嵐の夜に飛び立とう   作:月山ぜんまい

17 / 70
 17、波

   17、波

 

 洞窟の死体が、いったい何処から中に入ったか確認するため、今までよりも更に詳細に壁や天井を調べ始めた。

 

 一定間隔毎に升目を切るように壁に直接手を当て、≪把握≫の音響探索を駆使して内部を細かく探る。

 

 洞窟に穴が有ってそこから潜り込む以外に、もっと簡単にテレポートや壁抜けの念能力を持っていた可能性も有るが、多分違う。なぜなら、そんな能力が有れば其れを使って脱出した筈だからだ。

 

 この世界だと有り得る何か超常的な事件に巻き込まれた場合の事は考えない。

 そんな例外中の例外の事を今あげつらっても意味が無い。そういうのは、最終的に何も出てこなかった時、改めて思案すればいい。

 

 死体のあった場所から始めて、壁や天井を二十メートルほど探索したが、何もない。ただ硬い岩の層が有るだけだ。

 

 直ぐに見つかるかと思ったが、意外にしぶとい。百メートルもの洞窟(しかも水面下を含む)をチマチマ調べたくないので、ちょっと大きめの音を響かせて、一気に広範囲を探索する事にする。

 

 死体のあった壁から離れ、小さな砂浜を越えて≪甲殻≫を使い、水上へと歩を進めてゆく。

 洞窟はほぼ円筒形で、スライスしたコッペパンのように下半分は水が貯まっている。両サイドから等距離の水上なら大体洞窟の中心部だ。

 長さがあるため、精密な調査をするには洞窟の中心線に沿って、何度か試行が必要。

 

 大きな音を響かせると言っても、大声コンテストのように金切り声を上げるのではない。能力的には多分可能だが、それじゃいくらなんでもカッコワルイ。

 

 前に地下構造を調べるために大岩を放り上げて、落下時の衝撃を≪把握≫で探索して水源の情報を探った事が有った。

 あれも悪くないが、地下では投げる岩も天井の高さも不足している。今は其れよりも もっといいのがある。

 

 以前、念能力込みの攻撃の最大威力を試そうとして、地面を殴るつもりが不発に終わった事があった。

 その時は、当たり損ないの失敗としか考えなかったが、後々あれはあれで面白い現象だと思い、狙って起こせないかと暇なときにチョコチョコ練習を重ねていた。

 

 外でやると騒がしいので、地下水路と地下洞窟を見つけてからは、大体地下が練習場所だ。

 最初の頃は威力がありすぎて洞窟が崩れかけ、あわや生き埋めかという事態もあった。しかし続けるうちに少しづつ慣れ、副産物として周囲の岩盤の詳細な情報を得られるようになった。

 洞窟の底で生き埋めになるかもしれない危機感が、≪把握≫の成長を後押ししたのだと思う。

 ピンチは成長のチャンス、乱用は危険だが、負荷がかかった方が念獣達の成長は早くなるようだ。

 

 オーラを込めた右手拳をハンマーのように振り上げ、目の前の空間に向かって縦に振り下ろす。

 拳や腕にかかる空気抵抗が徐々に大きくなり、胸の前辺りで限界に達し、腹に響く音を立てて衝撃波を放った。

 

 いずれは、こう背中に壁を背負ってる感じで腕を横に振りかぶり、背後の壁に叩きつけるように発動させ、某漫画の“世界最強の男“、シ〇ヒゲのグラグラの実ごっこがしてみたい。

 今はまだ縦に振らないと、うまく調整が出来ないが。

 

 名付けて、『空裂波動(ビスケットハンマー)』(笑)

 

 外で使うと、羽虫や蜂の群れなんかを一撃で殲滅できる便利技。残念ながらその時の蜂は肉食で、巣には蜜がなかったが。

 

 さっきの洞窟で蛍擬きの羽虫に使わなかったのは、いくら幼虫が居ようと こんな閉鎖された生態系で一種しか見かけない虫を全滅させたら、生態系全部が崩壊する可能性があったからだ。

 極地とか離島とかもそうだが、閉鎖された環境では一つの種が滅びると、他に代替出来る生き物がいなくて生態系の生き物全てが死に絶える事がある。

 発光する亀さんなんかも居たしね。

 

 

 「おっ?」

 

 壁で跳ね返った反響が、洞窟全体に鳴り響く。もはや自動的に調整されるため、耳がダメージを受けることもない。

 

 ≪把握≫の探査は空振り、初回で穴やその痕跡を発見することは出来なかった。

 一回目で発見出来なかった以上、すぐ移動して二回目をするべきなのだが、視界にちょっと変なものが見えた。

 空気を打つ瞬間、仄かに光る青と灰色の縞模様の波が拳の回りに現れ、すぐさま広がって消えた。

 現れたのも消えたのも、まばたきする間もない一瞬だった。

 

 「・・・これ、もしかして」

 

 今の謎の現象を確認するため、左手で右手首を掴み、右手を伸ばしてデコピンを空打ちする体勢で右手指に力とオーラを込め、中指を解き放つ。

 太い弦が切れたような、硬い金属棒が無理矢理へし折られたような、気持ちのよい音を立てて小さく破裂音が発生した。

 破裂音と同時に先程の青と灰色の縞模様の波が見えたが、今度は少し波の縞が細かく現れた範囲も狭かった。

 

 予想どおりだ。

 

 予想どおり『右目(ライブラ)』には縞模様の光は見えず、≪観測≫の効果のある『左目(スコルピオ)』にだけ見えている。

 

 ということは、青と灰色の縞模様の光は実在するものではない。

 ≪観測≫によって本来見えない衝撃波に付けられたゲーム的エフェクト(もど)き。

 ただ見えにくいものを見えやすくするための、衝撃波用の()()付けの一種だと思われる。

 

 かなりビックリさせられたが、念獣から肯定のお知らせも来た。

 

 謎は解けたが、毎回サプライズなのも有る意味仕様かなぁ、と苦笑い。視界のゲーム化が進んでも現実感覚を失わないようにしよう、警戒すべき注意事項として心に刻んだ。

 

 ビックリさせられたのはともかく、見えない攻撃が見えるようになったのは有難い。

 多分何度か経験すれば、鎌鼬系の飛ぶ斬撃や空気の圧縮弾的な肉眼で捉えづらい攻撃も、看破できるようになるだろう。

 

 実際に戦うとなったら、ああいう系統の遠距離攻撃は実に厄介だ。

 バトル系作品の定番と言ってもいい。

 中距離でも出処を捉え難いし、遠距離なら狙撃者を特定するのはまず無理だ。

 

 色々応用が利いて使い勝手も良さそうだから、前に私も変化系の“発“に出来ないか考えたんだけど、如何せん目に見えないのではイメージしづらくて・・・・・!

 

 

 「・・・見えてるじゃん!」

 

 

 「来たか、コレ!」

 

 

 「・・・・いや、飛び付くな私・・・時間は有るんだ」

 

 

 まったくの想定外のところから、新たな“発“の可能性が転がり込んで来た。

 

 深呼吸をして、一度気持ちを落ち着ける。

 他にも候補に挙がっていたプランを幾つか頭の中で並べ、なるべく冷静にそれらの利点や欠点を列記して、新たに加わった衝撃波プランと比較してみる。

 

 「・・・やっぱ頭一つ抜けてるよなぁ」

 

 電磁気力でレールガンとか、光子の制御とコントロール磨いてその内レーザーとか、夢の有るやつだけでなく、地味めで使えそうなのも考えてたんだが・・・

 

 光を偏向させる霧、近距離では隠蔽と分身、遠距離だと狙えなくする。

 欠点は、遠近共決め手に欠けるところ。

 

 爆発する砂、砂の状態である程度コントロールでき、尚且つ爆発する。

 近距離は針や武器に付着させ、突き刺して爆破、遠距離は爆発力で砂の構造物を飛ばし爆破。

 欠点は騒々しいこと、キャパが多そうなこと。

 

 摩擦をほとんど無くしたり、目一杯増やしたりするツルツル・ベタベタ・ローション。

 近距離では立っていられなくしたり手が滑って武器を握れなくさせ、又逆に辺りの物をくっつけて重石にしたりして相手に隙を作る。

 遠距離でもこれを塗った投擲武器は空気抵抗が無くなって宇宙空間並みに飛ぶので、遠距離対策もばっちり。

 但し、致命的な欠点があって戦闘の様子がギャグ化して、お笑い芸人風になる。

 条件をほぼ満たすのに採用に踏み切れなかった最大の理由がこれ。

 

 考え事に集中しすぎて≪甲殻≫から滑り落ち、水に浸かる。

 そのまま気にせずプカプカしていると、巨大魚らしき生物が足に噛みつき、そのまま水中へと引きずり込んで、深みへと潜り始める。

 

 ・・・そうか、衝撃波なら水中でも使えるのか・・・

 水中を運ばれながら、ハンマーで岩を叩く通称ガチンコ漁の事を思い出した。

 あれも衝撃波で魚を気絶させる漁法だ。

 海外だと、ダイナマイトを使う事も有るらしい。

 

 念獣のお陰で習得の目が出てきたのだから、これもお導きってやつだろうか。

 こっちが正しい路であるという根拠のない予感もある。

 

 多分こちらの方が、私の戦闘スタイルに合致するのだ。

 まだ、格闘技すら身に付けてないのに、戦闘スタイルを気にするのもあれだが、見た目タイプ的に筋骨隆々のゴリマッチョにはなれそうもない。

 力は有っても格闘者としては小柄でリーチが短いだろう。最初の予定通り逃げ専で、どうしてもとなったら、かわして踏み込んで痛打。近距離は打撃プラス衝撃波。

 遠距離は衝撃波で何か飛ばすか、衝撃波自体を飛ばす。

 

 おお、どっちも行けそうじゃん。

 

 決まりだな。

 私は、何度も鋭い歯でじゃれて(噛みついて)くる巨大魚を、水が気化するのも無視して湖底を足場に思いきり蹴り上げて爆散させ、ゆっくり水上に出て、再び水面に立った。

 

 私が作成する新たな“発“の方針が決まった。

 そっちの件にもっと時間を取りたいが、こちらはこちらで気になることがあり、死体の侵入孔を探す件を優先させる事にする。

 

 私は、少し歩く度に、どこかの短気な中間管理職が事務机を叩くように空間を打ち、探査を続けた。

 

 作業効率が善くなって、探査の結果は直ぐにでた。

 四度目に探査を行ったとき、天井の一部に亀裂が見つかったのだ。

 その後も一応洞窟の端まで探査したが、侵入孔になるような穴は発見出来なかった。

 水面下にも、水路と呼べるような隙間は何処にもない、地下水路のマッピングもこの洞窟で完全に終了だ。

 

 亀裂は洞窟近辺が何ヵ所か埋まっていて、その先は頭上へ延び、遥か先でどうやら外まで繋がっているらしい。

 地底湖水面から亀裂までの高さは十五メートルは有る。

 死体の彼が(骨盤から見て死体は男性)例え念能力者だったとしても、相当の実力者か、それに対応出来る“発“がなければ、ツルツルの硬い壁を登り、壁から十メートル以上平らな天井を伝って亀裂にたどり着くのは容易ではない。例え強化の念を使って登るにしても、緩いとはいえ下は流れの有る水、周囲は真っ暗、多分自分が落ちた穴の位置すら判別出来ないだろう。

 

 私は、楽勝だが。

 

 ≪甲殻≫を使って、階段を登るように亀裂まであっさり到達すると、毎度の焼き直しのように≪消滅≫を纏った髪をコントロールして亀裂を塞ぐ岩を細かに切り分け、面倒くさいのでそのまま地底湖に落とす。

 外で洞窟を掘った時は、位置がばれないよう夜になってから全て遠くに投げたが、後で意外なところで投げた瓦礫を見つけることもあった。

 塞いでいた岩を粗方片付け、縦穴に入る。

 何十年、もしかすると百年以上ぶりに閉鎖された地下洞窟に外の空気が漂う。

 

 古い煙突のようなその縦穴の先からは、濃い夏の緑の匂いがした。

 

 

 

 

 




 外に出るとこまで行かなかった。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。