造り換えたようだか…どうやら魂の消耗が激しいのだろう。何かカワリの…!?《ドケ、トキサダ。》まさか!?」

 

私の意識の覚醒を感じた二人はそれでも目覚めない私を案じているのか。でもすぐにそんな思考は割り込んだ声の主により消し飛んだ。

 

ドン!!

 

「…ッ?!!ゴホッゲホッ!!」

 

 

突如私の体に流れ出した力の本流。

 

それはあまりにも大きく、

 

力の勢いは瞬時に全身を駆け巡り、

 

禍禍しい暴風のように五感を蹂躙しようと迫ってくる。

 

身体をのたうち回らせる私の心を侵食しようと迫るその力は、世界を一色に染めていく。

 

 

 

 

心を支配するのは、

 

 

 

冥い破壊衝動。

 

 

 

 

 

「お前に足らぬは憎悪、嫉妬…そして総てを破壊しつくす、-殺意-。今打ち込んだのはその波動だ。」

 

「…冥王様?!随分乱暴ではありんせんか?!」

 

「…止さぬか太夫!!「ヨイ、トキサダ。」…ハッ…」

 

 

 

非難染みた女性の声とそれを押しとどめようとする男性の声。

私の耳には届いているけどそれよりももっと激しいコエが私の心を埋め尽くす。

 

 

 

 

叫べ!!!

 

 

呪え!!!

 

 

吠えろ!!!

 

 

怒れ!!!

 

 

 

 

 

コ   ロ    セ    !!!

 

 

 

 

 

 

 

GAAAAAAAAAAA!!!!

 

 

跳ね上がるように立ち上がった私の視界に2つの人影が写る。

 

 

頭部には軟体生物が絡みつき、巨大な目のようなものがこちらを見据える。

顔の下半分からは白い肌とすっと通った鼻筋、青い唇に体には打掛のようなものを纏ってはいること。

異形ではありながら醸し出される妖艶さと悲哀から女の声はきっと彼女だ。

一方は華美な南蛮風の衣装をまとった美青年は驚いたようにこちらを見ている。

その姿は以前見たヴィジョンの男だ。その時よりも力強い覇気を纏っている。

 

 

 

その二人の向こう側。

 

 

 

漆黒の岩を切り出しただけ、ただそれだけなのに一目でわかる。

 

 

 

 

あれは玉座。そしてそこに座る人物こそが…

 

 

 

 

「…メ…イ…オ…ウ…」

 

 

 

 

 

そいつは全身を真紅の鎧で覆い、緑色に発光する複眼。

二本の触角を額から生やし、腰には緑と赤の石が埋め込まれている。

深く王座に腰かけて傍に突き立てられた剣に右手を置き、こちらを見つめている。

 

 

感情の読めない…そもそも存在すらしていないのかも…

 

 

私は…怖かった。

 

 

体を駆け巡る破壊衝動。

 

自分が塗りつぶされていく感覚。

 

赤い鎧の死の権化。

 

 

 

 

そしていま、

 

 

 

 

私は挑まされる。

 

死の運命に。

 

 

 

 

 

「さぁ…そいつに身を任せろ。

 

 私を愉しませてくれ。

 

 

 

 九 頭 紫 苑。」

 

 

 

 

ゴメン…みんな…

 

わたし…は…も……う……

 

 

 

 

 

-俺みたいにはなるなって言っただろ紫苑。-

 

 

文治兄さん…?

 

-ったく、このお転婆が。俺らがいねぇとすぐこれだ。-

 

 

ジュージ兄…

 

 

そうだ…私には家族がいる。

待っている人たちがいるんだ!!

 

 

 

-君には帰る場所がある、今度こそ君に悲しい顔はさせない。-

 

あなたは…

 

-奴らに奪われた君の幸せは俺が必ず奪り還す。-

 

私の…大切な…

 

 

 

 

 

 

GUUUUUUッゥウウウ……」

 

 

 

殺意の波動に浮かされた私が理性を取りもどした時、私の拳は-冥王-に向かって振り下ろされる直前だった。

体の中に渦巻いていた激情は奥深くへとその姿を潜めていった。

力の奔流が収まると私は膝から崩れ落ちる。立っている気力等一欠けらも残っていない。

 

「まさか…御した…でありんすか?」

 

 

「…なるほど…さすがはあの男の…」

 

 

驚く二人の声を遠くに聞きながら、彼は嗤った。

 

 

 

「面白い…我と共に来い、紫苑。

 

 

 地上も

 

 魔界も

 

 天界も…

 

 

 お前が望むものをすべてくれてやろう。

 

 

 

 

 我の伴侶となれ、紫苑。」

 

 

私を求める明瞭な彼の声。

 

でも…私は

 

 

「…私には…帰…る場所が…あるの。…帰りを待つ…家族達がいる。」

 

 

喩この身が人でなくなったとしても。

 

 

「…私を救ってくれた彼女の…遺志を残すためにも、私はあの…世界に帰らなければ…いけない。」

 

 

喩もう一度戦火の中に身を投じることとなっても。

 

 

「私が救える人がいる限り、この手を伸ばし続ける。」

 

 

 

 

「私の望むものはここにはないの。…でもありがとう、貴方の気持ちは伝わったわ。」

 

 

「…お前たちはそっくりだ。私を飽きさせない。」

 

 

彼の言葉に不思議そうにしている私を彼は身動き一つせず見つめている、いや眺めているといった感じかな?

彼は続けて言った。

 

 

 

「…蜜月の時は短いな紫苑。」

 

 

 

少し残念そうな声色で彼がそう言うと私にもその理由が分かった。

 

 

 

遥か彼方より私を呼ぶ声がする。

きっとあれはみんなの声だ。

目を閉じると-家族-の存在を確かに感じる。

 

 

たとえどんなに離れていても見えない糸で繋がっている。

彼女達との強い絆を感じる。

ゆっくり目を開ければ指先から、体が光の粒子となって虚空へと消えていく。

きっと私の世界に戻るんだと思う。

 

 

「…さらばだ…紫苑よ。」

 

 

玉座に座る男が私に別れを告げる。

でも私には自信があった。

 

 

「これはサヨナラじゃないわ。

 

 貴方達とはまた会う気がする。

 

 必ずね。…だから…」

 

 

自然と笑みがこぼれる。

不思議と玉座の彼には親近感のようなものを感じていた。

きっとまた会える、そんな気持ちを込めて私は消えつつある右手を大きく上げた。

 

 

「またね!!」

 

 

 

「…-またね―…か…つくづく食えぬ奴等だ。」

 

 

完全に光となり消えてしまった紫苑がいた場所を眺めながら―冥王-が一人零す。

この男は本来寡黙だ。しかし今日は久々の大切な客人だったので思わず口数が増えてしまっていた。

 

 

 

余計な手出しをしてしまった自覚はあるが気になどしない。

どうせ奴もそんなことは気にしない。奴は我なのだから。

 

 

「なにやら楽しそうではありんせんか、冥王様?」

 

我の昂る感情に太夫は鋭く反応する。女の勘とやらか。

あるいは奴らに感化されたか。

 

 

「…紫苑は無事に元の世界へ帰還を果たしたようですな。…しかし冥王殿…-波動-の一件、大魔王様にご報告させて頂きますぞ。」

 

紫苑の行く末を確認するため異世界を見通す術を使い、瞳を閉じていた男が此方を窺う。

真意の読めぬ視線をよこすこの男は我の配下ではない。同盟者の老人が寄越した手のものだ。

小賢しい手を好む爺さんらしい手だが、なかなかどうして使える男だ。

 

 

 

玉座をめぐる戦いに勝利し、冥府を統べる王となって数え切れぬ程黒い太陽を見上げてきた。

次の王を決める戦いの起こるまで、残り数千年を退屈に過ごすのだろうと思っていた。

 

 

そんな時あの男が現れ、

 

全てをひっくり返していった。

 

 

《運命と戦う》

 

 

 

殺戮と闘争を飽きるほど喰らい尽くしてきた我が、

 

死者の世界の支配者となったが故に気づかなかったこと。

 

 

 

 

彼らの存在を意識した瞬間、全身に沸き起こったのは歓喜。

 

 

思う存分戦える!!まだ見ぬ強者、己よりも強大で格上の存在がまだいたのだ!!

 

 

時期に先端の火ぶたが切って落とされるだろう。

 

そして…紫苑は壮大なその戦史の幕開けとなろう。

 

 

 

 

 

 

「…薄皮太夫、天草四郎時貞。」

 

 

 

 

我が二人の名を呼べば、静かにその首を垂れる。

 

配下ではあるが弱者ではない。

このモノ共もまた、運命に抗う戦士だからだ。

 

 

 

 

「見届けよ…

 

 

 この冥府の支配者、

 

 

 -創世王-の戦いを。」

 

 

 

天-ソラ-よ!!見るがいい!!影は此処に在るということを!!

 

 

~~~~~~

 

 

 

カチャ

 

静かに男が受話器を置いた。

窓の外からは眩しい太陽が差し込んでいる。

目を細めて景色を眺めながら彼はある男の事を考えていた。

 

 

BIGBOSS

 

 

若き山猫からは―愛国者達―に参加するには彼の協力が条件だと提示された。

 

だが彼には予感があった。

 

 

あの男はやりすぎる。ザ・ボスへの思い入れが強すぎるのだ。

彼女の遺志を実現するにはもう一度彼のステージをあげる必要がある。

 

彼を象徴とするためにはザ・ボスへの未練を断ち切る必要がある。

 

彼女の望んだ世界はこの私の手で作り上げてみせる。

 

 

その為ならば手段は選ばん。

 

 

私がこの世界を一つに管理してみせる。

 

 

 

 

 

「高潔無比な彼女の想いを、よくぞ此処まで汚したものだな。えぇ?友よ。」

 

 

 

 

男が振り返ると上等な椅子に腰かけた人物が机の上に足を乗せてこちらを睨み付けていた。

 

「グリード…お前にそんなことを言う資格があるのか?」

 

 

「…残念だが俺が欲しいのは遺志ではなく、-意志-だ。

 

 

 お前たちが彼女の言葉をどう受け取ろうと興味はない。

 

 

 そして俺がここですべき事は終えた。」

 

 

 

グリードはそう言うと立ち上がり、机の上に試験管を置くと男に背を向ける。

 

 

 

「それは俺からの礼だ。これまで協力してくれたことへのな。

 

 

 

 

 

 サヨナラだ、もう会うこともないだろう。」

 

 

 

「…最後に聞いておきたい…何故私に協力した?お前の目的はなんだ?」

 

男がかけた言葉に足を止めたグリードは振り向かずに答える。

 

 

 

「俺の目的は昔から変わらねぇ。気に入らねぇからぶっ飛ばす、それだけだ。

 

 

 

 アンタと出会った―あの頃-から同じだよ。」

 

 

それだけ言い残すとグリードは部屋を出て行った。

男はただその背中を見送るしかなかった。

 

 

「なんでだろうな…あの頃はみんな同じ世界に生きてたのによぉ。

 

 そんなに彼女の事を愛していたなら…きちんと言うべきなんだよ…バカ野郎…」

 

 

扉の向こうで淋しげに呟いたグリードの言葉は過去の思い出とともに消えてしまったのかもしれない。

 

 

「こちらのお友達との別れは済みましたかMr.ミナ「おい。」…これは失礼。」

 

 

グリードに声をかけたのは黒服の男、スミスだった。

スミスの後ろには紫苑達からデイビークロケットを奪った老人も壁に背を預けて待っていたようだ。

 

三人は肩を並べて無人の廊下を歩き始めた。

 

 

「-師匠-の方は首尾よくいかれたようですね。」

 

「無論じゃ。紫苑という娘、あれはかなりの大物じゃわい。」

 

少女との邂逅を思い出しているのか嬉しそうに話す老人にグリードも笑みがこぼれる。

 

「そちらは楽しそうで何より。こちらはヒステリックな女性陣のお相手をさせられていましたがね。」

 

隣を歩くスミスは苦々しげに表情を歪めていたがグリードは更に笑みを深めるだけだった。

 

 

BEEP BEEP

 

 

グリードの耳に呼び出し音が鳴る。

彼らの本拠地からのcallだ。

 

「…どうしたナタル。……ほう?…あぁ…分かった。このまま向かおう。」

 

どうやら何かが起こったらしいと気付いた二人がグリードの様子を窺っていると通信を終えたらしいグリードが手近なドアを開けて中へと入っていく。続いて二人も入るとグリードが口を開く。

 

 

「向こうで潜入させていたシーマと天膳が何者かに襲撃されたらしい。シーマは軽症だが天膳は拉致された。」

 

「彼は―いつも通り―だろうがシーマ女史が負傷させられるとは…相手はいったいどんな手練れで?」

 

「餓鬼の二人組らしい。…まったく天膳の油断癖はいつまでも治らんな。」

 

「いかにも。帰ったら修行のやり直しじゃ、あの阿呆が!」

 

 

 

三人は大きなため息をつくと見計らったように部屋の固定電話が鳴りだす。

 

 

 

「…まぁ今回は三大老やスミスには退屈な思いをさせてしまったからね。向こうで暴れようじゃないか!」

 

「ほう。儂らが総出で暴れてもいいと?」

 

挑戦的に老人が笑うとグリードも猛禽類のような笑みを浮かべる。

 

「…おやおや。これから行く世界には同情すら覚えるね。…それで…その場所の名は?」

 

戦闘狂な二人の様子に呆れた様子を見せたスミスが声をかけるとグリードは受話器を取りながら答える。

 

 

 

「ゴッサムに並ぶ犯罪都市、

 

 

 世界に見放されたハグレモノが最後に行きつく場所。

 

 

 

 犯罪都市、ロアナプラ。」

 

 

 

言葉だけが残され部屋には人の姿はもうなかった。

 

 

 

 

彼らは新たなる戦いへと向かう。でもそれは此処では語られぬ物語。

これは-彼女-の物語なのだから。

 

 

 

そして彼らが姿を消して数日後

 

一人の少女が青い空の下にいた。

 

 

 

 

FOXの反乱は機密扱いとなり対外的には無かったこととなった。

スネークはソ連軍のミサイル基地を破壊した英雄として帰国したが程なく姿を消したらしい。

私の見た未来通り、彼は世界を脅かす存在となるのだろうか。

 

しばらく拘留されていた私は闇へと葬られるのかと思っていたが呆気ないほどに釈放された。

どんな手回しをしたのかは知らないが何らかの圧力をかけた人物がいるのだろう。

広大な砂漠の真ん中にある政府の秘密施設から身一つで放り出された私はぼんやりと流れる雲を眺めていた。

 

 

 

「いい天気ねお嬢さん♪よかったら私達とお茶しない?」

 

 

突き抜けるような青天の下、彼女は私に笑いかける。

 

 

 

「私との約束は覚えてる?」

 

 

 

-全部終わったら…あなたの名前、聞かせてね♪-

 

もちろん覚えてる。そして…決めた。

 

 

 

 

 

 

「-彼女-は私を守るために生まれ、私の為に死んだ。

 

 私は彼女を忘れない。私の中で彼女を生き続けさせる。

 

 

 

 

 

 

 聞いて紫苑。私の名前は-ウルスラ-よ。

 

 

 

 

 これからよろしく、BOSS。」

 

 

 

ふふっ…彼女の嬉しそうな顔、貴女も見てるわよね…姉さん。

 

 

 

元FOX少女隊員を新たな家族として迎え入れた紫苑。

ウルスラを迎えに来ていたのは紫苑だけではなかった。

 

 

「さ~て、これから何か予定は決まってるのかい?」

 

「トップ…あなた軍を辞めたんでしょう?何か行くあてはあるの?」

 

「えぇ?!ホントなのアイリーン?!」

 

「なに、のんびり旅でもしようかと思ってね。…そうだ!何だったらあたしの地元に来るってのはどうだい?」

 

「…のんきなものね。まぁアイツがいなくなって今まで住んでた家には戻れないし、紫苑と旅行ってのもいいんじゃない。」

 

「私はお酒とおいしい食事と紫苑がいればいいわ。」

 

「私も特にしたいこともないし…紫苑がよければみんなで行きたいわ。」

 

 

レイブンやパーセフォニー、ウルスラは各々の意思を示すとアイリーンはクスリと笑って紫苑を見る。

 

 

 

「それではBOSS?ここからの舵取りはあなたにお任せいたしますわ。この広い世界をあなたと共に征きましょう。」

 

 

 

 

「うん!!私達なら何でもできる!!最強チーム結成だね!!」

 

 

 

紫苑の言葉に皆が笑顔になっていく。悲しみを乗り越えて。

彼女達の晴れやかな笑顔。それこそが紫苑が守りたかったものだ。

 

 

 

 

「久しぶりにシャワルマが食いたくなったね~。うまい店があるんだよ!…つぶれてやしないだろうね。」

 

 

 

「へぇ。それは楽しみだわ。それであなたの故郷の名前、まだ聞いてないけど?」

 

 

 

 

「よくぞ聞いてくれたよアイリーン!…その名も―メトロシティ―。

 

 

 開放的な街で海も近い。まぁその分ちょいと治安は悪めだがそこもいいのさ。」

 

 

「メトロシティ!!なんだかとっても楽しそうだねウルスラ!」

 

「…え、えぇ…」

 

 

 

嬉しそうに笑う紫苑とは裏腹にウルスラは何かを感じ取ったのかもしれない。

 

(…誰かが私達を待ってる…そんな気がする。)

 

 

 

 

 

 

メトロシティのとある屋敷のバルコニー。

 

空を突くような大男が一人佇んでいた。

 

 

 

「ステキな夜だ。静かで……優しくて……。」

 

 

 

Time to crawl in the pain(痛みのように時間は這い寄る)

 

 

 

 

邂逅の時はもう目前だった。




この際なのでこの章までに出てきた紫苑陣営のメタギア以外のキャラの出典紹介

九頭紫苑…オリジナル主人公。九頭兄弟(GUNGRAVE)の末妹設定。

ミスティーク…X-MEN

アイリーン…羊たちの沈黙のクラリスの精神+SHERLOCKのアイリーン・アドラー

トップ…機動戦士ガンダム第08小隊

パーセフォニー…マトリックス



次の章でもアメコミばりに彼女達には暴れまわってもらいます!!
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