47、参戦
ウォルターがやられた闘技会に潜入し、闘技場支配人のヒュームを引っ張り出した処、やはり想定通りの提案をしてきた。
「どうでしょう、そちらのお身内が負傷されたのがリングの中ならば、参加を了承した以上怪我は自己責任、私共が関知する処では無いと考えますが」
恐らくここには銀門街の金持ち達だけではなく、金門の向こうのお貴族様もたまに来るのだろう。腹芸はお手のものらしい。
「それで?」
でも予定通り。
「いっそミカゲさんも同じリングに立たれてみては?」
やっと言ったか。
「・・・良いでしょう、では
ヒュームが、にっこりと言うよりニヤリと嗤った。
「では御案内致しましょう」
ヒュームが合図して、給仕人の一人を呼ぶ。
腕に覚えのある自称最強が舞い込むのはよく有ることなのだろう。今話題のミカゲを闘技場に出せれば、客は喜ぶし倒せれば闘技会に箔が付く。
とか考えてんだろうなぁ。
わざわざ一試合と指定したのは、ウォルターを負傷させた念能力者をさっさと引っ張り出す為。それ以外が出てきたらボコって挑発すれば良い。
「それには及ばない」
私は、丁度試合の終わったステージに駆け寄り、マントを翻して飛び降りた。
何事かと会場が沸くが、あえて無視して傲然と歩み王者の態度で顔石の杖を突き闘技場中央に立つ。
売られた喧嘩を買いに来たんだ。お行儀良く相手に付き合う必要は無い。
支配人ヒュームと目が合ったので、微かに笑ってやった。彼は、私の行動に呆気に取られた後、慌てて進行係に何事か指示し闘技場控え室に向かって急ぎ足で去って行った。
徐々に押さえていた気配を強めて闘技場とホール全体をその影響下に置き、もぎ取るように会場中の視線を集める。
観客は、今噂の人物の突然の飛び入りに大騒ぎとなり、知らない者には尾ひれが付いた噂話を教えあって、いやが上にも期待感が高まってゆく。
昨夜も知らない内に使っていた気配の強化は、『
新規技能が使えるようになるのは嬉しいが、使用前に教えてもらえないか試しに念獣達に聞いてみた。
返事がこれ。
:×
・・・・・・・・新パターン?
え?あ、ダメ?ダメなの?
出来るようになるまで試行して、ある日突然出来るようになるため、無理だそうだ。ナラショウガナイネ。
出来るようになったら、後は失敗しないらしい。気を抜くと失敗する人間とはシステムが違うっぽい。
気配の強化は私一人だと効いてるのかどうかよくわからないので、昨日に続いて今回で二回目の実用試験。
進行係がゴングのように金属片をハンマーで叩き、特別試合が組まれた事を大声で告げる。
観客のざわめきと怒号が、まるで火が着いたように激しくなった。
闘技場に降りるまで見えなかった闘技者の出入り口が左右に有る。ドアは無く、切り抜いたような暗がりの向こうが短い降り階段で地下の控え室に繋がっている。相撲の東方、西方みたいなものだろう。
客がいるのは一階で、闘技場は半分だけ地下室に下がった位置に在るのだ。地下室の天井高が高過ぎてせり上げないと最前列の客しか観戦することが出来なくなるからだろう。
どうでもいい考察をしている内に、次の試合予定の闘技者が左右の出入り口に姿を現し、闘技場へと入ってこようとしている。ヒュームは間に合わなかったのか、それとも態とか。
左右どちらの闘技者も、飛び入りの派手な小僧に含むところが有りそうだ。
試合が始まれば賭けは成立する。金が動けばどちらが勝とうと胴元は儲かる。
支配人ヒュームとしては、試合後に不手際を謝れば済む。
私が一試合は行ったと言って帰ろうとすれば、今評判のミカゲが上位者とのマッチメイクに怖じ気づいたとでも噂を流すと云うのだろう。
でも、そうは行かんよ、今日は私の日だ。
「お前らじゃない」
私は、軽く握った拳を小さく二度振り、『
何か騒ぎになっているが無視。
給仕人の服を着た係員が走り回って情報を伝えている。インターホンもスマホも無い時代だから、何かを伝えたければ誰かが走るしかない。
闘技場の入り口下では誰が出るか押し付け合いが起きていて、私に何事か言いたいらしいが、闘技者も係員も皆闘技場へと上がるのを拒否している。
何をしたのかは解らないが、私が何か尋常でない手段で攻撃したのは理解しているみたい。
誤解のしようのない此方からのメッセージに階下は多少バタバタしていた。その後は他に上がってこようとする者も無く、必然的に目的の人物が呼び出される事になった。いくら壁があっても精々数部屋、成長を続ける≪把握≫の力で丸聞こえだ。
支配人ヒュームが控え室の向こう側で怒鳴っている。余計な試合をさせたくとも、相手をしたがる闘技者がいなければどうしようもない。
「つ、都合が付く相手は
闘技者向けの案内役が恐る恐るやって来て、試合の条件を告げる。無制限とは他者が助勢する以外、銃、火薬、毒、暗器、他、何をしても良いということだ。問題ないと伝えた。
「それと・・・」
何であれ相手が得物を待っている場合、こちらも何か武器を用いることが許される。勿論断って素手で戦っても良い。とのことだ。相手は武装しているらしい。
闘技場のレンタル武器の貸し出しを呈示されたが断った。
「では、この杖を使わせてもらおう」
変顔石の付いた真鍮の杖を呈示する。
「杖?ですか・・・せめて剣か槍の方が・・・」
杖術は一般的ではないらしい。いや変顔石のせいで、こん棒に見えるのか?
「私の師は卓越した杖術の使い手だった、私にも其れなりの心得が有る」
尚も不審そうな案内役に追加情報を伝える。
「師の尊名はガリル、その界隈では知られた名だ」
多分ガリルは偽名だろうが、知られているのはこの名前だろう。
「ガリル・・・殿?」
ピンと来ない、と言う顔だ。
「数年前に病で亡くなられた、師を知るものには金輪のガリルと称された」
もう行けと言って案内役を追い返す。
良い機会なので師匠の名前を出しておいた。これもカバーストーリーの一部。二つ名付きの念能力者の師を持っている事で、異常な強さの根拠とする。
「なんと、金輪のガリルの弟子か!」
ちゃんと観客達も聞いていたようだ。燃料が投下されて会話が弾んでいる。
「誰だって?」
「凄腕の賞金稼ぎだって聞いたぞ」
「しつこい野郎だったぜ」
「けっこう前に死んだって・・・」
「ああ、ピークス兄妹に殺られたらしい」
「十年くらい前だよな」
「ピークス兄妹か・・・あんまり良い噂は・・・」
「・・・今病で死んだって言ってなかったか?」
「きっと殺されたのを誤魔化したのさ」
「よく有る話だ」
「・・でも、死んで十年経ってるなら、その弟子があの若さ・・・」
おや、流石裏の闘技場だけあって堅気じゃない方も混じっているらしい。お客の中に師匠の名を知っている者が居るようだ。ピークス兄妹の事も話に出ている。しかし、余り評判は良くないらしい。声が苦い。
話題の方向はどうでも良いのだ、どうせ噂など語り手に合わせて勝手に変化してゆく(経験済み)。私の師が金輪のガリルだということが広がればそれで良い。
それなりの気配の持ち主が控え室にやって来たのを感知する。
進行係が対戦カードを発表し、給仕人達があちこちで賭けを受け付けている。
待ち人来たり。
慣れた様子で気負い無く階段を上がってくる男がいる。常人を越える武威を纏った気配。
「はぁ~、何だよ、ガキじゃねーか」
上がって来た男が、あからさまにガッカリしてため息をついた。
でかい牡牛のような男だ。筋骨隆々、浅黒い肌に短髪を不揃いに刈り、まるで生えかけた角のように見える。
動きやすそうな簡素な服の上から、白い太綱を飾り紐のように全身に巻いているので余計に牛っぽい。宇和島の闘牛?
「・・・牛?」
牛と闘ったんならウォルターが負けたのも仕方がない。
「ちげーよ!キンブル様だ!」
やっぱ
どうも本人は牛に似てると言われたく無いらしい。名前で
「そんで、本当にお前が対戦者なのか?」
キンブルが仕切り直して問いかける。
辺りを見回し、他に誰も居ないことを確認する。
こちらが分かりやすくオーラを放っていないため、ポツンと立っている私の事が当事者が逃げ出して取り残された子供に見えるのだろう。
「俺は強い奴とやりたいんだ!子守りなら帰るぜ」
武術の心得は有るようだ。しかし未熟。こちらの擬態が高度過ぎて目の前に居るのに私の力が見抜けないらしい。私から視線を切って帰ろうとしやがった。
既に間合いの内だぞ。
即座に戦闘モードに入り、キンブル君にオーラ込みの威圧を掛ける。
「・・・なっ!」
キンブル君の反応が面白い。
避けも逃げも固まりもせず、装飾のような全身の
「・・・操作系か」
≪観測≫のタグに【植物繊維、ロープ(太)、オーラ充填済み】の表示が出ている。
そして、ウォルターの傷に着いていたオーラ臭とも一致している。あの傷はロープに巻き付かれて出来たようだ。
「何だよ何だよ、ただのガキじゃねーのかよ」
不意打ちに、ちょっとビビって冷や汗をかいている。
「
自分の油断を誤魔化すようにキンブルが大声を出した。
「フッ・・・」
私は、最初の場所から一歩も動いておらず、キンブルの焦りを鼻で笑う。
「てぇんめえぇ~」
キンブルが、顔を真っ赤にして殴りかかってくる。
面白い!オーラが込められたフック気味の大振りパンチと共に、オーラを纏った
試しに杖を手放し、"廻"式"流"を使って同程度のオーラを纏い、双方を両手で受けてみる。
「フム・・・」
やはり未熟。
能力は面白いのに、あからさまな修行不足だ。こんなところで燻っている程度の使い手が、達人なわけ無いか。
常人なら阻止不能な攻撃を簡単に止められ、得体が知れないと思ったのかキンブルが警戒して離れる。
「本気を出せキンブル君、弱いもの虐めが専門って訳じゃ無いんだろう」
私の立ち位置は、まだ動いていない。実を言うと、キンブルにまだ顔も向けていない。
「くそっ、何もんだてめえ!」
身体に巻いていたロープをほどき、自身の前に展開してゆく。これが彼本来の戦闘スタイルらしい。
「私はミカゲ、最近は黒門のミカゲで通っている(さっき聞いた)、先日ウチのウォルターが世話になったのはお前だな」
立てていた杖を握り直し、威圧を込めてキンブルを見やる。
キンブルは更に下がり、さっきまでの
「黒門の・・・ホラ話じゃ無かった訳か」
ここは狭い闘技場の中、本来なら彼に有利な場所だろう。しかし狭い中ロープを自分の近くに集めて展開し、防御に片寄った戦法を取っている。
「来ないのか?では・・・」
私が一歩踏み出すと、スイッチが入ったように蠢いていたロープが蛇のように襲いかかってくる。その数八本。
「舐めるなよ、俺の『
何だって?
「叩きのめせ、『
私は、それらを"周"を施した杖で的確に捌いてゆく。
『
あたりには本来は柔らかいロープと石の杖がカチ合ったとは思えないような重低音が、連続して鳴り響いている。別に素手でも同じことが出来るが、これも様式美と言う奴だ。
相手の込めるオーラにムラがあって、たまにロープが打ち負けて繊維状に砕け散る。
迫力の有る闘いに観客は盛り上がっている。あんまり一方的にボコボコにして闘技場側の面子を潰すのも後が面倒なので、今のところ相手のキンブル君に合わせたレベルの闘い方をしている。
じりじりと前進するが攻撃せず捌くだけ。キンブル君には圧力を掛けて様子見しているように感じられるはずだ。
キンブル君何か面白い隠し技とかないのかなぁ、そろそろこっちも手を出すよ。
間を取るためバックステップでキンブルから一時離れ、これ見よがしに杖をくるりと一回転させる。
同時に無数の
今までとは比較にならない
動き出しの判らない円掌拳の歩法でするりと間合いを詰め、無警戒の太い右
ロープは間に合わない。キンブル君は慌てて"流"を行い、打たれた場所にオーラを集中し防御体勢に入った。遅過ぎる。
オーラ集中によって防御強化された部位を、構わず"周"を纏わせた変顔石で二回目は強目に打つ。
鈍い音がして、オーラ集中によって強化された筈のキンブル君の大腿骨が折れる。
「うぐっ!」
防御を誘ったのは心を折るためではなく、単にそうしないと脚が千切れ飛んでしまうから。
オーラが乗ると、破壊力が上がりすぎて手加減が難しい。一度下がる。
おや?折れた足にロープを巻き付けて補強した。キンブル君まだやる気だ。意外と根性が有る。
「・・・あんた、強いなぁ」
キンブル君が、痛みと疲労に冷や汗を流しながら言った。
「私が強いんじゃない、君が弱いんだ」
常人の域は越えているが、念能力者ならそんなのは当たり前だ。そして念能力者として見るなら、私の基準だとキンブル君は底辺のレベルだ。
「・・・武館じゃ敵無しだったんだが・・・そうか、俺は弱いのか」
キンブル君、何か覚悟が決まった顔で両手を広げ大きく構える。表情から怯えや虚勢が消え、挑戦者の顔になった。
何か最後の大技を繰り出す気のようだ。
良いね、盛り上げ方が解ってる。
私は杖の中央を右手で持ち、左手を添える防御を意識した構えで待つ。今攻めて終わらせるなんて勿体ない。
「・・・くそっ」
キンブル君が、私に攻撃を待たれている事に気づいて悔しがっている。しかし、大技を出すのに激しく時間が掛かっているのは自分なので、未熟さを自覚して
左右に広がった四本ずつのロープがキンブル君の手元から編まれて、二本の極太ロープへと変化する。長さが半分になって間合いが縮むがオーラ量は四倍に。
更に広げていた両手を伸ばして眼前で祈りを捧げるように五指指組し、二本の極太ロープを更に寄り合わせて一本の柱とする。
込められたオーラ量は元の八倍に達する。
実にロマン溢れる愉快な技だが、長さが更に半分になって
「うぉりゃあー!」
長さが短くともここは闘技場の中。どこにいようと攻撃範囲内だ。骨折を押して襲ってくるが、重くなった分ロープ柱の動きは遅い。
一度杖で受け、態と弾き飛ばされる。威力はまあまあか。
「くそっ!くそっ!・・・・届かねえか・・・」
キンブル君が汗だくになって渾身の力を込めた攻撃を放つも、限界が来て気が逸れ揺らぐ。修行不足で念能力発動に必要な集中力が保てないのだ。
弱まったオーラを残念に思いながら、今後のために格の違いを見せておく事にする。
「・・・ゆくぞ」
私の呟きに何かを感じたキンブル君が、慌てて残るオーラをかき集めて攻撃を再開しようとする。が遅い。
『
杖を掲げ、前進しながら素手から放つ『
まるで間近で大玉の打ち上げ花火が破裂したかのような轟音が連続して鳴り響き、余波は観客の全身を震わせ、ロープの柱は繊維も残さず粉々に粉砕され、消し飛んでゆく。
最早誰一人口を利くことすら許されない。
ロープの柱が全て消え去り丸腰になったキンブルが、近づいた私に拳の直突きを放ってきた。オーラを使い果たし、素の武術だけでの攻撃だ。最後まで諦めない処は評価出来る。
こちらも杖を手放しオーラを廃し、直突きをするりとかわしながら腕を下から軽く掌打で打つ。
その根性に敬意を払い、手加減はしても容赦はせず、二の腕をへし折る。
「うぐっ!」
そのまま腕を取りキンブルの肩に手を添えてくるりと投げ飛ばす。一応折れた骨の位置がずれないよう気を使って投げた。
「ぐっはっ!」
かわいそうだが観客も盛り上がるし、やっぱ闘いの後に敗者の頭が勝者より上に有ったらダメでしょう。
「・・・戦闘不能、と言うことで良いかな?」
私は杖を回収し、投げられて一回気絶したキンブルの意識が戻ったタイミングで声をかけた。
「・・・ああ、あんたの勝ちだ」
先ず馬から攻略しようとする女達の賄賂攻勢(たべもの)から守るため(食べ過ぎ防止)、ピートはマギーに預けられている。ベルデとマリエルは、際限なく菓子をやろうとするので脚下。なお、ピートはいくら食べても食べ過ぎ状態にはならないが、それがバレない為の措置。選ばれたマギーは心なしかドヤ顔だった。