嵐の夜に飛び立とう   作:月山ぜんまい

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 34、災厄と封印

   34、災厄と封印

 

 翌朝、木の実とベリー、芋とハーブがメインの食事を取って、私とゴリムは彼の家から出発した。警戒?とかじゃなさそうだが、相変わらずゴリム以外との会話は無い。

 

 聞くところによると彼の種族は、ハーレムを築いて独立すると、ファミリーのリーダーだけが対外的に名乗ったり会話したりするらしい。

 

 なので対外的な紹介も、『ゴリムの一の嫁』『ゴリムの二の嫁』と四まで続き、子供達も『一の息子』や『一の娘』となる。

 うらやまけしからん風習だが、ハーレムを築くのは女性のパターンも有るらしい。

 

 私は「ホーホー」と、耳の良い鳥のように話を聞くだけだ。前の世界では異性との付き合いは有ったが、結婚はしていない。

 とても興味深いが、そっち方面はやや経験値が足りない。

 

 

 町まで出る時期なので、一緒に付いて来て案内してくれると言う。

 この辺りから北側には、遺跡やそれっぽい謎の建造物が沢山在るらしい。

 

 私は真っ直ぐ北へ、彼が行くのは北東の町なので途中で別れるまでの道行きとなる。

 

 彼と会ってから短い時間しか経っていないが、楽しい相手なので道中付き合ってくれるのは素直にうれしい。やけに親切だが、そういう人(?)柄なのだろうか。

 町と人に関する最新の情報も有り難い。

 

 巻き込みたくないので、私が目的にしている謎の脅威の件は彼には告げるつもりは無い。

 別れた後に、気配を辿って確認だけしようと思っている。

 前と違って今は危険度も大したこと無いし、心配させても意味はない。結局は只の私の好奇心でしかないのだから。

 

 

 と、思ってたんだけどなぁ・・・・

 

 

 「・・・学者の話によると、昔この地域には結構な大国が有ったそうだ」

 

 危険な山岳地帯の森の中には今も幾つもの遺跡が残っていて、ゴリムはガイドのような仕事も頼まれるそうで、いくらでも蘊蓄(うんちく)がでてくる。

 

 「記録では、王は善政を敷き貿易が盛んで民は豊か、全盛期の工芸品とかは今でも少量だが残ってて、其れなりに貴重な品として扱われてる、知ってるか?」

 

 陶器や貨幣、宝飾品など、具体例がすらすら出てくる。

 

 当然だが、私の知識には全く無い。

 

 「当時は土地が足りなくて山岳地域も広範囲に開発したって話だ。衰退して森が広がった現在(いま)は、木々に埋もれて放置された遺跡が島みたいに方々に点々と取り残されてる」

 

 研究者や好事家を案内したり護衛したり、でかい遺跡は中に入って小物を拾い、こづかい稼ぎをしたりする事もあるそうだ。昔からの稼ぎ場らしい。

 

 意外と人間の文明に毒されている。それとも文化を気に入ってるだけ?

 普段は裸なのに何故かけっこうな衣装持ちで、ログハウスには衣装箱が幾つもあった。

 

 奥さん達や子供達はそうでもないので、ゴリムが特種(ユニーク)な『魔獣』なのだと思う。

 

 私も綿のシャツを一着貰ってしまった。多分サイズ的に女性用に購入した男物。

 

 遺跡の解説の中に、興味深い話が一つ出てきた。

 

 その大国が衰退する切っ掛けとなった事件があったらしい。五百年ほど前の事だ。

 

 

 「概ね平和で更に発展しつつあった王国に起きた最初の変事は、地方の開拓村からある日突然人が消える事件が多発した事だった」

 

 ゴリムの話は、パニック映画の導入のように始まった。

 

 「土地の代官が調査に人を派遣し、中央に報告を上げたが、当初はさほど重要視されなかった。

 

 山奥から野生の猛獣や魔獣が出現して人を襲うことは、今も昔もそう珍しい事ではなかったから、援助を請うために大袈裟に言ってきたと思ったらしい

 

 報告は回数を重ねる(たび)悲鳴じみていって、唐突に山向こうの行政区自体とぷっつり連絡が途絶えてしまい、私用や業務で行った者さえ誰一人戻って来ず、話が変わった。

 

 どうも、尋常な事態ではないらしいと国の中央が重い腰を上げ、腕利きの調査員を多数派遣した事で、地方で何が起きたのか徐々に判明して行く。

 

 現地で調査員が発見したのは、老若男女犬猫家畜を問わず黒焦げの死体と化した無人の町や村、城門が固く閉ざされたままに中の住人だけがやはり黒焦げにされた異様な城塞や砦だったと言う。

 

 報告を受けた王都の者はパニックを起こし、軍を動かして人が消えた地方との境界に防衛線を築いて封鎖した。だがこれが良くなかった。

 

 (もと)めて人を襲う怪物相手に餌を用意して、都市部に誘導する(かたち)になってしまった。

 

 派遣した軍が文字通り全滅し、封鎖区に程近い市街区が襲われて、極僅かな生残りから初めて怪物の正体が判明した。

 

 体長が成人の六倍を越える(十メートル以上?)大きさの、巨大な猿と虎を合わせような化け物、過去の記録に該当例が無く、どういう経緯か解らないが何等かの仮の俗称が元になって、

 

  死獣 『ヌエ』

 

 と、名付けられた。

 

 記録に残る姿は、猿の頭と胴体に虎の手足、四肢の爪も鋭く、動くと目で追えないほど身体能力が高くて矢も当たらない。

 その上翼も無いのに自在に空を飛んだという。

 嘘か本当か鳴き声を聴いただけで恐怖に駆られ正気を失い、目が合うと金縛りにあったように動けなくなったらしい。

 

 更に最も恐れられた能力は、全身から発する黒い電撃で、相当な広範囲高威力だったらしく、集団戦をしようとすると無駄に犠牲が増えるだけだったと言う。

 

 何度もほとんど無意味に兵が死に、結局は()()()()()()()()()──これは多分、今で言うハンターみたいなフリーの念能力者の事だと思うが──を雇い、それでも犠牲者は出たが何とか退治することに成功した。

 

 多大な犠牲を払って死獣騒動が決着したと誰もが思った。

 

 しかし数年を待たず死獣は再び現れる。調査の末、前回と同じ個体だと分かった。

 村が消え、町が消え、同じような経緯を辿って死体の山を築き、死獣は再度退治された。

 

 三度目に死獣が現れたとき、どうやら殺せない生き物なのだと皆が気がついた。

 逃げ出す者が多く国は既に寂れ始めていた。しかし、王と配下の者は知恵を絞り、とある山間部の施設に罠を張った。

 記録では、その準備で国中から鉄と青銅が消えたそうだ。

 

 既に傭兵達もほぼ手を引き、逃げ出さず生き残っていた兵と、巨大でも猿が相手と言うことで王室の狩猟犬の部隊が罠への誘導を任され、その命を囮にするようにして死獣を罠へと誘い込んだ・・・。」

 

 「・・・それで?」

 

 話に引き込まれ、私はゴリムに続きを促した。

 

 「死獣の痕跡は其処で途切れているから、封印には成功したんだろうなぁ」

 

 「解んないのか?」

 

 「死獣が再び解き放たれないように、王は罠を仕掛けた施設を口の利けない奴隷に丸ごと埋めさせ、罠の詳細を極秘にして墓まで持ってったそうだ」

 

 危険を知らしめる為に相手の情報は残し、封印した場所は漏らさず秘匿する。

 命懸けで仕えた部下も沢山いたらしいし、きっと優秀な王様だったんだろう。

 

 ちょっと彼等の冥福を祈る。

 

 「不死身の怪物か・・・不死身ならまだ生きてるかも知れないな・・・」

 

 ()()()に備えて、一応注意するよう警告しておく。

 

 「五百年前だぞ?幾ら何でも、もう死んでるさ。

 近頃の学者の説じゃ国が無くなった事に謎の怪物はまったく関係無くて、当時の蛮族や諸外国に攻められて滅んだのが、長い間に歪んで伝わったんだ。てのが有力だな」

 

 だといいんだけど・・・。

 

 不安げな私を、ゴリムがからかう。

 

 「・・・あいつな」

 

 「あいつ?」

 

 「あのチビモンキーさ」

 

 「おう」

 

 ゴリムの話が急に変わったので戸惑う。

 

 小猿は朝から二人の少し後ろを付いてきている。

 

 「姿が変わるんだよ」

 

 「姿が変わる?」

 

 私は、話の流れから小猿と古代の死獣『ヌエ』との間に何らかの繋がりが有るのかと少し緊張した。同じサル系と言う所は共通する。

 

 「初めて会った頃、モンキーからチビ(ドッグ)(キャット)に姿を変えて見せたんだ、能力のアピールだな」

 

 「!」

 

 「きっと他にも何かある・・・」

 

 何と、今のモフモフ小猿形態から新たなモフモフへと姿を変える能力持ちとは・・・・

 

 何か言っているゴリムを放置して、私の中から死獣の話がどうでもよくなってすっ飛んだ。

 

 

 こ、小猿の創作者は化け物か。

 

 

 (み、見たい、安西先生、他の形態が見たいです・・・)

 

 視線が動きそうになったが、威嚇されて凹むだけなので我慢する。

 

 「この地域には、(くだん)(モンキー)の怪物の話が昔話として色んなバージョンで各地に残っていてな、どの話でも敵役は(モンキー)で、人間側に(ドッグ)が居る。例の罠に掛ける最後の作戦で、狩猟犬の部隊が大活躍だったらしい。

 今も人気のペットと言えば先ず(ドッグ)、大分離されて(キャット)とか他の生き物だな。あいつが(モンキー)の姿なのは、あの姿だったら人が寄り付かなかったからじゃないかと思う」

 

 五百年も前から、伝統的にサルは人気無しか。

 

 サル、哀れ。

 

 そして、『ヌエ』と小猿に関係無しか。

 

 

 「昔話としては誰でも知ってるし、もしかすると製作者がモチーフの一つにしたかもな、強いっていう点では疑いようが無いし」

 

 ゴリムに聞いたら、私の妄想よりよっぽど筋の通った考察が返ってきた。

 死獣には、殺した相手の命を吸収して回復や強化に使う能力が有る、とする記録も一部残っているらしい。

 

 だよな、小猿は先ず人に対する害意が無いもんな、何故か敵意は有るが。たまに威嚇されても此方への殺気が無い。幼獣が頑張って威嚇したり、仔犬がじゃれて甘噛みしてくる位の迫力しか無い。

 

 

 しかし、よっぽど嫌っているのか、ゴリムは小猿に何か隠された能力や企みが有ると深く疑ってるみたいで、側にも寄らせない。

 

 小猿は少しかわいそうだけど、子連れだと気も使うだろうし、あんなのが付いてたら、安心して家族にも会えない。気持ちは解る。

 

 「そんで、もう肝心の死獣を封印した場所は特定できてるの?」

 

 話の流れに不安しか無い。

 

 古代の封印を、愚かな学者先生が破ってしまうのも物語では定番だ。

 

 「それが未だなんだ。記録を信じて探してるやつは多いんだが封印地の特定に反対する勢力もけっこう居てなぁ・・・まあ(せめ)ぎ合いだ」

 

 遺跡の探索自体を危険視する連中と、発掘品目当てのヤバめの商人達によって、陰で人死にも出てるらしい。アングラだ。

 

 「俺は見つかっても見つからなくても、どっちでもだ」

 

 何の悪気も無く、面白く成りそうだとゴリムは言った。

 

 そりゃそうか『魔獣』だもんな、人に敵対はしていなくとも争いや善悪、生き死にに頓着はしないか。本当にヤバそうならどこにでも逃げられるんだし。

 

 ある程度人に、人の文化に愛着が有っても、その愚かさを含めて面白がってるような、人に対する俯瞰した視線をたまに感じる。

 人間を目の荒い(ふるい)に掛け、目に留まった者とだけ親交を結んで、他は気にしない。私は一応身内判定らしい。

 

 なるほど、『魔獣』とはこういうモノか。

 

 

 丘陵と言うには高い尾根道を辿りながら、ゴリムの指差す遠くの遺跡を視界に収める。

 今更どうでもいいが、ゴリムは空を飛べないので移動の基本は歩き。だが地上を行く事はまず無く、行程はほぼ樹上か岩の(クリフ)に張り付いての移動である。

 貴重な学びの機会なので、私も≪甲殻≫を使わず真似して跳び跳ねながら付いて行く。

 先を行くゴリムが たまにニヤついているのは、ワザとそんな道を選んで遊んでいるらしい。同等以上に動ける相手が一緒で、楽しいのだろう。丸っきり、いたずら小僧の様な笑いかただ。

 

 楽しい道行きも数日が過ぎ、ゴリムもどういう訳か別れ難いようすで、少し遠回りになるのを厭わず、私の旅程に付き合って一緒に北へ向かっている。案内したい場所が有るのだと言う。

 

 今晩の宿は、ゴリムが最近発見した遺跡の側だそうだ。紹介料で大分儲けたらしい。

 

 なんか、ちょっと嫌な予感がした。

 

 相当な大きさで、未だ入り口が見つかっていないと言う。

 

 

 少し先の丘の向こうに、沢山の人間が精力的に働いている気配が有る。賑やかだ。

 

 そして、その直ぐ側に私の目的地があった。

 

 ・・・・はい、ビンゴ。

 

 

 

 




 安西先生に願うと、だいたい叶う
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