嵐の夜に飛び立とう   作:月山ぜんまい

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 36、遺跡

   36、遺跡

 

 素っ裸で露天風呂の縁に立ち、ドヤ顔で小猿に尻を向けて尻尾を揺らして見せていると、どこか遠くで爆発音が響いた。

 

 「・・・やらかしたか」

 

 山々に反響して解り難いが、聞こえた瞬間には『(ジェミニ)』の≪把握≫の能力で発生源を特定して遺跡の有る山向こうを見ていた。どうするかちょっと考える。

 

 さっきの音は、恐らく盗掘に来た連中が遺跡の入り口を探すのを面倒臭がり、手っ取り早く火薬を使って遺跡に穴を空けたのだろう。

 

 それによって何が起き、彼らがどうなるのかには関心は無い。それは自業自得と言うものだ。

 

 それより、遺跡に封じられているモノがゴリムの言っていた災厄ならば、放置すればこの地方に五百年前と同じ事態が繰り返される可能性が高い。

 

 それはちょっと・・・どうしたものか。

 

 私が介入すると、本来の歴史から流れが変わって原作に影響が出るかもしれない。

 

 人死にはいっぱい出るだろうが、正直弱い者が強者に蹂躙されるのは仕方ない事のような気がする。この辺、森暮らしが長くて感覚がシビアになってるのかな?

 

 それに、十メートルの怪物が街で大暴れするのを見てみたい気もする。

 

 うーん。面白そうだが、国が滅びたりして色々混乱すると私が動き難い。というのはあるかもしれない。

 『クルタの子』の(かたき)を捜すのにも要らぬ手間が掛りそうだ。

 

 不死身の怪物を退治出来るかはともかく、(くだん)の死獣の姿も一度視てみたいし、ここは最初の予定通り、伝説の災厄を拝みに行ってみるか・・・

 

 爆発音に気がついたのか、こちらに戻ってくるゴリムを迎えようと踏み出した処で何かに引っ張られる。

 

 おっ?と振り向くと、何時の間に近づいていたのか、小猿が私の尻尾の端っこを小さな両手で捕まえ、キラキラした目で私を見上げて居た。

 

 「何だ、ツンツンは終了か?」

 

 よく分からんが、モフラーとしての本能に従い、機会を逃さず先っちょに掴まった小猿ごとゆっくり尾で釣り上げて腕に抱え(だっこ)し、すかさず柔らかで上等な毛皮を撫で撫でした。隙を見て頬擦りもする。

 

 満足満足。

 

 盗掘団達がそう()()とも思えないので、本格的に封印が解ける前に現場に行こうと手近な岩の上に小猿を置き、ゴリムが戻る前に尻尾を仕舞って服を着る。

 

 

 「夕飯迄には戻ってくる」

 

 と、羚羊(かもしか)を担いで帰ってきたゴリムに伝え、何か気になるからと言って遺跡に向かう。

 

 ゴリムは、「良さそうな出物が有ったら故買屋を紹介するから」と、同好の士を見つけたような物分かりの良い先輩ヅラをして見送ってくれた。どうも盗掘の上前をはねに行くと思われているようだ。

 

 

 二人共、コソ泥共のことは話題にしない。

 

 ゴリムの話では、ピグモ氏は成り上がりの嫌われ者で、金は有っても地縁に乏しく敵も多い、今回の件が噂になれば自称愛国者の皆さんに叩かれて消えるだろうとの事だった。

 

 ウザければ私が対処してもよい。もっとも私の予想が正しければ、相当に運が良くても生きて帰れるかは微妙だろう。

 

 

 遺跡の発掘現場、いや盗掘現場に着いたが大した変化は無かった。

 ただ、火薬の匂いが濃く漂い、山肌から覗く遺跡の外壁に人が通れる程の破砕孔が出来ているだけだ。そして、五十人は居たはずの作業員や警備のチンピラ達が誰一人居ない。

 

 ああそれともう一つ、埃が舞う破砕孔の中から、敏感な者なら呼吸がしづらい程に重く纏わり付くような嫌な気配が漏れ出ている。

 

 「・・・誘われたか?」

 

 確か、鳴き声で人をおかしくする能力が有るんだったか?

 

 感知と≪把握≫の範囲を大きく広げ周囲を探しても、遺跡の外に逃げ出せたような人の気配は無い。

 

 中には未だ何人か生き残りが居るようだが、数は少ない。あ、また一人減った。

 

 生け贄は凡そ五十人。久々の殺しで調子が出ないのか、それとも楽しんでるのか、何にしても死獣は未だ中に居る。

 

 しっかし、また人外退治か。

 

 『骸の森』での修行中も、『霊獣』に頼まれて何回かそういうのを片付けて回っている。数が多くて手間が掛かるのもいれば、楽なのもいた。

 一回精神に侵入して来た奴がいて面倒事になるかと思ったら、数秒で念獣達に喰われて消えてしまった。

 うちの子は、みんなやんちゃだからなぁ。

 

 

 「それではスナーク狩り(冒険)としゃれこもうか」

 

 

 躊躇なく破砕孔に入って最初に思ったのは、「やけに(せま)い」という事だった。

 

 何だかよく分からん小部屋なのだが、左右の壁がむき出しの石垣で出来ていて、室内と言うより地下道のようだ。

 加えて何故か、天井から私の手首ほどの太さの鉄製の鎖が数本垂れ下がっている。

 

 ・・何だこりゃ?

 

 訳の分から無さに、ちょっとワクワクする。

 

 小部屋の床には侵入孔の瓦礫が堆積していて、正面にはドアの無い出入口の開口部が見える。

 探索の基本行動として音を立てないよう≪甲殻≫を踏み、気配は隠す。

 

 小部屋から出ると、ここも又同じような壁面が延々と続き、ぶらぶらと幾つも鎖の垂れ下がった廊下が左右に延びていた。

 

 ダンジョンっぽい。

 

 ちょっとズルをして≪把握≫で建物全体の構造を調べてみる。

 遺跡は、全体が観客席付きの大きな体育館のようなサイズで、回りを迷路のような回廊と付随する部屋に何周も囲まれ、中央に広めの空間が設けられている。今居るのは一番外側の回廊部だ。

 

 正直な話、体長十メートルの怪物相手に罠を仕掛けるにはギリギリサイズの建屋だ。どうやって引き込んだのだろう。それに、其れほどの体格に見合う身体能力なら自分で遺跡を壊して出て来そうなものだが・・・

 

 ゆっくり遺跡を見回している内に、今最後の生存者が気配を断った。殺されたのだろう。やはりピグモ氏は助からなかったようだ。

 

 場所は中央の大きな部屋で、多分犯人も其処に居る。

 

 

 ≪結界≫の危機感知能力が脳内にチリチリと警告を発し、自前の感知能力がうなじの毛をソワソワと逆立てる。

 

 相手の強さ、というよりヤバさ。その脅威度が何となく解る。

 

 私の感想は『フムフム』、と言うものだ。

 

 ゲームじゃないんだ。五ミリの虫だって五十メートルの蛇だって害する能力が有れば危機感知は反応する。

 

 こちらが冷静に対応すれば、そう酷い事にはならない。それだけの強さは既に身に付けている。

 

 そのための十年だった。

 

 この騒動が終われば、いよいよ初めてのハンターハンター世界の()()デビューだ。

 突如判明した二百年後の原作開始時に、影響が出ないか、このまま世の流れに干渉して良いのか、正直戸惑いもまだ有る。

 

 例え影響が有っても、『クルタの子』の復讐は完遂するつもりだが・・・

 

 だから、である以上バタフライエフェクトの顛末がどうなろうとも、心配するだけ無駄。ケ・セラ・セラなるようになる。なのだ。

 

 

 そういや爺さんも『すきに生きろ』と言っていた。

 

 

 この世界に来て、怖気(おぞけ)を震う奇怪な生き物や奇妙な事物、身体が埋まるような巨大なモフモフに出会い、聖霊が棲むような静謐な泉、泣きたくなるような巨大な夕焼けを何度も見た。

 

 仇討ちが済んだら 世界を見て回るのもいいかもね。カメラ持って。無ければスケッチでも良い。何か旨いものでも探しながら原作に出てきた場所を聖地巡礼してみよう。聖地になるのは二百年後だけどね。

 

 

 床に敷かれた見事なタイルの紋様が、足跡だらけの埃越しにぼんやり見える。

 

 引き上げられた身体能力と念獣達のお陰で、光源が無くても何の問題もない。

 

 足跡は、奥へと続いている。

 

 この先に、災厄と呼ばれた獣が潜んでいる。

 

 国がヤバいレベルの怪物だという。

 

 しかし言うほどの脅威は感じない。それどころか、危険な戦いの予感に何だか少しワクワクする。

 

 せっかく気配を隠しているのに、自然と鼻歌が漏れるほどだ・・・まっ、いっか。

 

 曲はゲームBGM。

 

 既に遺跡の詳細なマッピングは終わっている。

 

 それによると、遺跡全体至る所に変な柱や石積の壁が造られていて、迷路めいて見えるのは其のせいだ。たぶん建物ごと埋める為の構造強化だと思う。罠を強化する意味もあったのか?

 

 それら全てを、鼻歌混じりに最短距離でそっと抜けて行く。

 

 死獣『ヌエ』の居る中央へ。

 

 半ばまで来たところで有って然るべき物を見つけた。

 

 死体だ。多分死体だと思う。

 

 装備から見て、チンピラっぽい警備員(もど)きの一人だろう。

 

 死後二時間も経っていないはずなのだが、色々と吸い尽くされて完全にミイラ化している。肉体は乾物のように小さく縮み、そしてその肌は炭のように黒い。

 

 『左目(スコルピオ)』の≪観測≫で視た感じ、炭化しているのは身体の一部だけで、肌色が黒いのは皮膚自体が変色しているせいだ。色以外は小猿がオーラを吸い尽くして殺した鼠に似ている。

 

 どうも伝承の通りの能力が有るようだ。

 

 触れた者を即死させ、黒焦げの干物にする『黒雷』だったか?

 失われた精気は、放った死獣に吸収されてるのかな。

 

 実に中二感溢れるイカした(れた)能力。“発“で再現するにはちょっとハードルが高そうだ。

 

 ・・・・ひょっとして天井から下がっている鎖は『黒雷』対策か?

 

 中央のホールに近づくにつれて下がっている鉄や青銅製の鎖が増え、死体も増えて行く。

 

 ホールの入り口前は天井の高い細長い前室で、片側に鉄製の扉が閉まった入り口、反対のホール側は両開きの扉の片側が外れ片側は傾いて蝶番からぶら下がっている。

 封印当時を想わせる中々の臨場感。

 

 いや、もう復活して第二部が始まっているんだったか。

 

 ここからは特に重厚な石積で壁が覆われ、後から設けた無骨な太い柱が何本も天井を支えている。鎖も様々な太さの物が複数垂れ下がり、光りも無く屍累々。

 

 相手もどうやら此方に気がついたようで、ホールからは一層禍禍しい気配が放たれている。

 

 特に気負うこともなく、いたって普通に正面切ってホールへとピョンと飛び込む。

 

 「俺、参上!」

 

 ・・・リアクション無しかよ?

 

 入り口で、変身ヒーロー風にちょっと見得を切って見たが、なにも反応がない。

 

 恥ずかしがりやさんかな?

 

 人目が無いことも有り、ダンジョンのような古代遺跡の探索に、ちょっとテンションが上がって、まるで男子高校生の修学旅行のようにノリで馬鹿をやってみた。

 引きこもってて修学旅行行ってないから、実際の処は知らないんだけどね。

 

 「おうっ!・・・こいつは凄い」

 

 中は、体育館程の広さでバスケコート二面は楽に取れそうだ。そこに、石の柱と鉄鎖の『黒雷』避けが幾つも縦に伸び、異様な光景。

 

 だが、もっとも目を引くのはホール中央に有る奇怪なオブジェだ。

 

 多分これが封印された死獣『ヌエ』だろう。元々の用途が何かは判らないが、ホールの真ん中に腰ほどの高さの円形の石のステージが有って、その上に『ヌエ』がいる。いや、正確には『ヌエ』の脱け殻がある。

 顔は向こうを向いていてまだ見えないが、ここまで散々見てきたカラカラの盗掘犯達の死骸と違って、余り干からびておらず、今にも動きそうな四肢や胴体、太い尾は死蝋化したように白っぽく色抜けしている。

 

 トラップは、天井から剣山のように無数の刃物が突き出した巨大なシャンデリアを落下させる物だったようだ。

 

 大きなシャンデリアに見えるが、実際は()()用に造った円形の鉄格子のようなものだ。

 今も鋭い棘が死骸に突き刺さり、縁から垂れ下がった何本もの鎖が綾織りのように複雑に交差して『ヌエ』の死骸を繋ぎ止めている。

 

 「・・・これ、『神字』か?」

 

 驚いた事に≪観測≫のタグ標示によると、シャンデリアも鎖も石舞台も一部壁面や天井迄も、原作に出てきた『念』を持続的に作用させる特殊表記文様、所謂『神字』によって強化されていた。

 

 「なるほど、こいつが封印のキモか・・・」

 

 初見のハンター世界固有技術に感心して観察していると、封じられた『ヌエ』のサイズが何だか小さい事に気がついた。十メートルと言う話だったが、五メートル位しかない。

 

 「うん?・・・十メートルは一体目だけで二体目からはサイズダウンしたのか?」

 

 たしか、封印出来たのは三回目にあらわれたヤツだったはず。

 観察しながら『ヌエ』の乗ったステージの周囲を、博物館の展示品を楽しむようにゆっくりと回り込んで行く。

 

 顔が見えた。しかし、半分足りない。

 

 牙の突き出した口と潰れた鼻の下半分は残っているが、上半分が無い。

 まるで、頭蓋に巣食っていた()()が顔面を喰い破って外に出ていったようだ。

 頭蓋骨が内部まで確認出来るほど、ぽっかりと虚ろになっている。

 

 「・・・おやまあ、中身は何処に行ったのかね?」

 

 軽い口調で言いながら、手を伸ばして伝説の死獣に触れてみる。こいつがどこかの博物館にでも収蔵されたら、直に触るなんてとてもできないだろう。今の内だ。

 

 全体的に脆くなっている。色抜けした体毛もまだ残っていて、触れると粉々になって崩れ落ちた。

 

 足元に目をやると、ソフトボール大の楕円形をした繭玉の様なものが三つばかり落ちている。何れも割れていて、中身は無い。

 

 「これが中身か・・・五百年封じられていて、新たなよりしろが来るのを待っていた、と言うところかね」

 

 封印は今も効いているが、サイズ違いで隙間から逃げ出したようだ。

 とりあえず解るのは、おそらく宿主が死ぬまで身体から離れられない。

 それが出来れば囮と一緒に外へ出たり、一緒に閉じ込められた場合でも囮に取り付いたりして壁を破って逃げられただろう。

 そして、五メートルサイズの宿主の命を犠牲にすれば、五百年位なら命を永らえる事が出来る。

 

 「あと五百年有れば殺せたかもね」

 

 小さくなって封印は逃れられても、山のような土砂に埋められた石造りの迷宮を力業で抜け出すことが出来ず、穴が開くのをひたすら待ち続けたのだろう。

 

 「執念深いと言うか、めんどくさいと言うか・・・」

 

 見上げるような遺骸から目を離さず、両手をはたいて付いた埃をはらう。

 

 障害物だらけ、死体だらけの光の無いホールの中、痺れを切らしたように殺気混じりの気配が私の立つすぐ左側に現れた。

 

 サイズは普通の人間の大人位、間髪をいれず五センチもありそうな鉤爪を伸ばして襲い掛かって来る。

 

 「ほ!」

 

 私は、上半身を()()に倒して初撃を避け、更に半歩左に動いて連撃をかわし、()()にいる相手の胴を軽く蹴り飛ばす。

 

 「ギャ!」

 

 襲い掛かって来た何かから声が漏れた

 

 反撃にあった何かは、バランスを崩しながら吊るされた鎖の何本かを巻き込み引きちぎって飛び、頑丈な壁にぶち当たってやっと止まった。

 

 「・・・クゥッ」

 

 思ったより効いたようだ、落下した壁際から苦痛の息が漏れる。

 

 「・・・面白いマネをするなぁ」

 

 最初、気配は左だったが、攻撃は右から来た。器用にも気配を(いつわ)ることができるらしい。

 暗闇だし、音も無かったし、常人、いや念能力者相手でもかなり有効な能力だ。

 

 まあ最初から≪把握≫その他で位置を正確に掴んでいた私にとっては、種の解った手品。子供騙しにもならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 主人公はイベント系の仕事だったので、オタ活っぽい事をするときはメンタルツヨツヨ
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