嵐の夜に飛び立とう   作:月山ぜんまい

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 誤字のご指摘、感想、ありがとうございました。

 2022年03月15日改稿



 21、落しもの

   21、落しもの

 

 西から来た一行には、これまでとちょっと変わった部分がいくつか有った。

 先ず人数が多い。普通五人から八人が一組なのに、十二人もいた。

 

 一行が川端の崖道まで来てから近寄って確認すると、その内の六人がクロスボウを背負い、四人が短弓を背負っていた。皆、屈強な男達だ。

 短弓は威力は無いが、回転の早いどちらかと言うと大物相手には向かない武具だ。

 六人のクロスボウも精々中型で、破壊力に優れたアイテムではない。危険な大型獣が出るここでは、余り見ない装備だ。

 

 更に一人も槍を持たず、実戦向きの分厚いショートソードやカトラス、又は斧を腰に下げ、丸楯(ラウンドシールド)を身につけている。

 

 使い慣れた武器と言うことか?

 

 彼らだけ見ると、何処かの軍の小隊(中世風)だが、残りの二人が異質だった。

 

 彼等は念能力者だ。

 

 男女の二人組で、小男と大女。

 

 

 男は金髪のキューピーヘアーで革靴にズボンにセーター、上からコートをはおっている。

 女は赤毛を頭頂部でお団子にし、編み上げのブーツ、ピッタリした赤い革パンツにピンクのシャツ。

 シャツの裾が結ばれていて、くっきり割れた腹筋が見えている。

 

 二人共全く荷物を持たず、一見武装もしていないが、念能力があれば問題ないのだろう。私もそうだった。

 

 初の人間の念使いなので、気にはなるが接触はしない。

 それより観察だ。

 

 外見、纏うオーラ、歩き方、目配り、相手に悟られずどれだけの情報を得られるか、チャレンジだ。

 

 遠くからでも分かる凶悪な気配。多分相当に人を殺している。いわゆるプロだろう。

 今や、利用者が多くなった街道上でも、頻繁に見かける裏家業の人達だ。

 

 ここまで()()のは、滅多にいないが。

 

 身体能力は私の方が高いけど、二人共歩き方や体重移動に無駄が無い。何らかの格闘技を修めているのだと思う。

 気配の凶悪さに反して“纏“の滑らかさが甘いし、オーラの総量も大した事無い。

 原作中に出てくる才能は有ったのに努力を怠った中堅念能力者、といった感じだろうか。向上心も余り無さそうだ。

 自分達はもう十分に強者だと信じ込んでる自意識の強いタイプ。

 

 見た感じ大女の方が強化系、男は分からないが、女とペアで行動しているのなら、女が前衛で男はサポートタイプの搦め手役、厄介なのは男の方だろう。性格悪そうな顔をしてるし、()()技とか持ってそう。

 

 全体的に見て、凶悪な気配は、ザコを大量に殺して身に付けたものだと思う。

 転生前ならビビる所だが今では何も感じない。

 

 心の奥の方がちょっとウズウズするだけだ。

 ・・・まだだ、復讐の相手は彼等では無いし、私はまだまだ弱い、悪人かどうかも分からない。

 

 (かす)かな衝動を軽く受け流し、観察を続ける。

 

 旅人みんなが泊まる川縁の岩場の夜営地まで来ると、彼等は夜営の準備をせずに周囲に散開し身を隠した。

 男女が夜営地に残り、身を隠した何人かにダメ出しをして再度隠れさせ、それを何度か繰り返す。終わると、自分達はその場で夜営の準備を始めた。

 

 良く分からないまま夜営地には男女だけが泊まり、他の十人は身を隠したまま夜になり、朝になった。

 何らかの襲撃の意図が在るのは明白だが、介入するかは相手を観てから決めることにする。

 堅気じゃ無さそうなら放置で。

 

 堅気の人が通るところなんか、見た事無いが。

 

 昼頃になって、街道の東側から老齢の男が一人歩いてきた。白髪頭に帽子代りのぼろ布を巻き、草臥れたシャツと古い革のベストを着て太いズボンが袴のように膨らんでいる。

 髭面で目付きが悪く背は高くない。しかし、凶相のため大柄に見える。その上額から鼻、鼻から頬にかけて大きな古傷が通っていて、子供が見たら泣くレベルの鬼のような悪人面。

 疲れか元々か顔色も不健康で、身体は小太りなのに、重度の二日酔いのように顔はげっそりしている。

 

 とりあえず、放置確定。

 

 インパクトのある爺さんだが、彼も念能力者だ。念の練度は待ち伏せ側より少し高い。

 武装はしていないが、鋼鉄の(たが)の嵌まった頑丈そうな木の杖を突いて、ズタ袋を担いでいる。

 体術も相当に使うようで、歩いていても体幹が全くぶれない。

 毎日旅人を観察していて、そういうのも少し分かるようになった。

 男女と同時に戦っても、そうそう負けないだろう。

 

 奇襲さえ無ければ。

 

 夜営地に居るのは念能力者の大女の方だけで、小男の方は爺さんが来る少し前に身を隠した。

 

 女が街道の真ん中で仁王立ちしているのに気がついている筈だが、爺さんは無造作に歩み寄って来る。

 

 張り詰めた緊迫感の中、そのまま擦れ違ってしまうのでは思うほど近づいた時、爺さんがオーラを込めた杖で殴りかかり、女が片手で受け止め同時に軽い感じで前蹴りを放つ。

 爺さんは、膝を上げて蹴りをガードしたが、ボールのように五メートルほど飛ばされた。

 

 「あんた、金輪のガリルだろ」

 

 大女が、中二くさい二つ名で爺さんを呼んだ。

 

 「・・・おまえピークス兄妹の妹の方だな、兄貴はどうした」

 

 飛ばされた爺さんが何事もなく着地し、目の前の女より周囲を気にしながら問いかけた。

 兄妹だったのか。

 

 「さて、何処にいるのやら、見つけてみなよ、得意なんだろ?」

 

 女が、からかうように言って間合いを詰め殴りかかる。

 

 暫しの攻防。

 

 女が強化系らしいダイナミックな大振りの攻撃を交えて攻めかかるのを、爺さんは滑るように動いて杖でいなす。

 杖術ってやつか。

 

 互いに有名人のようだ。殺し屋さんかしら。

 

 戦いの駆け引きのようなものが有るようだ。

 爺さんは、来た道を戻ろうとするが、女の方がそれを阻止するように立ち回っている。

 互いにまだ“発“を使っていない。

 

 爺さんも、女の攻撃を捌くだけで余り反撃はしていない。

 私が見ても女の大振りは隙が有るのに、無闇に攻めないのは隠れている小男の方を気にしているのだろう。

 

 体調が良くないのか、爺さんが少し息切れし始めたところで小男が動いた。

 

 爺さんと女が闘っている場所は、川縁の崖道が広くなった旅人の夜営地で、片側は大小の石が転がる岩場があってその先は深い山岳の森。

 反対側は高さ五メートルほどの切り立った崖で、流れの急な川に落ち込み、十数メートル離れた対岸に私が潜んで彼等の闘いを第三者視点で鑑賞している。

 

 爺さんが疲れてきたのを見たからか、死角になる位置の岩の上に、音もなく小男が現れた。

 

 普通に姿現しちゃったぞ、不意討ち狙いじゃ無いのか?いくら死角に居ても、姿を現せば気配が動く。僅かだが殺気も漏れている。

 

 小男は、指揮者のように両手を振り、ナイフを投げた。

 小さい、手の平に収まるようなサイズで大きめの矢尻ほどしかない。

 

 投じられた二本のナイフは、当然のようにオーラを纏い、背後から爺さんに迫る。

 

 その瞬間、突然爺さんの動きが変わる。

 

 少し腰を落とすと、それまで攻守の要になっていた金輪の杖から右手を離し、小さく踏み込んで掌底で女の脇を打つ。

 オーラの防御を抜けてダメージが有ったのか、動きが止まった女にくるりと背を向け、迫るナイフを杖で打ち払う。

 

 ナイフは、一本が砕かれ一本が弾かれたがそのまま飛び続け、鳥のように反転して再び襲いかかる。

 砕かれたナイフは操れないようで、小男は新たにナイフを投げ二本をキープする。

 いや、自身の側に三本浮いているから、五本迄は操れるようだ。大袈裟に両手を動かして、二本のナイフをコントロールしている。

 

 絵に描いたような操作系の使い手。武具が小さければ数を持ち歩けるし、隠しやすい。殺し屋ならば、小さなナイフにはきっと毒が仕込まれているのだろう。

 

 爺さんが、飛び回るナイフを捌いて小男に近づこうとすると、復帰した女が怒り狂って拳の指を開き後ろから掴みかかってきた。

 指先と爪に尋常でないオーラが込められている。

 

 『破壊の扉(ワンサイドゲーム)!』

 

 威力増強系。彼女の“発“だろう。

 

 同時に小男が、操っていた二本のナイフを左右の死角から飛ばして襲わせ、更に手元の浮かしていた三本を高速で突っ込ませる。

 

 ここからの攻防は一瞬。

 

 爺さんは振り向くと、杖の先端の金輪の部分を掴み、石突きで突進してくる大女を突いた。

 そんな事で止まるものかと女は肉体強度とオーラで防ぎ、飛び掛かるように近づく。

 爺さんは、それに逆らわずふわりと身を浮かして杖ごと押され、宙で身を捻り五本のナイフの四本までの軌道から外れ、一本を素手で掴む。

 大女は、杖のせいで間合いに入れず狙いを変え、先ず杖を砕く。

 爺さんは、掴んだナイフを即座に大女の足の甲に放ちその出足を鈍らせる。

 杖を押された勢いのまま小男の立つ岩の方へ飛ばされた爺さんは、そのまま操作中の手持ちを使いきり次のナイフを投げようとする小男に飛びかかった。

 

 タイミング的に、男女どちらも動けない完璧に嵌まった瞬間、足場の無い空中の爺さんに向けて周囲の藪から合計十本の矢が放たれた。

 

 『やがて刃は振るわれる(スリーピングブレード)

 

 小男がポツリと言った。

 

 最初に隠れた、十人の短弓とクロスボウ持ちのモブさん達だ。

 『山猫先生(にゃんこ先生)』直伝(≪魔眼≫を使って教えを乞うた)の隠形法を使う私ほどではないが、中々の隠れっぷり。

 小男に気を取られた爺さんが気がつかなかったのも無理はない。

 

 しかもその矢尻は、少し小さいが小男が投げるナイフと同じもので、十分な量のオーラを纏っている。クロスボウから放たれた太矢(ボルト)の威力は元々弓より大きい、そこに念が込められればその効果は既に銃弾にも勝る。

 

 爺さんは、凄まじい反応速度で直ぐに攻撃を諦め体を丸めて的を小さくし、オーラを全開にして“堅“を行い致命的部位(バイタルゾーン)を守る。

 

 当たったのは七本。

 

 全身に矢が刺さった爺さんは、小男の目の前に落下すると、これ以上は無理だと判断したのか逃げに入った。

 具体的には川に向かって走り出す。

 

 川まで三メートル。

 

 立ち上がって走り出す時に、小男に向かって牽制の礫を放つ。

 落下時に地面で掴んだ砂利に一瞬でオーラを込めた即席の目潰し。

 

 しぶとい爺さんだ。

 

 制御が甘くなったナイフをかわし、自身に刺さっていた矢も、一本引き抜いて投げつけ、川へと跳んだ。

 逃げ切ったかと思われたが、崖から落ち視界から消えるその刹那、大女が投げた拳大の石が左足に当たった。流石にあれは折れただろう。

 

 

 私は、爺さんが川に落ちたのを確認すると、密かにその場を離れ、走り出していた。

 

 流れはこの先、しばらく急流で水から上がれる所は少ない。もし上がれても重傷で足が折れているし、ズタ袋は落としたから荷物も無い。

 いくら爺さんが念能力者でも、助かるのは難しいだろう。

 おまけに一週間もしないうちに雪が降り始め、森の街道は通行不能になる。

 これは旅人からの情報だ。

 

 私は、爺さんを助けることにした。

 

 理由は幾つか有るが、最大は相手の男女と違って、あんなに凶相なのに()()()()()()()()()()()()からだ。

 

 もしかすると、クズではない可能性がある。

 

 

 程なく一キロメートルほど流された川辺りに、打ち上げられたカエルのように、ひっくり返っている爺さんを見つけた。

 

 多分、爺さんは強化系。今は少しでも体力を回復しようと“絶“の状態にある。

 油断はしていない様だが、私にはまだ気づいていない。

 

 「(とど)めが欲しいか?助けが欲しいか?」

 

 私は、会話して嫌な感じがしたら見捨てることにしようと、最後に話しかけた。

 

 爺さんは、私の声にぴくりとしたが、追っ手なら早すぎるし、声が幼すぎるとおもったのか、“絶“状態のまま薄目を開けて、ぼそりと返事を返した。

 

 「・・・助けろ」

 

 最早限界だったのか、そのまま気絶した。

 

 ざっと見たが、矢は全部水中で引き抜いたようで残っていない。操作系の念の込められた武具なら、追跡能力が有るかもしれないので処分が必要だった。

 気絶したのは、矢を抜いたのが水中だったため、一緒に血が流れ過ぎたのだろう。

 強化系の回復力強化で傷は塞いでも、流れた血は戻らない。

 

 私は、ひとつため息をついて爺さんを担ぎ上げた。

 あ~・・・・・拾うなら、美少女が良かったなぁ。

 

 

 

 




 ヒロイン無用



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