嵐の夜に飛び立とう   作:月山ぜんまい

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 念能力者以外の人も沢山居る。


 74、散歩

   74、散歩

 

 倉庫の中程に有る白円を挟んで、それぞれのファミリーから選ばれた三人が、それぞれのグループの前に並ぶ。

 

 

 そう、基本個人戦だった『席次戦』と違い、『六頭戦』は一チーム三人づつの勝ち抜き戦なのだ。

 一発勝負のラッキーヒットで勝敗が決まるのは、何処も避けたいのだろう。

 

 「・・・なあじいちゃん、何でどのチームの出場者も三人とも頭に被り物をして顔を隠してるんだ?」

 

 レオンが、隣にいるマリオ爺に素朴な疑問を呈した。

 

 そこは私も気になってた。

 

 各ファミリーの前に陣取るトリオ達(三人組)は、示し合わせたように鍛え上げた肉体や顔をマントフードや頭巾、あるいは有り合わせの布で覆い隠し、個性を消して立っている。

 

 生地も基本生成りで皆腕組みしてるやつも多いもんだから、何かボーリングのピンみたいに見える。

 

 「ありゃ『六頭戦』の伝統ってやつだ、いわゆる様式美だな」

 

 マリオ爺が、マジな顔で言った。

 

 「は?」

 

 レオンが戸惑う。

 

 は?

 

 私も戸惑う。

 

 伝統なの?

 

 「まあ確かにちょっと変かもしれんが、古い行事には古い仕来たりや慣例が付き物じゃろう?

 それと、ありゃ別に参戦する当人じゃなくて、どのファミリーに何人手札が残っとるかを示す置き石みたいなもんだ。自分達に未だ戦う意思が有る事を表す旗印でもある。別名『白幕(はくまく)』」

 

 『六頭戦』は元々ファミリーの威信を掛けた祭りみたいなもので、本来はファミリー毎に拘った刺繍入りのフード付きマントや仮面付きの衣装を着せたりするらしい。

 

 そういう意味では相手方の三つのファミリーのトリオは、何処もファミリーの代紋と言うか屋号の刺繍の有る少し凝ったフードやマントを被っている。

 

 それに比べると、此方の頭を隠す頭巾は少し有り合わせ感が出てしまっている。

 

 マリオ的にはそれが少し悔しいようだ。

 

 マリオが先代から聞いた話では、元々はカードの出札で勝負を決めていたのを兵隊同士の一騎討ちに変更した名残りらしい。解りやすいから残った仕様なのだろう。進行上の黒子というわけだ。

 

 ちなみにレオンは『席次戦』出場予定だったけど、『六頭戦』のメンバーからは外されている。さすがに次期ファミリーのボス候補を命がけのガチ戦闘には出せない。

 自分が経験の浅い若僧だってことは本人も理解しているので、ブー垂れながらも了承していた。

 

 あの、やけに堂々と立っている三本のボーリングピンは、いわば伏せられたカードなのだ。自分の手札がどんなやつか相手に分からないようにする効果もありそうだし、手札が潤沢なら相手によって手札を変えることも出来る。

 

 そして逆に、もしも誰を出しても勝てない相手なら、静かに敗けを認めて伏せ札役に下がるように言えば済む。割と死人も出るらしくて、引いても不名誉ではない事になっている。

 

 カードゲームで言うサレンダーだ。

 

 この辺は、様式として()()()()いるな。

 

 なるほどと思いながら見ていると、ゴートのファミリー集団から半裸の男が一人出て来てフードが一人引っ込んだ。

 

 一人目の闘技者のエントリー。

 

 一人目を出す権利と義務は、当該『六頭戦』の発起人に有るのだそうだ。

 

 出て来たのは、まるでプロレスラーのような上半身裸の巨漢。顔や身体中に酷い拷問を受けたような傷跡が刻まれている。

 

 「高い金払ってんだ、わかってんなブラッド!対戦相手は全員潰せ!」

 

 ゴートが、わざわざ持ち込んだらしいゴージャスな椅子に腰かけたまま、自陣のファミリーに所属する闘技者に発破を掛ける。

 

 雇い人だと公言しちゃってるよ。

 ファミリーの大事を決める『六頭戦』だ。一応建前上、闘技者は自分のファミリーの看板を背負った兵隊の一人と言うことになっている。

 

 あ、その事を指摘した隣のおっさん幹部がゴートに殴られた。

 

 やっぱ、好き放題してるみたい。

 

 残ったファミリーのボス達が互いに視線を交わす。スリックは、ニヤついているだけで待ちの体勢、サギーも動く気配がない。軽く手を上げて残りのハシム達が合図し合い、合意を得た禿げマッチョの所から一人参加者が出てくる。

 

 さっきも見かけた護衛の一人だ。

 

 上着を脱ぎ、右手に黒く塗られた片手こん棒を持っている。

 

 『六頭戦』は武器有りなのだ。

 

 しかし、死亡者が出たとき事故だと言い張るために銃と刃物の使用は禁じられている。後は自由。

 

 相対するブラッドは両手に拳鍔(ブラスナックル)を着けている。

 

 

 相対する白円の中の二人に注目が集まる。

 

 私は、相手方の背後でぐるりと見回し陣容を確かめる。

 ふむ。スリックの所の布を被せた大きな檻の中身とか、ゴートの持ち込んだ重そうな木箱とか色々奥の手はありそうだけど、相手方の、()()()ヤバそうな手札は、大体目星が付いたか・・・

 

 『もしもしピートさんや、私ちょっと散歩してくるから、爺さん婆さん達の事を頼むね?』

 

 第一戦の結果がどうなるかは、見なくても分かりきっている。 

 

 『わふ!』

 

 ピートさん、こっそり元気にお返事。

 

 後事をピートに任せ、私は気配を殺したまま更に少し下がって集団から離れ、倉庫の壁沿いにちょっと気になっていた事を探りに行くことにした。

 

 倉庫の壁は殆ど木造だけど、腰くらいまでが黄色い大きなブロックを積み上げて出来ている。

 

 少し小突いてみて、私は確信を得た。

 

 「この壁、煉瓦じゃないな」

 

 なんと、倉庫の壁は天然の石材を切り出して積み上げて造られていた。

 あの『縛鎖(ばくさ)の遺跡』とか名付けられた、『ヌエ』のいた古代遺跡で見た石と似てる。

 

 「そういうことか・・・」

 

 この倉庫、いや元々の教会は、この辺りに有った古代王国時代の遺跡を崩しその石材を利用して建築されているのだ。

 良く見ると、若干不自然な形の石も混ざっていた。

 

 前世の時代なら貴重な文化財を建材にしてしまうなんて非難轟々だけど、この時代は有る意味おおらかなものだ。

 

 逆に、ちょっと笑ってしまった。

 

 そう言えば、前世の世界でもローマ時代の街道の敷石が持ち去らされて、田舎家の庭先で建材にされていたなんて話を聞いたことがあった。

 

 おっ、余り気に止めて無かったけど、私が壁石を気にしているうちに初戦が終わってしまったようだ。早く倉庫を抜け出さないと。

 

 闘いは≪把握≫してたけど、チラ見したら白円には未だキズキズプロレスラーが立っている。

 短髪マッチョの処の一人目が一撃で倒され、次いで出てきた山羊鬚じいさんの処の一人目も数秒しか持たなかった。

 

 負けた陣営のボス二人は、悔しそうにグヌヌッてる。

 

 タグによると負傷者二人ともせいぜい骨折。命に別状は無さそうだ。≪把握≫で感知していた通りなら二人とも上手く致命傷は避けていた。

 

 「やっぱそうなるよな」

 

 二人とも初撃をかわされてカウンターをもらっていた。キズキズPは巨体なのにテクニカル系。武装も掴めない拳鍔だし、そこは観察して分からなきゃだよね。

 

 体力も技術も経験も相手が上では勝ちようが無い。この結果は順当。

 

 「なんだよ、二人目も一発で終わりかよ!でかい口叩くんなら、もう少しましな兵隊揃えておくんだったなぁ、折角の『六頭戦』なのに此れじゃあ盛り上がらねえだろうが!」

 

 上機嫌のゴートが、手を叩いて喜んでいる。

 

 ハシム達こちらサイドは苦り切った顔をしていた。

 

 その、兵隊を揃える時間を与えないように自分達で仕組んでおいて、何を言っているのか。

 皆、臓腑(はらわた)が煮えくり返っているのだろう。凄い顔で相手サイドを睨んでいる。

 

 それでも動けないのは『六頭戦』を放棄して乱戦に雪崩れ込めば人数の少ない此方が負けると分かっているからだ。

 威嚇のためか、向こうも一応先程まで隠していた銃器を露骨に準備し始めている。

 

 パッと見、連中はファミリー毎に多少の個性が見受けられる。これは人数が多い為だろう。

 味方の三ファミリーは協定を守って二十人前後なので、厳選したベテラン多数と雑用の若いの数人。ジジババと介添えと私という例外を除けば、どこもさして変わらない。

 

 しかし、ゴート達は戦闘要員を水増ししているため、図らずもファミリーの色が出てしまっている。

 どこも、比較的若い者が多くて纏まりがない。

 

 サギーの処はむっつりと陰気。

 ゴートの処は粗暴でイケイケ。

 スリックの処はゴートの処と似た感じなのだけど、異物が混じっている。

 

 例の、身長にして百五十センチ位の小柄な者が十人ほど混じっている件だ。

 みんな似たような髭面のおっさんで短髪の丸顔揃い。まるで達磨さんみたいなギョロ眼。腰に揃いの短いこん棒のようなものを下げている。

 最初に見たときから、なんかちょっとシュールで面白いと思っていたのだけど揶揄(やゆ)するものは誰もいない。多分、その正体は名の知れた少数民族の傭兵部隊。

 

 この時代のH×H世界には、こんな少数民族の集団がたまにいる。在所からの出稼ぎで、傭兵や独立商人、たまに海賊や盗賊団をやっていることがあるのだ。シュマでもたまに見かける。

 

 彼らは、大抵常人と少し違った姿をしていて特殊な技能や技術を体得している。

 仲間内での団結力もとても強く、肉体的に常人より優っている場合が多い。

 容姿をイジるのは大抵タブー。

 見かけはどうだろうと、早々侮れる相手ではないのだ。

 

 小さいおっさん達は、今まで見たことの無い部族だったので部族名を知りたいと思っていたら、そのスリックの処から出てきた先鋒闘技者が同じ部族だろう達磨ヒゲの小さいおっさんだった。

 

 「おいジジイ!負けたら承知しねえぞ!」

 

 スリックが、何か苛立たしげに活を入れている。

 

 「・・・分かっておるわ、こちらから売り込んだ以上不甲斐ない闘いはせん」

 

 小さいおっさんが、見かけに拠らない低音で返事を返す。

 

 何だ?あいつ自分から闘技者に立候補したのか・・・

 

 「ちっ、やっぱり出てきたか」

 

 「まさか、ジャガ族を雇えるとは・・・」

 

 「くそっ、時間が有ればウチだって声を掛けたんだが・・・」

 

 ありゃ?こちらサイドの陣営の各ファミリーからも声が上がってる。思った以上に有名どころみたい。

 

 種族名は『ジャガ族』。

 

 他にも、背の低さと頑強なフィジカルが有名なこと。

 領主や貴族が契約を求めるような、信頼と実績の有る傭兵部隊で有ること。

 信用できる雇い先を自分達で選ぶこと。

 半端仕事に近いこんなピンポイントの小さな催しに引っ張り出す為には、余程のコネがあるか金を積んだかであろうこと。

 十人ほどの参加メンバーは動員できる人数の一部に過ぎないこと。が皆の会話傍受で解った。

 

 これで、ハシムとサギーの処以外は一人目が出ている。小さいおっさんが出たのは、こちらサイドの兵隊ばかりが消耗するのをハシムが嫌がって、動かなかったからだろう。他の相手の消耗や疲れを待つのは、団体戦の基本戦術だ。

 ただ、基本的に面子と度胸を売りにしている連中なので、余り姑息な真似をすると後で笑い者になって居場所が無くなったりする。

 

 そう言えば、二人抜きした相手のブラッドも『皮剥ぎブラッド』(意味不明、多分見た目)として知られる荒事専門の始末屋らしい。

 見た感じ『緑美廊』の用心棒ウォルターとどっこい位の腕。そこそこ強い。

 

 移動しながら人垣の向こうにブラッドと小さいおっさんを視界に収めてタグを確認する。凄い身長差だ。

 一応、闘いの推移を≪把握≫しながら視線を外し、倉庫の壁沿いに奥へと進む。

 

 

 突き当たった一番奥の壁面。頭上には中央の煤けた洋漆喰に、十字の跡がそこだけ白い。

 

 遺跡を崩して造られた教会自体も、何代にも渡って人々に親しまれていた遺産(レガシー)だったのかもしれない。今は倉庫だけど。

 

 それはそれとして、私は古い木箱の積み上げられた一角に近づき、端からそっと力業でずらして、隠されていた扉を(あらわ)にする。

 

 ピートも最初の探索で、見つけてたっぽい。そんなイメージを伝えてきていた。私も事前に≪嗅覚≫と≪把握≫で予想していた。

 それに客観的に見て、元は教会なのに裏口が無いのは不自然だ。

 

 隠していた、と言うより忘れられた出入り口なのだろう。扉をふさいでいた木箱の山には、年期の入った汚れが付着している。

 

 一度振り向いて誰も気づいていないことを確認し、木箱の陰に有る扉へと手を掛ける。

 

 

 白円の上、ブラッドと小さいおっさんの闘いは、動きのキレは兎も角、小回りの効かないブラッドがこん棒を避けてのカウンター狙い。

 小さいおっさんは、リーチの差をこん棒で補って、ちょこまかと至近の間合で相手の大振りを誘っている。

 

 

 掛かっていた鍵を即座に髪の毛に切断のオーラを込めてカット。無問題。

 ≪把握≫済みの扉の向こうは直ぐに野外ではなく、よしず掛けの下のような狭い空間になっていた。

 僅かな光が漏れ、秋の林の匂いがする。

 現状、倉庫の外壁に向かって大量の板材が立て掛けられていて、扉の痕跡を完全に隠蔽している。

 

 やけに扉が重いと思った。

 

 かなり厳重に封鎖されていたようだけど、外開きの扉を無理やり開いて隙間から抜ける。

 

 今の私は力で何とかなるのなら大体なんとかなる。

 

 扉の開閉は慎重にやったので、物音は最低限。

 それでも、もし扉の前で見張っている者が居れば、その開閉に合わせて大量の板材が不自然に動いたのを見咎めただろう。

 しかし、周辺警備等はいない(知ってた)。

 誰も見張っていなかったということは、やはり扉自体知られていないのだろう。

 

 さて、どっちかな?

 

 私がわざわざ出て来たのは、倉庫からの別の出口を確保するためと、とある人物を探すためだ。

 

 臭いは此方からなんだけど・・・

 

 足元には、すっかり風化して雑草に覆われた石畳と庭園の残骸。教会だった当時のものだろう。

 更に周囲は雑木林に囲まれていて、見通しが悪い。

 

 この、元教会倉庫の立つ場所は丘の上なので海側と同様に陸側も眺めが良く、周囲の雑木林の向こう少し先に此処と同じような煉瓦造りの倉庫がいくつも見える。あっちは普通の焼き煉瓦造りの色をしているけど。

 

 ・・・こっちか。

 

 雑草の中を突っ切り、気配を消したまま雑木林に入って更に進み丘を降りた先、細い道を何本か越えた別の林の中程に、うらぶれた番小屋を見つけた。

 

 草に埋もれた小道が一本、此方とは別方向にドアの前から雑木林の外へと続いている。

 

 ・・・ここだ。

 

 辺りの木々の枝の上と屋根にネズミが三匹。

 

 オーラ付き。

 

 どうやら操れるのは一匹じゃないらしい。

 

 中の気配と状況を、素の感覚と≪把握≫で確認。

 

 次の瞬間、裏の壁をぶち破って突入。

 

 小さなテーブル前に座って酒瓶を傾けて(くつろ)いでいた男の襟首を掴んで吊し上げる。

 

 「な!な!なんじゃ!」

 

 本来なら即座に殺すか意識を失わせるべきだけど、男の緩んだ体型や目付き、気配を総合的に判断して、フィジカル的には特に鍛えてもいない只の中年男と判断。捕獲するのみに留める。

 

 「やあ、覗きの得意な誰かさん、ごきげんよう♪︎」

 

 とりあえずテンパってる相手の緊張を解きほぐそうと、至極友好的に話し掛ける。

 

 

 

 

 

 

 

 




 ジャガ族のイメージはパグ。

 玉こん棒

 少数部族ジャガ族の使う種族特有の武具。全長三十センチから五十センチほどの短めの打撃武器で、握りのついた柄の部分と、打撃部の拳大の丸い玉からなる。
 玉の部分は非常に固い謎の木の実。中身(食用可)がくりぬかれて、砂や粘土、砂鉄等が詰められている。基本的に使用者の自作で、実は細かい装飾が施されている事が多い。部外者がこれをネタにからかうと、大抵ボッコボコにされる。



 情報網が発達する前のほうが、少数民族は隠れやすかろう。
 もしかすると、後の世の全世界戸籍制度自体が人体収集家の仕業だったりして・・・
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