嵐の夜に飛び立とう   作:月山ぜんまい

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 27、霊獣

   27、霊獣

 

 「知らんのか?『霊獣』は、森や荒野なんかの奥深くに棲む自然の神霊の眷族だ、人が出会うことは滅多に無いが、導きを与える事も有れば、滅びをもたらす事もある、神話にもよく出てくるだろう!」

 

 師匠が、珍しく興奮して長文をしゃべっている。

 正直、私はもう見慣れているので驚きはあまり無い。神霊がどうとか言うのは眉唾だと思うが、その存在の在り方からして、世界のシステム的に何か必要な役割が有るのではないかと考えている。

 

 「失礼なことすると、何かバチとか当てられたりするとか?」

 

 思ったより師匠がマジなので、扱いを決める前に聞いてみる。

 

 「・・・止めておけ、聞いた話だが『霊獣』の現れる古くからの森を切り開いて作った村は、暫く経つと大概滅んでいる」

 

 「村ごと?」

 

 結構やらかしているらしい。あの体格だ、普通の人間じゃどうにもならないだろう。

 念能力者なら、渡り合えそうだけど、中には変な能力持ってるのも居そうだよなぁ。相当に利益がないと、割りに合わないか。

 

 「なんでも身体中から髑髏模様の茸が生えたり、腹を喰い破って中からでかい虫が生まれたりして、地獄絵図だったそうだ」

 

 師匠が言ってて想像したのか、気持ち悪そうにブルりと身体を震わした。

 

 ・・・あぁ、それ何か知ってる。

 

 こないだ迄住んでた所に、結構普通に居た奴らだ。

 そうか、あいつら地獄レベルの案件なのか。黙っとこ。

 

 

 「・・・・」

 

 師匠が、こっちを見て顎で狐を示す。

 

 「・・・・ん?」

 

 意図が解らず、私は小首を傾げた。

 

 「・・・何でこんな処にいらっしゃったのか、尋ねてこい」

 

 師匠が、無茶なことを言い出した。

 

 「はい?」

 

 私は、毛皮にするのは可哀想だし、ちょっともふらせてくれたら置いてやってもいいかな。位にしか考えて居なかった。

 狐だし、他から流れてきたが、この辺りの巨獣界隈でハブられて、カラスに追われて燕が民家に巣造りするように、家に入り込んだのだろうと、近所の野良猫程度に捉えていた。

 

 あとなんか、師匠の中で私は動物と話が出来る事になっているらしい。

 巨獣は、サイズに反して気配が微少なので、師匠を驚かせようと存在を黙っていたのが、通じあっているように見えたのか?

 全然知らん獣なんだが。

 

 「いや、動物と話せるわけ無いじゃん!」

 

 私は、(もっと)もな事を言った。

 

 「前に笛吹きながら鳥と話しとっただろうが!・・・こう、青くなった目で」

 

 師匠は、自分の右目を指で示しながら、大分前の私のやらかしを持ち出して指摘した。

 笛の演奏自体は暇を見つけて練習がてら吹いていたので、特別な事ではなくなっている。

 

 『蒼緋眼』の事を持ち出すときは、真剣に私の鳶色の瞳を見つめていた。いや、顔が怖いから止めて欲しい。

 

 「あぁ!」

 

 金色カケスのミューズさんにやってたやつか。貯食するカケスは渡りをしないので、ミューズさんは今も時々音楽を聴きにやって来る。

 さすがに話は出来ないが、確かにあれなら『蒼緋眼』いや、≪魔眼≫の幻術の副次効果で相手の思考を読み取れる。

 

 「なるほど、さすが師匠」

 

 ポン、と手を打った私は、未だ緊張を解かず此方を気にする巨大な狐に躊躇なく近づき、『右目(ライブラ)』を青色に変え≪魔眼≫を発動させた。

 

 狐の意識の表層に有ったのは、強い緊張。その下により強い焦燥と不安。私達、と言うより私に対する恐怖と妙な信頼。

 

 様々なものが混沌としているが、状況は把握した。

 

 「あぁー・・・なんか、春まで此所に住むつもり・・・みたい?」

 

 

 印象だけだが、何故か狐は自分が此所に居ることが正しいと確信していた。

 

 何かに追われて方々彷徨いていたのが、安全な隠れ場所を求める必要が出来て、散々探し回って本能の導きで私を見つけ、ようやく此所にたどり着いたらしい。

 

 ほぼ、何言ってるのか解らんが、簡単に言うと、『引きこもり希望の狐が来た』だ。

 

 此処に居れば問題が解決するらしい。少なくとも狐はそう信じている。どうも、プロセスを飛ばして結論に辿り着く直感力が有るようだ。

 

 それとも巨獣種が持つ念能力か、もしくはもっとアレな霊的な謎の力か・・・。

 

 予知能力ぐらいなら私も持ってるし、あんな常識はずれの理不尽な生き物なら、何でもアリだろう。

 

 「・・・そうか」

 

 師匠は、狐を見ながら何か考えているようだった。

 狐の件にけりが着いたと判断して、私が修行を始めようと促すと、最初ぎょっとしたが、もう一度狐を見て此方を見、どちらも気にして無いのを確認すると渋々修行を開始した。

 

 最近は、私が対応する度に戦闘スタイルを変えて翻弄してくる。

 戦闘経験の少ない私にはありがたいが、細かい初見殺しが多く、どんだけ引き出しがあるんだ、と驚くばかりだ。

 

 

 滞在するのは良いが排泄は中でするな、と威圧込みで言い聞かせ、翌日。

 

 交換にもふらして貰おうと、狩った獲物の鹿を担いで武道場に入り、食事中柔らかで温かい毛皮を撫でさせて貰う。

 

 「おぉ、なるほど・・・」

 

 もう一度≪魔眼≫も使い、色々判明して有意義だった。

 

 狐は、何か怖いものに追われていたらしい。

 

 ・・・巨大な狐を襲う、いや襲える生き物って何?

 

 巨大な狼とか、熊とかか?

 

 でも、師匠の話じゃ『霊獣』同士は争う事は無いらしい。

 私の印象でも、彼らは縄張りを構えた隣人同士ってかんじだった。何か、基本的に理性的なんだよな。獣なのに。

 

 それとも、他所から来た全く関係ない怪物(モンスター)か?

 

 巨獣の中で狐だけが狙われるのは、おかしいのではないか?と感じて、もしかしたら人由来かしらと飯時に師匠に『霊獣』を狙う奴が居るのか聞いてみた。

 

 案の定『霊獣』の毛皮は、一種の秘宝扱いになっていて、倒して得られれば富と名声が一度に手に入る、ハンター垂涎の獲物だそうだ。

 それ故に悲劇的な話も付き物で、死に目に()って善行によって譲られる以外の入手法だと、大抵破滅の末路になって終わる。

 

 それでも欲しがる者は多く、況してや相手は毛並み抜群の狐種。高値が付くのは疑いようがない。追ってるのが欲に駆られた人間なら、いくらでも可能性は在るそうだ。

 

 確かにあのサイズなら、一匹分で最高級のコートが何着も作れる。

 

 毛皮か・・・・・

 

 知らん奴ならどうでも良いが、もうモフモフさせてもらったからなぁ。

 有る意味私の種族的トラウマにも触れる嫌な話だ。

 

 コートはちょっと惜しいが。

 

 

 「良く解らんが、此処なら安全だと知っとるのだろう、狐の『霊獣』には女を孕ませた何て昔話も有る。あまり関わらん方がいいぞ」

 

 師匠は積極的に関わらず、(けい)して遠ざける方が良いと考えているようだ。

 

 「いや、誰かを孕ませる心配は無いよ、あの狐()だし」

 

 「・・・そうなのか?」

 

 ちょっと安心したようだ。

 

 「てゆうか、あの狐自体今妊娠中だから」

 

 ≪把握≫で心音の数を確認したので間違いない。

 

 「なに!」

 

 随分驚いている。無理もない。

 

 きっと師匠も、私同様もうすぐモフモフの可愛い仔狐が見られるかも知れないと想像(ワクワク)したのだろう。

 

 「狐の妊娠期間は二ヶ月も無かった筈だけど、あのサイズだとどうなんだろう」

 私の記憶によると、哺乳類は出産時のサイズが大きいほど妊娠期間が伸びる。

 いや、春までという期限付きの滞在だ、それまでに産まれて、移動できるようになると考えるべきか。

 

 

 一応話はしたが、師匠は追っ手の事は『霊獣』界隈の別世界の話で、狐が片付けるものだと思い込んでいた。しかし私は、それに巻き込まれるのではないかと思っている。

 多分狐は、そのために来たのだろう。逃げるだけなら問題ないが、妊娠と出産と育児のトリプルコンボで出来る隙を突かれるのを懸念し、安全地帯を探して私を見つけたのだ。

 

 チッ、めんどくせえ!モフモフでさえ、モフモフでさえなければ放り出すのに!

 

 ・・・もしかして、そこを野生の勘で見抜かれたのか?クソ!さすが狐、汚い。

 

 まあいい、相手が毛皮目当てのハンターならボコってお帰り願おう。ダメなら殺そう。勝てなきゃ逃げるだけだ。

 

 通常営業。

 

 

 

 たまに狐にも獲物を運びながら、奇妙な共同生活はそのまま続いた。

 狐が来て一ヶ月が経ち、三月、暦の上では春になったが外は雪景色のままだ。

 やはりこの辺りが雪融けの季節を迎えるのはもう少し後、去年と同じなら四月の後半、まだ一月以上を待たなくてはならない。

 

 私にとっては特に問題ないが、そろそろ師匠の残り時間がヤバくなってきた。

 数日前から動きに精彩を欠くようになって、私の『揺武』の相手が出来なくなった。

 

 今も武道場迄来たが、奥の小上がりに巨大狐と一緒に座り、身体を取り巻く尻尾を無意識に撫でながら私の『円歩』を見守っている。

 最初は距離を置こうとしていたのに、狐と師匠は段々と打ち解けて、いつの間にか仲良しになっていた。

 狐も、私相手だと今も緊張するのに、師匠には気を許している。

 

 所謂、良い警官と悪い警官みたいな感じになったのだと思う。

 三者の関係の中で、狐は、念能力をほぼ隠蔽していても野生の勘で私の力を感じ取り恐れていた。

 師匠は狐を脅かす程の力は持たず、しかも何故か私が配慮する相手。

 したがって、恐い私より『霊獣』として一応の敬意を払っていた師匠に、より精神的に依存するようになる。

 師匠は師匠で『霊獣(モフモフ)』になつかれて悪い気はしない(当然)。

 

 今では、一日のほとんどを此所で狐と過ごしている。

 人生の終わりが近い師匠と不思議な狐は、どこか通じあう物が有るらしい。半分あっちの世界に足突っ込んでるところが似てるからだろうか。

 

 「・・・なんとか間に合ったな」

 

 師匠が、ポツリと言った。

 

 何か、話し掛けられたのかと思い視線を向けると、修行中見たこともない程リラックスした気配の師匠が、ホッとした表情で此方を見ていた。

 

 「・・・師匠?」

 

 『円歩』を終え、いぶかしげに見返すと、ちょいちょいと手招きされた。

 

 「修行は終いだ、俺の持ってる技は全て教えた。

 本来なら最後の試練として上位者が手合わせをするんだが、もう俺の身体が利かん、この場で弟子は卒業だな・・・後は自分で工夫してしっかりやれ」

 

 師匠は、何処か眩しそうに私を見て、教授の終わりを伝えた。

 

 「・・・師匠?」

 

 突然の、呆気ない幕切れに驚く。

 

 「もう弟子じゃねえだろ、呼び方を戻せ」

 

 師匠は、何時ものふてぶてしい態度で凶相を歪め、ニヤリと笑った。

 

 

 「・・・いや師匠、まだ杖術を教わってない」

 

 私は、冷静に突っ込みを入れた。

 

 「んっ・・・あぁ?そうだったか?だが、ありゃ円掌拳とは関係ない棒術と剣術の応用だ、何処でも学べる、お前ならすぐ使えるようになるさ」

 

 師匠は気にした風もなく手を振って流し、話を続けた。

 

「それに、別に杖術に拘らなくても剣か槍の方がハッタリが利くぞ、俺はこの面だから得物を持ってるとスジもんや警邏が煩くてな」

 

 ペチペチと自分の顔を叩いて新事実をこぼし、再度「だからもう師匠は(しま)いだ」とさっぱりした顔で言い切った。

 

 「・・・ちぇっ、爺さんの杖術、かっこ良かったから教えて貰おうと思ったのに」

 

 「・・・すまんな」

 

 「いいよ、もう勝手に真似するから・・・」

 

 私は、一つ大きくため息をつくと、威儀を正した。

 

 右の拳を左手で包み拱手(きょうしゅ)し、師匠に翳して深く頭を下げる。

 

 「ありがとうございました!」

 

 師匠は軽く頷いただけだった。

 

 

 一杯やるべきだし、そういう気分だが、今は未成年だし酒もない。

 爺さんの前で杖術の修行をして指導してもらうか、修行が終わった祝いに笛でも吹くか、どうするか私が悩んでいると、遠くに嫌な気配を感じた。

 

 「せっかく良い気分だったのに・・・」

 

 此方を見つけたらしく、気配が結構なスピードで近づいて来る。

 

 私の次に狐が気付き、背中の毛を逆立てて立ち上がった。

 爺さんも異変に気がついたようで、出入り口を睨み付けている。

 

 「・・・どうやら『(ごう)』ってヤツの使い手みたいだ、纏う気配が尋常な生きものじゃない、こりゃさすがに『霊獣』も逃げ出すわ」

 

 禍々(まがまが)しい膨大なオーラ。少なくとも、素の私を殺せるだけの能力は有りそうだ。

 

 私は、相手の強さの把握に努めながら、修行前なら危険だったけど今の私なら勝てるかな?とぼんやり考えていた。

 

 

 

 




 狐は仲間になりません
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