空挺ウィッチは今日も辛い   作:黒助さん

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第三話

 その日は、とても晴れたいい天気だった。

 昨日のような、作戦を一時中止する天候はもうこりごりだわ。私がそう思うのは、三回くらい見た映画を見させられる羽目になるからなのだ。

 隊員達はいろんな手続きをし、 C-47スカイトレイン輸送機の横に座る。装備の確認も、何もかも、全て確認できているのだ。かく言う私も確認を終え、手続きも終え、あとは飛ぶのみとなっている。

 そこで、ふと、昨日のことを思い出した。

 

 

chapter2:片翼の兵士たち

 

 

「この映画、面白いの?」

 

 急に、隣に座っていたシャロンが、そう私に耳打ちをした。私は「そうね」と呟き、考える。既に見た映画で、作品として言うならまあまあ面白い、という意見を持つ。

 だが、今の私からすると面白くない。というより、つまらないのだ。そう考えると、急に見たくなくなった。

 

「んー、まあまあ面白いと思うわ」

「へぇ、そうなの。んじゃ、このまま見てみるわ」

「私はパスね」

「えぇ~、何でよぉ」

 

 情けない声を出すシャロン。そこまでして私と見たかったのか。でもねとここまで思い、理由は言うべきねと考え、話す。

 

「私はもう何回も見てるのよ……」

「……そうなんだ。それじゃあさ、私はこの映画見てるから、何かあったら呼びに来てね」

「分かったわ」

 

 私はそう言うと、誰の邪魔にもならぬよう、小さく手を振るシャロンに手を振り返しながら、簡単に作られた映画館……テントから抜け出した。

 一応、作戦前なのでいろんなウィッチが集結しているので、目立った行動はできない。まぁ、私はただなんとなく散歩をしたかっただけなので関係はないが。

 何故、散歩がしたいのか……それは主にシャロンのことで、だ。

 

 あの日から、彼女達は恋人同士となった。彼と顔を合わせるときは、執拗に服装を確かめるシャロン。その行動を毎日して欲しいものだ。なにせ、シャロンの服装はいつも細部まではこだわらないような感じである。少しは気にかけるべきだわ。

 だけど、そんなことでは困らない。とある外出許可を貰った日のことだ。彼とデートに行く!と言い出し、服装選びに私が巻き込まれたのである。まぁ、一日ならいいが、許可が出るたびに巻き込むのは止めていただきたい。それに、大尉まで面白がって私を差し出すし……。

 つまり、私は少し疲れているのだ。休みをいただいたからには空を眺めていたい……。

 その時だ。

 私の背後から、急に伸びた手が私の肩を掴んだのだ。

 

「ふぁっ!? ……?」

「誰でしょう?」

 

 咄嗟に後ろを振り向いたものの、目を手に覆われ、暗闇に包まれてしまった。でも、私にはこの声に聞き覚えがあった。

 

「……もしかして、フェリシア?」

「せーかい♥」

 

 そこにいたのは、私が入ろうと目指していた空軍の制服を着た同い年の子がいた。 名前はフェリシア・リーヴス。階級は中尉で、私とは幼馴染である。

 彼女は少し苦い顔をして、こう話した。

 

「私は、貴女はきっとこっちに来て、一緒に空を見る。と、思ってたんだけどな……」

「仕方ないわ。私の魔力は極端に少ないもの」

 

 そう、私には魔力はある。だが、飛べる程はないのだ。だから、私は……。

 ふと、彼女の顔を見る。やはり、申し訳のない表情だった。

 

「えっと……その、今回の作戦頑張ろ?」

「……はぁ、そんなに気にするくらいなら、触れなくてもいいのに。まぁ、」

 

 私はそう言うと、フェリシアの頬をつまみ、上にクイッとあげる。

 

「えぅ? いひゃいよ?」

「私は気にしていないから、笑いなさい」

「わかっは、わかっはから、ほいへぇ~」

「はいはい、解くわ」

「はぁ……」

 

 私が手を離すと、フェリシアは頬をさすった。ぅ~、と少し唸りつつこちらを少し睨む。シャロンとは違う可愛さがあるわね。私はそう思いつつ顎に手を当て、頬をニヤつかせる。

 

「もぅ……久しぶりに会ったし、楽しいことを話すのもいいけれど、でもやっぱり気がかりなことを何とかしておきたくて……だって、空を飛ぶのに頭をごちゃごちゃにしておきたくないじゃない?」

「……そうね。って、まさか負い目を感じてるの?」

「う~ん……多少はね」

 

 そう言って、フェリシアは頬を人差し指で掻く。

 ……そういえば、私は彼女の隣にいつもいた。同じ目標を持つことは多々有り、喧嘩もして、その回数だけ仲直りしてきた。だが、魔女に目覚めたのはバラバラで、私が先に魔女となった。そして、少し経つとフェリシアも魔女に目覚めたのだ。その頃から私たちの目標は同じだった。

 

「だって、私よりも……いや、誰よりも空を目指して、勉強も欠かさなかったあなたが飛べないって聞いて……」

「違う部隊だったから知らないだろうけど、私は一回だけ飛べたわ」

「―――え?」

「……あ~、その時の話聞きたいかしら?」

「え、ええ。聞かせて」

「あの日は、澄んだ空が眩しくていい日だったわね」

「そうね……初めて私が飛んだ日。まさかロッティーもその日に?」

「そうよ。その日、私は初めて乗ることに緊張気味だったわ。でも、好奇心とか興奮の方が大きかったわね……」

 

 懐かしむように空を仰ぎ、私は話を続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私達はまず、個人個人で飛ぶこととなった。最初に私が選ばれ、練習台となったっけ。まぁ、どんな理由かは忘れたけれど、教官と私 の二人で飛行機倉庫に向かったのだ。

 そこにあったのは、私が一番見たかった空に行ける『翼』だった。

 私はその輝くフォルムに目を奪われ、少しの間呆けるようにそのストライカーを見つめていた。教官は私の眉間を人差し指で小突くと、微笑んで「乗ってみなさい」と私に言った。

 私はそのストライカーに触れ、その形を少し、なぞる様に撫でた。その後、装着するための台の階段を一段一段踏みしめて上ったわ。そして、台の上に立つと私は飛び、ストライカーを履いた。

 こんなにも鮮明に思い出せるのは、その時が一番幸せだったからなのよ。やっとの思いでこのストライカーを履けるのだからね。

 私はついに空を駆けるウィッチとなった。

 

 

     ☆

 

 

「で、その後に飛べなくなった?」

「……一回飛んだって言ったでしょ?」

 

 話している最中に、フェリシアが茶を濁すように言った。だが、言っていなかったのだから、色々混乱しているのだろう。

 私は話を続けた。

 

「そしてその後、私は教官に手順とどういう風に飛ぶのかを教わって……そして、初のフライトをすることになったの」

「へぇ~……どうだった?」

 

 フェリシアがそう言うので、私は笑顔でこう答えた。

 

「言葉で言い表せるかしら?」

「そうねぇ、言い表せないわ」

「風を切る、あの瞬間。上下左右何処へにでも行ける、あの空で。全ての喜楽の感情が入り混じる、私を……太陽は祝福してくれた」

 

 その時だった。丁度、私の同僚達も、私と共に空を駆けようと付いてきた。私は飛ぶのに少し慣れ、仲間の隊列に加わろうとした。

 

 ―――そして、私は堕ちたのだった。

 

 私は重力に引っ張られ、堕ちたのだ。唐突に魔力が切れ、プロペラはカラカラと乾いた音を立て、推進力は落ち、為す術もなく引きずり落とされる。反転した視界に広がる蒼い海は、まるで嘲笑うように波打っていた。

 視界の端の入道雲は私を憐れむように見下ろしていた。

 お前の夢は、現実にならないと。

 現実の冷たさを知れと……。

 

 私はそのまま気を失い、後から聞いた話だが、他の仲間に助けられたらしい。私は救護施設のベッドで目を覚まし……静かに、泣いた。

 

 その後調べて見たが、落ちた

 原因は不明。後に、ただ魔力がごっそり減って、プロペラを回せるかどうか分からない状態になってしまった事が原因であると言われた。だが、そのごっそり減ったという点が原因不明のままである。

 私はその後、何度も乗った。

 プロペラを回し、台から外れる。

 しかし、私は地面を転がり倒れた。

 それでも……それでも私は止めなかった。教官に止められようと、仲間に止められようと、私は構わず空を目指した。

 いくつもの傷が出来た。

 でも、ストライカーを履いては滑った。

 最早、私に道はなかった。

 それでも、私は模索した。

 どうにかして、飛ぶ方法を……飛ぶ道を。

 同時に、私は焦っていたのかもしれない。

 このまま空を飛べないのでは?と。

 あの蒼い空に、あの照らす太陽に、私は……もう二度と届くことが無い。私は怖くて……あの堕ちた瞬間のように怖くて、続けた。

 気が付けば、私は空軍から外された。いろんなところを回って、陸軍の士官学校へと入学したのだ。それから色んなことがあり、ここへ来た。空挺ウィッチの部隊に。

 

 

     ☆

 

 

「まるで、イカロスね」

 

 フェリシアはそう言って、悲しい顔をした。やっぱり、話すべきでは無かったかしら?そう思っていたところだったので、少し不意を突かれたように感じた。

 

「イカロス……なるほどね」

「太陽に手を伸ばし、近づき過ぎたために蝋で出来た翼が溶けて堕ちた……片翼のイカロス」

 

 確かに、私はイカロスの様に空へと行けた。……だが、違う点がある。

 私は少し考えて、ニヤリと笑うとフェリシアにこう言った。

 

「片翼でも、空を飛ぶことはできるわよ」

「え?」

 

 フェリシアは驚いた表情で、こちらを見る。まぁ、普通はそうだ。片翼では飛ぶことは出来ない。……でも、私達は違う。空から舞い降りる様は、まるで飛んでいるかのようだからだ。……いや、違う。飛んでいるのだ。片翼で、確実に。

 でも、敢えて私はフェリシアに教えず、内緒と微笑んでみせた。

 

「えぇ~……話してくれても良いじゃない?」

「ふふふ、話さないわ」

「ぶーぶー」

 

 口をアヒルの様にし、不満だと言わんばかりにぶーぶー言うフェリシア。私はそれを見て、また笑うのだった。

 

 少し談笑して、私達はあるところに向かった。そこは、兵士達の酒場で、多くの陸戦ウィッチや男の兵士達が杯を持って笑っていた。

 私達はそのテーブルの端に座り、お酒を頼んだ。周りは五月蠅く、でも心地よい雰囲気があった。

 

「 When Johnny Comes Marching Home Again,」

『Hurrah! Hurrah! 』

「 We'll give him a hearty welcome then」

『Hurrah! Hurrah! 』

「 The men will cheer and the boys will shoutThe ladies they will all turn out」

「 And we'll all feel gay, When」

『Johnny comes marching home. 』

 

「はっ……何を歌ってるのかと思えば…まだ気が早いわよ……」

「まぁ、これで士気が上がるのだから、良いじゃない?」

 

 聞こえてきたのは「ジョニーが凱旋するとき」という歌だった。ウィッチに混じって男たちも歌っていた。とても陽気に。

 中にはジョッキを握り、音楽に合わせて腕を上げたり下ろしたりしているウィッチも居る。

 皆が皆、戦争前である事を忘れ、羽を伸ばしていたのだ。私達はそれを眺めながら、小話をする。

 

「そっちの調子はどうなの?」

 

 私がそう聴くと、「そうねぇ」と呟き、こう答えた。

 

「まぁ、何とかやっていけてるわ。何だかんだで部下もできたし」

「部下ねぇ……可愛い?」

「そりゃもちろん。だって私の部下だもん」

「へぇ~。見てみたいわね……貴女が手塩にかけて訓練させた部下を」

「ふっふっふー♪」

 

 フェリシアはそう言って、腕を組むとニヤリと笑う。とても気になるわね。そう思いつつ、一体どんな部下なのか想像した。と同時に頼んでいたお酒が来る。フェリシアはビールで、私はワイン。

 

「あっ、やっと来たぁ」

「それじゃあ、頂きましょう?」

 

 そう言って、私がグラスを向けると、フェリシアはジョッキをグラスに優しく当てる。小さくガラスの合わさる音が聞こえた。

 そしてフェリシアは一気にジョッキを傾けた。私は苦笑いで「はぁ。」と息を漏らしつつ、ワインを楽しんだ。口に広がるぶどう酒の味わい。ほんの少しあるアルコールに、私の体は満足していた。

 一方、フェリシアは傾けてから勢い良くジョッキをテーブルに叩きつけるように下ろした。

 

「豪快ねぇ」

「やっ、だって久しぶりに飲むもの。スカッとしておきたいでしょ?」

「髭ついてるわよ」

「むっ」

 

 私が指摘すると、ハンカチを取り出し、口元を拭った。それに私はクスクスと笑う。すると、フェリシアはむすっとした顔でこちらを睨んだ。

 

「笑わないでよぉ」

「ふふふ、仕方ないじゃない」

「もぉ」

「本当に、シャロンに似た性格ね」

「えっと、あの子だっけ?」

 

 フェリシアとシャロンは一度、私の家で会ったことがあるのだ。その時、私を置いて行くぐらいに意気投合し、私のお酒を殆ど掻っ攫ったっけ? まぁ、後から扶桑の友人から教えてもらった、セイザというのをやってもらう事で許したけれど。

 

「そう、一緒にセイザをした子よ」

「うっ……根に持ってる?」

「持ってないわよ? その後に足の裏をつんつんってして楽しんだし」

「あぅぅ、もうあれは勘弁して欲しいわ……」

「ふふふふふ」

 

 そう言って、またワインを呑むと隣の方から足音と歌が聞こえてきた。そう、先程の彼女たちである。よほど酔いが回ったのか、顔を赤くして、男達と肩を組んだり、ウィッチ同士で腕を組んだりして2列で行進していた。

 その列は、他の客も巻き込んで行く。が、誰もがそのテンションについて行き、列に加わってゆく。その列の先頭が私達の方まで来たのだ。

 

「うぇぇえ? ちょ、ちょっと、こっちに来てるんだけど?」

「参加したら?」

「な、何でよ?」

 

 そう言うフェリシアは、とても混ざりたそうにソワソワしているのだ。こういった祭りごとには、進んで参加したい性格なのだ。理解しているからこそ分かる。

 先頭が通り過ぎたその時、フェリシアは驚いた表情をした。

 

「モリー!? 何で貴女が参加してるの!?」

「リーヴス中尉? リーヴス中尉! さぁさ、中尉もご一緒に!」

「え、えと、え、」

 

 モリーと呼ばれたウィッチは、フェリシアの腕を組む。するとフェリシアは此方と列を交互に見た。どうやら、私の事を気にしているらしい。そうと分かれば、背中を押すように言葉をかけるだけだ。

 

「行きなさいよ。私は大丈夫―――」

 

 そう言った時だった。急に腕を組まれ、立たされた。

 

「えっ? え?」

「貴女もご一緒に!」

 

 先頭の二人のウィッチが私の両腕を組んだのだ。私より階級が低いのに、よくやるわね……。そう思いつつ、はぁ。と溜息を漏らすと、私はその二人の肩へと組み直す。その二人は更に笑顔になると、行進を再開しだした。

 まぁ、たまにはこういうのも……悪くないわね。

 私も口を開き、ともに歌い出した。

 

『 When Johnny Comes Marching Home Again,

Hurrah! Hurrah!

We'll give him a hearty welcome then

Hurrah! Hurrah!

The men will cheer and the boys will shoutThe ladies they will all turn out

And we'll all feel gay, When

Johnny comes marching home.

 

The old church bell will peal with joy

Hurrah! Hurrah!

To welcome home our darling boy

Hurrah! Hurrah!

The village lads and lassies sayWith roses they will strew the way,

And we'll all feel gay When

Johnny comes marching home.

 

Get ready for the Jubilee,

Hurrah! Hurrah!

We'll give the hero three times three,

Hurrah! Hurrah!

The laurel wreath is ready nowTo place upon his loyal brow

And we'll all feel gayWhen

Johnny comes marching home.

 

Let love and friendship on that day,

Hurrah! Hurrah!

Their choicest treasures then display,

Hurrah! Hurrah!

And let each one perform some partTo fill with joy the warrior's heart,

And we'll all feel gayWhen

Johnny comes marching home. 

 

lalalalalalala

lalalala

lalalalalalala

lalalala

lalalalalalalalalala

lalalalalalalala

lalalala

lalalalalala……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




まだ私自身わかっていない部分が多いので、こういった資料ではこういう動きもあったよ~等の報告を頂けると幸いです。

又、私の拙い文章の中には誤字脱字誤文や間違った表現があるかもしれません。もしあれば、これも報告していただけると幸いです。

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