嵐の夜に飛び立とう   作:月山ぜんまい

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 54、名前

   54、名前

 

 帰り道に常設の市場に寄って質の良い自家製菓子の材料や、造りたい料理の為の食材やスパイスを仕入れる。流石は湊町。醤油や味噌等が、いわゆる(ジャン)として纏めて扱われている店が有った。米も少量ながら見つけたが、残念ながら長粒米だった。これはこれでうまいが、私は日本米が食べたい。

 

 売っていた棒付キャンディー(ミント味)を一袋買い、肩に乗せてたピートと二人で舐めながらふらふら歩いて居ると、帽子を目深に被った少年が横からぶつかってきた。

 

 「ごめんよ!」

 

 一声かけて脇をすり抜けて行く少年の手から私の財布をスリ返して、代わりに持っていたキャンディー一本(新品)を握らせる。

 

 「なかなかいい腕だ・・・新人かい、マゴット?」

 

 少し前から後ろを付いてきていた少女に、振り向きもせずに声を掛ける。

 

 「・・・ああ、腕は良いんだがちょっと危なっかしくってね、世の中にはカモに見えても手を出しちゃいけないヤバい相手が居るって教えたかったんだ」

 

 辺りに溶け込む涼しげなワンピース姿で顔が見えないように薄布のフードを被っている。華奢な容姿に似合わぬガラガラ声。

 

 彼女はマゴット。

 

 まだ十五才(念獣調べ)だが、年少者ばかりのスリとかっぱらいの犯罪者集団を束ねるスラムの女傑である。

 まあ、ハンターハンター世界によくいる天才少女だ。多分けっこう殺しもやってる。公的には年齢不詳。

 

 子供だからと嘗めれば痛い目に遭う。周囲には当然のように護衛の少年達が見え隠れしていた。

 

 以前に来たときにカモだと思われて矢継ぎ早に狙われ、いったい何人居るんだろうと財布を取り返しながら手に腕前の点数を書き込んでいったら(靴墨)。何か面白がられて、後からマゴットが挨拶に来た。

 

 それからは、妙になつかれてちょっかいをかけてくる。私も、彼らのグループが市場の関係者や貧乏人は狙わず、一切暴力を使わない点は悪くないと評価している。それも生存戦略なんだろう。

 

 「ホテルの五人組、確認したぞ」

 

 見てると寒気がする妙な連中が街に来ているとマゴットから知らせが来て、今朝確認しに行ったのだ。

 

 「・・・どうだった」

 

 以前に会ったとき、犯罪を生業にするより情報を集めて其れを商売にした方が儲かると教えて、それとなく網を張っていて貰っていたのだ。

 

 「あいつらはヤバい、絶対に手を出さないよう良く言っておけ、後をつけるのも命に関わるとな」

 

 マジな口調で告げる。

 

 「そんなにか?」

 

 マゴットも少し動揺している。

 

 「ああ、あの五人でこの街を滅ぼせるだろう」

 

 「!」

 

 そんなことになったら、私も知り合いを逃がしてとんずらかな。めんどいし。

 

 「・・・わ、わかった、うちのメンバーには絶対に手を出さないよう報せておこう・・・この情報、売ってもいいか?」

 

 さっそく情報を金にするらしい。

 

 「好きにしろ、しかし見る奴が見ればすぐヤバいと解る、欲しがる奴が居るのか?」

 

 ここは湊町だ。念能力者は兎も角、ただ一般的な意味で危険な奴だったら頻繁にやって来る。珍しくもないだろう。

 

 「『黒門のミカゲ』がヤバさを保証する相手だ、知りたがる奴には事欠かないさ」

 

 マゴットが嘯いた。後ろに居ても、そのドヤ顔が見えるようだ。

 

 ・・・私は、つい口元が緩んでしまった。

 

 どうやら上手くやられたらしい。

 

 フッ。

 

 私はいきなり振り返り、「情報料だ」と言ってマゴットに財布を渡し、「サービスだ」と口にミントキャンディー(新品)を突っ込んだ。

 

 吃驚して目を白黒させる彼女を置いてするりと離れ、人混みに消える。

 

 ≪把握≫の空間認識能力によってフードの下のマゴットの顔の半分が喉まで焼けただれ、もう半分には刃物の深い傷がいくつも在ることは初見で分かっている。恐らくは全身がそんな風なんだろう。

 

 彼女の名前はマゴット。誰にも素顔を晒さない為、この界隈では

 

 『顔無しマゴット』と呼ばれている。

 

 

 私は、けっこう可愛いところも有ると思う。

 

 

 

 

 市場から離れてちょっと寄り道をする。

 

 以前に散歩がてら歩き回った折りに、見つけたが入らなかった店だ。

 

 表通りから少し離れた路地裏、一見看板も何も無い場末の酒場。

 しかし実体は『賞金稼ぎ(バウンティハンター)』の為の周旋屋(しゅうせんや)の一つである。

 

 賞金稼ぎ──極めて悪質な犯罪者が行方をくらましている場合に、常道以外の捜査捕縛手段として高額の懸賞金が懸けられる事がある。お上に代わって其れを捜し出し、取っ捕まえて賞金を貰う。

 

 簡単に言うとペット捜しの犯罪者版だ。

 

 可愛らしいペットと違って此方の方は生死不問だったり、証拠の首だけお届けする場合が多々有るらしいが。

 

 師匠も『金輪のガリル』の名でやっていた商売で、誰でも何時からでも出来る元手要らずの自由業。だが、それなりの腕が無いと返り討ちに遭うという大変危険なご職業。

 名が売れると師匠のように殺し屋を差し向けられたりもするし、有る意味師匠も向こう側からの賞金首だった。

 

 弟子の私も師の衣鉢(いはつ)を継いで、一応登録だけしておこうと訪れた。

 ぶっちゃけ賞金首関係の情報も頭に入れておこうと以前から思ってはいたのだ。

 さっき上品な店で朝メシを食べていて、悪い奴が野放しで旨いもの食ってるのが何か許せんと思い、その流れで思い出した。

 

 ・・・・・森暮らしが長かった(ひが)みだろうか?

 

 無論、ここでは犯罪者情報も扱っている。て言うか其れメイン。高額の懸賞金の換金は、ここではなく各地の公共機関で行われる。前世の宝くじ売り場的な感じ?

 

 中はバーカウンターと小さなテーブル席がいくつか。

 まだ客はおらず、カウンターの向こうに疲れた感じの痩せたおばちゃんが一人、よれたタバコを咥えて頬杖をついていた。目の下の隈が酷い。

 

 「・・・こんな場末の酒場に来るのはまだ早いんじゃないの?坊や・・・」

 

 頬杖もタバコもそのままに、ハスキーな声がした。

 

 「ここで『特定犯罪者捕縛請負人(バウンティハンター)』の登録が出来ると聞いた」

 

 特定犯罪者捕縛請負人=賞金稼ぎ。

 

 飲み屋や各種掲示板等の張り紙で一部有名賞金首の名は知れ渡っていて、身分を問わず通報若しくは捕まえれば役所で金に代えられる。しかし、細かい賞金首の情報を得るためには、身分を明かして名前を登録しなくてはならない。

 店内は飾り気もなく簡素だ。良く有る賞金額が目立つ手配書のようなものは逆に張られてない。

 

 「・・・・」

 

 おばちゃんが此方をじろりと見た。

 

 

 ちょっと値踏みされたが、登録は名前を聞かれただけで簡単に出来た。時代がら色々ユルい。見た目ガキなんだが。

 自分が店に居る時間なら、何時でも最新の手配書を閲覧できると教わる。

 

 似顔絵入りの手配書は販売もしているそうで、世界手配、近隣の国家手配、当国手配、領地手配、地域手配、他、店に有る全て。千枚程を店先で一度パラパラと見させてもらって全て記憶して済ませた。

 

 地下闘技場で会った『壊し屋(笑)キンブル』君の手配書が有るかと思ったが、見当たらない。もう解決したのか、それとも元々懸賞金が懸けられるような罪ではなかったのか。

 

 賞金首だったら、弟子入りだと言って顔を出したところを取っ捕まえて官警へ突き出そうと思ってたのに・・・そもそもあいつ何から逃げてたんだ?纏う空気感から誰かを()ってるのは間違いないんだが・・・

 

 

 おばちゃんに、「必要なのを買わなくて良いのかい?」と聞かれたので、「もう覚えた」と言ったらちょっとびっくりしていた。余人は皆買って行くようだ。

 

 彼女は別に荒事慣れしたプロと言う訳ではない(修羅場には慣れてそうだが)。ただの雇われの委託された一般人。窓口に過ぎない。酒場の方が本業で、賞金稼ぎの周旋は多分副業。

 大分年を重ねた御姉さんだが、驚いた顔はちょっと愛嬌があった。ちゃんと化粧して夜に会えばきっと化けるのだろう。

 

 

 『緑美楼』裏の家に戻ると、まだ午前中であるにもかかわらず護身術講座の娘達が待ち構えていた。現在昼まで二時間ほど。

 娼妓は夜の仕事であるから、昼過ぎまで音が響く伴奏とダンスは禁止されている。彼女らが早く来たのは単なる顔見せだ。

 一応弟子見習いにしているので、気を使ってくれたらしい。相変わらずやる気と熱量が高い。

 

 「師匠、一つ聞きたかった事が有るのですが、よろしいですか?」

 

 最年少ながら其の熱心さと技量と長女気質のせいで、いつの間にか弟子見習い六人のリーダー格になっているミラ(十六才)が、質問してきた。

 

 「なんだ?」

 

 場所は『緑美楼』の整備した裏庭。現在全員で静かに柔軟中。最近はレベルが上がって、だんだんとヨガじみてきた。

 

 この世界の住人は一般人でも前世のギフテッド並に成長が早い者が一定数混ざっている。ここにいる六人は全員がフィジカルエリートと言って良いほどに身体の使い方が上手い。上手くなっている。

 やはり漫画時空だからか?本気で空気にプロテインが混ざってるのを疑うレベルだ。

 

 ただの一般女子が、僅か三ヶ月であんな高強度の運動(ダンス)に普通についていけるのは、やっぱおかしいんだよなぁ。

 

 ・・・私のせいかなぁ?『念』の有る世界だし、強い意志が肉体に影響を与えてるとかかなぁ。たまたま才有る人間(ギフテッド)が集まっただけなのか?・・・謎だ。

 

 

 「その・・・私達が教わっているこの蹴り技だけの闘いの技能(スキル)ですが、流派というか名前は有るのですか?」

 

 話しかけてきたのはミラだが、全員が聞き耳を立てている。

 

 言われてみれば、決めていなかった。

 

 「・・・必要か?」

 

 回りを見回すと、皆激しくうなずいている。

 

 「是非教えてください!」

 

 最近は段々とボロ布(クッション)入り防具を着けたスパーリングも形になってきているし。技が身に付いてきているのを彼女らも薄々感じ取っている。訓練用の案山子(木人)が度々破損するほどだ。

 

 そのため、それぞれがこの女でも男と闘えるという稀有な武術に誇りと愛着を持ち始めていて、だからこそ人に聞かれたときに何と名乗ればよいか知りたがっているのだ。

 

 単なる護身術じゃダメか、流派とかそんな大袈裟なもんじゃないんだが・・・

 

 そんなこと言われても、森での修行中にいきなり体高九メートルの火食鳥の『霊獣』に(から)まれて、偶々倣い覚えた足技を『円掌拳』の基礎術理の動きに当て嵌めてでっち上げた代物だしなぁ。

 

 う~ん。モチベーションの為にも名前は有った方が良いか?

 

 ・・・元は火食鳥だから、火食鳥流?

 

 字面は格好いいが、語感が酷い。

 

 火食鳥から取って『火喰(ひくい)流』?・・・いや『火喰(ひくい)流』だと『低い』に通じてしまう。

 『火噛(ひかみ)流』の方がましか?『(ひが)み』とか言われないか?

 

 では・・・・

 

 「うん、『火噛(かがみ)流』・・・かな?」

 

 悪くないんじゃないか?

 

 「かがみ流!」×六

 

 なんか、思った以上に受けが良い。

 

 そのままその日の修練は何事もなく終わった。

 

 

 翌週の護身術講座の時間になって、裏庭に出ると、膝丈の小ぶりな白木の一枚板が添え木で支えてあって、

 

 『華神流(かがみりゅう)

 

 と大書されていた。

 

 ・・・こう来たか。

 

 一列に並んだ弟子見習い六人は、いかにも誉めて欲しそうに此方を見ている。

 

 「・・・よい看板だ、名に恥じぬよう今日も修練に励むとしよう」

 

 皆、嬉しそうにしている。私も鬼じゃない。この状況で流石に字が違うとは言えん。娼妓のことを隠語で『(はな)』と呼ぶ事もあるから、多分そこから発想したのだろう。

 

 まあいいや、もうちょっとしてから由来と共に本来の字を教えよう。

 そうだ!『火噛』の方は隠し名と言うことにして、もうちょっと様になって一人前になったら霊獣の件と一緒に教えることにしよう。流派の秘事って事で押しきろう。

 

 もう蹴り関係は一通りさらったし。良い機会なので、上半身を使う技も一個だけ教えることにする。

 手は骨がいっぱい有って(もろ)いし、女子の筋力だと厳しいから腰と肩の回転を連動させた肘打ちだ。

 

 ほぼ零距離の時のみ前方や後方にも打てる。肘なら体幹との連動もしやすいし、上手く肩甲骨を回せれば女子でも自在で強烈な打撃になる。ちょっと難しいか?

 組み着かれた時、筋肉の薄い腋の下を狙い肋骨をへし折り、骨の内側の内臓を直に壊す。頭が狙えれば頭蓋を砕く。

 足技だけだと対応されるかもしれないし、云わば奥技的な秘密の技だな。殺意高すぎるけど、元々急所しか狙わないから今更か。

 練習も、誰にも視られないように隠れてするよう言い聞かせる。

 まあ、若い女の子達が長く秘密を守るのは難しいだろうから、漏れるのは織り込み済みだ。多少なりとも彼女らの結束の一助になればいい。

 

 このままとりあえず一人前になるまでは付き合うつもりだけど、私もそう何時までも一緒には居られない。

 この技が弟子見習いに対する最後の置き土産的なものになるだろう。武技として一応の形にはなったし、『緑美楼』に紐付けされている限り、これ以上の厳しい鍛練は難しい。

 習い事的に弟子見習い卒業の免状でも出すか?

 

 

 おかしい。練習法を蹴りと同じようにダンスに絡めようとしたら、なんか独立して上半身をダイナミックに動かすパラパラとかオタ芸っぽくなってしまった。まいっか。

 

 後は型を心身に落し込んで日々精進し、基礎体力を徐々に積み増してそれぞれの技を深めるだけだ。じきに『沈力』のなんたるかが自然と分かって来るだろう。武術沼は、そこからが深くて面白いんだ。

 

 形になったら指導は終了かな。・・・あれ?弟子見習いが終了したら弟子になるのか?・・・免状も出すし、あくまで『火噛流』の弟子って事で了解してもらおう。暇なときに、相手すればいいや。ある程度腕が上がったら皆伝ということにして修了しよう。

 

 後は個人で高めて下さい。もし、それ以上を目指すなら、武術沼にようこそ。だな。

 

 

 

 数日後にベルデに呼び出された。

 

 修行用のダンスが愉しそうなので、試しにやってみたい女の子達から要望が出ているらしい。

 隠れてやっても覗きに来てる娘はいたし、ノリの良い音楽がかかってれば気にはなるか。

 

 「出来ればもっと一般人に出来そうなレベルのを頼むわ」

 

 とのことだ。

 

 修行用のはちょっとアクロバティックだよなぁ、とは思っていたが、やはり、普通の人から見てもそうだったらしい。

 

 私が関わるとダンス目当てではない(私めあての)者達が集まって面倒なので、講座は、ダンスのレベルを落とし、弟子見習い達六人に持ち回りで指導させる事にして調整する。勿論お給金も彼女らに出るようにした。私にも多少の権利料が入る。

 

 踊りたい者は結構居て、講座は好評らしい。希望者にはパラパラも教えているそうだ。

 

 なお、よそに広がったり歴史に残ったりはしないかも知れないが、楽曲のジャズやヒップホップ、R&Bっぽいアニソンやゲームミュージックは、昔黒人のミュージシャンに教わった事にしてある。ルーツは大事(百年位早い)。子供の私が『昔』と言う表現を使っても、最早誰もつっこむ者はいない。

 

 

 

 私自身は秋には色々と済ませて、目立たぬよう少しづつ世界観光に出ようと思う。師匠の遺言もあるし、未来の聖地巡礼的なものや、この時代の空気的なものを感じたい。シュマの街は言っても田舎だし、ついでにピートの元の主人が残した隠れ家もいつか探したい。

 

 また、戻ってくるけどね。

 

 貧乏旅行も楽しそうだけど、世界を回るんなら其れなりの金も有った方が良いか。

 換金用のブツは色々隠し持ってるんだけど、目立たない様にってのが難しい。

 悩みの内容が、まるでマフィアの資金洗浄問題みたいだ。でも迂闊に人に相談すると情報漏れの危険があるところは似ている。そこまで窮してる訳でもないしこの件は先送りでいいか。

 この先、なかなか手に入らない物の方が、金より価値があるパターンも有りそうだし。

 

 

 

 夕方に、『緑美楼』の廊下で用心棒のウォルターとすれ違った。挨拶すると、何か浮かない顔をしている。

 

 用心棒を辞めたのに、楼内をうろついているのは、そうするようベルデに頼まれたからだ。なんか私が居ると娼妓達のテンションが上がって商売に良い影響が有るのだそうだ。

 ついでの時にぶらついて娘達と挨拶を交わすくらいなら、構わないと了解している。一応『緑美楼』付の『治療師』として多少の金を貰っているから、健康状態のチェックも兼ねている。食事も夜はこちらで取る事が多い。

 

 「どうした、何か心配事か?」

 

 話を聞くと、最近スラムで火事騒ぎが頻発しているらしい。 

 

 「付火(つけび)なのか?」

 

 最近のスラムの火事の話は朝の情報収集でも聞いていた。街の噂によると、スラムで放火による小火(ぼや)が起こるのは珍しい事ではないらしい。しかし、犯人が捕まらないのは珍しいと言う。

 

 街の他の場所と違って、一部は石造りでも板切れ造りの掘っ建て小屋や端材での建て増しが多いスラムでは、放火魔は蛇蝎の如く嫌われる。

 それこそ現場を見つかったら身分を問わず生きてスラムから出られない程だ。普段は敵同士のグループが連携して追いかけ回し、殺意マシマシで襲い掛かる。そしてたとえ深夜だろうと、スラムでよそ者が動いていれば誰かの目に留まる。筈なのだ。

 

 「不思議なことに、怪しいやつを見た者が誰もいないんですよ。しかも火勢がやたら強くて手が付けられない。

 まだ小火(ぼや)のうちから水を掛けても消えないほど火の勢いが強いのに、何故か油の臭いがまるで無い。

 薄気味悪くて、古株のジジイどもは昔の住人や船乗りの呪いだとか怨霊だとか言い出すし、夕べも何人か死人が出てる有り様で、どうにもこうにも・・・」

 

 スラムの連中も、かなりピリピリしてるらしい。

 

 ウォルターの新しい家は、ぎりぎりスラムの外に在る。もう孤児達と共にスラムから出ているので貰い火の心配は無いが、知り合いも多く心配なのだという。

 

 そんな事になってるとは・・・

 

 「・・・そんな大事になってるとは知らなかった、明日にでも一度私も現場を覗いてみよう、視点が増えれば何か解るかもしれん」

 

 この世界だと、本当に呪いや謎の残留思念とかで火事になる可能性もあるからなぁ。

 

 「うちのチビ共も怖がってるんで、そうしていただけると助かります」

 

 ウォルターが、大袈裟に頭を下げる。

 

 「私が行っても何か見つかるとは限らないぞ?」

 

 ウォルターの食い付きにちょっとびっくりする。

 武術と気脈術のせいで、どうも私に対する謎の信頼が一部に蔓延しているらしい。

 

 いや、念関係じゃなくてホントに怨霊とかだったら、逃走一択ですから。

 

 

 

 

 「今日は、忙しいな」

 

 ウォルターに火事の事を相談された其の日の深夜、私は『黒門街』を急ぎの馬車に乗せられて運ばれていた。

 

 「すいやせん、うちの者じゃ全く歯が立たなくて、ホールから追い出す事も出来ないんでさぁ」

 

 夜が深まった頃に『緑美楼』裏の私の家を訪ねてきたのは、以前治療したジョン・ブルート御大の使いだった。

 内容は、『酔蜜殿(すいみつでん)』と言う同じ『黒門街』に有る高級クラブに居座っている酔っ払いの対処。『酔蜜殿』はブルート御大が手掛けていた店のうちの一件で、今は事業を引き継いだ堅実な二代目の養子が差配している。

 

 腕利き用心棒達が子供のようにあしらわれて手も足も出ず、足代を払って帰らせようとしても受け取らず、私の名前を出したと言う。不穏だ。

 

 使いの話では『居座り男』が来たのは少し前で、最初から因縁を付けて暴れる積もりだったとしか思えないと言う。

 

 

 

 

 




 ミラ  第一席 十六才
 メロウ 第二席 十九才
 アンナ 第三席 十七才
 コロネ 第四席 十八才
 ローラ 第五席 十七才
 チャム 第六席 十六才

 ミラは流派の名前から、他は菓子パン
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