嵐の夜に飛び立とう   作:月山ぜんまい

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 65、ハッベル

   65、ハッベル

 

 予定日の朝、船は無事目的地の『ハッベル』の街に到着し、一行は港に上陸。

 

 港には地元のファミリーの者が出迎えに来ていて歓迎の挨拶と『六合会』の簡単な段取りの説明。

 その後先方に指定された宿にチェックイン。

 

 ただ、案内役の地元の若い幹部の態度が妙に慇懃(いんぎん)で、胡散(うさん)臭かったのがちょっと気になった。

 

 「おかしなことを考えて無きゃ良いんだが・・・」

 

 『六合会』に六代表の一人として参加するハシムが気にしていた。

 

 この街の『マーガム・ファミリー』は代替りした若いボスが率いていて、まだ危なっかしいと聞いている。本人の評判も芳しくないようだ。

 

 街毎の問題や多少の実入りの違いはどうしたって有る。同じ地域で人や金をやり取りする以上何処も其れなりに不満は抱えている。それでも抗争になれば少なくない痛手を負うし、派手にやれば領主や国の介入を招く。

 それを避けるための利益調整の場が『六合会』だったはずだ。

 

 ちょっと不穏。

 

 まあ、頑張れ(他人事)。

 

 こちとら只のジジババ共の主治医(お守り)だ。

 

 ヤクザな家業の皆様方の、序列や首のすげ替えがどんな成り行きになろうと、正直ど~でもいい。

 

 大事なのは、観光と旨いメシだ!

 

 保存技術がまだ未発達で、地元に行かないと珍しい物は喰えんのだ。

 

 この街は農業も盛んで美味しい物も多いと聞いている。

 

 ・・・あ、ジジババ共の御供行脚(おともあんぎゃ)も有ったか。

 

 マリオ爺からハシムに代替りした『シュマ』の港湾労働者共同体(ファミリー)の公式?名は、対外的には『シーマ・ファミリー』と言うらしい。

 ハシムが相手方幹部に挨拶していて、今回初めて知った。当然ながら私以外もちろん全員知っていて、有ったんかい!と内心驚きながらもポーカーフェイスで誤魔化(スルー)した。

 

 下調べによると、ハシムが気にしている地元のマーガム・ファミリーは街の人足手配の仕事を担っていて、基本的には『シュマ』の街のハシム達と変わらない。

 

 違うのは、ここの街が河の中洲を含む河口の東西に跨がっていて、古くから港が整備され、周囲が広い農地に囲まれている事だ。

 隣国も近く街道も整備され、収穫の時期には荷馬車が列をなすと言う。

 人足手配の仕事も多様で、港や倉庫の荷役から街道の補修、荷馬車の臨時の護衛、農地の期間労働者、他多岐にわたる。

 

 本当に美味しいところは領主やそれと繋がった大商人が握っているにしても、動く人、動く金はかなりのもので、地元ファミリーの実入りは相当に多い。

 

 因みに、新たに参入する商人には港の利用料金がとても高く設定されていて、それを嫌った新興の商人達が興したのが隣の領地にある『シュマ』の街だ。街に歴史あり。※黄金のお茶会情報。

 

 滞在期間は三日。三日目が『六合会』当日。会合の主目的は六人揃っての取り決めの承認。細かい調整は全て、事前に終わらしてあるそうだ。

 どちらかと言うと、その前に行われる『席次戦』の方が盛り上がるので、そっちがメインのように扱われている。

 

 到着当日の今日は、担当治癒士権限でジジババ共に一日休息を強制。旅の疲れを癒すためだ。宿から出られないよう外出禁止を重ねて言い渡した。

 

 本人たちも疲れが溜まっている事は自覚していて、あれこれブーブー文句を言った末に、渋々外出禁止に同意した。何故か付き人達には流石だと尊敬の目で見られた。

 

 

 さて、身軽になった私は一つ()()()()と洒落こんでみますか。

 

 宿の人間に聞くと、まだギリギリ朝市のやっている時間。場所は確かめず、港近くの人通りの多い場所へと気配を頼りに通りを歩き出す。

 

 ハッベルは、シュマよりも古くからある街なので、並ぶ建物は皆年代を感じさせる石造りの重厚なものが多い。

 それでも窓際に花やハーブのプランター、石畳に響く子供達の声、路地の二階、三階に渡されたロープの雑多な洗濯物に、この場所に生きる者達のたくましい生活感が垣間見える。

 

 お?こっちについてきたか・・・

 

 入港から宿迄ずっと付きまとっていた監視者の気配が、宿から私に移った。

 

 となると、標的はやはり私か。

 

 只の監視なら放っといたけど、後から数人集まった中に殺気の込もった粘っこい視線の持ち主が居たのだ。

 

 多分、プロの殺し屋。

 

 前に、シュマで路地散策をした際、二人組のナンパ野郎に襲われて返り討ちにしたことがあった。

 

 その時は只のキレ散らかしたチンピラだとばかり思ってたんだけど、一応死体の身元調査を頼んだ『顔無しマゴット』から、ハッベルへと出発間際に変な報告が来た。

 ナンパ野郎二人組は『小鮫(こさめ)のゲフと大鮫(おおさめ)のルフ』と言う、ちょっと名を知られた殺し屋コンビだったと報せてきたのだ。

 しかもメインの活動拠点はここハッベルで、シュマに来たのも私を()()にするためだと。

 

 何でか解らんが、この街に私を殺そうとしている者が居るらしい。最初、『クルタの子』の復讐関係で動いている者(私)の正体がバレたのかと思ったけど、それならば念能力者でもない只人の殺し屋を差し向ける訳がない。と思い至り、じゃあ何なんだ?と謎の解明の為に出てきたのだ。

 

 小鮫大鮫の時はとりあえずその場で始末してしまった。今度襲ってくる者からは事情を聞き出す算段。

 危ないので、ジジババ共は御留守番だ。

 

 いつもの朝の散歩だと思ったのかピートも付いてきたけど、ピートは不死身なのでギリOKとする。

 

 ただ、ちょっとイメチェン。

 

 この街でもサルは嫌がられるし、目立ちすぎるので、イヌに変化してもらうことにした(初見)。

 

 ピートの変身能力も、もう気がつく人は気がついても良しとする。雷獣とか霊獣とか、適当にしらばっくれるとかすればいい。

 

 旅の解放感?

 

 念獣であることはもうバッハ達にバレたし、アーシアは変身の事も知っていた。ハンター協会に知られた以上、一般人に秘匿したところで然したる意味は無い。エナガバージョンだけはヤバいけど、今のところ事実上目撃者は存在しない。

 

 ぼわっと姿が変わりサルのピートが消え、イヌのピートが現れる。

 

 ・・・・ん、毛玉?

 

 長毛種の小型犬?

 

 ピート、イヌバージョンは一見白いポメラニアン?通称シロポメに見える姿。なのだが・・・

 

 この時代に、もうポメラニアンって存在してるのか?

 

 「キャン!」

 

 ・・・可愛い。

 

 ぴょんぴょんしながらじゃれて来るのを、両手でわさわさと撫でる。さらに撫でる。

 

 ピート大喜び。

 

 ・・・イヌも良い。

 

 ちょっと脚が太くて短く、微妙に何かヤバイ狼系魔獣の幼体なのではないかと疑問が持ち上がったが、たしかこれ以上年取らないらしいし、可愛いから良し。

 勿論額の黒いハートマークはデフォ。よく見ると、四本の足先も申し訳程度の縞が有って靴を履いたように黒い。『ヌエ』の影響か?エナガサイズだとほぼほぼ解らなかったけど、この大きさなら判別可能なようだ。うん、問題なし。

 

 迷子にはならないけど、ピートが盗難に遭う恐れが有るので(可愛いからね)事故防止──ピートには『絶対気絶(アブソリュート・スタン)』の自衛能力が有ります──の為、首輪とリードは着けておく。

 『縛鎖の遺跡』で回収した金の首輪を使うかどうかちょっと悩んだけど、やはり目立ち過ぎるので却下。

 

 ワンコのピートはひたすら元気。

 

 ちょっと離れて辺りの臭いを嗅ぎまわり、すぐさま戻って来て私が居るか確認するのを何度も繰り返している。姿はどうであれ、知らない街をピートと一緒に歩くのは新鮮で楽しい。

 

 殺し屋が何処で仕掛けてくるかと街中をうろうろしていたら、遠廻りしたのに市場に着いてしまった。

 

 意外と慎重派なのかね?それとも人混みですれ違い様にブスリとかそういうタイプかしら。そういうのも仕事人っぽくて有りかも。

 

 なんか、楽しみになってきた。

 

 街自体はハッベルの方が遥かに大きいのに、市場の規模はシュマとそう変わらない。川と中洲に分割されているので、市場もそれぞれ別に有るのだ。

 倉庫街にはそれぞれ専門業者の市も別に有るらしい、交易の街らしい事だ。

 

 ピートと買い食いしながら住人用の市をぶらつき、古物等を扱う商店の並ぶ通りを聞きつけて、そちらへと向かう。

 

 殺し屋は現れず、そろそろ市を抜けるかというところで、果実売りの店先の陰から此方に目配せをする子供を見つけた。

 汚れたフードを深く被っていて、一瞬片手で顔を隠す仕草をした。

 

 視線が合い、こちらが気がついた事を確認すると、そのまま狭い路地へと消える。

 

 ・・・ちょっと驚いた。

 

 あれは、『顔無しマゴット』の一味のサインだ。

 

 シュマの街で、細々と少年ギャングを束ねる少し目端の利いた少女かと思ったら、マゴットは思った以上の遣り手だったらしい。

 彼女はどうやら、たった半年でこの地方に有る最低でも二つ以上の街に根を張った情報網を構築してしまったようだ。

 

 道理で、他の街の殺し屋の情報をあっさり掴んでくる訳だ。

 

 

 しかも、それを今私に伝えてきている。

 

 ・・・情報を商材にすることを勧めたのは、私だしなぁ。

 

 ガキ共にスリや掻っ払いをさせるより真っ当な()()()ではある。話次第ではケツ持ち迄は行かなくとも、名前を出すことを許す位はしなくてはなるまい。

 

 やるなぁ。

 

 何の後ろ楯も無い彼らには、『もしかしたら背後に私が居るかもしれない』と言う程度でも役に立つのだろう。

 他の業界なら兎も角、マゴットと競合するであろう近隣の情報屋界隈なら、私がそこそこヤバい相手だと言うことは、知っていて当然だ。

 

 このタイミングを選んだと言うことは、殺し屋関係の続報かな?

 

 はしゃぐピートを抱き上げて静かにさせ、ちょっと遠回りをしてさっきの少年の居る裏路地の店を特定し中に入る。居場所はさっき会った時マップにマーキングして追跡していた。

 

 店の看板は微妙にリアルな豚の絵。中は、屠殺され枝肉にされた豚が何頭も天井から吊るされている。

 

 今さらビビることもなく、肉切り包丁の振るわれる音のする方へと歩き、数人の大人と何人かの子供が働く解体場まで店の奥へと進む。

 

 誰にも声を掛けずに私が入って行っても、誰にも声を掛けられない。彼らのアジトの一つなのだろう。この場所では最初からそういう取り決めが為されているのだ。

 

 労働に勤しむ者達の中、片隅で力無くしゃがみこんでいる右手の無い少年を見つけ出し、話を聞こうと前に立つ。ぼろ布を包帯かマフラーのようにぐるぐる巻きにしていて顔は見えず、衣服も変えているけど先程の少年だ。

 

 「・・・・・」

 

 片腕の少年が、ピクリとして観念したように息を吐いて顔を上げる。

 

 「・・・来たばかりの初めての街で、あっという間に・・・」

 

 少年が、驚きを隠せない様子で言った。

 

 「偽装も移動ルートもお構い無しですか・・・さすが『黒門のミカゲ』さん。噂以上だ・・・」

 

 見たことの無い顔だ。この街の子かな?

 

 

 「試すような真似をして、申し訳ありません。我々はまだ足場が弱いもので、一度僕のやり方で噂を確かめたかったのです。失礼しました」

 

 豚肉処理場の事務所らしい小部屋に場所を移し、少年が礼儀正しくペコリと頭を下げた。

 

 「殺し屋の件で、『顔無し(マゴット)』からの追加情報が有ります」

 

 少年の雰囲気がビジネスモードになった。

 

 私は、軽く頷いて了承する。

 

 情報屋が用心深いのは良いことだ。スラムから見つけてきた人材だろう。目に力が有って、なにか生き生きしているように見える。きっと腕を無くす前も、それなりの仕事に就いていただろう。

 

 「頼む」

 

 少年が片腕なのは見えていなかったけど、動きの不自然さとタグが付いていたので最初から分かっていた。

 

 「『小鮫のゲフと大鮫のルフ』を雇ったのは、ここハッベルのマーガム・ファミリー現ボス、『サギー・マーガム』でした」

 

 「そうか・・・・目的は、 もしかして『席次戦』に参加させないためか?」

 

 他に理由が思いつかず、筆頭候補を挙げてみる。

 

 「・・・その通りです」

 

 少年が首肯した。

 

 「ふむ・・・しかし理由が解らんな。何で毎年有るような内輪の席順争いを、今年に限ってそこまで気にする?」

 

 知ってるかどうか、少年に確認。

 

 「今のところ動機は探り出せていません」

 

 少年が、残念そうに頚を振る。

 

 最近は席順を上下関係と勘違いする者が居る。とマリオ爺が言っていたのと何か関係有るのか?

 

 それが動機だったにしても、席次戦での勝敗なんか毎年コロコロ変わってしまうから、あまり意味の有ることでは無い。

 

 縄張りにしている街の規模によって、地力の違いは元々明らかだし、どこかが勝ちすぎるようなら、席次戦のルールそのものが変更されるだけだろう。

 

 「出場闘士に入れ込んでるとかか?」

 

 個人的感情の線。

 

 「それは無いですね。サギー・マーガムは、親のコネだけで成り上がった絵に描いたような小物で、やるにしても何か裏でコソコソやって小銭を稼ぐタイプです。ケチで有名なんで、周りに武闘派は寄り付きません」

 

 そんなザマで、マフィアのボスをやっていけるのか?でも、でかい組織なら生え抜きの部下が居るだろうから何とか成るのか。

 

 「・・・マーガム・ファミリーの金の動きはどうだ?何かで大きく散財して資金不足とか、席次戦で商会から大規模に掛け金を募って胴元をやってるとか、何か其れらしいことを聴いていないか?」

 

 金が目的なら分かりやすい。席次戦で意中の闘士を勝たせるために、強すぎる相手(不安要素)を排除しようと動くのは、有りがちなパターンだ。

 

 「全ては把握出来てませんが、マーガム・ファミリーに大きな資金的動きが有るとは掴んでいません。商業ギルドでもそんな噂は出てませんね。

 ・・・あ、最近だと、サギーが女関係で幾つか()()()()()、その後始末で其れなりに散財している程度です」

 

 おい、サギー・・・

 

 「・・・マーガム・ファミリーは大丈夫なのか」

 

 サギー自身がトラブル起こして、内部抗争でボスの座から引きずり下ろされそう、とかじゃないだろうなぁ。

 

 「それは多分・・・サギーも女関係と荒事以外なら目端の利いた処があって、内部の調整も其れなりに出来ているようです」

 

 なるほど。多少の騒動は、若さゆえの過ちって事で目こぼしされるのか。裏家業の住人だもんなぁ。前世の社会人とは訳が違うか。

 

 「・・・となると、殺し屋の件はますます訳が解らん・・・殺し屋も有名どころなら、結構な金が掛かったろうに。何か他に裏が有るのか?」

 

 やっぱ、殺し屋かサギー本人を取っ捕まえて聞いてみるしかないか・・・

 

 少年がピクッとした。

 

 「・・・あの、まさかマーガム・ファミリーとやり合うんですか」

 

 少年は、私から無意識に漏れた剣呑な空気を感じ取ったようだ。流石、弱いウサギはトラブルに敏感だ。

 

 「殺し屋を差し向けたのが連中なら、落とし前をつけさせないといけないからな」

 

 オハナシして和解できれば良いんだけど、馬鹿な勘違いをして組織を笠に着るようなら、ちょっと厄介だなぁ。多分、他の『六合会』メンバーが仲立ちしてくれるだろうから怪我人は出ても大事にはならないだろう。最終的に一度は見逃す感じで和解、かな。

 

 その後に又チョッカイ掛けて来たら事故死してもらうか。近場だし、あんまり波風立てたくないし。

 

 「そ、そうですか・・・」

 

 目の前の少年は、多分ハッベルの出身。マゴットから色々逸話を聞いてはいても、見た目自分と大差ない子供の姿の私が、この街の裏社会を牛耳る巨大組織とまともに噛み合う光景を、イメージしづらいのだろう。それでも少しずつ取引相手を見る目から、危険物を扱う慎重さが覗いてきた。

 

 「それで?小鮫大鮫の雇主がサギーだったと言う情報以外に、何か?」

 

 サギーの目的は不明のまま話を元に戻す。

 

 多分、まだ一つ二つネタは有るはずだ。

 

 外で、私が買い物するのを待っている新しい殺し屋の事とかさ。

 

 それを聞きに来たんだ。

 

 

 

 




 ワンコバージョン初披露
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