嵐の夜に飛び立とう   作:月山ぜんまい

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 今回の十話、オッサンばっかり出てくる。

 


 72、白円

   72、白円

 

 『六合会』当日午後。宿に居た『シュマ』の一行が連れてこられた会場は、中央中洲部に在る港の見える大きな倉庫だった。

 

 港と湾が一望出来る展望の良い高台に在り、すぐそこを貿易船や軍艦が盛んに行き交っている。全部木製だけど。

 

 「・・・倉庫じゃなくて、ホテルを建てるべきだったな」

 

 青い空と海のただ中を()()()()帆船達が優雅に漂う現実(リアル)の景観に、私は古い絵画を見せられているような気分になった。

 ふと、物語の中に入り込んだような軽い違和感に襲われて苦笑が漏れる。

 

 ・・・その通りだったわ。

 

 日常の中の何気ない気付きに、異世界転生した不思議を噛み締める。

 

 少なくとも、今感じる状況に苦さはない。

 

 

 「・・・ちょっと怪しくないかい?」

 

 「そうかな?サギーの肝っ玉の小ささなら、この程度の安全策は採ってもおかしくないんじゃないか?」

 

 私が、平和な海辺の景色に経済的機会損失を感じていると、カミラ婆とマリオ爺が今回の『席次戦』の段取りに、不審なものを嗅ぎ取っていた。

 

 銃器の持ち込みを制限するためだと言われ、馬車の乗り入れが出来たのは近くの通りまでだった。そこから五十メートルほどを全員が倉庫前まで歩かされているのだ。

 

 「・・・そこ、段差になっとるから気を付けてな」

 

 「ええ、大丈夫よ」

 

 ブルート御大は、色々あってちょっと舞い上がっているので、暫く役に立ちそうない。今もマリーさんと腕組んで歩いてるし。

 

 なんか、『シュマ』に帰ったら籍を入れるそうだ。

 

 本来ならマリーさん他、使用人枠の人達は宿に残すのが『六合会』での定番の対応。

 しかし、現在この街に根を張るファミリーのボス、サギーがどうにも信用ならないからと言うことで、一緒に連れてきてしまった。有りなのか?

 

 ・・・一応妊婦さんなんだけど。

 

 ブルート御大曰く、「ミカゲ()の側が一番安全!」なのだそうだ。

 

 まあ、一応治療師だからね。

 

 元気で扱い難いジジババ達は、しかしこの地方で其れなりに名士として名前が通っている。

 

 直接的には関係のない今回の『六合会』や『席次戦』に見学者として参加できるのは、このためだ(私は主治医枠)。

 

 ある種のオブザーバー的な招待客で、会における取り決めの周知担当。

 一部関係各所に、「変なことしてませんよ~」っと報連相する為にいる。

 まあ、どうせそれ以外の耳の良い人達にも漏れるんだけどね。正規ルートって事らしい。

 

 何時もの『六合会』ならば、現状の追認と少しの修正で終わりの楽な仕事の筈なんだけど、今回はちょっとあやしい・・・

 

 

 当然だが人払いされた大きな倉庫周辺にパンピーの気配は無い。木製の大扉も開いている。

 

 多少警戒しながら、二十人ちょっとの『シュマの街』のヤクザな御一行が中に入って行く。

 

 すると、先に来ていた他の街のファミリーの方々が、こちらを確認して積まれた木箱の陰からぞろぞろと姿を現した。

 

 皆、とことん柄が悪い。しかし、しっかり統制は取れている。

 

 私は、当然気配で分かっていた。

 

 「なんじゃ『シュマ』の連中か、確かマリオの奴は引退して、筆頭幹部のハシムが後を継いだんじゃったか?」

 

 ひょろりと背の高いじいさんが、白い山羊髭を片手で(しご)きながら言う。

 

 「その筈だ、奴なら鉄床(かなとこ)頭のマリオより話も分かる。腹を割ってこちらの懸念(けねん)を伝えておくべきだろうな」

 

 二人目は、短髪坊主頭にマッチョな体つきの(いか)ついじいさんだ。

 

 「先に来ていたか・・・」

 

 シュマの街一行(うち)のリーダーのハシムが、警戒を解いて前に出る。

 

 

 「ふんっ・・・ま~だ生きとったのか」

 

 話の通じない石頭扱いに、件の二人と目が合ったマリオ爺が大袈裟に鼻を鳴らして応じて見せる。

 

 その後、

 

 山羊髭がサジット氏、

 

 短髪マッチョがフォークス氏、

 

 と、彼らが誰かを教えてくれた。

 

 二人は、以前から付き合いの有る良識のある(まともな)『六合会』の現メンバーだと言う。

 つまり、この癖の有りそうな元気ジジイコンビは、それぞれが其々の街でファミリーを率いる現ボスと言うことだ。

 

 なんか、長老と頑固オヤジって感じ。

 

 いや、きっと人望はあるのだろう。

 

 事前に取得していた情報によると、地勢的に『六合会』の各街は同じ国の大きな半島に点在して有る。各々領主の違う街道の要所や湊町だ。

 

 つまり、ここハッベルやシュマを含めて六つの町は、ぐるりと海に囲まれた御近所さんで、その分関係も古くて長い。

 そのせいで、昔から衝突することも多々あったらしいけど最近は安定路線が続いているようだ。

 

 気を利かせたマリオ爺にジジイ二人の紹介を打診されたけど、速攻でお断りしておいた。

 それこそワンコピートの尻尾みたいにぶんぶん首を振って断固謝絶。

 

 あ、自分そういうのノーセンキューです。

 

 実際、私は色々と秘密や懸念があって目立つのは避けたい状況。

 それなりに腕の立つ用心棒として一般人の口に膾炙(かいしゃ)されるのと、裏の業界でヤバい武名が変に広がるのとでは全く意味が違う。

 

 特に、地元シュマ以外で不用意に名が売れるのは良くない。近頃は新たに変な異名までついてるようだし・・・

 

 目標は、「『シュマ』のローカルな腕利き」ポジション。

 

 こじんまりと、地味にやってゆくのが理想だ。

 

 少し前からその補強の為にシュマにやって来た賞金首を積極的に刈ることも始めている。

 

 小金集めにもなってる。

 

 端的に言って、治療院は基本紹介制で暇な時も多い。悪所に有るし、あまり余人に知られてもいない。

 一応の肩書きと念の修行の一環で、ぼちぼちやっているカバーストーリーみたいなものだから、儲かるほど忙しくなってもかえって面倒だ。

 

 情報屋を始めた『顔無し』に洒落で常設依頼も出した。

 

 ・・・今はちょっと後悔しているけど。

 

 金が主目的じゃないので依頼料は賞金からの歩合(賞金の一割)。最近はなんか常時港や市場に張り付いているガキ共が沢山居て、凄い精度と早さで私の処に報告が来るようになった。中には変な情報も多い。時々駄賃代わりに自作の菓子とか渡してるせいだろうか?

 

 テリトリーを守っているだけならば外からちょっかいをかけられる可能性は低い。けれど、他所様(よそさま)(いさか)いにまで余計な手を出すと、警戒されるし不安要素扱いされやすい。最悪、全然関係ないのに念のために殺されそうになったりもする。

 

 おそらく今回の、一連の殺し屋さんラッシュもその(たぐ)いだろう。

 

 殺そうとしてきた者を処分しなければならないのも地味に手間だし、でもやんないと嘗められるし、嘗められると私だけじゃなく周囲が危ない悪循環。

 

 「・・・いや、自分や身内に降りかかる火の粉は払うけど、それ以上積極的にバイオレンスな世界と関わるつもりは無いんで」

 

 目指すはH×H世界における、そこそこ平和な日常だから。あと原作の聖地観光。

 

 なんか変な顔をされた。解せぬ。

 

 私、名前も顔も別に売り出し中とかではないですからね。

 

 ジジババは面白がってるけど。

 

 今だって街歩きの時はこの美麗過ぎる顔が微妙に人の視線から外れるように気をつけているくらいだ(変態増殖防止)。

 

 シュマの街でさえ、たまに誰かとまともに目が合うと純粋にビックリされる(直視はまじヤバい・・・らしい)。

 

 何しろ、私を一目見るためだけに『緑美廊』にやってくる客まで居るようなのだ。男女問わず、ホールでお茶だけしてゆくらしい。

 

 以前、『緑美廊』の幹部連中にも『娼妓なら国を傾かせることも出来たのに、本当にもったいない!』と嘆いてからかわれた。性別に触れないところが微妙にリアルで若干引いた。

 

 念獣達は私の容貌の美化を頑張りすぎだと思う。

 

 実際に凸してくるヤカラには軽く威圧をカマしてビビらせているので大事には到っていない。

 

 しかし、名前はともかく此の容姿が広まるのはトラブルの種にしかならないだろう。

 

 地元で其れなりの評価はもう得たし、これ以上の風評は(変なの引き寄せるから)必要ない。

 

 もう、これ以上は動きづらくなって面倒なだけだ。

 

 マリオ爺は、二人が仕切る街やファミリーネームも一緒に教えてくれたけど、要らんので記憶に留めるだけにした。

 

 

 倉庫内は基本薄暗い。しかし、高い位置に有る窓から光が入っていて、人が見分けられないほどでもない。

 

 パッと見、基礎と床、腰板位迄が見慣れない黄色っぽい大ぶりなレンガ造り。

 残りは黒いニスの塗られた半木造建築で天井板は張られておらず、頑丈そうな丸太の梁が丸見えだ。壁際と奥に並んだ柱には装飾彫りがされていて、倉庫にしては手間が掛かっている。

 周囲の話によると、元は古い教会だったらしい。

 天井がやたら高いのもそのせいだろう。

 正面奥には十字の痕跡が、煤けた洋漆喰のアルコープにそこだけ白い。

 

 バスケットコートが三、四面は取れそうな広い石畳。開け放たれた庫内は埃が舞い、大小の木箱と樽がそこそこ残されていて視界が遮られる。

 

 倉庫内外に仕切り役のサギーファミリーの見張りや案内係も数人居るけど、誰もが無視している。

 信用が無いのだ。扱いはほぼ案山子。

 

 『六合会』メンバー全員が揃うまで、今少し掛かりそうだ。

 

 三つのファミリーの幹部連中が旧交を温めている間に、シュマ陣営の若い衆が一応倉庫内を探索しはじめる。何故かピートも参加。

 

 ≪観測≫と≪把握≫でもう大体分かってるけどね。

 

 気がつくと、ピートが天井を見上げている。

 

 何の気なしに視線を追うと、高い梁の上を走り抜けて行く一匹の小さなネズミ。

 

 何だ、ただのネズミ・・・じゃないな。

 

 一瞬だったけど、只のネズミにしては少しおかしなオーラを纏っていた。

 

 他者に見られても不審を抱かれないように、天井から視線をそらして平静を装い思考する。

 

 タグは付かなかった。見えたのが一瞬だったので、『左目(スコルピオ)』もネズミの正体に判定はつけられなかったようだ。念獣か?いや、野生のネズミを操作系の念能力で操っていたのかも。どっちにしても此の件に念能力者が関わっている可能性が高くなった。

 

 ぜんぜん関係ない念能力者もしくは組織が、近隣の実力者の会合を覗き見していた可能性も微妙に有るけど・・・

 

 ちょっと面白くなってきたな。

 

 暇なのか、倉庫探索以外の手の空いた者は他のファミリーの連中に倣い木箱や樽を運んで自分達の場所を区切りはじめた。

 

 私は部外者なので手伝わない。

 

 ネズミを見失い探索に飽きたピートが戻ってきたので、撫でてやるのに忙しいし。干し肉の切れっぱしを手の中に隠し、どっちか当てさせる最近のピートの『お気に入りのゲームその三』をして時間を潰す。仔猿バージョンの時よりもチラ見する見物人は多い。

 

 

 倉庫の床の目立つ位置に、白い円が真新しくペンキで描かれていた。

 察するに、これが『席次戦』が行われる場所(ステージ)なのだろう。結構ショボい。実際の闘いの時には白円はただの目安で、はみ出しても特に罰則は無いらしい。

 

 本来の流れとしては、ここで軽く旧交を温めながら今期の『六合会』の席次を決め、場を改めて会談。済んだら懇親会で歓談、解散して終了となる。

 

 カミラ婆が言っていたように、席次戦がこんな街外れの古教会倉庫で行われること自体、何か良からぬ企みを予感させる。

 現場まで来てみると、どう見ても街中ではやりにくい荒事が想定されている可能性を感じずには居られない。

 皆薄々は分かっている。それでも度胸と面子を売りにする男達なので、イモを引いて逃げ帰ろう等と言う者は誰もいない。

 

 厄介なことにジジババどもは其れを分かってて楽しんでる節がある。

 

 ヤレヤレだ。

 

 フィジカル頼りの殴り合いとは言え、男同士の熱い闘いのドラマ的なものを見られると思っていたのに、この分だと演目は変更になりそうだ。

 

 一部の世代交代したファミリーと、昔ながらの保守的なファミリーの小競り合いが今度の会合で表面化、と言ったところか?

 

 聞くところによると、『シュマ』と『ハッベル』のように街ごとの規模が違うため、各ファミリーの構成人数等勢力にも結構な差が存在する。しかし、現『六合会』はそれを無視して各ファミリーは同格と言うことになっている。それが気に入らないようだ。

 

 昨日見かけた粗野な大男とかサギー君とか、かな~りイキってたけど大丈夫か?

 何か、ガキンチョのワガママ以外の周囲を納得させる仕込みが無いと大人は付き合っちゃくれないよ。そこまできちんと段取り組んでるかねぇ?

 

 勢いだけで大きな争いになれば、領主(おかみ)の介入もあるかもだし。

 

 私も彼らのやり取りを見物させてもらおう。

 

 だって、手は出すなって言われてるし。

 

 あ、ポップコーンとコーラを持ってくるべきだったかな(こっち来てから未だ見たこと無いけど)。

 

 

 

 床の白円を中心に片側半分ほどを占有し、三つのファミリー各々が自分達のテリトリーと決めた場所で待ち構える。

 徐々に緊張感が増して重苦しくなって行く倉庫内。空気を読まず基本自由(ひま)なピートが、ふと興味を引かれ白円に走り寄って行った。

 

 顔を近づけ(しき)りに臭いを嗅いでいたところ、溶剤に刺激されたのかブルンと震え、突然変な音と共にクシャミをした。

 

 「ぷしゅ!」

 

 可愛い。

 

 ちょっと視線が集まる。

 

 そして、クシャミの勢いでふらふらと後ろによろけ、ぽてんと尻餅をつく。

 更に、くしゃみした自分にビックリしたのか、あれ?と周囲を見回しハッとして慌てて立ち上がる。少しふらふらしながら立ち上がった後、違和感があったのか再び刺激を振り払うようにブルブルと犬ドリルして身体を震わせた。

 

 それを、見るともなく見ていた強面のおっさん達。

 

 ちょっと空気が弛緩(しかん)する。

 

 この地方は伝統的に犬好きが多い。

 

 ぬいぐるみ染みた仔犬体型のせいで、ワンコピートは何かに集中していないと動きがぎこちない。そしてそれがマジ可愛い。

 

 皆さん、余所のファミリーから観られていることを意識しているので持ち場は離れないけど、うろちょろしているピートが自分達の方へやってこないかなぁと期待を込めて眺めている。

 

 その後、何人かの運のいいおっさんは、近づいて来た愛想の良いワンコピートをちょっぴり撫でることが出来た。

 

 

 比べてみればうちも含めてサジット氏(山羊鬚)もフォークス氏(マッチョ)も各々(おのおの)ボスと二十数人の取り巻きで白い円の周囲を固めている。

 

 全部で六組来るから、場所は丁度白丸の周囲六十度分ずつ。分かりやすい。

 

 皆同じ程度の頭数なのは、『六合会』の古い合意事項の一つだからである。

 長い間に挑発と示威と安全のバランスを取って、このラインに落ち着いたそうだ。

 

 お?

 

 ・・・ピート、そろそろ戻っといで。

 

 僅かな状況の変化を皆よりも先に感じ取って、思念を飛ばす。

 

 

 「わふっ!」

 

 腰を落とした私の所に突っ込んで来たピートを捕まえ、わしゃわしゃする。ピートも興奮して、尻尾がプルプルしている。

 

 「・・・遅い!まったく時間も守れないのかい!」

 

 皆言葉少なく静かな倉庫内に、恐れを知らぬカミラ婆の声が響いた。痺れを切らしたらしい。

 

 周囲の皆もどうやら同意見のようで、ややピリついている。

 

 ん?

 

 ・・・・あれ?

 

 残り三つのファミリーらしき集団が近づいて来るのを《把握》で確認していたら、妙な気配を感じ取った。『左目(スコルピオ)』の≪観測≫のマップに見知った名前のタグが付く。

 

 来た。

 

 来たけど・・・

 

 私は、足の間で仰向けになっていたピートを抱き上げ、沈黙のジェスチャーで静かにさせると共に気配を消し、少し下がって周囲の人影に紛れる。

 

 

 「やっと来たようだぞ・・・何だ?」

 

 「・・・おい、おかしくねえか?」

 

 「くそっ、奴ら・・・・!」

 

 マリオ爺達も、外から聞こえる物音と雑音のざわめきに気が付いた。そして、そこに何か違和感がある事にも。

 

 ぞろぞろガヤガヤと倉庫に入ってく来る態度の悪い男達。その人数がやけに多い。

 

 こちらの者達が唖然として警戒している間に、残り三つのファミリーのメンバーが各々布が掛けられた荷車を何台も引き、続々と倉庫を埋め尽くして行く。どうやら示し合わせていたらしい。

 

 各ファミリー其々五十人前後は居る。

 

 明らかな協定違反。

 

 倉庫内の人口密度が一気に上がる。

 

 同時に推定味方と敵の人口比率が大きく相手方に傾いた。

 

 その人数の圧力で倉庫内が狭苦しく感じるほどだ。当然六十度ずつの割り振りは意味を為さず、元居た三つのファミリーの陣地はぐっと狭まってしまった。

 

 若い衆が急いで木箱や樽を移動している。ご苦労様です。

 

 あんま意味は無いけど、障害物が在る方が気分的に楽だもんね。

 

 すぐにそれぞれのファミリーのボスが前に出て来る。

 

 協議が始まるようだ

 

 

 

 

 

 

 




 シオラスの街 ロアン・ファミリー サジット

 ヨーインの街 ベルナルド・ファミリー フォークス



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