嵐の夜に飛び立とう   作:月山ぜんまい

66 / 70
 66、刺客

   66、刺客

 

 現在、腕の中のピートさんワンコバージョンを撫でながら、『顔無しマゴット』の部下に、店の外で待ってる殺し屋の情報を聞き取り中。

 

 そういえば、この少年の名前をまだ聞いていないなぁ・・・

 

 「そ、そうでした、雇われた殺し屋は現在全部で三組。

 一組目が『小鮫のゲフと大鮫のルフ』、コイツらがシュマでしくじったので其の後『狩人エンリケ』が後始末に雇われました。

 そして、最近になってどういうわけか、()()『奇面のシュルツ』が追加で依頼を受けています」

 

 少年が、困惑しながら殺し屋達の名前を告げた。

 

 「ほう・・・」

 

 あと二組か、鮫組が失敗したので急遽追加発注ね、殺意高いなぁ。

 

 外で付きまとってるのは恐らく『狩人』だ。『狩人』って言うくらいだし、多分得物はこの時代の狙撃銃。

 弓やクロスボウの可能性も有るけど、そういう斥候兵(レンジャー)寄りの得物を使うにしては気配の消し方が甘い。多分余り標的に近づかず、かなり遠間から殺傷力の高い銃で狙う狙撃兵(スナイパー)タイプの殺し屋だろう。

 

 なかなか仕掛けてこないと思ったら、狙撃位置に着くための時間が必要というわけだ。

 戻るまで宿の近所で待ってりゃ良いものを・・・あ、そうか、自分達で用意した宿が狙撃されたらまずいのか。責任問題になる。

 それで宿の外で殺すために、出先で私が店に入るか食事をする為に移動を止めるのを待っているんだな。

 

 お?・・・となると、今頃ここの外で張ってる可能性あり?

 

 「『狩人』の件は了解した。襲ってくれば直ぐに済むだろう・・・それより『奇面のシュルツ』、本物か?」

 

 最後の名前に心当たりが有る。

 

 「・・・はい、恐らく」

 

 少年が、私の様子を窺うように言った。

 

 「なんでも、標的があなただと聞き付けて先方から売り込んで来たそうですよ」

 

 彼も、この知る人ぞ知る有名人を知っているようだ。

 

 「・・・なるほど」

 

 『奇面のシュルツ』、この辺りに居たのか。

 

 『奇面のシュルツ』はある種、有名な賞金首だ。

 

 世界手配。生死を問わず(デットオアアライブ)、賞金は金貨二千枚。二億円。

 

 額が大きいし、その特徴的な似顔絵は酒場や街の掲示板でもわりと見かける手配書の一つだ。

 

 嘘か本当か知らないが、いつもペストマスクのような奇怪な面を被り、マントを手放さない。素顔は謎で、誰も知らない。お面には幾つかバリエーションがあって、その全てが奇妙な鳥頭モチーフ。

 有名すぎて、お面のバージョン違いの手配書を集めているコレクターまで居る。

 

 そして、最悪の戦闘狂で殺人狂。強者と本気で戦うために其の妻子を惨殺したり、何処かの闘技場や御前試合に無許可で潜り込んだりもしている。

 

 よく知られているわりに、情報がほとんど無い。あり得ないような所へ忍び込んだり、逃げ延びたりしている記録を見るに、十中八九念能力者だろう。

 

 手配書に奇妙な行動が細かく記載されている高額賞金首は、基本念能力者だと最近気がついた。

 知っている人に、注意を促す為だと思う。

 

 「金貨二千枚・・・ふむ、賞金稼ぎ(バウンディハンター)としては、稼ぎ時かな」

 

 そうか、向こうから来てくれるのか。

 

 何か、ちょっとワクワク・・・

 

 「わ、笑ってる?」

 

 少年が驚愕していた。

 

 「・・・」

 

 そうか、笑ってるか・・・

 

 ふっ。

 

 ぶっちゃけ金貨二千枚あれば、自前の船を買えそうだし、多少ニヤついても仕方あるまい。

 

 どこ行こう。夢が広がる。あ、乗組員とか要るなあ。

 

 

 おや?何だか少年が尊敬の目で見ている気がするぞ。

 

 どゆこと?

 

 「・・・やっぱり強い武芸者は強敵を求めるんですねえ」

 

 少年が小声で独り言を漏らしながら、頻りに頷いている。

 

 「・・・・・?」

 

 ん?強敵との戦いの予感で興奮?

 

 いや、ナイナイ。私そんなノーキンじゃないし。自分、ド田舎のモブキャラポジなんで、殺し合いとか真っ平っすから。イメージ崩すのめんどいから言わんけど。

 

 実際の戦闘ってあれだよね、(はた)から見てると運動競技とかの大会や研鑽した技量のテストみたいなイメージ持たれがちだけど、現実は難易度調整なんか無い死亡前提のクソゲーだから。

 

 原作でも読者の馴染みになった其れなりに人気も有るキャラが、突然死んじゃう。何てことが頻繁(ひんぱん)に有ったし。ハンターハンターの世界はそういう処。

 

 死は不可避。

 

 分かるけど、そういうのは他所でやってくれ。

 

 私は、戦闘は生きるための実務作業だと思うことにしている。武術も念も好きだし面白いけど、その方が怪我もしずらいんじゃないかと思って、そう心掛けるようにしている。

 

 未熟者だから、戦闘中に興奮して楽しくなっちゃう時も有るんだけどね。

 

 

 戦いを楽しむ何て言うのは、原作に出てくるような天才達、若しくは残念なカンチガイヤロウにだけ当てはまる気狂い沙汰(お楽しみ)だ。まあ、私は生き残るだけで十分満足。死ぬのは一度でもう()りてるから。

 

 

 「・・・追加の情報は以上です」

 

 私が面白そうに見ていたら、少年が我に返って言った。

 

 「そうか、邪魔したな」

 

 帰ろうとして、一つ気がつき、追加の情報を求める。

 

 「少年、名前は?」

 

 懐から銀貨の詰まった小袋を出し放ってやる。有用な情報だったので、少し多目だ。

 

 少年は、片手で器用に袋を掴みとる。

 

 「今は『小耳のジム』と呼ばれています」

 

 目に意思が籠っている。彼にとって意味の有る名であり名乗りなのだろう。

 

 「・・・『小耳』?」

 

 『片腕』とか『隻腕』じゃないのか?二つ名にするなら普通は特徴を捉えるものだろう。

 

 「はい」

 

 ジムが、意味ありげに無言で顔に巻いたぼろ布を取ると、その右耳は上半分が千切れ飛んだように無くなっていた。

 

 「商家で見習いをしていたおり、仕入れの途中で強盗団に襲われて二発喰らいました。耳と腕はその時に。

 腕を無くしたら即日商家から放り出されて、その後スラムで死にかけていたところをマゴットに拾われまして。

 今は、情報屋組織『顔無し』のハッベル担当です」

 

 新たに遣り甲斐の有る仕事を得たって訳だ。

 

 それに、『顔無し』をファミリーネームにしたのか。弱者や傷物ばかりが集まりそうだな。いや、逆に結束は強くなるのか。

 境遇を逆手に取ってて皮肉が効いてるし、それを飲み込んでやろうという気概も感じる。良い通り名だ。

 

 外に()が待っているから暫く表に出るなと言い含め、店から出る。

 

 

 店の前の路地に出た瞬間、『右目(ライブラ)』の≪天眼≫の未来予測が発動して目が潤み、『(バルゴ)』の≪結界≫の危機感知が発動して髪の毛が自動防御に動くのを止め、左手斜め上から飛んできた弾丸を素手で掴み止める。

 

 少し大き目で相応に威力は大きい気がする。マグナム弾ってやつか?だけどオーラ無し。ただの金属の弾丸だ。

 

 視線を向けると、三百メートルほど離れた教会の鐘楼に、スコープ付きの銃を構えた狙撃手が居るのを見つけた。酷く驚いている。『左目(スコルピオ)』の≪観測≫の視界が即座にズームアップされ、『狩人』のタグがつく。

 

 獲物発見。

 

 ピートを下ろして即座に移動開始。

 

 路地を二歩走り、家の壁を蹴り屋根に上り、通りを飛び越え最短距離で鐘楼へ。

 

 お?ちょっと離れて並走している誰かの気配。

 

 おや、『狩人』氏やる気だよ。

 

 『狩人』が、逃げ出さずに此方に銃を向けている。

 

 逃走が間に合わないと悟ったのか、十分に引き付ければ狙撃を受け止められないと思ったのかな?

 

 残り五十メートルの所で発砲。動いてかわせないように、私が飛び上がった瞬間を狙っている。基本に忠実だ。素手で掴めちゃうから意味無いんだけどね。心臓狙いを難なくキャッチ。

 

 周囲の教会の建物を最後の足場にして、付属の鐘楼へと飛び上がる。

 

 『狩人』は、思ったより小柄な男で、鐘楼に飛び上がった私に驚きながらも素早く懐から小型拳銃(デリンジャー)を引き抜いた。傍らには大口径の武骨なライフル銃が置かれている。威力は有っても、こちらでは取り回しが悪く小回りが利かないのだろう。

 

 見た目に寄らず、鍛え上げられた軍人のような見事な対応だけど、こちらの方が一手速い。

 

 と、思ったけど、私の背後の切り妻屋根の端っこ。青銅製のポールの風見鶏の上に、飛び上がって来た変な男が居るのを『(ジェミニ)』の≪把握≫が捉える。

 

 さっき隣を並走していた奴だ。

 

 瞬間的に相対位置を計算し、こちらのタイミングで『狩人』にデリンジャーを撃たせる。

 

 即座に私は躱し、弾丸は背後の風見鶏上の男の方へ。

 

 銃声と一瞬の交錯。

 

 私が身を翻した拍子にキャスケットが飛び、銀髪が流れる。戦闘中と判断し、『(バルゴ)』が勝手に邪魔な帽子を飛ばしたのだ。この辺は≪奇怪≫の権能の表れ。敵の初見殺し対策に、バレない程度に自由に動いても良いことになっている。

 

 見ると既に『狩人』は死んでいた。

 

 私ではない。

 

 首に、真っ黒い羽根が一本刺さっている。カラスの物だろうか、致命傷だ。

 

 振り返ると、黒いマントに身を包んだ男が一人。

 

 弾丸を拳で防御し、右手で何かを投げ放った体勢で器用にも風見鶏の更に上、細い支柱の先に微動だにせず立って居る。

 

 男は微動だにしていないが、立っている真下に有る風見鶏(雄鶏)が風に吹かれてキコキコ動いている。

 

 男の顔には、カラスのような黒い鳥の頭のお面。いや、黒一色ではなく、赤と緑で差し色がしてある。・・・何の面?

 

 「なるほど。噂に違わず、いや其れ以上に美しい・・・」

 

 かくっ、と鳥のように仮面を傾げながらも、此方から視線を外さない。

 

 殺し屋さん、三組目?。

 

 「くっくっくっくっ、はぁ、あっはっはっはっは!」

 

 何か、笑いだした。

 

 「くふっ、まさかまさか、こんなところでこうも上等な獲物に会えるとハ」

 

 男は、妙に芝居がかった仕種でくねくね動きながら、勝手に語りだした。

 

 「『奇面のシュルツ』か?」

 

 私は、鐘楼から繋がる建屋に飛び降り、正面の風見鶏上に立つ男を見上げた。

 

 何か、キモい奴だな。

 

 「・・・そういう君は、『黒門のミカゲ』に間違い無いかね?」

 

 シュルツが、奇妙な動きを途中でピタリと止め。顔だけ此方に向けて喋った。

 

 「そうだけど?・・・やるかい?」

 

 殺気が有るのか無いのか不思議な相手だ。こちらを殺したいけど我慢しているような変な感じがする。

 

 「そんな、簡単に、簡単に終わらせるのはどうだろう、勿体無く無いかね?勿体無いだろう。近頃は強者とはなかなか会えない時代だ。寒い時代だ。もっと、もっと、もっと深く楽しむべきだろう?!」

 

 また、キモい踊りを踊り始めて、最後、グ〇コのポーズになった。いや、何かの鳥か?

 

 え~と、どうするコイツ。

 

 「・・・失礼した、少し興奮してしまったようだ。私の悪い癖でね」

 

 突如、鳥頭(直訳)の男が我に返り、姿勢を正し紳士然として仮面を帽子のように取り器用にお辞儀をした。

 

 仮面は取ったが見上げる角度もあり、巧妙に隠されて顔は確認出来ない。仮面は最後にまた戻してしまった。

 

 「我々名の有る二人の戦いが出会い頭と言うのは余りに(おもむき)が無い。もう少し趣向を凝らした場を設けようじゃない、か!」

 

 シュルツの姿がぶわりと膨らんだように見えた瞬間、周囲の視界がシュルツから撒き散らされた黒い羽毛に埋め尽くされて何も見えなくなる。

 

 「また会おう!」

 

 『左目(スコルピオ)』の常時"凝"状態の≪観測≫の視界も、オーラ生成物で覆われて意味を為さない。ただ、今のところ此の羽に姿を隠す以外の効果は無いようだ。

 

 忍者の使う木の葉隠れのようだと、ちょっと感動。まあ『また会おう』も何も、私からは『(ジェミニ)』の≪把握≫で逃げる姿が丸解りなんだけどね。≪観測≫のマップ機能の方には、今も居所がマーキングされてるし。

 

 シュルツが姿を隠すと、飛び交っていた黒い羽毛もまた速やかに消えていった。

 

 面白いもん見れたし、また来るって言ってたから、取り敢えず放置でいっか。

 

 「・・・ワフッ」

 

 どうやって登ってきたのか、ワンコピートが私のキャスケットを咥えて屋根の上に上がってきたので、帽子ごと抱き上げて誉める。

 

 帽子を受けとり、さらに誉める。

 

 「どうやって登って来たんだ?」

 

 ピートは首をこてり。

 

 可愛い。

 

 他の姿に変化して登ったわけではないらしい。

 

 可愛いから良いか。

 

 さて。

 

 銃声が何度も鳴り響いて、おまけに今の黒い羽の乱舞。そろそろ下が騒がしくなってきたので、逃げ時だ。

 

 ちょっと戻って気になっていた狙撃用ライフルと拳銃をお土産にと『あり得ざる小さな世界(フォーチュン・イン・ザ・ポケット)』へ放り込み、ピートを連れてその場を去る。

 

 レアエネミー倒してドロップ品ゲット!

 

 ずっと、『衝撃の制圧圏(バースト・ヘヴン)』を(もち)いて遠距離攻撃をするための専用銃身が必要だと思っていた。

 

 そもそも遠距離攻撃用の装備は、この"発"の構想段階からのコンセプトの一つだ。

 

 銃器はわりと好きで海外で試射させてもらったり、関係資料も見たことが有ったから構造は知っているけど、どんな金属が適しているのかまでは解らない。

 森の中では木製や岩製の銃身も試してみたけど、いくら"周"をしたところで流石に強度が足りない。

 人里に出てからは、たまに銃器関係の店を覗いたり、港に停泊していた戦闘艦の大砲を内緒で調べたりして、どうも銃身には硬さよりも粘りが重要らしいと見当を付けた。

 

 『狩人』の使っていた銃は、多分オーダーメイドのちゃんと銃身にライフリングが切られたライフル銃だから、より正解に近いだろう。

 後は、こいつをモデルに鋼材を用意して削り出せばよい。

 

 ・・・鋼材有るかな?

 

 部品は誰かに頼む事も出来る。あんまり複雑にする必要はない。弾体が入って発射出来れば良いのだ。

 炸薬代わりに自前の"発"『衝撃の制圧圏(バースト・ヘヴン)』を使うので、威力の調整も利くし暴発不発の可能性も無い。

 弾込め方式は、散弾銃のような中折れ式より出来ればボルトアクションタイプの方が好みだ。

 

 でも、この時代にはまだ連発銃すら無いんだよなぁ。

 

 構造は解るから、自分用に密かに用意するしかないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 変なの出た。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。