嵐の夜に飛び立とう   作:月山ぜんまい

11 / 70

 誤字のご指摘、感想、ありがとうございます。

 十話のラスト、思うところ有って改稿しました。不安定ですいません。


 11、誰も知らない

   11、誰も知らない

 

 地上に出て来て半年ほどが経った。

 

 森の奥は、原生林に覆われた山々が延々と続く地で、巨木と野生の命溢れる壮大な景色が広がっていた。

 

 こそこそと何日も移動を続け、幾つもの山を越えた先で、広い平地に森と岩山が連なる奇妙な土地があるのを見つけ、滞在地に選んだ。

 たいした理由ではない、念の修行をするなら岩場の方が良いかな、と思ったのだ。

 原作中でも岩を使った念修行が幾つも描かれていた。

 

 最初は毎晩寝床を換えていたが、追っ手が無いと気付きそれも止めてしまった。

 暖かくなってからは、上からも下からも視線が通らない大きな崖の中程に、目立たないよう偽装した洞窟を掘り、住居にしている。

 

 今のところ、獣も人も訪れた事はない。

 

 朝、先ずは入口近くまで行って、外の気配を探る。晴れ、異常なし。

 色々状況は変わったが、寝起きに気配を探る訓練は、警戒心を無くさないため習慣付けている。

 

 なんの変哲もない、崖の途中に生える低木と藪草の陰から外に出ると、変化や兆しが無いかを目でも確認する。

 

 気持ちの良い風が、岩に根づいたタンポポを揺らす。もう開いている。

 

 ここは、歪な巨岩のパンケーキを手刀で叩き割ったような谷で、対の屏風のような崖が両側に並んでいた。

 

 既に季節は春を過ぎ、初夏に差し掛かっていた。

 あの雪景色が夢かと思えるほど、世界は命に溢れている。

 

 谷底には、春まで分厚い雪に埋もれていた川が中央を細く流れ、パンケーキの端の森から現れ、端で森の中へと消えていた。

 

 

 私は、いつものように崖から宙に跳び、≪甲殻≫を使った空歩で谷底まで降りて、川の水で顔を洗う。

 

 足場用の≪甲殻≫は、既に連続して幾つか出せるようになっていて、『我らは一人』の共有効果で更に倍、とても便利で使いやすい。

 

 濡れた顔を、柔らかい鹿の鞣し革で軽く拭い、ベルトに着けた袋に押し込む。

 タオルが欲しいと切実に思うが、こっちの世界に来てから、まだ布を見たことがない。

 文明との接触はまだちょっぴり恐い、原始少年ミカゲである。

 

 革製のシャツと揃いの短パンは、暑くなってから新しくしたものだ。

 靴は、冬場以外必要ないので造らなかった。

 

 少し水を飲むと、修行を兼ねた朝の見回りに出る。

 できるだけ静かに、できるだけ気配を殺し、辺りの生き物に気付かれ無いように。

 しかし、できるだけ速く。

 

 この辺りの地形は、基本深い森林、たまに大小の岩山、時々沼とか湖。

 パンケーキも、ここではありふれた岩山の一つだ。

 

 地域に、人の痕跡がまったく無いので、人跡未踏もしくは、探検や調査以外で人間が訪れる理由の無い地であると思われる。

 

 一先ずは、安全。

 

 北の方向に、万年雪を被った巨大な山脈があり、いくつもの川の水は主にそこから来ている。

 

 当初は、山脈の麓近くまで行くつもりだったが、『(バルゴ)』から、お知らせが有って、中止にした。

 ≪結界≫の危機感知が反応したらしい。

 

 何があるのか気になるが、確かめる積もりはない。好奇心猫を殺す。

 

 死なない鼠が、いい鼠。

 

 墓から出て、半年森で生活し、狩りや野性動物の観察をしていて、気配のコントロールには精神のコントロールが重要だと、改めて気付かされた。

 

 野性の生き物達は、こちらの、相手を害したい、とか捕まえたい等の心の動きを、殺気や気配として感じ取っているようで、それを僅かな空気の揺らぎや緊張から読み取り、姿を隠してしまう。

 

 今は、逆にその鋭敏さを習得できないかと練習中だ。

 

 川岸を跳び、木々を伝い、水辺を越え、幾つもの目印代りの岩山、大岩を回り、最近お気に入りの修練場所へとやって来る。

 

 そこには、何にもなかった。

 

 大木と巨石の入り組んだ地形に、ぽっかりと野球のグラウンド程の広さの、障害物の無い荒れ地が広がっている。

 

 

 巨石は、砕かれて撒き散らされ、大木は引き抜かれへし折られ、大部分が木っ端と化している。

 

 まるで、小さな怪獣が暴れ回ったかのようだ。

 

 だ、誰がやったんだ!

 

 ・・・私です。

 

 いや、目立つ事をするつもりはなかったんだが、いろいろ試してるうちに、こうなった。

 

 ここも元は、テニスコート半分程の森の中の陽だまりで、庭石のような巨石と、修行の瞑想をするのに丁度良さそうな、座禅用の平たい岩がちんまり転がっているだけの、平和な空き地だった。

 

 事件は春先に起こった。

 

 

 冬の間に、段々明らかになって来たのだが、私の身体能力が、いくらなんでも人としておかしいのではないか、という疑いが出てきた。

 

 生活を整える為、獣を狩ったり、穴を掘ったり、未知の土地を徐々に探索している内に、どんどん上昇していて、自分でも初めは驚いたが、念獣達が頑張っているんだろう、ぐらいにしか思っていなかった。

 

 自重の十倍の岩を持ち上げ、垂直跳びで身長の三倍の高さに手が届いても、さすがハンター世界の住人、漫画みたいな成長力だなあ、と軽く考えていた。

 

 ところが、いつまでたっても成長が止まらない。

 岩を、持ち上げようとして砕いてしまい、跳び上がって掴まるつもりだった枝を飛び越してしまった時点で、一度きちんと確かめるべきだと思い至った。

 

 なぜなら、これ等が起きたのが、念による強化無しの、素の身体能力()()での事案だったからだ。

 

 

 少し試して見ようと、専ら瞑想に使っていたここで、拳を握ってみた。

 

 ちょっとワクワクする部分があったのは否定しない。

 

 

 轟音と、テンション高めの笑い事がしばらく続き、「あっ」と、声がして静かになる。

 

 結果、テニスコート半分サイズの空き地は、バスケットコート程に拡張された。

 

 安心してください、座禅用の岩は無事に残りました。

 

 

 ここまでが、事件の半分。

 

 

 経緯はこう。

 

 先ず、試しに素手で一抱え程の立木に、軽くパンチをしてみる。

 

 痛くない。立木も無事。

 

 次は、そこそこ力を込めて。

 

 鈍い音がするが、痛くない。

 立木は、表皮が拳の形にへこんでいる。

 ちょっと楽しくなってきた。

 

 ぼんやりと、幾つかの漫画のキャラをイメージしながら、軽い気持ちで、三度目は、おもいっきり。

 

 構えはコンパクトにリズムを取り、二、三度左で軽く空打ちのジャブ。

 狙いを定めて腰をひねり、体重も乗せた全力の右ストレート。

 打つべし!

 

 腹の底に響く、鈍い炸裂音。

 

 一抱え程の立木は、派手な音と共に、拳の当たった部分で粉砕されてしまった。

 

「・・・えっ?」

 

 立木の上部は、インパクトの勢いのまま、アクション映画のスタントカーのように、凄い速さで縦に回転しながら上へと弾かれ、枝葉と木っ端を撒き散らしながら弧を描いて飛び、何本か先の木に逆さまになって引っ掛かった。

 木立の下部は、まるで爆烈したように幾筋もヒビが入って花の様に開き、傾いでいる。

 

「・・・なんじゃこりゃ」

 

 威力もおかしいが、先ず音にびっくりした。

 やはり痛くないし、確かめても拳に傷は見当たらない。

 

 

 首をかしげながら他の的を探し、何歩か歩いて今度は岩の前に立つ。

 

 でかくて硬そうだ。殴ったら普通怪我するだろう。

 

 拳を軽く握る。

 

 にわかに、鋼鉄のハンマーを振るったような連続音。

 

 使っているのは左手のみ。

 

 ジャブを撃つ度に大きく削り取られて行く岩。

 

 なんか楽しい。テンションのままに笑いが溢れる。

 

 フットワークも使い、回転を上げる。

 

 鑿岩機のように岩を打ち続け、雪像が陽に溶けるように、巨石を砕石へと変えて行く。

 

 フィニッシュは右手で、スリークオーターからのスマッシュもどき。

 

 轟音と共に砕かれた岩は、散弾のつぶてとなって木々にめり込み、打ち倒し、他の岩に突き刺さり、砕く。

 

 「あっ」

 

 小さな空き地を、少しばかり広げる原資となって、めでたく巨石は姿を消した。

 

 

 大体こんな感じに、空き地は成長していく。

 

 

 少しやり過ぎたが、身体能力や身体強度が、異様に強化されている事が確認できた。

 

 念の強化無しの、素の身体能力で、この現状。

 

 特に確認は取ってないが、原因は念獣達の成長だろう。

 栄養状態が良くなり(基本肉食)、基礎能力の『自分を磨け』が機能しはじめて、あらゆるステータスがレベルアップしているらしい。

 

 もしかすると、念獣達を作成する時、石ノ森先生の某零零ナンバーズや仮面のヒーロー、昔の海外ドラマのサイボーグの事なんかを考えていたせいかもしれない。

 

 本来なら、手や足を強化しただけでは、接合部の肩や股関節他、他の部位が耐えられない筈なのだが、念獣達には周辺組織を取り込んで影響下に置き、細胞レベルで一部融合し、怪我や故障のリスクを減らし、能力や効率を上昇させる機能がある。その手の故障は起こらない。

 

 この()()()()は、『自分を磨け』の成長効果と『生身の身体』の外見を変えずに最適化する能力が主に機能したものだが、実は『十三原始細胞(ゾディアック・プラスワン)』の作成時に、『我らは一人』の共有効果が、念獣達だけじゃ無く私自身にも僅かながら及んでいたのを、孤独に耐えかねて放置したのが遠因。

 

 此れによって、共有効果が一部私自身の肉体にも及び、あり得ないパワーアップに繋がってしまった。

 予定では、もう少し常識的な範囲に収まる筈だった。

 

 勿論問題が有るわけでは無い、むしろいい傾向だ。

 今後の事を思えば、力はいくらあっても良い。

 

 ただ、身体強度バランスの調整と、力加減に慣れないと、持て余すだけになる。

 スプリンターだって、車だって、ミニ〇駆だって、馬力が有るだけでは、レースに勝てない。

 

 念能力ではないが、とりあえず念獣達の地力の解放の事を『全力稼働(フルポテンシャル)』と名付け、普段はコントロールしやすいようリミッターを掛けてもらった。

 ・・・いや、ある意味念能力なのか?

 

 一時の勢いは無くなったが、成長は続いているので、定期的に確認と慣熟訓練は必須だ。

 

 翌日以降に行った、持続力と現在の限界の確認、最初の慣熟訓練で、空き地はスタジアムサイズになった。

 

 素のパワーに慣れたあと、果たして、念を使ったらどうなるのか、もちろん此方も気になったので試してみた。

 だが、不思議と当初期待したほど派手な大破壊には、ならない。

 木でも岩でも、攻撃すると拳が突き抜けてしまうのだ。

 金属でも在れば良かったのだが、オーラ付の攻撃に対し、この辺りにある素材では、抵抗できないらしい。

 拳を止めても拳圧でコーン状に綺麗に穴が開く。断面はツルツル、触ると気持ちいいくらいにスコンと消え失せる。

 実際は消えたのではなく、粉状に粉砕されていた。

 

 それならばと、思い切り地面を殴ろうとしたのだが、地面に着く前に拳が空気を叩いてしまい、大きな風船が割れるような音がして、爆発が起こった。

 突き抜こうと思えば、爆発を無視してそのまま地面を殴れたが、ヒヤリと嫌な予感がして、拳を止めた。念獣の警告ではない。

 

 空気の爆発は、小石や草を空高く巻き上げ、破壊の波紋が空き地に凄まじい速さで拡がって行って、周囲の木々が、はたかれたように揺れて、丸坊主になり皆外側へと斜めに傾いた。

 耳がキーンとなった。二秒ほど。

 

 これが、春先に起こった謎の荒れ地発生事件の全容である。

 これ以上は、目立ち過ぎるので自重した。懸念は、某ゴンさんの様に爆発が遠くからも観測され、誰かが調査に来ることだ。嫌な予感はここに起因する。

 

 念の試し以後、空き地では何故か余り草木が伸びなくなった。ヤバし。

 

 ちょっと反省はしている。

 

 これも、念獣達が何かやっているのかと思って聞いたが、どうも違うらしい。

 やったのは、私だそうだ。何を?

 

 一先ず保留。

 

 初夏になった現在も、基礎体力は極ゆっくりになったが上昇し続けているので、そろそろ念能力や念を使った戦闘もこなせるようにしたい。

 先は長いが想定内、その分強く、より強くなる。

 

 

 

 

 




 既に多分、素で腕相撲するとウボーより強い。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。