嵐の夜に飛び立とう   作:月山ぜんまい

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 なんか長くなった。


 29、死闘

   29、死闘

 

 

 「『全力稼働(フルポテンシャル)』!」

 

 訓練以外では久々の、肉体とオーラの全開使用。身体能力はまだ少しづつ上昇中。オーラ量もどんどん増しているが理由は良く解らない。

 

 パワー上昇やコンスタントなオーラ増加には少し慣れてきて、慣熟訓練も随時行っている。使用に不安はない。

 

 とりあえず此方を先に潰す事にしたのか、突進というか弾丸のような速さで迫る『獣人(ギース)』。

 

 こちらも、リミッター無しの本来のオーラ量で全身と“廻“式“流“を強化。

 

 私の能力が飛躍的に上昇する。

 

 感覚系も全て再度強化し、迫り来る相手の膨大なオーラの圧に抗しようとするが、そう甘い相手ではない。

 

 まるで山が丸ごと迫ってくるような尋常為らざる殺意の波に晒される。

 

  今現在の全力を以てしてもなお、受けに回らざるを得ない。

 

 

 「(から)さ増し増しかぁ?」

 

 さっき迄より更に上がったスピードに、≪天眼≫の予知が次第に機能しなくなってゆく。

 予知で見える映像が、厚みを増した黒いオーラで不鮮明になり、見にくい上に速すぎて読み取りづらいのだ。試しに≪強化≫のリソースを全振りしても、あまり変わらない。

 

 いかに此方のオーラが多くとも、死者の念には及ばない。

 このままだと予測精度の分削られて、押し負ける。

 

 (うーん、ピンチ)

 

 なのに、命懸けの戦いに心が沸き立つ。

 

 『獣人』が全身を躍動させて行う息もつかせぬ連撃が、冷たい空気を切り裂いて恐ろしい唸りをあげる。

 

 いまや『獣人』の猛攻は、私の知覚能力を遥かに越えていて、肉眼では全く捉えられない。しかし、だとしても瞳は閉じない。

 

 

 捌きに徹した縦横な回避を可能にしている≪甲殻≫の足場。

 

 ≪天眼≫の予知。

 

 ≪観測≫の精密オーラ感知。

 

 ≪把握≫の三次元知覚。

 

 ≪嗅覚≫の情動検知。

 

 ≪結界≫の危機感知。

 

 そして、一年の野生生活で研ぎ澄まされた気配感知。

 

 全てを束ねても尚それを上回る敵の異常な程の超スピードと、絶妙な揺らぎによる攻撃予測のずれ。

 

 それを、身体能力の≪強化≫と≪添加≫のベクトル加算を自分に用いる事によって、ぎりぎりのタイミングで強引に修正する。

 

 それでもなお裂けた皮膚、折れた指、千切れた体組織を≪再生≫で瞬時に回復し、死線を窺う攻防を継戦(けいせん)し続ける。

 

 「・・・まだまだぁ!」

 

 交錯の度に予測誤差の分弾かれ、時に身体が極僅(ごくわず)か間合いの外に出る。

 (またた)きのような仕切り直しのその瞬間に、極度の集中を維持するため、自ら叫ぶ。

 

 周囲には私の血と互いの攻防オーラの残滓が飛び散り、地形すら変わって行く。

 

 一つ当たれば即人生終了の連続攻撃を、命を削る勢いでなんとか凌いでいると、たまに場違いな映像が脳裏を掠める・・・。

 

 

 

 ほとんど透明に成る程集中した意識の端の方で、爺さんが心配そうに此方を見ている情景を、なぜか望遠鏡から眺めているように小さく遠くに感じた。

 

 ・・・・・・・・

 

 最早、どの能力で知覚しているのかも判然としないが、他を圧倒する『獣人』の存在感とは別に、外野で見守る三体の巨獣の姿が、戦いながらも どういう理由(わけ)か時折ぼんやりと認識できる。

 

 そして、武道場の奥で丸くなり、顔を上げて震えつつ気配を窺う巨狐の姿も。

 

 

 おかしな現象とは別に、集中力は増してゆく。

 

 ・・・・・もう少し。

 

 

 刹那の攻防を薄紙のように積み上げながら、次の一秒を持ちこたえる。

 

 

 ・・・・・・あと少し。

 

 

 戦いで荒れる泥と岩の地面、周囲にまだ残る雪の白さ。

 

 

 ・・・・・・もう少し。

 

 

 攻撃の余波で揺れる針葉樹の緑の枝先。

 

 

 ・・・・・あとちょっと・・・・

 

 

 

 ・・・・・・・・・

 

 

 ・・・・・ピチャン。

 

 

 

 何処か、遠くで水の音がした気がした。

 

 

 

 ・・・・・・・・・・

 

 

 

 ・・・・・・・・・・

 

 

 

 白い透明な世界に、泳ぐ魚を幻視する。

 

 

 

 ・・・・・・・・・・

 

 

 

 ・・・・・・・・・・

 

 

 

 ・・・・・感じたのは小さな光。

 

 

 

 ・・・・・・・・・・

 

 

 ・・・・・転調。

 

 

 

 突如、世界が変わる・・・。

 

 

 いきなり思考がクリアになり、知覚領域が数倍に広がり、『獣人』の情報が頭に飛び込んで来てバラバラだった断片が瞬時に繋り、解けなかったパズルの回答が示されるように、捉えられなかった『獣人』の超高速の動きが、多少なりとも認識出来るようになる。

 

 情報処理に極僅かな差違が生まれる。

 

 予知の精度が上がって行く。

 

 

 

 『左目(スコルピオ)』の視界の片隅で、

 

 【『(ピスケス)』の二次権能、≪覚醒≫が発動しました。】

 

 と、ゲームのログのようなものが明滅していた。

 

 

 ・・・・・気がつくと私は、見えない筈の鉤爪の一撃を『流水』の動きでそっと触れて受け流し、『細波』の当身技で肘打ちを肋骨に押し込み、僅かな隙に渾身の掌底打ちを決めていた。

 

 戦いが始まって以来、初めて『獣人』がクリーンヒットを貰い、二十メートルほど出鱈目に転がりながら吹き飛ばされて樹木をなぎ倒し、吹き溜まりと藪の向こうに消えた。

 

 「・・ふうっ、(ようや)く一つ」

 

 ダメージなんて無いだろう。油断はしない。だが一息ついて自分の状態を確かめ、再び集中力を高める。

 

 相変わらず何処へ向かっているのかよく解らん。と思いながら『左目(スコルピオ)』の≪観測≫の視界に映る≪覚醒≫発動の文字(ログ)を了解の意思と共に消す。

 

 ≪覚醒≫とは思わなかったが、何となく予感は有ったので、新たな権能発動に驚きは無い。

 

 ただ濃密な戦いの中で、念獣達を含めた自分が凄い勢いで成長しているのを感じていた。

 私や念獣達が成長すれば、やがては二次権能が発動するのは自明である。

 

 さて、ここからだ。

 

 すぐに、当然のように何事もなく『獣人』が藪から出てくる。

 

 (全く、嫌になる頑丈さだ。)

 

 一撃を喰らわしたが効いた様子はなく、更に渇きが増してオーラが少し増大している気がする。

 

 修行場の入り口に立つ爺さんも厳しい顔だ。

 

 私は、半身になって腰を落とし、脇を閉めて合掌の両手を前後にずらすような円掌拳の基本の構えから指先をちょっと伸ばし、チョイチョイと招くように動かして相手を煽る。

 

 「さて、反撃と行こうかぁ!」

 

 『獣人』が、怒りを感じさせない無感動な目をスッと細め、認識を越えた速度で二十メートルを一瞬で詰め、勢いのままの体当り(ショルダーチャージ)を敢行する。

 

 標的の私は、精度を増した≪天眼≫の予測によって『落葉』の捌きを合せ、同時に超スピードの衝突をかわしながら『風花』の送りで投げ飛ばす。

 

 今、正に自分の突進の威力そのままに『獣人』が逆さに投げ飛ばされてゆく。

 

 私は同時に滑らかに歩くが如く背中側に踏み込み。

 

 飛び去ろうとする巨体を途中で捕まえようと、軽く手を伸ばす。

 

 後ろ側から『獣人』の左手の指の一本を巧く掴む。

 

 そのまま、≪強化≫で人外と化した腕力と、投げ飛ばした勢いと『獣人』の自重で後ろ手に肩関節を決め、身体に纏った≪甲殻≫で自分を宙空に繋ぎ止めながら、相手の運動エネルギーをも利用してハンマー投げのようにくるりと振り回し、頭から地面に投げ落とす。

 

 車がビルから落下したような轟音と振動が、辺りに響く。

 

 オーラで頑強に守られた身体に、この程度の攻撃は通じない。予測に応じて指を放し少し下がって仕切り直す。

 

 移動前の頭のあった位置に、地面に逆さに突き刺さったままの『獣人』の蹴りが飛ぶ。

 私が下がって外れた蹴りの勢いで、頭を抜いて飛び上がり尻尾でバランスを取って器用に立ち上がる。

 

 また少し怒りとオーラが増して強化された。

 

 少し土が付いた狼の顔に表情は無いが、頭が此方を見たまま少し傾く。

 

 隙を探しているようにも、少し戸惑っているようにも見える。

 

 

 「・・・少しは混乱させたか」

 

 

 攻撃を誘うため、初めて此方から少しづつ間合いを詰める。

 

 濃密な死の気配漂うオーラに、肌が粟立つのを止められない。

 

 元々、オーラを臭いとして感知する能力と、臭いと記憶の関連性から脳を活性化させ記憶力を増す副次能力の有る≪覚醒≫が発動したのは、この濃密なオーラのせいか、それとも≪覚醒≫という名前がピンチに呼応したのか。

 

 クリアになった思考は、加速化されている訳ではないが、過去の記憶を含めた情報把握力が増して、現実に対する認識力が大幅に上昇している。

 

 それに伴いまるで思考が並列化したような全能感が生じ、引っ張られて、総合的知覚力の増大が起きている。

 

 そして、今は更に≪覚醒≫のオーラを臭いとして読み取る効果があるため、既に闇のオーラは障害ではなく見えない動きを明確に伝える多彩なメッセージ媒体と化していた。

 

 オーラの伝わる早さは思考の早さ。臭い分子と違い、高速戦闘にも明確な指針となる。

 

 「GRaaaaaaaaaa!」

 

 一声吼えた『獣人』が、襲いかかってくるが、助走が短い。

 

 トップスピードになる前に、その眼前に飛び込む。

 

 反応速度の差で、先に『獣人』の左手の爪の打ち下ろし。

 

 小さな私には、ストレートは全て打ち下ろしになる。

 

 其れを右手を添えて逸らし、さらに前へ。

 

 空かさず『獣人』が、右手の爪で近い間合いに剛腕の横薙ぎ(フック)

 

 私は、引き戻される『獣人』の左手の下、片腕でまともに横撃(フック)を受ける。

 

 戦闘開始直後の一撃でボールのように打ち飛ばされたシーンが、脳裏にフラッシュバックする。

 

 ( ここ!)

 

 『獣人』の巨体から繰り出す打撃力は、まともに食らえば小柄な私を木っ端のように吹き飛ばす威力が有る。

 

 しかし其れを私は、技術で抑え込む。

 

 「・・・うぐっ」

 

 (『雪音(ゆきね)』・・・なんとか成功!)

 

 『雪音』は『震打』の受けの技、身体中の力を集めて撃ち込む『震打』の逆。一面の雪があらゆる音を吸い込み、消し去ってしまうように、外からの打撃力を身体中で分散して散らし切る奥義。

 

 しかし、流石に死者の念の重厚なオーラを散らし切れず、若干のダメージを喰らう。未熟。

 

 受けた左腕と肋骨が何本か折れ、内臓が傷ついてちょっと血を吐いても動きに支障無し。≪再生≫も掛かっているし、今は寸暇が惜しい。

 

 拳一つ分押し負けたが吹き飛ばされなかった私は、丁度この一瞬『獣人』からは自前の左手の陰で死角。

 

 腰を落とし目の前の胴体に向け、無事だった右手にオーラを込めて心臓狙いの全力の、『震打』。

 

 「はぁっ!」

 

 鋼の守りのその向こうへ。

 

 (『木霊』よ届け)

 

 一瞬のタメ。

 

 「・・・通った!」

 

 破壊の手答え。

 

 『獣人』が戸惑うように動きを止める。

 

 (まだ!)

 

 『獣人』背後の視界外に≪瞬転≫で移動。宙空で≪甲殻≫を生み出しなから『山猫先生』のように気配を殺し、後頭部の高さにふわりと着地。

 

 まだ左手は利かない。

 

 『震打』は通るが威力が足りない。

 

 腰を落とし掌底打ちの構えから、さらに貴重な数瞬を費やしタメを設けて新技の披露。

 

 最近やっとこ戦闘に使用出来る威力になった、変化系の“発“『衝撃波』。それを武術と組合わせる威力拡張の合成技。

 

 『震打』+『衝撃波』

 

 普通の打撃ならともかく、『震打』に合わせるのは至難。今のところ、成功率六割。

 

 ・・・周りは気にせず。

 

 掌に溢れるほどのオーラを込めて。

 

 (・・・いつも通りに)

 

 「・・・ふっ!」

 

 

 『震撃波(しんげきは)!』

 

 

 右手を押し当てた毛むくじゃらの頭蓋の中で、水中で何かが爆破されたような、重低音。

 

 一瞬の発光。

 

 ブワッと、黒いオーラに覆われた『獣人』の狼の頭蓋が驚いたように膨らみ、もとに戻る。

 

 

 (・・・?)

 

 

 もとに戻ったが、様子がおかしい。

 

 すかさず再度の≪瞬転≫で地に降り、前に回って畳み掛ける。

 

 ショックでたたらを踏み、僅かに痙攣する相手の下がった頭を、容赦なくもう一度『衝撃波』付きの打撃で狙う。

 

 あえて『震』の技を外し、外部からの破壊力重視、オーラ量に頼った脳筋的な威力マシマシの強打。

 

 安定せず暴れ揺らぐ今のオーラなら、十分な破壊力が有れば外からの打ち込みが通ると確信。

 

 「フンッ!」

 

 放った掌打は、案の定一撃でオーラごと無理矢理頭部を破砕、五割以上欠損させる。

 

 何か一つコツを掴んだかもしれない。

 

 どう考えても死者の念で強化された筋肉や頭蓋骨諸供に脳幹が粉砕された。生物なら即死間違いなしだが、身体の動きが止まらない。逆に、黒いオーラが全身から溢れだし、ひしゃげた頭に構わず、関節を無視した無茶苦茶な軌道から爪が襲ってくる。

 

 足を止め、明滅する黒いオーラに幾重にも取り巻かれた相手から、私は少し距離を取った。

 

 「やっぱ消えねーか」

 

 今の一撃で、もしまだ生きていたとしても狼は死んだだろう。消えるかと思ったギースの死者の念は、よりヤバい感じに変化しようとしている。

 

 狼の頭が致命傷を負った事で、狼と死者の念の融合に齟齬が出たのか、全体のバランスが崩れてゆく。

 

 折り重なる黒い影の中で、『獣人』を構成していたオーラの一部が灰と化して風に飛び、解放された狼の気配がフッと通り過ぎて煙の如く消えた。

 

 直後に黒いオーラが勢いを増して膨らみ、毛皮の下が全身至るところで沸騰する泡瘤のように何度も盛り上がり、黒いオーラの塊が獣だか人だか解らないモノに姿を変えてゆく。

 

 三メートルの獣人擬きだったシルエットが崩れて少しサイズが縮み、二メートル程の直立した犬のゾンビ擬き?へと縮む。

 

 (・・・第二形態?)

 

 全体の印象が少し()()()()してだらしない感じになり、狼感が無くなって、狼の毛皮を纏った歪んだ人形(ひとがた)に変わった。

 黒いオーラと禍々しさは増して、短くなった足は人間、両手は肉球と爪が有り狼の物、頭は狼の開いた口から髭面のおっさんの血だらけの顔が傾いて覗く。口は何故かニヤつき、出っ張った目はギョロりと左右見当違いな方向を睨み、此方を見ていない。

 

 「『獣人』から『ゾンビ』にランクアップ?いや、ランクダウンか」

 

 黒いオーラが渦を巻き、オーラだか体毛だか解らない物がうねうねと揺らめいて若干気持ちが悪い。空気がビリビリ振動してエネルギーが時折閃き、罅割れのような隙間から、細かいスパークが漏れている。

 

 力が溢れているようにも、壊れかけた機械の暴走のようにも見える。

 

 爺さんは危険を感じたのか、少し下がった。

 

 標的は此方のようだ。

 

 ≪観測≫の視界に、ゾンビ化したギースから幾つものオーラの細いラインが地上を伝い、周囲に展開してゆくのが映る。

 どうやら“隠“で目立たなくした罠を張っているようだが丸見えだ。

 ≪天眼≫の予知によると、踏むと二枚の半月型の鋼鉄の歯に挟まれるトラバサミのような仕掛け罠タイプの能力らしい。

 

 そう言えば爺さんの話じゃ狼とトラップを使うとか・・・

 

 此所は嗤う所だろうか?だが、一つ言っておこう。

 

 

 「そいつは悪手だろ、イヌッころ!」

 

 

 私は、地上の仕掛けを無視して真っ直ぐゾンビギースに向かって走った。

 

 ゾンビギースは、近づく私をニヤけて見ていたが、一切罠が可動せず接近を許してしまうと怒り狂って吼え、長い手を振り回し暴れ始めた。

 黒いオーラは増大し、パワーとスピードは上がっているが『獣人』の時とは違い、憐れなほど技量を感じさせないただの狂人の振舞いだった。

 

 雑な攻撃を掻い潜り、『衝撃波』を込めた足で一蹴りする。

 

 罠地帯を踏み越したのは勿論≪甲殻≫の能力、地上から僅かに浮いていて実際は罠を踏んでいない。

 感知式じゃなく制御式だったら、≪結界≫の危機感知が反応しただろうが、思った以上に単純な(しろもの)だった。

 

 武術の技能を使う迄もなく、体勢を崩してたたらを踏んだ隙にあっさり近づき、心臓の有りそうな所を何度か『震打』で狙い打ったが、ピンピンしている。

 

 『獣人』の時と違い弱点も消え、パワーとスピードも増したが、オーラが不安定で強化にも粗が目立つ。そして、あれほど此方を圧倒していた戦いの技量が綺麗に無くなってしまっている。

 

 隙だらけの身体の各所を、削り取るようにオーラ増し増し『衝撃波』付きの単なる打撃で打つ。しかし、何処を破壊しても止まらない。

 止まらないが消耗はしているようで、徐々に回復が遅れはじめた。

 

 ≪覚醒≫で、オーラから詳細を読み取った所によると、当初の私の予測は大体合っていた。『狼』のオーラが消える瞬間、此方に経緯の記憶が伝わって来たのだ。

 

 『獣人』化は、生前は只の妄想で具体的な“発“の作製はしていなかったようだ。

 勿論事前に狼との合意も無く、ただ繋がっていた操作系の能力のせいで巻き込まれただけらしい。

 ギースに操作系と罠使いの能力は有ったが、自分は常に隠れ潜み、メインは自身の念能力で巨大化、凶暴化させた狼を使役する事だった。

 

 テイマー系ハンター?

 

 戦闘は常に全て狼任せ。そのため、狼が死んだ事で、死者の念としてのバランスが崩れた。狼が居なければ、我を通す程の自己もないようだ。

 ギース自身、闇討ちかなにかで殺されて死んだ後で、生前に偶々視たことが有り、元々妄想していた狐の『霊獣』を狩る事に執着したらしい。

 

 つまり、只のめんどくさいストーカーだ。

 

 残念ながら操作系の能力があっただけで、特に狼が好きだった訳でも無いようだ。体長三メートルの『魔狼』を造り出す為に、相当数の親狼、仔狼を殺している。相棒の狼にも死ぬまで名付けすらせず、今も完全に道具としか考えていない。

 逆に、愛情や思い入れが全く無かったせいで、狼の命が尽きるとその存在を維持出来ず、あっさり弱体化してしまった。

 

 絶え間ない私の攻撃に、無尽蔵と思われた『ギースゾンビ』のオーラも少しづつ目減りし始めた。

 

 『衝撃波』は、消費の割に爆発力が高く削りに向く。

 

 最早放って置いても勝手に自壊しそうだが、何があるか解らない。

 

 止めを刺しておきたい。

 

 此方のオーラが尽きる前に、このまま押し切る。

 

 死者の念にしては手応えが緩い気がするが、狐が逃げ回った期間もある。元々ショボい能力者だったみたいだし、本当にツレの狼に頼りきりだったのだろう。

 

 狼の底上げが無くなったら、戦いの素養が全く消えてしまって、狂気染みた執着や戦意もどこか空回りしている。頼みの“発“も私には不発。厄介なのはオーラ量だけで、それすら涸渇しはじめた。

 

 と、軽く考えたのがフラグになったのか、突然『ゾンビギース』の雰囲気が変わる。

 

 「アチャー、来ちゃったか・・・」

 

 見ているのは修行場。

 

 爺さんの隣にでかい狐が奥から現れ、毛を逆立てて元ギースを睨んでいる。

 

 狐にも想うところが在るのだろうが、もう少し待ってて欲しかった。

 

 ゾンビギースはひと声叫ぶと私の事をまるっきり無視して狐に向かって走り出した。

 

 「ちょ、待て!」

 

 ほぼ同時に走り出すがゾンビギースの方が狐とその前に出た爺さんに近いし、単純なスピードもまだあっちの方が速い。

 

 「チッ!」

 

 私は、切るつもりの無かったカードを切ることに決めた。

 

 ≪瞬転≫。

 

 三メートル前を走っていたゾンビギースのすぐ後ろに現れ、≪消滅≫の権能を秘めた右手を無造作に振るう。

 鋼鉄よりも強化された狼の毛皮と、死者のオーラの塊のような胴体を脊髄ごと半ばまで欠き取り、同じく≪消滅≫を纏った足で一蹴りして片足を膝の上で切り飛ばす。

 

 血は流れない。

 

 なぜなら彼は、もう死者だから。

 

 「・・・・・」

 

 一つ溜め息をついて、もういいやと崩れ落ちた憐れな敵を上から消してゆく。

 

 腰まで消したところで何かが限界を超えたのか、残りが煙のように風に散って消えた。

 

 「・・・次は、もっとマシなアルファ(群のリーダー)に会えるといいな」

 

 ギースはどうでも良いが、私は殺すしか無かった哀れな狼の為にちょっと祈った。

 

 

 




 強く設定しすぎた、文字数食いすぎ。
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