嵐の夜に飛び立とう   作:月山ぜんまい

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 51、始動

   51、始動

 

 季節は夏。森の中では蝉がうるさく鳴いて、日差しは高く光が強い。

 

 私は今、あの懐かしい墓場に来ている。

 

 「おおっ、あったあった」

 

 古い洋館の痕跡は石組みの土台を除いて既に跡形もない。

 

 灌木が生え、狭い墓地の壁は崩壊し、倒れた墓石も散見される。

 

 私の墓も土盛は消え失せ、全ては夏草に覆い尽くされている。

 

 だが、名前も刻まれていない()()()()は倒れずにまだそこにあった。

 

 振り返れば雪に埋もれていた道も、まだなんとか識別できる。

 

 今の格好は、目立たない服を着て自作の結びサンダルを履き、フード付きのマントを被った謎の旅人(笑)。容姿も変えて漆黒の瞳に髪は黒髪ストレート。造形的に完璧な顔は、整っている以外の目立った特徴が無く、印象を変えやすいのが利点だ。

 

 肩には小鳥(えなが)の姿のピートが行儀良く留まって、周囲の鳥の鳴き声をしきりに気にしている。小鳥のピートは他の鳥のモノマネが得意だ。

 

 「先ずは近場の町からだな」

 

 私は、≪甲殻≫に立ったまま一切の痕跡を残すことなく地上から離れて高度を上げる。地形を無視して道を辿り、近くの人里を目指すつもりだ。

 

 上空からふと目をやると、墓石は変わることなくまだそこにあった。

 

 既に、私が埋められてから十一年の歳月が流れていた。

 

 

 

 

 『ガスクート商会』。

 

 それが、この地域に根を張る裏組織の表の顔だった。

 

 少し前までは近場の田舎街を根城にしていたらしい。今は勢力範囲を広げ、少し大きな地方都市に拠点を移している。十年ばかり前に資金繰りがうまくいって、組織を広大したのだそうだ。

 

 地元のチンピラと仲良くなって、教えてもらった。その過程で怪我人が多少出たが誰も死んでないので無問題。

 

 ・・・私、いや私が成り代わった『クルタの子』を売り払った金が原資か?

 

 今は念獣達によって補完されているが、くり貫かれ、切り取られてオークションで競売に掛けられた身体の部位は最低でも十三、いや十二になる。・・・多分尻尾は売られてない。

 

 

 

 『ガスクート商会』の現在の活動の中心にしている地方都市。名前を『ヨトの街』と言った。

 

 ヨトの街自体はこの地方のハブ都市で大河の側にあり、工業も商業も其れなりに盛んで人の出入りも多い。

 『ガスクート商会』の表の商売は大したこと無いが、裏では街を牛耳る大物だ。

 歓楽街の仕切りや高利の金貸し、酒や煙草の流通と禁制品密輸の元締め他、一部貴族の下請けで後ろ暗い事にも関わって大きくなったという。

 

 商会が在るのは表通りのこじんまりした商館で、ヤバイことは主に郊外の屋敷で行っているらしい。

 そこは、まるで要塞のような造りで常時武装した警備がうろつき回り、地元では陰でガスクート城塞と呼ばれて恐れられている。

 

 アル中のチンピラを下町で捕まえ、安酒場で飲ませてやったら、全部教えてくれた。城塞に近づいたやつは全員中に連れ込まれ、出てきたヤツはいないと言う。

 

 夜になってから噂のガスクート城塞を訪れてみることにした。

 

 

 

 「さて、先ずはボスとの楽しいオハナシからかな」

 

 前回()()ボスと会ってないから、確実にこいつらが当事者なのかどうかはまだ解らない。もし、私を埋めに行った(来た?)懐かしいメンバーがまだ在籍していれば、あの時聞いた声で確実に聞き分けられるのだが、どうだろう。

 

 判別出来るのは、喋っていた兄貴と子分の二人だけだが。

 

 ダメでも十一年前にクルタ族をバラ売りした奴を探せば良い。滅多に有る事じゃないから、犯人の特定は難しくないだろう。

 

 それと、敵側に少なくとも一人以上の念能力者が居ることは分かっている。しかも、ちゃんとした正しい訓練を受けた奴が。

 

 あの時の兄貴分は確かに"周"と口にした。死者の念の知識も有った。

 この時代でも原作主要人物達と同じだけの知識を持っている者は居るのだ。『クルタの子』の念の師である養育者の老爺や、恐らくハンター協会のメンバーも熟知している筈。

 師匠が言っていた『新しい呼び方』や正しい念の知識は、もしかするとハンター協会から広まっているのかも知れない。

 

 

 城塞と言っても外観以外は、ただ警備の厳しい田舎の邸宅だ。中身は所謂マナーハウス的な物だな。

 

 夜になって中空から見下ろす。壁が高く頑丈になっていて庭園も小綺麗に整備され、イギリス風でなかなか趣味のよい造りをしている。

 

 私は態と少しの音を立て、大きな鋳鉄製の門前に降り立った。≪甲殻≫の上だが。

 

 近づけば中に入れてくれるらしいから、近づいてみた。

 

 「なんだてめえは!」

 

 「どっから現れ・・・」

 

 柄の悪い門番二人が間髪をいれずに絡んできた。おとなしく連れて行かれようと思っていたのだが嫌悪感を我慢出来ず、ほぼ反射的に髪を一本振るい二人の首を切り飛ばしてしまった。

 

 あっ・・・いや、別に構わないのか

 

 良く考えてみると、事ここに至っておとなしくしている理由はほとんど。いや、全く無い。

 

 彼らは明確に敵だ。生死を気にする必要どころか主敵で殲滅対象まである。

 

 

 「・・・そうか・・・そうだな、では鏖殺(おうさつ)と行こう」

 

 

 ほとばしる血は≪添加≫で散らし、買ったばかりのローブは汚さない。

 

 

 鉄門を細切(こまぎ)れにして、ついでに残った門番二人の首から下を雑に輪切りにし悠々と敷地内へと入る。

 

 

 夏場にも関わらずきちんと手入れをされた庭園が、前世の公園を思わせ何処か懐かしい。

 

 今はまだ、やらせる事が有るからボスとあと何人かは生かしておくが、最終的には皆殺処分する相手だ。

 

 たとえ十一年前、『クルタの子』を分割競売に掛けた当の組織ではない間違った相手だったとしても、大規模な犯罪組織であることは変わらない。多少人数を減らしても、世界が少しばかり平和になるだけだろう。

 

 

 今の姿は、目撃されても問題無い自称『復讐者(リベンジャー)』バージョン(黒髪黒目)になっている。身バレの心配もほぼ無い。

 

 使う技能さえ『衝撃の制圧圏(バースト・ヘヴン)』のような打撃系ではなく、斬撃系に絞って変化をつけている。

 

 それでも、可能性としては念能力による感知、又は調査の危険性を無くせない。

 だがそこで、私が作成を依頼した四つの『早出し(ファストムーブ)』の内の三つ目。≪調律≫の権能から『尻尾(ウロボロス・ホルダー)』に創って貰った小技(こわざ)が活きてくる。

 

 名を、

 

 『隠者は隠れ影も無し(ディープ・ロスト・バイブレーション)』と言う。

 

 効果は、他者に対する特定情報の完全隠蔽。

 

 元々『尻尾(ウロボロス・ホルダー)』作成時に情報の抜き取り対策は急務と考え伝えていたから下地は有り、名前の選定以外は割りとすんなり纏まった『早出し(ファストムーブ)』である。

 若干の問題が有るとすれば、こいつはパッシブ能力で開発直後から常時発動しているはずなのに、何故か魔獣のゴリムが持っていたタンポポの綿毛のような誰かの"発"に行動が見透かされていた事。

 

 ゴリムを助けることが出来、ピートと出会えたのは僥倖(ぎょうこう)だったが、この能力もまだ進化途中で完全では無いらしい。それとも私の秘匿情報を得ようとした訳では無かったから、根本的に適用されたルールが違ったのだろうか。継続審議。

 

 そのピートも、エナガ姿で肩に乗せたまま連れて来ている。

 ピートの元の飼主(制作者)である『アリス』を見知る人物と接触してしまうと、エナガ姿のピートをそれと見分けて『緑美楼』のミカゲにたどり着く可能性がわずかに有る。しかし、今のピートは、アリスの所持念獣だった頃とは柄が少し変化していて、しらばっくれて誤魔化すのは難しくない。

 

 理由は、あの死獣『ヌエ』と戦った折の謎の能力吸収だ。多分ピートの持つ対象の姿形を写し取る[変化(コレクション)]の能力と、[吸収(ドレイン)]のオーラ吸収能力のせいだろう。

 もしかすると『ヌエ』も持っていた生命力吸収能力がピートと『ヌエ』のオーラを互いに循環させて変に作用したのかもしれない。

 

 麻痺能力に気絶能力が追加されて効果が強くなり、ついでのように身体の柄が少し変化して『ヌエ』のような若干の縞模様が四肢に表れた。『ヌエ』の悪影響からは、[不死(イモータル)]の精神不壊化によって護られたと思われる(『螺旋の塔を打ち砕く(フェイト・ブレイク・ジャンクション)』調べ)。

 

 小鳥バージョンのピートにもその影響が出ていて、開いた翼や尾羽にグラデーションのような縞がある。とてもかわいい。

 額のハートマークは健在なので、ベルデのように気付く人は気付くレベルだが、そこは強弁すれば良いだけだ。

 

 

 よい機会なので『(バルゴ)』の二次権能≪奇怪≫の『早出し(ファストムーブ)』も使ってみることにする。

 

 そっちの名は、

 

 『掴み弾く十万の軍勢(エンプレス・クラウン)』。

 

 この状況にもってこいの能力だ。

    

 『早出し(ファストムーブ)』は、そもそもこの『(バルゴ)』の二次権能≪奇怪≫に表看板としての名付けをしたことが大元になっている。

 

  誰かに問われた時、"発"として披露する時に必要かもしれないからと軽い気持ちで名付けたのだ。それが、たまたま僅かながら未発動の権能の先取りを可能とした。

 

 出だしがそんな風だったから、≪奇怪≫の権能は独立性を高く、念獣としての自由度が広くなるよう設定してあり、『掴み弾く十万の軍勢(エンプレス・クラウン)』も其れに準ずる。

 

 イメージ的には多手多足の補食生物のようなヤバさを演出したかった。目指すは、怪力乱神、奇々怪々。

 

 『早出し(ファストムーブ)』の常として、まだ加減(コントロール)が未熟なので残念ながら使用機会は限定的。

 

 今回は例外。いくら暴れても問題ないため、攻守を『掴み弾く十万の軍勢(エンプレス・クラウン)』に任せ、私はただふらふらと庭園内を正面玄関に向かって進んで行く。

 

 ・・・歩くとけっこう遠いな。

 

 被っていたフードが自然と外れ、あらわになった黒髪が風もないのにふわふわと踊るように誘うように金色の光の粒を纏って動き出す。

 

 そこら中から得物を持った厳つい男達が何かわからん威嚇の声を発しながら虫のように集まってくる。

 

 そして私に襲い掛かり、儚く消えてゆく。

 

 私から大体五メートルくらいのところに(いびつ)な不可視の境界が設定されており、そこから中に入った者は残らず身体の複数箇所を輪切りにされて絶命してしまう。

 

 逃さず許さず殺しましょう。

 

 対人戦初のせいか、『(バルゴ)』のテンションが高い。

 相手方も、一人残さず断末魔の悲鳴も無く骸となり、夜の暗さのせいもあって、私の元に殺到した仲間達が全員残らず抹殺されていることに全く気付いていないようだ。屋敷の外からも、次々に集まって来る。

 

 

 発動時に例によって発生する光の粒は、しばらくすると何故か消えた。『掴み弾く十万の軍勢(エンプレス・クラウン)』がオートで稼動する言わば受動的(パッシブ)な能力だからではないかと思われる。

 同じ受動的(パッシブ)能力の『隠者は隠れ影も無し(ディープ・ロスト・バイブレーション)』の初回発動時も、全身を膜のように覆う光の粒が派手に現れたが暫くすると跡形もなく消えてしまった。理由不明。多分そういう仕様。

 

 『掴み弾く十万の軍勢(エンプレス・クラウン)』の基本的な行動は自動防御自動攻撃。それと視線誘導。

 

 長銃を所持している者もいて、何度か発砲もされたが銃弾は『(バルゴ)』が途中で捕まえ、即投げ返して射手を仕留めてしまう。

 

 観ている者には何がなんだか解らないだろう。

 

 一次権能、《結界》の危機感知能力も変わらず機能しているので防御は流石の精度だ。しかし、攻撃は雑で力任せの薙ぎ払いに頼りがち。

 

 銃や棍棒、剣等得物も手足も関係なく雑多に切り刻む。

 

 たまに、攻撃範囲に入った植木やアーチの石積みまでぶった切っていて、敷石もたまに切れ目が入って裂けている。

 まるで初めて刃物を持った切り裂き魔(ジャック・ザ・リッパー)のような、はしゃぎっぷり。威嚇と言う意味では正しいのだが、無駄や取りこぼしを数で補う方法は十万の毛髪()を操る『(バルゴ)』ならではの通常攻撃が飽和攻勢になる権能故か。・・・精度も大事だぞ、ちょっと落ち着け。

 

 目立たないように指弾を飛ばしたり、それを≪添加≫で曲げたりして、とりあえず≪把握≫している邸外の人員を距離を問わず全てかたづけ、綺麗な庭園をズタズタにしながら邸宅へと向かう。

 

 

 これは恩に報いる為の、個人的復讐だ。他への影響は気にしない。いや、加害者相手の影響など、気にもならん。

 

 

 ・・・・・せっかく心配してくれたのに、意に添えなくて済まないなベルデ。

 

 だが此れは別に(きょう)では無い。

 

 自ら好んで殺しをしている訳では無いのだ。

 

 「我々『クルタ族(私達)』には()()()()()()が少しばかり多すぎるだけなんだよ・・・」

 

 だから・・・ちょっとやり過ぎる位は多目に見てくれ。

 

 

 たどり着いた入口の大きなドアは、『掴み弾く十万の軍勢(エンプレス・クラウン)』にドアマンごと断ち切られ、開ける必要すら無かった。

 

 ノックも無しで入った玄関ホールは奥に中央階段が有り、マスケット銃を構えた十人ほどの護衛が各所に散開している。

 ホールの中心には場違いなアンティークの椅子が一脚。整髪剤で髪をキッチリと整え、ロイド眼鏡を掛けた神経質そうな男が足を組んで座っていた。

 

 

 

 どうやらお待ちかねだったようだ。

 

 

 

 

 




 高密度無差別瞬間即死斬撃
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