長らくお待たせいたしました、今日から十日間十話分連投します。お楽しみ下さい。
61、金輪
「金輪のガリルの弟子を探している?」
師匠の知り合いか?
会えば解るか・・・・
その三人の客は、午後になったばかりの
黒服と娼妓達が遠巻きに見ている中、三人は明らかに堅気じゃない雰囲気を撒き散らしていて、二人が真ん中のテーブルに座り、一人が其の背後に立っている。
誰かと思ったら、座っている二人は見た顔だった。
懐かしい相手だ。
しかし、相手は私の事を知らない。
私が一方的に見知っているだけだ。
前に私が隠れて彼らを覗き見していたとき、彼らは師匠を殺そうと戦いを挑んでいた。
場所はゲルの大森林を貫く街道。私が墓から這い出して、森に隠れ棲むようになった少し後の話だ。
確か、名前は『ピークス兄妹』。
当時、それなりに知られてた裏の世界の住人で、腕も其れなり。
しかし、伏兵を用いたとは言え『武』に関しては達人級で尚且つ念能力者でもある師匠──『金輪のガリル』を、死ぬ寸前まで追い詰めた、此方も念能力者の殺し屋コンビ。
彼らは
どちらかと言うと、彼らのお陰で不思議な縁が繋がり、『武術』の師を得られた。
感謝すべきと迄は思わないが、奇縁の在る相手だ。
十年経ったのに、二人とも外見は余り変わっていない。流石は念能力者。
妹の大女も相変わらずの薄着でヘソ出し。何がとは言わないがデカい・・・いや、小男の方は少しキューピーへアーが薄くなったか?
私は、武士の情けで其処からそっと目を逸らした。
後ろに立っている二十代前半の若い女は知らない顔だ。弟子か?長髪を一本の三つ編みにしていて気の強そうな童顔。二メートル程のモップの柄のような真っ直ぐな木の棍棒を、武芸者のように馴染んだ様子で腕に抱えている。二人の使用人的立ち位置なのに、強い自負心と戦闘欲がオーラと顔に出てしまっている。手綱は弛そうだ。
そして、こいつも念能力者。
滅多にいないはずの念能力者を最近良く見る。私の名前が売れてきた弊害か?
まあ、いいや。
「ミカゲだ・・・」
嘗められないよう、私はちょっと圧を掛けながら
「私の事をお探しとか・・・さて、どちらさんかな?」
向こうは此方を知らないし、『緑美楼』店内だし、敵対する理由も無いし、一応平和的に語りかける。
多少面倒だが、怪しい奴は先ず殴ってから話を聞く蛮族ムーブは店では自重している。
相手にもよるが。
とりあえず、話す相手は椅子の二人だ。
「・・・お前さんが『金輪のガリル』の弟子を名乗ってると聞いたが?」
私を確認した後、怪訝そうに小男が大女と視線を交わして言った。
私が、思っていた以上に年少だったので、少し混乱しているようだ。
「正確には名乗ってるだけじゃなくて、実際に弟子ですね」
事実を淡々と告げる。必要ないので特に挑発の意図は込めない。
小男は慇懃なまま停止。大女の方は片目をすがめた。少し苛つき始めている。脳筋で気短な気性は、十年前と少しも変わっていない。
「・・・俺らも荒事の多い稼業に就いて長いから、あんたが見た目より腕の立つ
しかし、
警戒し疑うよりも、妙な話を聞いたといった調子で小男が疑問を呈する。
此方を立てる言葉からして、彼は不必要な戦闘はしたくないようだ。意外と冷静。年食ったせいか?
自分達が苦労して殺した相手の弟子を名乗る詐欺師紛いの偽物なら、只ぶちのめして落とし前を付けさせる積りだったのだろう。
ある種の人々にとって大物殺しは
又、彼らは
そして現れた私は、前者にしては腕が立ちすぎ、後者にしては若すぎる。
そりゃ困惑するだろう。
確か彼ら、特に操作系の小男の"発"は、自分で小さなナイフを複数操るメインの技の他に、配下に待ち伏せさせて彼の念を込めた弓矢の十字砲火に嵌める、と言う絡め手があったはず。師匠も其れでやられていた。
事前準備無しに腕の立つ(かもしれない)相手との突発的戦闘は望まないのだろう。強化系で短慮な大女とは少し違う。
「・・・あぁ、あんた方『ピークス兄妹』か!
師から聞いたよ。何でも、
私が初めて会ったときも、まだ足を引きずってたよ。と、話の流れをぶった切って今気が付いた
此方は既に名乗ったぞ。
二人はギョッとして、その驚きが顔に出た。
無理もない。
私が、彼らの秘匿しているであろう戦術や師匠との戦闘の経緯を知っている。
という事は、
私が、本当に
つまり、
その場合、十年前の『ピークス兄妹』は『金輪のガリル』殺害に失敗していた、
という結論になるからだ。
唐突に派手な音が響く。
「・・・嘘だ!」
大女が怒りに任せてテーブルを叩き壊し、ぶるぶる震えながら感情的に否定した。
ありゃ?話の通じないタイプかな。
「兄貴の毒を受けて、あれだけの怪我をしたジジイが、『害地』に流されて生き残れる訳はねえ!てめえ、どっからその
大女がテーブルの残骸を撥ね飛ばして立ちあがり、ソファーから動かない私に向かって大股に一歩。身長差から打ち下し気味に思いきり頭を殴りつけて来た。
流石強化系。瞬時に拳が戦闘用オーラで包まれている。普通の人間なら頭部が無くなる程の重撃。
十年前より腕は上がっているけど、この位なら想定内。
恐らく舐めた態度の小僧に、
先程のオーラによる軽い威圧から私の強さをある程度想定して、それでも何なら死んでも構わない位には力が籠っている。
此方の対応策は、①そのまま食らって吹っ飛ぶでも、②かわすでも、③避けるでも、④カウンターで逆に沈めるでもなく、⑤拳をそのまま受け止める。だった。
但し、ちょっと動いて胸元で受け止める。
興味津々で現場を見ていた黒服や娼妓には、それは異様な光景だったろう。
静かに話し合っていた大きな女が突然何事か叫び、テーブルを撥ね飛ばし、ソファーに座る私に思いきり殴りかかったのだ。
しかも殴りかかった筈なのに、その拳が私の身体にぶつかった時点でピタリと静止している。
胴と拳がぶつかった音さえしていない。
問題無い事を示す為、偶々目が合った女の子にウインク。
『円掌拳』八法の五、『
その場で一番驚いたのは、間違いなく打撃を放った大女だった。
「・・・なっ!」
私は、拳を受け止めてから身動き一つしていないのに、弾かれたように一気に自分が座って居たソファーすら飛び越え、恐怖に駆られたように間を取った。
小男も、ほぼ同時に下がったが、これはポジション取りのようだ。大女が殴りかかった時にはもう動いていた。近接戦で戦えない訳ではないだろうけど、あくまで後衛と言うことだろう。
もはや、驚きに目を見開いただけで動かなかった若い女武芸者が、私に一番近い位置になってしまった。
「・・・まさか、あれを
かすれた声で漏らす。女武芸者は、私の使った技を知っていたようだ。感心感心。
「何だ?」
小男が奇妙な現象を怪しむ。
連れかと思ったが、三人の知識に大分差異がある。二人の弟子ってわけじゃ無いのか?
「こいつ、おかしな"発"を!」
大女が、的外れな事を言い出した。
「・・・違うぞ」
お話しの途中なので、私はまだ立ち上がってもいない。
「今のは"発"ではない、『
相手の打撃力の
『円掌拳』では『雪音』と言い、
まぁ、今回は相殺の為に"廻"式"流"もチョイ『変化』させて使ってるが、根幹の技術は師直伝の『武』だ。オーラの『変化』による応用は、基礎修業の賜物。
「・・・そう興奮するな。何もしないから座れ。埃が立つ」
いきなり殴り掛かってきたし、もうボコって放り出しても良いんだけど、師匠の話が出来る相手は滅多にいないし、ちょっとした誤解も解いておきたい。
「・・・お前がガリルの弟子なら、俺達は師の仇ってわけだ」
小男が、緊張を滲ませて告げる。
「そうだ!本当に奴の弟子なら、私達を恨んで復讐の機会を狙っていたはずだ!」
二人とも完全に戦闘態勢。
大女は構えて"堅"。小男はちょっと引いて大女の影に入り、懐に突っ込んだ手には念を込めたナイフが握られている。見えてないけど。
若い女は少し離れたが、オーラを纏って戦闘準備万端。引きぎみだが"周"を施した棍棒を、槍のように構えている。一応向こうの味方らしい。
一触即発。
周囲の『緑美楼』従業員は、少し離れてこそこそ話をしている。
常識外の私の強さを知っているので、心配する者は誰もいない。まぁパニくられるよりは、面倒がなくてよい。
「いや、何言ってんの?師匠は別にあなた方に殺されてないし、負けたのも了承してたって今話したよねぇ?」
私は、呆れたようにオーバーリアクションでお手上げを示唆した。
「誰も殺されて無いのに誰が誰の仇を討つの?」
・・・・・・・・
「・・・え?あ、そうか、そうなのか」
数秒待つと小男が自分の行動の矛盾に気付き、ぎくしゃくと戦闘の備えを解く。
同時に彼の目の前の未だ解っていない大女の肩を叩いて注意を引く。
「何だよ兄貴!・・・え?・・・どういう・・・」
兄が妹に小声で事情を話して状況を納得させるのに、数分かかった。
私は、彼らが落ち着いたのをみとめて見物していた黒服に合図を送り、席を移して場を仕切り直す。
「まず最初に言っておくが、私に武術を教えてくれた師、通称『金輪のガリル』は数年前に亡くなった。病死だ。
だから、あんた方が師匠を殺したと言い張っても別に師匠は気にはしないだろう。そういう人だったし、実際師匠に勝ってるわけだしな」
本当は不機嫌そうに、「死ななきゃ勝ちだろう?」と鼻を鳴らしていた。
「だが私はそんな事実無根の与太話を認めないし、人に聞かれれば私の知っている事実を話す」
それを了解しておくように通告する。嫌なら何時でも相手になると。
「・・・ガキが!ずいぶん生意気な口を利きやがる。今すぐ師匠と同じところに送ってやってもいいんだぞ!」
大女が凄むけど、先程の件のせいでちょっと腰が引けている。
「ちょっと待て、ピンキー!」
ピンキー?
「・・・でも兄貴」
「いいから黙ってろ」
大女改めピンキーを小男が制する。
そして、こちらを推し測るように上目使いでじっと見つめ、口の端で笑う。
「お話は拝聴したが、肝心の『金輪のガリル』氏が既にお亡くなりなら、あんたが弟子かどうかの真偽も言ってみれば藪の中ってわけだ」
確かに、事実はどうあれこのままなら双方言ったもの勝ちになる。聞いたものは信じたい方を信じるだろう。
私は、続けるよう軽く頷いて同意する。
「でだ。あんた、いや君の言う通り我々は君の師との戦闘経験が有る。ここは一つ君の腕試しをさせては貰えないか?本当に『金輪』の弟子かどうかも其れで判別できるだろう」
なるほど。後で闇討ちするにしても、情報を取っておこうと言う算段か。しかし、此方のメリットが無い。
「ただでとは言わない。同意してくれるのなら、君の師の遺品を進呈しよう」
小男が懐から何かを取り出し、机に置いた。
武骨な、鋼鉄製の腕輪のような物だ。幅が三センチ、厚みが一センチ程有る。
一瞬解らなかったが、すぐに気が付いた。これは、『金輪』だ。
師匠が襲われた時に、現場に残していった杖。それに嵌めてあった、打撃を強化するための装飾品であり、『金輪のガリル』の二つ名の元となった師の遺物。
師匠は先端部にこいつを嵌めた杖で、相手の剣や槍をパキパキ折ってたらしい。
恐らく二人は、大物殺しの
今回は、何らかの必要性を見越して持って来ていたのだろう。若しくは偶々。
「・・・これは、あれか?」
一応確認。
「お察しの通り、君の師の『金輪』だ」
どや顔ムカつく。
ピンキーは、不満そう。と言うことは本物か。
「・・・いいだろう、付いてきてくれ」
室内でやる訳にはいかないので、いつもは『
ピンキーちゃん、現在の処作中最キョヌー(人類では)