嵐の夜に飛び立とう   作:月山ぜんまい

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 ちょっと長くなった。


 19、新しい念能力

   19、新しい念能力

 

 森の街道を発見してから三日経ったが、未だ誰も通らない。

 

 東西に森を抜ける街道の、両側を見張れる手頃な山の山頂に拠点を構え、たまに訪れて通行者を確認するのが今の日課だ。

 

 見渡せる範囲はかなり広いので、午前と午後、一日二、三回訪れれば良く、四六時中張り付いている必要はない。

 

 今朝も街道を見渡し、人影を探す。

 昨日から≪観測≫の視界にズーム機能が付いたので、高所から遠方を眺めるのは、ちょっと楽しい。

 

 『左目(スコルピオ)』が何処に向かっているのか少し謎だと思いながら、いつもの朝の念修行をする。

 その後、街道の周囲を中心に森や川を探索し、“発“について考察を重ねる。

 

 

 昼になった。旅人はまだ現れない。

 

 

 大体の方向性を纏め、そろそろ“発“の創作にかかる。

 新しい能力。タイプは変化系で、オーラの変化先は『衝撃波』。

 

 以前なら見えず、イメージしづらくて無理だと思っていたが、『左目(スコルピオ)』の能力≪観測≫が成長して不可視の筈の衝撃波が視覚情報化され、≪観測≫の視界に“青と灰色の縞模様の波“として表示されるようになった。

 

 この予想外の事態で一つの状況の変化(ブレイクスルー)が発生する。

 有効だが採用を諦めていた『衝撃波』を、新しく習得する“発“に用いる事が可能となったのだ。

 すぐに、いろいろと捏ね繰り回していた他の案と比較検討し、本採用を決める。

 

 (祝)ツルツルベタベタローション廃案。

 

 

 新たに能力を創るにあたって最初に考えたのは、発動に何らかの『型』を使用するか、だった。

 『(ルーティン)』があれば、それをイメージの強化、ひいては威力の強化に繋げられるだろう。習得も幾分楽になる。

 

 『制約と誓約』程ではないが自分にルールを課して強化を図るのは念能力者にはよくある手だ。

 主人公も自分の“発“に、ジャンケンの動作と掛け声を利用していた。

 

 しかし、私の“発“に決まった『型』を設けることは出来ない。

 なぜなら私の“発“は、いわゆる()()()ではないからだ。

 

 あくまで私の戦闘技能のメインは念獣達の能力を活かした近接格闘戦で、この“発“も目指すのは、その近接特化の穴を埋めるための牽制用の技能だ。

 勿論それだけで満足するつもりはないが、私の“発“用の残りキャパシティーの兼ね合いもあり、何処まで伸ばせるかは運次第の部分がある。

 

 創る条件は、

 一、決まった『型』は持たない。

 二、身体の何処からでも出せる。

 三、発動は早く静かに。

 

 この辺りは必須で、あと威力や自由度は私の制御力次第、念獣には頼れないので要自主練だ。

 上手く行けば、石を投げる以外の遠距離攻撃の手段が手に入る。

 

 さあ、先ずは少しでもオーラの『衝撃波』変換を成功させて、取っ掛かりを掴まないと始まらない。

 やっぱイメージを優先させて集中するのが正解かな。

 原作だとガム、電気、糸、放熱、美容ローション、龍を描いて自在に操るのは違うんだっけ?

 しかし、どれも修行シーンは出てこない。

 

 「まあ、いつものように妄想でカヴァーかな」

 

 誰も見てないよな・・・

 

 自分の中のオタク気質を全開にして、イメージを膨らませるつもりなので、多分おかしな事を延々と口走るだろう。

 分かっていても、様式美的に辺りを見回してボッチを確認してしまう。

 

 

 ここは、街道の見張り場から少し離れた山中の窪地だ。修行用に何度か手を入れ、中心部を平地にして瞑想と基礎練が出来るようにしてある。洞窟も掘って、寝床も用意した。

 

 とりあえず目を閉じてリラックス、体幹を意識しながらまっすぐ立ち、両の拳を腰脇に置いて脇を閉める。立禅風。

 

 頭の中に、衝撃波で思い付く色々が浮かんでくる。

 一日一万回の波動拳はボツ、格ゲーや超能力系はエフェクトが邪魔、アルベルトは格好良かったからちょっとマル、指パッチンはボツ、五星の騎士は理想的だが得物持ち、真空切りと竜巻ファイターはアリよりのアリかな。

 

 腹に響く和太鼓の音。

 

 水上の波紋、炸裂する花火。

 

 衝撃波、もっと広義だと衝撃その物の発生と制御。

 見えているのは空気を媒体にした振動に過ぎないが、発生させるのは媒体にこだわらない衝撃の波。

 その根源になる事象を抽象的に捉え、一つの概念として一纏めに塊にして、オーラによって実在させる。

 普通や常識は、振り返らないし気にしない。この世界では、念はそれらを凌駕する。

 

 ・・・・・集中。

 

 雷がその高熱で空気を瞬間的に膨張させて轟音を響かせるように。しかし、騒がしい音を立ててエネルギーの無駄な消費をしないように。

 

 攻撃的に、密やかに。パンチが脳を揺らすように致命的に。

 

 イメージ、イメージ。

 

 目の前に、見えないボールでも挟むように両手にオーラを込めて翳す。

 

 先ずは小さな揺らぎから・・・・。

 

 オーラを揺らす

 

 オーラで揺らす・・・・・集中。

 

 ・・・・・

 

 ・・・・・

 

 ・・・・・

 

 成功したのは三日目だった。

 

 地下でやった時より時間が掛かったのは、『クルタの子』が持っていた念能力の後押しと、危機的状況による集中力の差だと思う。あの時は自分でも、ちょっと頭おかしくなってたと思うし。

 

 手の中の小さな空間で、ビー玉程の青と灰色の縞模様の揺らぎが、明滅している。

 たまに、燃焼に失敗した爆竹のような抜けた破裂音を立てて、覆う手や覗きこむ顔に薄い面圧力がかかる。

 ・・・成功している。音が微妙に響かないのは、静音の条件付けが作用しているからで、仕様だ。

 

 あとは、このまま修練を積んで効果と制御を高めるだけだ。

 

 名前が要るな・・・いや、変化系は変化しただけじゃなくて、変化したものが技と言えるほどに昇華したものにだけ名前を着けるのか。じゃあ保留だな。

 

 それから一週間、周囲の探索もせず、ほぼ毎日“発“に掛かりきりだった。

 

 おかげで日に日に能力は向上してゆく。

 

 焦らず発動と制御を身体に叩き込む。

 

 共有化も使って、両方の目で何もない中空に浮かぶ、淡く光る縞模様のビー玉を飽くこと無く見つめ続ける。

 

 なんだこれ、凄い楽しい。

 

 超能力?ねえ超能力?

 

 いくらでも続けられる。脳から、ヤバい汁が垂れ流されているような高揚感。

 乾き切っていた中二の頃の癒えぬ病(オタゴコロ)がジャブジャブ水を注がれて、ウェイウェイ言ってるが、ちょっと落ち着けと抑える今の自分も、超絶楽しい。

 

 やっぱ、念能力良いわ。

 

 試しにビー玉衝撃波を立ち木に押し当てると、籠った炸裂音を立てて、クルミほどの穴が開いた。

 一週間前は指先程の窪みが出来ただけだった。

 

 元々キャパシティーの縛りが有るから、サイズはどうでも良い、もっと滑らかに、もっと早く、もっと密やかに、衝撃波が目標に当たった時の音はともかく、それ以外は静かに、使うオーラは全て威力へと変わるように。

 どれだけ大きかろうと、制御できない力など隙を生むだけだ。

 しかし、どれ程小さくても完全に制御された力は致命の効果を持つ。

 

 毎朝念の基礎修行を続けていても、ゲームのように数値が変わるわけでもなく、“纏“や“練““絶“の修行はなぜか初期の頃と余り変わらない手応えで、慣れてきたかと思うと又元のキツい状態に戻ってしまい、成長の実感が持ちにくい。

 オーラは順調に増えているので、やり方が間違っているわけでは無さそうなのに()せん状態が続いている。

 

 (念獣達『・・・』)

 

 身体が強化され念獣達の能力が高まって行くのも間違い無く嬉しいが、いわば此方はライフライン。出来なきゃ死ぬ、強くならなきゃ死ぬより酷い、恐怖のデスレース的展開がコミットされていて、どうしても追い込まれ感が漂う。

 変化も割と唐突なので嬉しさも驚きの後から徐々に、という感じだ。

 

 あえて言うなら、基礎修行がビンボー人の預金が増えて行くような、人生の根幹に作用するジワジワと溢れて来るような喜びで、念獣達の成長が、そこに突然転がり込んでくる臨時収入だろうか。事前の仕込みが有るのだから、株の配当金?いや、宝くじか?・・・そういやもとの世界の貯金、結構貯まってたんだがなぁ・・・

 

 話を戻す。

 

 しかし、この新しい“発“は、サブ的ポジションで、当初の予定でも出来たら良いな程度のオマケに過ぎない。

 社会人が、休日に密かに楽しむ趣味のようなもの。

 訓練していても余計なストレスが少なく、若干の余裕を持って念能力の開発と運用を図る事が出来る。

 そうなってくると、元引きこもりのオタクで原作ファンとしては、込み上げてくるものが、多分に在るのだ。うなるほど。

 

 今は、自分で修練を積めば積むだけ成長する、美味しい部分だ。

 今後この能力が小さく纏まるか、大きく伸びるかは判らないが、最終的には其れなりに使えるものになるだろう。

 

 元々、レベル上げとか修行とか割と好きだったのもあるがそれだけじゃない。

 最近、強さとか色々感じ取れる様になって、原作基準の主人公周りの連中の戦闘力の()()()()とか何となく実感として分かってきた。

 元々念能力者は超人みたいなものだ。“周“でオーラを纏ったシャベルが易々と岩を削り取るように、オーラを纏った人間は易々と人を凌駕する。常人から見れば、パワードスーツを着ているのとさして変わらない。

 

 塔の闘技場で会ったカマセキャラや、念能力者用ゲームの抜け出せない負け組が、取るに足らないザコとして原作に描かれていたが、実際は彼らも念能力者であり、一般人から見れば、隔絶した実力を持つ。

 

 ところが、そんな念能力者達の中でも、主人公達は別格だ。文字どおり漫画みたいな存在として描かれている。

 

 そしてつまり、この世界に彼等は実在するのだ。

 

 もし、うまく時代が合っていなくて会えなかったとしても、世界でもトップレベルの使い手はあの辺のレベル帯がごろごろ居る事になる。今も。

 

 と言うわけで、復讐とか外に出たらしたい事を考えた時、少しでも自分の強さに上積みをしておきたい。

 もう切実にしておきたい。

 

 修行に熱が入るのは、現実逃避と現状把握の合わせ技、まだ時間は何年も掛けるつもりだから、焦りすぎなのはわかっている。でも此のまま行こう。

 鉄は熱いうちに、ジャンプは発売日に。

 

 

 懸案の遠距離対策もいくつか腹案があって、放出系の領分にひっからないように、ベアリングボールか何か、固いものを衝撃波で飛ばす。

 衝撃波の塊を別の衝撃波で飛ばす。

 すぐ出来そうなのは、この二つ。

 

 制御が増せば、出来ることは勝手に増えてゆく。ライフルの銃身(バレル)だけ持ち歩くっていう手もある。

 そうか、≪観測≫で狙撃の補助をすれば・・・。

 いっそ木で作って“周“で強化・・・。思考がそれた・・・先走りだな、とりあえず遠距離ギミック系は保留。

 

 元々念獣達の能力が近接特化し過ぎているから、新設する念能力に遠距離対策を噛ませたわけだ。

 だが、ぶっちゃけ二次権能が自在に使えるようになれば、側まで≪転移(テレポート)≫して殴るとか、≪転換(ベクトル制御)≫でトン単位の鉄骨や車、等々質量飽和攻撃もある。

 

 それを待てないのは、時間がかかり過ぎるからだ。

 今のまま念獣達が成長を続けても、ただ使えるだけならともかく、戦闘で自在に威力を発揮するには数十年かかると思う。

 小さく産んで時間をかけ、大きく育てるのが『十三原始細胞(ゾディアック・プラスワン)』のコンセプトだから、それ自体は問題ない。

 しかし、そんなに時間をかけられない案件がある。

 

 敵討だ。

 

 大恩がある『クルタの子』の敵討リストのメンバーが、寿命でくたばる可能性が高いのだ。

 だから、強くなるのに掛ける期間は十年までと決めている。

 

 その間に強くなれるだけ強くなる。

 

 遠距離対策にしても、必殺の効果は別にいらない。遠近で組んで敵対されたとき、遠距離攻撃主を牽制して間を取れればそれでいいのだ。

 

 あくまでメインは近接。

 

 最終的なイメージは、旅団の強化系能力者がマフィアの念能力者部隊相手に放った『超破壊拳(ビッグバンインパクト)』のクレーター状の破壊効果を、ピザのように分割してワンピースだけ切り取るような感じだろうか。

 

 範囲を狭め収束し、攻撃の間合いを伸ばす。

 特定の『型』に固定はまずいが、衝撃波自体の運用は何か動作がある方が使いやすい。衝撃波の到達距離も伸びたりもする。

 腕を突き出す、手を振る、使える動作は絞らず増やす。

 

 放出系と違って、オーラを身体から放つ事は出来なくても、衝撃波は広がってゆく性質を持つ、収束させて効果距離を伸ばしていけば擬似的に中距離攻撃くらい迄なら行ける気がする。

 

 指向性を上げて間合いの拡張、打撃に乗せれば威力の拡張、全身から発する事が出来れば、飽和攻撃に対する有効な防御にもなるかも。オーラが変化したものなら、何処からでも自在に出せる筈。

 

 『衝撃波』は現行の戦闘力を丸ごと底上げできる良い選択だと思う。

 ろくな戦闘経験も無いのにハメ技とかチマチマするのは失敗の元。

 今の能力は、逃げ足特化。基礎戦闘力を鬼積みして戦いに臨み、戦闘経験を重ねて実戦データを増やすべきだ。

 

 目の前の事からちょっとずつ。

 

 

 現在、衝撃波の攻撃影響範囲は四十センチ。

 昨日より十センチ距離を伸ばした。

 

 次は、衝撃波に指向性を与えたり、数を増やしたりしたい。

 

 威力は『(ルーティン)』ではなく、修練と制御力でカバー。

 いや、修練を積めば威力も次第に上がるのが念。

 

 ここに来て、やっと“発“が、基本の四大行に含まれている意味が分かった気がする。

 四大行はセットで行ってこそ本来の効率、強さを磨くための最善の修行になるのだ。

 

 あー、そろそろ系統別の修行も始めたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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