Historia~彼女を救う彼女の物語~   作:瞬く陰と陽

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今回は少しキャラの内面なんかにも切り込んでいきたい


そしてついにTPP発売日決定。

思ったより早くてどこまでこの話が前進するか不安ですが…



頑張ります!


王者の休日

トップの思い出の場所、ピアノバー《アマデウス》は3階建ての建物の地下にあり、一階は店主の住居として利用して二階・三階をアパートとして貸し出していたようだった。しかしあの男達からの酷い取立の影響だろうか、住民は一人も残ってはいなかった。

あの店主も本当は息子の言うことを聞くべきだと理解していた。自分がどれ程闘った所で相手にはならないと。店主と共に階段を上る途中、彼は悲しそうに私に告げた。

 

「賢明な判断ですわ…」

 

彼に同情し、悲しげな表情を浮かべながらも私は心の中で嘲笑っていた。

 

《男とは何と無力で、無知で、哀れなのだろう》

 

己の矜持の為に父の身を案じる息子の言葉に素直に頷くことができない、かといってあのような下賤な輩に抗う力も知恵もない。

 

全く度し難いが…利用価値がある。この男から穏便に拠点を譲り受ければボスの…紫苑の安息の地を手にできる。

サンヒエロニモ事件の後、紫苑は死んだことになった。なったと言うよりは現在進行形で死んでいるようなものだけれど。当然事件以前の居場所に戻るわけにはいかない。彼女自身の楽天さからかそれほど危機感は持ってはいないが…無いよりはあった方がいいに決まってる。何より彼女は他人から奪ったりしたものは決して受け取らないだろう。しかし好意や善意は素直に喜ぶだろう。彼女には不自然な部分で一般常識等々が欠落している。まるで原住民族か深窓の令嬢だ。

 

 

「…なんだかどちらもしっくりこないわ…」

 

「…?何か言ったかね?」

 

思わず漏れた独り言に店主が怪訝な顔をする。何もと笑顔で煙に巻くと店主はビルの説明を続ける。

元々世話焼きな性質な店主は、シャワーやキッチンの使い方を説明してくれるがこっちは40年ほど後の時代から来たのだ、設備はアンティークにしか見えない。特にキッチンはとても耐えられない、こんなものでは私の下を満足させる料理は作れない。あの男との生活で様々な知識を得たが、それ以上に舌が肥えてしまった。無論作れない訳ではないが…私はこだわりが強いのだ。特にニホンのカデンは素晴らしい!!

 

…いけない思考が脱線してしまったわ…

 

全ての部屋を回り終えたのだろう、店主が此方を見ている。…さてAperitif(アペリティフ)から始めましょうか。

 

 

「…店主、私は息子さんと共にここを離れることを提案します。」

 

「…しかし私には店が「失礼を承知で申し上げますが、貴方のその意地が息子さんの未来を閉ざしてしまうかもしれませんよ。」…!それは…」

 

「彼らはこちらに刃を向けました。

 

 今は脅しだけのつもりかもしれませんがその切っ先があなたや息子さん、

 

 その家族にまで向けられたら如何なさるおつもりですか?」

 

唇を噛みしめ拳を震わせる店主の前に跪き、優しく手を取り下から見上げて微笑む。

 

 

―仕上げだ―

 

 

「トップは私達の―家族―です。

 

 家族の友人を救うのは当たり前の事、だから紫苑は彼らに立ち向かったのです。

 

 貴方達の代わりに、私達が戦いましょう。どうかここは私達に任せて。」

 

 

 

「…分かった。ここはアンタたちに任せよう。俺はあの子と共にいくよ。」

 

 

 

そう、いい子は好きよ。内心の嘲りはおくびにも出さず安心したような笑顔を作る。これで一先ず拠点は手に入れたわ。次は…

 

そっと窓辺に近寄り外の景色を眺める。綺羅びやかな街のネオンは夜を明るく照らしている、ように見える。しかし明るく照らせば照らすほどその隣に寄り添う闇は深くなる。

 

「紫苑が光なら、私は闇を支配しましょう。

 

 私達はきっとコインの表と裏…私はいつまでもあなたと共にあるわ。」

 

 

”どんな闇の中にも、愛と希望は生まれうる”

-ジョージ・チャキリス

 

 

~~~~~~

 

一夜明けた《アマデウス》では紫苑達が遅い朝食を取っていた。というのも改装工事はほとんど夜通し行われていたからだ。

 

 

「ふぃ~、さすがに疲れたねぇ…」

 

首を鳴らしながら自分の肩を揉むトップに温かいお茶を出すウルスラは苦笑いを浮かべながら同意する。

 

「まさか徹夜でなんて…本当に人遣いの荒い人達ね。」

 

「私は楽しかったわよ。とてもクリエイティブな作業だったわ。」

 

「…お酒を飲みながら壁を蹴り壊してればそりゃ楽しいでしょうね…」

 

「あなたも飲めばよかったのに。まぁあと数年後のお楽しみかしら?」

 

ウルスラのジト目をワインと共に胃の中に流し込んだパーセフォニーは悠然と笑っている。

諦めたようにため息をついたウルスラは自分の入れたお茶を美味しそうに飲む紫苑へと向き直る。

あの戦いの最中から彼女に感じていた言葉にならない感覚。

見れば見るほど普通の少女だが、彼女は既に…「顔に何かついてる?」

 

ぼんやりと眺めていた張本人から声をかけられてハッとしたウルスラは何でもないと首を振ると食事の後片付けを始めた。不思議そうに首を傾けた紫苑に食事を終えたアイリーンが声をかける。

 

「ねぇ紫苑、今日は私と出掛けてくれないかしら?」

 

「あれ?何か買い忘れたっけ。」

 

「いいえ、私の用事があるのよ。それとも私とのデートはいや?」

 

蠱惑的な微笑みを向けられた紫苑はニッコリと無邪気な笑顔で了承の意を返した。もう成人しているはずなのにどうにも幼さが目立つ紫苑に思わず苦笑いを浮かべながら10分後に出発することを伝えたアイリーンは自室へと戻っていった。

 

 

準備を済ませた二人はメトロシティへと繰り出した。紫苑は前日トップと共に買い出しに出かけた商店を巡るのかと思っていたが彼女-アイリーン-はそういったものは必要ないと笑った。

彼女に連れられてやって来たのは小さな古本屋だった。

天井まである本棚には様々なジャンルの本が詰め込まれており、紙とインクの香りが紫苑を包み込むように薫っていた。

 

「こんにちは…何方かいらっしゃいますか?」

 

店内は僅かな間接照明が灯されてはいるが薄暗く店員の姿は見えない。

この店に連れてきたアイリーンはというと棚からいくつかの書物を取り出すとぱらぱらとめくり始めた。

 

「勝手に読んでいいのかなぁ…」

 

困ったように辺りを窺う紫苑に手に取っていたいくつかの書物を渡したアイリーンの目は悪戯気に輝く。

 

「さぁ、お勉強の時間よ紫苑?」

 

「…マジ?」

 

引き攣った笑みの紫苑に僅かな嗜虐心を覗かせたアイリーンは愉悦の笑みを浮かべる。

二人の美女の浮かべるそれは似ているようで全くの別物であった。

 

「おやおや、こんなにお若いお客さんは久しぶりだねぇ。」

 

店の奥から現れた店主らしき老婆は嬉しそうに二人へと話しかける。紫苑に流し目を送りながらにこやかに老婆と世間話を始めたアイリーンとは対照的に紫苑は腕にのしかかる重さにげんなりとしていた。

 

 

 

「さて紫苑。貴女はインテリジェンスという言葉を知っているかしら?」

 

古書店を後にした二人はアップタウンにあるカフェへと場所を移していた。おしゃれな内装のカフェは若い女性客が多かった。優雅にカップを口元に運ぶアイリーンの口ぶりはまるで教師のようであり、紫苑もまた素直な教え子だった。

 

「うーん…頭のいい人の事かな?情報とかって意味だよね。」

 

「間違いではないわ。でも私が今から教えるのはいわゆる諜報活動の方よ。」

 

瞬間紫苑の脳裏には幾人かの顔が過った。-彼女-やジャックがしていたこと…

 

 

「前々から思っていたのだけれど、貴方の身のこなしや戦闘能力は一級品。優秀な指導者に恵まれていたのね。」

 

女性に向けるにはあまりにも物騒な称賛の声だが紫苑はありのまま言葉通りに受け取ったようで照れたようにはにかんでいる。その様子に笑みを深めたアイリーン。

 

 

「でもそれらを極めたとしても私ならあなたを殺す手段をいくらでも思いつくわ。

 

 謀り、陥れ、絡め取る。あなたは素直すぎるのよ。美徳であるそれは時として致命的な隙を生む。

 

 もちろんそういった隙を埋めるために私達ファミリーは全力を尽くすのだけれど。」

 

 

美しい女の言葉は鋭い刃のように紫苑の眼前に突き付けられている。

 

「貴方の無知は隙を生み、貴方の無策が死を招く。

 

 それらは貴方だけでなく、ファミリーや貴方が守りたいと願う命にすら牙を剥く。

 

 だから強く賢くなりなさい。その為に私達がいるのよ。」

 

 

厳しくも愛情に満ちた言葉に力強く頷いた紫苑を見て満足げなアイリーンが-講義-を始める。

 

 

「私が教えるのは-情報の武器化-。貴方の故郷で言う所の《秘密戦》ね。

 

 諜報・防諜・宣伝・謀略の4分類があるんだけど

 

 私が得意とするのは諜報と謀略の分野かしら。」

 

ふむふむと頷きながらメモを取る紫苑を見ながら足元のカバンから数冊の書物を取り出した。

 

「これは諜報の基本、ヒューミントの一つ文書開拓。

 

 あの古書店で手に入れたのはこの街の成り立ちが書かれた歴史書や町の情報誌よ。

 

 私はもう目を通したから紫苑も読んでみて。」

 

受け取った紫苑がぺらぺらとページをめくりだす。

静かに一度飲み物に口をつけたアイリーンは講義を続けていく。

 

「次は人からの情報入手。最も来たばかりだからそれほど多いわけではないけど…ゼロじゃない。

 

 昨日の夜店主と話をしてこの町に来るまでトップに聞いていた話と随分違うと気付いたでしょう?」

 

「うん。トップの話だと下町っぽい感じかと思ったんだけどこのアップタウンは高いビルが多いね。」

 

「そうね。そしてそのビルが全てある会社のものだとしたら?」

 

「…あ!パラダイム社!」

 

アイリーンのヒントに紫苑が声をあげる。

 

「パラダイム社は電力会社で、街のあらゆる企業、自営業者の親会社。まさにこの街の支配者。

 

 この街を近代モデル都市としてアメリカ中に売り込む計画もあるみたい。

 

 其の為に完全にこの街を創り返る計画が…」

 

 

―メトロシティ浄化作戦-

 

 

紫苑の静かな呟きにアイリーンは頷いて応える。

 

 

もう一度カップに口をつけたアイリーンは二席ほど離れた女性二人組に目線をやる。

声は聞こえないがじっと女性の口元に注視すると唇の形からその内容を読み取っていく。

 

「…へぇ…これは使えそうね…」

 

「…アイリーン、どうしたの?」

 

突然不敵な笑みを浮かべたアイリーンの様子に気付いた紫苑が声をかけるがそれには答えず伝票を持ってレジへと向かってしまった。慌てて荷物をまとめた紫苑を連れてアイリーンが向かったのは一際巨大なビル。

 

 

「ねぇアイリーン…ここってまさか…」

 

「パラダイム社の本社ビルよ。」

 

ですよねーと引き攣った笑顔で笑う紫苑を尻目につかつかと本社の入り口をくぐるアイリーンは真っ直ぐに受付へと進むと見事な営業スマイルを浮かべる受付嬢の前で足を止めた。

 

「いらっしゃいませ。ごy「社長を今すぐ呼びなさい。」…え?あ、あのぉ…」

 

滅多に見かけることのない美女に機先を制された受付嬢はたじろぐ。

 

「あ、アポイントメン「私に口答えする気?」…ヒィ?!」

 

高圧的なアイリーンの態度にすっかり怯えてしまった受付嬢にダメ押しの一手として机を強烈に叩く。

周りの視線を一気に集めたアイリーンは特大の爆弾を投下する。

 

 

「ベルガー社長に伝えなさい。あんたの子を妊娠したとね。」

 

騒然となる周囲と余りの恐怖に涙さえ浮かべた哀れな受付嬢が社長室へと連絡を取ろうとしたときに野次馬が《十戒》のように自然と別れ奥から一人の女が歩いてきた。

 

その女は大輪の緋牡丹のような美しい女でありながらその立ち居振る舞いには気品と呼ぶには鋭利過ぎる空気を纏っていた。

 

 

「これは一体何の騒ぎでしょうか?」

 

「別に大事にしたいわけじゃないの。愛しい社長さんに一目会いたいだけ…」

 

「残念ながら社長は多忙のためアポの無い方とはお会いになれません。どうぞお引き取りを。」

 

言葉は穏やかでありながら周囲の者には確かに火花を散らす剣戟が見えた。

 

すっと目を細めた両者の間に沈黙が落ちる。それは数瞬だったかもしれないがギャラリーにとっては重い時間だった。

 

 

 

「…あなた名前は?」

 

「…パラダイム社筆頭秘書の陽炎と申します。」

 

「そう。私の名はアイリーン、アマデウスというバーにいると彼に伝えて頂戴。」

 

そう言い残すとアイリーンは踵を返して紫苑と共にその場を後にした。

 

 

 

「ねぇボス…彼女の事どう思った?」

 

アマデウスへと帰る道すがらアイリーンから向けられた質問に紫苑は気付いたことを返す。

 

「あの人、訓練を受けてる。でも軍人じゃないわ。…あれは…」

 

 

「「忍(シノビ)」」

 

異口同音に放たれた言葉に二人は足を止めた。

 

「私の朽葉流は忍術を起源とするものなんだけどあの足運びはそれによく似てた。」

 

「…昔ニホンに造詣の深い人と暮らしていた時期に幾つか調べたことがあるの。

 

 彼女の身のこなしはおそらく―甲賀者―。」

 

振り返ったアイリーンは紫苑の眼を見つめる。

 

「一筋縄じゃいかなそうだね。」

 

「えぇ…でもその方が燃えるわ。」

 

力強く笑いあう二人。

 

紫苑はアイリーンの手を握ると微笑んだ。

 

「帰ろっか♪」

 

「そうね。夕飯は何がいいかしら?」

 

足取りも軽やかに家路へと付く二人はこれから起こる戦いに微塵も不安を感じていない。

彼女達にはきっと誰も敵わない。

 

『君のために 君のためにだけ生きられるよ』

 

 

 

 

メトロシティで最も高所に位置するパラダイム本社社長室。その部屋の主ベルガーは叫んだ。

 

 

「ワシはそんな女は知らんッ!?!」

 

「…でしょうね…キサマごときがあの女に手を出せるはずもないわ。」

 

陽炎と名乗った社長秘書は主従関係を忘れたのか、

或いはこれが本来の上下関係とでも言うのだろうか、

豪勢な革張りの椅子に腰かけた大柄な男、ベルガーは怒りに震えながらも陽炎には逆らえない。

いや…この女の後ろにいる―あの御方―には逆らえない。

 

「いいことベルガー…あなたの仕事はお館様を満足させること。それができないというのなら…」

 

すっと目を細めた陽炎は香り立つような色気を滲ませる口元から熱の籠った息を吐く。

健全な男ならば吸い寄せられてしまいそうな甘い吐息は禍禍しい緑色をしており執務机の上に飾られていた生花を腐り枯らしてしまった。

 

 

「あら?何か取り込んでるの、陽炎。」

 

突如頭上からかけられた言葉に重い空気を霧散させた陽炎はため息を一つつくと明かりを取り入れるための大きな天窓を仰ぎ見た。

 

「…扉から入ってって何度も言ったでしょうに…貴女にもきちんとIDは渡してあるはずよセレステ。」

 

高い天井から猫のように着地した金髪の女、セレステに呆れたように言葉を投げた陽炎。

先程とは違い纏う空気が柔らかなものとなっている陽炎の様子から赤いノースリーブとローライズのジーパンとスニーカーという機能的な服装をした美女のセレステは非常に友好的な関係なのだろう。

 

「こっちの方が人に見られないから都合がいいのよ。それで何か問題でも起きたの?」

 

「…妙な女がここに来たのよ。

 

 …あの女は今まで私が出会ってきたどんな女よりも狡猾で凶悪。

 

 間違いなく敵に回したくない女達。」

 

「女達ねぇ…そいつら…邪魔なの?」

 

瞳から光を消したセレステが剣呑な雰囲気を纏いながら陽炎へと尋ねるとゆるく首を振る。

 

 

「分からないわ。いやな予感はするけどあの子はなんだか…」

 

「…陽炎らしくないわね。まぁいいわ、何かあったら連絡頂戴。」

 

 

気が抜けたのか踵を返し、手近な窓を開けると枠に足をかけるセレステは眼下に見える街並みを見下ろす。

 

この街はこれから変わっていく、いや我々が変える。

そのために私はこの現実と輝きの狭間、鏡の境界-Mirror's Edge-に身を投じているのだから。

 

 

 

王者の休日は静かに加速していく。




今回の新キャラ

ベルガ―・・・ファイナルファイト

陽炎・・・甲賀忍法帖より能力と容姿

セレステ・・・Mirror's Edge


さて次回も一人称に挑戦して戦闘描写も入れてみますか。
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