嵐の夜に飛び立とう   作:月山ぜんまい

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 38、早出し

   38、早出し

 

 さて帰ろう。

 

 ゴロゴロと死体の転がるホールを少し探索し、いくつかゴリムに土産を用意して来た道を逆に辿る。

 一回だけ『空裂波動(ビスケットハンマー)』を使って遺跡の構造をより細かく調べてみたが、お宝が遺された隠し部屋等は発見出来ず、ちょっとがっかり。

 

 「考えてみりゃ斜陽国家の総力を注いで此の封印の遺跡を造り上げたんだから、資金やお宝なんか残ってるわけ無いか・・・」

 

 迷路のような回廊を抜け、出口の小部屋辺りに近づくと何やらわずかに物音がしている。

 

 「・・・掛かったか」

 

 小部屋の中をそっと覗いてみると、そこにいたのは出口となる壁の破砕孔の前で立ち往生している一体の動き出した死体(リビングデッド)だった。

 

 しかし、ホールで見た個体とちょっと変わっていて頭が付いて無い。その代わり左手で小型の、丁度ゴリムに執着していた小猿位の大きさの小死獣『ヌエ』を抱えている。

 

 ≪観測≫のタグによると、頭の無い動く死体(リビングデッド)は体内に複数の三センチ『脳芋虫』が入って無理矢理動かしているようだ。

 となるとリソース的に、あの小死獣は、残った頭が変化・・・したものなのか?

 そう思って見てみると、若干小死獣の頭が大きいように感じる。

 

 出入り口となっている西向きの破砕孔からは、(うら)らかな午後の日差しが差しこみ、その向うには風に揺れる草原や木々が見えている。

 

 しかし死獣、いや小死獣に其処から外に出る事は出来ない。

 中に封印された災厄が居るのに、入り口を開けっ放しでは不味いのではないかと、入る時に私が≪甲殻≫で蓋をしておいたのだ。

 

 実は、ホールで戦闘中にホール以外の場所に在った死体の一つが動き出したのにも気づいていた。直通路から外れた未確認の遺体の一つだ。

 実際に戦って死獣の能力は把握していたので、新たな動き出した遺体(プレイヤー)?に多少の力が有ったとしても、今の私の≪甲殻≫を破る程の地力は無いと見切って放置した。

 

 そして今、上手いこと私との戦闘を避けて生き延びる筈だった小死獣が、罠とも言えない只の(ふた)に引っ掛かって目の前に居る。

 

 どういう生態なのか謎だが、過去に複数体存在した記録は無いようなので、大量の繭玉をばらまいて際限無く増殖することは出来ないらしい。

 

 そこそこの力を持った目立つ主役()で注目を集め、そちらが勝てば其のまま本体に。負けてもこっそり分身体を逃がして再起を図る。二段構えの生存戦略。

 分身体に意識や魂的なものを分割して一時的に並列に存在させ、その間で自在に意識の本体を移動させるのが、こいつの謎の不死性の正体のようだ。

 

 某有名メガネっ子魔法使いの宿敵が使用した分霊箱や、メインデータが遍在していて一部が残っていれば再生するSFのナノマシン集合体が近いか?

 

 にしても、ここまで残虐性が強くて生き残ることに執着する生物は、この世界でも見たことが無い。

 

 ・・・もしかして『外来種(暗黒大陸由来)』なのか?

 

 

 どっちにしても統括している意識は一つ、臆病で傲慢で慢心しやすく短気。その動きは単純で読みやすい。逃げ出す先のサーバーを全て潰し切れば完全消滅も可能だろう。

 

 

 流石に部屋に入ると小死獣と動く死体(リビングデッド)(頭無し)が気がついて振り返った。

 

 頭無しの動く死体(リビングデッド)は当然何も言わず、脇に抱えられた小死獣が甲高い声で威嚇の声を上げた。可愛かった小猿のツンツンアピールと違い、性格の悪い老人のヒステリーのようで、イラッとする。

 

 逃げ場は無いので、さっさと始末しようと部屋に入った丁度その時。

 ちょっとばかり間の悪いモフモフが、≪甲殻≫で塞がれた出入り口の向こうにひょっこりと現れた。

 

 小猿だ。なぜか、秘湯に置いてきた筈のゴリムのストーカーが、岩盤の硬度を持つ透明な≪甲殻≫の向こうに立って居た。

 

 私を見つけ、全く無警戒に駆け寄って来ようとして≪甲殻≫にぶつかり、ひっくり返って痛がっている。

 

 「どうやって此処まで・・・あ、ヤバい・・・」

 

 痛みから復活した小猿は、前足を堅い≪甲殻≫に着けて首を捻り、氷のような透明な石があって中に入れないらしいと気がつき、その場で謎のバク転をくるりと決め、≪甲殻≫をすり抜け、遺跡の中へと入って来た。

 

 ゴリムの話に有った、拘束できない非物質化のすり抜け能力だ。

 

 いや、これ不味いでしょう。

 

 じりじりと私から離れようと動いていた首無し動く死体(リビングデッド)が、闖入者に気付いて抱えていた小死獣を≪甲殻≫で塞がれた出入り口に放り投げ、首無しの動く死体(リビングデッド)は時間稼ぎのつもりか私に向かって襲い掛かってきた。

 

 即座に身体内部の『脳芋虫』全てを衝撃波(バースト)の連弾で潰し、小死獣を始末しようとするが、既に小猿と小死獣はバタバタと転がりながら掴み合い噛みつきあっていて、(にわか)に手が出せない。

 

 有る意味、微笑ましい小動物のいさかい。

 しかし、闘っているのは念獣と死獣。

 

 もし小死獣が勝って小猿のすり抜け能力を得たら・・・・いや、この期に及んで小死獣が小猿の能力を得たとしても大した問題は無いか・・・

 

 私が此所に居る以上既に小死獣は詰んでいる。

 

 でも、小猿が負けて居なくなってしまうのは、ちょっと悲しい。

 

 ゴリムは歓びそうだが。

 

 

 意外な事に、小猿のピートと小死獣『ヌエ』の戦いは微妙に均衡していた。

 

 

 

 戦闘力は小死獣の方が圧倒的に勝っていて、攻撃力も耐久力も比較にならず、その上当たれば必殺の『黒雷』まで有るのだが・・・

 

 なんと言うか、相手が悪い。

 

 小猿は何度()られても一向に敗けを認めず、怯まない。

 

 小死獣が小猿に致命の攻撃を決める度にパッと(ほこり)のように飛び散って消え、直後に何事もなく瞬時に再生して闘いが継続される。

 小死獣も再生能力は有る。ホールでの戦闘では、死体の腕を用いて腕一本新たに再生して見せた。

 だが不死性に関しては小猿はいろいろおかしい。

 

 だんだんと、争う二体の獣に差がつき始めている。

 

 埒が明かないと気づいたのか不利を悟ったのか、小死獣は小猿に直接噛みついて生命力(オーラ)を吸収し始めた。

 

 やっぱ()()も吸収能力持ってたか。

 

 伝承に有る砦内部の黒く干からびた死体。今回も量産された黒いミイラの状況から見て『黒雷』に一種の生命エネルギー吸収の能力が有ることは確実だった。喰らった相手が即死するのも、その為かも知れない。本体に同じような能力が有ってもおかしくない。

 

 小猿も黙ってやられてはいない。

 

 と言うか念獣である小猿にとっては、生命エネルギー吸収攻撃は致命傷になりかねない。

 

 『黒雷』を使うと、その衝撃だけで小猿が死んでしまい、雲散霧消して再生されてしまうので使うのを止めた小死獣に対し、小猿は断続的に『電撃』を放ち、小死獣の精孔を開き噛みついて此方も吸精を開始する。互いにがっしり噛み合って、動きが止まる。

 

 手を出せる隙。しかし、無粋な介入はしない。

 

 ・・・・・決着。

 

 暫くすると干からびた小死獣が動きを止め、小猿が離れた。

 

 念獣が勝ち、死獣が横たわる。

 

 「ウッキッ!」

 

 何か、ドヤ顔だ。

 

 ≪観測≫のログによると、勝因は小猿の『電撃』の能力に含まれていた『マヒ(弱)』のようだ。最後、あれが決まって頭蓋内部の『脳芋虫』が動けなくなり、何も出来ずに垂れ流しのオーラを残らず吸い取られて殺られてしまった。

 

 驚いたことに小死獣の頭を開いて十五センチ『脳芋虫』を確認し、≪観測≫のタグで見ても、細かな触手の先の繭玉までも全て死滅していた。

 

 「ん?何かお前、(がら)が変わってね?」

 

 小部屋の死獣を綺麗に始末して蓋の≪甲殻≫を消し、遺跡の外へ出ようと近寄ってきた小猿を抱き上げた処で、小猿の手足に白と黒の虎縞が入っている事に気がついた。

 

 まるで死獣『ヌエ』のように。

 

 ≪結界≫の危機感知に反応は無く、嫌な感じもしないので、とりあえず放置。

 

 でも、ちょっと気になるので遺跡の出入り口から少し離れ、灌木の繁みに身を隠して確認をする。

 

 ・・・・・フム。

 

 ・・・やってみるか。

 

 あらためて小猿を視界に納め、『右目(ライブラ)』の≪天眼≫を意識して、ちょっとした新技能を発動させる。

 

 

 『螺旋の塔を打ち砕く(フェイト・ブレイク・ジャンクション)

 

 

 『右目(ライブラ)』の視界は潤み現実を捉えられなくなり、小猿のイメージが浮かび上がる。同時に淡い光の粒子が周囲に発生し、渦を巻くように私と小猿をふわりと包む。

 

 

 森での修行の終盤、旅立ちの準備の少し前に、成長する“発“『十三原始細胞(ゾディアック・プラスワン)』の将来的能力の一部を先取りする方法を偶然見つけた。

 

 それによって限定的ながら、感覚としては五年分ほど先の能力が少しだけ使用できるようになっている。

 

 今使ったのは、特定の対象が私に害を成すかどうかをかなりの精度で判別することが出来る未来予測技能だ。

 能力としては元の≪天眼≫の権能とほぼ変わらない。

 ただ、対象を絞ることによって時間軸を精査する力が跳ね上がり、読み取る可能性の幅がある意味では広がっている。

 具体的には、映像化されるほど明確でなかった未来の危機の可能性が、黒っぽい靄や赤っぽい影のような不快なモノとして対象の周囲に現れて見える。という形を取る。

 勿論だが未来を覗いた私の行動によって、結果が変動するのは≪天眼≫の時と変わらないので注意は必要。

 

 ()()()()()()に映る小猿の周りは、やはり綺麗なまま。

 

 元々の≪天眼≫の権能に、敢えて名付けをすることで成長の方向性を一部()()()、未発達ステータスの一部書き換えというか、能力成長までの時間的ギャップを埋めて特定の能力を使用に堪えるレベルまで一気に持ってくる裏技のような技能。

 

 私は、『早出し(ファストムーブ)』と名付けた。

 

 意味は、発表や発売前の商品、情報を事前に手に入れる反則すれすれのフライング行為・・・。

 

 元々、目立つ囮にするための能力『(バルゴ)』の≪結界≫や操作系能力で髪を自分で動かす(念獣の能力借用)時の為の外向きの名前を念獣達と相談していて発覚した。

 

 相談の上やっと決まって名付けた『(バルゴ)』の権能が、名付けによって成長し、二次権能の≪奇怪≫の能力を一部使えるようになっていたのだ。

 詳しく調べた結果、名付けをすると少し先の能力を限定使用できるが、権能自体の成長は少し遅れるらしいと解った。

 

 これは使えると念獣達に頼み込み、どうしても欲しいが十年間の修行では未だ使用出来なかった能力を幾つか事前に準備することが出来た。

 

 数は『(バルゴ)』を除いて四つ。

 

 『右手(キャンサー)』と

 『肝臓(アクエリアス)』と

 『尻尾(ウロボロス・ホルダー)』、そして今使った『右目(ライブラ)』の≪天眼≫だ。

 

 成長の阻害が有るし、あまり念獣達の育成に口出ししたく無かったので、厳選した最低限の数にしようと思ったのだが、何体かの念獣達がどうしても此れを欲しがって押し切られ、結局過半数の念獣達に用意する羽目になった。

 

 元々能力の成長方針は念獣達に一任する約束だったのに、無理を言って幾つも『早出し(ファストムーブ)』を作成してもらった手前、断りきれなかった。

 基礎能力の『自分を磨け』が反応した影響かとも思ったが、欲しがらない者も居たので違うのかもしれない。個性?

 

 あと、なぜか光る。もはや懐かしいあの水見式の時のように、『早出し(ファストムーブ)』を利用して新しく用意した能力は使用時に全てが残らず発光する。

 

 発光解除不能、理由不明、意味も不明。恐らく今後新しく作成しても、又光ると思う。

 

 「・・・・・・・・・・」

 

 ちょっとイラっとして何か叫びたくなったが、自重した。

 

 私が新しく創った『衝撃』に関する新“発“の方には何の影響も無かったのに、隙間産業的に『十三原始細胞(ゾディアック・プラスワン)』の新技能を開発したら、こっちはキラキラピカピカ光りまくり。目立つし眩しいし、もうワケわからん。

 

 ・・・こんなの原作にも出てこない。もしかすると私の出自が関わってる?。異世界出身だし、転生したし、可能性は有るのか?

 

 ・・・うん、解決は当面無理だな。

 

 

 

 成長遅延のリスクは、≪天眼≫の場合近接での瞬間的未来予測の発達が停滞するらしい。

 当面、現状のままで戦術的に問題無いと思われるので、そちらには目を瞑る。

 

 複数の権能を複合した能力もあって、『螺旋の塔を打ち砕く(フェイト・ブレイク・ジャンクション)』には、≪結界≫の危機感知とその他の情報収集系念獣の協力、≪観測≫の情報分析の機能が含まれている。

 そして、ありがたくもこの能力は、今の私の保安上の指針の一つでもある。

 

 尚、新技の名前が若干中二っぽくて派手なのは、その方が発現する能力がやや向上するのと、将来性を睨んでの期待と、後は念獣達の趣味。OK出るまで凄い苦労した。

 

 

 

 

 

 

 

 




 意外と感覚鋭いので、小猿にとっては変な蟲

 
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