嵐の夜に飛び立とう   作:月山ぜんまい

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 30、春

   30、春

 

 『獣人』騒動から二日がたった。

 

 思った通り、私の念能力に関して爺さんは何も言わず何も聞かなかった。

 

 巨大生物達は、いつの間にか居なくなっていて、此方も特に用は無いので放置。

 

 墓を作ろうと思ったが、元になった狼がいた筈なのに、『獣人』を倒した後には何も残らなかった。

 ≪消滅≫を使ったせいだろうか。

 しょうがないので戦いのあった近場の岩に、墓石代わりの彫り込みをした。

 ヤツのでかい肉球を模しただけの、簡単な物だ。

 

 狐は胡散臭そうにしていたが、爺さんは話したら分かってくれた。

 だが、何で足跡にしたのか不思議がられた。

 

 この世界には、まだ肉球の素晴らしさが伝わって無いらしい。

 

 説明したが、めんどくさそうに空返事が返ってきただけだった。解せぬ。

 

 

 一日休んで修行を再開する。

 

 杖術も、爺さんに口頭で基本だけレクチャーしてもらった。

 

 今、爺さんは狐の居る武道場で寝起きしている。

 戦いに参加はしなかったが『獣人』騒動が身体に(こた)えたようで、まだ寒さが厳しい事もあり拠点からの移動が困難になった。本人と狐の希望もあり此方に移り住む事にした。

 相変わらず狐が緊張するので、私は毎日通って来ている。

 

 私が『円歩』をしていても、爺さんはもう何も言わない。

 私も、指導が欲しいからではなく日々の成果を見せる為に『円歩』をしている。

 

 『獣人』と戦ってから、私の武術が少し変わったのは間違いない。爺さんは其れを、「深みが出た」と言っていた。

 

 ≪魔眼≫の幻術の中での自主トレで、『獣人』相手に色んなシチュエーションで闘い続けていることも、実力を伸ばすのに一役買ってると思う。

 例によって、まだ一勝も出来ていないが。

 

 『(ピスケス)』の二次権能、≪覚醒≫は、能力的にはほんの一部だが、あれから少し使えるようになった。

 一部と言うのはオーラを匂いとして感じ取る部分で、脳の情報処理量上昇は自由にならない。

 概ね今まで通りということだ。

 

 そう言えば、変化系“発“『衝撃波』の扱いも少し変わった。

 射程距離が五十センチから殆んど延びなくなり、これが変化系の限界かと消沈していたが、今回の件で踏ん切りがついた。

 

 原点回帰、気がつけば簡単なこと。要するに、空気をピストンにして『衝撃波』の射程限界を伸ばせば良いのだ。

 

 勿論、媒体に空気を挟む以上オーラの恩恵が無くなり威力は激減するが、其処はすっぱり諦める。今回、色々試して上位の相手でも其れなりにやれるし、ノックバック効果が期待できる事も判った。

 

 バズーカ砲を片手で受け止めるような化物相手ならともかく、素の威力としても、そう捨てたものでは無いと判明したのが大きい。

 更なる威力の積み増しやバリエーションは、今後の課題だ。

 

 

 細かいことだが戦闘中≪覚醒≫の作用であることを思い出し、疑問の一つが解消された。

 懸案だった、何故かいつまでたっても“練“が身に付かない問題だ。

 

 理由は実に簡単で、念獣達によりオーラの生成や操作の修行時に負荷が掛けられていたからだった。

 つまり、念獣達の基礎能力『自分を磨け』に付随する修行の効率を上げる為の専用能力、『倍までの自在負荷』が毎日念修行をする度に常にかけられ続けていたのだ。

 

 「・・・・・」

 

 嘆息

 

 別に命に関わる訳ではないから念獣達は何も言わず通常運転。最初から掛けられていて私も気がつかず、念獣達に聞かなかったせいで暗中模索。

 

 「いや、でも何度か疑問を口にしていたのだから、教えてくれても良かったのではないだろうか・・・」

 

 何か色々問い質してみたら、

 

 :修行は大事

 

 と言う返事が返ってきた。

 どうも、予想外の身体能力向上の時と一緒で、墓の下で私が『自分を磨け』の(ゆる)い強制力を受け入れたため、此方のオーラ修行の負荷も、初めから念獣達が自主的に最適負荷になるよう調整して掛けていたらしい。

 最初の頃から慣れる度にちょっとずつ負荷を上げて、今は十倍を超える負荷が掛かっているとのことだ。

 

 ・・・十倍。

 

 つまり、爺さんが言ったように私のオーラ量は今では常人を遥かに超える量になっているらしい。

 

 無論、十倍になっているのは負荷なので、此れは修行効率がその分上がっている事を意味し、別に人の十倍のオーラ量が在るという訳ではない。・・・と、思う。

 

 実際どの程度常人と差が在るのかは、森の外(シャバ)に出て比べて見なければ解らない。

 

 釈然としなかったが、結局この件は自業自得として飲み込んで、修行時の負荷も変わらず掛けて貰うことにした。

 

 「十倍だと、二倍で念獣一体、三倍で二体だから・・・九体がかりか?」

 

 と思っていたが、三体と四体目が少しだと返事が返ってきた。

 

 「・・・?」

 

 嫌な予感がして詳しく聞いてみると、一体ごとの二倍三倍ではなく、共有効果で倍々ゲーム的に増やせるそうだ。

 

 「・・・じ、十三体分だと・・・」

 

 

 私は、途中で考えるのを止めた。

 

 この件に関しては、追及も思考も放棄して成り行きに任せることにする。念獣達にも、こっちから聞くまで途中経過の報告は無用と通告しておく。

 

 業腹だが、『獣人』騒動の時も大分オーラ量に助けられたし、生存戦略的にも増えて困ることはない。

 

 最後に、命が掛かっていなくても私が何か悩んでいて答を知っていたら、それとなく教えてくれるよう念獣達に頼んでおいた。

 

 

 ストーカーの『獣人』がいなくなっても、狐は武道場から出て行かなかった。

 当初の思惑通り春まで此所に居座るつもりらしい。

 

 騒動のあと一週間もしないある日、狐の様子がおかしくなった。

 

 武道場から出て来るわけではないが、中でうろうろと歩き回り、そわそわして落ち着かない。

 午前中に顔を出して爺さんに聞くと、朝起きた時からこんな感じだったと言う。

 

 私はピンときて部屋を暖めるための煖炉の火を大きくし、出産が近いのではないかと爺さんに告げた。

 

 「仔が生まれるのか!」

 

 事前に妊娠の事を報せておいた筈なのに、爺さんは信じがたい事を聞いたような顔をして驚いた。

 何でも、『霊獣』が仔を産むのは神話や伝説に有るような(まれ)な出来事で、国主が遭遇すると国を上げてお祭りをするような瑞兆なのだそうだ。

 

 いや、知らんがな。

 

 巨大生物達は気配が薄くて見つかり難いだけで、普通に生殖行動してると思う。

 寿命長そうだから、回数は少ないかもだけど。

 

 

 爺さんと少し話し合い、自分が居ると狐が落ち着かないので、大事をとって出産が済むまでは極力武道場に入らない事にする。

 

 「はぁー、しゃーないか・・・」

 

 ちょっと残念に思いながら姿を見せないようにする事を爺さんに告げると、変な顔で見られた。

 

 「・・・何を言ってやがる、『霊獣』殿がお前を避けるのは、お前が『霊獣』殿を恐がらせるからだろうが」

 

 「はぁ?」

 

 意味が解らない。狐が恐がるのは私が狐より強いからじゃ無いのか?其処は変えられないぞ。

 今の私はオーラも最低限で一般人並、気配も少し抑え威圧感や殺気も出ていない筈だ。(つい)でに爺さんより背も低い。

 

 「恐がらせるって何が?」

 

 狐が勝手に恐がっているだけだろうに。

 

 爺さんは、駄目だこりゃと首を振った。

 

 「そんなんじゃ、街場に出ても目立って絡まれまくるぞ」

 

 爺さんは何かに気付いていて、其れは私のコミュニケーション能力に関するものらしい。だがニートの前歴は有っても、前世で三十路近く迄社会人だった私にとって、今更コミュ障はあり得ない。

 どこかにまだニート臭やボッチ感が有って其れが拒絶オーラとして滲み出ているのだろうか。

 

 「・・・それは困った」

 

 私は今のところ此の世界の人間に余り良い印象がない。特に絡んで来るような人間とは別に仲良くしたい訳では無いので、返事もおざなりになる。

 

 爺さんは、眉間に皺を寄せて何時もの不機嫌そうな表情になった。

 又、何時ものように鼻を鳴らして会話終了かと思ったら、何故か今日は違った。

 

 

 「・・・俺の『才』(発)は、嘘を見破るっていうものだ」

 

 爺さんが、突然秘中の秘である己の『才』の能力を明かした。

 

 「え、爺さん?」

 

 私は、びっくりして声を上げた。

 

 「まあ聞け、どうせ当たりは付いてたんだろうが」

 

 「・・・・・」

 

 なぜバレたし。

 

 爺さんが、苦笑するように口許を歪めた。

 

 「そのせいもあって隠し事には鼻が利く・・・あぁ、力や『才』の事じゃ無いぞ。

 ()()()()()()お前が普通のガキじゃ無いのも、相当に厄介な事情を抱えているのも何となく解ってた・・・

 俺が口出しするような事じゃ無いのもな・・・

 だが、一時とはいえ師と弟子だった(よしみ)で一言だけ言っておく」

 

 爺さんは、長く喋るのも疲れる様子で一旦間を取って息を調え、言った。

 

 

 

 「小さく纏まるな、好きに生きろ」

 

 

 

 

 「二言じゃん!」

 

 

 ちょっとドキッとして、遺言みたいだなと神妙に聴いていたが、最後で突っ込みを我慢出来なかった。

 

 「いいんだよ、長げー方が有り難みがあるだろうが!」

 

 武術以外は適当な爺さんだった。

 

 

 

 翌朝になると二匹の仔狐が生まれていた。

 

 サイズは大型犬位有るが、手足が太く、表情があどけなくて歩くのも心許ない。

 

 ふわふわのモフモフで、とても可愛い。

 

 どっしりと落ち着きが出た母狐が見守る前で、爺さんと遊んでいる。

 

 可愛い仔狐が全然似合わない爺さんも楽しそうにしているが、顔が恐い。

 

 「・・・獣相手に人の顔なんか関係無いか」

 

 私も混ざって、仔狐をモフモフさせて貰う。

 

 その日は終始、遊んだりミルクを飲んだり木箱のトイレ(急遽用意)で踏ん張る仔狐を二人で見て日が暮れた。

 

 

 

 

 

 翌日来ると、武道場の片隅のベッドの上で、爺さんは死んでいた。

 

 寄り添うようにうずくまる母狐の視線の先で、二頭の仔狐が不思議そうに爺さんの死に顔を覗き込んでいた。

 

 変わらず恐い顔だが、表情は安らかだった。

 

 

 実を言うと、爺さんが今日目覚めないだろう事は、念獣達の能力で昨日の内に予想がついていた。

 

 死の気配、というのは在るものだ。

 

 バウンティハンターという仕事柄、人を殺した事も少なくないだろう。

 戦いの中で生きてきた男としては、悪い死に様では無かったのだと思う。

 

 戦って死にたければ『獣人』と()り合うこともできた筈だが、そうはしなかった。

 

 仔狐と遊びながら昔の事も少し聞いた。

 ガキの頃田舎の村で山羊を飼っていた話をしていた。

 貧乏で兵士になり、武術はその時身に付けたんだそうだ。

 爺さんは武術は好きだったが実は戦いは余り好きそうでは無かった。

 

 それに、口癖のように「自分は好きに生きてきた」と言っていたけど、何時も不機嫌そうで、それが落ち着いたのは私の武術修行が終わったつい最近の事だ。

 

 どちらかというと、長年に渡って何かに囚われているような感じだった。

 

 爺さんも、何かの『業』に絡めとられていたのかもしれない。

 

 私は、暫しの間元師匠でもある歳上の友人、『爺さん』の為に手を合わせた。

 

 

 まだ雪の消えない修行場前の森の中に大きめの穴を掘り、爺さんが布団代わりにしていた虎熊の毛皮に包んで埋める。

 

 「これなら寒く無いだろう」

 

 

 ・・・夏場が暑いとか、言いそうだな。

 

 

 手頃な岩を運んで墓石がわりに置き、表面を均して爺さんの名前を刻んだ。

 

 「たしか、ガリル・・・だったっけ?」

 

 あの殺し屋の大女が、『金輪のガリル』と呼んでいた。本名ではなく偽名かもしれないが、他に刻む名前を知らない。

 

 迂闊な事に、爺さんと呼ぶばかりで名前も聞いてない。

 

 「・・・ったく、弟子に名前くらい名乗っとけよ!減るもんじゃなし」

 

 最後まで言葉足らずでいい加減な爺さんに、苦笑いが漏れる。

 

 「・・・・・」

 

 晴れた空を見上げると、なぜか目が潤み視界がぼやける。

 

 涙さえ一つ溢れたが、未来は見えない。

 

 気がつくと、母狐と仔狐が私の周りに居て私を慰めるように身体を寄せていた。

 

 不意に、爺さんが狐達に私の事を頼んで行ったのが察せられた。 

 

 

 『小さく纏まるな、好きに生きろ』

 

 

 私はその後、いつものように一日の修行を熟し、拠点に帰ろうとしたところを母狐に捕まり、いつの間にか武道場で狐達と一緒に寝ることになってしまった。

 

 爺さんが突然居なくなって、仔狐達が淋しがるのかもしれない。

 

 私と(ほと)んど体格のかわらないモフモフの仔狐二頭にムギュッと挟まれ、母狐に包まれながら眠る。

 

 何かおかしい気もするが、もう眠いし今日の所はこれで良しとする。

 

 

 外遊びの時に何処かで見つけたのか、仔狐からは、(かす)かに早咲きの花の匂いがした。

 

 

 春の匂いだった。

 

 

 

 

 

 




 予定では三十話で森から出て街に行く筈だったのに。

 ままならぬ。

 次話でいよいよ修行パートが終わり、少し時間が跳びます、順調に行けばその後ちょっとごたごたして、いよいよミカゲがハンター世界に飛び立ちます(デビュー)
予定。


 HXH二次、もっと増えますように。


 
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