Historia~彼女を救う彼女の物語~   作:瞬く陰と陽

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ずいぶんと長かった…

と同時に番外編も展開しようかと思います

恐らく邦画界の歴史を変える名作

「RE:BORN」

素晴らしい作品です

是非ともご鑑賞ください


Cry&Fight

ゴングの音が響いた。

 

 

何時もならば狂乱の極みとなるその瞬間だが、

 

今日、この日に限っては違っていた。

 

常勝不敗の怪人、クライベイビーのファイトが観られる。

心躍らせていた観客達の前に現れた女達。

 

 

 

有り得ない

 

幼さをも感じさせる少女が、殺人すら許容範囲のこの地下リングに上がるなど。

 

 

有り得ない

 

あの怪人が同格の相手として少女を認めるなど。

 

 

有り得ない

 

人間とは到底思えない怪力を少女が発揮して怪人を圧倒するなど。

 

 

 

 

まるで時間が停止したように固まる観客達を尻目に、それぞれのリングコーナーへと戻った二人の戦士は互いの視線を交錯させたまま。

 

 

 

 

さぁ、Mr.クライベイビー。

刺激的な食前酒(Apéritif)は楽しんでもらえた?

次は多彩なアミューズ・ブーシュ(Amuse-Bouche)

これから始まるショーの幕開けに相応しいものだと自負しているわ。

 

以前(博士)と行ったレストランのシェフがこう言ったわ。

 

 

 

 

 

偉大なシェフにとってアミューズブーシュは

 

自分の大きなアイデアを小さな一口で表現できる格好の手段なのだ

 

 

-ジャン=ジョルジュ・ヴォンゲリヒテン

 

 

~~~~~~

 

 

 

視線は外さない。

狙いも外さない。

タイミングもバッチリ。

アイリーンの作戦(フルコース)はちょっと普通じゃないけど…

 

 

 

私は家族(ファミリー)の力を信じてる。

 

 

 

KRYYY…

 

知らず力の籠った両手。

 

 

…クス…

 

 

笑った気配がする。

何でもかんでもお見通しって訳?

 

 

「…ならこれも?!」

 

 

THWIP! THWIP!

 

 

作戦通り、自分の後方にウェブを飛ばす。

そこには何もないがこのタイミングで…

 

 

「ぶちかましなさい紫苑!」

 

 

「Okey-dokey!任せてレイブン!」

 

 

 

近くの観客から奪ったパイプ椅子を宙に放り投げたレイブン。

 

 

 

-全ての歯車が揃い-

 

 

 

それは吸い込まれるようにウェブへと繋がる。

 

 

「いっけぇぇぇ!!」

 

 

紫苑の繰り出した一手は遠距離からの凶器攻撃。

 

高速で飛んでくる椅子は真っ直ぐにサクラの顔面へと向かう。

 

 

クイッ

 

 

頚を僅かにサクラが傾けると風を斬り頬を掠めて通過する。

 

 

「まだまだ‼」

 

 

紫苑が指先でウェブの軌道を変化させると振り子のようにサクラの首へと絡みつく。

がっちりと首に巻き付いたウェブを紫苑が一気に引く。

 

 

「朽葉流、飢牙飢(ががかつ)土蜘蛛(ツチグモ)!」

 

 

キリッッッ!

 

 

締め上げられたウェブはサクラを縊らんとする。

 

 

 

ニィ…

 

 

 

ビタッ…

 

 

 

「…クッ…動かない?!」

 

 

不動の大木のようにピクリとも動かないサクラ。

 

グイィッ!!

 

首に巻き付いたウェブに片手をかけると逆に手繰り寄せる。

一本釣りのように宙に浮いた紫苑を殴りつけようと拳を振りかぶるサクラ。

 

 

「おっと!そうはいかないわよ!」

 

 

素早く別のウェブをコーナーポストへと飛ばし、自分の体の軌道を変化させると大きくスイングさせてサクラへと蹴りを見舞う。

 

ドガッ!

 

強烈な遠心力によって威力を増したキックは100キロ以上のウェイト差があるサクラすらも吹き飛ばす。

 

 

「よぉ~し!おかわりもどうぞ(get seconds)!」

 

 

別のコーナーポストにウェブを飛ばした紫苑が再びスイングしてサクラへと襲い掛かる。

 

 

ドガッ!

 

ドガッ!

 

ドガッ!

 

 

連続して蹴りを見舞う紫苑に反撃する間もないサクラ。

 

 

オオオォオオォオオオォオ!!!!!

 

思わぬ紫苑の猛攻に観客のボルテージも上がっていく。

 

 

(…お願い…このまま勝って、紫苑…)

 

 

泣き出しそうな自身を抑え込み祈るウルスラを、視界の端に入れながらもアイリーンは揺るがない。

 

ただ冷徹に状況を分析する。

 

 

「…予定通りだけど…」

 

 

「…うまく行き過ぎてる?」

 

 

同じく歴戦の戦士であるミスティークもまた感じていた。

闘いとは不都合なもの、闘いとは常に思い通りにならないもの。

 

それが闘争(たたか)いなのだ。

 

故に生じる違和感。

 

 

これで終わるはずがない。

 

それに…我々の目的は闘うことではない。

 

紫苑が優勢に戦い始めた時から変わった会場の雰囲気。

その瞬間から既にアイリーンの作戦は動き出している。

 

ターゲット(お姫様)の左右の黒髪と金髪の女、前方に社長(ヘルガー)秘書(陽炎)護衛が二人(神楽と龍丸)。」

 

まるで誰かに()()()()()かのように呟くアイリーン。

 

「出入り口の護衛(ガードマン)は雑魚、無視して。

 

 例の忍者カップルはこちらで対処する。

 

 終幕(フィナーレ)のカウントダウンを。

 

 二幕が始まるわ。」

 

 

事態は急転する。

いやむしろ予定(シナリオ)通りなのか。

 

 

 

ドガッッ!!

 

 

 

紫苑の繰り出すスイングキックを受け続けるサクラ。

 

 

その脳裏に浮かぶものは、

 

 

 

在りし日の思い出。

 

 

 

 

あの日からだ

 

スクリーンでしか出逢えないようなとびっきりの笑顔-----

 

わたしの幸福はあの笑顔から始まった

 

 

 

幼きサクラ少年の人生を劇的に変化、変質させた日。

 

 

初めて見る

 

生まれて初めて見る母親(ママ)の笑顔だった

 

なんて美しい―――――

 

 

 

 

ヒュォッ!

 

パシィッッ

 

 

()()から放たれた紫苑のキックを右手で受け止めたサクラの貌には感情はない。

 

 

「愛がある。」

 

 

右足を掴まれ、だらりと宙吊りになった紫苑を見下ろし零す。

 

 

「哀しみもある…………」

 

 

紫苑の攻撃により血塗れとなった貌。

 

 

「しかし」

 

 

そこに浮かぶ激情。

 

 

 

 

 

凌辱(りょうじょく)がないでしょッッッ」

 

 

 

 

 

爆発するサクラの闘気。

 

 

「…セクハラ、二回目。

 

 悪い子にはお仕置きッ!」

 

 

 

逆さになったままサクラの鼻と口をウェブで塞ぐ紫苑。

 

 

ガシッ

 

 

気管を失ったことなど気にも留めず、ウェブを撃ちだした右手を左手で掴むと紫苑の体を頭上へと振り上げる。

マットへと叩き付けるのかと思われたサクラの行動はやはり狂人だった。

 

 

 

バサッバサッバサッ

 

 

 

薄いバスタオルを洗濯前に広げるかのように紫苑をはたくサクラ。

 

バサバサとふられる。

 

何度も。何度も。

 

F1レーサーたちは加減速やコーナーでの遠心力で、血液が体内に偏って行くのがわかるという。

それに匹敵、いや凌駕するような凄まじいGが紫苑の小さな肉体にかかっている。

脳や内臓に直接ダメージを与えているようなものだ。

臓器が体内を動いて、臓器同士でぶつかり合う。特に、平衡感覚をつかさどる三半規管は大打撃をうけているだろう。

 

 

サクラが紫苑を振り回すことを止めたとき、紫苑の体に先程までの闘気はなかった。

 

 

 

「紫苑ッ?!」

 

 

ウルスラの悲痛な叫びにも応える様子はない。

 

サクラは掴んだままの紫苑を高々と上に放り投げる。

 

四次元的な空中殺法を繰り広げてきた紫苑だが今回は訳が違った。

されるがままに投げ出された体は重力に引かれ真逆(まさか)に落ちる。

サクラは真っ直ぐに落ちてきた紫苑を受け止めるや否や、まるで野球のバックホームのようにコーナーポストに投げつける。

 

 

ドガッシャッ!!

 

 

 

衝突の衝撃は鋼鉄の柱を飴細工のように変形させるほどのものだった。

紫苑は壊れた人形のようにぐったりと四肢を投げ出す。

 

 

 

「「紫苑ッ!!」」

 

 

 

お姫様達(ドロシー&ウルスラ)があげる悲鳴、それを上回るほどに上がる観客の歓声。

 

人知を超えた怪物達の狂演に地下深くの闘技場が、歪み、揺れる。

 

 

 

この異常(クレイジー)な異界の中で、

 

ほんの一握りだけが、

 

正常(クレバー)な思考を有していた。

 

 

 

(光と共に影がある…やはり世界は怪物(モンスター)生産(うみだ)し続ける。)

 

 

アイリーンの脳裏に宿るある男の狂気。

 

時代、世界、運命、

 

或いはそれら全てがバランスを取るかのように常に存在していく。

 

 

 

私たち(ファミリー)にとって紫苑は光。でも世界にとっては…?)

 

 

九頭紫苑という個の力は何れ世界を大きく動かすこととなる。

それが正義か悪(どちらのスタンス)になるかは神にすらわからないだろう。

 

 

ならば…

 

 

 

「この私…アイリーン・アドラーがすべてを支配してあげる。」

 

 

光も闇も()()の意のままに。

 

 

 

~~~~~~

 

 

落窪んだ眼窩の奥、己に相対した少女を見据える。

 

(もういい…君はエクセレントだった。

 

この私を前に臆することなく向かってきた。

 

充分だ。充分に称賛に値する。)

 

心からの賛辞。

怪人からの惜しみ無い評価だった。

 

 

「さあ幕を下ろそう。」

 

 

(君に贈るにふさわしいフィナ…?!)

 

 

全身が総毛立つ。

数えきれぬほどの刃で鋼の肉体を刺し貫かれた。

 

冷たい汗が額から吹き出し頬を伝い、顎から滴り落ちる。

 

 

(…な、なんだ⁉何が起こった⁉)

 

 

サクラの見えない視界には倒れ伏す紫苑がいる。

覇気はなく、死んだとすら思える。

だが確かに自分に放たれたのは、

 

(高純度にして濃厚な殺気。

 

シオンのそれは死を幻視させる程の代物。)

 

ドクンッ!

 

会場全体が大きな力の脈動を感じた。

 

(…?! 始まる⁉

 

何が?! いけないッ!

 

ここで…?!)

 

瞬時に駆け巡った危険信号に従い、紫苑を仕留めんと襲い掛かる怪人。

 

一歩踏み出した刹那、既にそこに紫苑の姿はなく。

 

 

「ナ…?!」

 

 

するり

 

 

細く嫋やかな、

 

優しく暖かな、

 

それはまさに死の女神の抱擁。

 

 

 

腰に巻き付く柔らかな感触。

蒼白く発光するナニカが蠢くその腕に力が篭ったとき、

150㎏を超える大男の脚がキャンバスからフワリと離れる。

 

 

ギュンッ!

 

 

風景は瞬間にして無数の線となり、天と地は逆転する。

 

 

ジャーマン・スープレックスと呼ばれるその技は軍隊格闘技(CQC)はもちろん忍術(朽葉流)にも存在しない紛れもないプロレス(アーツ)だ。

 

 

ミキィッ!

 

 

異形の怪人の首筋から奏でられる音色に思わず息を飲む観客の視界から再び紫苑の姿が掻き消える。

 

 

トッ

 

 

軽い音と共に紫苑が現れたのはコーナーポストの上。

 

両手を広げ、フワリと浮かぶように紫苑は重力から解き放たれる。

 

 

THWIP THWIP

 

 

天へとウェブを伸ばした紫苑は滑車に引き上げられるように急速に上昇する。

 

キュッ

 

高い天井に足を付けた紫苑が眼下を見下ろす。

仰向けに大の字になったサクラに狙いを定める。

 

 

ドンッ!

 

体重(ウェイト)の軽さは重力加速度とコンクリートの天井にひびを入れるほどのキック力によって凌駕され、容易く空気の壁を突き破る。

 

 

ヅドムッ!

 

メキョッッッ!

 

 

「ゲハァッッ!」

 

 

空気が肺から押し出され、くの字に体を折り曲げるサクラを足蹴にした紫苑は再び宙空を舞う。

 

 

驚くべきは怪人サクラ。

 

常人ならば即死していても可笑しくはない一撃を食らってなお、

戦士(ファイター)としての本能、或いは矜持であろうか。

反射的に立ち上がっている。

 

 

ギッ

 

 

紫苑がトップロープに着地した音に振り向いたサクラ。

ロープの反発力を利用してジャンプすると正面からサクラに向かって飛んでいき、鍵状に曲げた右肘間接の先端部分を振りかぶる。

 

 

シパァッンッ!

 

 

 

真っ赤な鮮血を撒き散らし一回転したサクラの傍らで見下ろすように仁王立ちする紫苑。

 

 

漆黒のシンビオートスーツに青く明滅するストライプが縦横に走る。

 

躍動する鼓動が紫苑を駆り立てる。

 

 

もっと速く

 

もっと迅く

 

もっと疾く

 

 

「…一体…なんなんだ…」

 

 

思わず誰かが呟いたのだろう。

 

その言葉に応える様に紫苑、いや紫苑()はその名を口にする。

 

 

 

私達の名はシーヴェノム(We are SheVenom)

 

 ここからはトップギア、やりすぎ(Over Dose)

 

 それを言うなら逸り過ぎ(Over Drive)

 

 

 さぁ…最終章の幕開けよ!」




闘いはあと一話
数話後にはPW編へとまいります

因みに紫苑が使った
ダイビング・フット・スタンプ
フライング・フォア・アーム
はそれぞれバレットクラブ元リーダーの得意ムーブをイメージしています
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