嵐の夜に飛び立とう   作:月山ぜんまい

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 22、爺さん

   22、爺さん

 

 爺さんを担いだまま長距離を移動すると、爺さんの体が持たないかも知れないので、川上側にぐるりと大回りして凸凹コンビ(小男と大女)の追跡をかわし、街道の見張り場近くの修行場兼寝床に連れていった。

 ≪甲殻≫使用の空中歩行で移動したので、追跡の心配は無いだろう。

 

 まあ、いざとなったら爺さんは捨てて逃げるんだが。

 

 ここなら冬を越す準備が揃っているし、ベッドも用意できる。

 “周“の修行(穴堀り)のせいで部屋数が増えていたので、爺さんを置いておくスペースにも困らない。

 暇潰しと実益を兼ねたクラフトワークの腕は大分上達していて、鞣した毛皮が沢山有り、新たなベッドも直ぐに完成した。

 

 せっかく助けたんだから出来れば生き延びてほしいとは思う。しかし、爺さんの体調は良くない。

 やはりナイフと言うか矢尻に麻痺毒が塗られていたのだ。

 抜かりなく所持していた毒消しを飲んで対処はしたようすでも、歳が歳だ。

 

 毒も毒消しも臭いで解った。目立たない部分だが、≪嗅覚≫の情報収集力は(あなど)れない。そして他にも解ったことがある。

 

 爺さんは病気だ、しかも死病にかかっている。

 

 沢山の動物を狩って()()を知り、自分も毒や寄生生物、感染症にかかりまくった結果、どの程度まで大丈夫でどうなったら生き物は死ぬのか、今では人や獣の生き死にについて多少わかるようになった。

 

 持って、数ヵ月。

 

 今の私に他人を癒す力は無い。

 

 将来、≪再生≫の力が成長して行けば、自分だけじゃなく他人にも効果を発揮するようになるかもしれないが、それは数ヶ月後の事ではない。

 

 せっかく助けたのに残念だが、爺さんは春を待たずに死ぬ事になるだろう。

 

 顔色を見るに、自覚症状も出てる筈だ。本人も薄々気付いていると思う。

 

 薄情なようでも、私にとっては悪い話ではない。街道が閉ざされた冬の間に爺さんが死ねば、私の話が外に漏れる心配が無くなる。命の恩人を売るとは思えなくとも、人間は時に変わる。私の見込み違いで悪党の可能性もある。リスクがひとつ減ったと前向きに考えよう。

 このまま目を覚まさない事だってありうる。

 

 爺さんを助けて丸二日経っているが、眠ったままなので放置が続いている。

 骨折に当て木をして固定し、部屋を暖かくして、枕元に水を置くことはしているが、基本ノータッチだ。

 

 死んだら死んだで寝かせている毛皮と一緒に埋めてやろう、程度にしか思い入れはない。元々善人か悪人かも分からない気まぐれで拾った爺さんだ。

 

 ま、あの状況で生き残ったしぶとい年寄りが、簡単に死ぬとも思えないが。

 

 道に落ちていたら、拾う程度の関心はある。死ななかったら、少し話をしてみたい。

 

 

 三日目、昼頃目覚めた爺さんは、先ず水を飲みトイレの場所を聞き、用意した杖を使って用を足しに行くと、飯を要求した。

 野生芋と肉のスープを三杯おかわりして太い骨付き肉を噛り、甘酸っぱいベリーを少しだけ口に放り込んで大きなゲップをし、ぶっきらぼうに言った。

 

 「酒はねえのか?」

 

 どうやら此れが、彼の普通のしゃべり方らしい。

 

 「無いね、ここには私しかいないし、酒が必要な歳じゃないんでね」

 

 爺さんは、じろりと周囲を見回し、諦めたように溜め息をついた。

 

 「・・・そうか」

 

 ひと声漏らすと、礼も言わずにベッドに戻り又寝てしまった。

 

 ベッド脇に置いたテーブルから食器を片付けながら、先に此方の要求を述べておく。

 「あ、そうだ、助けた礼に武術を習いたい、まだ森から出るつもりは無いが、外は物騒だって聞くからな、他の物でも良いが爺さん素寒貧だろう、ツケは受け付けない」

 

 「・・・・・」

 

 爺さんは、寝たふりをしている。

 

 「その足じゃ町には戻れないし、一週間もしないうちに森も山も雪に埋まる、無理して行っても()()()()が待ってるんじゃないか?」

 

 あの男女一行は西側から来て、爺さんは東側から来た。

 誰か情報を流した者が居るのだ。体調が完全でない爺さんが町場に帰るのは危険が伴う。

 

 「武術を教えてくれるなら、春まで此処で面倒見るよ、悪くない取引だろう、考えておいてくれ」

 

 爺さんは、寝たふりをしながら薄目を開けて此方を見ている。

 目にオーラが集中しているが、“凝“ではなく、何か戦闘用ではない“発“を使っているらしい。片方の目、右目だけにオーラが集まっている。

 

 「・・・・・」

 

 相変わらず無言。会話が終わると、目のオーラも無くなった。

 

 骨折が治るのに何日かかるか分からないが、直ぐに完治、というわけには行かないらしい。

 原作に、クルタ族の青年が、特質系の念を使って瞬時に骨折を治癒させるシーンが有ったが、治療に特化した能力が無ければ、早くて常人の数倍程度のようだ。

 

 これは、≪把握≫でもって骨の回復度合いを毎日観察したから間違いない。

 年齢や、出血、持病の影響があるかもしれないので、参考程度に考えておこう。

 

 私は≪再生≫が有るので、瞬時に治る側。

 

 治るまで、最短一週間位か?

 

 治って直ぐに出て行っても、別にいいかと思っている。持っていかれて困るようなものは、洞窟には置いていない。

 挨拶して行くなら、餞別位は持たしてやろう。

 

 例え雪が積もっていても、念能力者なら強引に森から抜けられる。

 私もそうだった。

 

 武術は覚えたいが、私も七、八年経てばいい大人だ。森を出てから美女若しくは美少女の師範を新たに探す手もある。

 それまでに又、面白そうな人物が通るかもしれない。

 

 それより爺さんの使った“発“が気になる。

 私の事を見ていたのは、それが“発“の使用条件だったからだろう。

 状況的に戦闘用ではなく情報を得るための“発“だったと思われる。

 オーラによる干渉は無かったから、操作系ではない。何も言わなかったし使用されたオーラ量もそれほど多くない。

 となると、何か受動的(パッシブ)な“発“か?

 

 “凝“のような鑑定系の能力で、此方の力を計ろうとしたのか?

 

 オーラを観る事に関しては“凝“で済む。

 年齢や、性別、体のサイズ、ヅラ疑惑、外見的情報は見れば解る。

 後は名前や、念能力は無理でも得意系統が分かれば対策しやすいが・・・違うな。

 そんな程度の情報を得るために、わざわざ“発“をこしらえる者などいない。

 

 使用するオーラ量から見ても、多分もっと単純な能力だ。

 

 相手の感情を読み取るとか、嘘を見破るとか、単に視力が上がるとか。

 

 何を見ようとしたんだ?

 

 ヤバイ目に遭ってれば、操作系や特質系の影響下に有るかどうか判定するのも地味に有り得るか?

 

 ・・・そういえば、大女が戦闘前に、爺さんは人探しが得意、みたいな事を言っていたな。

 

 あれが事実でその根拠がこの“発“だとすれば、荒事関係じゃなく日常的に使う物だろう。

 情報収集するなら対人交渉はマストだ。

 それなのに、あの容姿と性格。まず好感は持たれない。

 証言の真偽はその精度に直結する。

 しかも裏稼業。

 

 ・・・考え過ぎか。

 

 いや、感情の感知か嘘の感知か、それとも別の能力か、対人用の厄介な“発“を持ってるモノとして対応しないと、情報がだだ漏れになる可能性がある。

 

 まあ、爺さんが知りたいのは、私に敵意が有るか無いかだろうが。

 

 感情や真偽の判定って何系?

 強化で感知力を上げるだけなら強化系か?

 

 私の『(ジェミニ)』の権能、≪把握≫の強化発展先、二次権能が≪波動≫で、同じような効果を含む。

 しかし、≪把握≫が周囲の認識力強化で、何処でも使えるのに対し、≪波動≫はより繊細な対人情報収集能力なため、ボッチだと修練しづらい。

 街道脇で立ち聞きするだけでも経験は積めるが、会話できればもっと効率がいい。

 相手が、同じような能力持ちなら更に得るものは多いだろう。

 

 

 それから更に三日経ち、爺さんは日々よく食べ、私はおさんどんを繰り返した。

 

 基本私が面倒を見るのは水汲みと食事の支度、薪の準備だけで、足が治ったら食材の準備以外はやらせ、武術を教える気が無ければ、この拠点は爺さんごと放棄してしまうつもりだ。

 

 まあ、猶予はあと一週間というところか。

 

 日の出から念の基礎修行を積み、昼頃爺さんと朝飯(爺さんは昼食)を食べ、部屋に放置して探索や狩り、『山猫先生(にゃんこせんせい)』と隠形法の訓練などを行う。

 夕飯と朝食は軽く調理済みの物を渡すだけだ。

 

 爺さんにも私にも、そんなにべたべたする気はない。

 

 貸し借りは有るが、それだけだ。それを互いの関係に持ち込む積もりはない。

 

 偏屈ジジイと付き合うには、距離感が大事。

 

 この、ひなびた店のバーテンのような出来るオヤジムーブが、けっこう楽しい自分がいる。

 

 爺さんが、クズっぽく無いのも良かった。態度は悪いが視線や言動に卑しさは感じない。

 

 今日の午後は、洞窟前で笛の練習だ。

 別に、爺さんに聞かせて誘い出す為の天岩戸とウズメじゃない。以前からここで練習していて、場所を変えたくないだけだ。

 

 街道まで聞こえる距離じゃないし、何日か続けているが、爺さんが出てきたことも無い。

 

 笛は、地底湖の死体が持っていた白い骨製の物で、造り手のオーラが薄く籠った名品。死体は運び出して森に埋めた。

 

 初めは五里霧中だったが、吹きかたを覚え、音階の出し方を探し、最近やっと曲を奏でるところまでたどり着いた。

 

 曲はアニソンとボカロ。

 

 元々こだわりは無い方なので、いつも世代ごちゃ混ぜのベストなんかを聞いていた。

 歌うと笑われるので、カラオケには縁がなく。車の運転中にくちずさむくらい。

 流行りは知らない。

 

 音痴でも聴いた曲は覚えている。

 演奏するのにオクターブが足りない部分は適当に誤魔化して、指の練習と割りきり次々奏でて行く。

 

 

 ちょっと前に、どうしても自分の音程に自信が持てなくて、観客を用意した。

 藍地に濃紺と空色の羽、腰白、頭に金の羽毛がある、(仮)金色カケスのミューズさんだ。

 

 何羽かの鳥に≪魔眼≫で視聴の依頼をしたが、≪魔眼≫の効果を受けるにもある程度(うつわ)が必要な様で、ショック状態になったり自立行動が取れなくなったりする個体もいて、おいしくいただく事になった。

 これも要練習ということだろう。

 

 ミューズさんは数少ない成功例。

 カケスは、鳥類の中で一番頭が良いと言われるカラスの仲間なので、精神の領域に余裕があったと思われる。

 

 ・・・音楽だから鳥にしたが、よく考えると別に他の動物でも良かったか。

 

 側の立ち木の枝にミューズさんを止まらせて、笛を奏でる。

 カケスには、声真似の特徴もあるから、耳も確かだと思う。

 練習場所を変えたくなかったのは、彼女の縄張りがこの辺だからだ。

 

 アニソンメドレーを、無尽蔵の体力で奏で続けながら、≪魔眼≫を発動した青い右目でミューズさんを見る。

 最近解ったが、精神や魂に接触する≪魔眼≫を発動していると、発動中は相手の感情を読み取る事が出来る。

 これによって、たとえ相手がカケスでも演奏を聴いているミューズさんが楽しんでいるのか、強制されて嫌々なのか正確に判断出来る。

 

 ≪魔眼≫によると、かなり楽しんでいるようだ。心なしか、頭を交互に揺すってリズムをとっている。ノリノリだ。

 

 ふと気がつくと、爺さんが洞窟から出て来て、何かに驚いた顔で此方を見ていた。

 

 『蒼緋眼』を見られてしまったが、これは此処で笛の練習をすると決めた時から想定内だ。

 要はクルタ族とバレなければ良いのだ。

 右目が青いだけでは、種族の特定は出来ない。左目の『緋の目』が見られなければ、いくらでも誤魔化せる。

 『蒼い緋の目』は()()()()()のだから。

 

 爺さんに≪魔眼≫を使う予定は無い。人に使うには危険なのもあるが、使う相手は殺しても構わないヤツだけにすると決めているからだ。

 主になるべく秘匿性を保つ為に。

 

 爺さんが、何かぶつぶつと、うわごとの様に呟いている。

 

 「・・・()()()()()・・・まさか、こんなところで・・・もう、・・・時間が・・・だが」

 

 ただならぬ気配に訳がわからず、演奏を止めて爺さんを見ると、元の鳶色に戻ってゆく私の右目を暫く凝視し、スッと平静に帰ると洞窟に戻って行った。

 

 「ジョウガン?・・・『浄眼(じょうがん)』の事か?」

 いや、これ≪魔眼≫なんだが・・・

 

 とりあえず、足の骨折は完治したようだ。

 

 

 

 

 




 癖の有るじじい
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