空挺ウィッチは今日も辛い   作:黒助さん

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長くなりました……前編です。


第十一話

 私は自身を極限の状態に置きたかった。

 でも、それは単純であり、かつより複雑な場所へと誘うものだった。

 この地獄に私は、何故来たのだろうか。

 安易な考えで来るべき場所ではなかったのだ。

 そう、後悔は募るばかりだった。

 

 

Chapter:9 遠い橋を眺めて

 

 

 第一陣によるガリア大解放作戦、通称ネプチューン作戦より2ヶ月ほどが経ち、私は新たにこの101空挺に補充兵として配属された。

 A中隊。

 先陣を切り、カランタン攻略をE中隊と共に成し遂げた502大隊のトップエース部隊である。

 その一方で、最も死傷者の多い部隊でもあり、通称『パープルハート空挺部隊』とも呼ばれている。補充兵の多くはそこへの配属を嫌ってはいた。ただ、英雄になることを望む人たちや、私のような変わり者を除いて。

 上層部はネウロイの攻撃を押し返し、ガリアを開放したことで、更なる攻勢を検討していた。国境付近まで伸ばせた戦線に、十分な補給路を構築したことにより、ネウロイの勢力下にあるカールスラント攻略を視野に入れたのである。東部戦線が、動き始めるのだ。

 

 9月。

 私はA中隊の隊長と会うために、さんさんと照らされた街道を歩いて行く。輸送車や多くの男性の軍人たちが忙しなく動いており、準備が着々と進んでいるのを雰囲気で感じ取れた。

 しかし、平和である。

 特に何事も無く日常は流れ、只々訓練をしては遊んで寝るを繰り返している。早く戦場で輝きたいと思う気持ちと、憧れであったウィッチとしてカールスラント奪還をしたいと、はやる気待ちを抑えるので精一杯だ。

 しかし、それも今日で終わりだ。本日付で晴れて配属されることとなった私は、数日後に戦線へと出る。そのための第一歩を歩いていると考えると、早足気味に士官室へと向かった。

 コンコンと軽いノックをすると、入ってと綺麗な声音が聞こえてきた。

 

「失礼します」

「……あぁ、あなたが補充兵の?」

 

 そこにはタイプライターとにらめっこしているクローディア大尉の姿があった。隣にいるシャロン少尉が気づいて、手を止めてくれた。背すじを伸ばし敬礼をすると、敬礼を返すクローディア大尉。彼女は微笑むとこう言った。

 

「ようこそA中隊へ。歓迎するわ」

「は、はい!」

 

 どこか、凄みを感じる優しい声音に、私も微笑みと返事を返した。それから、原隊の場所を教わったのだが、ちらりと見えた文書が気になった私は最後にそれについて質問をした。

 

「あの、大尉」

「何かしら?」

「1つ質問をしても?」

「良いわよ」

「……その文書は、一体なんの文書なのでしょうか?」

 

 単純な疑問であり、教えられない範囲なら教えないだろう。そう軽く考えていたが、大尉はスッと、表情が消えた。その変わり様は部屋の空気をビリっと変えた。

 

「……あー、教えられないわ。ごめんなさいね?」

「……あ、は、はい」

 

 錯覚だろうか?

 背筋を伝う冷や汗が本物だと思わせる。怒らせたのだろうか? それにしては私に対しての怒りや殺気などはなかった。

 不思議に思いながら見つめていると、彼女はふっと微笑んだ。

 

「それじゃあ、部隊の方へ行ってちょうだい」

「分かりました」

 

 そう答えて私は敬礼をすると、士官室から出て配属先の宿舎へと向かう。急ぎ足で進む私は、何か先程のことが気になっていた。頭を振って、そのよく分からない疑問を払拭する。まぁいいや。関係のないことなのだ。

 これから、その文書の意味を知ることとなるとは知らずに。

 

 

 

 宿舎につくと、私は洗礼を受けることになった。

 

「ようこそ! A中隊へ!」

「新人歓迎会はもう始まってるぞー!」

「ていっても、勝手に始めてたんだけどね?」

 

 戸惑いながら私は深緑のテントに入り、先輩方の勧める飲み物や食べ物を頂いた。あたりを見るととても楽しそうにしている。本当にここは、極限の状態でいられる場所なのだろうか? そう錯覚するほど平和であった。

 幾人か、私と同様に来た補充兵たちも混ざっている。が、なんというか、交じるには少し気まずさを感じていた。私達とは違い、卓を囲う彼女達はどこか不思議な結束力があるように感じる。それはある種、見えない壁ともなっていた。

 

「ねぇ、あんた」

「は、はい?」

 

 すると、酒瓶を持って私の前に現れたのは、軍服だというのに妖艶さを感じる色っぽさを持った女性であった。酒臭いのは言うまでもない。

 彼女はニコリと笑うとグラスを差し出した。

 

「一杯どう? 景気づけに、いっとくといいよぉ」

「は、はは、じゃあ一杯だけ……」

「私はレイリー・オルドレン。准尉よ。あんた名前はぁ?」

「ま、マーサ・グローブ二等兵です」

 

 会話をしながら私のグラスに酒が注がれる。挨拶を交わしたこの女性はオルドレン准尉といった。第二小隊副隊長として活躍されているとかなんとか耳に挟んだが、どうなのだろうか。

 

「よろしくマーサ。乾杯よぉ!」

「乾杯!」

 

 キューッと一気に飲むと、彼女は笑って私の肩に手を回した。耳打ちするように私に問いかけるオルドレン准尉に、こそばい思いをしつつ、苦笑した。

 

「これから辛いよぉ? ついてこれるかしらぁ」

「大丈夫です。私はそのためにここに来ましたから」

 

 舐められてるのだろうかと考えた私は、少しぶっきらぼうにそう答えた。だが、その考えは言ったあとの表情で変えることとなる。

 彼女は無表情だった。

 冷たいほど、先程の酒を呷る飲んだくれとは違う、どこか冷たい……。

 しかし、彼女はぱっと声を上げて笑った。

 

「あっはっは! 辛いことのために来たのかぁ。尊敬しちゃうなぁ」

「それが、欧州奪還の、人類の目標のためなら素晴らしいと思います」

 

 少し違う。結果として奪還を叶えるだけであり、私は過程のほうが大事であった。極限の世界を味わうことこそが、私の目的なのだ。

 しかし、そんな何処か英雄願望チックな考えに対して彼女は微笑んだ。いや、何処か苦笑のような雰囲気を感じる。それは、先の戦いで何かを体験したためだろうか。

 どこか否定されたような、馬鹿にされたような感じがして、私は強気に微笑んでみせた。

 

「うんうん。その気持ち、忘れないことだねぇ。絶対に。改めて、よろしくねぇ」

 

 そう言って、私達はこの部隊に歓迎されたのだった。

 

 

 

 

 

 そして、遂にその時がきた。

 私達は新型のストライカーユニットに足を入れると、そのまま輸送機に乗り込んだ。

 遺書を書いたか? 保険には入ったか? などと言う方々が私達の横を過ぎていった。私も遺書は残している。流石に極限の状態に身を置くのならば、それ相応の覚悟が必要だろう。後悔はないし、今ここにいることが少し誇らしかった。

 輸送機内の席に座ると、隣にはオルドレン准尉がいた。彼女は手を振るとにこやかに笑う。

 

「はぁい」

「……よろしくお願いします」

「ついに来てしまったねぇ……覚悟はできてるぅ?」

「死ぬ覚悟ですか? もちろんです」

 

 冗談めかしてそう言うと、彼女は笑みを浮かべたまま答えた。

 

「生きる覚悟だよ。死ぬ覚悟なんて誰もできやしないさ」

「……」

 

 語気は強く、その眼差しは鋭かった。酒を飲んでいない彼女は、私を震わせた。圧を感じてか、私の頬にはつうっと冷や汗が伝う。人はこれほどまでに切り替わるのか。

 ニコリと笑って彼女は外を眺めた。

 

「ま、死ぬときは死ぬよぉ。覚悟ができてなくてもさぁ。……生き残るよ」

「は、はい」

 

 エンジンが始動し、プロペラが回ってその振動で機体が揺れる。轟音は耳を劈き、皆に緊張の糸が張った。うるさくしていた子も黙り、皆がみんな真剣な表情をしていたのだった。

 そして突如、機体は浮遊感を得て、私達の体にも、違和感のある重力を覚えた。

 

「……」

 

 皆黙りこくる中、私は窓の外を眺める。遠くに基地があり、私達が飛び立ったのを実感した。さらば、私の帰るところよ。どこか心に寂しさを抱きながら、ただただ離れていく基地を眺めたのだった。

 

 それから数時間後。私達はついに目標付近に到達した。降下ポイントまでおよそ三分。全員がオルドレン准尉の指示に従い立ち上がると、降下口のランプが赤に点灯していた。少ない揺れで、私達は難なくその時を待った。

 

「特に問題なさそうね。このまま降りるわけ?」

「敵の猛攻に遭うかと思ったけれど、拍子抜けね」

 

 私の向かい側に座っていた補充兵が、後ろでヒソヒソとそう話した。確かに、もうこのまま降下するならそれほど損害は出ないだろう。D-day初日の対空砲火は凄まじく、多くの死人を出したと聞いていた。が、しかし、のどかな陽射しのもと、私達のパラシュートはぱっと翼を広げるかのように問題なく開くのだ。

 

「総員、降りるわよぉ! 降下!」

 

 青色のランプが点灯し、オルドレン准尉が叫ぶ。その合図を皮切りに全員がその出口から飛び降りた。

 

「うわぁぁぁああ!!」

 

 私も飛び降りると、重力に引っ張られる感覚が襲い来る。と同時にバッと傘が開くと一気に上へと引っ張られる。内蔵がぐるりとひっくり返ったような感覚に、思わず顔を歪める。訓練時にも味わっていたが、中々この感覚に慣れなかった。

 

「……うわぁ……」

 

 しかし、この光景は良いものだった。気持ちが良い。風を切りながら、ゆっくりと降下していく。いやまぁ、それなりにスピードは出ているのだが、それがさらに清々しいのだ。

 遠くに見える平原にのどかに草花が揺らめいている。自然の美しさ、荘厳たる景観がまさにそこに広がっていて、それを一望できる今この瞬間……私は空を飛ぶ鳥のような気分を味わっていた。

 

「凄い……綺麗……」

 

 集中しなければならないのは重々承知なのだが、今このときは何もかもを忘れていた。目的も、願いも過去も、何もかもを忘れたのだ。頬を撫でる風が、気持ちの良い浮遊感が、不安よりもワクワクとした期待と冒険心をくすぐった。

 太陽はすべてを照らし、暖かな光は身を包んで癒やすようである。思わず笑みが漏れた。

 そうして、心地よい一時を過ごした私は、魔法陣を展開し着地する。揺らめくパラシュートを畳んで、装備を確認した。何も外れてはいないし、特に問題もなさそうである。M1ガーランドを手に、私はキャタピラの動きを試しながら原隊への合流を急いだ。

 ちょうどその時、2、3人程度の人たちが降りてきて、一か所に集まった。私もそれに向かい、キャタピラを回す。

 

「マーサ! 今、今私達飛んだよね! くー!! 最高だったわ!」

「ええ、そうね。戦場だってこと、忘れそうだったわ」

 

 私は自身の装備を確認し、ガーランドをいつでも撃てるよう用意した。チャンバーに弾が装填されるのを確認し、辺りを見回す。隣ではしゃぐ子以外に人は見当たらなかった。

 

「で、マリー。他の人たちは見かけた?」

「えぇ、見たわ。南西に一人降りていくのを」

「なら、ポイントBが最も近い集合地点になりそうね。南西に向かい、合流しつつポイントBへ向かいましょう」

「了解!」

 

 マリーは銃を調整すると、私についてくる。マリーの表情は子供同然にワクワクしていた。私は、先程見かけた人たちが集まったであろう場所に向かい、合流する。そこにはオルドレン准尉の姿もあった。

 

「ついたわねぇ」

「よし、それじゃあ本隊に合流するわ。今現在はネーデルラントのアイントホーフェンの南側……この位置ね。北東の橋を確保するため合流を急ぐわ。アイントホーフェンの中心街がそうなっているはず」

「なら、迅速に行動しましょう。シャーロット大尉もきっと早く会いたがっているわ」

 

 第二小隊の新隊長であるルイーズ少尉がそう言うと、みんながくすっと笑い、全員が良い顔をしていた。マリーを含む補充兵の子たちは特にそれが顕著だった。緊張感のなさが、結局のところ死線を掻い潜った先輩方からすれば、まだまだ新兵と区別されてしまうところなのだろう。

 そうは言っても私達は一つの部隊だ。全員が銃を握りしめてアイントホーフェンへと向かう。道中は不気味なほど静かで、何一つとしてネウロイの気配を感じなかった。開放された地を歩く。それがどれほど安全かを実感するというものだ。

 

「そろそろ街に到着するよ」

 

 合流してから少し。ルイーズ少尉の言葉に気づき、私達は建物を発見した。そう、アイントホーフェンの街に差し掛かったのだ。入り口からも分かるように、至る所が崩落し、痛ましい傷跡をまじまじと見せていた。だが、まだ幾人か人が見える。彼らは故国復興の為に、懸命に家々の建て直しを行っていた。

 を通り、中央へと向かう際にシャルトル大聖堂に似た小さな教会が見えた。青い傘のその聖堂は、外から見える時計塔の代わりにもなっていて、お昼前であることがわかる。あれも修繕したのだろう。その努力には胸打たれる想いがあった。

 

「すごいわ」

 

 思わず呟く私。まだ、まだこれからなのである。人類の反撃はこれからなのだと。そう思わせるには十分なほど奮い立つ。しかし、それだけではなかった。

 

「ウィッチ、ばんざい!」

「ようこそ、アイントホーフェンへ!」

「英雄ばんざい!」

 

 呆気にとられる私達をよそに、彼らは私達を手厚くもてなしたのだ。抱きしめられたり、頬にキスをもらったり。まるでここの解放を私達がした英雄かのように。それはもう凱旋のような歓迎であった。

 紙吹雪が舞い、一種のパレードの様相となったピウスラーンストリートを、私達は横断して北部へと向かう。しかし、オンゼ・リーヴェ・フラウウェ通りから北上するあたりから徐々に人数が少なくなり、数名のカールスラントのウィッチと、A中隊の隊員の姿があった。

 

「合流ね。ルイーズ、隊員の漏れはない?」

「はい。第二小隊は全員います」

 

 そう言うルイーズ少尉は少し肩肘を張っているように見えた。新隊長になっての初戦と、部下の命を背負う立場と考えれば確かに気楽にやろうとも言えまい。

 

「いいわ。ありがとう。シャロン」

「作戦を確認し直すよ。このまま北上したところにソンの町がある。そこのソン橋を確保し、ソンの解放をすることが今回の任務よ。第一報では、ほか部隊が既にウェフヘルの橋を確保したそうよ。ネイメーヘンでも戦闘が始まっているみたい」

「そう、私達もこれに続くわ。今回はカールスラントの空挺部隊も参加しているし、連携していくわよ。いいわね?」

 

 シャーロット大尉の言葉に、皆は大きく返事をした。カールスラントの降下猟兵ウィッチも頷くと別方向から橋へと向かった。

 私達も遂に、最前線を歩くこととなる。私は、本来の目的である、極限の状態を求めて、ただひたすらについていくのであった。

 

 

 

 

「にしても、静かね」

「えぇ……でも、ウェフヘルがあんなに早く確保できたということは、ここも相当ネウロイを駆逐できているということでしょ。たぶん」

「だから、静かねぇ? 本当にそうかねぇ?」

 

 マリーの呟きにしかし、オルドレン准尉は笑みを浮かべながらそう言った。ムッとするマリーを横目に、オルドレン准尉の言葉の真意を探る。この人は笑ってはいるが、余裕なく警戒をしている。静かすぎるのだろうか。

 

「……生き物の声がしない……?」

 

 はたと気づいたとき、私はゾッとした。鳥の囀りも、何もかもがここにはない。風が流れるゴゥっとした音以外に、何もないのだ。それはつまり、人あるいはネウロイが潜んでいるということ……!

 私は銃を握る手に無意識に力を込めていた。手のひらが汗でしっとりとしているのがわかる。あの小さな橋まであと少し。あと少しなのに、その道程が怖い。

 さぁっと背中が寒く感じたその時だった。道が裂けた。裂けたのだ。唐突に。

 

「全員退避! 身を隠せ――!」

「ネウロイ数機出現! 交戦態勢!」

 

 驚いた猫のように身を翻して、私達は飛び出して隠れる。凸凹とした道沿いが私達を救った。ネウロイの数はわからないまま、私達は遭遇戦を繰り広げることとなったが、第二小隊は横ばいに広がっていた。1か所に固まって、纏めてやられるなんてことは回避できそうである。

 

「ルイーズ! 第二小隊はシールドで盾になって! レベッカ! 部隊を連れて南方から囲んで! シャロン、部隊を迎撃にまわして!」

 

 即座に、シャーロット大尉の号令が響くと、それぞれの小隊長が即座に対応する。私は第二小隊だ。つまりは、

 

「第二小隊、シールド展開! 私に続け!」

 

 ルイーズ小隊長に続いて何名かが前に立つと、ネウロイからのビームを一斉に受け止め始めた。弾かれたビームが地を割くと、足場が崩れるような感覚が襲う。それは恐怖となって、あるいは筋肉が耐えられなくなってか、私の足はブルブルと震えていたのだった。

 わたしも、みんなに倣ってビームを受け止めていた。だが、瞬時に理解したのは短時間しか持たないということだった。

 

「ぐっ!!」

「大丈夫よ! 私の魔力も回す!」

「オルドレン准尉……!」

 

 オルドレン准尉は私の背後に回ると、治癒魔法のような形で私へ魔力を回してくれていた。額に浮かぶ脂汗が、彼女の全開を表している。しかし、私にとってはほんの微小にしか感じなかった。

 こんな、こんな量の魔力しか持たない人たちが同じ部隊? 冗談じゃない! こんな所にいたら、すぐにでも肉塊になってしまう!

 焦りと恐怖で竦む手足に、必死になって意識を集中させる。同時に、私はふと理解する。これが、極限の最前線……!!

 

「気を緩めんな! 第三小隊の迎撃を援護せよ!」

 

 現在、敵ネウロイの数は把握できていないが、第二小隊が壁となって第三小隊が迎撃をしていた。第一小隊は南方から回り、カールスラント降下猟兵部隊と共に奴らを北に押し込む形だ。押し込めば私達も加わって、奴らをより追い詰めることも可能だろう。だが、問題は数だった。

 

「がっゔぁ゜」

「ミリアァ!!」

 

 第二小隊は魔法力のあるウィッチが多いものの、壁として耐えるのは普通のウィッチでも困難だ。ましてや、数のわからないネウロイの攻撃を受けてまともに立っていられる娘なんてそうは居まい。ミリアと呼ばれた物は、ダンスでも踊るかのように半回転すると、そのまま地面に突っ伏した。そして、もう動かなかった。

 

「はっはっはっはっ」

 

 呼吸が早くなる。心臓の音がうるさい。それ以上に熱が指を焼く感覚が、恐怖と痛みを刳り込んでくる……!

 

「敵ネウロイ6体確認! まだいるかも知れない!」

「何時まで耐えれば!?」

「衛生兵!!」

「一機撃破!」

「あぁ、レイラ!」

「向こうに回って! 向こうに!」

「衛生兵ぇ!」

 

 怒号は飛び交い、となりにいた人物が撃たれるのを横目に、自身の銃を敵に向けて引き金を引く。目の前のことでいっぱいいっぱいな私は、ただただ悲鳴のような、叫びのような、命令のような、絶望のような言葉を耳に入れた。

 ここは地獄だった。

 

「敵タイガー型ネウロイ視認!」

「そんな馬鹿な! あれは砂漠で発見されて以来報告はなかったはず!」

 

 声を荒らげるシャロン少尉に、私もひゅっと息を呑んだ。報告事例は僅かな大型陸戦ネウロイだ。一撃を受けたなら、その日が命日になるだろう。先程のミリアだったもののように、あっけなく、何もなく、終わってしまうのだろう。

 い、いやだ。嫌だった。何も残せないまま、あんなコバエを潰すかのような呆気無い終わり方なんて。

 

「どうでもいいわ。全員、できる限りゆっくり道沿いで南の方に移動して! 時間を稼ぎつつ、戦闘を回避するわよ!」

 

 それに抵抗するように、シャーロット大尉は自ら先陣を切って隊員を鼓舞して回ると、南方へと向かう。キャタピラを全力で回せば第一小隊とすぐにでも合流できるだろう。だが、彼女はキャタピラと走ることを交互に行い、敵の攻撃を掻い潜りながら私達を誘導していた。凄まじい人だ。

 

「敵攻撃来ます!」

「!! ロッティ!!」

 

 その時、ティーガー型のビームが、シャーロット大尉付近を吹き飛ばした。あまりの出来事に私は銃器が重たくなる感覚を覚える。駄目なのか……? どうなって、しまうんだ……?

 いや、そうじゃない。そうではない! 今目の前で起きたことは、中隊長が吹き飛ばされたということ!!

 

「隊長!?」

 

 全員がそう叫んだ瞬間、別の方向から銃撃音が響いた。第一小隊と、カールスラントの援軍である。私達の戸惑いを他所に、戦況は生き物のように蠢き変わっていく。

 シャロン少尉が叫んだ。

 

「第二小隊、シールド展開! 第三小隊、ここで耐えろ! 大尉の作戦通り、押し込むわよ!」

 

 今度はシャロン少尉が怒号を発し、全員がそれに従った。やるしかない。やらなければ殺される。

 まだ、この地獄は始まったばかりだったのだから。




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