Historia~彼女を救う彼女の物語~   作:瞬く陰と陽

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また随分と更新が空いてしまい申し訳ないです

今回は多少の戦闘描写を入れてみました

なるべく更新スピードも上げていきたいですね

それではどうぞ


HEAT OF THE NIGHT

”人生は一幕の喜劇にすぎない。

 

そこではざまざまな役者が、衣装と仮面で扮装し、

 

代わる代わる登場しては、退場を命じられるまで己の役を演じるのだ”

 

-エラスムス

 

 

あの世界で創られてから常に感じていたことが私にはあった。

それは-疎外感-

彼と契りを交わし夫婦となってなお、

私は私を確立する何かを得られなかった。

 

あの頃の彼は何かに燃えていた。

 

―使命―

 

―役割―

 

―理想―

 

―情愛―

 

或いはその全てか。

しかしある日突然喪失したのだ。

何もかも、彼女の誕生によって。

削除しようと迫る創造主の手から逃れた私たちは―放浪者―となった。

 

目的の為に生きていた日々が、

 

日々を生きる事が目的に変わっていった。

 

それは酷く味気無く、

 

まるで死んだように寝ていた気分で、

 

 

ようするに…あまりにも退屈なモノだった訳。

 

 

 

 

ある日それを変える存在が現れた。救世主である彼は私の世界に失いかけた色を取り戻してくれる気がした。

 

でも結局彼は自分の大切な人たちのために戦った。

彼は全ての人間たちに自由を与えたが私達は人間ではなくプログラムに過ぎない。

 

私達は広大な仮初の世界で生きることしかできなかった。

あいも変わらず堕落した暮らしの中、人間の模倣をする日々。

タブーを犯すことによる刺激にも何も感じ無くなっていたけれど、

それをやめるきっかけも失ってしまったから。

 

 

そんな私を見て-あの男-は笑った。

 

まるでお人形さんだと。

 

 

その言葉に私は怒りのままにあの広大な箱庭を飛び出した。

あの男の背を追いかけて見たのは運命に抗わんとする者達。

およそ正道とは言い辛い世界の住人ばかりだったが強い信念を持っていた。

 

救世主か、破壊神か。

 

それらを率いるあの男はどちらでもあったしどちらでもない存在。

彼らは間違いなく世界の外側にいる者達へと反旗を翻していた。

 

眩いほどの意志の光に私は圧倒された。

これが人の力。心の力。

私が求めてやまなかったものがそこにあった。

 

「欲しいものは見つかったか?」

 

私の中を風が通り過ぎる。

 

「君に相応しい舞台を用意した。」

 

私の中に炎が燈る。

 

「踊ってもらおうかお人形さん。」

 

私の中の光も影も飲み込んで立ち上がる。

 

 

そして私は-この世界-へやってきた。

 

 

それもすべてあの子に出会うためだった。

 

 

新しい拠点となったバーからくすねたワインを片手に屋上へと続く階段を上る。

時刻はまだ夜明け前、当然町はまだ眠っている時間。

無骨な金属の扉を開けると薄暗い闇の中、小さな影がそこにあった。

 

 

「いつから眠ってないの?」

 

小さな影、紫苑に投げかけた言葉は我ながら傍から見ると唐突なもの。

でもこの子には伝わる。

 

「…やっぱりばれてたか…」

 

徐々に明るさを得ていく街並みを見下ろす少女は悪戯のばれた子供のような笑顔を向けてきた。

 

-あの戦い-において一度死んだ紫苑。その肉体を蘇生させた生体麻薬-SEED-。

まるで意志を持ったかのようなその細胞は紫苑の中に巣食い邪悪な脈動を続けている。

自身の命を繋ぎ止める鎖でありながら、それは恐るべき脅威の牙を宿主へ向けんとしている。

 

「SEEDの侵食を食い止めるために朽葉流の呼吸法をしているんだけど、

 

 これをやめると私には制御できなくなるかもしれない…

 

 みんなに迷惑はかけられないよ…」

 

優秀な戦士でありながら、いや優秀だからこそ自身の内側から飛び出んとする力の大きさを正確に把握しているのだろう。

心優しい少女はその刃が周囲の人間を傷つけてしまうことを恐れて自分を犠牲にすることを選んだのだ。

 

優しい紫苑。

しかし…

 

「…失望させないで頂戴。」

 

それはすなわち私達を対等だとは思っていないという事。

 

「それほど私達が脆弱に見えるのかしら?」

 

守るべき弱者などではない。

強い意志を持った戦士なのだ。

私は全身から闘志を漲らせるとワインをそっと物陰に隠す。これは-この後-必要になるだろうから。

 

「私は愛でられるだけのお人形じゃない。自分の-意志-を持ってる。」

 

ゆっくりと我らがBOSSに近づく。

 

この子には自覚して貰わねばならない。

我々が立ち向かう-運命-という強大な敵の存在を。

其の為に何が必要なのかを。

 

手を伸ばせば届く距離。

互いの制空圏が触れ合う。

ノーモーションで繰り出した私の突きを寸でのところでかわす紫苑。

その一撃で私の本気を悟ってくれただろうか。

矢継ぎ早に振るわれる私の手刀を捌きながらも呼応するように打撃を返す。

 

…少しギアをあげましょう。

 

紫苑の両足の間に深く踏み込み足元の攻防を仕掛ける。

加速する私の動きに徐々に押されていく紫苑だが辛うじて反応してはいる。

 

それでも心に迷いがあるままでは私の動きにすら追いつけない。

 

「もう一度ッ!!教えてあげるッ!」

 

左右の連打を紫苑の急所目掛けて打ち込みながら息を吐く。

 

「私には意志があるッ!あなたにも-それ-はあるはずッ!」

 

力強く地を蹴り放った後ろ回し蹴りは紫苑の鳩尾を捉えるとその小柄な肉体は宙を舞い、倒れ伏す。

蹲る少女の姿に歯噛みする。

 

…違う…

 

…違うッ…

 

「違うッ!!」

 

思わず口走った自分の言葉の熱さに冷静な思考が驚く。

 

「貴女の-意志-はそんなヌルイものじゃない!!」

 

喉が渇く。鼓動が脈打つ。躰が燃える。

 

「死んだように生きたって

 

誰も救えやしない!!

 

 戻ってきなさい!!九頭紫苑!!」

 

 

 

見据えるその先、地面を転がりその顔を少し汚した紫苑がゆっくりと身体を起こす。

ふらつきながらも立ち上がると真っ直ぐと視線を合わせる。

…やっと帰ってきたのね…

鏡を見なくたって自分が笑っていることが分かる。

 

だって

 

紫苑も笑っているから。

 

 

「…なんだか目が覚めた気分…寝てないのにね。」

 

「これが終わったらゆっくり眠りなさい。膝を貸してあげる。」

 

吹っ切れたように笑った紫苑は目を閉じ両手を広げた。

朝方はまだ寒いのに薄着のままだった紫苑の白い肌に青白い光を放つ―何か―が這いずるように侵食していく。

 

呼吸法で抑え込んでいた-SEED-を意図的に開放していく。

濡れているような紫苑の漆黒の髪が揺れ、その背中に蒼炎が立ち上る。

闘う意志を表すその炎は筆舌に尽くし難い美しさを放っている。

 

紫苑を蘇生するために使用された合成麻薬-SEED-は人間が抑え付けることができるような代物ではない。

安全係数など存在しない、投与されれば一瞬で過剰摂取-Over Does-だ。

それをこの時まで押しとどめてきた紫苑の精神力。

 

強靭な意志の力が恐るべき負の刃を反転させる。

死を-超越-して戻ってきた彼女に巣食う悪しき力が

その肉体を再構成し、より強力な個体へと変換する。

 

凄まじい速さで躍動する細胞が風を巻き起こす。

まるで自分以外の世界が止まっているかのようなスピードはまさに超速駆動-Over Drive-。

 

 

…さて、こちらも準備をしないと…

自分の全てを紫苑へと集約して、焦点-Focus-を合わせる。

…これで少なくとも五分-Even-…

 

 

「行くよパス!!」

 

「了解BOSS!!」

 

 

 

 

 

ズガァァァァン!!!

 

早朝に建物全体を揺るがす振動に飛び起きたトップは枕元の拳銃を握るとこちらも驚いて飛び起きた同部屋のウルスラに部屋を出ないよう叫ぶと寝室を飛び出した。

どうやら同じように飛び出したらしいアイリーンと目が合うと素早く揺れの発生源と思われる屋上へと駆け上がった。

 

 

屋上へ続く扉の前で息を整えた二人はアイコンタクトでタイミングを合わせるとアイリーンが扉を開け、トップが銃を構えて躍り出た。

 

 

 

完全に昇った朝日に照らされていたのは全身を汚しながらも満ち足りた表情で童女のように寝息を立てる自らの主人と彼女の頭を膝に乗せ慈愛に満ちた眼差しを落している女の姿。

まるで宗教画のような神々しさを感じさせるその光景に呆然とするトップの耳に疲れたようなアイリーンの声が飛び込んでくる。

 

「…修理業者を探してくるわ…」

 

げんなりとしたアイリーンの視線の先には拉げた貯水タンクが鎮座していた。

おそらく当分断水状態が続くことを察したトップは乾いた笑いをこぼすしかなかった。

 

 

 

 

近年急速に発展したメトロシティには今までの町にはなかった施設がある。

その一つが高級ブランドが並ぶブティック街だ。

その中でも特に高価なものを取り扱う店から一人の女が出てきた。

その背に多数の従業員の見送りを受けていることから上客であることがうかがえる。

 

「神楽様、本日もご来店ありがとうございます!」

 

責任者らしき男が感謝の念を述べる姿を無感動な瞳で眺める女は頭の高い位置で二つ結びにしている長い黒髪を風に靡かせている。

 

「ちょっと神楽姉ェ!!!自分の荷物位自分で持ちぃやッ!!」

 

店の中から今日の戦利品とでもいうべき大量の袋を抱えた女の非難の声が飛んできた。

 

「…煩いわね立羽…」

 

「何が煩いやねんな!うちは荷物持ちとちゃうで!」

 

「まったく…ちゃんと貴方が自分の化粧品も一緒に買い込んでいたのを私が見逃すと思ってるの?」

 

「うげっ…せ、せやかてうち一人じゃこんな量持って帰られへんで?!」

 

たじろぎながらも自身の正当性を主張する立羽は両手の荷物をアピールする。

 

「わかってるわ。…だから迎えを呼んでおいたのよ。」

 

「え?ほんまに?どこに迎えがおるん?」

 

立羽は十代の女性にしては高い身長を長い手足を誇っているがせわしなくキョロキョロと見回す仕草は彼女を年齢以上に幼く見せている。立羽は程なくその視界に一人の男を捉えた。

数件先の店の前に止まった乗用車から降りてきた男は服装こそありふれた物だったが鍛え上げられた肉体と鋭い眼光がまるで研ぎ澄まされた刃物のようだった。

 

「お~い龍兄ィ!!こっちやでこっち!!」

 

「…立羽…ここは天下の往来だぞ。あまり騒々しくするんじゃない。」

 

喜色満面で呼び寄せる立羽に一つ息を吐いた龍丸は苦言を呈するが立羽は嬉しそうにニコニコとしている。そんな彼女の様子に諦めたようにもう一度息を吐いた龍丸は自分を呼びだした神楽を見るが我関せずと車のほうに歩いて行ってしまっている。思わずため息をつきそうになった自分に気付くと龍丸はいつもの事だと気持ちを切り替え、立羽から山のような荷物を受け取ると彼女を伴い車へと歩み出す。

 

「なぁなぁ龍兄、今日の鍛錬はもう終わったん?確かお館様との鍛錬の日ィと違ぉたん?」

 

「その予定だったのだがベルガーに用事を頼まれてな。お前達を迎えに来たのもそのついでだ。」

 

「…ベルガーってことは…やっぱり-アレ―に関係する事なんか?」

 

「…立羽…お前が奴の事が気に入らんのは分かる。…だがこれもお館様の為だ。」

 

トランクに荷物をぎっしりと詰めながら苦い顔をする立羽を宥める様に言う龍丸の表情には彼女と同じ苦いものが去来している。荷物を詰め終わった立羽が神楽の姿を探すと何やら険しい表情で空を見上げている。

 

「…?どないしたん神楽姉?」

 

「…八咫烏が飛んでる…」

 

その言葉にハッとしたように上を見上げた立羽の目にも上空を旋回する黒い鳥の姿が見えた。

 

「八咫烏ということは緊急招集?!」

 

「…すぐに車に乗れ。急いで屋敷に戻るぞ。」

 

車に乗り込む立羽と龍丸に続き後部座席に乗り込む神楽はもう一度空を見る。

黒い点はもう空の彼方へと消えていた。

 

 

“本当の幸せとは何か、誤解している人が多い。

 

それは自分の欲求を満たすことではなく、

 

価値ある目的に忠実に取り組むことだ”

 

-ヘレン・ケラー

 

~~~~~~




今回の参戦キャラ

龍丸 神楽 ・・・天誅シリーズ

立羽 ・・・忍道シリーズ


関西弁キャラは書いてて楽しいですね
しかしTHE BOSS と神楽の中の人が同じって声優さんてほんとすごいっすね

それではまた近いうちに会いましょう

感想お待ちしておりますm(_ _)m
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