嵐の夜に飛び立とう   作:月山ぜんまい

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 59、路

   59、路

 

 ハンター協会のチームが遺跡探索に出発してしばらく経つ。そろそろ夏も終わりだろう。

 

 いつものようにピートと朝市で朝食を食べ、市場を抜け常設の店舗街をぶらついていると、まだ通ったことの無い路地を見つけた。迷わず突入する。

 

 薄暗く細い通り沿いに、古着屋、立ち飲み屋、古道具屋、端切れ屋、ボタン屋、時計屋、飴屋、木皿屋、刺繍屋、ランプ屋、ペン軸屋、煙草屋、etc、etc、表通りと違いちょっとディープ。

 

 何処も職人が居るらしく、品質は良い店が多い。造って直売してる感じだ。

 

 ピートにせがまれ、おばちゃんが鉄鍋で実演販売する炒り豆屋でおやつを買う。

 おばちゃんは、サービスだと言って紙袋にたっぷり炒り豆を入れてくれた。珍しくサル好き?ピートから少し貰う。まだ熱い。少し固いが、香ばしくて癖になる。

 

 店と呼ぶには小さすぎる小規模店が多く、全体的にゴチャゴチャ。

 

 怪しげな 男達もちらほらいて、通りかかるカモに目を光らせていた。

 

 気配を一般人並に落としている私に、ちょっかいかけようとする者も居る。鬱陶しいので個別に殺気を飛ばし、軽く威圧する。冷や汗を流し、皆逃げていった。

 

 

 煮しめたような雰囲気の在る、古参ぽい古道具屋を見つけた。

 

 ここには職人はいない。

 

 紋章入りの折れたナイフや欠けた古い食器、装飾の一部剥げたペン立て、台座だけの文鎮、弦が一本しかない楽器、へこんだ銀器、目玉の取れた鹿の剥製等、出処の怪しい品が多い。

 

 遺跡からの発掘品らしきもの、それを模した粗悪な偽物。

 

 一言で言うとカオス。

 

 その店の片隅で、妙なものを見つけた。

 

 最初、何となく錆びた錠前とカウベルの並ぶ古いサイドボードの上が気になり、手を伸ばした。

 

 雑多な金属製品のガラクタと一緒に並んでいた木皿を降ろしてみると、長さがまちまちの金属や角、骨製の古いペン軸ばかりが埃だらけで山ほど入っていた。ペン軸は、先に竹や硬木、鷲の羽芯を取り付けてインクに浸し、使用する筆記具だ。

 

 その内の一本を手に取る。どうやらペン軸では無い。

 

 「これをくれ」

 

 値段交渉の途中、欲しがってるのを見抜かれて、ちょっとお高めで入手。

 

 店主はバカな客だと思っただろうが、恐らく私の方が得をしている。

 

 謎の金属製筒はぼんやりとオーラを纏っていた。

 

 この世界に来てから見つけた、二つ目のオーラの籠るほどの名品・・・のはずだ。

 

 「おい、嬢ちゃん!」

 

 

 ん?

 

 「こんな処に一人でやって来ちゃいけないなぁ・・・」

 

 「そうだぜ、暗い裏路地には悪いことを考える奴もいるからなあ」

 

 

 何だ、誰かバカな小娘でも迷いこんだのかと周囲に意識を向けると、チンピラ二人が、ニヤニヤしながら声を掛けているのは何と私だった。

 

 小娘って何だ、失敬な!

 

 ちょっと筒に意識を向けていて、無害なチンピラが又何処からか湧いても、気にしてなかったわ。

 

 「・・・もしかして、私に言ってるのか?」

 

 ちょっとイラッとしたので、今までよりちょっと多目に殺気を込めて振り向いた。

 

 「・・・・くっ、何だ?」

 

 「え?ひゃ、いや・・・ひ、人違いだった」

 

 ・・・人違い?

 

 突然降りかかったプレッシャーに、二人は訳もわからず震えながらよろよろと下がった。どう見ても年少の私に道を譲った彼らに、周囲から奇異の視線が注がれる。

 

 「・・・そうか、ここは余り治安が良くないらしい、足元に気をつけてな」

 

 ナンパなら、もっと人の多い所でやれ。

 

 「キィ!」

 

 ピートもそう言っている。

 

 私は殺気をきれいに消し、横丁探索を続ける。

 

 周囲で見ていた商人達は、状況を察しニヤニヤとチンピラ達を嗤っていた。

 

 その後、別の古道具屋で蓋の象嵌が見事だが壊れた懐中時計、細密画付きの小皿、小動物のフィギュア七体セットを買い、内心ホクホクで路地を後にする。こういった自分の琴線に触れるガラクタを買って溜め込むのは、前世からの趣味だ。オタク心の源泉でもある。

 

 後で、うちに出入りしている目利きの婆さんに見せてボロクソに言われるまでがワンセット。現在勉強中。

 

 でも、今の時代のガラクタが二百年後にお宝に化ける事も知っているので、無駄ではないと思っている。資金ができたら老後に備えて色々買い込むか?

 

 好事家向きの路地から出ようとしたタイミングで、一人の男が後ろから腰だめにナイフを構えて無言で突っ込んで来た。

 

 普通なら、丁度暗い路地から明るい通りへ出て、眩しさに視界と意識が()らされる白昼の死角。

 

 私には関係ないけど。

 

 ギリギリの瞬間まで待ってターンした私は、片手に荷物を持ったまま反対の手で男からナイフを奪い、即投擲。そのまま相手の男の襟首を掴み、もう一人の男が振り下ろすバール(擬き)を彼の頭でガードした。

 

 バールが深く食い込むようちょっと持ち上げたので、即死したようだ。

 

 バールを振り下ろした男もさっき喉に投擲したナイフが致命傷になったようで、突然ひっくり返り、ピクピクと最後の痙攣を起こしている。

 

 さっきナンパしてきた二人組だ。

 

 ナンパ失敗がそんなにショックだったのか?

 

 良くわからん。何にしても、殺そうとしたら殺される事も覚悟しなくちゃね。

 

 命を奪う事無く制圧することも出来るけど、殺しに掛かってきた相手にそれをやるとナメられる。それでは却って周囲を危険に晒す。

 

 

 「・・・誰か掃除を頼む」

 

 金の入った小袋を見せると、即座に数人の男達が名乗り出て彼らを片付けはじめた。手慣れたものだ。

 

 別に金を払わなくても誰かが片付けただろうけど、それでは只の無頼漢。地元に迷惑を掛けている点で、そこらのチンピラと変わらない。しかし、片付け仕事に金を出すことで、目撃者達の印象が変わり、良い評判に繋がると言うわけだ。名が売れている分、外面(そとづら)にも気を使う。

 

 油断して小者に絡まれる──撃退。のパターンはもはやルーティンだ。でも、いきなり殺しに来るのは珍しい。

 

 ちょっと反省。

 

 人がよく死ぬ世界。頭のおかしな奴も多い。どこにいても不用意な油断はいかんね。

 

 「あいつらはこの辺の奴か?知っている者は?」

 

 手早く運ばれて行く二つの死体を眺めながら、一応確認する。殺ってしまった以上は、トラブル防止のために相手が誰だったのか知っておきたい。

 

 「知らねえ奴で」

 

 「見たこともねぇ」

 

 「この辺りの奴じゃないですね」、他。

 

 ・・・・・妙なことになってきた。

 

 すぐ判明すると思っていた死人の素性を、誰も知らない。どうも、地元のコミュニティのチンピラでは無いらしい。

 

 面倒な。

 

 「・・・さっきの死体を『顔無しマゴット』の処の若いのに見せて、何者なのか調べて私に報せるように言っといてくれ」

 

 もう一つ金の入った小袋を出す。マゴットの縄張りの市場も近い。誰も彼女を知らないということは、あり得ない。

 

 「私の事は知っているな?」

 

 真っ赤になって激しく頷くじいさんに此の場は任せ、もう後は何か解るまで放置。

 

 きっと港町にはいくらでもいる只の流れ者だろうし、相手はもう死んでる。気にしてもしょうがない。

 

 ほっといても良いのだけど、ついでにマゴットに仕事を回してやった。そのうち報告に来るだろう。結果には余り期待していない。

 

 

 とりあえず、南無~。

 

 一応手を合わせておく。来世はまともに生きろよ~

 

 

 

 その後、ピートと何事もなく『庵』に戻るとお茶を入れ、真っ黒に酸化した謎の金属筒をブラシと布で磨く。

 

 ピートは途中で飽きてお昼寝中。

 

 どうやら銀製のようだ。

 

 こういうチマチマした作業も結構楽しい。元々私は、スローライフ向きの人間なんだよ。うん。

 

 

 午後になって客が来た。

 

 「よう、しばらくぶりだな」

 

 ずっと遺跡に『ヌエ』の確認をしに行っていたバッハだ。アーシアも一緒だった。小さく手を振っている

 

 何故かクロンドル卿もいて、その後ろにギムリット氏もいるが、本体ではなく分身体。本体に姿を変えているようだ。≪観測≫の視界に、【オーラ生成物、分身体】のタグがしっかり付いている。マップの反応も分身体のモノで、本体は別の離れた場所にいた。他のメンバーは気づいて無いのだろうか?指摘するのは野暮か?

 

 「久しぶり、まあ上がれ」

 

 一部の身構えているメンバーを無視して、あっさり全員を招き入れる。

 

 クロンドル卿が、面倒臭い挨拶の言葉を述べそうな気がしたので、庶民には必要無いと先に断っておく。

 

 「メイドなんか居ないから、話は私が茶を出すまで待ってくれ」

 

 全員に座るよう伝えるとアーシアの指揮の下、皆ラグの上に腰を下ろす。クマのクッションは無事彼女が確保した。

 

 騒ぎにピートも起き出して、私の肩に乗ってきた。この前来なかったクロンドル卿とギムリット氏をちょっと警戒中。その前の戦闘の事は忘れてるっぽい。

 

 椅子と違って立ち上りづらいラグは、クロンドル卿が嫌がるかと思いきや、素直に座っている。常備しているらしい帯剣は、外して脇に置いていた。床に座るのが新鮮なのか、ちょっと楽しそうだ。

 

 

 「・・・それで?調査は無事済んだのか?」

 

 クロンドル卿のやっぱり大袈裟な挨拶が済み、ハーブティーと菓子が全員に回った頃、何か話があって来たであろう彼らに水を向けた。

 

 「ああ、遺跡はすぐに見つかった。当たりだったよ」

 

 何人かが目を泳がせ、バッハが答えた。

 

 「・・・目的の遺跡はすぐに見つかったんだが、中身がヤバ過ぎてなぁ・・・当面()()()()()()()()()事になっちまった・・・」

 

 言い難そうに続ける。

 

 ま、そうなるか・・・・

 

 変形した人体の遺骸とか、特に掃除とかしなかったし。

 

 文字通りヤバ過ぎるのだ。

 

 人の抗するべくもない怪物が今も実在する証拠など、人心の不安を煽るだけだ。

 おまけに人に寄生するとなると、嫌悪感や恐怖感はいや増す。影響は更にでかい。

 普通なら誰も信じないが、今回は巨大な遺骸のミイラと変形した人体が複数残っている。

 

 伝説通りに。

 

 其れは有った・・・有ってしまった。

 

 説得力は抜群だ。

 

 一度は常識が否定する。話を聞いたものは、先ず笑うだろう。

 そして其の後、どうしたって()()()()()()と想像しはじめる。

 

 『不死身の怪物は、本当に滅んだのか?五百年もの間生き続けていたのに?』

 

 臆測だらけの噂が広まっただけで、誰もがやがては逃げ出す事を考えるだろう。

 

 ・・・五百年前には其れで国が一つ滅んで居るのだ。

 

 統治者なら、リスクを嫌がる。

 

 おまけに、対抗手段(念能力)が在ることは明かせない。

 

 怪物が喜ばれるのはフィクションの中だけだ。非日常は、日常の外に置かなくてはならない。

 

 せっかく世に啓蒙思想が広まって、世界は暗黒時代から抜け出すところなのだ。余計なチャチャは入れない方が良い。

 

 「・・・解った、遺跡と『ヌエ』の情報は秘匿しよう」

 

 想定内だな。

 

 「遺跡の内部には公開できない情報も在る。まだゴタついてるが、『縛鎖(ばくさ)の遺跡』と巨大な『ヌエ』のミイラはハンター協会の権限で暫く封印って事になるだろう」

 

 ハーブティーを嬉しそうに飲みながら、バッハがリラックスして答えた。

 

 『縛鎖の遺跡』!名前が格好いい!

 

 あ、そうか、遺跡の封印には『神字』が壁一面に刻まれていた。そう言えばあれもマル秘案件だったような・・・どっかで学べないだろうか・・・

 

 「了解した」

 

 その後も、『ヌエ』に関する情報の交換が続く。どうやら、今後又同じ種の怪異が表れた時のために対処法をできる限り記録しておきたいようだ。ギムリット(分身体)が細かくメモを取っている。

 外に出て、三匹目が浮かび上がって膨らむ前に、小さなネズミの状態で倒したと伝えた件を除けば、ほぼ事実そのままの流れを話す。無論、私の念能力に関しては、既にバレていることも含めて一切を明かさない。

 

 やはりアレは、『暗黒大陸』からの渡り物なのだろうか?

 

 それらしいことを仄めかして、私が『暗黒大陸』の事を知っているかどうか確かめたい様子だったが、しらばっくれておいた。

 

 何となく、アーシアあたりにはバレてるような気がするけど、言質を取られなければ問題ない。

 

 知っているとバレたら、対処の手伝いをさせられそうな気がする。今更だが私は元々いない存在なので、世界の大局に関与するのは避けるのが基本方針だ。助けるのは手の届く範囲のみに限る。

 

 出来るのは、出来ることだけ。

 

 私の念能力に関しては、説明中にクロンドル卿が何度か詳細を聞こうとして、アーシアに止められていた。能力の事を聞くのは、マナー的にもとる行いのようだ。

 

 

 「ミカゲ君はハンターになる気はないのか?」

 

 アーシアに注意されて凹んでいたクロンドル卿が、唐突に切り出した。

 

 皆の会話が止まる。

 

 驚いてない様子を見るに、規定路線なのだろう。クロンドル卿が来たのは此のためか。

 

 「・・・ハンターにか?」

 

 考えなかった訳ではないが、間違いなくスローライフプランから逸脱してしまう。

 

 この世界に来た最初の頃の、『目立たず静かにひっそり隠れ住む』プランに固執しなくて良さそうな位には地力が付いたと思う。

 

 それでも、『クルタ族』であることや右目の『蒼緋眼』のことがある。

 

 世界の表舞台に立つには、まだちょっと早い。

 手早く復讐を果たし、あと十年位は修行して、念獣達の二次権能が十分に成長し、十全に使用できるようになるまで。今の、地方のちょっと強い念能力者以上の肩書きは必要無い。

 

 だから。

 

 「今んとこ興味無いかな」

 

 ごめんなさい、だな。

 

 「そうか・・・」

 

 クロンドル卿は、ホッとしたような、ちょっとガッカリしたような顔をしていた。

 

 「そんな、あっさり断らなくても・・・」

 

 バッハが、何故かハンターの特典と利便性を猛烈にアピールしてしつこく入会を勧めてくる。

 

 「・・・何でそんなに熱心なんだ?」

 

 今の時代は、経験年数と実績の有るハンター三人の推薦が在れば、会長の面接だけで無試験でハンターになれるらしい。あと会長は女性で、その年齢については絶対に触れてはいけないそうだ。

 

 ・・・何だその後半の情報。

 

 「バッハはミカゲ君のファンなのよ」

 

 「あ、おいっ!」

 

 アーシアが、あっさりばらした。

 

 「はぁ?」

 

 何処にファンになる要素が?

 

 殴り倒して茶をいれてやったくらいしか接点無いぞ。

 

 「べ、別に容姿は関係無いぞ・・・ミカゲが常識外れにクソ強いから、その圧倒的な強さにちょっと深く感銘を受けたっていうか、それだけだ!」

 

 言ってることが、ガタガタだ。

 

 バッハに、少し上ずったファン目線で視られても、何か勘違いしているのではと首を傾げるのみだ。

 

 「・・・そうなのか?」

 

 この前来た時、やたらとフレンドリーだったのは其のせいか。

 

 「戦ってる時のミカゲ君の動き?武術って言うの?華があって格好いいからね・・・ほとんど何やってるのか解んないんだけど」

 

 アーシアの補足に、バッハもしきりに頷いている。

 

 「ほう・・・」

 

 私は、流麗で静謐な師匠の動きを思い出した。多少は師匠に近づけたか?

 

 「はぁ・・・ここの焼き菓子、相変わらず美味しいわぁ。

 ・・・・ねえ、それよりこの前貰ったハーブティーなんだけど、ハーブを扱っている商会に同じ物を頼んだら、何か『害地』の希少な植物?が混ざってて無理だって断られたわよ、何処で買ったの?」

 

 アーシアが勧誘の話をブッタ切って、強引に話題を変えた。

 

 「この前来たとき土産に持たせた奴なら、私が自分で採取して調合した品だ。今出してるのも同じ物。因みにそのクッキーも市場で材料を揃えて私が作った・・・・『害地』って何?」

 

 旨かろう。ちなみに、私の身体に対する効果を診断した念獣達の医療情報によると、入れたハーブは健康にもすこぶる良いらしい。

 

 「自分で?そんな馬鹿な!」

 

 アーシアに、笑いながら否定された。酷い。

 

 「・・・『害地』ってのは簡単に言うと、余りにリスクが高過ぎて人が入れない土地の事だ。

 ただ害になるだけの土地、だから『害地』と呼ばれている」

 

 復活したバッハが、少し説明してくれる。

 

 「この辺だと『ゲルの大森林』の『(むくろ)の森』とかが悪名高くて有名ね、あの森には他にもいくつか『害地』が在るけど・・・」

 

 アーシアが実名を出した。

 

 

 何か、聞いたこと有るような・・・・

 

 

 「・・・・でも、念能力の使えるハンターなら、問題なく出入り出来るんだろ?」

 

 私、其処で十年くらい暮らしてましたし。

 

 「まさか!無理無理。ああいう死地に入れるのは、念能力者の中でも其れ専門に能力を開発したネイチャー系の探索者ハンターだけよ。それでも油断してると死んじゃったりするんだから。

 普通の念能力者が入ったら猛毒や寄生生物に殺られて、まず生きて出られないわね。

 まぁ、その危険な寄生生物を身体に取り込んだりして、平気で武器にするようなイカれたハンターも居るんだけど・・・・」

 

 アーシアが無自覚に抉ってきた、

 

 「へ、へ~・・・」

 

 死地、デスか・・・

 

 ちょっと勘違いしていたらしい。

 

 そか、あそこ一般人だけじゃなく、ハンターも寄り付かないヤバさなのか。

 そういや、原作にも噛み付いて毒よろしく寄生虫の卵を流し込む能力者とか居たなぁ。

 

 

 まさか、件の『害地』に住んでましたとも言えず、結局ハーブティーの()は『害地』近くで群生地を見つけ独占している。『害地』自体には嫌な予感がしたので侵入してない。と言う事にした。

 

 ヤバいハーブの名は『翡翠茸(ひすいだけ)』と『銀冠樹(ぎんかんじゅ)の葉』。

 

 私は見た目から、トリュフみたいに土に埋まってた『翡翠茸』を色味と形から『ブロッコリー茸』。丸くて金属光沢の有る小さな葉がびっしりついていた灌木を『銀冠樹』ではなく『百円樹』と呼んでいた。

 

 バレなくて良かった~。

 

 自作ハーブティーは、他にもさほど珍しくない野草や花びらを七種混ぜて出来ている。内容は秘密。

 『翡翠茸』はほんの少ししか入れてないのに、成分を言い当てたハーブ屋は流石プロ。

 

 師匠が死んだ後、もっと健康に気を使うべきかもしれないと生薬に凝っていた時期が有ったのだ。ミックスハーブティーはその頃の副産物。実食した物の効能を念獣達が面白がってデータ化して、味との兼ね合いでブラッシュアップしていって何年か掛けて出来た。余りに毒物が多くて難儀した。

 

 ちなみに、『翡翠茸』は世界七大奇病の一つ、バルサ病の特効薬らしい(今聞いた)。

 

 私にとっては、たまに見かける良い香りのする(きのこ)。食べても旨い。お茶には香り付けにちょっとだけ混ぜてある。

 

 『銀冠樹』の方は老化予防と滋養強壮。

 

 年寄りに大人気だそうだ。うちでも大人気。飲むと体調が整い、お通じが良くなる。

 

 『銀冠樹』は他にも採取地がいくつか在り、金を積めば何とか手に入る。しかし、『翡翠茸』は採取候補地が少数有るだけの幻の茸らしい。専門のハンターに(つて)が無ければ、手にいれるのは不可能に近いのだと熱っぽく語られた。

 

 「・・・つまり、余分に有れば買い取りたいと?」

 

 全員頷いている。

 

 「・・・価格は、何年か前のオークションで金貨千二百枚(一億二千万円くらい)だったか・・・」

 

 クロンドル卿が、基準になる価格として過去の取引価格を告げる。

 

 他のメンバーが「あっ!」と言う渋い顔をした。

 

 まぁ、田舎者から買い叩く気だったんですね。解ります。

 

 地方に行けば地方価格を期待しますよね。

 

 クロンドル卿、頭は固いけど悪人では無いようです。

 

 「どのくらいの量で?」

 

 採取が面倒臭いから、そんなに沢山は無いんだよなぁ。

 

 「中サイズが一つ・・・この位か?」

 

 クロンドル卿が、ピンポン玉位の大きさを指で示した。真顔だ。

 

 「・・・え!マジで?」

 

 そうか、あんな掘り残しの芋みたいな茸がなぁ・・・

 

 普通はあんなとこまで入って行けないし、土に埋まってるんだから見つけるのもムズいのか。

 

 「どうだろう?」

 

 クロンドル卿は、有ればオークションの落札価格と同様の金額で買い取りたいという。しかも、ダメなら更に上乗せもすると言う。

 さすがハンター。さすが貴種。金持ってるなぁ。

 

 詳しく聞くと、特に身近に病人がいる訳じゃないが、貴重な物だから手に入れればステイタスになるし、換金するのも容易で大都会なら引く手数多だそうだ。

 

 私は一旦奥に戻り、『あり得ざる小さな世界(フォーチュン・イン・ザ・ポケット)』から三つの壺を取り出した。

 リンゴ程の大きさで、岩から"周"の修練がてら私が削り出した自作の容器だ。

 蓋も石製で(にかわ)で密封してある。

 

 戻ってきて、それをギムリット以外の三人の前に一つずつ並べた。

 

 すかさず壺にじゃれつこうとするピートを止める。

 

 「これは?」

 

 アーシアが尋ねる。

 

 「ん?お話の『翡翠茸』、一壷一個入り」

 

 あれ?

 

 「これじゃ中身が確認できないじゃないか、開けてみてもいいのか?」

 

 バッハが壺を手に取る。

 

 「・・・開けても良いが、直ぐに色抜けして香りも飛んでしまうぞ」

 

 知らんのか。開けたら買って貰おう。

 

 「え?」

 

 今にも力任せに壺を開こうとしていたバッハがピタリと止まった。

 

 「・・・判った、『翡翠茸』には、そういう性質が有るのね?」

 

 察しの良いアーシアが、先に了解した。

 

 「その通り。『翡翠茸』は、光の無い夜に掘り出して、光の入らない容器に、出来れば密封して保存するのが望ましい」

 

 ちょっとでも光に当たると、直ぐに劣化が始まる。判明するまで何個も無駄にした。

 

 そのままだとだんだんと萎びて行くが、出してすぐ薄切りにすれば、水分が秒で揮発して一週間から一ヶ月程は香りを楽しめる。効能も同じだろう。壺に入れたままなら二年は持つ。

 

 そこまで説明すると、中身が確認できないにも関わらずクロンドル卿は一つ金貨千二百枚で三つとも買いたいと言って来た。

 

 「いや、売るのは一人に一つずつだ」

 

 商品確認が出来ないし、知り合い価格で金貨百枚に割り引いてやった。

 

 「それなら私も買おうかしら」

 

 アーシアが現地価格に飛び付いた。

 

 「俺も買おう、食っても旨いんだろ?」

 

 バッハが便乗する。

 

 臭いで場所がすぐ解るし、現地では特に珍しく無いので、また取りに行こう。

 

 結局三人とも買った。

 

 私が売った事が漏れると面倒になりそうなので、一応口止めしておく。バレたらバレたで構わない。変なのが来たら処するだけだ。

 

 「・・・あのう、私の分が無いのですが」

 

 嬉しそうに小さな壺を抱える三人の脇で、ギムリット氏(の分身体)が、恐る恐る疑問を呈した。

 

 喋れたのか!かえすがえすも優秀だなぁ。しかも、今まで其れを秘匿しようとしていた。大したものだよ。

 

 ・・・でも。

 

 「流石に本人が来てなくちゃ貴重品は売れないよ、割引優待は友人だけの特典だ。信を得るには、せめて身をさらすだけの覚悟が無いとね」

 

 分身体だと私が気づいていたことにギムリット氏(分身体)が驚き、他の三人も氏が分身体だったことを知って驚いていた。

 

 ギムリット氏のやり方は、ちょっと前の私の行動パターンとよく似ている。万難を排し隠れ潜み、己の生存を第一とする。でも私は、それを少しだけ変えることにしたのだ。

 

 

 それでは、つまらないから。

 

 

 ハンターハンターの世界でも、覚悟と強さが在れば世界を楽しめる。

 

 せっかく羽が有るんだから、飛ばなくちゃもったいなくない?

 

 その後、何だかんだと長居して陽が沈む頃、彼らはようやく別れの挨拶をして宿に帰っていった。

 近くシュマの街を離れるらしい。

 

 

 

 ギムリットの本体は結局来ず、売れた壺は三つだけだった。

 

 




 バルサ病:身体が、四肢の先から順に結晶化して砕け、粉になって行く奇病。結晶化する四肢を全く動かさず、綺麗に結晶化させた物は人体収集家に高く売れる。色に個人差有り。

 
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