Historia~彼女を救う彼女の物語~   作:瞬く陰と陽

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御待たせしております
2018年も終わりました
既に私の目はイッテンヨンへと向いてはいるのですが、
あくまで個人的な「ストレス解消」ですのでまったりお付き合い頂ければと。(;゜∀゜)

今回はエピローグの前編のようなもので
・一人称
・コメディ
とちょっと挑戦しております

それではどうぞ


焔乃鳥

「鳳翼天翔」

 

朽葉流(くたばりゅう)はかつて、九束『九つを束ねる』忍びの一族だった。

 

八つの分家とそれらを統括する本家、それが『九頭』。

 

戦乱の世(戦国時代)に生まれた一族は歴史の裏側で生き続けた、多くの血と共に。

 

太平の世でも新たな時代の夜明けにも、形を変えて存在していた。

 

 

だが、二度の大戦において喪われたモノは余りにも大きすぎた。

 

僅かに残った人々も疲弊していた。

戦いを棄て、平和と繁栄を享受する表の世界。

武器を置き、業を封じ、消え去って行く過去。

 

 

 

朽ちゆく葉のように。

 

 

 

最後の大戦時、顔も知らぬ祖父は戦地へは送られなかった。

早くに敗戦を予期していた一族が血脈を守る為残されたのだと言う。

 

 

「幼き頃より切磋琢磨した同胞が死んだ。

 

その姿を見ることすら出来ない。な

 

知らぬ地で、知らぬ敵と戦う彼等の隣に、

 

 

何故私は居ないのだ。」

 

父は祖父を看取った時のその言葉が忘れられなかった。

 

 

 

長兄、文治

次兄、十二

 

そして…

 

 

 

私達は史上最も才覚に溢れた三兄妹と呼ばれた。

 

兄達は歴史の中で失われた朽葉流の奥義を再興させた。

決して口には出さないが互いの力を認め競いあった結果だろう。

そんな二人の背中を追いかけた私は過去に類を見ない速度で朽葉流を修めていった。

 

私の闘いにおける才能は二人の兄を凌駕していたのだ。

 

 

「戦いの申し子」

 

「比類なき強さ」

 

様々な美辞麗句の後に続く言葉は決まっていた。

 

 

 

「あの頃に彼等がいたなら」

 

「生まれてくる時代が違えば」

 

 

その頃の私はそれを聞いても何も思わなかった。

 

寡黙な長兄がさらに無口になったり

血気に逸る次兄が不機嫌になる理由が私には思い当たらなかった。

 

 

 

日々鍛錬を積むことで得られる達成感と充足感。

それで十分だった。

 

 

 

ある夜、父が私達を自室に呼んだ。

思い返してみれば初めての事だった。

 

 

「お前達に免許皆伝を言い渡す。」

 

父は静かにそう言った。

兄達はともかく私は全ての「技」を会得していた訳ではない。

そう口を開こうとする私を制するように父は続けた。

 

 

「天賦の才。紫苑、お前にはそれがある。」

 

 

その時初めて私に感情が生まれた。

 

がっかりしたのだ。

 

厳しくも尊敬できる師匠ですらその他の有象無象と変わらぬ思いを私に抱いていたのかと。

 

 

「お前達が戦時にいれば《九頭》の隆盛は嘗て無いものになっていただろう。」

 

 

 

もうやめて、これ以上私の憧れを壊さないで。

 

 

「だからこそ、今の時代にお前達が生まれたことに」

 

 

その先は聞きたくない。他ならぬあなたの口からは。

 

 

 

 

「心からほっとしている。」

 

 

 

え?

呆けた私達の顔が可笑しかったのか父が笑った。

 

 

 

「九頭の頭目として、或いは朽葉流の師としては失格かもしれない。」

 

「だが一人の父親としてお前達が今日まで健やかに生きてくれたこと、それがたまらなくうれしい。」

 

 

 

父は背後の文机を振り返る。

そこには殺風景な部屋には似つかわしくない、シンプルだが可愛らしい華の髪飾りが置いてあった。

 

 

「やっとアイツに顔向けができる。」

 

 

その横顔には優しさと誇らしさが溢れていた。

 

 

 

「お前達に朽葉流の免許皆伝を与える。」

 

 

「そして朽葉流頭目として最期の修業をお前達に課す。」

 

 

真っ直ぐと私達を見つめた師としての父が告げた。

 

 

 

「朽葉流の使用、及び次代に伝えるか否か。」

 

 

 

 

己で選べ

 

 

 

 

程なくして偉大な師匠(優しい父)愛する者()の元へと還っていった。

 

 

 

そして…私は…

 

 

 

 

「紫苑ちゃーん!皆集まったでー。」

 

「ありがとう立羽!」

 

そこはメトロシティのスラム街の一角にある地下通路。

昼だが薄暗いそこに紫苑の快活な声が響く。

集められたのはここに住む若い女達。

 

生きるために「春を売る」女達だ。

 

夜になれば美しく飾るのだろうが今は昼。

若く輝かしい時間を只日々を生きるために費やすその顔には一様に疲れと「諦め」が伺える。

 

 

 

そんな彼女達を見回し紫苑は笑う。

 

 

(私は朽葉流を伝える。助けをを必要とする人々の未来(あす)のために。)

 

 

「私の名前は紫苑、九頭紫苑。」

 

 

人知れず産声を上げた雛鳥。

その小さな羽ばたきが大きな時代を動かす。

鳳凰が翼を広げ、天空に舞い上がるように。

 

今、翔ける。

 

 

~ 幾億の魄霊を明き心で束ねて ~

 

 

 

 

「無風忍法帖/傀儡忍法帖」

 

ウチは未成年やから酒は飲まへん。

せやからバーなんちゅうもんにはきたことあらへん。

せやけど今回は別や。

どんな理由があろうとウチらが仕出かしたんは『誘拐』。

悪い事(犯罪)や。けじめはつけなあかん。

 

地下に降りる階段を下り、重厚な造りの扉を開ける。

 

営業はまだ再開してへんみたいやけど()()()()が今日来てるんは分かってる。

目的の二人はテーブルでサンドイッチを摘まんでた。

朝食には少し遅いからブランチゆうやつやろか。

 

(...ふぅ...っよしっ!)

 

女は度胸!肚括っていくで!

 

 

「あ、あの...」

 

こ、声が震えとる...ってか全身震えとる⁉️

二の句が出てこんウチに穏やかに頬笑む老紳士。

 

「ごきげんよう、確か...立羽くん...だったね。」

 

「あ、はい⁉️...ごきげんよう、です...Drウェインライト...」

 

「はは。そう畏まらんでも良い。...ほら、ドロシー。」

 

「...ごきげんよう...」

 

にこりともせず感情の無い声で挨拶を寄越したのは、

 

 

囚われの姫君(誘拐の被害者)、R・ドロシー・ウェインライト。

 

 

ジッと無機質な瞳でこっちを見られると罪悪感が際限無く膨らんでいく。

 

「...何か用?」

 

無愛想に先を促すドロシーにうっと気圧される。

 

あ、あかん…泣きそうや…

 

 

「そんなにイジメないであげて。ここはそういう(特殊な趣向)店じゃないから」

 

 

よーわからん助け船?に振り返ると、あの夜に上から降ってきた女。

確か…

 

「パーセフォニー…」

 

そうそう!そんな名前やった!

ってちゃうちゃう!

 

「ほんま!すいませんでした!」

 

叫ぶと同時に頭を下げる。

一度口に出せばもう止まらへん。

 

「許してもらえへんのは当然や!私らが仕出かしたんはそういうことや!」

 

必要だった…とはウチにはどーしても思えへん。

 

「それでも…!それでも…」

 

 

「…だそうだよ、ドロシー。」

 

 

頭を下げつづけるウチを余所にDr.ウェインライトが水を向ける。

 

「…お父様…」

 

「ドロシー、自分の心に従いなさい。」

 

 

 

 

 

 

ガタッ

 

しばしの無音の後、椅子から立ち上がるとウチの前にドロシーが立つ。

ゆっくりと顔を上げる。

真っ直ぐにウチを見るドロシーと視線がかち合う。

 

ドロシーが指先までキチンと揃えられた右手が天井に向かって振り上げられた。

 

次に訪れる衝撃に思わず体が固なった。

 

 

 

ポスン

 

 

「...ほぇ?」

 

 

手刀...というにはあんまりな威力、ってか卵も割れへんわ。

 

 

「貴女、めんどくさいわ。」

 

 

「んなぁ⁉️」

 

 

イヤイヤイヤ!人の一世一代の謝罪にそらないやろ!

 

 

「...怖かったわ。」

 

 

ングッ...表情は変わらんけどごもっともなご意見にぐうの音もでえへん。

 

 

「 貴女の事情は知らないわ。

 

...お父様を傷付けた事は許さない。

 

 

でも私の心に従うなら...

 

 

だから今のでおあいこ。」

 

 

それだけ言うとさっさと自分の席に戻っていった。

 

呆気にとられてると再びウチとドロシーの視線が交わる。

 

 

「貴女、お腹は?」

 

「は?」

 

ドロシーからの言葉が理解できないでいると空いていた席にパーセフォニーが料理を並べていく。

もしかして...

 

 

「ウチもええんか?」

 

 

あんなことしたウチでも?

 

 

「食べないのは料理に失礼よ。」

 

 

「...!せやな!ウチも頂くわ!」

 

 

 

~ 何も雑ざらぬ生きやかなこの風向き ~

 

 

 

なつかれた。

捨て猫に餌をやってはいけないと誰かが言っていた。

情が移る、餌場を覚えてしまう、色々と言っていた気がする。

 

「いやーウチは紫苑ちゃんの事、

 

誤解しとったわー!

 

なんや訳の分からん話や思とったけど

 

面白そうやんかー!」

 

「うるさい。」

 

ちょー!酷いやんかー!

 

とまるで思ってないことはその表情を見ればわかる。

何がそんなに面白いのかケラケラと笑っている。

 

正直鬱陶しい。

 

この地下鉄の車両には私達以外はいないとはいえマナーもあったものではない。

そもそも私は何も言ってない、会話になってないのだから始末が悪い。

立羽は食事を共にしたあの日から殆ど毎日私とお父様に会いに来た。

大抵「アマデウス」でお父様と一緒に過ごしたり、紫苑達と買い物に行ったり。

そのどれにもいた。勿論呼んでなどいない。

腹立たしい…とまではいわないが、お父様の私達を見る目が…こう…

 

 

 

...それに紫苑と話す時間が減ることが嫌。

 

 

九頭紫苑。

 

私に出来た初めての友達。

 

浚われた私を助けに来てくれた。

不安な気持ちも紫苑の瞳の前に消えてしまった。

とっても暖かくて不思議な気持ち。

初めての感情。

 

紫苑の瞳にもっと私を映して欲しい。

紫苑の声で私の名前を呼んで欲しい。

紫苑の手で私の髪に触れて欲しい。

 

もっともっともっともっともっと

 

 

この感情は

 

 

「恋やな!」

 

イヤンイヤン!と体をくねらせる立羽に水を差される。

 

 

「...あなたって最低だわ。」

 

 

本当に鬱陶しい。

今日だって紫苑に呼ばれたのは私だったのに。

 

紫苑が私を誘ってくれた時に偶々(いや大体いつも居るのだけれど)いた立羽が強引に付いてきたのだ。

全く腹立たしい。

 

紫苑も紫苑で「仲良しさんね!」等と言うものだからなおのこと、立羽は調子に乗るのだ。

 

「にしても、またその服なん?」

 

「...悪い?」

 

私の服装は黒の上下に白いブラウス。

ブローチは付けているもののはっきり言って地味である。

美容やファッションに強い関心を持つ立羽としては気になるのだろう。

 

「いや悪いゆうわけやないけど...

 

他にも赤のドレスや

 

エメラルドグリーンのワンピースも持ってるやん?」

 

 

流石によく見ている。

不思議そうに聞いてくる立羽から顔を背ける。

 

 

「...から...」

 

 

「ん?なんて?」

 

 

だから...

 

「紫苑が、黒だから...」

 

 

「...ほぉ。」

 

 

「紫苑はいつも黒を着てる。

 

戦うときも、そうじゃないときも。」

 

 

黒は紫苑の色。

 

 

「黒は強くなれる色。

 

私、強くなりたいから。」

 

 

「ドロシー...めっちゃ可愛いんやけど~!!」

 

 

ガバッと抱き付いてきた立羽がグリグリと顔を擦り付けてくる。

だから言いたくなかったのに。

鬱陶しく思っているとようやく目的地に着いてくれた。

 

ホームに降りると人気は余り無い。

乗客というよりは住人といった風体のものが多い。

 

そんな人々にも

 

 

元気しとるか~

困ったこと無いか~

とにこやかに立羽は声をかけていく。

彼らも嬉しそうに彼女に返事を返し手を振っている。

立羽は本当に町に愛されている。

 

彼女に連れられて行ったのは町外れの薄汚れたビル。

ここにはメトロシティの闇に追いやられた人々が肩を寄せ合って生きていた。

 

「さて...紫苑ちゃん、

 

というかアイリーンはんの依頼やけど...

 

どないなるかなー?」

 

「誰も思い通りになんかいかないわ。

 

それでも今の場所にいたくている訳じゃない。

 

他に行くところがないからよ。」

 

 

だからやるしかないのよ。

 

〜 ああ夜は ころりころげて 〜

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

『経過報告です、クラーク博士。』

 

「あとで確認する。」

 

短い返答。

日に日に他人との関わりが煩わしくなる。

 

人間など信頼に値しない。

信じられるのは科学(生き甲斐)だけだ。

 

もうすぐ私の生きた証が完成する。

 

 

恐るべき子供達計画(レ・アンファン・テリブル)

 

 

彼の分身が誕生するのだ。

他ならぬこの私の手で。

 

私が世界の時計の針を進めたのだ。

 

 

無機質な部屋の中、手を握りしめる。

その顔に、

 

笑みはない。

苦悩もない。

達成感も、罪悪感も、

 

 

 

あるのは虚無感(ゼロ)

 

 

「名前...」

 

これまではNo.(記号)でしか呼んでこなかったが彼等は命を持つ。

 

人工物でも命は命。

 

名前が必要だ。

 

 

「...イーライ。」

 

優性の方はこれにしよう。

 

劣勢の方は...

 

 

 

「これが紫苑と彼の子供ですか~。」

 

「ヒィッ⁉️」

 

 

後ろから覗きこんだ男の声に悲鳴をあげた。

 

厳重に隠匿された秘密基地。

そこの更に奥深くに作られた研究施設の最重要部署の私室に誰にも気取られず自由に侵入出来る人物等有史以来この怪物しかいない。

 

 

「Dr.トキオカ...⁉️」

 

またの名をザ・グリード。

コブラ部隊最後の隊員にして、最凶(最恐)の生物。

 

 

世界の災厄の震源地。

 

 

だがそんな恐怖も彼の言葉を理解するにつれ吹き飛んだ。

 

「ち、ちょっと⁉️今なんて⁉️」

 

「ん?あれれ~?」

 

今『誰の子供』と言ったのか。

 

 

「あのDNAは()()

 

 

九頭紫苑のものですよ。」

 

 

目の前が歪む。

ゼロからワタサレタ『最高の遺伝子』が紫苑の?

 

 

私のただ一人の親友のモノ?

 

 

私は親友の未来をこの手で凌辱してしまったというの?

 

 

 

「...ッァァァあぁぁ⁉️」

 

 

冷たい床に膝をつき慟哭をあげる。

私はナンテコトヲ...

 

 

 

私の耳元で悪魔の囁きがした。

 

 

 

「 」

 

 

 

 

 

「あ...ウフ.....フフ...アハハハハ!!」

 

 

()()()()()部屋で一人の女の狂笑が木霊する。

 

ガバと立ち上がった女はディスプレイに映る小さな生命にすがり付く。

 

 

 

 

「名は!あなたの名は!

 

 

 

 

デイビッド...。

 

 

 

 

 

私と...紫苑と...ビッグボスの子供...」

 

 

 

譫言のように繰り返す。

 

幾度も幾度も、

 

 

 

まるでそれが人の歴史(Historia)であるかのように。




お楽しみ頂けましたか?
後編もちょくちょく書いて参りますので
どうぞとらんきーろ。
焦らずお待ちくだされ。ニンニン

後どうでもいい今後の報告ですと二月のニュービギ、三月SideMプロミ全通してますので何処かでお会いしたら気安くお声をかけていただければ...

「あ...あ...ドモ...」

となるかも(笑)


それでは本年もありがとうございました
来年もよろしくお願いいたします


皆様よいお年を!

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