公園のブランコだったか、それともベンチだったか。そこに私は座っていて、ふくれっ面でそこにいた。
当時の私は可愛げはなく、他人との関係を極力避けていた。同い年でも体が小さいほうで、何をするにも上手くいかず、迷惑をかける。それをからかわれたり、泣かれたり、ならばいっそのこと独りでいたほうがほかの人の迷惑にならない。
子供心ながらそう思ったのか、それとも自分を守るために他者を怖がったのか、独りでいることが多かった。
それでも、優しい人というのはいるもので、そんな私に声を掛けてくれる子供は少なからずいてくれた。だが、私はその優しさに素直になれなくて──もしくはそんな自分が恥ずかしかったのか──結局泣かせてしまい、迷惑をかける。
保育園の先生にも心配させたと思う。友達と遊ばない、だけど一人で本を読んだり、なにかをすることはなく、楽しそうに遊ぶ園児を遠巻きに見ているだけ。そんな私を見かけて、本当は一緒に遊びたいのだと、先生は声を掛けてくれるが、私の反応は変わらない。
園一番の問題児とはならなかったが、私の存在は目立っていて、そして目立っていながらも、何かがあったというわけではなかった。
寂しかったのかと聞かれれば、恐らくそうなのだと思う。皆と同じことが出来なくて、皆と一緒にいることが出来なくて、同じじゃない。同じになりたいのに、仲良くなりたいのに他者との違いがそれを邪魔して、私は独りになる。当時、そんなことまで考えていたかは知らないが、なにか変わるきっかけを求めていたのだと、夢の中のそんな私を見て、そう感じた。
そんな私に、求めていたきっかけを与えたのは、一人の男の子。男の子と言うか、男の子だと思った子。今となって考えてみれば、そう思ったのは、それはきっと──
どんなタイミングだったかとか、向こうが何を思ってそうしたのか、それは覚えていないし、わからない。
「ほら、いこうよ。イツキ」
ただ、差し出された手と、虚空のような瞳に魅せられて、私はその手を取ったのだった。
放課後、授業と言う退屈な時間から解放され、盛んな部活動が動き出す。生徒は各々の部に向かったり、教室で友達と話したり、下校したりと好きに動き出し、まるで抑圧された感情が解放されるように一気に学校内が騒がしくなる。
私も本来なら読書部に足を運ぶのだが、今はそんな騒がしい中を歩いて、とある部室に向かっていた。その先頭を、今度はルリが歩いて、その後ろをツムギと私がついていき、三人で歩いていた。
ルリに問われ、私がアイドル活動を共にやると言ったとき、ツムギは笑っていた。
全くもって予想外の展開、と言うことではなかった。こうなるんじゃないかとは薄々思っていて、それはツムギが五十嵐から話を聞き、アイドル活動をやりたいと言ったときからそうだった。
それは別に期待していたとか、無意識のうちに求めていたとか、そう言うのではないと思う。ツムギならそうするかもしれないと、そんな予想と一種の信頼──とでも言えばいいのだろうか──そんなものがあったからだ。
「じゃあ、放課後、三人部室に来てくれるかな? あたしはこの三人で活動するユニットの方向性とかを新しく考えなきゃいけないし、それに部に話しを通さないといけなかったり、やることあるんだよね」
だから頼めないかな、と五十嵐は両手を合わせて見せると、ツムギはうんと頷いて「ん、わかった。任せて」とそう言った。
そうして私たち三人は、放課後にもう一度顔を合わせて、五十嵐がいるであろうアイドル部の部室へと向かっていた。アイドル部の部室は教室とかがある本館と違い、音楽室や理科室などがある別館にある。
全部が全部と言うわけではないが、部活動にて大きな音がしたり、なにかしら機械を使う部活はこっちに集められている。部、一つ一つに防音設備を提供しているというよりは、別館そのものが防音に優れた造りをしていて、そこに押し込んでいると言った感じなのだろう。だから渡り廊下を通って別館に向かうと、その途中から防ぎきれていない音が聞こえてきて、その賑やかさがわかる。
「で、どう探す?」
「ここまで来たら、後は歩くしかないんじゃないかしら? アイドル部って、書いてあったらいいわね」
アイドル部だとはわかっていたが、問題はその部室を探すことだった。別館は広く、大きい。それでも何十分も探し回らなければならないと言うことはなく、ルリの言う通り、歩いていれば見つかるだろう。場所をもう少し詳しく場所を聞くべきだったと、今更ながら思う。
「イツキ、ルリ、わかった。第一音楽室。上の方だって」
「は?」
「そこの子に聞いた」
するといつの間にかにツムギが人に聞いていて、見てみればどうも部室に向かう生徒を捉まえたようだった。声を掛けられた生徒はこちらを見ながら、顔を赤らめながらぺこぺこと頭を下げて、そのまま気まずそうに部室に向かった。
私はその名も知らない生徒に内心謝って、ツムギ、と声を掛ける。
「……勝手に離れないで」
「はーい、ふふっ」
だがなんにしても、場所はわかって、私たちはそこに向かう。途中、やはり見かけない顔があると何度か視線を向けられるも、そのままアイドル部の部室に使っていると言われた第一音楽室へと足を運ぶ。そうすると確かに人の気配がして、賑わいが聞こえて来る。
お邪魔します、とその扉を開けると想像以上に部員の数は多かった。流石は文化祭の恒例になるぐらいだと思う半分、こうも熱気に溢れていると、逆になにがそこまで駆り立てるのかとも思う。
壁際には楽器が置かれていて、さらにポスターが張られている。それはきらびやかな服を着た自分たちと年の変わらない生徒で、恐らくはこれまで文化祭にてパフォーマンスした生徒たちなのだろう。
「あっ、待ってたよー! ちょっと遅かったから来ないんじゃないかとひやひやしてたよぉ、ああ、でもよかった。本当に来てくれた!」
するとその中から五十嵐が声を上げ、私たちを出迎えるように駆け寄って来る。まるで飼い主に呼ばれた犬のように、尻尾でもあったのならぶんぶんと振り回す勢いだった。
「あらあら、これはまた随分と逸材が集まったわね」
するともう一人、そんな私たちに声を掛ける者がいた。初めて見る相手であったが、五十嵐は振り返るとそのまま話しをする。
「あ、部長!」
「五十嵐のくせに、こんなメンバー作って。まだ二年なんだから、大人しくほかのプロデューサーの手伝いしててもいいのよ。なんならうちのサポートしてくれても……」
「いえっ、あたしは二年でプロデュースしてみせます! 一年間の下積みの成果、出して見せます!」
すると生意気だ、と気さくに五十嵐の肩を抱き、二人して笑う。部長と言うことは、上級生だろう。同学年で見たことないし、まさか一年が部活の部長をしているとは思えない。
部長と呼ばれたその人は、どちらかと言えば体育系の見た目で、だからその目を私たちに向けて「あなたたち、並んでならんで!」とそう言われると、私たちは言われるがまま横一列に並びになった。そしてその上級生は私たちの顔や立ち姿を見比べて、グイっと近づくと、手始めにツムギに握手を求めた。
「もしかしなくてもあなたが木色 紬さんね。本当、噂通りと言うか、噂以上と言いか、顔が良いわね。美形って感じね。肌も白いし、かっこよくもある。そのショートカットは簡単には真似できないわね」
あっ、どうも、とツムギは握手に応える。
「赤目 瑠璃さん。私のスカウトには答えてくれなかったのに、五十嵐にどうやって誘われたの? 流石は現役モデル、身体の線が違うわね。やっぱり手入れは怠らない? モデルとしてのそのスキルは即戦力間違いなしね」
そう言われて返事をするようにルリは会釈する。
「と言うことは、あなたが春坂 樹さんね。五十嵐から話はよく聞いているわ。なるほどね、見た目はクール、隠れファンが多いって感じね。それ、描いてるじゃなくて自前? 泣き黒子がかわいいわね」
目元を指さされ、そのまま眼を刺されるのではないかと少し仰け反って、そうですか、と私は答える。
流石と言うべきなのだろうか。アイドル部部長と言うだけあって、すらすらと言葉が出る。褒め殺しと言うか、盛り上げ上手と言うか。
「でもね、五十嵐。アイドルはモデルでもないし、顔が良ければいいってもんじゃないわ」
「わかってますよ。ちゃんとプロデュース考えてますから!」
「まあ、せいぜい愛想尽かされないようにしなさい。一年! このメンバー見て五十嵐を手伝いたいって人はいない? 受け付けるわよ!」
注目を集めるように手を叩いて、その上級生はそのままほかのところに向かう。
こうして並んでいるからか、そもそも上級生が見ろと指示したこともあり、気づけば周りからは視線が多く集まる。そして何人かが上級生の元へ行き、何かを話しているのが見えた。
状況があまりわかっていない私たちに、それに気づいた五十嵐が、驚かせちゃったね、と謝る。
「えっと、アイドル部の一年は下積み期間で、先輩たちのプロデュースを手伝う決まりになってるの。だからプロデュースする権利があるのは二年からなんだ。とは言っても、メンバー獲得とか演出を考えたりとかいろいろ大変で、二年生で文化祭に出せるアイドルユニットを用意できる人は、そうそういないんだけどね」
基本は三年に向けてほかのプロデューサーの手伝いしながら裏で頑張る感じ、と五十嵐は説明する。
「まあ、五十嵐も一回メンバー解散されてたし、メンバーにされた子だって、だっていろいろ事情があるでしょ」
「うん、まあそういう感じで、難しいんだよね。でも今回は大丈夫……で、いいんだよね? 四人とも、アイドル活動やってくれるんだよね⁉」
心配そうに尋ねる五十嵐に、ルリは、変なことをさせないなら、と逆に釘を刺す。
「そもそも、そのメンバー解散ってそうなった理由はなによ? それに詳しく聞いてないけど、アイドル活動ってなにさせるつもりよ? 文化祭に向けてボイストレーニングとか、ダンストレーニングとかかしら?」
まあ、確かにそれが気かがりだ。まさか握手会だとか、撮影会だとか、広告活動をさせるわけではないだろう。少なくとも、私の学園生活でそんなことをしている人は見たことがない。
もちろんそれは私が知らなかっただけで、実は周に一回握手会をしていた、なんて言いだした日にはツムギの首根っこを掴んで有無を言わさずに去るつもりだ。
「まあ、待って。木色さんは転校生だし、春坂さんも実際ライブをしているところを見たことないだよね? だから取りあえずどういうものかを知ってもらうために、映像を見てもらいます」
そう言って、先に準備をしていたのか、机の上に置いてあったノートパソコンの周りに集められると、五十嵐は動画を再生する。その映像は五十嵐が言うように文化祭の光景で、数人の生徒がパフォーマンスをしている。
スポットライトに照らされて、マイクを持って優雅に踊る。メンバーであると言うことを強調するように衣装までこしらえられていた。
「へえ、これがそうなんだ。これは、歌を歌ってるところ?」
「そう! 振付は全部オリジナルで歌もアレンジ利かせてるでしょ? こんな風に踊って歌うのもあるし、バンドみたいにするところもあるんだよ」
ほらこれがそう、とまた別の動画を再生して見せる。ジャカジャカとギターを弾き鳴らしながら、ステージを動き回る映像が流れるが、すると何かに気付いたようにツムギが、あれ? と口にする
「生演奏じゃないよね、このバンド? 手の動きと音が違う……」
「メンバー全員が音楽経験者とは限らないし、そもそも集めたメンバーによっては全員初対面同士ってこともあるからね。都合が合わなかったり、それこそこっちの都合で無理やり練習させるわけにはいかないし……だから中には生演奏するには練習が足りなかったり、最初から演奏は諦めて、曲を流してそれに振付をするってもの実は珍しくないんだ……ああ、でも歌は生声! これは絶対!」
やっぱりアイドルは歌ってなんぼだよね、と映像を見てアイドル活動の集大成を振り返る五十嵐は、うんうんと頷く。多かれ少なかれ、確かに映像に映っている『アイドル』たちは楽しそうだったり、頑張っている雰囲気は伝わる。パフォーマンスだって、一朝一夕で覚えたわけでもないだろう。
しかし、そういうのは結果が伴ってこそ。他者はそこまで汲み取ることはしない。隣ではルリが小さく鼻を鳴らして、腰に手を当てる。
「大きく出た割には、市販の曲を流したり、エアーだったりするのね。まあ、こんなもかしら?」
「……ルリは去年見なかったの?」
「見たけど、当たり外れが大きかったわ。元々興味もなかったから、話半分にしか見てなかったわ」
「い、言いたいことはわかるけど、歴代には完全生演奏だったりするグループもあって、あっ! これは去年のやつで、歌も曲も振付とか全部オリジナル! これは盛り上がったぁ!」
確か春坂さん見てないんだっけ? 勿体ないなぁ、と五十嵐は私に言うが、はあ、とため息を吐く。
「……で、じゃあ私たちにどれをさせるつもりなの? まさか今から楽器を習って、作詞作曲をしろって?」
映像には色々あった。踊ったり、歌ったり、楽器を鳴らしたり。そのうちのどれかをやるにしても、それなりの労力がいることには変わりない。バンドのようなパフォーマンスをするならば、それこそ楽器を弾けるようにならなければならない。エアギターをするにしたって、適当に腕を振ればいいわけではないだろう。
作詞作曲については、まあ、流石にこっちで考えろとは言われないだろうが、その場合はどういう風に歌うかなど、結局は手が掛かるだろう。
その問いかけに五十嵐は、あーうん、と頬を掻く。
「あー、それは……その。取りあえず今のところは演奏するふりをしながら歌って、パフォーマンスを……エアギターバンドみたいな形を考えてます、はい……」
「え、そうなんだ。なんか、思ってたのと違うね」
するとツムギが、ふーん、とどこか気の抜けたような声を出す。誰も喋らなくなり、むなしく映像の音だけが鳴り、観客に対しての煽りが余計にむなしく聞こえる。
場の雰囲気が盛り下がっていることは明白で、それに気づいた五十嵐は早口に言葉を発した。
「最初はもっと違ったんだよ⁈ 元々考えてたメンバーではソロギターのパフォーマンスとダンスのキレを合わせて、とか、春坂さんを前面に出して、ギターとベースのセッション! とか練ってたんだけど──」
そこまで言うと、がっくりと五十嵐は肩を落とした。
「まあ、実際今練り直ししてる最中です、はい……」
「ねえ、五十嵐さん。じゃあ、その元々の企画じゃ駄目なのかしら? ソロギターは練習が必要でしょうけど、それ以外は踊ればいいのよね?」
なんの曲を弾くかはしらないけど、とルリは言い出しっぺであるツムギを見る。するとツムギは頑張る、とでも言いたげに二つの拳を胸の前に持って来る。やる気はあるらしい。
「実はその弾く予定の曲って、ギターの子に作詞作曲を頼んでたんだよね。やっぱりやるならオリジナルがいいって。あたしがこういう風な曲が良いって手案して、その人が形にするって感じで。でも話し合っている内に、そんな曲を書きたくない、もっと違うほうが良いってなって──」
「つまり、音楽の方向性で解散した?」
「多分その子も自分を表現できる機会ってことで、利害が一致していたからスカウトに受けてくれたんだと思うんだよね……」
暗い顔をして、五十嵐はため息を吐く。
ということは、元々の案を通すなら作詞作曲も行えと、そう言うことになる。なるほど、それを私たちに押し付けるわけにはいかない。五十嵐もその一件があって、強くは言えないのだろう。結局の所、現状は何一つまとまってなくて、ただメンバーが集まっただけと言うことだ。
先が思いやられる。結局このままうやむやになって、メンバーが解散。最悪質の悪い踊りを踊って、楽しかったねと内々で喜ぶ姿が目に浮かぶ。そんなことをするぐらいなら、ステージなんて立ちたくない。
ルリも呆れたように、ならアイドルソングを流して歌いながら踊れば? そっちの方がアイドルっぽいし、と提案をして最低限の形を作ろうとする。だが五十嵐もそれには思うところがあるようで、口を濁らせて唸って見せる。
話し合いもまともにならないか、と私は先どころか今が心配にもなる。なるほど、こういうのが積み重なって、アイドル活動がうまくいかなくなるのだろう。こうやって揉め始めて、五十嵐が言っていたようにアイドルユニットが結成されては、文化祭に出る前に解散する。そもそもがアイドル活動をしたいとそう思った者ではなく、アイドル部からスカウトされた、そう言うことに興味がなかったものの集まりになるのだから、なおさら活動の熱量が違うのだろう。
五十嵐は、ちゃんと考えるから今は時間を頂戴、とそう弱弱しく言って、ルリが本当にそれでいいのかと眉をひそめた、その時だった。
「やろうよ、オリジナル。完全オリジナル」
するとそんな中で一人だけ、ツムギが笑うとその口を開いた。ツムギに視線が集まるのは必然で、ツムギは私たちにその笑みを見せる。
「これから夏休みとかあるしさ、やってみようよ、演奏とかダンスとか全部、オリジナルで。エアーじゃなくてさ、ちゃんとしたバンド。わたしやりたい」
できるよね、とツムギは私に尋ねる。それが何を意味するのかわかっていないのか、それともわかっているうえで尋ねているのか。
もちろん私はそう言う知識はなく、はぁ? と首を傾げる。だがツムギの眼差しに、私は頭を回し、渋々と口を開く。
「……ギター、ベース、ドラム、キーボード。後はボーカルがあれば、基本的なバンドメンバーにはなるんじゃない?」
「あれ? じゃあ、足りない?」
「さぁ? ギターかベースがボーカルを兼任すれば、後はドラムかキーボードを抜けば三人でもできるんじゃない? ほかには、ギターとベースだけのバンドも探せばあると思うし……」
「あ、じゃあできるね。よかった」
そして当たり前のようにツムギがそう言って、それにルリが口を挟む。
「ちょっと……ツムギ、本気で言ってるのかしら? そう簡単にできるものじゃないのよ? 人に見せるなら練習量だって半端じゃないだろうし、練習する場所だって……」
警告するように言うが、相手はツムギだ。それがわかってか、あーもう、とルリが諦めたように首を横に振ると、意見を求めるように私に視線を向ける。
ツムギも私のほうを見て、その眼差しは期待しているような、それともいつも通りと言えばいいのか。私は目を逸らして、口から息を吸った。
「……ツムギがそうしたいなら、そうすればいいんじゃない? 色々決まってない今、言い争っても仕方ないし」
実際、ツムギのその提案は何も決まっていない現状では、唯一の案とも言える。明確な目標があったほうが何をするかもわかりやすいし、それに従う形にしたほうが、少なくとも団結はしやすいだろう。
私の意見には誰も口を挟まなかった。ツムギは満足そうに頷いて、ルリはやれやれと首を振る。だが私は視線を動かして、そしてそれに水を差すように、けど、と付け加える。それに対してツムギは首を傾げた。
「……それに、決めるのは五十嵐次第でしょ」
えっ? とほかの誰でもない、不意に名前が出された五十嵐自身が驚いて、目を丸くする。どういうことかと今度は私に視線が集まって、私はそのまま言葉を続ける。
「準備とか色々。それに作詞作曲をするにしても、それに合わせたパフォーマンス。ステージでの時間の枠だって無尽蔵にあるわけでもないだろうし、私たちが勝手に決められることじゃない。そうでしょ?」
私の言うことに、漠然と言った感じではあったがツムギたちは、なるほど、と言った感じで軽く頷く。だがそれよりも、五十嵐はまだ目を丸くしていて、私が一体なにを言いたいのかと困惑していた。
「ただ弾いて歌うだけなら、それ、部が違う」
そんな五十嵐に、私は視線を向ける。私は五十嵐のことがあまり好きではない。周りの目は気にせずに話しかけて来るし、スカウトを断っても何度も何度も声を掛けて来る。喜怒哀楽が激しいというか、コロコロと表情を変えてはアイドル活動を語り、それに私が必要だと言ってきかない。その表情は、どれも良かったと思う。
それだけ熱意があって、それを欲している。ほかの誰でもない、このアイドル活動の始まりを楽しみにしているのは彼女のはずだ。それなのに、そんな暗い顔をしているのは全くもって不自然で、求めていた結果ではないだろう。
「ここはアイドル部なんでしょ? 五十嵐プロデューサー」
だから、ツムギや私たちがその楽しみを奪うわけにはいかないだろう。
あっ、と五十嵐は言葉をこぼした。そして目を逸らして、考えるように俯くと、強い眼差しで顔を上げる。
「少し待ってもらっていいかな? あたしだけじゃなくて、皆が納得できるもの考えるから」
だから今日は解散、とそう言うと五十嵐はほかの部員の元に行くと人を集めて、何かを話し始めた。それはなにか指示を出しているようで、その顔は私のよく知る、いつもの五十嵐だった。
「なによ、プロデューサーって」
苦笑交じりにルリが聞いてきて、私は肩をすくめて返した。別にどうと言うことはないのだが、どいう風に言っても気まずい感じがした。