嵐の夜に飛び立とう   作:月山ぜんまい

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 23、武術

   23、武術

 

 翌日になっても爺さんはおかしいままで、食事時も一言もしゃべらなかった。

 笛の音が、ちゃんと音楽になっていたか人間の感想を聞きたかったが無理そうだ。

 

 食事が終わり、何時ものように片付けをしていると、ムッツリと黙っていた爺さんが、ボソボソと話し出した。

 

 「・・・いつからだ」

 

 「いつからって何が?」

 

 爺さんが『蒼緋眼(あおいめ)』について何か激しく誤解しているのは解っていたが、詳しく語れば私の念能力について情報を漏らさねばならない。

 この件についてはひたすら、しらばっくれるしかない。

 

 「あの眼が青くなるやつだ」

 

 「あれかぁー」

 

 「生まれた時からか?」

 

 爺さんの目にオーラが集まっている。推定『虚偽感知』の“発“を使っているのだと思う。

 

 「・・・生まれた時の記憶は無いけど、()()()で初めて物を見たときには、もう使えたね」

 

 「・・・そうか」

 

 「人に知られると危ないらしいから、他言無用でよろしく」

 

 私は、自分の口に人差し指を当て「しー」っとやった。

 あざといが、外見相応の仕種の筈だ。

 

 「()()見えるから、使うと便利なんだけどねー」

 

 私にとっては最早有って当たり前の日常だ。有事の際の立ち回りの鍵と言っていい。

 

 「・・・・・」

 

 爺さんは、又ムッツリと黙りこんで何か考えている。

 私も、これ以上情報を与える気は無いので、対照的にニコニコしながら黙っている。

 

 「 ・・・・てめえ武術が習いたいって言ってたな、本気か?」

 

 何か思い定めた様子で、爺さんが覚悟を問うてきた。

 

 「本気だよ、必要なんだ」

 

 私は、正直に答える。

 

 「・・・どこまで習いたい」

 

 爺さんは、こちらの反応を確かめるようにゆっくり話す。しかし、その目は真剣だった。

 

 「全部!何と出会っても戦って生き残れる位まで」

 

 私は、生きていくだけで既に危険な、これからの人生と敵の事を思い浮かべ、正直な気持ちをぶつける。

 

 「・・・・・わかった」

 

 爺さんは、目をつぶって暫く考えたあと睨むように此方を見て返事を返し、ニヤリとちょっと嬉しそうに笑った。私の言葉は正解だったらしい。

 正直爺さんの凶相に笑顔は似合わないと思ったが、口には出さなかった。

 

 

 

 翌朝から、武術の修行が始まった。

 

 が、午後に持ち越された。

 

 私が、朝は念の基礎修練があるので、武術修行はその後にしてほしいと頼んだのだ。

 

 爺さんも、念の遣い手だから当然知っているものと思って説明したら、怪訝な顔をして「・・・やって見せろ」と言った。

 

 「先ずは四大行から~」

 

 私が、一応解説しながら修練を続けると、爺さんは無言のまま側に立ち、知らせるつもりの無い“発“の訓練以外が終わるまで動かなかった。

 

 「・・・どう?」

 

 私は、念の修練を原作知識から再現して細かいところは想像で補って、言わば自己流でやって来た。なので、この世界のネイティブな念能力者に自分のやり方がどう評価されるのか、ちょっと不安が有った。

 

 「・・・・・修行は、午後からにする」

 

 爺さんは、私の修練については何も言わず、何時ものぶっきらぼうな口調でそう言うと、洞窟に戻っていった。

 

 私は、ちょっとガッカリしたが何も言われなかったのは、そう間違った事はしていないのだろうと自分を納得させて、午後までの時間もう一度念の修練を繰り返した。

 少し離れた場所で爺さんの前では出来ない“発“の訓練もやる。

 

 無言のまま一緒に食事を取り、そのまま外に出た。

 

 今日は朝から曇っていて寒かったが、食事している間に大粒の雪が降り始め、拠点の洞窟前の練習場所は早くも一面白く覆われていた。

 

 私は、とうとう来たか、と思いながら爺さんを促し、脇の道を少し移動する。

 最近“周“のメイン修練場になっていた所まで着くと、()()()()()

 

 外見は、巨大な猛獣の口の中。

 

 積雪で野外の修練がしづらくなるのは分かっていたから、ちょっと前に屋内修練場を造ろうと考えついた。

 

 近場で目立たない場所に、一枚岩の巨大岩壁を探し出し、“周“の鍛練がてら長期プロジェクト(二週間)で堀り上げ、その後も少しづつ手を加え、今の形になった。

 

 外光を採り入れる為、入り口は大きく天井は高い。

 入り口に巨大牙の柱が並び、猛獣が唸ってる風なのは趣味。一応虎の穴のオマージュ。

 地形的には、曲がった谷を降りた先にあるので、割と側まで寄らないと岩が加工されていることは分からない。

 爺さんは、一つ鼻を鳴らしただけで入り口の装飾にはノータッチだった。

 まさか、人に見られるとは思ってなかったので、ちょっと恥ずかしい。

 せめてツッコミが欲しかった。

 

 修練場に入ると、爺さんの気配が少し変わり、武術修行が始まる。

 

 まず、修行中は能力(念)は禁止すると告げられた。底上げの無い状態で修行しないと、後で伸び悩むそうだ。

 

 次に、修行場を走らされてバテるまでの持久力を見ると言われたが、日が暮れるからやめた方がいいと止めた。

 

 爺さんは、なに言ってんだコイツ、的な顔をした。

 

 とりあえず柔軟性をアピールするために、股割りをしたり 、ヨガの様なポーズをいくつか披露する。

 

 ちょっとは驚かせたようだ。

 

 流れで指先倒立の体勢になり、そのまま左右の中指二本倒立へと移行し、腕を屈伸させてパワーをアピール。

 曲げた腕を伸ばす勢いで体を跳ね上げ、くるりとトンボを切って着地する。

 まだ足らないかと思い、普段身体のバランス調整に使っている丸く加工した岩をひょいと右手で持ち上げ、手から腕、肩、首の後ろを通して、左の手まで転がして見せる。

 石の大きさは一メートル近い。

 

 ちょっとやり過ぎたらしく、能力を使っていない事、石が本物である事をしつこく確認された。真偽確認用?の念も使っていた。

 

 暫くして、ようやく私の身体能力や柔軟性が桁外れなもので、特異な体質である事を了解してくれた。

 

 「どおりで『(むくろ)の森』に入って、生きてられるわけだぜ」

 

 なんか、妙なパワーワードが出て来た。

 

 聞くと、街道から見て、南に位置する岩と森の平地、つまり元々私が暮らしていたテリトリーが、入り込んだら生きては出られない毒と即死の罠、寄生生物と捕食生物の()()()、悪名高き『骸の森』なのだそうだ。

 

 ちょっとショックだった。だが、もしかしたらと予測していた事もあり、ポーカーフェイスでやり過ごし、北側の山岳地帯の事も尋ねる。

 

 そうしたら普通に『ゲルの大森林』という地名が出て来た。

 と言うか、数ヵ国に股がるこの広大な森全てを総称して一般的に、『ゲルの大森林』と言う名前で呼ばれ、『骸の森』はその中の危険な一地域に付けられた個別名称らしい。

 

 話しぶりからすると、他にも危険で特別に警戒が必要な場所は有るが、どこも人間が普通に立ち寄るような範囲から離れていて、問題になるような事は無いそうだ。

 爺さんは、私の無知に呆れていた。

 

 拠点の洞窟の有る場所は少し外れた街道の北側で、『骸の森』からは距離が有るのに何故私があっちに出入りしていた事が解ったのか聞いた。

 

 理由はベリーだった。

 

 爺さんが目覚めた初めての食事の時、何処にでも在るものだと普通に出したドライベリーが、『骸の森』にしかない有名な高級食材『星降るベリー』なるもので、外だとべらぼうな値段になる珍味だったのだ。

 

 毛皮や牙の加工品には気を付けていたが、似たような物がいくらでもあるベリーには気が回っていなかった。

 ちなみに『盆栽蟹(ぼんさいがに)』が守っていた話をしたら、本来の名前は『蓬莱蟹(ほうらいがに)』と言うんだ。と、メチャクチャ馬鹿にされた。

 

 

 修行に関しては基礎体力はもう有るので、基本の体造りはしなくていいそうだ。ただ、妙な事を言われた。

 

 「お前にはチン(りょく)が足りない」

 

 意味が解らず何度も聞き返すと、チンとは『沈』、()()()力の事で、彼の流派では普通に使われる、武術を使うのに必要な動きの根幹になる地力の事らしい。

 

 中国武術で言う功夫(クンフー)のようなものかしら?

 

 石の床面に、大きめの円、小さめの円、三角、等を描いて修行が始まった。

 

 柔らかな踊りのような型を教わりながら、爺さん改め師匠に聞いた。

 

 「()()、名前は?何て言う流派?」

 

 師匠が相手なのに口調が元のままなのは、気持ち悪いから元に戻せと言われたからだ。

 最初は師匠呼びも、嫌がっていた。

 

 「・・・・・円掌拳だ」

 

 何故、言い渋る?

 

 ちょっと言い澱んだが、相変わらず不機嫌そうに返す。

 

 名前は普通。

 

 「・・・流派じゃないの?」

 

 ハンター世界の武術は、基本〇〇流だったような気がする。円掌拳じゃなくて円掌流じゃないのか?いや、虎咬拳とか有ったか。狼牙風風・・・いや、これは違うか。

 

 「流派じゃねえ、支流じゃなくて本流の宗家の武技だからな、あと円掌拳に分派や支流は無い」

 ムッツリして口は重いが、修行中は聞いた事に答えてくれる。

 

 なんか思ってたより本格派。一部にだけ伝わってきた秘拳的なモノか。

 

 円掌拳、戦いの様子や型の動きから見て、空手のような剛拳(ファイター)タイプではなく合気道の様な柔拳(カウンター)タイプ寄りの武技だ。

 

 私が、求めていた物と合致する。これは、思わぬ拾い物かも知れない。

 

 師が、爺さんである事以外は。

 

 

 「私はどのくらい強くなれる?」

 

 目指すは達人だ。円掌拳をマスターして修行を積んだらどの程度までやれるのか。

 師匠も二つ名は『金輪のガリル』で、メインの攻撃手段は鋼鉄の箍の嵌まった杖、戦闘では杖術を使っていた。

 動きの基本は円掌拳かもしれないが、得手不得手が有って、距離を置いた戦いに難が有るのかも知れない。

 それならば、早めに知っておきたい。

 

 「・・・おまえ次第だ」

 

 「・・・・・ウスッ」

 

 私は、まあそういう返しになるよなぁ。と、内心苦笑いしながら軽く返した。

 

 しかし師匠は、私の返事が気に入らなかったのか、言葉を継いだ。

 

 「・・・もし、おまえが拳の全てを学んでも、沈力が満ちなければおまえの強さは中くらいだ。

 もし、沈力が満ちても技が術理に届かなければ、おまえの強さは達人で終わる。

 もし、沈力が満ちて術理を得て、円を修める事が出来たなら、おまえの強さは天地に至るだろう」

 

 「・・・・・」

 

 誰かの受け売りか?何言ってんだ、この爺さん。という目で見たら、持ってた杖でひっぱたかれた。

 

 いや、念は禁止じゃなかったっけ?

 

 え、こっちだけ?

 

 いくら効かないからと言って、指導用の細杖に“周“は無いでしょう。

 流石に普通に痛いよ。

 

 痛いので避けたら、避けるのも禁止された。

 

 

 

 円掌拳の型は複雑で幾つも有り、間違える度に師匠が長い細杖で打つ。 

 

 歩法もあって、足は円や三角の上を複雑になぞる。

 

 修行初日は日暮れまで続き、私は慣れない動きと使い方に神経が疲れ、久しぶりにへとへとになった。

 

 「ありがとうございました!」

 

 日が暮れて、残照がなくなる前に洞窟に帰る師匠を見送ると、私は一人で自主練を始めた。

 暗視が利くので光は要らないし、教えてもらった型は全て記憶している。

 

 師匠によると、沈力を磨くには効果的なトレーニングなど無いらしい。何度も何度も型を繰り返し、円掌拳の為の体になるまでひたすら鍛え抜くやり方が、最終的には最も効率よく強くなる王道なのだと言う。

 聞いてる内に、私もそうなのかもしれないと思い始めた。

 

 前に、三大会連続でオリンピック金メダルを取った柔道家が、ジムなどでの筋トレを殆どせずに、ひたすら柔道をして身体を造ったと何かで読んだ。

 

 型しか習っていないが、普段あまりしない動きや関節の使い方、呼吸法、力を抜く事、身体の連携する動作と作用。

 

 ちょっと教わる度に、何かが変わって行く。

 

 私は、少しずつだが“発“を創った時と同じようなわくわくを感じ始めていた。

 

 都合五時間ほど教えられた型の反復練習を行い、私の武術修行初日は終わった。

 

 

 その後、あの時の「修行は午後からにする」発言を踏襲するためか、それとも私の念修行に理解を示してくれたのか、武術修行は主に午後に行う事が何となく流れで決まり、午前中は自己鍛練に励む事になった。夜は自主練だ。

 

 大して手間は掛からないが、食事の支度や狩りなども行うため、時間が有るのは嬉しい。更にもっと何か出来ないかと考え、日常生活にも武術修行を採り入れる事にする。

 

 つまり、歩くこと、しゃがむこと、水を汲み、食事の支度をする。腕を伸ばす、腰を捻る。全ての動作を円掌拳の動き、円掌拳の呼吸、円掌拳の身体の使い方を意識して行う。

 

 師匠の言った事が、師匠の師匠から教えられた円掌拳の伝承なら、まあ半分は眉唾でもそれなりの深みがある流派なのだろう。

 荒唐無稽な嘘っぱちじゃなさそうだ。

 それなりの裏付けがあって、努力が大事、という意味の言わば警句だな。

 

 とりあえず呑み込んどこう。師匠マジだったし。

 

 

 翌日、師匠が又変なことを言い出した。 

 

 

 




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