嵐の夜に飛び立とう   作:月山ぜんまい

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 毎回の誤字のご指摘、感想、ありがとうございます。

 うっかり二年程お待たせいたしました。今作は未だエタってません。続きます。
 ようやく暇が出来て書けましたので、今日から十日間十話分連投します。ごゆっくりお楽しみ下さい。


 71、心界

   71、心界

 

 雲一つない青空の下、眼下には地平線まで続く樹海が広がり、名も知れぬ鳥や獣の鳴き声が微かに届く。

 

 今私が居るのは、前世の高層ビル群のように樹海からにょきにょきと屹立した巨石達。その、そこそこ平らな岩山のてっぺんだ。

 

 「・・・フッ・・フッ・・・ふ~」

 

 筋力を、と言うよりバランス感覚を養うお供にしていた、一メートルほどの自然石をひょいと放り投げる。二つとも。

 

 ここなら人目も周囲の被害も存在しないので、心置き無く鍛練に勤しめる。

 

 未だじりじりと上昇しつづける本来の身体能力の把握。そしてそれにリミッターを掛けている『全力稼働(フルポテンシャル)』のラグの調整も同時に行う。

 

 『全力稼働(フルポテンシャル)』。

 

 厳密に言うと、『全力稼働(フルポテンシャル)』の使()()は行使ではなく停止である。

 念獣達に、事故防止のために常時全身に掛けているリミッターの即時解除を指示しているのだ。

 

 使うとパワーアップするのではなく、普段がパワーダウンしている。

 

 俗に言う縛りプレイ。

 

 元は力加減を間違えないためのリミッターだったんだけど、立ち姿を見ただけで身体能力や力量を見抜くような、()()()()()タイプとか居そうだし、今は()()()()()と出会った時に手札の一つにもなるのではないかと考えている。

 

 あと、強化変身はロマン。姿は変わらないんだけどね。

 

 

 ・・・そういや最近使ってないな。

 

 つまりそれは、使うほどの相手に出会えていないと言うことだ。

 

 善哉善哉。

 

 私は戦闘狂じゃないし、強敵なんて出会えないに越したことはない。

 

 だがしかし、私が転生したのはハンターハンターの世界。会いたくないけど、強敵は何時か必ず現れる。

 生き残るための準備は十全にしておかなくては・・・

 

 いや、実際原作のネームドにはちょっと会ってみたい。けど、時代が違うから諦めてる。一応、長生きする予定だし若い頃のネテロ会長ならワンチャン有るかも?

 

 「・・・よし、『円歩(えんほ)』と『聞手(ぶんしゅ)』は終わり、『揺武(ようぶ)』に移ろう」

 

 そう告げると、なんか毛玉みたいなモフモフが何処からともなく集まってきて、まわりに集合した。十三匹。

 

 既に見慣れた『十三原始細胞(ゾディアック・プラスワン)』の念獣達、その『心界の幻影』バージョンだ。

 

 いつものように誘惑に負け、毛玉達に近づいて毛玉まみれになりながらワシャワシャとモフモフを堪能して一息入れる。そうして、やる気を回復させてから再び立ち上がる。

 

 

 「「「・・・・」」」

 

 毛玉達は、一時も止まることなく上になったり下になったりしながら、何だか嬉しそうにぽやぽやしている。なんか、ミーミーとかフニフニとか言ってるような気がするけど、気配だけで発声は無い。

 

 「うん?今日のステージか?・・・そうだな、渋谷のスクランブル交差点や新宿のオフィス街のビル群もいいけど、今日は基本に帰って巨木の森とかどうだろう?」

 

 言葉は無いが、イメージは伝わる。毛玉達が私の意見に熱烈賛同するようにピョンピョンと跳ねた。

 

 こちらの気分の切り替わりを読み取ったようにパッと毛玉達が散開、一瞬視界が光に包まれ、光が消えると既に周囲の状況はがらりと変化していた。

 

 

 さながら、人里離れた原生林の深奥。

 

 視点は地ベたへと下がり、ほの暗い始原の森は命の円環の行き着く先、極相林の様相を呈していた。

 

 (いわお)のような大樹は極太。見上げてもその最初の枝さえ高みに有る。

 澄んだ空気と天を支える御柱のような巨樹は荘厳で、聖域のごとき静謐(せいひつ)を無音の木霊のように深々(しんしん)(たた)えている。

 

 本気で耳を澄ますと、どこか遠くから水音が微かに聞こえる気がする。

 

 溢れるほどの命の息吹は在れど、鳥獣の気配は無い。

 

 静寂の中、漂う微かな殺気。

 

 落ち葉の降り積もった湿った地面は柔らかく、樹冠を抜けて差し込む淡い光が絡み合う太い根の上に巨樹の影を落とす。

 

 これも又、何時か見た光景だ。

 

 私は一つ呼吸をして雑念を祓い、腰を落して構えを取る。

 

 正面の巨樹の影から、ゆっくりと死んだはずの師匠が現れる。

 

 相変わらずの凶相で、足場が悪いのに運足に一分の隙も無い。今日は杖無しのようだ。

 

 生前の通称、『金輪のガリル』。

 

 うれしい。

 

 師匠とやるのは一週間ぶりだ。

 ()()()師匠は基本的に()()私と同等の技量(スペック)のはずなので、目の前の師匠が強くなっていれば、私の技量も同様に成長している証左になる。

 

 向き合った師匠と互いに礼をし、『揺武』に入る。

 

 静かに間合いを詰め、ゆっくりした基本の型から徐々に高度な技を交えて呼吸を読み合い、間合いを測り合い、悪しき揺らぎを削り合う。

 

 緻密な基本技の繰り返しで技倆の習熟度を練る『揺武』は程なく終了し、やがて立ち会いは模擬戦の様相を呈して行く。

 

 組み手は徐々に白熱して行き、常人ならあり得ないようなスタミナと集中力を発揮して攻防が延々と継続される。

 

 全力で今回の相手の思考を読み、能力の情報を集め、地形の高低や僅かな地面の凹凸を罠に利用し、戦いながら己の有利になるように状況を考察し戦略を構築する。

 キツいけど、必要なことだ。

 

 戦闘の才が不足している私が、センスのある達人級の相手に相対するための策。

 凡人が天才に追い(すが)るための策。

 戦闘経験を積み、その経験の厚みで才能と競り合う。そのために取れる私が思い付く唯一の策なのだ。

 

 ハンターハンターの世界で好きに生きるなら、これくらいはしておかないと直ぐ死ぬだろう。

 

 慣れるとゲームっぽくて、けっこう楽しいし。

 

 本来は同じ技量なので、最初にミスをした方が必ず負ける運ゲー化するはずだ。

 しかし、この師匠を運用しているのは実は毛玉達。なのでその実力は其々の持つ権能と性質の影響を受け、僅かに変化する。

 それが師匠の操縦時に微妙な改変を生み、大変攻略の難しいニュー師匠が爆誕している。

 事前の通告で、複数で動かすのは加減して貰っている。せめて二体までなら何とか対応可能なんだけど、三体以上が絡むと難易度が激上がりするのだ。

 

 手応えからして、今日は恐らく二体。

 

 相手が念能力を使いはじめる。

 

 あ、やべえ、今日の操縦者の片方は『心臓(レオ)』が入ってる!師匠が≪強化≫の権能を使って、肉体的スペックがこっちを上回った!

 くそっ、こっちはいろいろ制限してるのに!

 互いに、肩による『震撃』を相殺した一瞬の隙を突いて≪強化≫の権能が使用され、一時的にスピードで優越した師匠が肘を回しこめかみを打とうとする。

 

 「フッ!」

 

 直撃は避けたが師匠の位置が瞬間的に数センチ移動し、此方の体幹がずらされ、反転した逆肩の打撃を抑えきれず、派手に弾き飛ばされる。

 

 「うぐっ・・・」

 

 もう一体は、『右足(アリエス)』だ!戦闘中に≪瞬転≫で間合いを()()やがった!・・・やるぅ!

 

 飛ばされながらも相手を見失わず、バランスを回復して着地。

 師匠は追撃をせず、その場で此方に手を伸ばし指先でコイコイと煽る。

 

 ノリノリかよ。

 

 ・・・・・

 

 

 状況の異常さからも解るように、この世界は念で作り出した別の空間ではなく、単なる幻覚でしかない。

 本来の私の肉体は現実世界にそのまま存在し、意識だけがこの場に連れてこられているのだ。

 

 呼び名は『心界』。

 

 これは、『十三原始細胞(ゾディアック・プラスワン)』の『右目(ライブラ)』の≪魔眼≫の権能を使って行われている。

 

 つまり、現実ではない幻術の中での行動だ。簡単に言うと夢の世界での修行。

 

 普通なら、夢の中で修行しても現実に反映されないから無意味だ。

 

 しかし、身体の部位の十三ヶ所、いや、十二ヶ所が念獣に因って置き換わっていて、それ以外の部位も殆ど浸透した念獣の影響下にある私の肉体はちょっと違う。

 

 まず基本スペックとして、身体能力の基礎訓練による向上を、ほぼ必要としない。師匠に初めて武術を教わったとき、基礎体力が有りすぎて基礎鍛練を丸ごとすっ飛ばしたほどである。

 

 必要なものは習得した武術の実際的な運用法、対人格闘センスや戦闘勘など感覚的なものが主になる。

 

 勿論この世界は現実ではないから、武の動きを反射までもって行くには更に此れが実在の肉体へと反映されなければならない。

 そこでキモになるのが『心界の幻影』として『心界』に同行している『十三原始細胞(ゾディアック・プラスワン)』の念獣達だ。彼らはなんと、夢の世界での修行の成果を百パーセント現実の肉体に反映させることができる。マジで。

 

 チートだよなぁこれ・・・

 

 『右目(ライブラ)』の≪魔眼≫の能力は、元々『緋の眼』を欲しがる変態どもを破滅させる為に創った自衛と復讐の為の能力だ。

 

 それが幻術まで使えるのは、墓の下で『右目(ライブラ)』の原始細胞を創っている間の妄想に原因が有る。

 ≪魔眼≫と言う権能の字面から幻術使いのイメージが頭をよぎって、其れを混ぜ込んでしまったのだ。

 

 こちらの想いを念獣が受け取って願いの通りに成長したとも言える。

 

 墓の下で外部との接触を完全に断たれた状態だった私の念獣製作は、言わば全てイメージの中で行われた。

 有る意味私の心の中、『心界』で創造された彼らとのコミュニケーションも、やはり同じ心界で行われ続け、それは地上に出ても継続している。

 

 これが普通なのかどうかは分からない。

 しかし、どうやらこの『心の中の世界』と言うイメージは念獣達の中でも常態化していて、ある意味彼ら念獣達にとっては現実世界よりも『心界』の方が身近なようなのだ。

 

 そして念獣達は、眠りを必要としない。

 

 前に彼らに聞いてみたら、墓の下で私が休眠状態で暇なときに、念獣同士で修行していたそうなのだ。共有の能力を使って『心界』で。

 当時未だ彼等は当然現実のことは知らないし、制約と誓約もあって個別に動けなかったから当然なのだけど。

 ある意味、彼等念獣達は修行という永い道行きを、私よりも先に歩き始めていたのだ。

 

 マジ助かる。

 

 つまるところ、私が『バースト系』以外の念能力関係を放ったらかして自分の武術や戦闘経験向上に全振り出来るのも、このように『十三原始細胞(ゾディアック・プラスワン)』が、ほっといても勝手に修行して各々強くなる事を織り込み済みの能力だからである。

 

 生き残りに必死で、わりと最近まで気づいて無かったけど、これも結構なアドバンテージかもしれない。

 

 あと、定期的にすり合わせはしているんだけど、新能力を身に付けても、なかなか教えてくれなかったりもする。報告前に、少しでも効果を積み増してから出荷したい、そんな傾向が有るようなのだ。

 

 本来の『右目(ライブラ)』の≪魔眼≫の能力は、眼が合った相手の意識を一部占有する呪いが掛かる。そういう『操作系』の念能力、のはずだ。

 

 もし仮に≪魔眼≫の効果対象(人体収集家)が既に操作系念能力の影響下にあった場合は、『早い者勝ち』の法則に従い操作系としての効果は発動しない。ただし、念そのものは目の合った相手の意識の存在する場所に呪いのように不可視のまま残留し、≪魔眼≫の影響下に有ったときと同じ効果を定期的に発動する。これが、『早い者勝ち』を限定回避するための対策になっている。これ、操作系に分類して良いのだろうか・・・

 

 即ち、『蒼緋眼(そうひがん)』を目にした時に只美しいと感じるだけでなく、『蒼緋眼』の眼球その物を強く欲する者(人体収集家)の意識に、『蒼緋眼』を見た時の鮮烈な映像を繰り返し投影する。やることは只それだけ。

 

 だが、人間の印象は積み重なってその重要度を少しづつ増して行く性質がある。

 乾いた砂漠の砂のように心は己の好む感動を求め、そこに終わりは無い。

 執着は日増しに強くなり、積み重なった愛欲は段々と精神のバランスを欠いて行く。

 やがて常識という大事な人生のピースまでも盛夏の氷柱のように痩せ細って消えて行く。

 

 前世でもストーカー騒ぎとかで問題になってたけど、H×H 世界ならより顕著に効果が出るだろう。

 

 最終的に標的は、欲望をコントロール出来なくなり、坂を転げ落ちるように惨めに破滅する。

 

 これは、他者への警告でもある。

 

 『人体収集家』の道を選ぶと、貴方にも訪れる未来であると。

 

 ≪魔眼≫の『幻術』は、この最初の相手の意識に接触するタイミングで意識を全て占有してしまい、幻術の影響下に置いてしまう事によって発生する。

 

 感覚的には、わりと簡単に出来る。どうも私の『右目(蒼緋眼)』はかなり印象的らしくて、動物だろうが人間だろうが見たものは大抵一瞬呆けるので、その隙に術に掛かってしまう。

 勿論、幻術の基本イメージは念獣達馴染みの『心界』の何処かなんだけど、大抵は意識レベルを低下させて操るだけなので見たものは少ない。

 

 一部占有、と言う本来の念能力の副次能力で、一部占有に使うリソースで全て占有しようというのだから、当然効力は弱いのではないかと思われる。

 現象としては、一般人でも使える瞬間催眠に近い。相手を動揺させて意識を操作する技に、オーラをちょっと混ぜた感じだ。多分、腕の良い念能力者には通じないだろう。

 

 もっとも、日々成長する念獣達のせいで効果は上昇しつづけている。

 

 ちなみに、本来の≪魔眼≫は逆に効果範囲を限定することで効き目を強化している。

 ちょっぴり『特質系』も含んでいて、いかなる状況でも視線の合った相手の意識に直接繋がっていれば、たとえ他者の念能力を介していても必ず発動する。

 

 人体収集家(クソ野郎共)を見つけたら、逃がしはしない。

 

 なお、未だ使用したことは無い。

 

 

 「・・・ミカゲさん、起きてらっしゃいますか?そろそろ朝食だそうです」

 

 ノックの音と共に警護の男衆の遠慮がちな声が掛かる。

 

 まだ早朝と言って良い時間だが、ジジババ共が五月蝿いから朝食を早めたのだとドアの外から追加情報。

 

 「ああ、起きている、朝の瞑想をしていたところだ。直ぐ行くと伝えてくれ」

 

 申し訳なさそうな若い衆に返事を返す。

 

 私は、対外的には毎日朝晩一時間の瞑想をすることになっている。

 

 その時間は部屋にこもり微動だにせず座禅を組むか、それっぽいポーズで部屋の中で只立っている。今日はベッドで座禅を組んでいた。

 

 外見的には一時間。

 

 

 しかし、『右目(ライブラ)』の≪魔眼≫の力で『心界』に滞在する時間は、『左目(スコルピオ)』の≪加速≫の影響で少しづつ現実と乖離していってる。

 最初は、若干の誤差程度だったのが徐々に延びて、訳が解らなかったので何時ものように念獣達に確認したところ、『左目(スコルピオ)』の≪加速≫の仕業だと判明した。

 

 つまり、意識が勝手に加速され、体感時間が延びていたのだ。

 

 なんと驚き。

 

 まさにグッジョブ!

 

 限界まで頑張ると、今では現実での一時間の間に『心界』で五時間程の鍛練が可能となっている。

 非常にありがたくて利用頻度もマジ高いんだけど、こっちにリソースを割いたせいか現実での意識加速の成育度合いが若干遅れている。

 現実でも『心界』でも、やってることは≪加速≫で同じなのだから両方伸びそうなものだけど謎だ。

 

 

 今日は、予定ではこの旅行の目的である『六合会』の『席次戦』の当日。

 

 でも、予定どおりには行かないだろう。

 

 色々波乱含みだし。

 

 ベッドから出た足元に、ワンコピートがじゃれついてきたので、朝の挨拶をしながらすかさずモフる。ピートは、ハフハフ。

 

 「何はともあれ朝食だ、行くぞピート」

 

 まだ早朝なので、静かにドアを開く。

 

 「ヒャン!」

 

 空気を読んだピートの、抑え気味な可愛い返事と共に、いつもの愉快な一日が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 目指せ、精神と〇の部屋?
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