空挺ウィッチは今日も辛い   作:黒助さん

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短めと期間が空きましたので、ちょっと感覚がわからなくなってるかもです。
よろしくお願いします。


第十話

 またこの場所に来たのか。

 空を見上げればさんさんと輝く太陽と、どこまでも青い空。

 前を見ると、どこまでも続く平原に、変化の少ない風景。

 でも確実に誰かが倒れ、誰かが生き残った痕跡がある。

 ここは天国だろうか。

 それとも地獄だろうか。

 空を征く輸送機は、ただ私達を見送ることしかしなかった。

 

 

 

チャプター: A中隊、出撃

 

 

 

 カランタン制圧より数日後、ブリタニアとリベリオンの歩兵師団による半島の解放が行われ、これを機にガリア軍、カールスラント軍の歩兵師団、航空師団も加わり、ガリア西部の解放作戦が行われた。しかし、巣を失ったネウロイだが、その脅威は健在で、犠牲は少なくなかった。

 だが、爆撃機隊による航空支援により歩兵師団は予定より早くに各地にて戦果と解放を挙げていた。特にカールスラントの空挺ウィッチと空挺部隊による混成降下猟兵師団は、迅速な行動により早期展開を実現し、私達と同じくネウロイの背後や側面を突く形となり、ネウロイは多方面の戦線を展開せざるをえなくなっていた。

 加えて、ネウロイの巣の撃破後ということもあり、敗残兵と化していたネウロイは増えることもなく、その勢力は国境線まで追い詰められるほどに弱まっていた。最初から爆撃できればどれほど助かったか。見積もりが甘かったのもあったが、ネウロイの体制が整っておらず、新たな巣が発現しない今たたくしかなかったのだという。

 

 兎にも角にも、私達の本来の役割である橋の確保、カランタン制圧による分断に成功し、目標は達成された。

 そういった経緯もあり、私達は一時ユタビーチの基地に戻り、ブリタニアに戻る予定であった。

 

「はぁ、これで一旦帰れるな」

「そうだねぇ。なんだかんだ激戦をくぐり抜けて、包囲もできたし、お手柄でしょ」

 

 私の呟きに、レイチェル軍曹は苦笑してそういった。およそ2週間ほど偵察や防衛でネウロイとの戦闘があり、疲れてきているのは目に見えてわかった。と言っても、最初の頃と比べるとまだマシとも言えるだろうが。

 

「帰ったらまず何する?」

「そうだな……お風呂にでもゆっくり浸かりたいかな」

「いいねぇいいねぇ、確かにどろんこだもんね」

 

 周りを見やると、確かに泥だらけだ。汚れのない人は誰一人としていなかった。それにクスリと笑うと、私達は話を続けた。

 

「カルステンはさ、どこに降りたんだっけ」

「デューブ川の近くさ。あそこはひどい有様だったよ」

「川の近くが? 何故?」

「氾濫で、泥沼になっていたんだよ」

 

 私は、それから降下時のことを思い出した。

 私達の輸送機は被弾することはなかった。だけれど、航空ウイッチ隊による支援はなく、対空ビームが絶え間なく雲を裂き空を焼く。生きた心地がしなかった。

 

「けれどもなんとか降り立った後、別の空挺部隊と合流して動けたんだ」

「空挺部隊ってことは男の人と?」

「そう。晴れて戦場に立てるって言ってたけど、翌朝辺りにはそんな元気もなくして、ただただ戦士の顔になってた」

 

 皆そうだった。私達も、必ず取り戻す使命感と正義感でここまで来たはずだった。今やこの泥だらけな状態で帰れることに感謝するぐらいだ。全員が一様に変化してしまっていても、何らおかしくはないのだ。しかし、興味なさげにレイチェルは続ける。

 

「ふーん? で、何がひどかったのよ」

「降り立った地が、泥沼だった。私はあと少し飛び降りるのが早ければ、死んでいたかも」

「……まさか」

「そうだよ。翌朝、私が近くを通ることになったとき、その場所に何人か見かけた。川に堕ちた者、沼に落ちた者……みんな溺死していたんだ。その装備の重さによってさ」

 

 あの時には見かけなかったが、何人かのウィッチもそうなっていたかも知れない。私はその時ゾッとした。あと少しズレていれば、私もそうなっていたかも知れないと。

 

「……怖いわね」

「あぁ、次の降下時には、ちゃんとした平地がいいなぁ」

 

 そう言ってあたりを見回す。だが、変わらず平和に草花が風に揺れる光景しか見えなかった。

 

 しばらくして、私達はユタビーチへと到着した。みんなヘトヘトではあるが一様に微笑みが戻っており、雑談の声がそこらかしこから聞こえてくる。その声はどこか楽しげであり、少しホッとしていた。

 そして、拠点到着後に、私達はサロンにて待機命令を受け、それぞれが適当な席に座って休み始めた。私も同様にグラスに水を入れて一息つく。ストライカーは途中に整備のために整備所に置いてきたのだが、整備士の方々はどこか難しい顔をしていた。

 

「そういえばさ、なんでさっきあんなに難しい顔をしてたんだろ」

 

 そう考えていると、レイチェルが同じような疑問を呈してきた。気になるのは確かであり、何か不調があったのかと不安になる一方である。

 

「確かにそうだね。泥だらけだったから、とかかな?」

「そんなことはわかってたはずよ。さっき呼び出されたシャーロット大尉も難しい顔をしてたし……」

「そうなの?」

 

 それは見ていなかった。大尉までそのような表情を浮かべるのなら、きっと何か不味いことがあったのだろう。私はそんな嫌な予感を振り切りたい気持ちで手元のグラスに手を伸ばすが、その前に誰かがグラスを奪った。すると、その中身をぐびっと一口飲んで振り下ろす残念な美人がそこにいた。

 

「そりゃ、今回のストライカーがあまりよろしくなかったからだよぉ」

「ぐび姉さん」

「オルドレン准尉……よろしくなかったとは?」

 

 グラスは諦めて、どこか眠たげな表情を浮かべたぐび姉さんこと、オルドレン准尉に質問を投げかけた。

 

「作戦は成功し、開放作戦も順調……その一方で実地投入までに多くの戦力を失った事実と、ストライカーのライセンスという問題が浮上したのよぉ」

「というと?」

「要は、この期に及んで各国は技術提供を渋ったのよ。そのうえでばかすか死んじゃって大変って?」

「そゆことぉ」

「そんな馬鹿な! 協力せねば勝てるものも勝てまい!」

 

 ぎゅっと手を握る。その拳からは血が流れていた。ふざけるんじゃない。何がライセンスの問題だと? たしかに会社企業というものは大事ではあるが、死ぬか生きるかのところに金を絡めるなよ。

 血が登った頭では分かってはいるが抑えきれない怒りを覚える。ふざけるなよ。ふざけんな……!

 オルドレン准尉はまたくぴっと飲むと、話を続けた。

 

「ストライカー自体の性能に問題はないんだけど、持続力であったりシールドの硬度、燃費と戦闘時の消費魔法力……混成空挺部隊な私達が今回先陣を切ったことで各国の差がはっきりしたのよぉ」

「つまり、今回の作戦は問題だらけだったんだ」

「なんてことを……何人死んだと思って……!」

「でも、そうでもしなければ国を取り返す前にお金を失って国が終わりよ。戦時国債なんてものを生み出して、なんとか国としての体裁を保ってるところじゃないかしらぁ」

 

 尤もである。浅ましいが、守る為に金を優先する時もあるのだ。だが、そこは違うだろう。違うだろうよ。

 

「……くそっ」

 

 私は小さく悪態をついた。おそらくこれは、多大な被害を産んでいるヨーロッパ各国のことだ。それはおそらく、カールスラントも、だ。

 宥めるようにレイチェルがフォローする。

 

「仕方がないのよ。全てには理由があるものよ」

「まぁ、砂漠の経験もあるからって少し舐めてたわねぇ。バトル・オブ・ブリテンで何を学んだのかしらねぇ……」

 

 そういうオルドレン准尉はしかし、気だるげなその瞳に怒りをチラつかせていた。チリチリとする怒りの波濤の片鱗をこの身で感じていた。

 

「……私達には余裕がないんだ……カールスラントのあの地には、置いてきたものがたくさんあるんだよ……」

 

 私の亡くしたもの。お墓すら、あったかも分からない。思い出だけが残されたあの場所を。

 

「兄さん……」

 

 必ず、奪還せねばならない。

 

 

 

「では、この勢いのまま、ガリア解放を行うということですか?」

「そうなるな」

 

 大隊長はそう言うと、ため息をついていた。彼もわかっている通り、この大隊はここ数日数々の戦果を挙げると同時に、疲弊していっており、休息がほしいのだ。しかし、ドラグーン作戦による南フランスの解放に伴う戦果の宣伝効果は少ない。そのために彼女たちも広告塔として戦線に復帰してもらう必要があったのだ。

 嫌気が差したのか、シャーロットはため息をついて呟いた。

 

「はぁ、いつになればお風呂に入れるのかしら」

「聞こえてるよロッティ」

「聞こえるように言ってるのよ。そんな目的で部下を危険な目に合わせられないわ」

 

 ちらりと横目で彼女はつぶやく。その刺さるような視線にうぅむとうなりながら大隊長は流れる汗を拭った。

 

「わたしも、そこは承知の上だ。だから、次の作戦のみ参加し、しばらくは休暇をとることとした。如何ようにせよ、巣のない範囲での攻勢はそろそろ決着がつくだろうしな」

 

 そう言うと、彼は渋い顔でため息をつく。だが、そうでもしなければ私達も身が持たないだろう。とりあえず、今後の日程について会議は進み、シャーロット、シャロンはその場を後にするのだった。

 その帰り、何となくサロンのバーカウンターに身を預けると、シャロンが言った。

 

「で、あの子達にはどう伝えるの? そのまま伝えるにしても難しいわよ」

「そうね……」

 

 シャロンはカウンターからお酒を一本いただくと、それを2つのグラスに注いで氷を入れる。片方をシャーロットに手渡しながら、自身も落ち着けられるよう椅子に深く座って一口飲んだ。渋い顔をするシャロンに、シャーロットはクスリと微笑む。なおも続く後味の悪さは、お酒のせいかは分からなかった。

 しばらくそうしているうちに、休める時間は過ぎていった。シャロンとシャーロットは、重い腰を上げて隊員の休むサロンへと向かう。入った瞬間に二人揃って眉をハの字にしたのだった。

 

「ほらぁ、飲みなさいよぉ!」

「もう無理でしゅ……しゅしゅしゅ」

「アハハハ! 体に染み渡るねぇ」

「んんぅ…………もぅ少しねぅ……」

 

「えぇ……」

「……はぁ……」

 

 既に幾名かが出来上がっており、皆完全に休暇モードであったのだ。心苦しいどころか、暴動も起きるかもしれない。本来ならばこれは咎められるべき事態なのだが、シャーロットは考えるのをやめた。

 

「……え、ロッティ? なにしてんの?」

 

 そして思いっきり壁に何かを叩きつけると、全員を黙らせた。シャロンもそれには驚きすぎて、背筋までピッシリ伸ばしてしまうほどであった。

 

「け、傾注!」

 

 そこまでしてハッとしたシャロンはそう言って全員の視線をシャーロットに向けさせる。だが、もはや言う前に皆背筋を伸ばしてこちらを見ていた。まぁ流石に驚くだろう。シャーロットが怒る姿などそうそう見なかった皆んなだからこそ、背筋が凍った。良いも冷めたのではなかろうか。

 

「明日朝08:00にここを経ち、ガリア南東へ向かうわ。これから休められるはずだったあなた達には申し訳ないけど、これは命令よ」

「えぇぇ……なんてこった」

「うぅ、せっかくのお休みがぁ」

「お、温泉もなし……?」

 

 それぞれが辛そうにその事実を飲み込み、悲しい雰囲気にここは包まれた。

 

「明日の朝は早いから、全員、荷物をまとめたら就寝して。以上よ」

「なぜ今なのですか?」

 

 そんな中、手を上げるカルステンは疑問をぶつけた。誰もが帰れると思っていたのに唐突なのである。納得がいく者は少なくなかった。しかし、それに対して淡々とシャーロットは答えた。

 

「オーバーロード作戦上必要な戦闘だからよ。これは命令。……まぁ、この作戦後、私達の休暇は約束されてるわ。全員備えてちょうだいね」

 

 そう言うと、残念がればよいのか喜べばよいのか、微妙な雰囲気にざわつく中で、カルステンは拳を握った。タイミングとしては次の作戦に私達は必要がないはずだ。何故、問題がある中で向かわせるのか。軍の最上部が何を考えているのかは不明だが、きな臭さが鼻腔を通り頭痛を引き起こしそうである。

 

「……くそっ」

 

 私達は、なんの為に戦うのだろうか。

 またあの地に向かうのに、何を掲げればよいのか。

 疑問に、苛立ちに、私は震えながらただただ命令を飲み込むしかなかった。




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