高らかに響き渡る宣戦布告に反応したのはやはりスネークだった。
『オセロットッ!!』
銃口を向けられながら不敵に笑う男は若く見える、自分と同じぐらいではなかろうか。そこまで思考した紫苑は彼の手中に収まるものを目にして思わず声をあげた。
「EVAさん!?」
スネークの背中から飛び出した人影に若い男、オセロットも驚いた。
『子供だと!?』
一瞬わが目を疑ったが隙あらば逃げ出そうとする‐戦利品‐に意識を取り戻した。
「ちょっとあんたッ!!EVAさんから手を離しなさい!!」
『訳の分からんことを喚く子どもめッ!!
ここは戦場だ!!ガキは消えろッ!!』
「意味は分からないけど今の悪口でしょ!」
『うるさい!!女の癖に生意気な態度だ!!今の状況がわからないのか!!』
ギャーギャーとお互いに言葉は分からないにも関わらず、
口汚く罵り合う二人に置いてきぼりのスネーク。
隙を付こうと動こうとした、EVAをオセロットが引き戻すとその胸を鷲掴む。
『女スパイか!!雌犬め 香水などつけてやがって!!』
忌々しげに吐き捨てるオセロット。
ふと眼下の下品な子どもが静かなことに気付く。
ようやく自分の身分を弁えたのかと思い、
『どうした?やっと己の立場を理解したのか?雌犬その2。』
嘲るように笑う。
震える紫苑がゆっくりと顔を上げると、オセロットは息を飲んだ。
青白い鬼火を陽炎のように背負う羅刹女がそこにいた。
「ワタシを本気にさせたわね…」
その目に宿る殺気は無垢な少女とはかけ離れていた。
『何…なんだその眼は…?!』
たじろぐオセロットに飛び掛かろうとする紫苑。
ポンと紫苑の頭に手が置かれた。
『そのへんにしておけ。』
その手は大きくて、力強く、暖かった。
ニヤリと笑ったスネークはオセロットの持つ銃を見た。
『シングル・アクション・アーミーか?』
『ああ。もう
『あれがアクシデントだと?
あれは貴様の虚栄心が生んだ必然だ。』
『なに?』
『確かにいい銃だ。
だがその
実用と鑑賞用は違う。』
スネークの指摘に臍を噬んだオセロット。
『それとお前はもうひとつ、根本的な誤解をしている。』
まるで息子を導く父親のようなスネークの態度。
『 お前に、 俺は、 殺せない。』
不敵に笑うスネークに銃口を向けて引き金を引くオセロット。
しかし打ち出されるのは乾いた金属音、
弾切れだ。
あまりのことに動くことができないオセロット、それを見逃す
オセロットを階下へ蹴落とすと自身もその身を空に躍らせた。
愛馬に跨がったEVAと対峙するオセロット。
その背後に影が差したかと思うとオセロットの前には少女が降り立っていた。
まっすぐこちらをみる瞳。
体を半身に構え呟く。
「EVAさんに…
謝れッ!!」
叫ぶと同時に己の右手を前に突き出すと集められた気がオセロットに叩き付けられる。
数メートル空中遊泳をしたオセロットはなんとか受け身をとることができたが、その身を襲った衝撃に足元が覚束無い。
なんとか立ち上がると、
『6発だ。残弾数を体で覚えろ。』
銃を油断なく構えたスネークが近寄り言葉を投げ掛ける。
形勢は逆転だ。
スネーク、EVAをみて紫苑に目をやる。
『お前…名前は…』
オセロットが紫苑に英語で尋ねる。
まだ険しい表情だが日本人の性だ。答えてあげるが世の情けだ。
『シオン…クガシラ・シオン…』
シオンと小さく口の中で呟き、ビシッと指を指すオセロット。
『シオン!!また会おう!!』
背中を向け走り去るオセロットにEVAが銃を向けるがスネークがまだやつは若いと止めていた。
『後悔するわよ…』
忠告するEVA。
「アイツ!!もっかいブッ飛ばす!!」
拳を再び突き出す紫苑に思わず二人は吹き出した。
オセロットより先に帰らなければならないというEVAと別れた紫苑とスネークは沼地へと来ていた。
『ここ、泳ぐ?』
ようやく落ち着いたのかスネークの後ろをついてきた紫苑が不安げな顔で辺りを見渡している。
そんな紫苑の前にスネークは背中を見せて屈みこんだ。
困惑する紫苑に顔を向けると
『大丈夫だ。俺がつれていく。』
ニヤリと笑ったスネークに少し頬を赤らめながらその背中に自身の体を預けた。
そっと立ち上がったスネークは慎重に水のなかへ体を浸していき、ゆっくりと泳ぎだした。
沼の中程まで来たときに水中を泳ぐ影に紫苑は気付いた。
「…!?わ、ワニ!!」
思わず強くスネークに抱きついてしまい大きな水音をたて、ヤツの注意を引いてしまった。
チッと軽く舌打ちをしたスネークが水中をかき分け泳ぎだすが相手は水棲生物、みるみる間合いが狭まる。
これは逃げ切れないと見たスネークは器用にバックパックよりグレネードを取り出すとピンを抜き追跡者に放り投げた。
よほどの空腹だったのか、追跡者は大きな口を開けるとそれを胃のなかへ納めてしまった。
数瞬後、高い水しぶきと共に沼地のハンターは木っ端微塵に吹き飛んでいた。
岸になんとかたどり着いた時、紫苑は泣き出しそうな顔をしていた。
「す、スネークさん!ごめんなさい!」
何度も頭を下げる紫苑にスネークは、
『気にするな。』と頬をかいている。
BEEP BEEP
無線機から音がしてスネークが対応をする。
『EVAだ。』
無線機をコツコツと指で紫苑に叩き知らせてくる。
EVAの無事を知り安心した紫苑はこれまでの事を思い出していた。
(スネークさんが優しい人でよかったなぁ。
というか結局ここはどこなんだろう?
日本じゃないよね。…これも
『…ボスも似たようなことを言っていた。』
スネークの言葉に意識を引き戻される。
(今スネークさん…ボスって言ったよね。
ひょっとしてあの人が言ってた彼女って…)
視線を感じた。険しい表情でスネークがこちらを見ている。
『シオン…俺もEVAも聞きたいことがある。
オセロットを打ち負かしたあの
君はESP能力者なのか?』
どうやら先程の技、砲砕について問われているらしい。
「
あれは朽葉流に伝わる呼吸法で練り上げた‐気‐を撃ち出すんだ。
って…英語じゃないと伝わらないか…」
(ついつい日本語で話しちゃった。)
少し恥ずかしくなったのか頬を染めた紫苑をスネークが目を丸くして見ている。
(あぁ…スネークさんにも呆れられちゃってるよぉ…ってうぉ?!)
『クタバリュウ?…ニンジツ?!…シオンはNINJYAなのか!?』
なにやら琴線に触れたらしいスネークが紫苑の両肩を掴みガクガクと揺さぶる。
(なぁあぁあぁあぁ??!!脳が揺れるぅぅぅ?!)
けたたましくなる無線機の音に我に返ったスネークは咳払いを一つすると背中を向けて交信を始めてしまった。
1人蚊帳の外に置かれた紫苑はキョロキョロと辺りを見回す。
ふとひときわ大きな樹が目に入り、先程の失敗を挽回する方法を思い付いた。
その樹に足をかけるとするすると登り始め、あっという間に頂上へ到達してしまった。そこから見下ろすジャングルの広大さに圧倒されるもこれから進んでいく方角に目を凝らす。
どうやら小さな小屋とヘリコプターがある、ヘリポートのようなものだろうか。その辺りに動く影も幾人か確認できる。
情報をしっかり覚えた後、樹から飛び降りた紫苑。
プツン
「え?」
着地した時に何かを切ってしまった感触に首をかしげる紫苑の背後、
大きな丸太に棘を生やしたトラップが振り子の勢いをつけて紫苑へと迫っていた。
風切り音に振り返った時にはもう回避が間に合わない。
「きゃあ?!」
思わず目をつむった紫苑ごと地面に倒れこむようにスネークが覆いかぶさる。
ブオォォォン‼
二人の頭上を通過した大木。もしもこれが直撃していたら無事では済まなかっただろう。
「あ、あの…」
『何故勝手なことをした。』
静かに怒気を放つスネーク。
「ご、ごめんなさい!スネークさんの役に立ちたくって…」
紫苑の言葉を聞いたスネークはゆっくりと話す。
『シオン。ここは戦場だ。
遊びでもゲームでもない、少しの油断が死に繋がりかねない。
絶対に守りきれる保証は無いんだ。』
諭すように話すスネーク。
(あぁ…スネークさんを怒らせちゃった…なんて浅はかだったんだろう…)
強い後悔から目に涙をためてうつむく紫苑。
一つ息をはいて紫苑を優しく抱き寄せると、
『心配した。心臓に悪いから勘弁してくれ。』
と頭を撫でて落ち着かせてくれた。
(…おっきな手…凄く安心する。)
とても暖かい時間を終わらせたのはけたたましくなる無線だった。
弾かれたように離れる二人。その顔はお互いに赤みがさしていた。
背を向けて無線の応対をするスネークを今度は大人しく眺める紫苑。
戦闘服に身を包んだ肉体は大きく力強い、二人の兄以外の異性にあれほど接近したのは初めての経験だった。
すごくドキドキするのに安心する不思議な感覚に戸惑いはあるがいやな気はしなかった。
通信を終えたらしいスネークがこちらを振り返る。
『待たせたな。シオン。』
『うん!!行こうスネーク!!』
進みだしたスネークと紫苑。
紫苑の事前の索敵情報もあり危なげなく踏破していく二人はボルシャヤ・パストクレバスにたどり着き、
再会する事となる。
『やはり来たな。』
悠然と現れるオセロット。
『子守り付きでもここまでたどり着くとは流石はザ・ボスの弟子と言う訳か。』
身構える紫苑をみて山猫の咆哮をするオセロット。
瞬く間に後方を山猫部隊に包囲されてしまう。
『山猫は気高い生き物だ。本来群れることはない。』
部下に手出し無用と釘を指すと二挺のリボルバーを手足のように操りだす。
お~と思わず感嘆の息を漏らす紫苑に満足したのか、ジャグリングをやめるとスネークを睨み付ける。
戦いの始まりを感じたスネークが片手で紫苑を後ろへ押しやる。
『さぁ、来い!!』
決闘が始まる。
伝説の英雄と忠義の士、物語の幕開けだ。
改めて再投稿
今月は改稿強化月間