嵐の夜に飛び立とう   作:月山ぜんまい

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 62、兄妹

   62、兄妹

 

 場所を移してさて腕試しと思ったら、目の前にピンキーと並んで女武芸者が意気揚々(いきようよう)と棍棒を構えていた。

 

 腕試しと言うからには、とりあえず一対一かと思ったが違うのか?

 

 「二人か?」

 

 私が、少し違和感を感じて首を傾げると、女武芸者と二人で並んで立って居たピンキーが、対する私に集中している彼女の頭をノールックでいきなり殴った。グーで。良い音がした。

 

 「く~!」

 

 女武芸者が、頭を抱えて(うずくま)る。

 

 「邪魔だ!」

 

 ピンキーが、離れろと手で空を払う。

 

 「・・・戦闘になったら混ぜてくれる約束だろう!」

 

 女は引かない。

 

 「ちったあ空気読め!あほんだら!」

 

 ピンキーは、めんどくさそうに兄の方を見やる。

 

 「無視するな!港で約束した案内の交換条件だぞ!」

 

 ・・・・・

 

 彼女らの騒がしい会話によると、女武芸者はここに来る直前に港で拾った単なる同行者のようだ。

 兄妹が『黒門のミカゲ』の居場所を聞き込みしていたら、話を聞きつけてやって来た旅の武道家だったらしく、荒事になったら露払いを務めることを()()()買って出ていたようだ。

 

 ピークス兄妹側の扱いも(いた)って軽い。小娘一人。邪魔しなければどうでも良かったのだろう。

 

 もし私が売名目的の偽者の弟子なら初手を押し付け、仮に腕が立つなら手の内を探るための捨て駒要員として利用しようってところか。強いて言えばアルバイトのザコ戦闘員だな。

 

 現状、私にぶつけても秒で()されてしまうのが解りきっているので、既に用済みだと兄妹は相手にもしていない。

 

 更に、今入ったどうでもいい新情報として、実は女武芸者は一昨日一度店までやって来て、馬鹿正直に「噂のミカゲ殿に一手指南を受けたい」と言って門前払いをくらったらしい。この場所を知っていたのは、そのためだ。見物人に見覚えていた者が居て、隣の者にこそこそ喋っているのを『(ジェミニ)』が聞き取った。

 

 何にしても、やたら元気のいい女武芸者は無邪気な素直さがその立ち居振る舞いに透けて見えていて、思わずホッコリする。

 

 一方の、隠そうとしても隠しきれない陰鬱な瘴気(しょうき)漂うピークス兄妹とは、根本的に違う(くく)りの人種だ。何で一緒に居るのかと思ったら、単なる道案内だったのか。

 

 ちなみに、基本的に私との面会は、誰かの紹介が有るときに限っている。例外は、断れないような客と、他の者の手に負えないときだけだ。

 

 女武芸者も一応相応の念能力者だが、未だ"纏"も甘く"堅"も不安定。武術はともかく戦闘系念能力者としては、念の方の修業不足が目立つ。

 

 恐らくは、所謂()()()()()()()()()()()()ってやつを受けていないと思われる。念に関する知識も、中途半端だった師匠とどっこい位なのだろう。この時代だと妥当な線なのか?

 

 個人的な所見だが、この手の情報は原作で描かれる二百年後には、もっと世間に広く流出しているのではないかと思われる。

 具体的には裏ネットのディープな場所等だ。

 情報は時と共に拡散されて行くものだし、電子情報媒体のネットワークが整備されれば情報拡散のハードルも下がる。

 原作の中の念能力者用ゲームに登場する複数の一般的念能力者を見るに、そうでないと大して鍛えてもいない凡庸な者が多すぎるような気がするのだ。

 ただ、あのゲーム内の面子に関してはもしかすると例外的事案かもしれない。愉快犯的な誰かが、念能力者専門の謎のゲームに一般人が参加するための特殊な方法として、オーラ習得までの方法()()を裏で流出させた可能性が有る。

 

 遥か先の事はともかく、現在は貴重な情報は誰もが秘匿して守る時代だ。彼女の現状も当節の当たり前なのだろう。どうにも考えが浅く、衝動的な印象が強いが、私の受ける感触だと『ピークス兄妹』の見立てよりは彼女の武才は(あなど)れないと思う。

 今のピンキーの一発も、あとほんの少し予備動作が有ればかわせた可能性が高い。このまま放ってけば師匠のように其れなりの念能力者に成るかも知れない。

 

 ちょっとバカっぽいが、戦闘狂には有りがちの性格だろう。強化系だろうか?棍棒持ってるから、具現化系か操作系?

 

 

 ややあって、私が呆れて見ている内に、小男が走り寄って女武芸者の襟首を掴み、ギャンギャン騒ぐ彼女を脇へ引っ張って行った。ちなみに彼の名はピント。ピント・ピークス。『ピークス兄妹』の兄の方。

 

 

 仕切り直してピンキーの前に立つ。

 

 未だ新しく綺麗な石畳の上、特に始まりの合図も無く互いに向かい合って構えを取る。

 

 こちらはリラックスしているのと対照的に、ピンキーは攻めあぐねているようだ。

 

 「・・・あ!」

 

 唐突に私が声を出したので、ピンキーがピクッとした。

 

 「・・・何だ!」

 

 自分が過剰に反応してしまったことに苛ついて、不機嫌にピンキーが吼える。

 

 「こっちだけ相手の能力を知っているのは不公平だから、一応私の能力のも()()()だけ、教えておこう」

 

 私が、彼ら『ピークス兄妹』の能力を知っていることは、師から聞いた話として先程ばらした。だから、ピンキーの緊張を解くのと誤導(ミスデレクション)のために、恩着せがましく公開用の能力を披露するつもりだ。

 

 離れた距離のまま開いた手をピンキーに向けて伸ばし、少しずらして『衝撃余波(プチ・バースト)』を一発だけ発動する。

 

 表面上何の音もなく、伸ばした手の先に生まれた衝撃波は、油断していたのか知らなかったのか"凝"をしていなかったピンキーに気づかれる事も無く、彼女の耳元を通りすぎて髪を揺らし、背後の立ち木から枝葉をごっそり剥ぎ取って虚空に消えた。衝撃波の通り道が丸く削り取られている。

 あ、しまった。後で庭師に怒られるかもしれない。

 

 ピンキーは、衝撃波が掠めた耳を反射的に押さえ、枝葉が削り取られる異音に驚いて振り向いた。

 

 ふと見回すと、その場の全員が木立の枝葉を丸くくり貫いた『衝撃余波(プチ・バースト)』の痕跡を凝視していた。

 

 「・・・こんな感じだな」

 

 思ったより受けたな。

 

 私が手を掲げた時から、抜け目無く"凝"をしていたピントが、思いの外驚いた様子で木立と私を繰り返し睨んでいた。何か冷や汗もかいている。

 

 「・・・オーラの気配が・・・兄貴、奴は何をやった!」

 

 ピンキーが開始位置から少し下がり、ピントに声を掛ける。

 

 「・・・解らん、オーラは飛んでない。放出系では無いようだ・・・手元で何かやった所までは捉えていたが、その先は"凝"でも見えなかった。何かを凄まじい速さで飛ばしたようだが、何かは確認出来なかった・・・」

 

 ピントが小声で情報を伝える。

 

 あ~、要約すると『何も解らん』だね。

 

 この間迄来てたハンター協会の斥候役。ギムリット氏に比べると、分析力がまだまだ甘い。彼は、一目で空気の塊だと見抜いて居たもんなあ。正確には振動だけど。

 

 いや、これ多分あっちがおかしいのか。

 

 何か残念な感じのイメージしか残ってないけど、世界の危機に対応するような、恐らくこの時代でも上位の使い手だもんな。

 

 威力は微妙でも、放出系のようにオーラを飛ばしてないから、相手が念能力者との戦闘に慣れているほど混乱する。

 

 この、猫だまし的小細工感が『衝撃余波(プチ・バースト)』の持ち味の一つだ。

 

 正直言うと『衝撃余波(プチ・バースト)』の単純な威力増強は難しくない。

 日々の修練で鍛えられた放出系の能力を取り入れて、遠距離起爆を可能にすれば良いのだ。

 出来上がるのは、変化系と放出系の混合"発"。一般的に見ても、そっちが通常ルートだろう。

 

 しかし、それをすると近接戦闘者(クロスレンジファイター)としての純度が落ちる様な気がして、あえて見送った経緯がある。

 日々の修業の果てに最終到達点に至ったとき、今のやり方の方が、更なる高みに昇れる気がするのだ。

 

 それに、放出系を混ぜればどうしても今のべらぼうな連射能力は落ちる。

 

 それじゃ詰まらない。

 

 「・・・ちっ、しゃらくせえ!」

 

 色々考えるのが面倒臭くなったのか、葉っぱは飛んでも枝が残っているのを見て大した破壊力じゃないのを見破られたのか、ピンキーが大胆に間合いを詰めてきた。

 

 動きを合わせて殴りかかる右腕をすり抜けるように踏み込み、掌底で軽く左脇腹を打ち、回転するような歩法で離れる。

 

 見物の一般人には、ピンキーの突進を回転で往なして摺れ違った様にしか見えない一交差。

 

 ピンキーは別に倒れる事もなくピタリと動きを止め、再起動まで数秒が掛かったが、再び位置を入れ換えた私と向かい合う。いつの間にか、額に油汗が浮かんでいる。

 

 またしてもピンキーが前に進み、私がすり抜けるように通りすぎて、今度は背中同士をトンとぶつけ、ピンキーが動けなくなって立ち止まる。

 

 ギャラリーは、何をしているのか解らずにざわついていたが、ピントと女武芸者は青い顔をしてこの模擬戦を凝視している。

 

 又もや再起動したが既に何が起こっているのかを理解しているピンキーは、冷えた汗を滴らせながら、私を見詰めるだけで動けない。

 

 『円掌拳』八法の六、『木霊(こだま)』。

 

 大したことはしていない。只、防御のオーラを貫通させた衝撃波で心臓や呼吸の活動を一時的に阻害しただけだ。

 ずっと止めたままにする方が簡単だけど、それだと普通に相手は死んでしまう。

 

 「・・・まだやるか?」

 

 動かなくなったピンキーに、模擬戦の継続を確認しようとすると、ピントから何かが飛んできた。

 

 攻撃ではなく放られた物だ。

 

 クルクルと回転しながら鈍く光を反射し、私の手に収まる。

 

 師の、『金輪のガリル』の金輪だ。

 

 模擬戦放棄のタオル代わりか?

 

 「・・・よく解った、君は間違いなく『金輪のガリル』の弟子だ」

 

 ピントが妹に歩み寄りながら、模擬戦の終了を告げた。

 

 「・・・どうも」

 

 特に恨みもない。貰える物さえ貰えれば、彼らがどうしようと後は関係ない。

 

 腕の差は解ったはず。トチ狂って闇討ちしようとしてきたら、返り討ちにするだけだ。

 

 金輪は、よく磨かれていて錆一つ無い。

 

 ただ死蔵するのは勿体無いから、私の杖に着けるか。サイズも合いそうだし、上手く顔に被せれば変顔石の鉢金っぽくなるだろう。

 

 「・・・大丈夫か?」

 

 ピントがピンキーに肩を貸して隅のベンチまで歩かせている。

 

 たった二合手を合わせただけで、ピンキーはまともに動けないほど消耗していた。

 

 「・・・あ、あいつの時と同じだ。動けば死ぬと思った。あの時と同じ感じがした・・・」

 

 「・・・バルタザール級か・・・そうか、であれば勝てんな・・・今度の仕事はキャンセルだな」

 

 ぶつぶつ何事か呟くピンキーを、ピントが宥める。

 

 バルタザール?

 

 ほう・・・強者か?

 

 

 

  ・・・近づかんとこう。

 

 

 「なあ君・・・いやミカゲ君。君がその若さでそれほど強いのなら、師のガリル氏も然して変わらない程に強かったはずだ。そうだろう?」

 

 妹をベンチに休ませたピントが、回復までの間に躊躇(ためら)いがちに話しかけてきた。

 

 「まあ、そうですね」

 

 私は頷く。実戦は兎も角、武術の技量や深みでは未だ師匠のほうが上だろう。

 

 「ならばなぜ我々は勝てた?あの時もう既に病が彼を蝕んでいたのか?」

 

 私との圧倒的な技量差に、どうやら少し自信が揺らいでいるらしい。

 

 「・・・あなた方と闘ったときの師は、未だ元気だったようですよ」

 師の最後の闘いを、病のせいで敗れたとはしたくない。

 

 「ただ、あんな強面(こわもて)でしたが師は殺しが余り好きではありませんでした。だから、手配書の無い(賞金首ではない)あなた方を生かしたまま取り押さえようとしたようです。

 あなた方が勝ったのは、戦術において師の予想を上回ったからですね」

 

 師が負けたのは、油断と名の有る相手なのに読みが甘かったせいだと締めくくる。

 

 生前、師も最後の会話でその辺りは認めていた。技量差など些細なことで簡単に覆ると、戒めとして話してくれた。

 

 この件は知らせておきたかったので、聞いてくれて丁度良かった。

 

 「・・・そうか」

 

 ピントは、苦いものを呑み込むように返事を返した。

 

 その後、『ピークス兄妹』は迷惑料だと言って其れなりの金額を置いて去っていった。テーブルの修理費とかね。

 

 何となく、十年前より『ピークス兄妹』から受ける禍禍(まがまが)しい緊張感が抑えられ、印象が薄くなっていた気がした。

 確か、前はもっと濃密な殺気をひけらかすように纏っていて、通行人から気軽に声を掛けられるようなキャラではなかったはずだ。

 

 しかし、かといって弱くなった訳ではない。

 

 恐らく十年の間に彼らも変わったのだろう。

 

 どんな業界でも、いつまでもイケイケでは居られない。ある程度は仁義を通し、約定を守る姿勢を示さなければ、結局は誰も相手にしなくなり淘汰される。命が掛かった生業(なりわい)なら尚更だ。

 元の世界のヤクザやマフィアでさえ、上の方に行けば少なくとも建前上は、信用や道義を大事にするようになる。

 これは海外でイベントを開催するときに、地元のスジ者相手に実際に経験した。

 『ピークス兄妹』も、何処かで軌道修正を余儀なくされたのかもしれない(実践したのは多分兄)。

 

 その定石を無視できるのは、国や組織を個人で相手に出来るような本物の怪物だけだ。

 

 原作における『旅団』とか『奇術師』とか『世界一の殺し屋一家』とか・・・

 

 

 ・・・・ハンターハンターの世界では、意外と珍しくないのかも。

 

 

 それに、なまじ力が有っても(ぼう)『蟻の王』みたいにやり過ぎると、世界の敵(ワールドエネミー)認定されて、よってたかってボコられる。

 

 ・・・・・・・

 

 まぁ、今の私は地方の強者レベルだから関係無いよね。

 

 さて、部屋に戻ってピートと昼めしでも・・・と思ったら、未だ一人残っていた。

 

 「じ、自分は槍術士のソラと申します!」

 

 『ピークス兄妹』に取り残された女武芸者が元気よく自己紹介をした。

 

 「世に知られた使い手のミカゲ殿に一手御指南いただきたい!」

 

 棍を脇に抱え、直立して微動だにしない。

 

 このために、わざと残ったらしい。

 

 昼飯は少し遅れそうだ。

 

 まあ、自分から名乗るだけさっきの二人よりましか・・・

 

 

 

 

 

 




 南米のヤバい人。昭和のロボットアニメで盛り上がって、妹を紹介される仲に。
 一緒に夏コミに行く約束をしたが、公安が入国を拒否したため果たせず。
 主人公にとっては、只の金持ちのオタク友達。
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